増殖部長【前編】
Added 2020-07-25 08:54:12 +0000 UTC【あらすじ】
オフィスでは上司である田沢部長が残業していた。元ラガーマンで、今でも逞しい筋肉に脂肪を蓄えたむっちり体型をしていた。山田は、居眠りする田沢部長に近づき、彼の一部を盗み取る。すべては、部長を『増殖』させるために――。
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時刻はもう定時を過ぎていた。そろそろ仕事を切り上げようと、周りを見渡してみるとオフィスの一角を電灯が照らしていた。一体、誰が残業しているのだろう。
「もしかして、田沢部長?」
真っ黒な短髪に、よく整えられたラウンド髭。ガッシリとした広い背中の姿は、僕の上司である田沢部長だった。彼は太い腕を枕にして、すやすやと眠りに落ちていた。
「最近、忙しそうだったもんな」
部長の名前は、田沢吉治(たざわ よしはる)。責任感が強く、どんな仕事も完璧にこなす。リーダーシップもあって、部下からの信頼も厚い。いわゆる“デキる”上司像を体現したような存在だ。
デスクの上には娘の写真が置かれていた。そういえば、進学を控えた娘がいるって言っていたな。きっと家族を養うためにも、今は結果を残したいという一心で仕事に打ち込んでいるのだろう。
(ぐっすり眠っているな……)
僕は部長を真横から覗き込んだ。むちっと筋肉の上に脂肪を蓄えたカラダに、少し垂れ目の一重まぶたとこんがり小麦色に焼けた肌。そのぶ厚いカラダは、呼吸の音にあわせて上下に動いていた。元々、大学の時にラグビー部の主将を務めていたそうだ。ポジションは華のクオーターバック。学生時代に鍛えられた強靭な肉体は40代になった今でも健在で、シャツの上からでも体格の良さがよくわかった。もちろん、中年男性には避けられない多少の脂肪の蓄えもある。そのことを部長は気にしているようだったけれど、かえってむっちりとしたカラダつきが僕にはたまらなかった。
「そうだ、アレを試してみよう」
僕はうつ伏せになった部長の後頭部を見つめた。髪の毛は固く、どちらかというと剛毛な髪質だ。その中から一本の髪をさっと引き抜いた。
「ん……」
部長が反応した。僕は少し距離を取り、彼が起きるのを待った。
「部長、お疲れ様です」
「あ……ん、山田か。あー俺、寝てたか?」
僕が頷くと、田沢部長は顔を赤くした。誰にも言わないでくれ、と僕に頭を下げた。部長はもう少し仕事を片付けてから帰ると言った。
「お疲れ様でした」
「おう、お疲れ」
僕ははしゃぐ気持ちを抑え、部長の髪をケースに入れると、いつものようにオフィスを後にした。
*
帰宅した僕は、クローゼットの中から箱を取り出した。『増殖キット』と書かれた小さな箱だ。中にはスポイトのような容器と、透明な液体が入ったケースが用意されていた。
「うまくいくかな?」
最近ネットショッピングで見かけた代物だ。安くはなかったけれど、残り一品だったし、一度誰かに試してみたいと思っていた。僕は改めて『増殖キット』のマニュアルに目を通した。
「部長の髪の毛に、この液体を垂らして……」
部長の黒い髪に一滴の液体を垂らした。その瞬間、目の前を強い光が包み込んだ。僕は何も見えず、思わず目を塞いでしまった。
「んん……」
目の前から誰かの声が聞こえた。何度も聞いたことのある、色気のある大人の男の深い声。
「ん、ここは……?」
光が弱まった。目を開けると、ぴっちりとスーツを着こなすガタイの良い男――田沢部長が立っていた。
「なんだ、山田の家か」
部長は周りを見渡し、僕のことを見つめた。黒髪短髪で、垂れ目の一重まぶたとキリっとした眉。こんがりと日焼けした肌に、血管が浮き出た太い首筋。どこからどう見ても、僕が長い間焦がれていた『田沢吉治』さんだった。
「なかなか居心地よさそうだな、邪魔するよ」
部長はネクタイを緩め、身に付けていた腕時計とシャツの第二ボタンを外した。
「なんか、着替えとかあるか?」
「あ……はい」
僕はすぐに異変に気が付いた。この『田沢部長』は、“一人暮らしの部下の部屋にいる”という状況を当然のことのように受け入れているようだ。
彼は本当に、僕がよく知っている田沢部長なのだろうか?たしかに、顔つきや体格、喋り方は『田沢部長』を継いでいる。僕のことも認識しているようだし、これまでの『田沢吉治』としての記憶もあるようだ。それなのに、彼の常識だけが都合よく塗り替えられているのだ。まるで僕が願った通りに。
「そうだ。ちょっと待ってください」
試しに僕はクローゼットの中から、部長の着替えを取り出した。以前、大学ラグビーの練習を観に行ったときにこっそり更衣室から盗んだ現役ラガーマンの専用ユニフォームだ。
「お、サンキューな」
田沢部長はためらいもなく、僕からユニフォームを受け取った。やはり、彼は“主”である僕の思い通りに意識が改変されているのだ。
部長はスーツや白いYシャツ、ビジネスパンツを脱ぎ捨て、ボクサーパンツ一枚という格好になった。股間がもっこりと膨らんでいて、想像通りのデカマラの持ち主だった。それから僕が渡したラガーシャツに慣れた手付きで袖を通した。元ラガーマンである彼のぶ厚い胸板にぴっちりとシャツが張り付いた。太い腕はオフィスにいる時よりもさらに強調された。ぴちぴちのショートパンツからは逞しい筋肉が太腿の裏側までしっかり見えた。
「どうした、何かおかしいか?」
田沢部長は、僕の視線に気付いたようだった。彼はようやく一息ついたという様子で、オフィスでは見せないリラックスした表情を浮かべた。
僕は、もう自分の気持ちを抑えることができなかった。
<続>
Comments
こんにちは。申し訳ありません、誤りでした。。ご指摘ありがとうございます!
Adam
2021-11-26 17:10:45 +0000 UTC