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真約・黒のマリア 第十二話 『崩壊する世界』

 輝かしいまでのブロンドの髪をなびかせ、背中に大きな天使の羽をはためかせ、白く神々しい衣服に身を包んだ光の悪魔・ルシファー。最も神に近いと呼ばれる力を持ち、その傲慢さから堕天した史上最強の悪魔。


 天使は両性具有とは聞いていたけれど、目の前にいるソレは女性にしか見えない。同性の私の目から見ても、ドキドキするほどのセクシーなプロポーション。


 でも、もちろん見惚れている暇なんて無い。コイツはカインと一緒になって私を散々辱めた憎たらしい敵。それに、あまりにも強大な力を持つ恐ろしい悪魔。


 ブォン!!!


 ルシファーの手から赤い光が弾丸の様に放たれる。私は悪魔・ジャバーウォックの力で鏡を作り出す。鏡に映った光弾が実体化し、宙に放たれたソレはルシファーが放った光弾と激突。諸共にかき消えていく。


 あぁぁ・・・力を借りた代償に、太った竜・ジャバーウォックが胸の中で我が物顔で暴れ出す。胸を内側からチュウチュウと吸われる感覚に辱められて、今にも恥ずかしい声が口から漏れ出てしまいそう。

 そうでなくても私のカラダは悪魔達にそのほとんどを悪魔達に支配されていて、それを気力だけで必死に自分の意志で動かしているの。そんな私を、悪魔達は常に責め続ける。それはきっと肉体の主導権を私から奪い取る為ではなく、ただ私を責め嬲って愉しむためだけに行われる悍ましい行為・・・


 そんな苦しい思いをして得た力、九十六柱の悪魔の力。それを総動員しても、最強の悪魔ルシファー相手には互角に渡り合うのがやっと。


 こんな悪魔にどう勝てば・・・


「あら、戦いの最中に考え事かしら?」


 ルシファーの鋭い蹴りが私の脇腹をへし折ろうとする。


「くっ!」


 それを咄嗟に足でガードする。悪魔・ランダの力でパワーが上がった肉体でガードしたのに、ずっしりと重い衝撃が伝わってくる。


 なんて強い悪魔なのかしら。


 でも、この悪魔をこの身に封じたら、私はとてつもない力を得ることが出来る。そうすれば、残り三柱の悪魔。『殺人』『強姦』そしてあの得体の知れない悪魔・『メフィストフェレス』にも勝てるはず。


 パンドラの箱から放たれた百の悪魔をこの身に全て封印することが出来れば、私はこの世界を守ることが出来る。


 『養父』・黒薔薇漱石が愛したこの世界を・・・


「うふふふふふ・・・悪魔を封印するために悪魔に堕ちるなんて、随分な皮肉ね。」


「神になろうとして悪魔に堕ちたアナタに言われたくないわ。」


 剣で銃で拳で激しく戦いながら、私達は言葉を交わす。


「全ての悪魔を封じたとして、それでアナタはどうなるのかしら?」


 私を動揺させようと、ルシファーはしきりに声をかけてくる。


「アナタの知ったことではないわ!」


 百の悪魔を封じた後、私はその悪魔達に永遠に責めを受け続ける事になる。もし私がその責め苦に屈してしまって、魂を呑まれてしまった時、私は一柱の凶悪な悪魔となって、この世界に恐ろしい破滅を与える事になってしまう。


 だから私は・・・


「隙だらけよ!!!」


 赤い光で作られたルシファーの鋭い爪に、私は胸を引裂かれてしまう。


「うあぁあああああああああああああ!!!!」


 カラダをのけ反らせて悶える私に、最強の悪魔の爪が何度も振り下ろされる。


「うふふふふふふふ・・・どうしたの?もうされるがままじゃない。」


 嗤うルシファーの目の前で、私のカラダが陽炎のように消える。今まで攻撃していたのが、悪魔・ドグラマグラの力で作られた幻だと気が付いていない彼女の背中を、炎の槍で焼き貫く!!!


「うぐぁあああああああああっっっ!!!」


 ようやく浴びせる事が出来た一撃。ルシファーの痛みや苦しみが槍を通してビリビリと伝わってくる。


「くっ・・・うぐっ・・・さすが・・・カイン様の妹ね・・・なかなかやるじゃない。」


 彼女の目に、怒りの炎が揺らめいたのを見た私は、瞬時にその場から飛び退いた!


「キィイイイイイイイイイイイァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


 次の瞬間、ルシファーの口から恐ろしい咆哮が放たれた。ソレは声というよりも、音の爆弾。かなりの距離を取ったのに、意識を持っていかれそうなほどの衝撃で脳を揺さぶられてしまう。


 もしあのままそこにいたら今頃・・・


 背筋を冷たいモノが走る。


「うふふふふふふ・・・今ので仕留めたと思ったのに・・・」


 ゆらりと立ち上がり、妖艶に微笑む最強の敵。少しの油断も判断ミスも許されない戦い。それなのに・・・あぁぁぁ・・・カラダの中で悪魔が暴れ回って・・・私を激しく苦しめ続ける・・・


 だけど、


 負けるわけにはいかない。


「こっちこそ、さっきの槍で仕留めたと思ったのに。中々やるじゃない。」


 私も不敵な笑みを返す。


 勝負はまだ一進一退。このままなんとか互角に戦い続けて、どこかで勝機を見つける・・・


 そう思っていたのに・・・


・・・・・・・・・


・・・・・・


・・・


「はぁ・・・はぁ・・・くっ・・・」


 戦えば戦うほど、力を使えば使うほど、カラダの中の悪魔達からの責めが激しくなっていって・・・私はもう、立っているのが不思議なくらいだった。


「うふふふふふ・・・分かっているわよ。今もアナタの中で悪魔達が暴れていて、とても苦しいのよね。」


「う・・・くっ・・・これくらい・・・なんでも無いわ・・・」


 ダメ・・・挫けたらダメ・・・私は・・・負けるわけには・・・


「あらそう?じゃぁ、そろそろ本気出しても大丈夫かしらね。」


 ブロンドの悪魔が微笑みながら、恐ろしい事をサラリと言ってのけた。


 そんな・・・今まで本気じゃなかったと言うの?


 そんな・・・なんとか精一杯食らいついていたのに・・・


 絶望に目が眩みそうになる。それでも・・・


「なっ・・・アナタが何をしようとも・・・私は負けないわ。」


 私は背一杯、不敵な笑みを浮かべる。


 そうよ。私は、何をされても死ぬことも狂うことも無い。だから、どんなに責められても苦しいだけ。どんな地獄に堕とされようと、耐えていればいつか逆転のチャンスは訪れる。


 だから・・・


「そう・・・それじゃぁ、たっぷり愉しませてあげるわ。」


 ルシファーは妖しく微笑んで、そして


「ハレルヤ!」


 と叫んだ。


 次の瞬間、


 肺の中が・・・ドロリとしたナニカに満たされていく。全身の肌という肌から、刺すような痛みと共にナニカが侵食してくる・・・


「うぐぅ・・・うぁぁぁあああ・・・」


 得体の知れない苦しみに襲われ、胸を掻きむしる私に、


「アナタに触れた空気を毒に変わるようにしてあげたわ。愉しんで頂戴ね。」


 ルシファーの言葉が突き刺さる。


「ぅっ・・・くっ・・・あくっ・・・」


 私が触れた空気を毒に・・・?


 う・・・うぅぅ・・・大丈夫・・・動けなくなったわけじゃないの・・・


 苦しいのは・・・我慢すれば・・・大丈夫・・・だから・・・


「うふふふふふふ・・・私の能力は『祝福』と『命令』。今使ったのは『命令』。この世にある全てのモノを私の思い通りに造り替え、思い通りに動かすの。ほら、アナタのそのカラダをより淫らに感じるようにしてあげたでしょう?あの力よ。」


「くふっ・・・なんとも・・・傲慢な力ね・・・」


 私は精一杯の皮肉を放つ。そうしないと、絶望に心が折られてしまいそうだったから。


「私らしいエレガントな力でしょう?そしてもう一つの能力・・・『祝福』・・・その素晴らしい力をタップリ味わってちょうだい!」


 ルシファーのその言葉に続いて、


「グゲゲゲゲゲゲゲ・・・俺様・・・マリア・・・苦しめる・・・」


 私の周囲から、私を取り巻く空気全体からそう声が響く。


「はぐぁ・・・っぁああああ!!!」


 毒の空気が・・・あぁぁ・・・意志を持って私を嬲り始めた。口の中で、肺の中でウゾウゾと蠢きながら・・・肌を・・・ぅぁ・・・毒で汚しながら・・・弄るように・・・辱めるように・・・空気が・・・蠢いて・・・


「私の『祝福』はね、どんなモノにも魂を与える事が出来るの。そんなに長生きは出来ないけれど、遊んであげて頂戴。」


「た・・・魂を・・・そ・・・そんなの・・・うぁぁああああ・・・」


 ザク!・・・生きた空気が・・・あぁぁ・・・私の胸に爪を突きさして・・・んく・・・あぁぁ・・・毒が・・・胸の中に注入されていく・・・


「分るかしら。魂を与えてそれを従える。神にも等しい力だと思わない?」


「はぐっ!つぁ!あぁあああああああ!!!!」


 私はもう・・・カラダをのけ反らせながら、やられ放題にされることしか出来ない・・・そう・・・思っているんでしょうね・・・


「わ・・・私が触れる空気が・・・毒になるなら・・・」


 私は悪魔の身体能力をあげて、そして、


 ドン!


 力で床を蹴り、ルシファーに抱き着いた。


「何を考えてるの?こんなことしたって・・・」


 ただの悪あがきと思っているんでしょうね。ルシファーの顔色からも声からも、余裕しか感じられない。


 これから何をされるか知らないで・・・


「アンタにも・・・折角だから毒の味を愉しんでもらうわ。」


 私はそう告げると、ルシファーの唇に口づけをした。


 私の口内の毒化した空気が、ブロンドの悪魔の口内を、喉を、肺を犯していく。


「ふむぅうううううううううううう!!!!」


 私の腕の中で、ルシファーがバタバタと悶えている。


苦しいでしょう?分るわ。でもね、許してあげない!


と、思っていたのに・・・


 クチュ・・・クチュクチュ・・・


 ルシファーの舌が・・・あぁぁ・・・私の舌に絡みつく。


 散々私を凌辱して・・・弱いところを知り尽くしたその技巧で・・・トロトロに溶かされてしまう。


「んむぅ・・・んぁぁああああ・・・」


 あぁぁ・・・くぐもった喘ぎ声が漏れ出てしまう・・・ダメ・・・こんなの・・・私は必死に悪魔の口虐から逃れようとするけれど、頭を抑えられてそれもかなわない。


 チュク・・・ネト・・・チュパ・・・


 あぁぁ・・・口内を蹂躪される私のカラダを、生きた空気が弄って・・・あぁぁぁん・・・だ・・・ダメ・・・


―――おい、コイツの過去を見てみろよ―――


 秘密や罪を暴く蛇・・・悪魔・アンドロマリウスが囁きかけてくる。


 そ・・・そんな余裕無いの・・・


私はその声を無視しようとするけれど・・・


―――いいから見てみろって!―――


 蛇の声と共に、私の脳裏にある映像が浮かんでくる。


 蝋燭で照らされた薄暗い部屋の中に、アイツ・・・カインと、ルシファーの姿。


 そして聞こえてくる妖しい息遣い。漂う仄かに甘い香り。


 ギュムギュムと音を立てながら、革のボンテージに拘束されたルシファーの肉体が蠢いている。

 豊かな胸と・・・そしてアソコを・・・玩具で虐められながら、アンアンと喘いで、そして・・・


『あぁぁ・・・カイン様カイン様・・・私は・・・あぁぁ・・・私は・・・淫らなメス豚でございます・・・だからカイン様・・・私の・・・このイヤらしい変態マ○コを・・・アナタ様のおチ○ポでお仕置きしてください・・・』


 耳を塞ぎたくなるような卑猥な言葉が、最強の悪魔の口から迸る。


 これはなんなの?私は何を見せられているの?


―――分からねぇか?コイツはな、最強の悪魔でございと、お高く留まっていながら、実はとんだ淫乱肉奴隷だったてやつだ。カイン専用のペニスケースだな!―――


 蛇の悪魔がケラケラと笑う声がする。


―――なによ。アタシあんなのに憧れていたの?―――


―――幻滅だな。ありゃぁナイゼ―――


 暴かれたルシファーの秘密に、悪魔達がザワザワと騒ぎ出した・・・


 チュパ・・・散々いたぶった私の唇から、糸を引きながらルシファーの唇が離される。


「うふふふふ・・・お馬鹿さん。この神にも近い私が毒くらいで何とかなると思ったのかしら。」


 ルシファーは完全に勝ち誇った表情で私を見つめている。でも私には、さっき見たイヤらしく喘ぐその顔がどうしても浮かんでしまって、自然に笑みがこぼれてしまった。


「何よ。何がおかしいのよ。」


「はぁ・・・はぁ・・・神に近い・・・ですって?・・・悪いけど今の間に色々探らせてもらったわ・・・そういう・・・暴くのが得意な蛇が・・・いるの・・・だから・・・」


「だから?何が言いたいの?」


 彼女の顔に、焦りの色が少しだけ浮かんだ。


「みんな・・・私の中の悪魔達・・・みんなにもうバレたのよ・・・アナタの恥ずかしい姿・・・お兄・・・カインと・・・あんなことやって・・・ねぇ・・・最強の悪魔ルシファーさん・・・悪魔達がアナタの事をなんて呼んでるか教えてあげましょうか?・・・い・・・いん・・・淫乱肉ど・・・その・・・エッチな変態だって笑われているのよ・・・」


「言いたいのはそれだけかしら?」


―――おい、もっと言ってやれよ!―――


―――この変態ドMビッチに言ってやれ!―――


―――あんたなんかお尻フリフリしながらおねだりするのがお似合いだわって、言ってあげなさいよ!―――


 悪魔達がけしかけてくる。


 うぅぅ・・・そんな恥ずかしい言葉・・・口にしたくないんだけど・・・


「ど・・・どえ・・・ドМビッチのくせに調子に乗ってんじゃないわよ。アンタなんか、デカいケツをフリフリしてアンアン喘いでいるのがお似合いだわ!」


 言ってしまった・・・言ってやった・・・なんだか少しスッキリした。


 そして、


「分かったわ・・・アナタの中にいる悪魔ともども、粉みじんにしてあげる!!!」


 ルシファーが激昂した。恥辱と怒りに完全に呑まれてしまっている。初めて見せた魂の揺らぎ。私はそれを待っていた。


「やっと魂に隙が出来たわね!」


 私は悪魔・メドゥーサの力を解き放つ。目を見た者を石にしてしまうという理不尽に強いその能力は、強い精神力で簡単に防がれてしまう。


 だけど、どんなに精神力がある相手でも、魂を揺さぶってあげれば、その隙をつければ、どんなに強い相手でも問答無用で石に出来るの!!


 パキパキ・・・パキ・・・


 みるみるうちに、ルシファーの肉体が石化していく。


「あらあら、何かと思えば・・・アナタこの期に及んで何も分かっていないのね。たかだか石化の力だけで、この私がどうにかなると思っているの?」


 動揺を見せたのも一瞬。今まさに石になろうとしているのに、ルシファーは余裕の笑みを浮かべている。


「えぇ、勿論そんな事思っていないわ。」


 そうよね。こんな事で倒せるなら、そもそも最強の悪魔として君臨なんかできやしないわ。


 どんな悪魔の攻撃もアナタに通じない。ならこうするまでよ!!!


 私は内なる悪魔を全て解き放った。私達をズラリと囲む九十六の悪魔。


「一つ一つの力じゃ通用しなくても、一斉に攻撃されたらどうかしらね。」


 ルシファーの表情が曇る。総攻撃から逃れようと、ルシファーはその身にかけられた石化を振り払おうとする。


「逃がさないわ。」


 逃すわけがない。逃すわけにはいかない。私はギュウとルシファーの体を抱きしめた。私諸共に責めを受ければいい。私は死なないし壊れない。でもアナタは違うでしょう?


「一緒に地獄へ堕ちましょう。」


 私の言葉と共に始まる一斉攻撃。


 炎が吹雪が、毒が酸が、闇が光が爪が牙が触手が粘液が・・・


 ありとあらゆるこの世に存在しうる暴力が、恥辱が、悪意が襲ってくる。


「あぁぁああああああああああああああああっっっっ!!!!!」


 魂ごとすり潰されるような苦しみが私を襲う。


 すり潰されては強制的に回復させられて、カラダも心もその全てが、破壊と再生を何回も何回も同時に繰り返されていく。


 あぁぁ・・・でも・・・これで・・・ルシファーを倒すことが出来る・・・


 ハズだったのに・・・


・・・・・・・・・


・・・・・・


・・・


「あ・・・うぁ・・・ぁ・・・あぁぁ・・・」


 私を巻き込んだ一斉攻撃・・・その大仕事を終えた悪魔達が私の中でお祭り騒ぎを起こしている。血肉は貪られ、子宮は犯され、胸は凌辱の限りを尽くされている。


「んあ・・・あぁぁ・・・ぅぁ・・・あぁぁああ・・・」


 カラダの内側から巻き起こるこの苦しみも、ルシファーを倒したあとならば甘んじて受けられる。今までだって、悪魔と戦った後はいつもこんな風に苦しめられていた。


 だからこれしきの責め苦は、覚悟していた。


 それなのに・・・


「流石の私の少し焦ったわ。あの状況で、瞬間的に全ての悪魔に『命令』できるなんて思って無かったモノ・・・でもやれば出来るものね。私がさらに強くなる機会をくれて、礼を言うわ。ありがとう。」


 両膝を付いた私の頭を掴んで、無傷のルシファーが私を見下ろしている。


 ルシファーに『命令』された悪魔達は、私だけを責め苛めた。私は無駄に覚悟をし、そして無駄に耐えていただけなんだ・・・


 あぁぁ・・・心が敗北に染まりそうになる。


 ダメ・・・諦めてはダメなのに・・・どうしたらいいのか全く分からない。


「ゲゲゲゲゲ・・・マリア・・・俺様の責め・・・まだ・・・終わっていない・・・」


 生きた毒の空気が私に囁いて・・・そしてあぁぁ・・・また私のカラダを弄り始めた・・・


「あぐっ・・・んぁっ・・・ぅ・・・ぁぁあ・・・」


 悪魔との戦いで、私は常に勝ってきたわけでは無かった。むしろ敗北し、この身を凄まじい凌辱に曝されることの方が多かった。


 でもルシファーにだけには、この戦いだけには負けるわけにはいかない・・・なのに・・・


「そう言えばアナタ、私にとても酷いこと言ってくれたわよね。私とても傷ついたんだから。ちゃんとお仕置きをしないとね。」


 ルシファーはそう言うと、私のカラダを聖堂の中央部へと投げとばした。


 ドンと床に背中を叩きつけられて、


「うぁ・・・」


 私は弱々しく呻いてしまう。


「ハレルヤ!」


 ルシファーが叫び声と共に、赤い閃光を聖堂の屋根へと放つ。その光に照らされた部分は、最初から何も無かったみたいに、ぽっかりと穴が開いてしまった。


 丸い月がそこから覗いていた。


「あらぁ?晴れてるじゃないの。気が利かないわね。」


 ルシファーが不満げに呟くと、モクモクと黒い雲が覆って、夜空を闇に染めて、


 そして、豪雨が私に降り注いだ。


「あぁあああああ・・・うあぁああああああああ・・・!!!!」


 激しい雨に打たれる・・・それだけなのに・・・私は全身を激しい激痛に襲われてしまう。


 きっとルシファーによって、私のカラダはそう作り変えられてしまったのね・・・雨粒一つ受けるだけで、まるでナイフに刺されたみたいな痛みを受けてしまう。それが・・・こんな集中豪雨に襲われて・・・あぁぁあああ・・・


「ああぁぁ・・・うぁぁあああ・・・ぁぁあああああああ・・・・」


 そらから降り注ぎ続ける無数のナイフの嵐・・・濡れた肌を雨粒が伝い落ちる度に、ナイフで切られるような痛みを感じてしまう。刺されて斬られてズタボロにされているように感じてしまうのに・・・実際の私は雨に濡れているに過ぎない。


 なんて・・・なんて悍ましい拷問なの・・・


 ドゴオオオオオオオオオン!!!!!


 轟くような音と共に、私の胸に雷が落ちて来た。


「あ“がぁああああああああああああああ!!!!!」


 雨で耐え難い苦痛を受けていたカラダに・・・雷が・・・


 あぁぁ・・・頭の許容量を超えた痛みに・・・一瞬意識が途切れそうになる・・・


 だけど・・・


―――しょうがねぇなぁ。お前をもっと苦しめるようにしてやるよ―――


 悪魔達の声と共に、感覚がクリアになっていく。全てを乱暴に呑み込む様な感覚が、一つ一つクリアになっていく。


 あぁぁ・・・雷は私の胸に絶え間なく落ち続け、それは巨大な電撃の剣となって私を貫いている。それだけじゃない。電撃が生きた竜のようになって、私のカラダに絡みついている。

 電撃に責められている私に降り注ぐ雨は、変わらずに刺され切り刻まれる感覚を私に与え続けている。


「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲ・・・もっと虐めてあげるからねぇ~~~~・・・」


 生きた毒空気が・・・過剰なまでに敏感になった私を嬲り、ドロドロになりそうなまでの恥辱で私を苦しめる。


「うぁ・・・あぁあああああ・・・くああああああああああああ!!!!」


 苦しい・・・


 あぁぁ・・・苦しい以外の何も考えられない・・・


 でも耐えないと。


 どんな責めにだって耐えないと・・・


 耐えて・・・耐えて・・・『養父』が。黒薔薇漱石が愛したこの世界を・・・


 私が・・・守るの・・・


・・・・・・・・・


・・・・・・


・・・


 雨と雷、そして毒に責められ続けた私は今、


「んぁ・・・ぅぁ・・・あぁぁう・・・あぁぁああ・・・」


 無数の蔦にこの身を絡めとられている。両腕両足を真っすぐに伸ばした姿勢で、ルシファーに命令された蔦に、カラダを締め上げられ、養分を吸われ、辱められている。


 少しの刺激でも激痛に感じてしまうこのカラダを・・・カラダが粉々になりそうなほどの力で締め上げられ・・・ち・・・ちく・・・ッ・・・乳首から・・・あぁぁ・・・養分を吸われ・・・汗ばむ肌を蔦がサワサワと・・・凌辱するように・・・


 ぃぁぁぁ・・・


「うふふふふ・・・随分と苦しそうね・・・」


 ルシファーが微笑んで、私の下腹部を弄った。


「んくっ・・・はぅ・・・あぁああああん・・・」


 それだけで、まるで子宮をワサワサと撫でられているような劇感に襲われてしまう。


「可哀そうに。アナタのそのカラダ、快楽を苦痛に感じてしまうみたいね。」


「あぅ・・・あぁああん・・・んはぁぁ・・・」


 私はルシファーに弄ばれながら、熱い吐息を吐くことしか出来ない。


「だからね、私考えたの。どんな些細な刺激でも激痛を感じるアナタが、どんな些細な痛みでも絶頂してしまうほどに淫らになったら、どうなるかしらってね。」


 そ・・・そんな事になったら・・・私は絶え間ない絶頂地獄に堕とされて・・・あぁぁ・・・


「うふふふふふ・・・やめて欲しいの?でもね、だぁめ・・・」


 あぁぁ・・・ボウッと赤く光ったルシファーの手が、ズブズブとお腹に入り込んで・・・今まで感じたことも無い激痛が、全身を駆け巡る。


「ひぎぃっ・・・あ・・・あがっ・・・う“ぁ“ぁ“ぁ“・・・」


「うふふふ・・・感じるかしら・・・今ね、アナタの子宮を掴んでいるの。痛いでしょう?痛いわよね?いいわ。特別に握りつぶしてあげるから、激痛にその身を焼かれなさい。」


 そ・・・そんな・・・子宮を・・・や・・・やめ・・・


「あ“ぁ“ぁ“ぁ“・・・・う“ぁ“ぁ“ぁ“・・・・」


 あぁぁ・・・だめ・・・こんな痛み・・・耐えられない・・・耐えられるわけがない・・


―――身も心も全て俺らに託しなよ―――


 私の中で悪魔達が嗤う。


―――全ての苦痛から解放されて楽になれるぜ?悪魔に全てを委ねて、この世界を地獄の業火で包もうぜ―――


 そ・・・そんなこと・・・出来るワケないじゃない・・・


―――貴女ならそう言うと思ってたわ―――


―――では更なる責め苦を味わってくれたまえ―――


 更なる責め苦なんて・・・これ以上の苦しみなんてあり得ない・・・


 なんて・・・思っていたのに


「あぁう・・・んくはぁ・・・あぁぁああん・・・」


 握りしめられている子宮から突然性感が湧き出てきて、私は甘い声を上げてしまった。


 なんなの・・・何が起っているの?


 あぁぁあ・・・


「うふふふふふふ・・・子宮を握り潰されて痛いのに・・・痛いのに気持ちいでしょう?その気持ちいいのが、とっても苦しいのよね・・・うふふふふふふ・・・アナタのカラダ、大変な事になっちゃったわね~~~」


 そう言いながら興奮したのか、ルシファーの責めが、子宮を握る力が強くなっていく。


「あぁぁぁん・・・んあぁぁあああああ・・・ひぁぁああああ・・・・」


 今まで数えきれないくらい、悪魔に犯されてきた。穢されてきた。戦いの時だけじゃない。毎晩のように契約している悪魔、メフィストフェレスに血を吸われ、犯されている。だけど今受けている責めは、どんな性的な責めよりも強く激しく私を責め立てて・・・


「んふぁ・・・ひぁ・・・はぁん・・・あはぁあああん・・・」


 私が苦しむほどに、悶えるほどに、蔦の責めも激しくなっていく。圧迫も吸引も凌辱も激しくなるほどに、私はますます身悶え苦しんでしまう。恥辱のスパイラルに囚われて、私は無理矢理高みへと昇りつめさせられてしまう。


「ああぁん・・・ひぁ・・・あぁぁああああん・・・」


「苦しいでしょう?苦しいわよね。その意識を闇に溶かせばすぐに楽になれるのに・・・一柱の悪魔になって、衝動に身を任せれば楽になれるのに・・・ねぇマリア・・・早く楽になって、一緒にこの世界を滅ぼしましょうよ・・・あ、でもその前に、もう少しだけ愉しませてちょうだいね。」


 ズボリ・・・ルシファーの手がお腹から引き抜かれた。だけど散々虐められた私の子宮は、未だにズクズクと責めの余韻で私を責め続ける。


「あぅ・・・あぁぁ・・・ひぁ・・・あぁぁぁああ・・・」


 身悶える私の鼻先に、ルシファーが手を差し出した。その掌の上で、小さな円盤のようなモノがクルクルと回っている。


「これ、何だと思う?『祝福』と『命令』、私のこの二つの力で生み出した新しい宇宙。こことは別の世界よ。」


「う・・・うぁ・・・そ・・・そんな事が・・・」


 宇宙を・・・世界を生み出した・・・ですって?・・・あぁぁ・・・そんな・・・その力はまるで・・・


「出来るハズ無い・・・私もそう思っていたわ。でもやれば出来るモノね。うふふふふ・・・『創生』・・・神の力そのものよね。折角だから素晴らしい世界を作り上げたの。破壊と凌辱の衝動に満ちた世界・・・そうねぇ、この世界を私、『バベル』と名付けたわ。とても素敵な名前でしょう?」


 そんな・・・神の力を持つ相手に・・・私は・・・あぁぁ・・・どうしたら・・・


「くっ・・・くぁっ・・・それを・・・どうしようと・・・」


「つまらない事聞くのね・・・これはね、こうするに決まっているでしょう。」


 ズボリ!


 ルシファーが、『バベル』と名付けた宇宙ごと腕を私の胸に突っ込んだ。


「うぁ・・・あぁぁああああああん・・・」


「バベルをアナタの心臓に埋め込んであげたわ。どす黒い欲望が、穢れた魂が、心臓が一つ鼓動をする度にアナタの全身を駆け巡って、細胞の一つ一つを汚していくのよ。」


 悪意の塊のような宇宙から・・・止めどなく悪意が溢れ出てくる・・・私を凌辱し、責め苦しめようとする悪意が、恐ろしい勢いで溢れてくる。


 あぁぁ・・・この悪意・・・瘴気・・・これを・・・私は知っている・・・魂が覚えている・・・魂が思い出してしまう・・・


 私が私になる前の記憶・・・違う世界の違う私『達』の物語・・・


 その物語の最後に私の前に立ちはだかる強大な敵が纏う、濃く悍ましい瘴気。


 ソレと似た何かが、私の中から零れとしている。あぁぁぁ・・・百や二百の悪魔なんかよりもずっと恐ろしいモノが、私の中から放たれようとしている。


「んはぁあん・・・だめ・・・あぁぁああ・・・やめ・・・・いぁぁああ・・・」


 私は必死にその悪意をこの身にとどめようとする。カラダの中の悪魔の力を全て使って、その瘴気を封印しようとする。行き場を無くした瘴気が怒り狂ったようにカラダの中で暴れ回る。


「うふふふふふふ・・・今さら『やめて』ですって?・・・もうとっくに手遅れよ!!!」


 うぁぁ・・・悪意を抑えるのに精一杯なのに・・・ルシファーが私の心臓を握り潰そうとする。


 だめ・・・これ以上の責め苦を与えないで・・・堪えなくなったら・・・決壊してしまうから・・・


「うふふふふふふふふ・・・心臓を悪意の塊に侵食されるのはどんな感じかしら?痛いのかしら?苦しいのかしら?あ、でも今のアナタはどんなにされても気持ちいいのよね。うっかりしてたわ。でもね、何かに例える事は出来ると思うの。ねぇ、どんな感じなのかしら。教えて頂戴。ホラ・・・ホラホラ・・・教えてくれないと、心臓をいつまでも握りしめ続けるわよ。」


「んくぁぁああ・・・ちが・・・ちがう・・・の・・・だめ・・・なの・・・あぁぁああん・・・や・・・やめ・・・んあぁぁああああ・・・」


 あぁぁ・・・もう・・・堪えられない・・・私のカラダから、ボウッと黒い瘴気の炎が立ち上ってしまう。


「んふふふふふふ・・・いいわ・・・もっと聞かせて頂戴・・・『やめて』って言葉・・・聞けば聞くほど興奮しちゃうの・・・」


 ダメ・・・逃げて・・・この炎に呑まれたら・・・死ぬより酷い目にあってしまう・・・いくら敵のアナタでも・・・あぁぁ・・・そんな目にあわせるわけには・・・


 『ジャマ ヲ スルナ』


 バベルと名付けられた世界の悪意が、私に向けて言葉を発した。


『コワス オカス コロス スベテヲ スベテノ セカイヲ ダカラ ジャマ スルナ』


 悪意が憎悪になり、私の全てを壊していく・・・


「あぁあああああああああああ・・・!!!」


 もうダメ・・・黒い炎がメラメラと私のカラダから立ち上がるのを止められない。


 世界が・・・世界がこの炎に包まれてしまう。全てが呑まれてしまう。どうすれば・・・どうすればいいの・・・


―――簡単ですよ。バベルの悪意に、アナタの味をもっと知ってもらえればいいんですよ―――


 私の中の悪魔が囁く。


―――この世界のどんなモノを壊し凌辱するよりも、マリアちゃんを虐めて苦しめる方がずっと楽しいって気づいてもらえればいいんだよ―――


―――貴女がそれを望むのであれば、小生達はいくらでも力を貸しますが?―――


―――どうする?どうする?そんなことしたら、今よりももっともっと苦しい思いをすることになるよ―――


 そんなの・・・聞かれるまでも無いじゃない・・・私は・・・この世界を・・・


―――ケヒヒヒヒヒ・・・それじゃぁ、たっぷり可愛がってもらいな―――


 その言葉と共に、胸の先端が熱くなる。


「んぁああああああああ・・・っっ!!!」


―――胸に禍を引き寄せる紋を刻みました―――


―――マリアっちと言えばおっぱいだもんね。良かったね。たっぷり虐めてもらえるよ―――


 その言葉通りに・・・瘴気が・・・あぁぁ・・・私の胸を集中的に責めだして・・・


「あぅ・・・んぁ・・・あぁぁぁああっ・・・ぅんぁあああああああ・・・っっっ・・・」


 うぁぁぁ・・・胸への責めが激し過ぎて・・・もう・・・胸から受ける刺激以外の全てがなくなったみたいにすら思えてしまう。私の胸はせめられる為だけにあって、私は胸を責められる為だけの存在になってしまったみたいで・・・


『オォォオ!!! オカシテモ オカシテモ コワレナイ・・・スバラシイ・・・スバラシイ・・・』


 バベルの憎悪が歓喜の声を上げる。悪意の炎がこれ以上広がるのはなんとか防げたはず・・・私のカラダを代償にして・・・


『モット・・・モット ヨキモノ ニ モット コワシガイ ノ アルモノニ ツクリカエテ ヤロウ』


 うぁぁ・・・私のカラダを・・・これ以上どうする気なの・・・


 あ・・・あぁぁああ・・・私の両胸の中に・・・何かが生まれている・・・何かが作られている・・・


 これは・・・また新しい宇宙・・・新しい世界が・・・生まれて・・・


『オマエ ノ ムネ ニ ウチュウ ツクッタ ウツクシイ セカイ セイギ ノ セカイ』


 その声の言う通り、私の両の胸に造られた二つの宇宙からは、悪意を一切感じない。暖かさすら感じる。


『イマ カラ コノ ウツクシイ ウチュウ ヲ オカス コワス ケガス ナブル・・・』


 どういうこと・・・壊すために・・・苦しめる為だけに・・・世界を創ったの?


 そんな・・・なんて悍ましい事を・・・


『ウツクシイ セカイ ニ スム スベテ ノ ウツクシイ センシ ノ クルシミ ヲ アジワウ ガ イイ!!!』


 その声と共に、バベルが胸に造られた二つの宇宙に侵攻していく。


 美しい世界を蹂躪し、正義を嘲笑い、高潔な魂を地に堕としていく。


 その一つ一つの苦しみや痛み、悲しみや屈辱が伝わってくる。戦士達を甚振る剣撃や猛毒を、彼女達を犯す指や舌・・・肉棒を・・全部・・・全部胸で感じてしまう。


「ひぐぅっ・・・あ“かぁっっ!!!」


―――イヒヒヒヒヒ・・・だから警告したのに。馬鹿だなぁ―――


 苦しむ私を、悪魔達が嘲う。


―――堪えられるハズも無い苦しみを堪えなければならないなんてな。可哀そうだな―――


―――今さら楽になろうと思うなよ。ここで意識を手放せば、この世界は一気に崩壊してしまうぜ―――


 わ・・・分かってる・・・そんな事・・・あぁぁぁあ・・・でも・・・幾千幾万の正義のヒロインたちが壊されてしまう苦しみを・・・胸で感じてしまうの・・・こんなの・・・こんなの・・・


 う・・・でも・・・苦しいだけなら・・・どんなに苦しくても・・・苦しいだけなら・・・耐えれば・・・耐えれば・・・いいだけ・・・だから・・・


 炎に包まれて悶えている私に止めを刺す気なのか、カインが歩み寄って来る。


「か・・・カイン・・・う・・・うぁ・・・これ以上は・・・もう・・・」

 

 分かってカイン・・・もう・・・アナタと私の戦いどころの話じゃないの・・・この世界・・・この宇宙が・・・崩壊する瀬戸際なの・・・


 そんな事を知るハズも無いカインは、私の首を握り掴み、高く持ち上げた。


「ぐ・・・うぐ・・・うぅぅぅぅ・・・」


 うぁぁぁ・・・だめ・・・これ以上されると・・・耐えられなくなる・・・悪意が全部零れだして・・・全部・・・壊されてしまう・・・の・・・


「今全部ボクが壊してやるよ!!!!」


 あぁぁ・・・カインはそう叫ぶと、私の首を絞める手に力を入れた。


 その次の瞬間、




 パン!




 乾いた音がして、私は背中から床に叩きつけられた。


「あぐぅ・・・あぁぁああ・・・」


 ポカリと空いた天井の穴から、月が私を照らしていた。


「困りますねぇ。手前どもは箱の完成を心待ちにしているのに、それを邪魔されちゃぁ堪らないんですよ。」


 聞いたことのある声がする・・・この声の主は・・・確か・・・


「『強姦』と『殺人』・・・私が好きな戯曲に出てくる悪魔でしてね、名前もそこからつけさせて頂きました。」


 どこにいたのか、いつからいたのか・・・私と契約した悪魔、メフィストフェレスの声が聞こえる。


 その太った悪魔は何かしゃべりながら、悪意の炎に包まれている私をグイと持ち上げた。


「す・・・すいません・・・カイン様・・・」


 弱々しく呟くルシファーの声がする。


 あ・・・あぁぁ・・・何が起っているの?


 何も・・・分からない・・・


「『タイタスアンドロニカス』・・・それがその戯曲の名前です。私は彼らに名前を与えた後、もう一度その戯曲を読み返してみました。そしたら・・・驚きましたよ。そんな名前の悪魔なんて出てこなかったんです。私の思い違いでした。出てきたのは、『強姦』と『殺人』」という名の悪魔のふりをした人間でした。まぁ、今の私の状況を有言に示していて、ソレはソレでアリかなって、思ったんですよね。」


 淡々と話を続けるメフィストの声と、


「うあぁああああああああ・・・か・・・カイン・・・様・・・」


 ルシファーの悲痛な叫び・・・


「ともかく、これで九十七柱目。」


 メフィストがそう言いながら、何かを私の胸に埋め込んでくる。


 あぁぁ・・・これは・・・ルシファーの魂・・・彼女の凄まじい力が・・・私を蹂躪して・・・


「あぐぅ・・・あぁああああああっっっ!!!」


 私が苦しめば、それに呼応するかのようにバベルの責めも激しくなる。


 あ・・・あぁぁぁ・・・死ぬことも許されずに延々といたぶられ続ける幾万幾億の子達の苦しみが・・・全部・・・胸に・・・


「あがっ・・・んはぁっ・・・あはぁぁん・・・」


 あぁぁ・・・魂がかき消えてしまいそう・・・もう・・・私が私じゃなくなりそう・・・


 なのに・・・そんな私に向かって悪魔の魂が・・・『強姦』と『殺人』という名の二柱の魂がフヨフヨと飛んできて・・・胸の中に吸い込まれていくの・・・


「はぐぅ!うぁぁああ・・・あぁぁああああああああ!!!!!」


 私は背骨が折れそうなくらいにカラダをのけ反らせて悶えた。


 んぁ・・・あぁぁ・・・でも・・・残る悪魔は一柱・・・


 メフィストフェレス・・・あとは彼さえ何とかできれば・・・あとはもう・・・


 私は最後の悪魔の顔を見上げた。


 苦しい・・・苦しいけれど・・・それは、私の中に壮絶な力が渦巻いている証拠でもあるの。


 あと少し歯を食いしばって耐えれば・・・それで・・・終わるの・・・


 だから・・・

 

「これで九十九・・・そして、コイツの魂でようやく完成だ。マリア、よく頑張ってくれたね。全部君のおかげだよ。」


 ふと、突然メフィストフェレスという名の悪魔の雰囲気が変わった。


 私はこの感じを知っている。この香りを、温もりを・・・一緒に過ごした時間は短かったけれど・・・でも・・・大好きだったから・・・覚えていたの・・・でも・・・なんで今、メフィストからそれを感じるの?


 私を腕に抱えたまま、メフィストは自分の胸に手を突っ込んだ。醜く太った悪魔の肉体が、サラサラと音を立てずに崩れていく。


 その中から、痩せた初老の男性が現れた。


 『養父』だった。


 大好きだった『養父』・黒薔薇漱石だった。


「嘘・・・どうして・・・」


 力ない呟きが、私の口からこぼれ出た。


「どうしても何も・・・私はこの愛おしくてたまらないこの世界を、もっと愛せるように作り変えようとしているだけだよ。」


 そう言って、私の目の前で父・黒薔薇漱石は声を出さずに笑った。


「わた・・・私は・・・アナタが愛した・・・世界を・・・守ろうとして・・・なのにどうして・・・」


 あぁぁ・・・私は何のために、こんなに苦しい思いをしてまで戦ってきたの・・・?


「うん。良く知っているよ。ありがとうマリア。私が愛した世界を君も愛してくれて。」


 あぁぁ・・・私には分かる。家族だったから分る。今私を抱えているのは紛れもない『養父』だ。悪魔に魂を奪われたとか、操られているとか、そんな事は一切なく、彼が彼の意志で動いているんだ。


 あぁぁ・・・それならば・・・毎晩私を責め立てていたのも・・・メフィストでは無くて・・・彼の意志だと言うの・・・


 今まで私に悪戯してきた他の養父達とは違うと信じていたのに・・・そんな・・・そんな・・・


「あ・・・アンタは・・・悪魔になったふりをして・・・私のカラダを毎晩・・・貪って・・・」


 頭がごちゃごちゃになりそう・・・どんな責め苦も覚悟していた。どんな地獄が待っていようと構わないと思っていた。


 だって私は、全てが終わったら・・・悪魔を全て封印したら・・・


 私自身を、どこか絶対安全な場所に封印しようと思っていたから。


 永遠の地獄・・・終わらない恥辱・・・それは覚悟していた。


 そんな覚悟をしていたのに、


 なのに・・・こんなの・・・こんなの・・・


「あぁそうだよ。美味しかったよ。君の血は。た~~~~~っぷり味合わせてもらったよ。」


 漱石が、手にした黒い光球で私の首筋をなぞった。


「あぁぁあああ・・・」


 あぁぁ・・・こんな奴に感じて声を上げてしまうなんて・・・なんて屈辱なの・・・


「まぁ、親子三人で積もる話もあるけれど、言葉で説明するよりも、その目でしっかり見てくれたまえ。今から何が起るのかをね。」


 漱石はそう言うと、百柱目の悪魔の魂を私の胸に埋め込んで・・・


「あぁあああああああああっっっ・・・・」


 瞬間、私のカラダの中でいくつもの宇宙が生まれ、そして弾けた。


 何かが・・・何かが胸の中に入っていく・・・次から次へと・・・無数に・・・


 あぁぁ・・・それが人々の魂、人々の悪意だとすぐに分かった。


 嫉妬・怒り・欲情・傲慢・侮蔑・劣等感・・・様々な感情が容赦なく胸の中に入って行って、私のカラダをグチャグチャにしていく・・・


 感情は行為を伴って、私の魂をズタズタにしていく・・・暴行・凌辱・嘲笑・蹂躙・・・


 世界中・・・いえ・・・この宇宙全ての『悪』が私の中に入り込んでくる。


 全ての『悪』が、私を苦しめる・・・


「あぁあああああ・・・うあぁぁ・・・んぁぁあああああっっ!!!


「分かるかい?この光球の一つ一つが、この世界の人々の欲望・・・いや、魂そのものなんだよ。『嫉妬』『怒り』『傲慢』『強欲』・・・それら美しい欲望達が引き起こす『欺瞞』『窃盗』『蹂躙』『暴行』・・・などといった美しい罪達・・・人々が隠しているこれらの宝物たちが、今むき出しになってマリアの元へ集まっているんだよ。世界中からね。」


 遠くで漱石がカインに語る声が聞こえる。


「その身をパンドラの箱にしたマリアに向かって、むき出しの欲望が集まって来ているんだ。まるで磁石が鉄を引き寄せるようにね。ホラ、ご覧。この世界そのものも形を変えているようだね。どうやらこの世界を作っている物質そのものにも、人から漏れ出た欲望が染み込んでいたのかも知れないね。」


 ありとあらゆる全てが、秘めた悪意をむき出しにして私に降り注いでくる。


 あぁぁ・・・私を苦しめる為に・・・世界が崩壊していく・・・


 この身なんて、最初っからどうなっても構わなかった。


 悪魔に身を堕とそうが、永遠の拷問を受けようが、構わなかった。


 私はただ、私が愛した人が愛する世界を守りたかった。


 ただそれだけなのに・・・


 なんて・・・


 なんて残酷な結末なの・・・



「黒薔薇さん?」



 ふと、遠い記憶の中にある優しい声がした。


 崩壊していく世界の中にポツンと、場違いな青年がいた。


「君は?マリアのお友達かな?」


 この子は・・・あぁぁ・・・私が戦い始めたばかりの頃出会った男子・・・悪魔の誘惑に負けずに、毅然と自分を貫き通した、強くて優しい男の子。


 眩しかったから覚えている。


 そうだ・・・思い出した・・・


 私は・・・彼みたいな人がいる世界を・・・少し好きになったんだ。


 だから私は・・・私が好きな世界を守ろうとしたんだ・・・


「あ・・・アナタは・・・に・・・逃げて・・・」


 私は彼に声をかける。


 どこに逃げろというのか分からない。でも・・・世界は壊れてしまったけれど・・・彼がいれば・・・彼が彼でい続けるのなら・・・私は・・・


「友達といいますか・・・その・・・以前黒薔薇さんに助けてもらって・・・それで・・・もう一度会いたかったんです。どうしても、一言伝えたいことがあったので・・・だから、例え夢の中でも出会えてよかったです。」


 状況が呑み込めていないのか、彼はなんでも無いように漱石に話している。


 夢じゃないの・・・悪夢みたいだけど・・・夢じゃないの・・・だから・・・お願い・・・逃げ・・・て・・・


「ふむ・・・夢の中か・・・もう夢も現実の区別も何の意味もなさないからな。夢の中といえばそうとも言える。だから君も思うがままにその欲望を叶えるといい。」


「やっぱり夢なんだ・・・そうか・・・よかった・・・オジサン、失礼ですが見た所、今黒薔薇さんが苦しんでいるのはアナタのせいですね。」


 彼の瞳が、凛と強くきらめいた。


「だとしたら?」


 怒気を隠さない漱石を前に、彼は胸を張って言い放った。


「ケンジ・・・馬上ケンジです。その・・・現実ではとてもそんな勇気でないけれど、夢の中なら、全てが叶う夢の中なら何でもできる!ボクはボクが思うままに、黒薔薇マリアさんをアナタから救い出して見せます!!!」


 小さい・・・でも強い、最後の希望がそこにあった・・・



真約・黒のマリア 第十二話 『崩壊する世界』

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