屈辱の足首骨折から幾日、恥ずかしながら、先日晴れて退院の運びと相成った。
入院生活自体は実に快適であった。病院食は絶妙にウマく、主治医の先生を始め、不良患者であるところの僕に対する看護師諸氏のケアは完全に完璧であり、医療ホスピタリティの何たるかを思い知らされた数日間であった。
が、いかんせん終日使用可能なWi-Fi回線が無いことに加え、PC環境無しという不自由に耐えかね、早期の退院を医師に申し出たのは何を隠そうこの僕である。
昔、一年近くネット環境から断絶された時期を過ごしたことはある。
近所の桂川が氾濫したときも、当時は集合住宅の二階住みだったこともあって、もともとテレビを持たない僕が災害について知ったのはずっと後のことだった。世間のニュースから隔絶された期間はあったが、そのときは特段思うところはなく、不自由を感じることもなかった。
ただし、一般論として、現代人が生きるにはPC環境は必要不可欠である。人によってはスマホであったり、タブレットであったりするかも知れないが。インターネットはもともと戦争のために生まれた技術だとは聞くが、現代において最高のイノベーションであったことに議論の余地はない。
話が逸れたが、あまりに早すぎる退院を主治医に願い出たとき、「君には退院はまだ早すぎる」という感じで、てっきり引き止められるものとばかり思っていたのだが、意外にも驚くほどあっさり許可が降りてしまって逆に拍子抜けした。
病室への酒類の持ち込みを看護師さんに懇願したり、手術をするのしないので家族と大いに揉め、面会用の懇談室にて人目も憚らず大喧嘩を繰り広げるなどし、おおよその病院スタッフを敵に回す頃、私の退院は決定していた。事実上の厄介払いである。
元巨女神であり、見るからに異質な存在である僕の取り扱いをめぐり、病院スタッフ諸氏の対応がいくつかのグループに別れていたのは前に書いた通り。
ある者は非常に好意的で親切であり、またある者は生理的に超無理という態度を隠そうともせず、汚物を見るような視線を投げてきた。そうした中でも、幹部クラス、そして幹部候補にあたるであろう雰囲気を出しているしごできの者は、なんとかこの問題児を穏便に送り出そうとプロの仕事に徹し、おそらくは僕に対して感じているであろう異物感・嫌悪感をおくびにも出さず、この異端者を最後まで簡単にあしらってのけた。脱帽である。
普段、自分を取り巻く世界全体に一方的な不信感を募らせてる系の僕ではあるが、こうしたプロフェッショナルの仕事に直接触れ、恐れ多くもその恩恵にあずかる機会を得たのは僥倖であった。僕が知らないというだけで、ちゃんとしている人々は超ちゃんとしている。今回の入院はある意味では最高の大人の社会見学でもあり、このためならば骨の一本や二本など安いものだ。この松葉杖をお前に預ける!
かくして、実質上の放逐というかたちで、私は散々お世話になった病院を後にした。追放という名の退院である。
入院中、やたら愛想が良い割に心底では他人を一切寄せ付けない質であるところの僕が唯一仲良くなった入院患者のおばあちゃんがいて、彼女はとある離島の出身であり、沖縄で言うところのサーダカー、カンダーリ(本土で言うところの「性高い(霊感がある)」・神懸かり)の気配がアリ寄りのアリで、非常に感の鋭い方ということだったのだが、この人が語る不思議な話を興味深く聞くと同時に、かく言う僕も院内でそれなりに怖い経験をし、実を言うとそのことも、快適極まりない入院生活から一秒でも早く脱却したいという動機になったのだけど、それはまた別の話である。