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土装番
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機械の侵食 3話 変化は知らないうちに 1/?

 一番最初に地球へと踏み込んだペリメイズ人、メリン=リュミエールによるデータ提供によって、同胞達の地球侵食は一気に、かつ同時多発的に進められるようになった。  世界中の様々な場所に踏み込み、人知れず、そして少しずつ地球人類を機械化しては新たな価値観をプログラムする。  それは彼女達にとっては、善意と幸せ、素晴らしいモノのおすそ分けにほかならない。  どのように楽しんでいるかはそれぞれではあるが、根本的には楽しんでいるのである。  直接ぶつかりあった末に相手を機械化し、同志にする者もいれば、ロボットを改造して仲間にし、進化を促す者もいる。  同様に、中にはあえて自らは暗躍しつつ、一つの場所が徐々におかしくなっていく様を楽しむ者もいるのである。 * * *  ある大都市の一角にある地区、神崎町。  そこは、いつも人々が娯楽に、食事に、ショッピングに賑わう豊かな街。  しかしそれは、太陽昇る明るい昼の顔。  まるで人狼の如く、神崎町は夜に欲望渦巻く世界へと変貌するのである。  「今日も指名して頂いてありがとうございます! 今日は来てくれるかな〜ってずっとヤキモキしてたんですよー?」 「ははは、当然来ないわけがないじゃない! ここは俺の金曜の楽しみなんだからな!」 「わー嬉しいー! じゃ、せっかくだから……行っちゃいます?」 「もちろん! 盛大に乾杯しちゃおうか!」  とあるビルの中に店を構える、人気風俗店ウェパル。  そこでは、夜な夜な様々な社会人達が極上の非日常を求めて足を踏み入れる。  そして、キャスト達もそんな男達の心を開放し、最高の気分で楽しんで頂く為に、日夜努力を重ねて接客していた。 「まりんちゃん、結構酔ってきた?」 「そうかもぉ……私結構酒強いはずなんだけどなぁ……」 「そっか。じゃ……ちょっと」 「はい、なんでしょうか?」 「スペシアルルームへの案内を頼むよ。追加料金はここで」  しかし、そんなウェパルには、ある秘密裏のサービスが存在した。  この日も、それを利用する為にスーツを着た男性が、ボーイを呼び出して追加料金を支払う。  キャストも、それを狙ってわざと特段酔っているフリをして誘っているのだ。 「かしこまりました。追加料金の確認を致します……確かに、頂きました。では、スペシアルルームへ案内します」  「えー今日もスペシアルルーム使ってくれるの!? 嬉しいー!」 「ははは、当たり前だろ。酔ったまりんちゃんを介抱しなきゃね」  二人は茶番劇のような会話を繰り広げながら、ボーイの後ろをついていく。  そして、階層を一つ上に上がり、厳重にオートロックをかけられた扉の先には、きらびやかに彩られた、キラキラした無数の個室の扉があった。   「では、こちらの部屋をご利用ください。それでは、ごゆっくり」  ボーイが案内を終えると、丁寧にその場所から去っていった。  キャストと二人だけで足を踏み入れるスペシアルルーム。  そこは、本来店舗では提供できないサービスが行われていた。 「あんっ! あんっ! 今日激しいよぉっ! あっ!」 「はぁ……はぁ……やっぱ……まりんちゃんはうまいなあ……!」  本来は禁止されている本番行為。  ウェパルはそれを、スペシアルルームという特別料金でしか入れない部屋の形で提供していた。  当然、利用する客側も分かっているため、何か相当な事があったか、相手でもなければ決して口には出さない。  キャスト側も、それを狙って誘う戦術を取ったりもする。  それ故に、ウェパルは一定の人気を誇っていたのだった。  そして、そんな風俗店にて、そこにいる誰もが予測しない大きな変化が訪れることになる。 * * *  ウェパルのオープン前、キャスト達がロッカーで、客を迎える為に準備を整える時間。  そこでは、大なり小なり様々な話題が展開される。  そしてこの日、あるキャスト内で奇妙な話が共有され始めていた。 「ねえ、花蓮はあの噂聞いた?」 「あー、あれでしょ? 奈穂の話。確か二つあるよね」  二人は着替えながら周囲を軽く見渡し、ある噂に該当する人物の存在を確認した。  着替え中の花蓮に話を切り出したのは、同じく着替えている途中の瀬戸柚希。  染めた金髪のふわふわとしたミディアムヘアに、可愛らしさと大人の魅力が同居した綺麗な顔立ち。  胸は周囲と比べてもよくわかるくらいに大きく、ハリがありつつも顔を埋めたくなるような雰囲気に溢れている。  体型のバランスも完璧で、全体的にスラっとしつつ引き締まっており、肌ツヤも良好。  そんな彼女は、この店で2番目の売上と人気を誇っていた。  しかし、柚希には今、店内で怪しく思っていることがあった。 「話が早いわね。やっぱりみんなも気になってたんだ」 「まあね。最近いきなり売上上がってきたし、指名も増えてきたしね。でも、なんか色々不自然だし……もしかしたら」 「おはようございます!」  噂話から、さらに話が拡がりそうになったその時、まさしく噂をすればとばかりにやってきたのは、その話題の中心である橋口奈穂だった。  柚希と比べるとあどけなさの残る、幼目で可愛らしさが強調される顔立ちで、身長も少々低めながら胸は平均よりも大きめで、柔らかそうな雰囲気を醸す。  声も可愛らしく、柚希とはまた違った魅力を持った女性だが、彼女の売上や人気はこれまで平均程度だった。 「おはようございます柚希さんっ! 花蓮さんっ!」 「ああ……おはようございます」 「おはよう」 「今日も沢山指名頂けるように頑張りますねっ」  しかし、奈穂はここしばらくの間に、突如指名が増え始め、人気もメキメキと上がり始めた。  それに連動してなのか、はたまたそうなる前からなのか。奈穂の肌ツヤは突然目を見張る程に良くなり、体型も魅力的な肉つきを残しながらも均整の取れたボディラインとなり、女性的な魅力が急激に上昇していた。  客からの評判は以前よりもさらに良化し、話も上手くなったとも言われている。  しかし、人気急上昇の秘密は、それとはまた別のところにあると噂されていた。  奈穂が挨拶の後で離れると、柚希は溜息をついた。 「はぁ……あーイラつくわ。生で客掴んでふんでしょうに」 「ああやっぱりそれだよね? 避妊具も無しで中出しさせてるってヤツ」  奈穂に流れている二つの噂。その一つは、オーナーに色目を使いお気に入りにしてもらっているというもの。  そしてもう一つは、避妊を一切せずに客への性奉仕を行っているというものだった。  ウェパルでは、スペシアルルームでのセックスこそ行われているものの、キャストには妊娠を避ける為に避妊具の使用を義務付けている。  しかし、奈穂はそれをしていないと推測されていた。 「あのぶりっ子、あいつだけスペシアルの使用頻度増えて怪しまれないわけ無いでしょ」 「いきなりだったよねー。前はそんなでもなかったのに」  人気上昇と同時期、奈穂のスペシアルルームの使用率が急激に上がり、店内でもトップを誇る程になった。  話術こそ多少良くなったらしいが、突然の容姿の美化以外に大きく変わった様子はなく、柚希達には、性接待に力を入れ始めたとしか思えなかった。 「ったく、んなことして妊娠したら自分にツケ回ってくるってのに、やっぱ頭弱いのかしらね」 「小声でもそういうこと言うー? まあ私もそう思うけど」  柚希は以前から、奈穂の事を心底嫌っていた。  容姿のタイプも去ることながら、可愛らしい声や雰囲気、仕草に至るまで、とにかく彼女のことが気に入らない。  これで売上や人気が上回られることがあれば、彼女の存在がより不愉快に感じるだろう。  だからこそ、嫌いな奈穂の事が悪い意味で気になるのである。  もし証拠があれば、今ならば不快な存在である彼女を潰すチャンス。  呑気に笑顔で着替えている奈穂を横目に、柚希は今に見てなさい、と見下すような視線をぶつけながら、今日の準備を進めていった。 * * * 「あー今日も気持ちよかったなあ。島木さん、奥まで突いてくれるし」  同日の深夜。休憩時間に入った奈穂は、とても心地よさそうな気分のまま、ビルの非常階段で気持ちを休めていた。  肌の露出が多くても、夜風に冷える様子はない。  直前までスペシアルルームで過ごしていた快感の時間を思い出しながら、奈穂はこれからどのようにしてお客様を接客していこうか、どんな風に交わろうかと思考していた。 「あら、やっぱりこんなところにいたのね」 「あ、お疲れ様です柚希さん!」  そんな一人の時間を夜風を浴びながら過ごしていたその時、新たに一人の女性が非常階段に現れた。  同じく休憩に入った柚希である。 「はいはい。男共のアソコ咥えて取る人気はさぞ気持ちいいでしょうね」  露骨に嫌悪を包み隠さず、嫌味から入りだす柚希。  しかし、奈穂はそれに対して不快な雰囲気を出す気配も無く、嬉しそうな表情を保ったまま応対した。 「えっ、どうしたんですかいきなり?」 「はあ……これくらいの意味もわかんないくらいにバカなの?」 「ちょっと酷いですよ柚希さーん! 私だってちゃんと……」  この女と話すと調子が崩れる。一々の声がイラつく。仕草や口調が不快で仕方ない。  柚希の中で、これまでに積もった嫌悪が、ここに来て一気に跳ね上がり始めた。  そんな中で、奈穂は軽い気持ちで柚希へとボディタッチをしようとした。 「っっ!! 触んないで!!」  柚希はそれを、恨みをぶつけるような顔で払い除け、睨みつけた。  奈穂は大きく動揺しなかったが、先輩の突然の怒りに、戸惑わずにはいられなく、数歩階段を下がった。 「ちょっと、どうしたんですか柚希さん! 私柚希さんに何か変なことしました?」 「ずっと思ってたけど、あんたのこと大ッ嫌いだったのよ。あんたみたいなカワイコぶってる奴、見ててイライラするわ。そんな奴が、お客さんに好きに中出しさせてるなんてね」  それを聞いた奈穂は、一瞬だけ驚いた顔を見せた。  誰にも言っていなかったのに、どこで知ったのだろうか。そんな疑問が過ぎった。 「えっ、知ってたんですね……」 「それくらい誰でもわかるわよ。露骨にスペシアルルームの使用回数も上がって、一番使ってるなんて。今まで頻繁に使ってなかった奴が増える理由なんてそれくらいじゃない」  柚希はこの時、内心では「勝った」と思っていた。  これをダシに詰めれば、いずれはこの女を辞めさせられる。  口に出してはいないが、この情報を得たのは、以前奈穂との避妊具無しのセックスを体験した、比較的口の軽い客からである。  柚希が今日スペシアルルームでまぐわった時、己の出せるテクニックを駆使して直接聞いたのだった。  利用した本人からの確証を得られれば、辞めさせるのもより簡単になる。それが今、彼女の中では楽しくて堪らなかった。  しかし一方で、奈穂は殆ど動揺している様子はなかった。まるで、軽い悪戯がバレた子供のように。 「だいたい、意味がわかんないのよ。なんであんたみたいなのが気に入られてるわけ? 明らかにオーナーから優遇してもらってるじゃない。何企んでんの?」 「企んでなんてないですよ! 私はただ、持っと愉しく気持ちよく皆で過ごせればいいなって」 「いい加減ぶりっ子辞めなさいよ気持ち悪い。いきなりテクも上手くなるわけないわよね。まさか、危ないのに手を出したりしてんの? ハッ、あんたならやりかねないわよね」  とても強い嫌悪が先鋭化し、証拠も何もない相手への悪辣であってほしいという願望も乗せて罵倒し始めた柚希。  気に入らない相手への攻撃をする時程、舌がよく回る。自分の優位だと確信した瞬間から、柚希の感情は止まらなくなっていった。  そんな心無い言葉から投げられた根も葉もない虚言に、流石にムッと不快感を覚えた奈穂は、階段を上り近づいていった。 「触んないでって言ってるでしょ!!」  しかし、柚希はそれすらも跳ね除けんと、激情に任せて伸ばされた手を殴るように振り払った。 「えっ……?」  だが、その勢いはとても強かった。奈穂の足元のバランスを崩す程に。  払い除けられた瞬間、奈穂の身体は後方へと傾く。  空中に掴めるものなど当然無い。手すりに手を伸ばそうとするが、ギリギリ届かない。  奈穂は階段から空中へと放り投げられ、ごろごろと転げ落ちていった。  そして、転落が止まる直前、まるで金属が曲がったような鈍い音が鳴った。 「え…………えっ…………?」  柚希は一瞬、何が起こったのかわからなかった。  燃え上がる激憤から解放された直後、彼女の眼に入ったのは、階段の下でぐったりと倒れている奈穂の姿だった。  周囲には他に、転落の原因となりうるものは何もない。間違いなく、自分の手でこの女を落としてしまったのだ。  足場で倒れたままの奈穂は、動く様子が無い。  よく見ると、彼女の首ははっきりと歪んでおり、曲がってはいけない方向へと折り曲がってしまっていた。 「え、嘘……嘘でしょ……? えっ、死ん……じゃった……?」  こうなればいいな、とは思ってはいても、いざ現実になると思考が追いつかなくなる。  奈穂はぴくりとも動く気配は無く、これでは自分が殺してしまったとしか言えない状況となっている。  非常階段という開かれた閉鎖空間では、どこにも死体を隠すこともできない。地面へ落とすにしても、確実に落下した音で誰かが見つけて大事になってしまう。  精神的優位を保っていた柚希の顔は、一気に青ざめてしまっていた。 「あ、あんたが……悪いんだからね……! 私は何も悪くな……い…………!?」  現実逃避に近い、自分に言い聞かせるような稚拙な言い訳をつぶやきながら、柚希はその場からなんとか離れようとした。  しかしその時、柚希の目の前に信じられない光景が広がった。 「な……え……な、なんで……? う、動いてる……!」  奈穂の首はあり得ない方向へ捻じ曲がり、取り返しのつかない程に歪んでいる。  にも関わらず、奈穂はぴくっ、ぴくっ、と手足が動いたあと、ふらふらと、そしてゆっくりと、何事もなかったかのように立ち上がった。  そして、やや斜め後ろに傾いた状態の頭部から、奈穂はぎょろっ、と柚希の方へ瞳を動かした。 「い、いイいきなリなniをスるうウうんデすか、かぁ……びっクりしまままシたよぉぉぉ……」 「ひっ……!」   奈穂の声はそれまでと違い、まるでおかしくなったアンドロイドのような電子音混じりの狂った声に変わっていた。  それから、奈穂は自分の頭部を震える両手で挟み、無理矢理位置の矯正をし始めた。  皮膚の下でぎぎ、みし、ぎぃ……と、到底人体からは鳴り得ない、鈍い異音がなる、  そして、普通の人間らしい首の向きへと戻ったが、首には不自然極まりない皺が残っていた。  何より不気味なのは、奈穂は殺されかけたというのに、怒りを発露する様子が一切ないことだった。 「でも、こんな、気持ちよさがが、が、あるんでスね子ぇぇぇ……勉強になりマした! 柚希さン、ちょっトだけ話をしマsssしょうよぉぉぉ……」  覚束ない足取りで階段を再び上り始める奈穂。  その異常極まりない姿は、柚希を恐怖させるには充分過ぎた。  時折どこかから聞こえる、金属同士が擦れる音。声に混じる不審な電子音。ゆらゆらと座らない歪んだ首。それでも笑みを絶やさない愉しそうな顔。  徐々に近づいてくる奈穂のことを、腰を抜かした柚希は同じ人間だと思えなくなった。  一瞬にして、柚希は彼女のことを人の形をした何かとして恐怖を覚えたのだった。


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