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人形化のヒミツ(4)

7【後藤登】


 次に山下が持ち上げたのは、体育教師であり担任でもある『村田先生』だった。村田先生がここに居るってことは、教壇にずっと立っていた村田先生は、すり替えられた“ダミー人形”だったということだ。それに気付かず、俺はずっとそのダミー人形のことを「村田先生」と呼び続けていたのだろうか。

 そんな困惑する俺に構うことなく、山下は村田先生の人形を横向きにすると、先生の首根っこを人差し指と親指でつまんで微笑んだ。


「それじゃあ、村田先生と登のパーツを交換するよー!」


 その瞬間、村田先生の首はスポッと胴体から引き抜かれてしまった。凛々しい表情を保ったままの村田先生の首が、山下の手の中に。そしてその胴体のパーツはごろんと床に転がり落ちた。


「さて、次は登きゅんの番〜♪」


 山下は満面の笑みを浮かべながら、俺に向かって手を伸ばしてきた。


(おいッ、それだけは……山下ッ?!)


 逃げることなんてできなかった。俺の村田先生の顔がまるごと交換されてしまうなんて、そんなのおかしいに決まっている。村田先生のことは好きだけど、村田先生の身体になりたいなんて思ったことはない。それなのに、高校生活をただ楽しんでいた俺が、どうして身体だけ歳を重ねた中年男性......しかも、村田先生にならないといけないんだ?


「登、また会おうねっ♪」

(あっ)


 山下が俺の首を根本から引っ張られると、俺の意識はぷつりと遮断されてしまった。一瞬の間が空く。しかしその間が埋まるのにそう長い時間は掛からなかった。一瞬にして、目の前の視界が開けたのだ。


(ん、んッ……今、何が……ん?)


 言葉を失った。今、俺の目の前にあるのは、見慣れた俺の顔だ。後藤登の顔だ。しかし、首から下は......野球ユニフォームではなく、ミズノのジャージ姿をした村田先生なのだ。

 嫌な予感がした。額から汗が流れるような気持ちになる。すると山下は、俺の思考を読み取ったかのように、俺の前に姿見を置いた。


「どう、驚いた? 今の登くんは、こんな感じです! よく似合ってるよ!」


 鏡に映っていたのは、四角い輪郭に短髪でラウンド髭を生やした、40歳手前となった村田先生の顔。その雄らしく凛々しい表情が、驚いたような眼差しで自分自身のことをじっと見つめていた。

 しかし、首から下だけは村田先生ではなかった。土で汚れた野球ユニフォーム。そして『後藤』という名前の刺繍。それは他でもない“俺”の肉体だった。俺は、村田先生と顔のパーツだけを入れ替えられてしまったのだった。



8【教室】


 放課後。教室で仲良さげに戯れ合う二人の男子生徒がいる。一人はバスケ部のタンクトップのユニフォームを着た、やんちゃな表情を浮かべた津崎亮。肩幅は広く、引き締まった筋肉でスリム体型な彼であるが、脚だけは違う。太腿は不自然なほど太く、大きな筋肉のうえに脂肪が乗っている。汗ばんだ短パンはぴちぴちに張り付いていて、ふくらはぎには頑丈で大きな筋肉の塊もある。上半身に対して脚は短く、明らかにバランスが悪いように感じられるが、本人は気にも留めていないようだ。


 もう一人の男子生徒は、『男子』と呼ぶにはどこか語弊があるようである。濃い顎髭だけでなく、四角い顔のフェイスラインに髭が生えており、微かに額に皺も見える。男子高校生というより、『教師』と呼んだ方が相応しいかもしれない。しかし、首から下は10代らしい若々しい肌ツヤをしていて、津崎亮も何も違和感を感じることなく戯れ合いを続けているようだ。周りの生徒もその違和感に気付いていない。


 そこに担任である村田が教室を覗き込んだ。片手に生徒名簿を持ち、上下ジャージ姿という教師らしい格好をしている。しかし、顔つきにはあどけなさが残り、坊主頭でイモ臭さがあり、額にはいくつかニキビもある。その顔つきに似つかわしくない、中年男性らしい低音の声で、彼は二人の男子生徒に声を掛けた。


「お前たちー。話があるから、いつものところでなー」

「はい!」


 二人の生徒は目を輝かせて返事をして、教師の後を追いかけた。彼らの口からは涎がじゅるりと垂れ、既にその若い性欲を抑えきれない様子だ。そんな彼らの姿を後ろから一人の生徒が眺め、そして微笑んだ。



<終>

人形化のヒミツ(4)

Comments

最後まで読んで頂いてありがとうございます!

Adam

美味しそうな展開になった!

黒竜Leo


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