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人形化のヒミツ(1)


 その青年は、棚に並べられた人形を見て微笑んだ。人形は全部で5体。それぞれ15cm程のフィギュアサイズだ。どれもスポーツウェアを着用した人形で、その種類もさまざま。野球、ラグビー、水泳。どちらも若くて高校生くらいの年齢の顔立ちをしている。中には、顎に髭をたくわえたジャージ姿の体育教師らしき人形も置かれている。


 彼は5体のうち一番左に置かれた人形を片手で持ち上げた。ノースリーブのユニフォームを着用したその人形は、バスケ選手のような格好をしていた。髪型は坊主、やんちゃ系の顔つきで素肌の色は比較的白い。逆三角形の身体に、肩周りの筋肉も発達している。


「うん、今日は津崎にしよう。いただきまぁす」


 青年はそのバスケ姿の人形を、顔のパーツから脇、足の指まで舌の先で突いたり、舐め回したりして口元を緩ませた。人形は唾液でベトベトに濡れてしまう。


 そのとき人形の表情が少しだけ引き攣ったのを、その青年が気付くことはなかった。



2【津崎亮】


 俺の名前は津崎亮、高校2年。それは、俺が自主練を終えて更衣室に戻ってきたときのことだった。バスケ部の練習を終えた俺は、インターハイ進出が掛かったここ一番の大事な試合が近いこともあって、キツい練習の後も体育館に残って自主練に打ち込んでいた。


 今日はいつもより身体を追い込んだからか、額から汗が止まらねえ。そろそろシャワーでも浴びて帰るか......そう思って更衣室に戻ると、そこには部員の一人、同学年の山下進(すすむ)の姿があった。


「お前、まだいたのか?」


 俺がそう尋ねると、山下は「あ、うん……まあ」と少し動揺するように答えた。相変わらず変な奴だな、と思いながら俺はユニフォームの裾に手を伸ばす。そのときだった、俺が背後から強い光に照らされたのは。


「山下?」


 何事かと思って山下の方向に振り向こうとすると、俺の身体はどんどん小さくなってしまった。更衣室のロッカーを見ていたはずの俺の目線は、あっという間にパイプ椅子よりも低くなる。気付けば、身長178cmある俺の身長は、わずか20cm近くのサイズになってしまった。


(なんだこれ……?)


 慌てて俺は山下のことを呼ぼうとしたが、どういう訳かこれ以上首を回すことができなかった。口を開くこともできなければ、腕を動かすこともできない。ユニフォームの裾に手を伸ばして、少し腹筋が見えたような状態で身体が停止してしまった。まるで、自分が人形にでもなっちまったかのように。


 身動きが効かなくなった俺の身体を、何者かの手が拾い上げた。もちろんその手は、山下であることに俺はすぐに気が付いた。


 おい、山下。どうして俺がこんな小さい身体になったのか説明しろ。ていうか、さっきの眩しい光はなんだよ? くそ、なんで思うように喋れねえんだよ。……そんな俺の心を読み取ったように、山下はこう言った。


「やっと僕の人形になったね、津崎」


 山下は人差し指の腹で俺の頬をツンツンと突付くと、カバンの中に俺を放り込んでそのままどこかへ移動した。



3【山下進】


 僕がこのライトを手に入れたのは半年くらい前のことだった。学校の帰り道、道端に手持ちライトが捨てられているのを見つけた。どうしてか分からなかったけれど、そのライトが気になって仕方がなかった僕は、即座に拾い上げてスイッチをON。試しに、一緒に帰っていた野球部の後藤登(のぼる)にライトの光を当ててみた。


「うおっ!? 眩しッ......」


 そのまま彼の姿は小さくなってしまい、人形のように動かなくなってしまったのだ。


「登?」


 何度も彼に話し掛けてみたけれど何の反応もなかった。学ラン姿のまま人形になってしまった登を見ながら、僕はどういうわけか呼吸が荒くなってしまった。堪らなく、興奮していたのだ。野球部のエースで、顔立ちも男前の後藤登が、小さな人形になって僕の手のひらの上に。まるで登という一人の人間を完全に支配したような気持ちだった。僕は背徳感を感じながらも、登の脇に鼻を押し当てていた。部活で汗臭くなり、ツンとした匂いが鼻腔を刺激する。それは、僕が内に秘めていた性的嗜好が呼び覚まされた瞬間だった。


 それから、僕は次の”人形”を探すことにした。後藤登の隣に並べるのに相応しい新しい人形だ。もちろんその相手はすぐに見つかった。僕と同じバスケ部に入っている、次期キャプテンの津崎亮だ。身長が高くてやんちゃそうな顔つき。毎日のキツい練習を乗り越えて肩周りはむっちりと筋肉で膨れ上がっていて、腕も太くガタイが良い。


 そんな津崎を僕はずっと憧れていたし、嫉妬していた。何もかも手に入れた津崎と、何も取り柄がない、試合にも出られない自分。津崎を人形にすることができたら、僕はどれだけ多幸感を得られるだろう。そして間もなく、そのチャンスを僕は手にすることができたのだ。



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人形化のヒミツ(1)

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