XaiJu
土装番
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人間に紛れたモノを自分の物に 1話先行公開版

 現代よりもやや進んでいる未来の時代。  機械技術、ネットワーク技術、人工知能など、あらゆる電子技術が進歩し、より新たな世界へと前進し続けている時代。  そんな世でも未だ、人間のように動く機械人形、アンドロイドが世界中に広がっていく姿は未だ見えず、いずれその時代は来るのだろうか、という願望と共に時間が過ぎていった。  しかしそんな中、とある島国の中で、ある噂がネット上を中心に広まっていた。  それは「実は既にアンドロイドは人間社会の中に混ざり込んでおり、あまりにも人間にそっくりで見分けがつかないからバレていないだけ」というものである。  夢と希望のある話ではあるものの、基本的にはよくある荒唐無稽な噂話として処理され、真実として受け取る者はあまりいなかった。  現実にアンドロイドを発見したという者も、大抵合成やコラ画像、加工映像、ドッキリとして扱われ、閲覧数稼ぎの嘘と認定されていた。  だが、そんなアンドロイドの存在が本当だとしたら。それが手を伸ばしたくなるような見た目麗しい美女だとしたら、どんなことをしたくなるだろうか。  これは、とある会社を手中に収める人物が、噂と扱われた話から偶然にも真実にたどり着き、己の欲望のままにアンドロイド達を好き放題していく話である。 * * *  とある島国の首都にて本社を構える、新興のIT企業である「クアンティック」。  ネット上における広告事業から始まり、VRや各種アプリ事業によって支持を拡大し急成長。そこからさらにメディア展開、ゲーム事業、イベント事業など幅広く手がけられるほどの規模にまで成り、業界または国の代表のひとつとも言えるほどの企業へと成長した。  そんな「クアンティック」のリーダーとも言える人物である、創業者の倉田知憲。  年齢は未だ20代後半ながら、クアンティックの急成長を主導し、自らも技術者として動いている若きカリスマ経営者とも言われる人物。  そんな彼は、一城の主となり巨万の富を得た今、殆どの仕事は部下に任せつつ余裕を持ち、手を出しすぎないようにしつつ舵を取る役目に回っていた。  そのおかげで、彼の日常は今、順風満帆とも言える状態となっていた。  しかしある日、知憲はネット上に流れているある噂について、非常に気になり始めていた。   「…………人間に紛れて動くアンドロイド……?」  クアンティック本社に、社長室とはまた別に作られた知憲専用の個室。内装は典型的な社長室的イメージと変わらないが、いつでも様々な資料やデータに手を出せるようにライブラリーが備わっており、同時に権限として社内の様子をモニターから確認できるようになっている。  そんな自分の導線を第一に考えた部屋でネット上の様々な情報を漁っているうちに、彼はアンドロイドの存在に関する噂が偶然目に入った。 「…………アンドロイドか……そういえば、未だ革新的なものが開発されたって話もあんまり見ないな。確実に大きな進歩だって言える公表はあっても、世界が変わるレベルみたいなのが出てきてないような」    知憲は以前から、アンドロイドに関する事業や開発の情報にも触れていた。  上手く行けば、もしかしたら自社からの技術提供によって協力、または投資に踏み切れるかもしれない。というビジネス的理由と、純粋にアンドロイドという未来の象徴である存在に関する新たな情報があったりしないか、ということから、ニュースやプレスリリースなどから情報を集めたことがあった。  だが、ここ数十年の間に様々な新興技術が生まれ、これまでにもあったテクノロジーがより洗練されていく中、人型の機械に関する情報だけは、進歩はありつつも未だブレイクスルーが起きている様子が見られなかった。  そんな現状を知っているからこそ、知憲はその噂話に関して完全には信じることはできなかった。他の人々と同じように、隠れたアンドロイド関連の情報も合成やコラ画像などの嘘。現実的には荒唐無稽な都市伝説だと一応考えていた。 「まあ、嘘だろうなこれは…………けど、これが本当ならばいいんだが」  だが、頭でわかってはいても、これが本当であってほしいという気持ちも密かに抱いていた。  人間に紛れ込んで活動しているアンドロイドという存在は、やはり考えただけでワクワクするものがある。  何より彼は、実際にそういうものに出会ったら、ハッキングして色々手を出してみたいとも思っていた。邪な欲望ではあるが、それが一番本心に近いものでもあった。  知憲は、ちらっと社内の様子を移す監視カメラの映像から、社員の様子を眺めながら肘をつく。 「この中の誰かが、そのアンドロイドだったらいいんだかなあ……美女のロボットとか、是非とも使ってみたいよなあ……」  彼の視線は、何名かの女性社員を捉えていた。  クアンティック社内のある一部署内。  社長が監視カメラから人知れず覗いている中、一人の女性社員が、めざましい働きぶりを見せていた。 「三日前に集計が終わったユーザーアンケートの結果、これらの改善案が優先的に求められているという結果になりますけど、この中からだとどれが現実的に可能になりますか?」 「うーん、二番目は難しいが、三番目はすぐになんとかなりそうだな。一番は少々時間はかかるが、今月中には手を付けられるよ」 「わかりました。では、その旨を伝えておきますね。それと、以前新しい周辺機器を導入してほしいって話、つけておきましたよ。来週中には10台入れられると」  彼女の名前は森下麻衣。クアンティックに入社して二年目になる、23歳の女性社員である。  額の中心から左右に分けられた、艶めきを帯びる黒のミディアムヘアーに、常にキリッとした、凛々しく美しく大きな瞳に、鼻筋や輪郭、薄めの唇など全体的にシュッとした非常に美しくかつ、年齢よりもやや大人びたお姉さん的美貌。  身長も女性としては明らかに高い方で、スーツ姿が非常に似合うほどにスタイルが良く、はっきりと体型の線がわかる程の細身。  それでいて、スーツ越しにも浮き出る程に彼女の乳房はボリュームがあり、胸元のボタンが取れればすぐさま素肌が見えて谷間が晒されることは想像に難くない。  立ち振る舞いも常に凛としており、己に与えられた仕事は完璧にこなす。  仕事に真剣に打ち込んでいる様が外からも感じられるくらいに、いつも表情は鋭いが、彼女が力を抜いた時に見せる笑顔や微笑みはとても可愛く心射抜かれるほどだという。  自分の仕事だけでなく、周囲の同僚の面倒を見たり、別部署との橋渡しや交渉も、与えられればしっかりと遂行し結果を残す。  まさに彼女は、才色兼備という言葉をそのまま体現した女性であり、最高の人材と言える人物だった。 「どうだった?」 「一番目と三番目はなんとかなるみたい。二番目は難しいって言ってたからしばらく先だろうけど、これなら運営側の姿勢をきちんと示せる結果にはなりそうかな」 「よかった……これでまた苦情大量に来たら、逐一チェックするのはこっちだから気が滅入るとこだったわ」 「本当にね……次は館山さんが出してくれた新企画についての下準備をしないとね。あれだけ張り切ってた分、絶対に成功させたいって様子だったから、こっちも頑張らないと」 「今日も頑張るよねー森下さん。入社してからずっとじゃない? 大丈夫?」 「ええ! むしろ、やりがいのある仕事が出来てとっても楽しいもの! 色々仕事を任せてくれる分、私もその期待にしっかりと応えないと」              麻衣は入社して以降、常に勉強を欠かさず、社内でも行動し、一度たりとも手を抜くこともなく仕事に打ち込んで成果を出し続けている。  欠勤は一度もなく、体調が悪くなった様子はほぼ見られていない。  その働きぶりは、確実に同部署内でもトップクラスだと他の者達にも認められるほどで、皆からの信頼を強く得られていた。  それでいて話をしていても楽しい相手であり、嫌味がまったくない。  きっちりとした仕事人間でありつつも、対面での楽しさも持っているという、類まれなる人材だった。     「…………森下麻衣か……こういうアンドロイドがいたら……というか、この娘がアンドロイドだったらなあ」  そんな彼女の動き様を、社内の監視カメラから覗く知憲。   麻衣の容姿や立ち振る舞いは、彼にとってはかなりの好み寄りで、思わず今彼女が映っている映像を個別に保存しておきたいと思いそうになる程だった。  そんな考えの中、他の画面からも、彼の好みな女性社員を数名注目していく。  社長から見られていることなど知る由もないまま、彼女達はこれまで通りの仕事に集中し、身を投じている。  彼の視点から見ても、彼女達の働きぶりは素晴らしい。もっともっと貢献してもらいたいと思いつつも、そんな彼女達がアンドロイドだったらもっと良いのにとも感じていた。  すると、ふと知憲の脳裏に、あるアイデアが浮かんだ。   「…………ちょっとこの娘も含めて、部屋に招いて確認してみるか」  それは、彼が目をつけた女性社員を招き寄せ、一対一で軽く対話してみることである。  アンドロイドの存在が本当であってほしい。この美女達がアンドロイドであってほしい。それはそれとして、本音と本来の理由のカモフラージュとして仕事への姿勢やこれからの展望を直接聞いてみたい。  複数の理由がごちゃまぜになった結果、直接呼び寄せることにしたのだった。  だが、ただ対話するだけではない。その前に、部屋の中にある仕掛けを施していく。    「確か、隠れてるアンドロイドは特定の信号に弱いんだったか。それを発する為のデータは……ああ、公開されてるな。これはいい」  それは、アンドロイドのみに効力を発揮する信号を部屋の中に流し、強制的に受信させて意図的に誤作動を起こさせるというものである。  幸いにもそれを行うためのプログラムコードや必要機材はネット上に記載されており、それらの内容も一般にはより真実っぽさを増強させるためのジョークとして扱われている。  知憲は、どうか本当に存在していてほしい、そして本当だったなら、彼女達の誰かを自分の好きにしたいという「都市伝説を信じたい気持ち」と「好みな女性に対する強い邪な気持ち」が4:6の割合で渦巻いていた。  もし本当に、社内にアンドロイドがいたならば、どんなことをしてやろうか。一度解体とか、内部機構の確認とかしてみようか。  そんな妄想を働かせながら、知憲は一人、社内の誰もトップがそんなことをしているなどと考えないまま、欲望を叶えることを求めて動き始めたのだった。 * * *  知憲が欲望に身を任せた決断と実行を行ってから一週間と数日が経った後の金曜日。  彼は室内に少々の改造を施して準備を整え、少々職権乱用気味に監視カメラから目についた女性社員を三人選び、時間差で一人ずつ呼び寄せた。  事前に社員には時間を指定し、被らないように調整しておく。本来ならば、社内にいる女性社員全体に試したいところだが、装置の効力がどれほどなのかわからず、そもそもアンドロイドの存在すら確定していないため、このような形式を取ったのだった。  いわば、この中にアンドロイドがいたらいいなー程度のものである。元々がダメ元なため、こういう形式にならざるを得なかった。 「失礼します」  三回のノックの後、最初に入ってきたのは、社内でも美人だと評判の斉藤陽子という女性社員。  ひとつひとつの所作がとても丁寧で美しく、まさにお手本のような身姿は思わず見惚れるものがある。 「よく来てくれた。早速だが……少し質問しておきたいことがあってね」 「はい、なんでしょうか?」 「………………斉藤陽子さん、あなたは今の現場や社内に対する不満はあるかな? 些細なことでもいいし、社内で言いにくいことでもいい。是非ともその場にいる者からの声として聞かせてほしい」 「…………少し考える時間をください。この質問を想定していませんでしたので……」  知憲は、質問の最中や陽子が喋っている間、彼女の挙動や言動に何かしらの不審点がないかどうかをくまなく観察した。  だが、頭頂部から足先までくまなく確認しても、不自然な動きは何一つ見られなかった。  受け答えも淀みなくしっかりしており、きちんと質問に対して自分なりの中身ある回答を提示していた。 (これは間違いなく違いそうだな……誤作動起こしてる様子もないし、人間だろうな)  この時点で彼の個人面接は目的を達成しており、もう彼女から聞くことも確認することも何もないが、本来の理由を明かしていない以上、きちんと表面上のやり取りと完遂せねば怪しまれるとわかっている知憲は、社員からの意見にしっかり耳を傾けてメモしつつ、今後に活かす為の資料にした。 「ありがとう、とても参考になったよ。時間を取らせて済まなかった」 「いえ、こちらこそこのような機会を設けてくださってありがとうございます。では、失礼します」  陽子は、専用室から静かに立ち去る瞬間まで、人間らしい立ち振る舞いを保ち続けていた。 「外れか……まあ、次だな」  改めて一人になった後、知憲は露骨にがっかりした表情で溜息をつきながら、会話内容をそれぞれ整理して書き取り、今後の改善案への参考資料として取りまとめた。  ダメで元々なのだからと自分に言い聞かせつつ、少々の時間を置いてから、次の女性社員を呼び寄せた。 「今の部門や周囲から、何かこれを改善してほしいとか、この機材や設備、ハードやソフトが必要だとか、そういう不満や要望はないかな?」 「はい、最近耳にしたのは……」  だが、次に呼び寄せた秋山弥生という女性社員も、不審な点のないとても人間らしいキビキビとした受け答えで、どこからどう見ても誤作動を起こしている様子はなかった。  最初から最後まで、生身の人間だということを意図せず証明して、陽子と同じように去っていった。 「ダメかぁ……まあそうだよな、仕方ないか」  メモを取りまとめ、またしてもアンドロイドではなかったことの方を悔しがる知憲。  ダメ元だとわかっていても、そう言い聞かせても、やはりがっかりはしてしまう。アンドロイドではないという残念さと、あんな魅力的な美女を好きにできないという俗な諦念が渦巻いていく。  結局都市伝説でしかない。そもそも自分の好みで選んだ、機械である根拠のないまま選んだ女性社員達なのにそこから都合よく見つかるわけもない。  そんな気持ちが頭の中を支配する中で、彼は目をつけた最後の一人である森下麻衣を後で呼ぶことにした。 「失礼します」  昼休憩の時間が終了してから一時間程経過した頃。社長から呼ばれているという伝言から、麻衣が彼のいる部屋へとやってきた。  それまでの二人と同様にマナーや所作も完璧で、見事な立ち振る舞いを披露している。  扉を閉め、ドアから少しだけ進んだところで立ち止まり、しっかりと社長の顔を視線で釘差している。 「よく来てくれた。では、私が君を呼んだ理由だが……」  今回もおそらく人間だとわかって終わるだろう。そりゃそうだ。と、既に諦めた様子で、これまでと同様に質問をしながら彼女の姿を凝視し始める。  しかし、今回だけは、それまでの二人とは明らかに違う様子が表れていた。 「君の視点から見て、周囲や社内の雰囲気は…………」  知憲が喋っている間、陽子や弥生と変わらずじっと質問に耳を傾けている。  だが、自然に降ろされている彼女の手は、なぜか時折小さな痙攣を起こしていた。  まるで何かに反応しているかのように、右人差し指、薬指、小指、また薬指、左中指と、ランダムに跳ね動いている。  唇はきゅっと閉じられ、真剣さが伝わってくる表情の形成に一役買っているが、時折左側、または右側半分が小さく震えながら開きかけ、何かもぞもぞしているような雰囲気がある。  仕事ぶりからも、一度も眠たそうな雰囲気や動きは見せたことがないのに、時折目蓋がひくついており、同時に彼女の眼球は小刻みに震え、焦点が合っていないように見えた。 「…………どうしマ、したか?」  麻衣の挙動の変化に思わず言葉が止まってしまった社長に、彼女の方から社長に声をかける。  だが、その言葉には不自然な隙間が生まれたり、人間の声の裏返り方とは明らかに違う、まるで無理やりピッチを上げられた電子音声のような声が混ざっていた。 「……いや、なんでもない。周囲や社内の雰囲気はどうなっているのかと思ってね。こういうことは、事前に答えを用意してもらうよりも、いきなり聞いたほうが本音が聞けると思ったんだ」 「……………………そういうコとでしたか。私の周囲はとてモ良い雰囲気で、すね。皆さんと一丸となっ……てがんばっていますよ。不満がアる、とすれば……」  知憲の発言が終わってからのレスポンスも明らかに遅く、質問を聞いてから数秒経ってからようやく麻衣は自ら喋り始めた。  その間、答えを考えているような様子でもなく、まるで電動のお人形の玩具のような雰囲気が漏れ出していた。  それからの発言も、内容はちゃんとしているものの、喋れば喋れる程彼女から出てきた違和感が更に強くなっていく。  知憲はこれまでの二人の時よりも、一歩間違えれば血眼と言われそうなくらいに彼女に釘付けになり、じっとその姿を目に焼き付けた。 「…………これくらイですかね」 「わかった、貴重な意見をありがとう。ああそれと、君には退勤後にもう一度この部屋に来てもらいたい。他の社員が帰宅した間に、確かめておきたいことがあるんだ。もちろん、退勤処理はしなくていいからその分の報酬は改めて出させてもらおう」 「………………かしこまりマした。では、退勤後に、あらタめてこちらに向かいますね………………失礼します」  最初の入室時よりも、明らかに一歩一歩が遅くなっている歩きと、関節が錆びているような腕の動きで、麻衣は知憲の部屋から出て去っていった。      それからオフィスの廊下に戻ると、麻衣の挙動はみるみるうちに回復し、それまで見られた異様な動作の不調はまるで何事もなかったかのように消滅。振る舞いも元の人間らしさを取り戻していった。  彼女自身は、己の状態になんら違和感を抱いている様子は見られず、ずっといつも通りだと思いこんでいるようだった。 「…………ちょっとドキドキしたけど、何か通告されるようなことじゃなくてよかったぁ……さ、早く仕事に戻らないと。ああそうだ、定時の後だったっけ……またこっちに来るのって。ちゃんと覚えておかないと。まあ、軽い残業と思えばいいよね」  不自然な挙動に一切自分で気づいていない彼女は、少しだけ知憲に対しての評価を上げながら、改めて本来の仕事へと戻っていった。   その一方で、確かに麻衣の異様な挙動をこの目で目撃した知憲は、じっと机に両肘をついて、手の甲に顎をおきながら、ずっとついさっきまでの光景を脳内整理していた。 「あの様子は絶対に見間違いじゃない。明らかに誤作動を起こしていた。生じる挙動も、確かにアレを作る時に記載されていたものだった。ロボットのフリや効いているフリなどする理由もないしそもそもこういうことをしているなんて知っているわけもない。なら…………」  自分で言葉にして整理し、まとめ上げていくごとに気分が徐々に高揚していく。  足が震え、思わず両手が握り拳になり、どうしても笑みが溢れてくる。  そして、防音設備のしっかりしている部屋の中で、彼は思いっきり両腕を天井に突き上げた。 「やったああああ!! 見つかったぞおおおおーー!! 本当だったんだ! 本当にいたんだ!! しかもあんなド好みな人が!!」  まるで天からの祝福を受けたような気分。だがこんな喜んでばかりではいられない。  次にやることはもう決まっている。知憲は早速、事前に用意しておいた、アンドロイドを自分の思い通りにするための機材の最終調整に入った。  彼は市販の携帯端末に改造を施し、有線接続によってハッキングを行う携帯ツールへと生まれ変わらせた。  アンドロイドの仕様が全くわからないため、今回の誤作動を起こすための仕掛けが効いたとしても無線操作が可能なのかどうかはわからない。  その為、有線接続を用いて確実に麻衣へハッキングを仕掛け、それから様々な実験を行おうと画策していた。 「しくじるわけにはいかないからな……さあ早く終業時間になれ…………いやそういうわけにもいかないか利益的にも……いやでもやっぱり早く……」      頭を回転させるように思っていることを口から垂れ流しながら手を動かし、これからの個人的な欲望を満たすための準備に精を出す知憲。  そんな姿を、同じビルで動いている他の人物誰一人として気づくものはいなかった。    * * *    定時になり、他の社員が次々とオフィスを出て去っていく中、麻衣は社長から与えられた指示通りに彼の個室へと向かっていった。 『あれ、今日はそのまま帰らないの?』 『うん、ちょっとこの後社長に呼ばれてて。なんでも、色々と社内状況について改めて質問したいことがあるって』 『えーそれって危なくない? なんかヤバいこととかされるんじゃないの?』 『よく聞くよねー、弱み握ってバラされたくなければ、俺の為に〜とか!』 『もう、そんなことないったら。さっきも呼ばれたときにそういう話があったから、その続きなんだと思う』 『そういえば、前に社長と直接話したって人が別部署にいるって聞いたな。相談したらきちんとその通りに改善してくれたとか』 『うち結構そういうとこちゃんとしてるよねー』  途中、帰ろうとしていた同僚との軽い雑談を交わしたことで、こんなタイミングで話をしようと言ってくる社長相手への不信感がある程度拭われた麻衣。  これからの未来も見据えて、会社をより良くしていこうという気概を持ちながら、彼女は再び、今日訪れた知憲の部屋へと入っていった。 「失礼します」 「ああ、待ってたよ森下さん」  ガラス窓から見えるビル街の向こうでは、夕焼けの陽がゆっくりと沈んでいる。  そんな綺麗なムードが漂う中で、知憲はレザーチェアから立ち上がり、ポケットにケーブル付きの携帯端末を入れたまま近づいてきた。 「そこまで時間を取らせるわけにもいかないからね、すぐに本題に入ろう」 「は、はい!」  最初に来た時は、急な質問で最初は少し詰まっていたが、今回は頭の中で様々な回答を色んな角度から用意してきた。社長からどんな質問をされても問題ない。  そう麻衣は思っていたが、彼からぶつけられた質問は、予想の中に入っていない、突拍子もないものだった。 「では…………森下さんはアンドロイドを知っているかな?」 「えっ? まあ、はい……所謂人型の機械ですよね?」 「よろしい。では、こういう都市伝説は聞いたことあるかな? 現在この人間社会にアンドロイドが混ざっているらしいというのは」                  「えっと……冗談や話題としてなら、耳に入れたことはありますね」  あくまで自身は当事者ではない、聞いたことあるようなないような、というレベルの認識で答える麻衣。  つまり彼女は、自分に対してその都市伝説の当人であるというような認識もなく、そうだという可能性すら抱いていない。純然たる人間だと思っているのだろうと推測した。 「なるほどな。そのアンドロイドは、自分を人間だと思い込んで、己の身体が機械で出来ているという認識すらないらしい。だから、自分がそうだとしてもしらばっくれることができるということだな」 「あの…………なんの話でしょうか? いまいち話が掴めなくて」  戸惑いの表情を見せる麻衣に、知憲はぐいっと身体を近づけ、スーツのポケットに左手を入れながら、じわじわと追い詰めるように話していく。 「君がそうなんじゃないかな、という話だよ。自分を人間だと思いこんでいるが、中身はただの機械なんじゃないのかい?」  麻衣は、何を言っているのかわけがわからない、という反応が露骨に表れたような呆気に取られた表情を見せた。  意味がわからないという気持ちを無言ながらはっきり出しながら、社長からの言葉から数秒後にようやく反論を行った、 「あの……何を言っているんですか。私は正真正銘の人間ですし、アンドロイドが紛れてるなんてただの都市伝説ですよ? 個人としてそのようなロマンを追い求めるのは良いと思うんですけど、部下の社員に対してそのような願望をぶつけるのは、止めたほうが良いのではと……」  口調はやんわりとしつつも、はっきりとした否定と拒絶の意見をぶつける麻衣。  だが、人間のフリをしているのだからそのような反応は想定済み。強引にやろうと抵抗するのはわかっている。  そこで、知憲はポケットの中の左手をもぞもぞと動かした。           「そっちこそ何を言っている。そのような疑惑がある者にたいしては、それ相応の対応をするのが当然だろう。どんな目的があって、うちのデータを盗み出さないとも限らないからな」 「何を言っているんですか! 私は人間で、ですシ、そのよ、ウなこと……は、したこ、とありま、せん!」  麻衣は根も葉もないことで突然怒られたことに強い不快感を抱き、真っ向から反論をした。  しかしその最中、彼女の声は不自然な切れ目と奇妙なピッチの変化に見舞われ、同時に怒りを露わにした表情のまま、眼球が震え始めた。  この時、知憲は三人の女性社員を呼び寄せた際に、アンドロイドを暴き出すために使用した信号を再度発信させた。  それによって、再び動作に異常が発生し始めた麻衣。彼女は、人間としての尊厳を毀損するような失礼なことを言い出した社長に向かって声を上げているが、当の本人は、その言動の間に彼女の背後に回り込み、良い香りのする髪の隙間を掻き分けながら、頭皮の部分をじっくりと確認し始めた。 「んー……ぱっと見では確かに全くわからないな。髪に隠れてるし」  知憲が探しているのは、アンドロイドに備わっているらしい後頭部カバーを開放する為の引っ掛けの部分。  アンドロイド達は、背中の小さな皮膚カバーの下に充電端子が備わり、電子頭脳にケーブル等を接続する為の端子が実装されているらしい。  人間社会の中ではとても隠しやすい箇所であり、わかっている者が漁るでもしなければ、まず見つけられないだろう。  麻衣が何もない場所に向かって怒りの声を上げている中、頭頂部を中心にサラサラとした感触の髪を掻き分け探していく。  そしてついに彼は、麻衣の頭部に、人間には絶対に存在しない不自然な取っ掛かりを見つけた。 「これか……」  知憲は思わず悪い笑みをこぼしながら、そこに爪を引っ掛け、左手で頭を押さえながら思いっきり力を入れる。  後頭部カバーを開けるには、アンドロイド自らが開けるか、命令や遠隔操作によって開けるか、無理矢理こじ開けるかの三種類の方法がある。  現在、現実的に可能なのはその中でも三番目の強引な方法しかない。  麻衣の頭部に対してのやり方は、もはやモノ扱いも同然。知憲は思いっきり取っ掛かり部分に力を集中させた。  すると、彼女の後頭部は、魅力的な髪と道具を扱うときに聞こえたら嫌な破損音に近い音を鳴らし、蓋のように開いてしまった。  その奥に詰まっていたのは、人間の女性の頭部サイズに収められた、金属部品と電子部品の集合体。  本来は生身の脳が入っているはずの場所に、血の通っていない無機物の塊が詰め込まれていた。人間ならば痛がり泣き叫ぶどころではない、後頭部をこじ開けられているという行為が行われている最中なのに、それをされている本人は誰もいない方向へおかしくなった音声で奇妙な要求をする社長への反論を続けている。  これで完全に確定した。森下麻衣という女性は本来人間社会に存在しない。知らないどこかで秘密裏に造られた、人間のフリをしたアンドロイドなのだ。 「ありがとう、現実にいてくれて……やはり信じてよかった……さて」  目の前に広がる光景は紛れもない現実。それが、目の前の世界が明るくなったように嬉しい。  そしてここからが本題。知憲は信号の発信装置をOFFにしつつ携帯端末を取り出し、それに繋がったケーブルを摘み、電子頭脳内に備わった接続端子へ差し込んだ。            「だいタ、い、そんなここ、こトのタ……めに私をここに呼んダんです、か? そんな変な……あれ? 社長はどk…………新しいデバイスが接続されました」  信号が切れた後、麻衣の動作はようやく元通りになり、動作の異常や音声の不具合は消失した。  と同時に、視界内にいたはずの社長の姿を見失い、突然いなくなった彼がどこにいるのか探そうとして振り返りかけた。  しかし、電子頭脳と携帯端末が繋げられた瞬間、彼女の声と動作はぴたっ、と時間が止まったように静止。そして、先程まで見せていた感情的な声から、まるで受付嬢のように丁寧で、感情の感じられないシステムメッセージが口から発された。 「デバイスを確認中です。デバイスの安全性をか、確に、か、かか、確認、確認し、しま、し、しままま、ししししし…………」  知憲は接続を確認した直後、早速麻衣へのハッキングを試みた。  存在そのものの秘匿性はかなり高いが、一度やってみるとセキュリティは思ったよりも緩く、ハッキングは見事に成功した。  振り返る途中の動作で固まったまま、先程までの誤作動とはまた違った性質の狂い方を起こす麻衣。  そして、知憲は彼女のあらゆるシステム上の権限を掌握。たとえどれだけ人間らしく振る舞っていても、携帯端末からの操作によって自由に動かせ、さらには森下麻衣という存在の内部データも覗けるようになった。  大きな目的のひとつを達成した彼は、ケーブルを引き抜いてから改めて頭を掴み、ガチッ、と派手な音を鳴らして後頭部カバーを閉じた。  そして、内部システムが復旧を行っている間に彼女の正面に戻り、何事もなかったかのような顔を見せた。 「…………問題が解決されました。擬似人格の動作を再開します…………あれ、いつの間に目の前に……?」 「私はさっきから君の目の前にいたが」  麻衣としての動作に戻った彼女は、振り返る直前から認識が再開されている。  一瞬でいなくなり、また一瞬にして表れたように感じている彼女は、何がどうなっているんだと思考しつつも、改めて自分が人間であるという証明と反論をしようとした。 「……とにかく、私は人間です。社長が思っているような存在ではありませんよ」 「なら聞くが、過去の思い出はちゃんとあるのか?」 「もちろんですよ! 私は産まれてから両親のもとで過ごして、それから大学を卒業してこちらに入社したんですから」  それを利用して、知憲は彼女を使ったちょっとした「遊び」を始めることにした。  彼は、麻衣の過去についての質問を順次ぶつけていく。彼女はそれに、毅然とした態度で応えて行く。 「じゃあ、小学校の頃の思い出はあるんだろうな? 仲良くしていた友達は」 「もちろんですよ。私は小学生の頃は、結夏って子と特に仲良くしてて、他にも勇気くんや真由美ちゃんとも仲良くしてました。よく登下校でも一緒になってましたし、昼休みも一緒に遊んだりしてました」  麻衣は、自身が人間であることを証明するべく、妙に、不自然に詳しく過去の自分を惜しげもなく説明する。 「その結夏という子とはどんな思い出がある?」 「結夏ちゃんはいつも元気で可愛くて、私といつもお話したり、大好きな動画の話をしたり、写真の見せ合いっこをしてました」 「へえ……では、小学四年生の頃、10月21日の結夏との思い出はないか?」 「小学四年生の時の、10月21日の結夏との思い出は…………小学四年生の時、10月21日の結夏との思い出は…………ごめんなさい、覚えていません」  適当な時期を細かく指定。引き出される思い出からどんどん追求し、より彼女の記憶データの中身を突き詰めていく。  どうやら、彼女は質問に対して非常に従順であり、どのような質問に対しても可能な限り答えようとするようだ。  必要ないような前提条件に対してもその通りに受け入れ、それに合致するような情報や過去のデータを検索してなんとか答えようとする。どれだけ漁っても見つからなければ、そのデータは無かったと報告をする。  彼女はそういう仕様なのだと予測すると、知憲はとても意地悪な質問をぶつける。    「じゃあ、中学2年生の6月18日の時にあった思い出を言ってみろ。ただし、思い出すまでずっと考え続けろ」    「中学2年生の6月18日の時にあった思い出は…………中学2年生の6月18日の時にあった思い出は…………」  今度は「思い出せなかった」という検索結果の逃げ道を潰す命令を加えて、再度見つかるわけのない記憶を引き出させようとした。  案の定「思い出せませんでした」という出力結果を封じられた麻衣は、指定された時期に存在する記憶を引き出すまで、何度も何度も自身のストレージ内に存在する記憶データを検索し始めた。  どうやら人間に隠れたアンドロイドの中には、話題を振られた時のために個々の大まかな過去の記憶が設定されているらしい。  だが、このように徹底的な追求がされ始めるとボロが出始め、簡単な命令を加えることで非人間的な姿を曝け出してしまうようだ。結夏も、勇気も、真由美も、記憶データの中だけの存在なのだろう。  この様子を見るに、おそらくは彼女自身のアイデンティティに矛盾した質問をぶつけても、同様の状態に陥るだろう。 「中学2年生の6月18日の時にあった思い出は…………中学2年生の6月18日の、時に、時にあったお、思い出は…………中学2年、せ、生の6月、6月18日のと、時に、あった思い出は…………」  存在しない回答を探して、何度も何度も同じ問答を繰り返し、ずっと考えているような視線と仕草を続けている麻衣。  その間、彼女の周囲を歩いたり、目の前で手を振っても反応する様子はない。  次第に麻衣の振る舞いは、手が震え、先程と同じように音声に異常が発生し、視線がブレ始める。  思考をループさせ続けられていることで負荷がかかったからか、彼女の後頭部に手を触れてみると、明らかに人間の体温以上の熱さが伝わってきた。  このままではおそらく壊れてしまうだろうが、その姿は是非とも見てみたい。しかし、さすがにまだ彼女達アンドロイドのことをまだ詳しく理解していない。  なぜ人間達に紛れているのか、破損した場合どうしているのか、どのような機能が備わっているのか。まだまだ知りたいこと、知らなければならないことはたくさんある。  何より、ここで壊れてどうにもならないとなってしまったら、彼女は自社の社員であるため、予想外の事態に陥る可能性が高い。  ここは、機械的な側面を楽しむに留めて、後々楽しんでいこうと、知憲は探りを入れる目的も込めて質問の上書きをすることにした。   「おい麻衣、もうその思い出は振り返らなくていい。だが、俺の質問に答えてもらおう。お前のプロフィールを喋ってみろ」    「中学2ね、年生のろく、6が、月……18日の時にあ…………わかり、ま、した。私のな、名前は森下麻衣で、です。年齢は23歳。年齢は23歳。性別は、は女性。現在、わ、わた、私は株式会社ク……アンティックに、在籍し、してい、しています私は。身長は、169センチ。たた、体重は……」  女性ならば絶対に言いたくならないような身長体重やスリーサイズ、血液型までつらつらと喋り始める麻衣。  通常時ならば、このような質問に答えることも人間らしい態度や表情で、パターンに応じて色んな断り方を行うのだろうが、電子頭脳に負荷がかかり擬似人格の動作が正常でなくなると、センシティブ質問にも簡単に答えてしまうようになるらしい。   「……で、そのプロフィールは全て本当か? 全部設定じゃないのか?」 「はい、わ、私のプロフィールは、私の、は一部付与されたせせ、設定が、sss設定が存在してるんです。より、にに人間らしいプロフィールを演しし出するためですね」  そして、あっさりと自分の持つプロフィールに一部嘘が混ざっていることも認めた。 「どこで製造された? それで本当はいつ製造された?」     「私は、い今、現在、今から三年前の7月10日に製造されま、ましたね。ごご、ごめんなさ、なさい社長。私は、私は製造、製造場所はひ、秘匿事項にな、なって、設定されてるので、言えませ、ません」  つまり、森下麻衣という人物は、設定年齢23歳となっているが、本来は3歳程度でしかない。  製造場所は厳重にプロテクトがかけられているようだが、逆に言えば内部データにその内容は存在している。それがわかれば充分だと、知憲は考えた。  チラッと腕時計を確認すると、夢中になってしまったからか、麻衣が改めてやってきてから既に1時間近く経過していた。  このまま彼女を拘束し続けるわけにもいかない。次はまた別の機会に、さらなる余裕を持って楽しむことにしようとキリをつけた知憲は、最後の楽しみとして、先程強引に得た権限を行使し携帯端末からどのような命令にも従うように設定を変更する。 「じゃあ最後に……麻衣、この場で下半身を出してオナニーしろ」 「…………わかりました」  負荷が収まり、少しずつ正常な動作を取り戻していっている麻衣の電子頭脳。もう少し時間が経てば、先程のような質問にも人間だという設定の元で、まともに答えなくなるだろう。  だが、それとは関係なしに、麻衣は今与えられた指示は、絶対に実行しなければいけないと認識していた。  ベルトを外し、下着を晒し、それも降ろして無毛で艶々とした美しい女性器を晒す。  外性器の周囲には、間近で凝視しないとわからない程にうっすらとした継ぎ目が走っており、着脱可能であることを示していた。      麻衣は与えられた命令に従って、立ったままその場で陰核や膣肉を指で弄り始めた。 「あっ……あんっ……ああ、あ……あんっ! ぁぁ…………」 「そういえば、今までそういうエロいことしたことあるのか?」  「あっ、あ、あ、あんっ! わ、私、こ、こういうことは、初めて……ああんっ! セックスもしたことな、ああんっ! したことないです! はあんっ!」 「こんなエロい身体と綺麗な顔してんのに一度もシたことないとか勿体なさ過ぎるな。まあ、これからは色々使ってやるさ」    とても人間らしい喘ぎ声で立ったまま乱れ、それどころじゃないはずなのに従順に質問に答えようとしながらくちゅくちゅと激しく女性器ユニットを弄り倒す麻衣。    人間に無自覚に紛れた生活の中で、彼女は言葉の通り、一度もセックスどころか自慰もしたことがなかった。  にも関わらず、彼女には「それ」を行うための機能が複数実装されている。まるで、セクサロイドとして扱われることを想定しているかのように。  立ったまま何度も何度も陰核と秘肉を刺激し、人工膣液を分泌しながらより手を早めていく麻衣。  そして、完全防音の部屋であられもない声を漏らしながら身体をくねらせ、製造されてから初めての絶頂に達しようとしていた。 「あ、あ、あ、ああっ! きもちい、あっ! あんっ! き、きもちいい、あ、あ、い、イきます! あんっ! あんっ! あ、あ、ああああああああああっっ!!」  身体を軽く後ろへ反らし、頬を赤らめ、快楽に浸る表情を出力しながら、麻衣は人間として稼働してから一度も出したことのない絶頂の声を出した。  人工膣液が荘厳な床に飛び散り、膝をガクガクと震わせるが、彼女がバランスを崩して倒れる気配はなかった。  麻衣という美人女性の淫らな姿を見られて満足した知憲は、すぐに絶頂後の余韻に浸らせる暇も与えず、携帯端末を操作する。 「あっ…………あっ…………あ、擬似人格が停止されました」  遠隔操作によって麻衣としての擬似人格が切られ、すぐに表情が無に変わり、仰け反っていた姿勢はすぐに直立不動の姿勢へと変わった。  突然感情が無くなったような挙動を見せているが、自慰による快楽信号は未だ残留しているらしく、女性器ユニットの膣肉や陰核、指やスーツ下のブラに覆われた乳首は小さく無作為に震え、人工膣液は分泌が続いている。 「イってもこうやって操作できるのは便利だな。じゃあ、お前がこの床を掃除しろ。それが終わったら自分の頭を開いてこっちに向けろ。記憶データを改竄するから」 「かしこまりました、社長」 「こういう時に社長っていうのは固いな……」 「現在、当機体は倉田 知憲社長の部下となっており、立場としても社長とお呼びするのが適切だと考えられます。その為、当機体はそのようにお呼びします」  ついさっきまで恍惚な声を上げて、人間のような艶めかしい雰囲気と動作を起こしていたとは思えない無機質さを見せる麻衣。  だがこれはこれで、別種のとてつもない魅力がある。これは自分好みに遊ぶために改竄のしがいがある。  これからどんな風に呼ばせようか、その時の条件付けはどうしようか、改造を施してみようか、どんな使い方をしてみようか。  彼は肉棒をスーツの下から強く主張するほどに反らせながら、下半身を晒して室内を掃除する彼女を眺め、今後の愉しみを無限に湧き上がらせたのだった。 * * * 「今日はありがとうございました。また力になれることがあれば、喜んで協力させていただきます! では、失礼します」  命令通り跡形もなく潮噴きの形跡を取り除き、記憶の改竄もおとなしく受け入れた麻衣は「社内環境改善の為の意見交換をした」という認識を与えられ、途中からの記憶データを削除された。  自分の頭や中身を弄られているなどと一切演算結果に出さないまま、麻衣は知憲の部屋を出て、すっかり暗くなった外を見ながら足早に廊下を歩いていった。 「もうこんな時間かあ……早く帰らないと。けど、思ったより社長って話のわかる人だったんだなあ」  目の前で初めての自慰と絶頂を見られたことも電子頭脳内から消え失せたまま、有意義な時間を過ごせたと思い込みつつ、改めてオフィスを出るためエントランスへ向かっていった。  そんな彼女の姿を監視カメラから眺めながら、真実を唯一人だけ知る知憲は、これからのことで妄想を激しく巡らせていた。 「アンドロイドは本当にいた、そして俺のものになった…………まずは麻衣を解析しつつ自由に使えるようにしとかないとな…………はは、楽しくなってきた!」  都市伝説は真実だった。その上で、好みの美女を自分の好きに使える権利まで手に入れた。これ程までの幸運はこれからもう起きないだろうと思えるほどの満足感が、脳から全身へ駆け巡る。  動かないままではいられない。よりアンドロイドで楽しむ為の準備をしなければ。  巡り巡る思考の海に身を委ねながら、知憲はすっかり麻衣の虜になり、次はどうしてやろうかと期待に胸を膨らませていった。  こうして、存在が証明されたアンドロイドの美女を手に入れた知憲は、欲望の先へと突き進み始めたのだった。        


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