死ぬことは怖くありません。これでようやく罪を償えるのですから。被害者の方の無念やご家族のご心痛が少しでも和らぐのであれば、僕にこれ以上の何が出来ましょうか。牧師さん、僕ね、感謝しているんですよ。だって僕、こんな僕でも、救われているのですから。『信じる者は救われる』って言葉の本当の意味が今なら分かる気がします。
少し昔の話をしてもいいですか?僕の子供の頃の話なんですけど。僕ね、山間のちんけな町に生まれ育ったんですよ。昭和で時代が止まったゲームセンターがあって、不良のたまり場になってるカラオケがあって、公民館の近くにお稲荷さんの神社があって、あとそうだなぁ、どこから流れてきたか分からない汚いババァがやってるカラオケスナックがあったなぁ・・・他には特に何にもない、そんなクソみたいなとこでした。
戦後すぐ、日本が焼け野原だった頃に『これからは木材が儲かる!』ってんで山を切り開いて馬鹿みたいに杉の木を植えて・・・蓋を開いてみたら外国の安い木材が使われるばかりでちっとも儲からねぇ。僕の町はねぇ、『こんなハズじゃなかった・・・』とか、『どうしてこうなっちまったんだ・・・』とかそういう感情がドブ川のヘドロみたいにつもり積もっていたんですよ。大人も子供もみんな、鬱屈したモヤモヤを抱えて、だから暴力なんて当たり前でしたし、犯罪は見つからなければ犯罪じゃありませんでしたし、色んな事情で人が『いなくなる』なんてことは別に珍しくなかったんです。大人になって都会に出るまで、ずっとそれが普通だと思ってました。可笑しいでしょう?そんな所がつい二十年前にあったんですよ。この日本に。信じられますか?インターネットも携帯電話も当たり前にあった時代にですよ。
まぁ、こんな話はどうだっていいんです。牧師さんに聞いて欲しいのはね、こんな愚痴なんかじゃないんです。不思議な記憶があるんですよ。そこにいないハズの少女の記憶。少女といっても、ガキだった僕にとってはずっと年上のお姉さんだったんですが。これは僕が小学六年生の、夏の頃の話です。
まずその子の事で一番覚えているのがその瞳。瞳が宝石みたいで、冷たい感じがするのに、ゾクゾクするほど綺麗なんです。それから艶やかな黒髪を伸ばして、黒いセーラー服と、透き通るように白い肌と・・・一度見たら二度と忘れられないくらいに美しい少女が、ある日突然町に現れたんですよ。まるでずっと前からいたみたいに自然に。誰からも気にされることなく。
おかしいんですよ。そんな美女、あんな掃きだめみたいな町ではどうだって目立つんですよ。それなのに誰も気にしない。まるで僕にしか見えない幽霊みたいでした。気が付いたら僕はその少女の姿を探すようになっていました。雨上がりのバス停。町を見下ろせる坂の上。路地裏に、錆びた自販機の陰に・・・家の中にいる時ですら、カーテンが揺らぐ窓の外に、彼女がいないかと思ったものです。
そんなある日のことなんですがね、僕は家から追い出されてしまいまして・・・親父からタバコを買いに行かされたその道中に、タチの悪い奴らに絡まれましてね。親父から預かった金千円を、お気に入りの二つ折りの財布・・・マジックテープで開け閉めする財布で、ミニ四駆のシールを貼ってたかな。その財布ごと千円を取られまして。その事を親父に言ったら烈火のごとく怒りましてね。一升瓶でこんな風に僕をこづくんですよ。そんなに強い力じゃないけど、執拗に目を、目を狙ってきましてね。えぇ、目を。
今思えばたかが千円くらいでそんなに怒らなくてもいいでしょうに・・・まぁ親父はただ暴力を振るいたかっただけだと思います。最低ですよね。でも、当時僕はそれが普通だと思ってましたから。
そんなわけで、僕はどこにも行けず、かといって家にも帰れず、公園のブランコに座ってぼんやりしていたんです。
日が沈んで夜が来て、腹がグゥと鳴った頃です。
「はいこれ。」
突然声をかけられて驚きました。まるで今、たった今そこに音も無く現れたみたいに、その少女が立っていて、そして僕の財布を差しだしていたんです。
どうしてこの財布が僕のだと分かったのか、これをどうやって取り返したのか・・・色々聞きたいことがブワーーって頭に昇って、何も言えずに口をパクパクさせていると、今までどこか冷たい表情をしていたその子がふっと微笑んで、人差し指を唇に当てたんです。
わけもなくドキドキしました。女の子にそういう感情を抱くのは、初めてでした。それからの事はほとんど覚えていません。なんというか、夢見心地でしたもので。その子とどんな会話をして、どんな風にして分かれたのかも覚えてないです。財布の中には親父の千円がありました。その千円をそのまま親父に返したのか、それともそれでタバコを買って帰ったのか、それすら、こう、何と言いますか、ポヤポヤしてるんです。記憶が、こうポヤポヤって・・・
ただね、牧師さん。僕ね、これだけはハッキリ覚えているんですよ。僕、その子にちゃんとありがとうって、言ってなかったんです。言えなかったんです。
牧師さん、僕ね、こんな罪を沢山犯しておいて、こんな事言うのもなんですけど・・・僕、その子にありがとうを言えなかった事だけが、ただ一つの心残りなんです。あんなに沢山の人を殺した僕がですよ。変なのは分かります。罪の意識もありますよ。でも、後悔したことって言うと、それだけなんですよ。
長々と語ってしまいましたが、僕が話したかったのはここからなんです。牧師さんは『悪魔』の存在を信じますか?・・・いえいえ、僕が言いたいのはそんな観念的なモノじゃなくて・・・まぁ、単刀直入に言いますわ。僕ね、いや、僕の町ね、悪魔に襲われたんですよ。
あれは忘れもしません。夏休みのある晩のことでした。その夢の事は、今でもハッキリと覚えています。
じっとりと蒸し暑い空気、しんとした中に響く虫の声。足裏に触れる濡れた土と草の感触・・・
僕は深夜の境内・・・お稲荷さんの神社、その狭い境内に僕はいたんです。えぇ、もちろん、夢の中の話ですがね。その夢の中で、僕は木に隠れながら何かを見ているんです。闇の中に、あの少女がいました。闇に溶ける黒いセーラー服から伸びた白い手足が、ボウッと艶めかしく浮かんで見えます。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
苦しげな吐息が聞こえます。目が慣れるにつき、少女の肩が大きく上下しているのが分かります。それから、
「あぁぁあああ!!」
その子が喘ぎながら身を捩りました。
あぁぁ・・・なんということでしょう。セーラ服の少女が、異形に襲われているのです。人の形をしているそれは、ザワザワと不気味に震えています。それがブンと長い腕を振ると、ナニカが少女に放たれるのです。
「くっ」
少女が何かを振り回します。その度に、キラリキラリと闇の中で輝くものがあります。いったい何が行われているのでしょうか。僕が目を凝らしたその時、厚い雲の間から月明かりが差し込んできました。僕は目の前の光景に、思わず吐き出しそうになりました。
人型だと思っていた異形は・・・あまりに悍ましい・・・ムカデやゴミムシやゴキブリにミミズにハエやウジ・・・色んな毒虫が集まり固まって、人の形を作り出したモノでした。そしてその異形が毒虫の弾丸を少女に向けて放っているのです。
その毒虫の弾丸を、少女はとても美しいスラリとした剣で切り落としていきます。その姿はまるで踊っているようでした。
「ベヘモット!!」
少女が叫びました。一瞬、異形に噛みつく巨大なカバが見えた気がしました。次の瞬間、
バクン!!!
異形の上半身が掻き消えました。これでこの変な夢も終わる・・・僕がそう思ったその時です。
「はぐぅ・・・んぁぁああああああ!!!」
少女が突然、胸を押さえて苦しみ始めました。その場でへたり込み、真っ白い首を仰け反らせて悶え喘いでいます。
「んくっ・・・あぅ・・・ぁぁあああああ・・・」
何が起こっているのでしょうか。悍ましい異形を倒したのに、セーラー服の少女が苦しんでいるのです。まるで激しい責めを受けているようです。その姿は妖艶で艶めかしく・・・そしてどうしようもなく嗜虐心を煽ってしまうモノでした。もちろん、子供の僕はそんな言葉知りませんでしたので、得体のしれない衝動に呑まれながら、ただただドキドキしていました。
「うあぁぁぁあああああ!!!」
少女が一際大きく仰け反りました。一瞬ですが、その胸に噛みついている巨大なカバが見えたような気がしました。彼女の薄い胸を、大きな口の太い歯で、ギリギリと押しつぶそうとする魔獣の姿が・・・
シュルシュルシュル・・・
少女の背後からナニカが近づいてくるのが見えました。巨大なムカデが、悶え苦しむ少女の背後から襲い掛かろうとしているのです。少女はそれに気が付くようなそぶりがありません。このままではムカデに巻き付かれて無茶苦茶に責められるに違いありません。あの不思議な少女が。いつもその姿を追っていた少女が・・・僕の財布を届けてくれた、僕を助けてくれた少女が・・・ムカデの毒牙に・・・あぁぁぁ・・・心臓がバクンバクンと音を立てています。息の仕方すら忘れてしまって、鼻息が荒くなってしまいます。あの少女が・・・あの少女がムカデに責められ苦しむ様子を見られる・・・僕はそれをもう少し近くで見ようとして、足を一歩踏み出しました。
パキ!
乾いた音が辺りに響き渡りました。木の枝を踏み折ってしまった僕に、少女とムカデとが同時に振り向きました。
逃げて・・・
少女の唇がそう動くよりも早く、
ビュン!!!
巨大ムカデがこちらに迫ってきました。
瞬間、僕は死を意識しました。ムカデに喉笛を食い裂かれて死んでしまう・・・僕は立ちすくんだまま、動けなくなってしまいました。
次の瞬間、目の前が真っ暗になって、ズダン!地面に押し倒されました。顔に柔らかくて暖かいものが押し付けられています。それが少女の胸だと気が付いたその時、
ブシュ!
肉を貫く音がして、
「うっ・・・!」
少女が呻きました。彼女が震えるのを感じます。
「大丈夫・・・心配しないで・・・」
少女は僕の頭を抱きながら覆いかぶさっています。異形から僕を守ってくれているのです。
ズキュン・・・ズキュンズキュン・・・
音を立てて異形が何かを吸っています。
「あぅ・・・くっ・・・んっ・・・くふっ・・・」
震えながら、少女が声を殺しています。僕を怯えさせないように必死にこらえているのです。
ジュル・・・グジャ・・・ウジャ・・・
不気味な音が聞こえます。
「大丈夫・・・っ・・・こ・・・怖くないから・・・」
少女が必死に僕に語り掛けてきます。
「小僧・・・貴様のお陰で我はマリアのマナを啜り・・・この身を回復・・・いや、強大なモノにすることが出来たぞーーーー!!!」
恐ろしい声がして、
ジュルジュルジュルジュル!!!!
吸い出す音がさらに激しくなりました。さらに、ドシュ!ブシュ!ザシュ!!肉を突きさす音が何度も・・・きっと少女の肉体に、毒虫の悍ましい口が牙が突き刺さっているのでしょう。
「んぁ・・・うく・・・っぁ・・・ぁ・・・」
肉を突きさされる度に少女のカラダが仰け反り、薄い胸に僕の頭が押し付けられます。
ジュルジュルジュルジュル!!!
「あくっ・・・ぅ・・・っぁ・・・ぁ・・・っ・・・!!」
吸われる音がするほどに、少女が苦しんでいるのが伝わります。震える肉体から、押し殺した声から、じっとりと濡らす汗から、そしてその香りから・・・彼女が苦しんでいることが伝わってくるのです。
牧師さん、僕ね、その時、最高に幸福だったんですよ。少女の苦しみをね、全身で味わっていたんです。甘美でした。あまりにも甘美でした。
僕は思いっきり息を吸い込みました。鼻からその香りを吸い尽くそうとしました。
「んはぁぁ・・・」
耳元を、少女の甘い吐息がくすぐりました。
「毒で責め苦しめてやる!」
異形の声がして、
ガクン!
少女のカラダが大きく跳ねました。
ズクンズクン・・・
しっかりと抱かれて居たもので、少女のカラダにナニカが注がれていくのが肉の感触から伝わってきました。
「はっ・・・はっ・・・はっ・・・んくぅ・・・はぐぅ・・・ぁぁぁああ・・・」
カラダ中を毒で犯されて・・・吸われている時とはまた違う感じに少女は悶えていました。
「どうした?そのままじゃぁヤラレル一方だぞ!」
「はぅ・・・ぁ・・・あぁぁ・・・こんな・・・生ぬるい責め・・・なんとも・・・あぁぁあああああ!!!」
注入される毒が濃くなったのでしょう。少女の声が、カラダの震えが、汗の量が、激しくなった苦しみを如実に表していました。僕は少女の胸に強く顔を押し付けました。それを怯えているのだと勘違いした彼女は、
「怖くない・・・んぁ・・・怖くない・・・から・・・」
必死に僕を慰めようとしたんです。声を殺して、苦しいのをこらえながら・・・
「さぁて、もっと味わってやろう。」
轟く声と共に、少女のカラダが僕から引きはがされました。
「うあぁぁあああああああ!!!」
背中に腕に腿に巨大なムカデが突き刺さった彼女が、高く掲げられます。
「うぁ・・・あぁ・・・ぁぁ・・・くあぁぁああ・・・」
ただ突き刺されただけではありません。両手足を巨大なミミズに絡めとられ、仰向けになったカラダをギリギリと引きちぎらんばかりに引っ張っています。
その異形はさっき見たそれとは違って見えました。より大きく、そして朧げに人の形をしていただけのソレが、ハッキリと長髪の女の形をとっていました。両腕を上げ、その先から出したムカデやミミズで少女をいたぶっているのです。
「小僧・・・礼を言う。我は力を得て、かくも強大になれた。これで我も名を与えられ、畏れを集め、さらに強大になれようぞ・・・」
異形が僕を真っすぐ見つめて嗤いました。僕のせいなのでしょうか・・・僕のせいで、こんな恐ろしい存在が・・・
「こ・・・こんな奴の言葉に・・・耳を傾けないで・・・君は・・・一つも悪くない・・・あぁぁああああ!!!!」
一際高い悲鳴を上げた少女の胸を・・・あぁぁ・・・なんと悍ましいのでしょうか・・・巨大な・・・それも少女の胴と同じほどの大きさのゴキブリが二匹張り付いて、それぞれ左右の胸にかじりついているのです。
「あぅ・・・んぁぁぁああああ・・・うあぁぁあああああああ!!!」
月に照らされて、少女のカラダがさらに仰け反ります。
ガジ・・・ガジ・・・
チュウウ・・・ジュルジュル・・・
ゴキブリに、胸を貪られて悶え苦しむ少女・・・僕はこの名画を目に焼き付けようと、ジッとその光景を見つめました。
華奢なカラダはトゲトゲした肢に強く抱きしめられています。ほっそりとした白い首・・・仰け反った首筋をゴキブリの長い触角がわさわさと愛撫しています。
無表情な虫の顔が上下するたびに、凶暴そうな顎が左右にする度に、顎の奥からザラザラした舌が出入りするたびに、ピクンピクンとその身が震え、
「あぁぁ・・・うあぁぁぁ・・・」
唇の間からは、甘い声が漏れるのです。
僕はその光景を、音を、全部忘れまいと必死に見、そして聞きました。そんな僕に少女は言うのです。
「だ・・・大丈夫・・・君は・・・私が守る・・・うあぁぁああ・・・」
と。
「うぁ・・・あぁぁああああああ・・・」
だが無情にも、少女のカラダがさらに仰け反ります。このままでは背骨がボキンと折れてしまいそうです。
「愚かな・・・貴様に何が出来るというのか。」
異形が彼女を見上げたその時、
「くっ・・・やっと目があったわ・・・メドゥーサの力で・・・貴方はおわりよ・・・」
少女が不敵に笑いました。するとどうでしょう。
パキ・・・パキパキパキ・・・
少女を戒めるミミズやムカデが、少しづつ石になっていくのです。
「うぉ!貴様・・・何をした!!!」
それに続いて異形の体もドンドン石になっていきます。
「今よ逃げて!」
少女の声がして、僕は言われるがままに走り出していました。耳の奥に綺麗な笛の音が聞こえていたような気もしますが、気のせいなのかもしれません。
・・・気が付いたら僕は布団の中にいました。いつものジメジメしたセンベイ布団の中で目を覚ましました。
僕が見た夢の話はこれで終わりです。
いえ、牧師さん。終わったのは、あくまで夢の話なんです。肝心なのはここからなんです。
「○○様の所に悪魔が出たんですって。」
その日の朝、朝食中にお袋が突然そう話しかけてきました。○○というところはなんて言っているのかよく聞き取れませんでした。初めて聞く言葉でしたし、今まで聞いたどの音とも違って聞こえました。
「本当か!?そいつはどうなったんだ!」
親父が血相を変えてお袋に尋ねると、
「○○様に討伐されて、今ご神木に縛り上げられているそうよ。」
お袋が眉をひそめてそう言いました。
僕は二人が何を話しているのか全く分からずに、両親が普通の会話・・・親父が怒鳴ることも、お袋がすすり泣くこともない会話をしているなんて珍しいなと、ぼんやりと眺めていました。
「おい!○○様のところに行って悪魔が逃げないように見張ってこい。分かってると思うが、悪魔に何を言われても口をきくんじゃねぇぞ!」
親父が何を言っているのか少しも理解できませんでしたが、なぜか『○○様』の所というのが、夢で見たお稲荷さんの事だとすぐに分かりました。僕はお袋に作ってもらった弁当と、麦茶が入った水筒をもって、お稲荷さんの方へかけていきました・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「はぅっ・・・んくっ・・・んぁぁあああああああ・・・」
思った通りでした。お稲荷さんの境内のいっとう大きな木、ご神木にあの少女が縛り付けられてました。黒いセーラー服を真夏の太陽にジリジリと炙られながら悶えていました。そうですね、木に縛り付けられていると一口に言っても色々とあると思うんですけど、両手を上げた姿勢で、こう、Yの字になってですね、その両手首と足首の所に荒縄が巻かれていて、木に括りつけられていたんです。足は地面についていないで、裸足の足がちょうど僕の目の高さにありました。
「はぅ・・・んくぁ・・・あぁぁ・・・あぁぁああ・・・」
少女は僕に気が付きません。僕に気づかないまま喘ぎ悶えています。僕の事が見えていないのです。彼女は布で目隠しをされていました。それから耳や頬や首筋、セーラー服の上から胸やお腹や下腹部・・・股間にも、スカートから伸びる白い太ももにふくらはぎに、ベタベタとお札が張られています。目隠しの布にもお札にも、おどろおどろしい字体で文字が書かれています。小学生だった僕には書かれている文字が分かりませんでしたが、今にして思えば、『呪』とか『苦』だとか、『蝕』『辱』『穢』『嬲』といった文字が書かれていたように思えます。その文字が、彼女を責めているのです。目に悍ましい光景を映し、耳から身の毛もよだつような声を言葉を流し込み、カラダ中を蝕み辱め穢し嬲っているのです。
ミーンミンミンミンミンミン・・・ジジジジジジジジジジ・・・・シャーシャーシャーシャーシャー・・・
けたたましい蝉の声にかき消されるような弱い声で、
「ぁぁぁああ・・・うく・・・はぁぁ・・・んぁっっ・・・」
セーラー服の少女が悶えます。真夏の太陽に焙られてヌメヌメと汗に塗れて、妖艶にのたうつのです。
当時の僕はまだ精通していませんでした。ですがイチモツがギンギンに硬くなって、そして触ってもいないのに、精を空撃ちするみたいにビクンビクンと震えました。僕が初めて絶頂を迎えた瞬間でした。
ガサガサ・・・
草むらが音を立てました。足元を見ると沢山の虫・・・ムカデやカミキリムシやマイマイカブリ・・・まるで動く絨毯の様に湧いてきました。
ブブブブブブブブブ・・・
羽音を立ててスズメバチや蛾や蝶の群れが雲のように湧いてきました。
地を這う虫は、真っ白い足に絡みつくようにして登って行き、スカートからセーラー服の中に次々に潜り込んでいきます。
宙を飛ぶ虫はカラダ中に次々と張り付いて、毒針や口吻を突き立てていきます。
「んはぁあぁぁああ・・・あぁああああああああ!!!」
少女の声が一際高くなりました。長い黒髪を振り乱し、小さな胸を突っ張らせて悶えています。あぁぁ・・・その胸・・・セーラー服の中でモゾモゾ動いて、虫たちが集中的に嬲っているのが分かります。蛾や蝶の鱗粉や口吻、蜂の毒針が、突き出された胸を容赦なく責め立てます。張り付いたお札の文字が、ボウッと妖しく光りました。悍ましい文字が、さらに彼女を責め立てているのです。
「はぐぅ・・・んくぁああ・・・あぁぁああう・・・あぁぁあああああ!!!」
ジリジリと照らされながら、美しい少女が苦しんでいます。触れたいとは不思議と思いませんでした。それほどに、現実離れした光景だったのです。
少女の脚元に、こぶし大くらいの甲虫がひっくり返ってジタバタしていました。僕はそれを拾うと、少女のふくらはぎに掴ませてやりました。
「ぎーーーー!!!」
甲虫は声を上げると、凄まじい勢いでスカートの中に入り込んでいきました。
「あぁぁああああ・・・んうぁぁああああああああ!!!」
少女のカラダが弓を作ります。
僕はそれから境内を色々と探し回って、ダンゴムシやナメクジを見つけては、少女に貼り付けました。その度に虫達は興奮し、そのカラダを、特に胸を責め這いずるのです。
「んはぁぁぁ・・・うあぁぁ・・・あぁぁん・・・」
その度に少女は激しく苦しみ悶え、クネクネと身を捩るのです。
そうそう。今でもハッキリと覚えているのが、カミキリムシに似た昆虫が、お尻から出した管を少女の乳首に刺したんですよ。それからね、その管がズクズクと脈をうって、卵を産み付けていったんです。透明の管の中を小さな卵が幾つも送り込まれていくのが見えました。
「あぁぁ・・・ぃぁ・・・あぁぁぁあああ・・・ゃ・・・あぁぁああ・・・」
見えなくても分かるんですかね。卵を産み付けられる感触が・・・そりゃぁもう苦しんでいましたよ。
大人達が来るまでの間、多分午前中いっぱいはそんな風にして、少女の観察をしていました。
ミステリアスな少女。僕を助けてくれた少女。その代償に悍ましい責め苦を受けている少女を、僕は観察し続けたんです。鼻を寄せると、夢の中で嗅いだあの香りがするんです。
「いやぁ・・・」
ミーンミンミンミンミンミン・・・ジジジジジジジジジジ・・・・シャーシャーシャーシャーシャー・・・
蝉も興奮しているのか、少女の声をかき消すように激しく鳴いていました。蝉の声にかき消されながらも、少女は延々と喘ぎ悶え続けていました・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
ドン!ドドン!
ピーヒョロロローー♪
太鼓と笛の音を鳴らしながら男衆が神輿を担いでいます。その神輿の上には、竹で作られた磔台に少女が縛められています。ベタベタと張りつけられたお札や目隠しはそのままで。彼女に集る虫達もそのままで・・・
少女を見た大人たちが、せっかくだから町中の晒し物にしてやろうと、そういうことになったのです。
神輿の上の少女が、粗野な町の連中の汚い視線に晒されています。僕は親父の肩の上でその光景を見ています。いつも暴力を振るうことでしか僕と関わることしかなかった親父が肩車してくれるなんて、考えられない事でした。
「△△さんを見ると、夏だなぁって思うよなぁ。」
そんな声が聞こえました。周りはいつの間にか浴衣を着た人でいっぱいになっています。出店がずらりと並んで、まるでお祭りです。いや、お祭りなのです。毎年この町で行われるお祭り・・・さっき大人達の思い付きで始まった少女への辱めが、伝統的に何年にもわたって行われている行事にみんなの認識が・・・歴史が変わってしまったのです。
「んぁあああああああああ!!!」
少女の喘ぎ声が一際高くなりました。彼女に張られているお札が、年季の入った古いものになっています。もう何年もずっと呪詛の言葉を受け続けて、呪いが深く濃く刻まれているのです。
「よいしょぉ!!」
掛け声とともに、男衆が神輿を激しく揺らしました。それに呼応するかのように、少女の服の中で虫が激しく蠢きます。
「んはぁあああああああっっ!!!」
少女がカラダを仰け反らせ悶えると、周囲からパチパチと拍手が起こりました。
「いいねぇ。」
「夏だねぇ。」
そんな会話が聞こえます。
「「「よいしょぉ!!」」」
今度は周りの人も掛け声をかけます。さっきよりも大きく神輿が揺れて、虫の動きもより一層激しくなります。
「ぃぁあああああああああああああ!!!」
少女が苦しみ悶えるほどに、人々は笑顔になっていきます。
「「よいしょぉ!!よいしょぉおお!!!」」
「あぁぁあああん・・・うあぁぁああああああああ・・・!!!」
神輿はゆっくり進みながら、何度も何度も大きく揺らされ、その度に少女はのたうち喘ぎ、町の連中は幸せそうな表情を浮かべるのです。辛気臭い町が、セーラー服の少女を生贄にして活気づいていくのです。
「あはぁっ・・・うぁ・・・んぁ・・・あぁぁああ・・・」
悶える少女を舐めまわす沢山の視線もまた、彼女を苦しめているようでした。
「いやぁ・・・み・・・みないで・・・あぁぁぁああ・・・」
そんな事を言っていましたから。多分、大勢の人から見られることで、無数の手でカラダ中を弄られているように感じていたんでしょうね。それでいて、クネクネとのたうって、艶めかしく視線を集めるのですから・・・彼女の痴態を町中の奴らが、ガキもジジババもみんな愉しんでいました。見られることで苦しんでいる彼女を、その視線で責め嬲っていました。町中から集団痴漢を受けているのと同じでしたね。
「いや・・・やめ・・・あぁぁああああああああ!!!」
何度も少女はカラダを痙攣させながら大きな嬌声を出していました。絶頂したんですな。彼女が絶頂する度にそれを罰するかのように、
「「「よいしょ!!!」」」
激しく神輿を揺らすんです。絶頂したばかりで敏感なカラダを、虫達が激しく責め立てます。
「んあぁぁ・・・また・・・そんな・・・あぁぁああああああああ!!!」
そうしてまた絶頂へと向かう彼女を、町の連中は指さして嗤うのです。
「いやぁぁぁ・・・あぁぁあああああっっ!!!」
少女の矯正と、笛や太鼓の音、人々の笑い声が一塊になって、神輿は真夏の町をゆっくりと進んでいきました。町全体をあげて、彼女をじっくり嬲りつくすかのように・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
町が夕闇に包まれる頃になってやっと、神輿はお稲荷さんに戻ってきました。ですが、さっきまで僕がいた、小さなお稲荷さんとは明らかに別物でした。立派な鳥居。大きな本殿。広々とした境内の真ん中に、大きな像が建っていました。それは僕が昨夜夢で見た・・・いや、もう取り繕うのはよしましょう。僕が昨夜この目でハッキリと見た、正真正銘現実に出会ったあの異形・・・あの悪魔の像が建っているのです。もうずっと何年・・・何十年・・・何百年とずっと建っていて、この町を見守っているのです。
その悪魔像の前に、磔台ごと少女が捧げられました。
ザワ・・・ザワザワ・・・
悪魔像から大量の毒虫がはい出してきて、少女の脚に絡みつき、どんどんとセーラー服の中に入っていきます。
それから松明を持った男が二人、メラメラと燃え滾る炎を少女の胸に近づけ炙るように責めます。
「んはぁああ・・・くぁぁ・・・」
毒虫に責められ炎に炙られ、少女が妖艶にその身をくねらせます。
ドン!ドドン!!
太鼓が鳴って、一人の男が手にした槍を少女の胸に突き刺しました。
ブスリ!!!
「あぁあああああああああああ!!!!」
夏の夜空に少女の悲鳴があがります。
「お?始まりましたな?」
「私ね、これが楽しみで一年頑張っているんですよ。」
そんな会話をしながら、みんな、老いも若きも男も女もずらりと少女の前に並んで、そして順番に、
ブスリ!!
槍を胸に刺していくのです。
「あぐっ・・・うぁぁあああああああ!!!」
この町の連中は、一年に一度こうして少女の胸に槍を突きさすことで、グルグルと溜まった破壊衝動を吐き出しているのです。こうすることによって、『こんなハズじゃなかった・・・』とか、『どうしてこうなっちまったんだ・・・』という町に渦巻く感情を発散させているのです。
「はぐぅ・・・くぁ・・・うあぁぁあああ・・・」
借金で首が回らないパチンコ狂いの男が、深く刺さった槍をグリグリと動かします。
「ひぁっ・・・んはぁっ・・・んくぁぁぁ・・・」
嫁にいびられている駄菓子屋の婆ぁが、わざと槍をゆっくり・・・じっくりと肉の感触を味わうように槍を沈めていきます。
「あがっ・・・うがぁ・・・う“あ“ぁあ・・・」
中学になっても九九も出来ない、木村の馬鹿三つ子が力任せに槍を突きさします。
誰もかれも、思いのまま自分の心の闇を少女にぶつけています。
「死ねぇえええええ!!!!」
凄まじい叫び声と共に、思いっきり槍を突く女がいました。お袋でした。僕のお袋が、見たこともない鬼の形相で少女の胸に槍を刺しました。
「あがっ・・・うあぁあああああああああああ!!!!」
お袋に責められて、少女が苦悶の声を上げます。殴られて怒鳴られて、すすり泣くことしか出来なかったお袋が・・・全ての恨みつらみを可憐な少女にぶつけているのです。
ふと見上げると、悪魔像と目があいました。悪魔がニヤリと笑っているような気がしました。この悪魔、『○○様』というありがたい神様のお陰で、僕の町は平和なのです。明日も明後日も、昨日も一昨日も、ずっとずっと平和なのです。僕の頭の中にも、そういう考え・・・といいますか、概念といますか・・・そういう事実が流れ込んできました。
少女を生贄にして、全部うまくいくのです。この町は、そんな風に回っていくのです。
「ほら、次はお前の番だぞ。」
親父から槍を手渡されました。目の前には磔にされた少女がいます。ずっと僕の前で責め抜かれて、苦しみ悶え続けた少女が。
パチパチと松明の炎が鳴って、ドンドンと太鼓の音がお腹に響きます。
僕は、僕の中にグルグルと渦巻く衝動を少女にぶつけたら、全部すっきりするのでしょうか。このどうしようもない町で、暴力と罵声に晒されながらグツグツと溜まっていた黒い感情が無くなるのでしょうか・・・
「んはぁぁっ・・・あぁぁあああああ・・・」
磔になった少女のカラダが弓を作りました。目の前に胸を突きだして、誘っているようです。この湧き上がる感情に任せて槍を突きさしたい。そんな欲望がこみ上げてきます。どうしようもないくらい、体を突き動かします。
もう一度悪魔像を見上げました。悍ましい顔でハッキリと、悪魔が笑いました。まるで神様のような天使のような、優しく、吐き気がするほど醜悪な笑顔でした。
腹が立ってきました。
腹が立ってきました。
こんなことで全部吐き出してすっきりして、明日から何くわない顔で過ごすだろう町の奴らに・・・今まで散々子供の僕を暴力で支配下に置いておいて、それをなかったことにする町の奴らに。腐った部分を全部取り除いて神様面する悪魔に。本当は全部独り占めにしたいはずなのに、たった一発槍を突きさしただけでスッキリしようとしている自分自身に、本当は僕だけのものにして僕だけが責め尽くして僕だけが支配したいはずなのに、子供であることを言い訳にして場に呑まれてよしとしようとする自分自身に、
腹が立って腹が立って腹が立って腹が立って腹が立ってきました。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
僕は叫んでました。叫んで、そして槍を
ブン!
力任せに投げました。
「きゃぁああああ!!!」
周囲の悲鳴と共に、
ドン!
槍が悪魔像の顔に深く突き刺さりました。
「ぎやぁああああああああああああああああ!!!!!!」
悍ましい声がして、ボロボロと像が崩れ落ちました。その中から毒虫たちの群れが津波のように湧き上がってきました。
悲鳴と怒号で辺りが満ちていきました。
「あはははははははははははは!!!」
混乱の中に笑い声が聞こえました。
僕の声でした。
「あはははははははははははは!!!ざまぁみろ!!ざまぁみろクソが!!!!」
僕は叫んでいました。毒虫の海が足元を完全に覆っていました。
親父もお袋もその他ありとあらゆるクソどもが、悲鳴を上げながら毒虫に呑まれていきました。僕自身も呑み込まれていきました。
「あははははははははははははは!!!ざまぁみろってんだよおおおおおおおおおお!!!!!」
呑まれながら叫んで
そして
気が付いたら僕一人、いつものお稲荷さんの境内にポツンと立っていました。気の早い秋の虫が鳴いていて、辺りはすっかり暗くなっていました。毒虫も悪魔の像も、嘘みたいにきれいさっぱり無くなっていました。
もちろん、セーラー服の少女も・・・
それから少女の姿を見ることはなくなりました。初めっからそんな人間なんていなかったみたいに、日々は過ぎていきました。
町は元通りになりました。腕っぷしが強い奴や口がまわる詐欺師がでかい顔をする、クソみたいな町に。お袋は相変わらずすすり泣いてばかりでした。親父は次第に大人しくなっていきましたが、代わりに僕の怒号や暴力が家を支配するようになりました。やってみたら簡単でしたよ。目をね、目をこう、集中的に小突けば、すっかり大人しくなるんですよ。ハハハハハハハ・・・
そんでね、牧師さん。僕はね、僕は、あの少女の幻影を他の女に求めて、あの少女にしようとしたことを他の女で試してみて・・・何人も何人もこの手で殺めてきました。いや、殺すつもりはなかったんですよ。それは本当なんですよ。だって殺したら終わっちゃうじゃないですか。僕はね、あの少女のように延々と、延々と責め苦を受けて欲しかっただけなんですよ。それなのに、やろうとしたことの十分の一も出来てないのに死んじゃって・・・ハハハハハ・・・笑っちゃいますよ。
ねぇ牧師さん、最近夢を見るんですよ。真っ暗闇の、瘴気に満ちた空間で、ドロドロにされながら責めを受け苦しみ続けるあの少女の夢を。その夢がね、日に日にリアルになっていくんです。だから僕ね、分かったんです。理解したんです。僕のこのどす黒く膿んだ魂は、地獄に墜ちて今も少女を責め続けるナニカと一体化するんだって。時間の概念も無い空間で永遠に少女を苦しめ続けるんだって。これはね、確実に起こることなんです。絶対そうなるんです。だから僕はね、死ぬのが楽しみで楽しみで仕方ないんです。
ほら牧師さん、『信じる者は救われる』って言うじゃないですか。あれ、今までずっと、『神様は、自分を信じてくれる人を救う』っていう意味だと思ってたんですよ。でも違ったんですね。『信じる』という状態にある時、人はもうすでに救われているんですよ。『信じる』こと自体がもう救いそのものなんですね。僕は僕の死後、僕の汚れ切った魂が少女を嬲り続ける。そう心のそこから信じているから・・・あぁぁ・・・僕は今救われているんです。
ハレルヤ!!・・・あぁぁ・・・この世界はなんと素晴らしい世界なんでしょう。僕みたいなクズに、こんなにも幸福な結末が待っているなんて・・・
おや?牧師さんどうしたんですか?・・・イヤだなぁ。そんな顔しないで、笑って下さいよ。だって僕、救われたんですから。