XaiJu
ドーン
ドーン

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【小説】小さな親切、大きな損失。


「あっ!」


「どうしたの、佐奈?」


「あたし、行ってくる!」


 友人と一緒に歩いていた佐奈は、視線の先の横断歩道に向かって駆けだす。


「ちょっと!佐奈~。はぁ、相変わらずねぇ……。美人で、頭も良くて、気立てもイイときたら、男たちが群がるのも当然だわ……。でも、ちょっと危ういのよね~……まあ、そこも男たちの保護欲を誘うのかもしれないけど……どっちにしても羨ましいわ~」


 

…………



 アタシは横断歩道で立ち往生しているお爺さんを見つけて、駆けだした。

 ここの信号は切り替わりが早い上に交通量が多いので、足の遅い老人にとっては渡るタイミングが難しいはずだ。


【他人に親切にすることはとてもイイことだよ……だけど……】


 既に他界している祖母がいつも言っていた言葉だった。

 その言葉には続きがあった気がするのだけど、思い出せなかった。

 でも、大好きだったお婆ちゃんの言葉だ。

 アタシはずっと守ることにしている。


「お爺さん、大丈夫ですか?良かったら私、付き添いましょうか?」


「おやおや、それは親切に。じゃあお言葉に甘えて、そこまでお願いしようかねぇ」


 アタシは一緒に横断歩道を渡り、指示された裏路地まで老人に付き添う。


「ここでいいの?他に私にできることがあったら『何でも』遠慮なく言ってね?」


「……そうかい、そうかい、優しい娘さんだねぇ。じゃあ1つだけお願いしてみようかねぇ」


「なんでしょう?」


「…………」


 老人は小声でブツブツと呟き始める。

 それは何かの呪文のようにも思えた。


「え?聞こえないわ」


 アタシは聞き取ろうと老人に顔を近づける。


「……ワシと交代しておくれ!」



…………



 気が付くと目の前の少女が、自分の胸に手を当てながら、心底楽しそうな笑みを浮かべていた。


(えっと……そうだ、このお嬢さんが道を渡るのに付き添って……くれたんだっけ?)


 酷い違和感を感じながらも、アタシ……じゃなくてワシは記憶から状況を思い出し、付き添ってくれた少女にお礼を述べる。


「ああ、お嬢ちゃん、ありがとうね」


 お礼を述べるとその少女は、一瞬意外そうな顔をした後、少し憐れむような顔をしながら口を開いた。


「お礼を言うのはワシ……じゃなかった、アタシの方なんだけどね。でも、そうね、お爺さんも余生を無事に過ごしてね。それじゃあ、お元気で!」


 そう言い捨てて少女はその場を離れていった。

 ワシはそれを黙って見送り、再び重い足を動かし始めたのだった……。



…………



 内心の喜びを隠しきれず、アタシは満面の笑顔を浮かべ、軽い足取りで友人の元に戻る。

 その様子を見た彼女は、少し呆れた顔になって話しかけてきた。


「いつも思うんだけど、佐奈ってお人よし過ぎるよ?いつか酷い目に遭うんじゃないかって、みんな心配してるよ?」


 その言葉にアタシは思わず苦笑いを浮かべてしまう。


「昔、お婆ちゃんが良く言ってたの、【他人に親切にすることはとてもイイことだよ】って」


「うん、佐奈いつも言ってるよね。それがどうしたの?」


 そうだ、今のアタシならその言葉の続きがハッキリと思い出せる。


「その言葉には続きがあってね、【……だけど必要以上に厚意を押し付けてはいけないよ?相手に付け込まれることがあるから……】ってね」


「ふ~ん、その通りだと思うけど?」


「うん。だから、『これからは』気を付けることにするわ」


「これからは?どういうこと???」


「いいからいいから。それより今日、お泊りに行っていい?一緒にお風呂に入ったりしようよ!」


「えっ!別にいいけど……どうしたのよ、いきなり」


「うん、折角だから色々楽しみたいだけ、ふふふ」


(ふふふ、上手くいったわ!あの『おまじない』は完全に無防備の相手じゃないと出来ないから、半ば諦めていたのに……。まさかこんな美少女の人生が手に入るなんて!凄くラッキー!)


 折角頂いた人生だ。

 思う存分楽しんでやらないと『前のアタシ』に悪い。

 そうだよね?





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