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Fragile Howl 差分

 Fragile Howlの差分小説となります。

 本編を読んでからお楽しみください!


https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24070882


 部屋の空気は少し重かった。窓を開ければ涼しい秋の風が入ってくるのに、それすら億劫で、ミコトはベッドの上でじっと天井を見つめていた。


 「……本当に、大丈夫?」


 横に座るマコトが、心配そうに覗き込む。


 「だから、平気……って言ってんだろ?」


 かすれた声で答えながらも、ミコトの額にはじんわりと汗が滲んでいた。体の芯がじわじわと熱く、そして妙に冷える。腹の奥が重く、じんわりとした不快感が広がっているのは気のせいじゃない。でも、それを悟られるのは嫌だった。


 「そっか。でもさ……顔、真っ赤ですよ?」


 マコトはそう言うと、おもむろに冷えたペットボトルをミコトの額に当てた。ひやりとした感触に思わず目を閉じる。


 「……ん」


 「気持ちいいですか?」


 からかうような声色に、ミコトは薄く睨んだ。


 「うるさい。……てか、お前、さっきから近い」


 「だって、心配なんですもん」


 マコトは不満げに唇を尖らせる。その仕草が、妙に子供っぽくて、ミコトはふっと小さく笑った。


 「お前がそんな顔してると、余計に具合悪くなりそう……」


 「ひどいっ」


 そう言いながらも、マコトの手は優しくミコトの前髪をかき上げる。指先がひんやりとしていて、心地よかった。


 けれど、その安心感とは裏腹に、腹の奥が鈍く、締め付けられるような違和感を訴えていた。

 

 ギュルルル。

 

 ミコトは意識的にゆっくりと息を吐く。少しでも落ち着こうとするように。


 マコトはミコトの変化に気づいたのか、眉をひそめた。


 「……本当に平気?」


 「……んー……ちょっと、だるいだけだ」


 そう言って、なんとか誤魔化す。腹の不快感を悟られないように、ミコトは少しだけ体勢を変えた。けれど、動くたびに違和感は増していく気がする。


 「お粥、作る?」


 「……いらねぇ。食欲ない」


 「じゃあ、ポカリ?」


 「あとで」


 そう答えたものの、正直、水分すらも受け付ける気がしなかった。


 マコトはミコトの手をそっと握る。


 「……ミコトさんがこんな弱ってるの、珍しいから心配です」


 「……うるさい」


 「もっと頼っていいんですよ?」


 その言葉に、ミコトは一瞬、喉が詰まるような感覚を覚えた。頼る、か。そんなこと、あまり考えたことがなかった。


 「……じゃあ、さ」


 ミコトはほんの少しだけ視線を落とし、囁くように言った。


 「……ちょっとだけ、そばにいてくれ」


 「もちろん」


 マコトは嬉しそうに微笑み、手をぎゅっと握り返した。


 ほんの少しだけ、腹の痛みが和らいだ気がした。

 部屋の静寂に、二人の呼吸音だけが微かに響く。

 ミコトは布団の上で微熱にぼんやりしながら、隣に座るマコトの肩にもたれかかっていた。


 「……もう少し、このままでいいですか?」


 マコトの声は、いつもよりも柔らかい。


 「……うん」


 ミコトは小さく返事をしながら、彼の肩の温もりを感じていた。普段ならこんな距離感は意識してしまうはずなのに、今はそれどころじゃない。

 病み上がりのだるさと、ほんの少しの甘えたい気持ち。それが混ざり合って、今はただ、こうして寄り添うことが心地よかった。


 「ミコトさん、顔が赤いですね」


 「熱……だろ」


 そう言ったものの、マコトの顔が思ったより近くて、違う理由で熱が上がりそうだった。


 「ミコトさん、汗が……」


 そう言いながら、マコトがそっとミコトの頬に手を添えた。

 指先がひんやりしていて、微熱で火照った肌には心地よかった。


 「……ん」


 無意識に目を閉じる。


 すると、マコトの手がゆっくりとミコトの頬をなぞるように動き――

 次の瞬間、唇が触れそうになった――その時。


 「っ……!」


 ミコトの腹が、突如として締め付けられるように痙攣した。


 

 ギュルルル。

 

 最初は小さな違和感だった。だが、それは一気に鋭い痛みへと変わる。


 「っ、ヤバ……」


 眉間に皺を寄せ、ミコトは急に身を起こす。


 マコトが驚いたように「ミコトさん?」と声をかけるが、それどころではない。


 冷や汗が一気に噴き出し、胃の奥からこみ上げる圧倒的な緊迫感。


 「マジでヤバい!!!」


 ミコトは布団を跳ね除けると、ほぼ飛び出すように部屋を駆け出した。


 「えっ……?」


 マコトがぽかんとした声を漏らすのが聞こえたが、振り返る余裕はない。


「急に腹が!限界だ!トイレ!!」


 ただただ、トイレへ一直線。

 肩を寄せ合い、甘くなりかけた空気は一瞬で吹き飛んでいた。

 

 「っ……くそ……!」


 ミコトは歯を食いしばり、トイレまでの距離をひたすら駆けた。といっても家の中なので大した距離ではない。

 下腹部はまるで誰かに握りつぶされるような圧迫感に襲われ、今にも限界がきそうなほどだった。足を止めたら、その瞬間に全てが終わる――そんな予感すらする。


 (間に合え……!)


 冷や汗が額を伝い、背中までじっとりと濡らしていく。


 「ミコトさん、大丈夫ですか!?」


 後ろからマコトの声がしたが、返事をする余裕はない。


 ドアノブを掴むと同時に、ガチャリと回し、一気に中へと滑り込んだ。


 バタン!


 乱暴に扉を閉め、背中で支えるようにもたれかかる。

 呼吸は荒く、喉はひゅうひゅうと音を立てる。まだ、まだ間に合う――。

 震える手で便座のフタを上げ、なんとか腰を落とそうとしたその瞬間、再び激しい痛みが襲った。


 「ッ……!」


 全身に力を込め、意識を集中させる。

 極限状態の中で、必死に耐えながらも、ぎりぎりのところでどうにか便座へ座ることに成功した。


 「はぁっ……、はぁっ……」


 ブリュリュリュリュリュリュリュブリブチチチチチチ!ブルルルルル!ブバッ!


 心臓は早鐘のように鳴り響き、脱力感で膝が震えた。


 激しい下痢の音が鳴り響く。だが、間に合った。


 ほっとした途端、どっと全身の力が抜ける。


 脱水しかけの体が小刻みに震え、額を手で覆いながら、ようやく一息つく。


「くぅっ。お腹痛い」


 ブリュュッブリブチチュチチチチ!


 ミコトが盛大に下痢をしているところでトイレの外から声がかかる。


「大丈夫ですか?お腹痛いんですか?」


 マコトは本当に心配している様子で声をかける。

 その声にミコトは、一瞬、目を見開いて顔を赤くした。無意識に手で口元を覆う。


「大丈夫だ!頼むから遠くへ行っていてくれ!恥ずかしい!」


 ミコトの声は震え、言葉がつっかえる。


「でも……」


 マコトは引き下がらない。


「だから、恥ずかしいから!うぅ」


 と、恥じらいながら叫んだ。声が普段の冷静さを失う。また腹痛がぶり返したのだ。


 ブリュブリブリブリブリブリッ!!!!


 激しい下痢の音がこだまする。


「ご、ごめん」


「いいから、離れて?ね?」


「わかった」


 マコトは返事をした後もトイレの前で笑みを浮かべながら、離れたふりをして音を聞いていた。


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