XaiJu
土装番
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自律した無自覚性玩具 1話先行公開版

 過去から現在に至るまで、人間が積み重ねてきた数々の技術と叡智は、時が経つにつれて沢山の人々へと恩恵を分け与えられていった。  だが、そうなるまでには、得てして限られた者のみがその新たなる領域へと足を踏み入れることとなっている。  それは発見者か、はたまたその周囲の者が、もしくは気まぐれに決定された無知なる者か。  だが、誰も手にしたことのない未来に手を出す者は、当然ながら良い結果に終わるとは限らない。  その時代に似つかわしくない程に現実感の無い特別な存在になることもあれば、意思を剥奪され全てを失うようなこともあり得る。  だがもし、そんな未来の技術の代償を一方的に押し付け、恩恵のみを得ることが出来たなら、その誘惑に耐えることはまず不可能であろう。  これは、とあるOLの身に知らぬうちに降りかかる事象と、それを利用する、彼女の知らない男の話である。 * * * 「もうそろそろ休憩時間……もうそろそろ休憩時間……」  都内のとある高層ビルのフロア内にて、モニターのPC画面に映る小さな時間をチラチラ確認しながら与えられた仕事を片付けている女性がいた。  彼女の名前は伊藤真衣。年齢は23歳。  今の真衣は、休憩時間直前なのもあって少々難しい顔をしているが、その顔立ちは非常に整っており、誰もが思わず視線を引っ張られるような美貌を持ち合わせている。  大人びたしゅっとした顔立ちに、思わず触れたくなるような肌ツヤ。  ほんのりとブラウンを含んだような色合いのさらさらとしたロングの黒髪。  スーツの下からでも浮き上がっている豊満な乳房に、それをより目立たせるような美しいボディライン。  タイツがとても似合うようなすらっとした美脚と、彼女はまさしく非の打ち所の無い容姿を持っていた。 「今日は妙に気合入ってるじゃん。何かあるの?」  その隣では、同僚で仲の良い吉田夏海が、同様に作業を進めている。  いつもより気合の入っている真衣の雰囲気を見て、思わず小さく声をかけた。 「いつもより作業量多くてさ……お昼までには後腐れなくしたいと思って。ほら、休憩時間でも仕事のこと考えるの嫌だし」 「まあね。それじゃ、私は隣で小さく応援でもしてるよ」 「もう、そっちもちゃんとすんのよ?」 「わかってるって。仕事しながら」  真衣の仕事ぶりとクオリティは社内でも高く評価されており、常に期待をかけられる人物でもあった。  人間関係もそれなりに良好であり、まさしく非の打ち所の無い才色兼備を体現したような女性だった。    自身の目標通り、昼の休憩時間までに一定量の仕事を終えられた真衣は、夏海と一緒に昼食を楽しんでいた。  最初はその頑張りっぷりの反動からぐったりしていたものの、食事と楽しい会話が進む度にだんだん元気を取り戻していった。  片手に、オフィス近くのサンドイッチ屋で購入したアボカドとツナのサンドと、側に市販のスムージーを置きつつ、少しずつ腹を満たしていく。 「あぁ……ようやく頭重いの治ってきた。やっぱり休憩って重要ね……」 「大丈夫? 頑張りすぎないでよ? 真衣がいなくなったら正直すごい寂しいし。エナドリに頼ってないのは良いと思うけど、それでも無理したらまずいよ?」 「ありがと夏海。まあ、自分なりのペースは保ってるからさ」  その言葉は本心なのだろうが、ちょっと誤魔化しているような笑顔が、夏海にもとてもかわいらしく写った。  ふと、夏海の中で浮かんだ疑問をぶつけてみる。 「そういえば、真衣ってなんでこの会社にいるの? 真衣ぐらいの能力ならもっといいとこあるんじゃない? なんならモデルでも絶対いけるし」 「そう言ってもらえるのは嬉しいわね。けど、あたしはここが好きだからさ。それに、別の理由もちょっとあるし」 「別の理由?」 「ああ、これはちょっと言えな……」  真衣が言い切る前に発言が止まり、視線がいきなり大きく移ろいだ。  彼女の視線を追った先には、同じオフィスで働く社員である、中川誠の姿があった。  彼は社内の女性社員に人気のあるイケメン社員であり、堅実かつ見事な仕事ぶりで貢献度も高い。  それでいてスタイルも良く、スーツ姿がこれ以上無い程に似合っており、まさしくモデル顔負けと言っても過言では無かった。  そんな彼の姿を、真衣は無意識に目で追っていたのだった。 「あぁ……誠さん目当てね」 「えっ!? だ、誰もそんなこと言ってないじゃない……」  その指摘に、真衣はわかりやすく赤面して狼狽えた。  反応から見てもわかる通り、彼女は誠に対して好意を抱いていた。  この会社にいる大きな理由の一つであり、彼の姿を見ると自然と頑張ろうって思える。  いつかはお付き合いしたいとも考えているが、自分から話したり接近することができずにやきもきし続けていた。 「もろに顔に書いてるって。というか、もしかしてバレてないとでも思ってたの?」 「…………えっ、むしろ知ってたの?」 「だいたいの人は知ってると思うけど。真衣の視線とか態度も露骨だし、わかりやすいよ」    隠していたつもりだったのに、バレていたのかと一気に赤面し、黙々とサンドイッチの食事に夢中になりだした真衣。  大好きなメニューにも関わらず、今だけ味がよくわからなくなる。 「まあ、私はお似合いだと思うから応援してるよ」 「う、うん……ありがとう」 「それでさ、この間真衣が勧めてくれた映画あったじゃない? あれ観たんだけどさ……」  その後、二人は何気ない日常的なモノや趣味の会話へと話題は移ろい、休憩時間を終えてから再び仕事へ戻っていった。  真衣は今の生活には非常にとは言わないまでも良い感じに満足している。  仕事がそれなりに面倒ではあってもきつすぎる程でもなく、人間関係も良好。  すぐ側に、いつか一緒にいたくなるような憧れの人もいるし、収入も良い。  暮らしに関しても、自身の住むマンションはオートロックもかかっており、セキュリティ面も安心でかつ近所の施設も充実している。  まさしく、理想的な毎日を送っていたのだった。  しかし、不幸とはいつ襲ってくるのか、どれ程のモノが降りかかるのかは誰にもわからない。  そして、それが当人にとってどれ程の大きな喪失をもたらすモノなのかも、誰にも予想はつかないのである。  それが他者による人為的な出来事でもない限り。 * * *  ある日の夕方、陽の光が橙色に染まり、空が短い間のグラデーションを作り出している頃。  いつものように仕事を終えた真衣は、これまでと何も変わらない自宅への帰路についていた。  たまに道中のショップや百貨店内のファッションブランドに目移りするが、それもいつもよくやっていること。  当たり前の日常が進み、もうそろそろ日が沈んでいく頃に、自宅であるマンション付近へとたどり着く。 「ああ疲れた……けど、明日休みだしいっかーー……何食べようかしら」  まだ夕食もとっておらず、そもそも何を食べようかも決めていない。  配達サービスでも使って、どこかの店のグルメでも頼もうか。それとも着替えてから適当に何か買いにでも行こうか。  もしくは明日は休みだし、ちょっと豪華にいっちゃおうか。  そんな悩みを巡らせながらマンションの入口へ入り、運動も兼ねてあえて階段を使って上階へと上っていく。 「……おっ、良さ気なイタリア料理があるじゃない。割と近いし、温かいまま食べられそうね」  途中で携帯端末から食事の情報を確認しつつ、自分の部屋がある7階へと到着。  すっかり慣れた足取りで移動し、自分の部屋の前へとたどり着いた。  携帯端末をタッチキー式のドアの読み取り部分に触れさせ、解錠の音が鳴る。  ドアを開けると、その先は真っ暗な自宅。  ただいまを言う相手もいない。だけど、もし誠さんが一緒に暮らしてたら……。  そんな妄想もたまにしながらも、真衣は靴を脱ぎ、廊下の電気を着けた。 「やっぱりここにしよっと。それからワインも……えっ……!?」  そして、すぐ側にある寝室へと足を踏み入れ、明かりを点けた直後、真衣の眼にありえない光景が写し出された。  自分以外誰もいないし、鍵も持っていないはずの家の中に、三人の見知らぬ女性が立っていた。  その顔はどれも非常に可愛らしく、まるでアイドルや女優のような印象を受けるが、妙に固く無表情。  衣服はどれもバラバラで、色遣いやコーディネートはとてもオシャレだが、それが余計に不審さを強調させた。 「ちょっと、何なのあんた達!? あたしの部屋にどこから入ってきたの!?」   女性達はそれに返答することもしない。それどころか、真衣の方をずっと見つめたままだった。 「捕獲対象が予定時間よりも早く帰宅しました。タスクの優先順位を変更し、速やかに対象の確保に移ります」  一切感情を感じられない、事務的で抑揚のはっきりとした妙な言葉を発した直後、三人の女性は一気に襲いかかってきた。  警戒をしていながらも、その動きは普通の女性からは考えられない程に俊敏で、逃げる隙は一切与えられなかった。 「何するの!? 離し………んんーー!!」  一瞬にして四肢を抑え込まれ、強制的に仰向けの状態にさせられる真衣。  どうにか拘束を抜け出そうとしても、その力は見た目以上に強く、全力を振り絞ってもびくともしない。  叫んで近くの誰かに助けを求めようとするが、先回りするように口を塞がれ、外に声が届くこともなくなった。   「んん!! ぷはっ! なにし……んむーー!! っっ!? んん……ん………………」  わけもわからないまま訪れた絶体絶命の状況。  そもそもこの女性達は何者なのか、何が目的なのか。そんなことを考えている余裕は無い。とにかく警察を呼ばないと。  必死に抵抗し続けるが、一人の女性が真衣の首筋に人差し指を押し付けると、何やらちくっとする感覚が襲ってきた。  視線をその方向に動かすと、その女性の人差し指の先が左右に開かれており、奥から注射針らしき物が見えた。  その光景を最後に、真衣の意識はすとんと闇に落ちた。  麻酔を打ち込んだ女性の一人が、指の中へ針を格納すると、統率の取れた動きで持ち込んだ大きめのスポーツバッグを用意した。 「捕獲対象が昏睡状態に入りました。室内の内装確認を終了後、速やかに移送を開始します」  そのメッセージの後、一人が室内を改めて歩き回り、残りの二人が真衣をバッグの中に押し込んでいく。  一通りの確認が終了すると、三人は周辺の人物の存在を確認しつつ、真衣の部屋を出た。  エレベーターに乗る直前、彼女達の表情はこれまでとはうってかわって、人間らしい柔らかな表情に移り変わった。  そして、何気ない会話を交わしながらマンションを出ると、近くに停められていたワゴン車に乗り込み、そのまま去っていった。  どこに連れて行かれるかもわからないまま、バッグの中で眠り続ける真衣。  これが、彼女が人間である最後の時とも知らず、そのまま道具のように運ばれていくのであった。 * * * 「登録された仮マスターからの命令を受信しました。SH0039136257。登録名、伊藤真衣のテスト起動を行います……システムチェック、初期化中……起動しました。続けて、伊藤真衣01による人格エミュレートを開始します………………んん……あれ、ここは……」  オフィスでも口にしたことのないような、非常に丁寧かつ奇妙な言葉を発した後、真衣は目を覚ました。  まるでいつの間にか世界が移り変わったかのような感覚。  眠りから覚めたようだが、不思議と眠気のような気怠さは無く、むしろすぐに意識が覚醒した感覚を覚えた。  だが、目覚めた直後に入り込んだ見知らぬ光景に、真衣は狼狽えだす。 「な、なにここ!? 一体どこなのよ!? 手術室か何かなの!? 何が起きて……」  彼女が目にしたのは、妙に高い目線から写る、無数の機械に取り込まれた一室だった。  ドラマや映画で見た手術室のような空間に、何やら外から監視しているような印象を受ける、ガラス窓越しの向こう側。  眼球を動かして周囲を見渡すと、手術室らしいのにマスクもしていない女性達が、冷たい表情で真衣の顔を見つめていた。  だが、彼女達の服や肌には、血のような赤い跡が見受けられた。  そういえば、この女性達の表情には見覚えがある。自宅に帰ってきた時に遭遇した三人の女性の無機質な顔。それにそっくりだったのだ。  理解できない状況や出来事が続き、混乱が混乱を呼ぶ。   「人格エミュレートは現在正常に稼働しています。脳内情報の電子データ化は無事完了しました」  ふと、女性の一人がよくわからないことを口にした。  人格エミュレートとは、電子データ化とは。そういえば、なぜだか首から下が動かせない。  考えがまとまらず、何から口に出せばいいのかわからない。  戸惑い続けた後、今度は女性の一人が見上げるようにしながら口を開く。 「続けて、人格データの反応確認を行います。その後、各種パーツへの接触反応、及び快楽信号への反応試験を開始します」 「な、何を言ってるの……?」 「真衣、現在身体の感覚はありますか?」 「初対面でいきなり呼び捨てにして、いきなり何聞いてるのよ……?  「真衣、現在身体の感覚はありますか?」  まるで対話を無視しているような、いきなり失礼な名前の呼び捨てを指摘しても、同じことを繰り返すばかり。  何をされるかもわからないし、そもそも今はもう何かされているのかもしれない。  真衣は渋々、その質問に応じることにした。 「……全然無いわよ。首から上しか動かない感じ。一体あたしに何したの?」 「正常な返答も確認。現在、真衣の頭部と身体は接続されていません。接続の後に動作テストを行います」 「だから、接続とか動作テストとか何言って……」 「これより、真衣に今の貴女の身体を目視させます」  横から入ってくる真衣の言葉を無視し、女性は真衣の後ろへと回り込んだ。  そして、顎と首筋を掴み、視線を下の方へと傾けさせた。  その挙動だけでも何かがおかしいが、そんな疑問を吹き飛ばす程の異様な光景が、真衣に入り込んだ。 「ひっ! な、なんなのこれ……この身体って……」  彼女の下にあったのは、首と両腕の無い女性の上半身に、内部機構を晒しながら扉のように左右に開かれた大きな乳房。  そんな上半身と離れた下半身に、股関の先に置かれた、まるで性玩具のような、一本を除いたいくつかの管が繋がっている肉色の筒。そして、腕と同様に分かれている両脚。  まるでバラバラ死体のような、機械の中身を曝け出した女体だった。  この光景に、今の自身の感覚、彼女達の言動。信じられないし信じたくない結論が、真衣の中に浮かび上がった。 「これは、生身の身体を素材にし、加工し製作した伊藤真衣の身体です。当然ながら、頭部も既に改造は終了しており、こちらの操作端末に電子頭脳を接続しつつ、空中に固定している状態となっております。現在の貴女には、生身は一切存在していません。卵子は冷凍保存されていますが、その他臓器などは全て売却されます」 「あ、あ、あぁ………………」  言葉を失った。信じられない。信じたくない。  しかし、目の前にはその現実がある。  奥底から一気に湧き上がった恐怖が、真衣の声となって噴き出した。 「いやああああああああああ──────」  耐えきれず、人生の中であげたことの悲鳴を叫んだ真衣。  だがその声は、唐突かつ不自然にプツンと途切れ、突然無表情となった。 「仮マスターからの命令により、人格エミュレートを一時的に停止しました。10秒後、人格エミュレートを再開します」  絶望から叫んだ声も、外部からの操作によって簡単に切り上げられてしまった真衣。  そして、指定された通りに10‘秒後、再び表情を取り戻した真衣の顔には、怯えきった色が浮かび上がった。 「な、なによこれ……いきなり、時間が飛んだみたいに……ねえ、あ、あたしをどうする気なの!?」 「それは今後の、貴女をセクサロイドにしたいと依頼した人物次第です。尚、このテスト起動時の記憶データは全て削除されます」  おぞましい体験をしたような気がした。  操作一つで他者の記憶をどうにでも出来てしまう。まるでデスクトップからファイルをゴミ箱に移して空にするように。  今、自分の心の中が恐怖と不安でいっぱいになっていることすら無かったことにされてしまうのか。  真衣はもはや、落ち着いて思考することなど不可能になっていた。 「これから全身の接続を行いつつ、感覚信号系統のテストを行います。現在人格エミュレートを起動しているのは、それに対する反応を確認する為であり、完了後は本稼働まで人格エミュレートは行われませんので安心してください」 「何が安心してくださいよ! あたしの身体をこんな、こんな……無茶苦茶にして……!」 「これより、頭部の接続を以て全身の接続、及び感覚系統へのテストを開始します」    怒りの声を簡単に無視した後、女性は再び真衣の頭部を掴み、何かから取り外した。  今の真衣には頭部の感覚しか無く、持ち上げられているのが自分の身体の全てだと感じる。  それと同時に、後頭部が開けているような奇妙な感覚も覚えている。  戸惑いの連鎖が続きながら、真衣は一旦頭部の向きを180度回転させられる。  女性が上半身を軽く持ち上げた後、首の断面同士をくっつけ、まるでペットボトルの蓋を回すように回転させ、無機質な接続音を鳴らした。 「ボディユニットが接続されました…………はっ……! あたしの身体が……感覚が……!」  無機質なシステムメッセージを無自覚に喋った後、真衣にようやく身体の存在が戻ってきた。  人間だった頃よりも、全体的に肌の感覚は敏感で、特に胸部、乳房の感覚がとても鋭くなっているように感じた。  続けて、女性達は左右に開かれた胸部を戻しつつ両腕を接続する。 「胸部ハッチが閉じられました。左腕ユニットが接続されました。右腕ユニットが接続されました……うらあっ!!」  右腕が繋がれ、感覚を取り戻した次の瞬間、真衣は側にいた女性の腰に思いっきり裏拳を叩きつけた。  喧嘩などまともにしたことなく、姿勢も限られている分とても稚拙だが、機械化によって引き上げられた能力が乗り、威力は人間のそれを超えていた。  殴られた女性は、無表情のまま床に倒れる。 「こうでもしないと気が済まないわ……足が無くとも無理矢理にでも暴れてや……仮マスターの命令により、一部動作に制限が加えられました。人格エミュレートを再開します…………るんだから。えっ、腕が動かせない……!?」  人間だった時よりも大きく身体能力が上がったことに喜びながらも、これで反抗できると思考した直後、真衣は外部操作によって動作ロックがかけられてしまった。  恐怖からの焦りもあって、先走った行動をしてしまったことに後悔もしたが、それ以上に、全てを握られていることが、真衣は改めて怖く感じた。  そして、殴られた女性は、服の下から微妙に歪んでいるような違和感が現れていたが、痛みを感じている様子は無く、ただただ無表情を保ち続けていた。 「下半身ユニットが接続されました。女性器ユニットが接続されました。左脚部ユニットが接続されました。右脚部ユニットが接続されました…………あっ、あたしの身体……全部戻ってきた……」  落ち着かない状態のまま、次々と繋げられていくバラバラだった身体。  そして、両脚の接続を以て、真衣の全身は完全に元に戻された。  全身の接続部にうっすらと継ぎ目があることと、胸部と女性器ユニットの感度が人間だった時よりも特に高くなっていることを除いて。 「全身の動作に問題は見られません。続けて、各性感帯の感度テスト、及び快楽信号の受信、処理に伴う人格データの反応テストを行います」 「ちょっ……性感帯ってどういうこ……ひああっ!!」  耳に入る度に常々疑問に感じていた、快楽信号などのワード。  その質問に答えられることもなく、真衣は女性達の手でいきなり、両乳房の乳首を摘まれながら揉みしだかれ、同時に雑に女性器ユニット内の膣肉とクリトリスを弄られ始めた。  人間だった頃ならば、痛いと感じるであろう堅苦しく思いやりも感じられない触れ方。  だが、真衣には痛みなどの類は一切無く、純粋な快楽だけが人格データに伝わってきた。 「あ、あ、ああぁ……はあんっ! なにこれ……こんな……あ、ああんっ!! 気持ちいいのが……ひああっ!!」    人間だった頃には感じたことのなかった、人生で最も大きな快感が容赦なく襲ってくる。  動作ロックされたことで大きく動けないが、真衣の身体は右に左に悶えるように揺れている。  自動的に股間から人工愛液が漏れ始め、揉まれ続けた乳房は、乳首が固く主張し始めている。  そして、女性の一人が突如、ドライバーを持った状態で左胸を掴んだ後、端末側からの命令で再び真横に開放された。 「左胸部ハッチが開放されました……ああっ! あんっ! な、なにをする気なの……あ、あ、ひいいいいいっ!?」  喘ぎ声を溢れ出させている最中でも、システム的挙動が優先されて無感情無表情になる真衣。  すぐに元に戻った後で、女性はそのドライバーを開かれた胸部から覗かせる内部機構の中に挿し込んでいった。  そして、無秩序にかちゃかちゃと動かし、傷つけ始めた。  まるで人体の中身を傷つけるような加害行為。だが、真衣はそれにすら快感を覚え、背中を大きく仰け反らせて泣き出しそうな程の嬌声を上げた。 「や、やめ……ああんっ! あたしが、あ、あ、ああっ! おかしくなっちゃ……あんっ! あっ! あ、あ、あんっ!」  各部から溢れ出す快楽信号にメモリが埋め尽くされ、快感のことしか考えられなくなり始める。  思考の隅に、もうこのままでもいいかもしれないという考えまで浮かび始める。  だけど勝手に身体を作り変えられたのに、という抵抗が、彼女の思考を完全に落とさせなかった。  だが、それとは別に噴き出し続ける性感は止まらない。  何度も何度も、痛みのない純粋な性楽に刺激され続け、真衣は機械となってからはじめての絶頂に達しようとしていた。 「ダメっ! あっ、あ、いやあっ! い、イク!! イッ……あ゛っ!? あ、ああ、あ、あ、ああああああっっ!!!」  誰にも聞かせたことのない声を叫び、全身を震わせて快楽信号の奔流に流されていった真衣。  絶頂と同時に、女性器ユニットからはとろとろと人工愛液が溢れ出し、両乳首からは、母乳代わりと乳液の、さらに代わりとして入れられた電解水が噴き出した。  だらしなく作業台の周囲に液を垂らす真衣。  ぴくぴくと小さく痙攣しながら、重くなった電子頭脳の処理によって、ぼんやりとした思考で視界を写し出す。 「基準値以上の快楽信号による絶頂反応は正常に行われました。人格エミュレートにも異常ありません」  そんな激しい状態にも、淡々とした雰囲気で喋り続ける女性達。  彼女の反応や、乱れた姿も、今この時はただの実験でしかない。  女性の一人が真衣の左乳房を元に戻すと、この後の動作に影響を及ぼすであろう人工愛液のみを拭き取り始めた。 「左胸部ハッチが閉じられました………あっ……ぁ……ま、まだ……あたしに……何かしようとし……てるの……あんっ……」  快楽の残り香による余韻に浸る真衣。  だが、実験機体の言葉などに耳を貸す様子も無い。  すると、突然真衣の人間としての思考はぶった切られた。 「もう……いい加減にしてよ……こんなの……あっ……おかしくな………………仮マスターの命令により、人格エミュレートを停止しました。現在、頭部ユニットに軽度の負荷がかかっていますが、動作に影響はありません。タスクに従い、これより動作テストに移ります」  人格エミュレートが切られ、機械としての無表情無感情な真衣が姿を表す。  自ら作業台の上から、何事も無かったかのような動作で降りていく。  しかし、快楽信号の影響か、時折不規則に、その身体はぴくっ、と震えていた。  真衣の周囲を、女性達が取り囲む。 「これより動作テストを開始します」  この後、真衣の通常稼働時の安全を測るため、様々なテストが与えられた。  その途中で損傷しても、彼女には換えのパーツも存在し、電子頭脳内に入っているデータは全て複製可能。  その代わり、パーツ交換を行う度に肉体から加工された部品は無くなっていく。  だが、今の彼女にはもう、そんなことを気にする理由はない。  機械として生まれ変わらせられた真衣は、この後、テスト終了までひたすら従順に稼働し続けた。 * * * 「……はっ!? あら、ボーッとしてたのかしら……」  目が醒めると、そこは自宅の玄関前だった。  外は既に日が沈んで間も無い時間帯。  日時は土曜日の夜。なぜ休日なのにスーツ姿でいるのか、真衣は記憶を巡らせる。 「……ああ、そうだった。今日はなんか服を選ぶのが面倒臭くなって目についたスーツで外出たんだっけ。それで映画に行って……」  再確認するように、今日の出来事をつぶやく真衣。  ところどころ欠けていたり、やった覚えのないものもあるが、おそらくぼんやりしていたのだろう。   「早くお風呂入って寝ようかな……疲れてるみたいだし」  真衣は、いつもは携帯端末をかざして解錠しているタッチ式の錠前を、手のひらを置いて解いた。  まるで当然であるかの様に置こなったそれに対して何の疑問も抱くことなく、真衣はそのまま自宅へと入っていった。  いつものようにドアを閉め、靴を抜いて廊下に上がる。  そして、自動でドアの鍵がかかった次の瞬間、真衣はその場に立ち尽くし、無表情となった。 「登録された自宅への帰宅を確認しました。改造後初回となる為、体表面及び一部パーツの洗浄は省略されます。これより、充電に入ります」  誰もいない真っ暗な自宅で、一人感情のないシステムメッセージを喋りだした真衣。  自室へ入り、明かりを点けると、そこには彼女が一度も買ったことのない巨大な充電台が設置されていた。  それ以外にも、真衣が改造されている間に、自宅内には様々な模様替えが成されており、機械としての彼女が問題なく稼働するための設備が無数に取り揃えられていた。  真衣はスーツから下着まで全て脱ぎ捨て、さらに引き締められ魅力的になった女体を晒す。  そして、充電台に固定された後、首筋の人工皮膚カバーが自動で取り外され、露わになった端子に直接接続された。  直後、真衣の全身がぶるっ、と震え、豊満な乳房が波打った。 「充電が開始されました。指定された時刻までスリープモードに入ります。おやすみなさいませ」  誰もいない部屋に向かってそういうと、真衣は瞳の光を失い、そのまま静かになった。  目を開けたまま、瞬きもする様子もなく、ただ黙ってシステムに従って稼働し続ける。  一体誰か彼女を改造したのか。なぜ改造されたのか。  そのようなことを、彼女の本来の人格は知る由もない。  こうして、真衣の機械としての新たな人生が、自覚すらないままに始まったのであった。


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