XaiJu
ぼるてえじ
ぼるてえじ

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きくりさん……小人の男の子を酒の肴扱いなんて酷い……

朝の光がまぶたを焼く。 重い。 全身が鉛のように重い。 昨晩、伊地知姉妹の胎内という地獄の窯で焼かれ、精気という精気を搾り取られた体はピクリとも動かない。 肌に残るカピカピになった体液の感触と、鼻腔にこびりついた二人の濃厚な雌の匂いだけが、あの悪夢が現実だったことを告げている。 「だから! 新入りちゃんは私が学校に連れて行くってば!」 「ふざけるな。学校にそんな不純物を持ち込むんじゃない。店で管理する」 「お姉ちゃんの管理って……また夜這いする気でしょ! 昨日の夜みたいに!」 「なっ……! あれは不可抗力だと言っているだろう!」 頭上で響く怒号。 朝食のテーブルで、虹夏先輩と星歌さんが僕の所有権を巡って争っている。 まるでゲームのコントローラーか、ぬいぐるみの取り合いだ。 そこに僕の意思など存在しない。 僕はもう人間ではない。 姉妹の性処理道具であり、喧嘩の種にしかならない呪いのアイテムだ。 虚無感だけが胸に広がる。 結局、議論は店長権限という最強のカードを切った星歌さんの勝利に終わった。 不満げに頬を膨らませる虹夏先輩に見送られ、僕は星歌さんの手によって小さなキャリングケースへと押し込められる。 振動。 移動。 かつては胸を躍らせて通った下北沢への道のりが、今は護送車の中のように寒々しい。 ライブハウス「STARRY」。 重厚な防音扉を抜け、フロアの照明がつくと同時に、星歌さんのスマホがけたたましく鳴り響いた。 「……あ? ドリンクが来ない? どういうことだ!」 星歌さんの舌打ち。 どうやらドリンクの発注トラブルらしい。 開店前の忙しい時間帯に発生した不測の事態。 彼女はケースの中の僕を一瞥し、焦燥感を露わにする。 「クソッ、私が直接行くしかないか……。おい新顔、大人しく留守番してろよ」 僕をカウンターの隅に置こうとした、その時だった。 ガタン、と入り口のドアが乱暴に開かれた。 「うぃ~っす……おはよぉ~……迎え酒ぇ~……」 腐った果実のような甘ったるい発酵臭と、アルコールの刺激臭がフロアになだれ込んでくる。 よろめく足取りで現れたのは、緑色のジャージワンピースをだらしなく着崩した女性。 SICK HACKのベースボーカル、廣井きくりだ。 朝からすでに泥酔しているのか、その目は虚ろで焦点が合っていない。 「ゲッ、きくり……。また飲んでんのか」 「あ、星歌ちゃ~ん。一本おごって~」 「ふざけんな。……いや、待てよ」 星歌さんの目がきくりと僕を交互に往復する。 緊急事態。 背に腹は代えられないという苦渋の決断が、その表情に浮かんだ。 「きくり。一本奢ってやる。その代わり、私が戻るまでこいつを見てろ」 「え~? こいつってぇ?」 星歌さんがケースの蓋を開け、僕をつまみ出す。 きくりの濁った瞳が、宙ぶらりんになった僕を捉えた。 「うわ、ちっさ! なにこれ、フィギュア?」 「うちの新顔だ。事情は後で話す。とにかく絶対に潰すなよ! 飲み込むなよ!」 星歌さんはそれだけ言い残すと、僕をきくりの手の中に押し付け、風のように店を飛び出していった。 バタン、と閉まるドアの音。 残されたのは、静まり返ったライブハウスと、泥酔したベーシスト。 そして、無力な僕だけ。 「んへへ……行っちゃった」 きくりがニタリと笑う。 彼女の手のひらは、星歌さんや虹夏先輩とは違った。 汗ばんでいて、どこかぬめり気があり、体温が異常に高い。 そして何より、吐く息が猛烈に酒臭い。 「君、結束バンドの新入りだよねぇ? 知ってる知ってるぅ」 彼女は僕を目の高さまで持ち上げ、値踏みするように観察する。 その視線に、理性的な光は一切ない。 あるのは、動く玩具を見つけた子供のような、無邪気で残酷な好奇心だけだ。 「新入りっていうかさぁ……このサイズ感……」 きくりが長い舌なめずりをする。 口の端から、よだれとも酒ともつかない雫が垂れ落ちる。 「ペットだね、君」 命名。 新入りでも、新顔でもない。 ペット。 その響きが、僕の人間としての尊厳の残りを、完全に削ぎ落とした。 「よろしくねぇ、ペットくん♡」 握りしめる力が強まる。 逃げ場はない。 僕は新たな管理者、常時酩酊状態のモンスターの所有物となった。 「ほらぁ、飲みなよぉ。酒、最高だぞぉ?」 目の前に突きつけられる、紙パックのストロー。 そこから漂う強烈なアルコール臭が、鼻腔を焼き焦がす。 きくりさんは片手で僕をつまみ、もう片方の手で愛飲する鬼ころしを僕の口元に押し付けてくる。 「……いりません」 僕は力なく首を振った。 飲む気力なんてない。 そもそも今のサイズでこれを飲めば、急性アルコール中毒で即死するかもしれない。 だが、それ以上に心が死んでいた。 伊地知姉妹によって徹底的に尊厳を砕かれた僕は、ただ呼吸をするだけの肉塊になり果てていた。 「え~? つまんないの」 きくりさんが口を尖らせる。 彼女の指先は汗ばんでいて、不快な熱を持っていた。 どうせこの人も、僕を弄ぶだけだ。 おもちゃにするか、壊すか、そのどちらかだ。 僕は目を伏せ、されるがままになる覚悟を決めた。 「んー、じゃあさ」 不意に、僕を握る手の力が緩んだ。 カタリ、とカウンターの上に置かれる。 きくりさんが背負っていたベースケースを下ろし、チャックを開けた。 現れたのは、歴戦の傷跡が刻まれたプレシジョンベース。 「いい音、聴かせてあげる」 彼女の雰囲気が変わった。 濁っていた瞳の奥に、鋭い燐光が宿る。 アンプにシールドを繋ぎ、ボリュームを上げる。 その動作に迷いはない。 先ほどまでの千鳥足が嘘のように、彼女は仁王立ちでベースを構えた。 バチンッ! 空気が爆ぜた。 ピックを使わない、彼女特有の三味線の撥のようなスラップ奏法。 重く、太く、そして内臓を揺さぶるような低音が、静まり返ったSTARRYの空気を切り裂く。 「……ッ!」 凄い。 理屈抜きに、身体が震えた。 僕の鼓膜だけでなく、5cmの身体全体が共鳴板になったかのように振動する。 グルーヴがうねり、リズムが跳ねる。 酔っ払って呂律も回らないだらしない女。 けれど楽器を持った瞬間、彼女は「廣井きくり」というカリスマに変貌する。 (本物だ……) 涙が出そうになった。 ここ数日、僕が味わってきたのは、性欲や支配欲、歪んだ愛情といったドロドロしたものばかりだった。 けれど今、目の前にあるのは純粋な音楽だ。 圧倒的な才能と、積み重ねられた技術。 彼女の指先が弦を叩くたびに、僕の死んでいた心に火が灯る。 「どぉ? 痺れるでしょぉ?」 ワンフレーズを弾き終え、きくりさんがニヤリと笑う。 その笑顔は酒乱のそれではなく、誇り高いミュージシャンのものに見えた。 (この人なら……) 希望が芽生える。 彼女は確かに酒癖は悪いし、だらしない。 けれど、これほど音楽に対して真摯な音を出せる人が、理不尽に人を傷つけたり、尊厳を踏みにじったりするだろうか。 いや、しないはずだ。 音楽家としてのリスペクトが、僕の中で彼女への警戒心を解いていく。 「凄いです……! やっぱりきくりさんは、最高のベーシストです!」 僕は顔を上げ、心からの称賛を叫んだ。 この人となら、音楽の話ができるかもしれない。 ペット扱いではなく、一人のミュージシャンとして接してくれるかもしれない。 「んふふ、そぉ? 嬉しいこと言ってくれるじゃ~ん」 きくりさんが顔を赤らめ、上機嫌に身体を揺らす。 よかった。通じた。 僕は胸を撫で下ろす。 音楽は言葉を超える。 この信頼関係があれば、きっと酷いことにはならない。 「ペットくんが褒めてくれたからさぁ……もっと元気になろっか!」 きくりさんがベースを置き、再び鬼ころしのパックを手に取った。 その目が、妖しく三日月形に歪む。 「え?」 嫌な予感が背筋を走る。 彼女は空いたコップを手に取り、そこへなみなみと日本酒を注ぎ始めた。 表面張力ギリギリまで満たされた、透明な液体。 きくりさんは僕を掴むと、そのコップの真上へと持ち上げた。 「お酒のお風呂、気持ちいいよぉ~?」 「まっ、待ってくださ――」 「ダイブ~!」 制止の声はチャポンという水音にかき消された。 音楽への敬意も、淡い希望も、すべては安酒の海へと沈められた。 視界が透明な液体に染まる。 冷たい。 いや、痛い。 鼻と口から一気に侵入してきたのは、水とは似て非なる劇薬だ。 強烈な揮発性の刺激が粘膜を焼き、喉の奥を食い荒らす。 息ができない。 もがく手足が重い。 水よりも比重の軽いアルコールが、僕の体を容赦なく底へと引きずり込んでいく。 「ぶく……ごぼッ……!」 肺が焼けるようだ。 皮膚の毛穴という毛穴から鬼ころしが浸透し、血液を一瞬で沸騰させるような酩酊感が襲う。 視界がぐにゃりと歪む。 目の前で揺らめくきくりさんの顔が、悪魔のように歪んで見えた。 死ぬ。 こんな安酒の中で、誰にも知られずに溺れ死ぬんだ。 (嫌だ……!) 生存本能が爆発する。 底を蹴り、指先をコップの縁にかける。 ヌルヌルと滑るガラスの壁に爪を立て、渾身の力で体を引き上げた。 バランスが崩れる。 僕の体重がかかり、コップが大きく傾いた。 ガシャン! 轟音と共に世界が横倒しになる。 テーブルの上に透明な津波が発生し、僕はその濁流に揉まれて木の天板へと投げ出された。 全身ずぶ濡れ。 肺に入った酒を吐き出し、激しく咳き込む。 喉が熱い。頭が割れそうだ。 けれど、助かった。 「あーっ! もったいない!」 頭上から悲鳴が降ってきた。 きくりさんが、溺れかけた僕の安否など気にする様子もなく、テーブルに広がった液体を凝視している。 彼女はテーブルに覆いかぶさるように身を乗り出した。 長い髪が酒の海に浸るのも構わず、顔を近づける。 ズズッ、ジュルッ……。 異様な光景だった。 彼女はテーブルにこぼれた酒を、舌で直接舐め取っている。 長い舌が這い回り、こぼれた雫を一滴残らず回収していく。 そこにプライド高きミュージシャンの姿はない。 ただアルコールという快楽物質に飢え、理性も羞恥心もかなぐり捨てた、浅ましい獣が一匹いるだけだ。 「……んぷぁ。あー、危ない危ない。一滴でも無駄にしたらバチ当たるしねぇ」 一通り舐め終え、きくりさんが満足げに唇を拭う。 その濁った瞳が、テーブルの隅で震えている僕を捉えた。 ニヤリ。 口角が三日月形に裂ける。 獲物を見つけた目ではない。 まだ残り物があることに気づいた目だ。 「あ、ここにも残ってるじゃ~ん」 巨大な手が伸びてくる。 逃げる間もなく、濡れた体をつまみ上げられた。 僕の服、髪、そして肌。 全身がたっぷりと酒を吸い込み、滴っている。 彼女にとって今の僕は、人間ではない。 アルコールが染み込んだ、極上のスポンジだ。 「ペットくんについたお酒も……もったいないよねぇ~?」 鼻先まで持ち上げられる。 彼女の呼気が顔にかかる。 アルコール臭と、甘ったるい体臭。 捕食者の匂い。 「いただきま~す」 口が大きく開かれる。 暗い空洞。 ぬらりと光る舌と、喉の奥の暗闇が見える。 抗う術などない。 重力に従い、僕は頭からその温かく湿った地獄へと放り込まれた。 パクッ。 世界が閉じた。 唇が合わさり、外の光が遮断される。 僕の体は、天才ベーシストの口腔という名の密室に幽閉された。 暗黒。 そして、むせ返るような熱気と湿度。 僕の世界は瞬時にして、廣井きくりという生物の内側へと閉じ込められた。 「ん……む……」 頭上から、いや、周囲全方位から鼓膜を圧迫するような重低音が響く。 彼女が喉を鳴らす音だ。 足場がぐらりと揺らぐ。 僕が乗っているのは、巨大で分厚い肉の絨毯――彼女の舌の上だ。 「んむ……ちゅ……」 舌が動く。 意思を持った大蛇のようにうねり、僕の体を上顎へと押し付けにかかる。 逃げ場はない。 天井は硬い骨の感触、床はぬめる筋肉の塊。 その狭間で、僕はプレス機にかけられたように押し潰される。 「(くっ、苦しい……! 食べられる……!)」 恐怖で思考が凍りつく。 だが、きくりさんに僕を咀嚼するつもりはないらしい。 彼女の目的はあくまで、僕の全身に染み込んだ鬼ころしの回収だ。 ざらり。 背筋に戦慄が走る。 舌の表面にある無数のザラザラが、ヤスリのように僕の背中を擦り上げたのだ。 痛いほどのザラつきと、唾液のヌルヌルとした不快感。 相反する二つの感触が同時に襲いかかる。 彼女は僕を転がし、舐め回し、衣服の繊維の奥に入り込んだアルコールを一滴残らず吸い出そうとしている。 「ん……しゅ……じゅるっ……」 強烈な吸引。 頬が、脇腹が、太ももが。 ダイソンの掃除機で吸われているかのような圧力で、粘膜に密着させられる。 僕の体から酒が吸い出されるたびに、彼女の喉奥から「んぅ~♡」という恍惚の声が漏れる。 酒だ。 彼女は僕を味わっているのではない。 僕というフィルターを通して、安酒を味わっているだけだ。 その事実が、人間としての尊厳を根こそぎ削り取っていく。 「(熱い……! 溶ける……!)」 酸素が薄い。 充満するのはアルコールの揮発臭と、彼女の胃袋から上がってくる甘ったるい発酵臭。 それがサウナのような熱気となって僕を蒸し上げる。 全身がべとべとの唾液まみれになり、視界も開けられない。 ただ、巨大な肉塊に揉まれ、転がされ、全身をくまなく洗浄される感触だけがある。 「れろ……じゅず……」 舌先が、僕の首筋に絡みつく。 ぬるりと這い上がり、耳の裏、鎖骨のくぼみ、脇の下へと侵入してくる。 くすぐったさと恐怖、そして生理的な嫌悪感。 だが、それ以上に恐ろしいことが起きていた。 酒風呂で全身の皮膚から摂取したアルコールと、この密室での酸素欠乏。 それらが僕の脳を強制的に酩酊状態へと引きずり込んでいく。 視界が回る。 思考がまとまらない。 抵抗しようとする腕から力が抜け、ふにゃりと垂れ下がる。 されるがまま。 巨大な舌の上で、僕はただ弄ばれるだけの肉人形と化した。 きくりさんの舌が、僕の股間――最も酒が染み込み、蒸れている場所へと狙いを定めたのが分かった。 舌先が、僕の股間に到達した。 最も酒を吸い込み、体温で温められ、芳醇な蒸気を発している場所だ。 きくりさんにとって、そこは極上の熱燗のようなものなのだろう。 「ん……じゅるっ……」 吸引音が変わる。 強い吸い付き。 舌全体を使って包み込み、転がし、しごき上げるような動き。 これはもう、洗浄ではない。 明確な愛撫だ。 「(やめ……そんな……!)」 抵抗しようにも、アルコールが脳を麻痺させ、手足に力が入らない。 むしろ、全身の血流が沸騰し、快楽の濁流となって下腹部へ集中していく。 熱い。 きくりさんの口内温度と、僕自身の火照りが混ざり合い、境界線が溶けていく。 ザラザラとした舌の表面が、敏感な部分を執拗に擦り上げるたびに、背骨を突き抜けるような痺れが走る。 「(だめだ、感覚が……おかしい……!)」 酔いのせいか、恐怖の裏返しなのか。 天才ベーシストの舌に翻弄されているという背徳感が、理性のタガを外していく。 逃げ場のない肉の洞窟で、僕はただ喘ぐことしかできない。 上顎に押し付けられ、舌で弾かれ、吸い出される。 限界は、唐突に訪れた。 吸い付く力が一際強まり、真空状態のような圧力がかかった瞬間。 僕の中の何かが、弾け飛んだ。 全身が弓なりに反り、硬直する。 喉の奥から、言葉にならない熱い呼気が漏れた。 意思とは無関係に、下腹部の奥底から灼熱の奔流が噴き上がる。 ドロリ……。 重く、熱い塊が放出された。 それは勢いよく飛び散るのではなく、きくりさんの舌の上で溢れ出し、口腔内を満たしていく。 白濁した命の雫が、唾液と酒に混ざり合い、濃厚なカクテルとなって彼女の舌を汚す。 僕の全てが、彼女の中に吸い込まれていくような虚脱感。 視界が白く明滅し、意識が遠のく。 「んっ……ごくん」 喉が鳴る音。 飲み込まれた。 僕の出した不浄な液体を、彼女は何の躊躇いもなく飲み込んだ。 「ぷはぁっ!」 唇が開かれ、外の光が差し込む。 新鮮な空気が流れ込んでくるが、僕はきくりさんの舌の上で、ドロドロの粘液まみれになって横たわることしかできない。 見上げれば、きくりさんが恍惚とした表情で唇を舐めていた。 「あはは、濃いのが出たねぇ~♡ お酒のツマミに最高じゃん」 悪魔だ。 この人は、僕の尊厳も、命の素も、すべてをただの肴として消費した。 絶望で涙が滲む。 早く星歌さんが帰ってきてくれないと、本当に壊されてしまう。 その時、カウンターに置かれたきくりさんのスマホが震えた。 画面には『星歌ちゃん』の文字。 助かった。 お迎えだ。 僕は最後の力を振り絞り、スマホの方へと手を伸ばした。 「あ、もしもしぃ~? 星歌ちゃ~ん」 きくりさんが上機嫌で通話ボタンを押す。 スピーカーから、星歌さんの焦った声が漏れてくる。 『悪いきくり! トラブルが長引いて、今日中には戻れそうにない!』 「え?」 思考が停止する。 戻れない? 今日中に? 『そいつを店に置いておくわけにもいかないし……悪いけど、一晩預かってくれないか? 明日の朝イチで迎えに行くから!』 死刑宣告。 それは、僕がこの酔っ払いモンスターの巣窟へ連行されることを意味していた。 「おっけ~! 任せといて~!」 きくりさんが満面の笑みで親指を立てる。 僕の絶望など知る由もない星歌さんは、『助かる! 頼んだぞ!』と言って通話を切ってしまった。 ツーツーという電子音が、僕の終わりの合図のように響く。 「やったねペットくん! お持ち帰りだ~!」 きくりさんの手が伸びてくる。 逃げようとする僕の体は、まだ痺れていて動かない。 鷲掴みにされ、酒臭い胸元へと引き寄せられる。 「私の部屋、いーっぱいお酒あるからねぇ。朝まで付き合ってもらうよぉ~?」 濁った瞳が、歪んだ欲望に輝く。 僕はSTARRYの天井を見上げ、声にならない悲鳴を上げながら、彼女のボロアパートへと連れ去られていった。 ガチャリ、と鍵が開く音がした。 重い鉄の扉が軋んだ音を立てて開かれると同時に、鼻が曲がるような悪臭が吹き込んできた。 アルコールの残り香、コンビニ弁当の腐敗臭、そしてカビと湿気。 それらが渾然一体となった、まさに底辺の匂い。 「たっだいまぁ~……。ようこそぉ、私の城へぇ……」 きくりさんがよろめきながら靴を脱ぎ捨てる。 薄暗い室内。 目が慣れるにつれて浮かび上がってきたのは、足の踏み場もないほどのゴミの山だった。 転がる鬼ころしの空きパック、積み上げられた缶チューハイの塔、脱ぎ捨てられた衣服の残骸。 伊地知家の清潔なリビングとは対極にある、荒廃した景色。 これが、憧れていた天才ベーシストの私生活なのか。 「んしょっとぉ」 僕の体は雑に放り出された。 着地したのは万年床と思われる煎餅布団の上だ。 シーツは黄ばみ、何かのシミが無数に付着している。 酒と汗が染み込んだ布地の上で、僕は恐怖に身を縮めた。 逃げ場なんてない。 ここは彼女のテリトリーであり、法の及ばない密室だ。 「あ~あ……なんかさぁ……」 きくりさんがドスンと布団の上に座り込む。 彼女はパック酒のストローを咥えながら、濁った瞳でじっと僕を見下ろした。 その視線が、ねっとりと体に絡みつく。 先ほどまでの陽気な酔っ払いとは違う。 もっとドロドロとした、渇ききった欲望の色がそこに宿っていた。 「ペットくん見てたらさぁ……ムラムラしちゃった」 背筋が凍る。 性欲の対象。 このゴミ溜めの中で、ただの処理道具として消費される未来が確定した瞬間だった。 「手伝ってよぉ。……あ、拒否権ないから」 きくりさんはニヤリと笑うと、着ている緑色のワンピースの胸元を寛げた。 下着は見えない。 ただ、薄い皮膚と骨の浮き出た鎖骨が露わになる。 「ここ、寂しいんだよねぇ」 巨大な手が伸びてくる。 鷲掴みにされた僕は、そのまま彼女の胸元へと強引に捻じ込まれた。 「ぐっ……!?」 痛い。 窒息するような圧迫感はあるが、そこには柔らかさなど微塵もなかった。 女性特有の胸のクッションが一切ない。 あるのは、薄い皮膚のすぐ下にある肋骨の硬さと、ゴツゴツとした胸骨の感触だけだ。 不健康なまでに痩せ細った、ガリガリの胸板。 ワンピースの化学繊維と、彼女の硬い肋骨の間に挟まれ、僕はプレス機にかけられたようにきしむ。 「んっ……あ……」 きくりさんの呼吸が荒くなる。 彼女は僕を胸に抱いたまま、自らのスカートの裾を捲り上げた。 カサカサと乾いた音がする。 そして、その手が股間へと潜り込んでいく気配。 「んぅ……ペットくん……硬いねぇ……」 彼女は僕を胸板にグリグリと押し付けながら、下半身で自慰を始めた。 振動が伝わってくる。 皮下脂肪がない分、彼女の心臓の鼓動がダイレクトに僕の背中を殴打し、早鐘のように高鳴るリズムが骨伝導で響き渡る。 酒臭い吐息が頭上から降り注ぐ。 ゴミとアルコールの匂いが充満する布団の上で、僕は尊敬するミュージシャンのオカズとして、その痩せた胸にすり潰され始めた。 「んっ……ぁ、んぅ……ッ!」 自分の喉から出たとは信じがたい、高く上擦った声が漏れた。 恥ずかしい。 けれど、止められない。 先ほどの酒風呂で全身の皮膚から浸透したアルコールが、神経を異常なまでに過敏にさせているのだ。 きくりさんの指が脇腹に食い込む感触だけで、電流が走ったように背筋が跳ねる。 衣服の擦れ、体温の接触、それら全てが暴力的な快感となって脳を殴打する。 「あはは! なにその声、すっごい可愛いじゃんペットくん」 きくりさんが面白そうに目を細めた。 彼女は僕の反応を楽しむように、無造作に自分のロングスカートを捲り上げる。 露わになったのは、色気のかけらもない、ヨレヨレになった灰色のコットンパンツだった。 レースも装飾もない、量販店のワゴンセールで買ったような安物。 毛玉さえ浮いているその布地の中央には、すでにどす黒いシミが広がっている。 「直接ご挨拶しなきゃねぇ」 「え、ちょっ……」 有無を言わせぬ握力で、僕の体はその股間へと押し付けられた。 「ひ……ッ!?」 熱い。 火傷しそうなほどの熱量と、不快な湿り気。 さっきまで自慰をしていたという事実は、布越しに伝わるそのグチョグチョの感触が証明していた。 薄い綿生地一枚を隔てて、きくりさんの秘部の輪郭が、粘膜の形が、僕の顔や胸にありありと伝わってくる。 「ほら、ここがイイんでしょぉ? 遠慮しないで擦り付けなよぉ」 「や、やめて……感じちゃう……ッ!」 「いーよぉ、感じちゃいなよ。私の汁でベタベタになりなぁ」 きくりさんが腰を揺する。 彼女の手が僕の背中を押し、自分の股間へと強く密着させたまま、上下左右にグリグリとこね回す。 ザラついた安物の布地と、その奥にあるぬめる肉の弾力。 相反する二つの刺激が、アルコールで麻痺した理性を粉砕しにかかる。 濡れた布が、僕の敏感な先端を擦り上げる。 逃げ場はない。 鼻腔いっぱいに広がるのは、蒸れた汗と、饐えたアルコール、そして彼女自身から溢れ出た強い雌の匂い。 それが脳髄を犯し、強制的に興奮のスイッチを叩く。 「ん……っ、あはっ、ピクピクしてるぅ……」 きくりさんの愉悦に満ちた声が頭上から降ってくる。 彼女の指が、僕の体を通じて自分自身のクリトリスを刺激するように、執拗に圧力をかけてくる。 僕は彼女のオナニーの道具だ。 ただのバイブ代わり。 その屈辱的な事実とは裏腹に、肉体は限界を超えた刺激に悲鳴を上げている。 (だめだ、もう……耐えきれない……!) 視界が白くスパークする。 全身の血液が沸騰し、下腹部に集まった熱量が臨界点を突破した。 「あっ、く、うぅぅーーッ!!」 弓なりに反り返った体から、抑えようのない衝動が迸る。 ドクン、と熱い塊が吐き出された。 それはきくりさんの下着に吸い込まれ、彼女の愛液で作られたシミの上に、新たな白濁の地図を描き足していく。 「あ~あ、出しちゃった。早すぎだよぉ」 きくりさんがケラケラと笑う。 僕は彼女の股間に顔を埋めたまま、ピクリとも動けない。 安っぽい下着の繊維に染み込んだ自分の穢れと、彼女の体液の匂い。 それに包まれながら、僕は底辺の部屋で、抗えない快楽に屈した敗北感に打ちひしがれていた。 「あー、もう我慢できない」 気怠げな、しかし熱を含んだ声と共に、視界を覆っていた灰色の布が消え失せた。 きくりさんが腰を浮かせ、濡れた下着を足首まで引き下ろし、乱雑に蹴り捨てる。 ゴミの山に、僕の白濁と彼女の愛液で汚れた布切れが追加された。 目の前に現れたのは、一切の虚飾がない生の秘部だ。 手入れなどされていないのだろう。 無造作に生い茂るアンダーヘアが、汗と分泌液で濡れそぼり、太ももに張り付いている。 その奥にある粘膜は、充血したように赤く腫れ上がり、だらしなく口を開けていた。 そこから溢れる透明な液が、痩せこけた内太ももを伝ってシーツに滴り落ちている。 「……っ」 あまりにも生々しい光景に、言葉を失う。 これが、あのステージで神がかった演奏をするカリスマの真の姿なのか。 羞恥心も、美学もない。 ただ快楽を貪るために開ききった、野生動物のようなメスの一部分。 「直接……入れてあげる」 きくりさんの手が伸びてくる。 アルコールと手汗でベタつく指先が、僕の胴体を無造作に鷲掴みにした。 抵抗する間もない。 宙に浮いた体は、湯気を立てる股間の真上へと運ばれる。 「興奮するねぇ……」 彼女の瞳孔が開いている。 そこに僕という人間を見ている光は微塵もない。 あるのは、手頃なサイズの異物をねじ込みたいという、幼児的で残酷な好奇心と性欲だけだ。 鼻をつく強烈な匂い。 饐えたアルコール臭と、濃厚な体液の香りが混ざり合い、熱風となって吹き上がってくる。 「んっ、しょ……」 グチュッ。 「ぐぅっ……!?」 足先が、ぬめる肉の入り口に触れた。 きくりさんは躊躇わない。 僕の頭を押さえつけると、グリグリと強引に自身の最奥へと押し込んでいく。 狭い。 そして、熱い。 まるで溶岩の中に沈められるようだ。 まとわりつく粘液がローションとなり、僕の体はずるりと彼女の胎内へ飲み込まれていく。 音楽へのストイックさなど、欠片もなかった。 僕への敬意も、優しさもない。 ただ「穴が空いているから埋める」「気持ちよくなりたいから使う」。 そんな単純で暴力的な理屈だけで、僕は憧れの人と結合させられる。 「あはっ、入ったぁ……」 下半身が完全に埋没した。 締め付けられる圧迫感と、全方位から伝わる彼女の脈動。 ドクンドクンと波打つ肉壁が、侵入者を排除するどころか、より深くへ引きずり込もうと蠢いている。 僕はもう、廣井きくりという生物の一部だ。 彼女の不健康な内臓に取り込まれ、消化されるだけの異物になり果てた。 外見からは想像もできない灼熱が全身を包み込んでいる。 不摂生で痩せこけた体躯。 しかし、その内側にある肉壁は、獲物を逃がさない強烈な弾力と、とろけるような湿り気を帯びていた。 36度台の平熱ではない。 アルコールによって強制的に引き上げられた、病的な高熱だ。 全方位から締め付ける肉の圧力が、僕の骨格をきしませる。 「んっ、すごい……。お腹、ぽっこりしてる……」 頭上から、面白がるような声が降ってくる。 きくりさんが自分の下腹部を撫でているのだ。 彼女の腹部の皮膚は脂肪がほとんどなく、紙のように薄い。 そのため、胎内に侵入した僕の形が、リアルな隆起となって表面に浮き出ているのだろう。 外側から押し当てられる冷たい手のひらの感触が、薄い肉壁一枚を隔てて僕の背中に生々しく伝わってくる。 「ほら、ペットくん。君、私の胃袋の下にいるんだよぉ」 ぐにゅぅ。 「がぁっ……!?」 彼女が指先で、浮き出た僕の体を上から押し潰すように弄る。 内と外からの挟撃。 逃げ場のない密室で、僕は彼女の内臓の一部として消化される恐怖を味わう。 充満するのは、胃液の酸っぱい匂いと、粘膜から直接分泌されるアルコールの揮発臭。 呼吸をするたびに、濃厚な酒精が肺を満たし、意識が泥のように濁っていく。 「んっ、入ってるだけじゃつまんない……。ペットくん、動いて……」 理不尽な命令。 こんな高圧環境下で動けるはずがない。 だが、きくりさんの膣壁が大きく脈打ち、僕を奥へと誘うようにうねり始めた。 催促だ。 無数のひだが、イソギンチャクのように僕の全身に吸い付き、しごき上げる。 「っ、ぐぅ……!」 必死に手足をばたつかせる。 その僅かな抵抗さえも、彼女にとっては至上の刺激となるらしい。 内壁が痙攣し、熱い愛液がダム決壊のように溢れ出す。 ヌルヌルとした濁流が僕の目鼻を塞ぎ、溺れさせる。 「あはっ、いい……! 内臓、こすれてるぅ……!」 きくりさんの腰の振りが激しくなる。 ガリガリの骨盤が、僕の体をすり潰す石臼のように回転する。 限界だ。 高温の肉壺で蒸され、アルコール漬けにされ、物理的な圧迫を受け続ける。 僕の生存本能が、これ以上の保持は不可能だと判断した。 脳髄が痺れるような感覚と共に、下半身の堰が切れる。 「あ、いく……っ、いっちゃう……!」 きくりさんの呼吸が引きつる。 彼女の全身が、バネ仕掛けのように硬直したのが伝わってくる。 強烈な締め付け。 僕の体をちぎり取らんばかりの収縮に合わせて、僕の中の命が根こそぎ吸い出された。 ドプッ、ドプン……。 勢いよく放たれた白濁が、彼女の胎内を白く染め上げる。 それは快楽の放出というよりは、生命力の譲渡に近かった。 熱い塊が脈打つたびに、僕の意識は闇へと溶け落ちていく。 「ぎぃっ、イイィィィーーッ!!」 きくりさんが獣のような絶叫を上げ、背中を弓なりに反らせた。 肋骨が浮き出るほどに海老反りになった彼女の体内で、僕はただ搾りカスになるまで、その白濁を垂れ流し続けた。 嵐のような痙攣が収まった。 けれど、そこは安息の地ではない。 ドロドロに溶け合った体液の沼。 僕ときくりさんの出した分泌液が飽和状態となり、不快な湿地帯と化した胎内で、僕は溺れかけていた。 酸素が足りない。 むせ返るようなアルコールの揮発臭が、思考能力を奪っていく。 「ん……さてとぉ。出さないとねぇ……」 頭上の遥か彼方で、間の抜けた声がした。 外の世界へ繋がるゲートが、ぐにゅりと開かれる。 光が差し込むのと同時に、巨大な指が二本、ヌルリと侵入してきた。 救助の手。 そう思ったのは一瞬だった。 「んしょ……っ、と」 指先が僕の胴体を挟もうとする。 だが、きくりさんの指自体が手汗と愛液で濡れている上に、僕の全身もローションまみれの状態だ。 摩擦係数はゼロに近い。 チュルッ。 「あっ」 掴まれた体が、勢いよく指の間から滑り落ちた。 重力に従い、再び最奥へと落下する。 その際、敏感になった僕の先端が、ひだの多い内壁に乱暴に擦り付けられた。 「くっ、うぅ……!」 声にならない悲鳴。 快感ではない。 ただ痛く、そして惨めだ。 助けてくれ。 早く外の空気を吸わせてくれ。 「あれぇ……? つるつる滑るぅ……。ペットくん、逃げないでよぉ」 逃げているわけじゃない。 あなたの指がおぼつかないだけだ。 きくりさんは泥酔して指先の力加減がバカになっているのだろう。 彼女は苛立ったように、今度はさらに乱雑に指を突っ込んでくる。 爪が当たる。 内壁ごと抉るような動き。 「ここかな……えいっ」 再び挟まれる。 今度は強い。 あばら骨がきしむほどの握力で鷲掴みにされ、強引に出口へと引きずり上げられる。 外の空気が近づく。 助かる。 そう確信した瞬間、出口付近の最も締まりの良い筋肉のリングが、僕の体を通すまいと収縮した。 「んっ、きっつ……」 きくりさんの指が止まる。 拮抗する力。 そして、耐えきれなくなった指先が、再びパチンと弾けた。 スポンッ! 「あはは! また落ちちゃった」 悪夢だ。 弾き飛ばされた僕は、ピストン運動のように再び胎内の奥底へと叩きつけられる。 全身を襲う衝撃と、内壁との激しい摩擦。 行ったり来たり。 出口という名のゴール目前で、何度も振り出しに戻される焦燥感。 そのたびに、全身にまとわりついた白濁と愛液がかき混ぜられ、泡立っていく。 「(出して……頼むから早く出して……!)」 意識が飛びそうだ。 熱い。 苦しい。 きくりさんの体温とアルコールが、僕を完全に茹で上げようとしている。 「もー、面倒だなぁ。……よいっ、しょぉぉ!!」 三度目の正直。 きくりさんは指だけでなく、爪を立てて僕を食い込ませるようにして掴んだ。 激痛が走るが、今度は滑らない。 肉壁がずるずると擦れる音と共に、僕は強制的に外界へと引きずり出された。 「ぷはっ……!?」 冷たい空気が肌を刺す。 ゴミの山とカビの臭い。 それさえも、今の僕には極上の酸素に感じられた。 シーツの上に転がされる。 全身ヌルヌルで、自力では立ち上がることさえできない。 ただのエラ呼吸をする魚のように、僕はパクパクと口を開閉させ、汚れた天井を見つめていた。 泥酔と疲労で霞む視界の中、きくりさんの顔が近づいてくる。 彼女は僕をつまみ上げたまま、じっと瞳を覗き込んできた。 さっきまでの蕩けたような表情とは違う。 濁った瞳の奥で、冷たく鋭い光が揺らめいている。 それは、他人の大切な物を壊す瞬間の子供のような、純粋で残酷な悪意だった。 「そういえばさぁ……星歌ちゃん、君のことすっごい大事にしてたよねぇ?」 ドキン、と心臓が跳ねる。 その口調には、明らかに僕個人への興味ではない、別の感情が滲んでいた。 星歌さんへの歪んだ執着。 姉御肌で完璧な彼女に対する、劣等感と加虐心の入り混じった何か。 「じゃあ、これ……内緒にしててね」 ニヤリと口角が吊り上がる。 次の瞬間、僕の視界は彼女の顔面で覆い尽くされた。 ブチュッ。 唇が押し付けられる。 それは事故でも、挨拶代わりの軽いものでもない。 明確な所有の刻印だ。 こじ開けられた口内に、分厚い舌が侵入してくる。 強烈な酒の味。 胃からせり上がってきた酸味と、腐った果実のような口臭。 それらが僕の口腔内を蹂躙し、唾液を塗りたくっていく。 「ん……れろ……じゅるっ……」 激しい。 僕の舌を根元から絡め取り、吸い上げ、噛む。 STARRYの店長が大切に管理しようとした新品を、泥で徹底的に穢して自分の色に染め上げる。 その背徳的な愉悦が、舌の動きを通して伝わってくるようだ。 酸素が奪われる。 脳が痺れる。 (だめだ、もう……体が……) 抵抗しようとする理性とは裏腹に、アルコール漬けになった神経回路がショートした。 直前の胎内での絶頂で空になったはずの袋が、過剰な刺激によって無理やり収縮を始める。 快楽ではない。 脊髄反射による、乾いた痙攣だ。 ガクガクッ、と全身が大きく跳ねた。 もはや液体など残っていないはずなのに、壊れた蛇口のように下腹部が脈打つ。 透明な粘液と、ごく僅かな白濁が、きくりさんの掌の中に吐き出された。 魂の残りカスを絞り出されるような、虚無の放出。 僕の体はビクビクと痙攣し、だらしなく舌を突き出したまま白目を剥いた。 「んぷぁ……。あはは! まだ出るんだ、元気元気!」 唇を離したきくりさんが、ケラケラと無邪気に笑う。 僕の惨めな反応が、彼女の征服欲を満たしたのだ。 彼女は手の中で汚れた僕を雑に振ると、ワンピースのポケットへと無造作にねじ込んだ。 「じゃあ、STARRYいこっかぁ……むにゃ……」 立ち上がろうとした彼女の体が、大きくグラつく。 限界だったらしい。 そのまま、糸が切れた操り人形のように前へと倒れ込んだ。 ドサッ。 ゴミの山がクッションとなり、彼女の体を柔らかく受け止める。 衝撃がポケットの中の僕を揺さぶる。 直後、頭上から豪快な音が響き始めた。 「グガー……スピィ……」 爆睡。 さっきまでの嗜虐的な行為が嘘のように、彼女は深い眠りの底へと落ちていった。 残されたのは、狭く暗いポケットの中の僕だけだ。 まとわりつく自分の精液と、きくりさんの愛液。 染み込んだ酒の臭いと、彼女の体臭。 それらが充満する地獄の密室で、僕は頭上に響く轟音のようなイビキと、背中越しに伝わる不規則な心音を聞きながら、終わらない夜を過ごすことになった。


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