XaiJu
Rei
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大食いのために転生しました

私は日々の不摂生が祟って死んでしまった。 「こんにちは。神です。」 「こんにちは。えっと?」 「あなたは死にました。」 神、と名乗る女の人は、ぶっきらぼうのままそう答えた。私は自体が飲み込めなかった。というのも、私の記憶が正しければ、私はカメラの前でお酒を飲みながら視聴者に向けて大食いショーをしていたからだ。 「どういうこと!?」 「ですから、死んだんです。」 周りを見渡すと、そこは日常とはかけ離れた色彩の、精神世界?という表現が近いのだろうか?物体として形容できないし、色彩は光っていたり澱んでいたり、空間が複雑にに織り込まれているような感覚の空間であった。私も神も立ってはいるのだが、足を踏めるような固形物は見当たらないし、足元を見ても透き通るような漠然とした空間が広がっているだけである。だがそんな中、輪郭や色すらも朧げな神が会話を続けてくるのだった。 「黒江華蓮。26歳自称YouTuber。特技は大食い、趣味も大食い。生き甲斐も食い扶持も大食い。」 「な、なによ…そうだけど…」 「幼少の頃からどこか頭のネジが外れており、高校卒業後、ろくに就職も出来ずにこの年まで配信で食ってきましたね?」 「あなたの配信は界隈的には大好評。一回大食いをするだけで何万という額のスパチャが投げられ、その人外的な食事量もあって支持者は多かったようですね。」 「えーっと…?二郎ラーメン10杯食べてみた!…サイゼリア3時間爆食い企画!…そして死ぬ前最後の企画は24時間ノンストップ大食いチャレンジ!!」 「そうだけどなに?」 「この配信が始まって16時間後。部屋に食べ物のゴミが散乱して足の踏み場が無くなってきた頃、あなたはそれまでのハイペースの大食いにより呼吸が浅くなり、パニックになり息ができなくなり、死にました。」 「う…でも!あんなに食べたの初めてなの!スパチャとかたくさん貰えて私も嬉しかったの!」 「16時間で食べたのは71キロ。これまでの大食いは大体20キロで収まっていた。この配信での規格外の大食いで視聴者も大喜びだったようですが…」 神は私の死んだ直前の姿を私の前に写した。71キロもの食事を平らげた、尋常ではない大きさのお腹をカメラの前で晒しながら、目も虚になりながらも口にご飯を運んでいる私の姿があった。 「うわあ…全然覚えてないけど、私こんなになるまで食べちゃったんだ。そら死ぬわ…ヤバいもんお腹。」 「死因として最も近いのは、普段の倍近くの大食いをしてしまったことによって胃が急速に膨らんだことによる、ショック死ですね。そうじゃなかったとしても、肝臓や胃に相当な負担をかけて大食いをしているので、そのうち倒れるでしょうね。そうじゃないとおかしいです。」 「まあ、そうでしょうね……そうなっちゃうんでしょうね……で?私に何か用?」 「私は死んだ魂をあの世に送り届けるのが仕事です。これから死にますが、何か思い残した事、ありますか?」 「う〜〜ん……」 改めて記憶を辿っても、ひたすら飯食って動画撮って編集して、くらいしかしてきた事がない。本当にそれしかない人生だったので、私は死んでも尚一つの答えしか出す事ができなかった。 「あの世にいっても、ご飯食べたいです。」 「……呆れました。もっとこう、ないんですか?私を虐めた中学の男子どもを呪い殺したいとか!!資本主義をぶっ壊したいとか!」 「別にいいです。そういうの全部、大食いに注いできたので。」 「分かりました。今の質問であなたの処遇が決まりました。」 「え?」 「あなたの望み通りの世界にあなたを転生させます。」 私は光に包まれ、気がつくと森の中に立っていた。 「こんにちは。私です。」 なに?急に光ったかと思えばどこに飛ばしたの? 頭の中に直接、先程の神の声が聞こえてくる。 「あなたの望み通り、あなたが好きなだけ大食いできる世界にあなたを転生させました。」 「転生?」 確かに腕や脚など、記憶と異なる身体だ。辺りを見渡すと、確かにゲームで見たことあるような森の中だ。 「はいこれ。ステータス画面です」 ステータス画面!!??神からの言葉に驚きながらも、目の前にはステータスの数値が映し出されたのであった。 クロエ レベル1 習得スキル 大食い スキルレベル[神技] 状態異常 空腹[極度] 習得スキルに大食いがある。神技?というのはこの世界でのどういう基準に位置するものなのか分からないが、なんか習得してある。 んぐ!? その衝撃だけで失神してしまいそうな程の空腹感が私の身体を襲った。これが空腹という状態異常なのだろうか。意識も朦朧として真っ直ぐ立っていられないし… 私は森の中をまるでゾンビみたいに徘徊していた。 ああだめだ。目の前の生き物にかぶりついちゃう… 次の記憶では、私は周囲の魔物を全て頬張っていた。何故か私の身丈程の魔物も平らげており、周囲には魔物という魔物がいなくなっていた。 喉を外した蛇のように大口を開けて頭から飲み込んでいた。獲物が喉を通っていく度に喉がズキズキと痛みながらも胃に詰め込んでいった。 完食通知 ゴブリン 35匹 蜘蛛のような魔物 105匹 スライム 75匹 あれ?あんだけ食べたはずなのに瞬間的に消化が進んでいる… お腹を撫でても今までの凹んだお腹のままであった。自分の身丈程の魔物が10匹と、大小様々な魔物を含めても、自分の体積の2、30倍は胃に収めてしまったのだが、ほんの少し空腹が満たされただけで、俄然お腹が空いてくる。 「そうです。これがあなたの望んだ世界と能力です。」 「あなたが好きなだけ食べ物を食べれて、生前みたいに飯が詰まって死ぬ事のない身体です…」 私は空腹感に任せていたら森を抜け、人間の村に出てきたようだ。 ボロボロの服を着て、お腹を空かせた様子の私を村の人達は心配したが、私はそんな村人をひょいと持ち上げ、大口を開けて丸呑みにした。魔物達では量が足りないと思っていたところだったためちょうど良かった。 「げええっぷ…」 完食通知 村人36人 目に見える限り最後の村人を丸呑みにした。これまで食べてきた人の数に比べると、小さすぎるくらいのげっぷだ。 私は再び森の中に入っていった。 制圧通知 東森林地帯 数日経った頃、森の奥地にある神殿のようなところで大きなモンスターを食べた。どうやらボスモンスター?のようで、この森の魔物の頂点に立ってしまったようだ。 「はあ…一体どうしちゃったんだろ…食べても食べても全然お腹いっぱいにならないや…」 私の喉を通ったものは自分の身体に入っている感覚が無く、食べても食べても飢餓感に襲われるのであった。制圧とかこの世界のルール?がよく分からないし理解する気もないので通知は無視していたが、視界の端の通知欄を見ると結構アナウンスが溜まっていた。 クロエ レベル45 職業 徘徊者 通知欄にはレベルアップの通知と食事の内訳がびっしりと書いてあった。必要ないので無視。 森をさらに奥に進むとサバンナ地帯に抜けた。サバンナ地帯との国境はリザード族の衛兵が監視しているようで、森を抜けてきた私に近づいてきて現地語で喋りかけてきている。 宣戦布告 サバンナ地帯 推奨 速やかな主への宣戦布告。 宣戦布告…?なにそれ。まあ一般的にはボスモンスターって奴に挨拶するってことだよね…うーんと… 「いただき…ます!!」 私は推奨を無視してサバンナ地帯の動物型の魔物を食べていった。森の魔物達よりも大きく群れを成していたため、嚥下の喉越しが良く、食べ応えがあった。 完食通知 リザードマン 48匹 ムスタング 15匹 ワイバーン 5匹 サバンナ地帯を数日彷徨うと、ボスモンスターであるキメラが目の前に現れたので食べた。今までで1番食べ応えのある魔物であった。 完食通知 パイロヒドラ 制圧通知 サバンナ地帯。領土拡大。 再度通知  領土の名前を決めてください 領土?どうやら自分で制圧した地域は本来は名前をつけなくてはいけないようだ。無視していた通知に埋もれていて気づかなかった。 「お、お前だな…!!」 振り返ると1人の冒険者が私に向かって剣を向けていた。 「我が故郷の仇!覚悟しろ!」 冒険者に次の瞬間は無く、私は喉から彼の持っていた剣を抜き捨てた。 完食通知 冒険者ヴィクトール レベル47 ふう…全然食べ応えないしつまんないな… 食後に一息ついていると、突如として脳裏に言葉が稲妻のように語りかけてきたのであった。 「お前強いな。我は魔王。我が城に来い。」 魔王城までのナビゲーションが発動した。今居るサバンナ地帯はこの世界の東端に広がっている。魔王城は海を超えて反対側の大陸の北端にあるようだ。 一夜休憩して魔王城への旅に出発。よく見るとサバンナ地帯の魔物達の頭の上にはゲームのNPCのようなアイコンがあり、どうやら話しかけられるようだ。私がこれまで山のように食べてきたサバンナ地帯のモンスター達が寄ってきて私の前に跪いてきた。 「ボス、今日から我々は貴女様の部下です。何なりと御命令を。」 どうやら制圧した地域のモンスターはボスモンスターが変わるとリスポーンするらしい。ということは森林地帯のモンスター達もまたリスポーンしているのだろう。 「ボス、どうされました?」 魔王城まではサバンナ地帯の反対側で、森林地帯も抜けた先だった。領土の下見がてら、リスポーンした魔物達を食べ尽くして森林地帯を抜けた。領土内の仲間が減ったことによる危険通知や、人道的警告の通知がたくさん来ていたが全部無視。 森林地帯をサバンナと反対側に抜けると広がっているのは高山地帯だった。標高が高く猛禽類や飛龍がたくさん生息していた。 「うーん…めんどくさいなあ…」 飛んでいるため口に入れるのが少々面倒だと感じた。 ん?なんだこれ 今まで気にしなかったが、食べた魔物が持っている身体特徴を自分の身体に繋ぎ合わせたり、持っているスキルを使う事ができるようだ。 サバンナ地帯のボスが持っていた(らしい)念能力を使い、飛行しているモンスターを口元に引っ張ってきてそのまま喉に入れた。これなら近くに来た隙を狙って手足や尻尾を掴んだり、ジャンプして捕まえなくて済むから楽ちんだ。 翼竜 37匹 ワイバーン 16匹 猛禽類 305匹 高山地帯には5つの特段大きな山があり、西端の1番大きな山にボスモンスターがいて、その眷属が他の四つの山を縄張りとして守っているようだ。 眷属は人と鷹が合わさったような巨大なモンスターだが、念能力が効くため他のモンスター達と特に差は無かった。 完食通知 鷹人間 5匹 西端のボス山の頂上には、眷属よりもずっと大きな巨体のモンスターだった。私の身丈と同じくらいの大きな卵が足元にはあり、そこから眷属が産まれている?のだろうなと感じた。 眷属の中でも一際大きな個体がボスモンスターに寄り添っていた。 分かった。これ眷属じゃなくて雄なんだ。アリと一緒で、ボスモンスターが女王アリで、雄が縄張りを守ったりしているのだろうか。 ボスには念能力が効かなかったので面倒くさかった。それくらいしか感想がないかなあ…卵も全部食べて高山地帯を後にした。 完食通知 鷹人間 1匹 鷹人間の女王1匹 卵10個 高山地帯を抜けると海が広がっていた。水平線に微かに見える向こうの大陸が魔王城のある大陸なのだろう。 ただ泳げなかったため、海岸を暫く歩いていると、巨大サメのような魔物が私を飲み込もうと飛びかかってきた。念能力が効いたため何の問題もなくこちらが呑み込む。 するとサメのスキルを会得したため水中での呼吸と泳ぎのスキルを獲得した。 海の中には地上以上に食べ物が沢山だった。反対側に泳ぐついでに目に見える魚竜や魚類、海鮮類を平らげていった。 完食通知 魚竜 76匹 巨大ザメ 86匹 魚類 507匹 ウニとか貝 2059個 陸に上がると人間の国があって、港として発展している国のようであった。 「いただき…ます!」 私の宣戦布告の合図である。 その晩、アリステラ王国は一夜にしてその400年の歴史が潰えたのであった。 「うーん…あんま人間は食べ応えないなあ…」 制圧通知 アリステラ王国 魔王城がある大陸は対魔王に向けて人間が国同士で同盟を結んで魔王に対抗しているようだ。小国や大国まで様々な国が人類同盟に参加しているがそのうちのアリステラ王国は人類の御三家と言われる大国の一つだったそうだ。へなちょこな魔法や攻撃しかしてこないので全く気が付かなかった。 私は魔王城に向かうべく歩いていたが、西端にある魔王城と人類同盟との国境近くに差し掛かった。国境には魔力で強化された壁が施されており、壁の中央にある国境要塞を攻略しないと魔王の領土には入れないようであった。大陸を真っ二つに両断する壁は、人類にとっての要所中の要所なのだろう… アリステラ王国が一晩のうちに消えたことは、人類にすぐに知れ渡り、食べ損ねた王国の生き残りが私の事を人類会議で報告していた。 念能力の応用で大陸全土の人間の情報をテレパシー的に理解できるようになった私だったが、私のやることは大して変わらない。 国境要塞の守備兵を残らず踊り食いにし、要塞のボスである人間が悲鳴を上げながら私の喉に入っていった。 「よくやったぞ。」 要塞を制圧し、国境である門をこじ開けた私の前に魔王が姿を現した。 「お前、名は何という?此度の功績を認めて我が右腕にしてやろう。欲しいものならなんでもやるぞ?」 「……いただき…ます!」 魔王というだけあって強かった。飲み込む頃には辺り一面は焦土と化し、要塞だった建物も壁も木っ端微塵であった。 主人を失った魔王城の攻略は容易かった。多少強いなって思う敵はいたけれども割とすぐに飲み込めた。 制圧通知 魔王領 城から出てみると、人類の大軍勢が私の目の前に現れた。 制圧通知 アルデラ大陸 それから何年か経ち、私は魔王として恐れられていた。二つある世界の大陸のうち、西のアルデラ大陸を支配し、東側の大陸にも私の領土がある。東側の大陸にも僅かながら人間は住んでいるのだが、人間は西の大陸よりもずっと静かに暮らしており、大陸北端の山奥で独自の宗教を軸に生活しているようだ。 東側の大陸はモンスターが多く生息している大陸で、人間の手がついていない原生林が多く、モンスターの大陸だと認識されている。 魔王を食べて魔王になった私は、退屈しない日々であった。自分の魔力で部下をいくらでも生み出してそのまま食べることもできるし、食べるものには困らなかったため、東の大陸に渡って残るモンスターを食べようとは全く思わなかった。アルデラ大陸に住まうモンスターや残された人間達は、私に食材の貢物をしてくれる。送ってくる量は地域によって大小様々だった。 ある日、いつものように貢物を食べていると、数人の冒険者が城を攻略すべく突入してきた。 冒険者達は玉座の間に到達し、私を見つけると襲いかかってきた。 「ぐっ!?……ぬ、抜けない……」 こんなの初めてだった。冒険者の持っている剣が生まれて初めて身体を突き刺したと思ったら、それが抜けない。私はこの世界に生まれて初めて痛みというものを感じた。 身体の中を蝕むようにヒリヒリとした痛みが全身に広がっていく。単なる刺突ではないのだろう… 私の抵抗も虚しく、私の力はみるみる抜けていった。膝をつき、身体の崩壊を待つのみとなった。 私は床に広がる自らの血の池に映る、己の姿形を見た。 「……え?これが…私なの…?」 意図せずに取り込んだ魔物の再生魔法が発動していたのだろう。私の姿は自分が知る黒江華蓮の姿ではなかった。再生のたびに身体中は醜悪で爛れた肉体へと変貌していたようだ。 私は放心して身体一つ動かせなかった。 私はこれまで起こったことを反芻していた。確かに神はこう言っていた。 あなたの望む世界と能力を得る… そうか… 私は人生の床にて初めて、自らが浮世離れした言動を取り、人の痛みが分からずに己の欲望のことしか考えていないのだと悟った。そんな存在など、自らの姿形が良く示しているのだろう。 私は死の床には涙を流していたようだ。 「魔王、泣いてるぞ」 「そうか…そりゃあ、そうだろうな」 冒険者達は、魔王城を後にした。 ゲームオーバー通知 「お疲れさま。どう?気分は?」 私は死んだ時にいた空間に戻ってきたようだ。だが私の気分は決して良くなく、神に背を向けて座り込んでいた。 「……よくない」 「良かったじゃないか。初めて、幸せを掴めたんじゃないかな?」 「しあ…わせ?」 「あんたが、どういう人間であったのか、元いた世界ではよく分からなかった、というか他人も社会も誰も付き合ってくれなかったんでしょ?」 「それをこの世界では君に付き合ってくれた!幸せじゃないか!」 「じゃあなに…私は…どうしたらいいの…?」 「それは自分で考えるんだよ。みんなやってるよ。」 「………」 神は、私が初めに死んだ、人間の世界に私を戻してくれた。


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