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焚き付けるアイツ 1.二人の在り方

 「一学期中間考査 成績優秀者一覧」と書かれた紙が各学年の掲示板に貼り出された。  新築されたばかりの校舎の二階、2年1組の真ん前にある学年掲示板、その3位の欄には、“周藤夏海(すどうなつみ)”と名がある。  自らの名前を確認して、彼女は一仕事終えたといったように少し鼻息を鳴らした。  ショートヘアーの彼女は、今回のテストだけでなく、平均して学業は優秀で、どの教科にも不得手がないのが自慢のひとつである。  おてんばだった小学校の頃は柔道を習い、武道に興味が湧いた中学では弓道部に所属した。  そのまま弓道を、と思ったものの、あいにく進学したこの高校には弓道部がなく、今は助っ人という形で複数の部活を掛け持ちしている。  いわゆる呑み込みの早いタイプで、人を魅了するプレーまではできないが、だいたいのスポーツはそつなくこなせる。  完璧ではないが、全てが高水準でまとまっている、それは飾りっけのない姿ながらもどこか目を引く、彼女の顔立ちにすら言えることだった。  だが、そんな須藤夏海という少女を作り上げたのは、いかに呑み込みが早いといっても、自身の人一倍の練習量と、じっくり腰を据えて取り組むことのできる生真面目さの賜物である。  結局のところ、彼女は精一杯努力を重ねてきたのだった。


 試験結果を確認し終えた後、とくにあてもなく掲示板を眺めていた夏海の隣で、誰かが進み出る気配がした。  夏海は気配の先を見ようともせず、目を細めて視線を落とした。 「よかったじゃない、努力が報われて。」  祝福とは明らかに異なる、抑揚のないトーンの言葉が発せられる。  声の主は、隣のクラス、2組の太刀川愛那(たちかわあいな)だった。  屋外で焼けたとは思えない褐色の肌に、スタイルを美しく見せられるよう、丈をアレンジした制服を着て、泰然として立っている。  真っ向から校則に反した出で立ちに見えて、意外にもメイクなどはしておらず、しかもその顔立ちはかなり整っていることがわかる。  見上げる彼女の目線の先、学年5位の欄には、“太刀川愛那”と記されている。  褐色の少女は、先に掲示板を眺めていた真面目な少女を視界の隅に捉えながら、 「“器用な人”っていいね。」  と、やはり抑揚のないトーンで続けた。

 しかし、太刀川愛那のその言葉は、抑揚がないゆえに、かえって皮肉たっぷりに須藤夏海の耳に響いた。 「“器用な生き方してる人”のほうがいいんじゃない?」  夏海が他人に対してこうした話し方をすることはほとんどない。  そもそも、皮肉を皮肉で返すような、こんな間柄になってしまった相手は、この太刀川愛那が初めてである。 「………そう見える?」  愛那はまっすぐに夏海を見据えた。  凛として佇む、瞳に湛えた光は鋭かった───────。  世界でも指折りの服飾デザイナーを母にもつ太刀川愛那は、一言で言えば才能の塊のような少女であった。好奇心旺盛な彼女は、早くから勉学に励み、自然の中で遊ぶのが好きだった。  体操を習い始めてからは、しょっちゅう野原を跳ね回り、存分に身体を駆使する楽しみは高校生になった今、パルクール競技へと昇華している。  母親に似て自立心が強く、今の自分に必要だと感じれば、脇目もふらず一つ事に没頭できる、それが太刀川愛那の強みである。  そんな彼女が高校という小さな社会に収まるわけはなく、もちろんどの部活動にも所属していない。  一年生の一学期、中間考査と期末考査で全科目満点というとんでもない記録で学年トップをとった彼女には、もうその社会ですることは終わったように見えたのだろう。  今の彼女には、母のデザインした服を着るモデルとしての素養を磨くことと、パルクール競技に出場するための鍛練、その二つこそが大切であった。 「………わからない。あたしはそうしてるわけじゃないから。」  夏海はまっすぐに愛那を見返した。  自分の順位に対する驕りや権威的な態度はなく、ただただ努力家らしい実直な強さが、夏海の瞳に宿っていた。 ((なんでコイツはこんな…………!!!))  自分の求めることに、素直に、勇ましく挑んでいるくせに、何を突っかかってくることがあるのか、と夏海は思う。

 初めは、すごい才能を持った娘がこんなところにもいることに驚き、持ち前の努力で成果を出したが学年トップには届かず、太刀川愛那の才能に感心したものだった。  一年生の夏が明けると、愛那はあっさり自分の目標を定めて、その道をずんずん進んでいってしまった。  正直なところ、今の夏海には進路や夢を尋ねられても、すぐに明確な答えを用意することはできない。あくまで地道に、自分の能力を磨くことに熱心なだけである。  そんな夏海としては、自身のやり方を嫌っているわけではないけれど、やはり愛那への憧れとも羨みとも言える、ほのかな感情を抱かざるを得なかった。  いつのまにかそれは、愛那への苛立ちとなって表れていた───────  どうしてこれだけの才能があって、ただのうのうと点数稼ぎに甘んじているのだろう、と愛那は思う。  全科目満点、その偉業は、いくら愛那が才能の塊でもなんの努力もなく成し遂げたものではない。  今となってはもっと大きな目的ができたと言えるが、少なくとも入学当初の愛那は勉学を選んだ。非凡な才の向くところを、愛那は選び、決めることができる。  一方で取捨選択がはっきりできる代わり、どうしてもその結果ははっきりと現れる。彼女とて、決して全能ではない。  そんな中、彼女のすぐ近くで、黙々と成果を上げる女子がいた。まるで選ぶ必要がないかのように、どの分野にも磨きをかけていく須藤夏海の姿は、愛那にはとても眩しく映った。  しかし、その夏海には進むべき目的はなかった。  愛那にとって、敬意を持ちつつあった存在が、急にただの点取り虫のように思えたとたん、彼女は言い様のない苛立ちに包まれて、気づけばぶっきらぼうに声をかけてしまっていた──────  二人は、無言のまま、じっくりと相手を見つめ合った。  一度は自分の持っていない才能に敬意を抱いた相手である。  そして、今も決して憎んでいるわけではない。  それは、互いの持っているものと持っていないものが絶妙に噛み合わなかった結果で、さらにはそれらが、互いの抱いた相手への思いとこれまた絶妙に反応した結果もたらされたものだった。  “苛立ち”、その気持ちを無遠慮にぶちまけるほど二人は子供ではなかったし、それを消化できるほど大人でもなかった。  その葛藤の中で、二人はわずかに呼吸を乱しながら見つめ合い続けた。  無意識に、互いの口元がわずかに開いたのを見てとった瞬間、二人は踵を返して自分の教室へと戻っていった。  各々帰り支度を済ませると、足早に校舎を出て別々の帰路についた。  二人は、自分達の平日の日課が、驚くほど似ていることを知らない。  家に帰るとすぐにシャワーを浴び、一糸纏わぬ姿で思いに耽る。  ((なんで………あんなに上手くできるの………??))  ((あの子のようには、あたしはできない…………!!))  ((あたしには、あたしのやり方がある………なのにっ!!))  ((なんでこんなに気にならなきゃいけないの……!!??))  ままならない気持ちと、浮かんでくる相手の立ち振舞いが、心を追いたてていく。シャワーで心の内側までも洗い流せればと思っても、身体をお気に入りのシャンプーやボディーソープで洗うようにはいかない。  そして、そんな心のしこり全てを意識の外へ追いやる方法が同じであることも、二人は知らない。 ………んっ!………………んんぅっ…………あっ!んっ……………  バスタオルで体を拭き、薄着姿で自分の部屋に戻った夏海。  プライバシーのためにと防音仕様に作られているこの部屋のカーテンを閉めてしまえば、もうそこは夏海のためだけの空間である。  ドアには鍵をかけ、最低限の照明をつけてベッドへ飛び込むと、彼女はすぐさま着ていたものを脱いでしまった。  そして、乳房と股間に手をあてがった。 ………くぅ!………………あっふぅ……………んぁは!……………  愛那の家の一階には母のアトリエがある。  多忙な母は各地を飛び回っているため、贅沢に作ったこのアトリエは、宝の持ち腐れになっている。  開放的なこの空間は、むしろ愛那にとって己を解放する絶好の場になっていた。  眩しいスポットライトが照らし出す中で、愛那は乳房と股間に指を這わせていった。 ………ん゛ぃっ!!  乳首を摘まむと、ビリッと上半身が痺れる。  引っ張りを強め自身を責める。    ────また、あの女の顔が脳裏に浮かんだ。  ((アイツだったら、もっとうまくやれたりする……?))  ((違うっ!! そんなこと、知りたいんじゃないっ!!!))  ((あたしの中から、出てけっ!!!))  一方の手で少し乱暴に胸を揉み回しながら、中指を股間に挿し込む。  あぐぅっ!!………あ……はぁっ!!………んっ!!  ((あたしだからできる動き………あたしの気持ちよくなれる時間っ!!!))  グッチュッ!!!! クチャクチャクチャクチャ…………!!!  ((これっ!!これが………イイッ!!!))  たっぷりと陰唇を、その中を掻き回す。  暴れるように手を、指を振って乳房と乳首を弄ぶ。  自らの肢体と、自らの動きがかき鳴らす音で耳を満たす。  全身に伝わる快感で心を満たす。  くぅぅぅぅっっっ!!!!!  肢体をくの字に折り曲げて、夏海は己の内側に絶頂の刺激を行き渡らせる。  んはぁぁぁっっっ!!!!!  肢体を仰け反らせて、愛那は己の外側に絶頂の刺激を発散する。 ………はぁっ…………はぁっ…………はぁっ…………はぁっ………  余韻は等しく二人の肢体を波打たせる。  じわりじわりと首から下が重くなる、心地好い疲労に身を任せながら、二人は右手を震わせて、その中指についた自らの淫液を見つめ、目を潤ませた。 ………はぁっ…………はぁっ…………はぁっ…………はぁっ……… ………はぁっ…………はぁっ…………はぁっ…………はぁっ……… ………はぁっ…………はぁっ…………はぁっ…………はぁっ……… ………………………ふふっ。              to be continued…

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