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ドーン
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【小説】くノ一ひょうい忍法帖 裏第3話 『回帰』

【これはPixivで公開中の『くノ一ひょうい忍法帖』の第3話を別視点から書いた話です。】 「あれがカエデの男か……」  ターゲットの男は人通りの多いショッピングモールを歩いていた。  私たち姉妹に追い詰められて自爆したはずの女がまだ生きていると聞いた時は驚いたモノだが、それ以上に男を作って一緒に暮らしているという話は自分の耳を疑った。 (よし!)  人の流れに乗って、自然な感じでその男に近づく。  あちらも私に気付いたようで、その視線を感じる。  そして擦れ違いそうになった時、ふらついてみせて、男にもたれ掛かる。  期待通り私の体を受け止めたので、恐縮したように振る舞いながら謝罪してみた。 「ご、ごめんなさい」 「おい、大丈夫か?」 「は、はい。少し貧血になってしまったようです。もしよろしければ、落ち着くまで付き添って頂けませんか?お礼は致しますので……」  しおらしくお願いしてみせると、男は僅かな間を置いて口を開いた。 「……わかった」 (ふふっ、ちょろい!こんなにあっさり釣られるなんて、とんだ間抜けと組んだものね、カエデ……)  内心で馬鹿にされていると気付かない男は、私に付き添うと、人混みを抜け、人気の無い場所に連れ込む。  私は、なってもいない貧血が落ち着いたフリをしながら、笑顔で礼を述べてみる。 「どうもありがとうございました」 「ああ」  曖昧な相槌を打ち、何か考え事をするかのように視線を泳がせた男の陰で、懐に忍ばせていたスタンガンを取り出して、男の首筋まで近づける。  私は嘲笑を浮かべながら言葉を吐く。 「……ほんと、お人よしだね、あんた……」  次の瞬間、首筋に高電圧をくらった男は、呆気なく気を失い、その場に倒れた。 「お見事!ってほどでもないわね、アヤメ姉さん」  私と同じ顔をした女が姿を現して声を掛けてきた。  隠れて私たちの後を追って来ていた双子の妹のユリである。 「そうね、あのカエデのツガイにしては不用心すぎるわね……まあ、いいわ。さっさと運んで、あんたはカエデの奴をおびき出しにいってきて」 「了解、姉さん」  私たちは男を用意してあった部屋へ運び込むと、ユリだけ再び部屋を出ていった。 「ん~」 「おや、お目覚めかい?」  壁にもたれていた男が目を覚ましたので、私は奴の頭上から声を掛けた。 「一体なにを……くっ!」  手足を縛られていることに気付かず詰め寄ろうとした男が無様に床に転がる様子をみて、思わず失笑してしまう。  芋虫のように床から私を見上げて、男は必死に言葉を吐きだした。 「一体なんだっていうんだ!お前、何者だ?」 「あたしかい?あたしはアヤメっていうんだ。お前のツガイの女に用があるんだよ」 「え?」  私が名乗ると、男はしばらく黙りこんだ。  恐らくカエデから何か聞いていたのだろう。  私はカエデに道具のように使われた事を思い出して、露骨に顔を歪ませながら言葉を吐き出した。 「あの爆発で生きていただなんて、ほんと、しぶとい女だねぇ~。おまけにこんな男をつくっているなんて……」  だが、カエデの男を手中にした以上、こちらが有利であることは間違いない。  その事実で自然と口元に笑みが浮かんだ。 「お前を目の前でいたぶってやったら、あの女はどんな顔をするんだろうね~、楽しみだわ、ふふふ」  言葉を投げかけられた男の方は、何故か私を見つめて笑みを浮かべていた。  不審に思いながら様子を観察していると、心の内側で何かを練り上げているような気配を感じる。  まるで何かの忍術の準備のような……。 「ま、まさか!!!」  私は『ある事』に思い至り、驚きの声を挙げて後ずさるが、既に手遅れだった。  それはカエデの奴が修めた秘術の事……。 「忍法!心移しの術!!!」  男が術を発動する声が響き渡る。 「し、しまっ……」  私の意識はそこで一旦途絶えたのだった……。 ………… 「くっくっく、あっはっは!」  『俺』の口から綺麗な女性の声で、下品な笑い声が漏れる。  その事実が更に『俺』の機嫌を良くさせる。 「こんなに上手く事が運ぶとはな……、さすがカエデだ」  アヤメの体を『心移しの術』で奪い取った『俺』は、アヤメの声で呟く。  双子姉妹が俺たちの周りを嗅ぎまわっていることを、カエデは気づいていた。  しかも、気付いていることをこいつらに悟られないようにだ。  『俺』はアヤメの体を自分の体のように動かし、壁に掛かっている鏡の前まで歩いていく。 「話には聞いていたが、これ程までの上玉だとはな!」  鏡に映るその容姿は、今まで弄んできた女たちの中でもかなりの上位の部類だ。  鏡の中のアヤメはニヤリと笑みを浮かべると、両腕を胸に持っていき、そこにある膨らみをじっくりと揉み始める。 「妹の方がいつ戻ってくるか分からないから、そんなに派手に楽しめないが……見た目だけでもこの清廉な女の体を弄れるのは最高だな!」  コンコン!  しばらく体を弄っていると、突然ドアがノックされた。 「上手くいったわ、アヤメ姉さん。カエデの奴、もうすぐここに来ると思うわ」  そしてドアが開くとアヤメと同じ顔を持った女……妹のユリが入ってきて『俺』を姉だと思って報告する。 (まあ、体はお前の姉だがな、くっくっく……) 「ああ……ご苦労様、順調だな……」  報告にアヤメの姿の『俺』が頷くと、ユリは床に転がる俺の体を見つけて嘲笑を浮かべる。 「何、この男。今から酷い目に会うのにまだ呑気に寝てるなんて……。さすが、あのカエデのツガイになる大馬鹿モノね!」  『俺』はその様子を黙って眺めながら、懐に隠してあるスタンガンを確認する。 「あとは、あの女の目の前でこいつをいたぶってやるだけね、ふふふ」 「そうだな……」  そして受け答えをしながら、おもむろにユリの死角でスタンガンを取り出す。 (バチバチ!)  全てが予定通りに進んで機嫌良さそうに笑っていたユリ首筋に触れると、不快な音と共に火花が散った。 「うぐっ!!ね、姉さん……なぜ……」  姉と思っていた『俺』にスタンガンを当てられた妹は、驚きに目を見開き、そのまま気絶したのだった。  ユリが戻ってきてから、数分も立たないうちにカエデがやってきた。 「予定通りにいったみたいですね?」  部屋に転がる『俺』の体とユリの姿を見て、カエデが話しかけてきた。 「ああ」  『俺』はアヤメの声で返事をする。 「あとはこの姉妹をどうするかですね?」 「うん、それに関しては俺に考えがある」  カエデの問いに、俺はアヤメの綺麗な顔を歪めてニヤリと笑い言葉を続ける。 「お前に忍術の話を聞いたときに、思いついた事があるんだ。俺に任せてくれ」 ………… (あれ?)  気付くと『私(=アヤメ)』は鏡の前に立って、そこに映る自分の姿を眺めていた。 (まずは質問だ……お前たちは『心刻みの術』を習得しているか?)  突然、心の内側からの『声』にそう問われ、私は素直に答えることにした。 「……『心刻みの術』?……もちろん習得している……妹も……」  口に出して答えると、私に質問した『声』は愉快そうに笑いだして、更に言葉を続ける。 (くくく、いいぞ……では今から送るイメージを自分の中で固めて、『心刻みの術』でお前の心に刻み付けるんだ……)  今の『私』にはその『声』に反抗する意思も権利も無いので素直に頷き『イメージ』を待つ。  そして送られてきた『イメージ』を自分の中でしっかりと受け止め、内容を呟いていく。 「……私たち姉妹は……桔平様とカエデ様の忠実な下僕……お二人に仕えて喜んでもらうことが私たちの存在意義であり、至上の悦び……」  口に出して確認していくことで、私の中で『イメージ』が確実なモノとなって定着していく。  その内容に関しては何の感想も持てない。今は素直に受け入れるだけだ。 (よし!では仕上げだ!やれ!!!)  イメージが固まると、その『声』は興奮気味に命令してきた。  『私』はそれに従い、手で印を結ぶと、鋭い気合と共に、自分を屈辱的な存在に変える仕上げの言葉を自ら口にした。 「はああああぁぁぁぁ~っ!忍法!心刻みの術!!!」  『私』の声が響き渡ると同時に術が発動し、自分の意識が強力な自己暗示により書き換えられていく。 (くっくっく、アヤメ、お前、最高だよ!)  『声』は心底楽しそうに礼を述べた。  『私』は何の感慨もなくその言葉を受け止めると、また意識を失った……。 (あれ?)  再び意識を取り戻すと、私は鏡の前に座り込んで、傍に立っている桔平様を見上げて見つめていた。 (え?あ!わ、わたしたちはご主人様に対して、なんてことを仕出かしたの!)  自分たちが犯してしまった過ちを思い出し、心の中が恐怖で凍り付く。 (と、とにかく謝らなければ!)  私は急いで姿勢を正し、床に土下座した。 「も、申し訳ありません!主人である桔平様を拉致するなんて……私たち、どうかしていたんです!」  そして床に額を押し当て必死に謝罪する。  しかし怒り狂ってもおかしくないはずの桔平様は、なぜか愉快そうな雰囲気を醸し出しながら鷹揚に謝罪を受け入れてくれた。 「まあ、これからの働きで取り返すんだな」 「は、はい!もちろんです!桔平様とカエデ様の忠実な下僕として、精一杯仕えさせていただきます!」  後に目を覚ました妹のユリも自分の過ちを素直に認め、ご主人様たちに寛大に許されたのだった。  こうして私たち双子姉妹は、桔平様とカエデ様の忠実な下僕として、再び充実した日々を送る事となったのだった。


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