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アイドル水瀬伊織の移籍その2

「お願いしますウチの伊織を新番組で使っていただけませんか!」

765プロのマネージャー制作局を駆け回りで番組プロデューサーに頭を下げて回っていた。

「しつこいねぇ765さんは。悪いけどもううちはウィングプロの子達を使うって決めてるからさ。」

「そこを何とかお願いします!ウチのアイドル達も彼女達には負けてないz」

「しつこいって言ってるだろ!これ以上やるなら出禁にするよ!ほらさっさと帰る!仕事の邪魔!」

そう言われると帰るほかない。

今日もダメだった・・・

マネージャーの頭の中には気を落とす伊織の姿が浮かぶ。

「いやいや!俺が落ち込んでちゃダメだ!伊織の為になんとかしないと!」

自分の頬を叩き喝を入れ直すとマネージャーは別の制作局へと車を走らせた。

その頃伊織は――


♪♪♪~

765プロのレッスン場では伊織が一人ダンスのレッスンをしていた。

仕事がなく待機状態の彼女にはこれ位しかする事が無い。

身体が鈍らないように踊り続ける日々。

伊織にはフラストレーションがたまっていた。

暫くして音楽を止める。

「いつまでこんな毎日続けなくちゃいけないのかしら・・・」

広いレッスン場で一人ため息を吐く伊織。

何の気に無しに備え付けられているテレビを点けると映っていたのはウィングプロの放課後コリアンガールズ。

映像を視ると激しい動きのダンスでもキレのある動きをし続ける彼女達との差を痛感する。

同業者なのだから認めたくなくても分かってしまう。

<韓国女、韓国お得意のごり押し>

そう言ってプライドを保つしかない自分に伊織は更にイライラする。

チッ

テレビを消しレッスン場を後にする。

着替えて事務所に降りるとそこには肩を落としたマネージャーが。

彼は伊織に気が付くと、

「すまん伊織もうしばらくは待機の状態だ。でもレッスンを続けていればまた前みたいに活躍できる!」

努めて明るく語りかける。

「そう・・・私、今日はもう帰るわ」

「そ、そうか。なら俺が送って・・・」

「いい。お疲れ様。」

マネージャーの根拠もない励ましの言葉は伊織に届かない。


帰りの駅で電子カードをバッグから取り出そうとしたときに伊織はあるものに触れた。

以前もらったウィングプロのキムの名刺だ。

「君には才能がある。無能なマネージャーの下にいるのは勿体ない。」

キムの自信にあふれた言葉が伊織の頭の中をリフレインする。

しばらく名刺とにらめっこすると

ゴクリ・・・

意を決したように伊織は名刺に書かれた番号へ電話をかけた・・・。

「もしもしウィングプロのキムですが。」

「もしもし・・・水瀬伊織だけどあんたの話、聞かせてもらいたいんだけど・・・。」

伊織の言葉を聞き電話の向こうでニヤリとキムは頬を緩めた。

「ようやくその気になったか。それじゃ場所は――」


数日後、伊織はキムに指定された韓国料理店の前にいた。

「悪い!前の仕事が長引いて遅くなった」

そう言いながら颯爽とキムはやって来た。

「遅いわよ!もう、アイドルを待たせるなんてマネージャー失格よ!」

ごめんごめんと軽く笑い、キムは伊織と一緒に店へ入っていった。

個室の座敷に案内されキムと2人きりに。

運ばれてきた飲み物を持ち、

「じゃあとりあえず乾杯!」

キムに付き合いグラスを合わせる。

んっ!?

「ちょっとこれお酒じゃないの!」

口をつけた伊織が怒るがキムは気にしない。

「いいじゃないか度数も低いしジュースみたいなもんだよ。それにずっと緊張したままじゃ話も弾まないだろ?」

「でも誰かにバレたら・・・」

番組の打ち上げで先輩タレントや番組Pから勧められ何度か飲んだ経験はあるものの流石に心配する伊織。

「ここはウチの系列の店でちゃんとしてるから従業員からバレたりしないから安心しろ。そら飲んだ飲んだ」

しょうがないわね口だけでもつけとこうかしら――そう思い一口飲む

「あっ美味しい・・・」

「だろ?韓国の酒だからな!」

まるで自分の作ったもののように自信満々に応えるキムに思わず笑みがこぼれる。

美味しい酒と韓国料理に伊織の警戒感はどんどん解かれていった。


食事をしながら伊織の移籍に関するプレゼンが始まる。

熱意溢れる口説き文句に伊織はデビュー前にマネージャーにスカウトされた時の事を思い出した。

(あいつもこんな風に必死で私をスカウトしてたわね・・・ふふっ♪)

そんなことを想いながら話を聞いていると、 

ズイッ

席を立って伊織の隣に座って迫ってくるキム。

伊織の手を取り、見つめながら語りかける。

「このまま仕事がなくなって消えていくのは辛いよな・・・。俺もマネージャーになる前は韓国でアイドルやってたからよくわかるよ。」

キムの目に見つめられて伊織は身体が熱くなるのを感じた。

お酒の酔いのせいかそれともキムに見つめられているからか、ドキドキが止まらない。

「俺ならもう一度伊織を輝かせられる。ウチに来てほしい。」

(こいつの言葉、信じちゃってもいいかも・・・❤)

酔って判断力の鈍った伊織にキムの口説き文句はどんどん浸透していった。


食事も終わりすでに時間は夜遅くになっていた。

「あ、もうこんな時間なのねそろそろ帰らないと。でもお酒の臭いをさせたまま帰るのはまずいわね・・・。」

「ならウチの系列のホテルを取ってやるよ。」

「ふふっ、手際がいいんだから。」

「俺はウィングの❛敏腕❜マネージャだからな。」

軽口を言い合えるほど二人の距離は縮んでいた。

キムの車に乗りホテルまで送られる伊織。

「俺なら伊織をもう一度輝かせられる。」

後部座席で流れる夜景を見ながら頭の中にはキムの言葉が木霊していた。







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