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「本格的なコスプレイヤーの立ち振る舞いを学びたい」
──その一心で、大手イベントにカメラアシスタントとして参加した沙織。
美咲とれいなの完璧なポージングと表現力を目の当たりにし、プロの世界の奥深さに圧倒される。
しかし、その場しのぎの「好奇心」からの具体的な質問の数々が、沙織の「裏の顔」を悟らせる決定的な手がかりとなってしまう。
聖騎士エレノアとの運命的な出会いも重なり、沙織のコスプレ活動は新たなステージへと向かう。
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沙織が自宅のソファでテレビを見ながらくつろいでいると、スマホの着信音が鳴った。
画面には「沙耶香ちゃん」の文字が表示されている。
「はい、お疲れ様」
「沙織ちゃん、お疲れ様!急なんだけど、明日時間ある?」
「明日?土曜日だよね?特に予定はないけど...どうしたの?」
「実は明日、都内で大きなコスプレイベントがあるの。メッセ東京っていう大会場でやるやつ」
沙織の声が少し緊張した。
「コスプレイベント...」
「私、いつも撮影してる子たち2人のカメラマンで参加するんだけど、アシスタントとして一緒に来ない?」
「アシスタント?私が?でも何もできないよ」
「大丈夫大丈夫。機材持ちと見学が主な仕事。でもね、これセリナちゃんの活動に絶対役立つと思うの」
「本格的なコスプレイヤーの立ち振る舞いとか、注意点とか、直接学べる機会よ」
「確かに興味はあるけど...私がセリナやってるって知られたら大変じゃない?」
「心配無用。私のカメラアシスタントとして紹介するから。セリナのことは絶対秘密にする」
「でも、コスプレのことなんて何も知らないのに、アシスタントなんてできるかな」
「だからこそ勉強になるの。観察と学習に集中してくれればいいから」
沙織は少し考え込んだ。
「そう言われると...確かに一度見てみたい気持ちはある」
「でしょ?きっと新しい発見がいっぱいあると思う」
「分かった。やってみる」
「やったー!絶対いい経験になるから」
「何か持参するものとかある?」
「特にないけど、動きやすい服装で来てね。あと、できれば黒っぽい服がいい。撮影の邪魔にならないから」
「了解。集合時間は?」
「朝9時に新橋駅で待ち合わせ。そこから電車でメッセ東京に向かうから」
「分かった。ちょっと緊張するけど、楽しみ」
「私も楽しみ。沙織ちゃんがどんな反応するか見てみたい」
電話を切った後、沙織はソファに座ったまま天井を見上げた。
「コスプレイベントか...どんな世界なんだろう。セリナのこともっと上手にできるようになるヒントが見つかるかもしれない」
明日への期待と不安が入り混じった気持ちで、沙織は早めに就寝することにした。
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新橋駅の改札前で、大きなカメラバッグを背負った沙耶香が手を振っている。
沙織は黒のTシャツに黒のジーンズという、言われた通りの服装で現れた。
「おはよう!バッチリな服装だね」
「おはよう。これで大丈夫?」
「完璧!じゃあ行こうか。電車で30分くらいだから」
「その荷物、重そうだね」
「撮影機材一式だからね。でも慣れてるから大丈夫」
電車の座席に座りながら、沙耶香が今日の予定について説明を始めた。
「今日撮影する2人、どちらもすごく本格的なコスプレイヤーなの」
「どんな人たち?」
「美咲ちゃんは24歳で明るい性格。魔法使いのキャラが得意で、衣装製作もすごく上手」
「自分で衣装作るの?」
「そう。プロレベルよ。もう一人のれいなちゃんは26歳で、クールな戦士系キャラが得意。ポーズ研究がすごくて、写真映りを計算し尽くしてる」
「すごいなぁ...私なんて衣装は全部買ったものだし」
「最初はみんなそうよ。でも今日見てたら、いろいろ学べると思う」
ゆりかもめ線の駅からメッセ東京に向かう途中、既にカラフルな衣装を着た人々が同じ方向に歩いていた。
沙織は目を見開きながら、その光景に圧倒される。
「うわぁ...もうこんなところから...」
「まだ序の口よ。エントランス見たらもっとびっくりするから」
巨大なコンベンションセンターの入り口には、色とりどりの衣装を着た人々が長い列を作っている。
アニメキャラクター、ゲームキャラクター、映画キャラクター、そしてオリジナルキャラクターまで、あらゆるジャンルのコスプレイヤーが集結していた。
「すごい...こんなにたくさんの人が」
沙織は呟くように言った。
「土曜日だから特に多いのよ。みんな何ヶ月も前から準備してるのよ」
「衣装のクオリティが想像以上にすごい...まるで本物の映画セットから抜け出してきたみたい」
「でしょ?中には数十万円かけてる人もいるからね」
「数十万円...」
沙織は驚愕の表情を浮かべた。
「事前にチケット買っておいたから、すぐ入れるよ」
「ありがとう。お金は後で払うから」
「いいよいいよ、今日はお疲れ様代わりだから」
入場ゲートを通過すると、東京ドーム2個分はある巨大な会場内に、さらに多様なコスプレイヤーたちが所狭しと活動していた。
会場内には撮影エリア、交流エリア、販売エリア、休憩エリアなど、様々なスペースが用意されている。
「あ、着ぐるみの人もいる」
沙織は小声で興奮気味に言った。
会場の一角で、数体の美少女着ぐるみキャラクターが撮影を行っている光景が目に入る。
「結構いるでしょ?でも質はピンキリなの」
「確かに...あの人は動きがすごく自然だけど、こっちの人は少し硬い感じ」
「そういう違いも今日勉強しよう。沙織ちゃんのセリナちゃんは、自然な方だと思うよ」
「でも、まだまだ改善の余地はありそう」
移動しながら様々なコスプレイヤーを観察する沙織。
同じキャラクターでも、演者によって表現力に大きな差があることに気づく。
「同じキャラクターなのに、人によってこんなに印象が違うんだ」
「そうなの。技術もそうだけど、キャラクターへの理解度とか、表現への情熱とかも影響するのよ」
「奥が深い...」
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指定の待ち合わせ場所である大きな柱の前に到着すると、既に2人のコスプレイヤーが待っていた。
一人はピンクのツインテールウィッグに青と白を基調とした魔法使いローブを着た小柄な女性。
杖を持ち、まるでゲームから飛び出してきたかのような完璧な再現度で、明るい笑顔で手を振っている。
もう一人は黒のロングヘア(地毛)に赤と金を基調とした戦士装束。
剣と盾を身につけ、凛とした佇まいで立っている。
美咲とは対照的にクールな印象だが、品のある美しさを持っていた。
「美咲ちゃん、れいなちゃん、お疲れ様!」
「沙耶香ちゃん、おはよう!」
美咲が満面の笑みで手を振る。
「お疲れ様です」
れいなは落ち着いた声でお辞儀をした。
「こちら、今日アシスタントをお願いした沙織ちゃん。友人で、コスプレに興味があるから勉強させてもらえればと」
「初めまして、野田沙織です。今日はよろしくお願いします」
沙織は緊張しながら丁寧にお辞儀をした。
美咲は沙織を見た瞬間、その体型の良さに目を見張った。
スタイルめっちゃいい...身長も程よいし、手足も長い。
コスプレしたら絶対映えるタイプだと心の中で思う。
「わぁ、沙耶香ちゃんのお友達!初めまして、桜井美咲です」
美咲が明るく自己紹介した。
「美咲さん、衣装すごく精巧ですね。まるで本物の魔法使いみたい」
「ありがとう!手作りなの。頑張って3ヶ月かけて作ったから」
「3ヶ月も...」
沙織は驚きの表情を浮かべた。
れいなは冷静に沙織の全身を観察し、プロポーションの良さを分析的に評価していた。
手足長い...それにおっぱい大きい!
ウエストとのバランスも完璧。
この体型でコスプレしたら絶対映える。
羨ましいと心の中で思った。
「田中れいなです。今日はよろしくお願いします」
れいなは品よく微笑みながら言った。
「れいなさんの戦士装束も迫力がありますね。本当にゲームから出てきたみたい」
「ありがとうございます。コスプレは初めてですか?」
「はい...見学するのも初めてで。分からないことだらけです」
「そうなんですね。でも興味があるということは、何かやってみたいキャラクターがあるんですか?」
「まだ決まってないんですが...皆さんを見て勉強させてもらえればと」
「今日はよろしくね!いろいろ教えてあげるから」
「じゃあ、まずは撮影ブースに移動しましょうか。沙織ちゃんは機材持ちと見学をお願いします」
「はい、頑張ります」
沙耶香から予備のカメラバッグと三脚を受け取る沙織。
その重さに少し驚く。
「結構重いんですね」
「最初はそうかも。でも慣れるよ。基本的には私の隣で見学してくれればいいから」
「沙織さん、何か分からないことがあったら遠慮なく聞いてね」
「撮影中は静かにしていただければと思いますが、合間に質問していただくのは全然構いません」
4人で撮影エリアに向かって歩き始める。
沙織は周囲のコスプレイヤーたちを観察しながら、緊張と期待で胸を躍らせていた。
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「ファンタジーの森」と名付けられた撮影ブースには、本格的な森の背景セットが用意されていた。
人工の木々、苔むした岩、幻想的な照明効果まで完備されている。
「ここがいいかな。光の当たり方も自然で」
「この背景、エリーザにぴったりですね」
「こんな本格的なセットがあるんですね」
沙織は感嘆の声を上げた。
「イベントによって背景の種類も違うんです。今日は選択肢が多くてラッキーですね」
沙耶香が三脚を設置し、カメラの設定を始める。
沙織は機材を持ちながら、その手際の良さを見学していた。
「沙織ちゃん、こっちにレフ板置いて」
「レフ板?」
沙織は困惑した。
「この白い板のことよ。光を反射させて、顔を明るく写すの」
「なるほど...勉強になります」
撮影が始まると、美咲の表情が一変した。
明るく社交的だった日常の表情から、神秘的で知的な魔法使いの表情へと完全に切り替わる。
表情管理、ポージング、キャラクター化現象、カメラ意識など、美咲の技術的特徴が次々と現れた。
すごい...完全にキャラクターになってる。
私のセリナはこんなに自然な表現ができてるかな?
表情が見えない分、もっと工夫が必要なのかもしれないと沙織は心の中で思った。
「どう思う?」
沙耶香が撮影の合間に小声で聞いた。
「表情がすごく自然で...まるで本物の魔法使いが目の前にいるみたい」
「美咲ちゃんは特に表現力が高いの。4年間の積み重ねがあるからね」
「4年...私もそのくらい続けたら、もっと上手になれるかな」
「絶対になれるよ。でも美咲ちゃんみたいに研究熱心になる必要があるけどね」
沙耶香が様々な角度から美咲を撮影する様子を間近で観察する沙織。
「美咲ちゃん、杖を上に向けて。魔法を唱えてるような感じで」
「こんな感じ?」
美咲が流麗な動作で杖を天に向ける。
「完璧!その表情のまま3秒キープ」
「今度は下から撮るから、凛とした表情で」
「分かりました」
美咲が瞬時にクールな表情に切り替える。
「同じポーズでも、カメラの角度で全然印象が違うんですね」
「そうなの。だから撮影は奥が深いのよ」
「私のセリナの撮影でも、もっと角度を工夫したら良くなりそう」
美咲が撮影の合間に聞き耳を立てながら言った。
「セリナって、どこかで聞いたことがあるような...」
「美咲ちゃん、お疲れ様!すごくいい写真が撮れたよ」
「ありがとうございます。次はれいなちゃんですね」
「お疲れ様でした。美咲の撮影、参考になりました」
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次の撮影場所は「古城の間」。
石造りの城壁と中世ヨーロッパ風の装飾が施された背景セット。
戦士キャラクターのれいなにはピッタリの設定だった。
「この背景、ヴァルキリーの世界観にぴったりですね」
「れいなちゃんにはこういう重厚な背景が似合うと思って選んだの」
「背景とキャラクターの相性も大事なんですね」
「そうそう。ファンタジー系なら森や古城、現代系なら都市部の背景って感じで使い分けるの」
前の撮影から機材を移動し、新しい照明設定を行う。
沙織は機材運びを手伝いながら、その過程を学習していた。
「照明の設定も場所によって変えるんですね」
「当然よ。背景の色調に合わせて調整しないと、被写体が浮いちゃうから」
「奥が深い...」
撮影が始まると、れいなも美咲同様に完全にキャラクター化した。
クールで知的な日常の表情から、勇壮で威厳ある戦士の表情へと変貌。
計算されたポージング、表情の厳格管理、武器操作技術、体型活用など、れいなの技術的特徴が披露された。
「れいなちゃん、剣を振り上げる大胆なポーズいってみよう」
「分かりました」
美しいフォームで剣を振り上げるれいな。
その動作には無駄が一切なく、まるで本当の戦士が目の前で剣技を披露しているかのようだった。
「れいなさんは美咲さんとまた違ったすごさがありますね」
沙織が小声で沙耶香に言った。
「そうね。クールなキャラの表現が特に上手なの」
「セリナも騎士だから、れいなさんの戦士表現、すごく参考になる」
「確かに。騎士らしい威厳の出し方とか、学べることが多そうね」
「今度は盾を構える防御のポーズ。敵の攻撃を受け止めるような感じで」
「こういう感じでしょうか」
盾を斜めに構え、左足を前に出して重心を低く落とす完璧な防御姿勢。
剣は盾の横から突き出すように構えている。
「バランスが完璧ですね。重心の取り方とか、本当に戦士みたい」
「れいなは体幹トレーニングも毎日やってるの。だからこういうポーズが安定してる」
「体幹トレーニング...コスプレのために?」
「当然です。美しいポーズを維持するには、基礎体力が必要ですから」
「なるほど...私も見習わなければ」
「じゃあ次、攻撃から防御への流れるような動きを撮ってみよう」
「分かりました」
剣を振り下ろす動作から盾を構える動作へと、流れるような美しい連続技を披露するれいな。
「動きが止まらない...まるで本当の戦いを見ているみたい」
「れいなちゃんの動的表現は本当にすごいのよ」
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れいなの撮影が一段落し、機材整理の時間になった。
「沙耶香ちゃん、少し会場を見学してきてもいい?」
「もちろん。30分後にここに戻ってきて」
「沙織さん、何か気になるものでもあった?」
「ちょっと...美少女着ぐるみの撮影を見てみたくて」
「着ぐるみに興味があるんですね。結構専門的ですね」
「はい、少しだけ...」
沙織は少し慌てながら答えた。
会場の奥にある「聖なる神殿」背景セットで、一人の美少女着ぐるみが撮影を行っていた。
白と銀を基調とした神聖な衣装、腰まで届く白銀の髪、そして透き通るようなエメラルドグリーンの瞳を持つキャラクター。
あれは...なんて美しいキャラクター。
沙織は足を止め、その場に釘付けになった。
セリナとは正反対の、生命と光を司る聖騎士の威厳ある佇まい。
同じ超小顔設計のマスクを使用していることが一目で分かる完成度の高さだった。
エレノアの撮影風景は見事だった。
長剣を地面に突き立て、片膝をつく敬虔なポーズ。
天を仰ぎ見る神々しい表情。
スカートのスリットから覗く美しい脚線美。
光に反射する白銀の髪の幻想的な美しさ。
その一つ一つの動作に無駄がなく、まるで本物の聖騎士がそこにいるかのような神聖な雰囲気を醸し出していた。
カメラマンの指示に従いながらも、エレノア自身の表現力が随所に光っている。
剣を持つ手の角度、視線の方向、身体の重心の置き方まで、全てが計算し尽くされていた。
特に印象的だったのは、エレノアが祈りを捧げるようなポーズを取った瞬間だった。
両手を胸の前で組み、静かに目を閉じる仕草。
マスク越しでも伝わってくる内なる平安と慈愛の表情。
その神々しさに、周囲で見学していた他の参加者たちも思わず息を呑んでいた。
セリナが氷の騎士なら、あの子は光の騎士...まるで対極にいるような存在。
でもどちらも同じくらい美しい。
いや、むしろ対極だからこそ、お互いを引き立て合えるのかもしれないと沙織は心の中で思った。
約10分間の撮影を見学していた沙織。
エレノアの撮影が終了し、カメラマンと話している隙に、意を決して声をかけることにした。
「あの、すみません」
沙織は恐る恐る近づいた。
エレノアがゆっくりと振り向く。
マスク越しでも伝わる優雅な仕草だった。
エレノアは沙織に気づくと、深々とお辞儀をした。
聖騎士らしい礼儀正しい動作だった。
「撮影を見学させていただいてました。本当に美しくて...」
エレノアは嬉しそうに小さく頷き、胸の前で両手を合わせる感謝のポーズを取った。
エレノアが胸元のポーチから小さなカードケースを取り出し、一枚の名刺を差し出す。
「名刺...?」
沙織は困惑した。
エレノアは頷きながら、名刺を沙織の手に置いた。
名刺には『聖騎士エレノア・サンクティス 生命と光を司る守護騎士 Twitter: @Eleanor_Sanctis 活動地域:東京・神奈川』と書かれていた。
「こんなものがあるんですね...ありがとうございます」
エレノアは再度お辞儀をし、優雅に去っていく。
エレノアが去った後、沙織は名刺を見つめながらスマホを取り出した。
「セリナのアカウントでフォローしてみよう」
Twitterアプリを開き、「@Eleanor_Sanctis」を検索。
美しいエレノアの写真が並ぶアカウントが表示される。
「フォロワー6200人...!」
沙織は画面に表示された数字に驚いた。
自分のセリナアカウントのフォロワー数は540人。
その11倍以上の数字を見て、エレノアがどれほど多くの人に愛されているキャラクターなのかを実感した。
「@Serina_Gravefrost がフォローしました」の通知が送信される。
いつか一緒に撮影できる日が来るかもしれない。
セリナとエレノア...氷の騎士と光の騎士の共演なんて、想像するだけで素敵。
この出会いが、後に沙織のコスプレ活動に大きな変化をもたらすことになる運命的な瞬間だった。
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撮影を終えたエレノアが女性専用更衣室に戻り、パーテーションで区切られた個人スペースの椅子に腰を下ろした。
マスク越しでも疲労が伝わってくる様子で、ゆっくりと深呼吸を繰り返している。
休憩がてら、スマホを取り出してSNSの反響を確認するエレノア。
Twitterの通知欄を開くと、新しいフォロワーの通知が表示されていた。
通知一覧の中に「@Serina_Gravefrost があなたをフォローしました」の文字を発見。
エレノアは一瞬動きを止める。
セリナさん...まさか、あのセリナさんが!?
マスク越しでも分かるほど、エレノアの姿勢が急に緊張したものに変わった。
氷の騎士セリナ - 自分のキャラクターとは対照的でありながら、いつか一緒に撮影してみたいと思っていたキャラクター。
光と氷、生と死、対極にある2つの騎士の共演という構想を心の中で温めていた相手からのフォロー。
通知の時間を確認すると、約20分前。
エレノアは記憶を辿り始める。
20分前...ちょうど神殿前で撮影が終わった時...
撮影終了直後に声をかけてきた人物を思い出すエレノア。
マスクの限られた視界では詳細まで把握できなかったが、印象に残っている要素がある。
あの時声をかけてくれたのは...すごくスタイルの良い黒い服の女性...
名刺を渡したのも、あの人だけ...
マスクの視界制限により顔の詳細までは認識できなかったが、体型の良さと服装、そして何より名刺を渡したタイミングが完全に一致している。
まさか...あの人がセリナさん?
エレノアの心の中で確信が芽生え始める。
憧れていたキャラクターの演者と、実際に対面していた可能性に興奮と驚きが混じり合った。
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30分後、約束通りに撮影場所に戻った沙織。
4人でフードコートに移動する。
「すみません、少し遅くなりました」
「どうだった?いいもの見れた?」
「はい、とても勉強になりました」
「どんな着ぐるみさんを見てきたの?」
「エレノア・サンクティスっていう聖騎士のキャラクターで...とても美しかったです」
「あー、エレノアさんですね。有名な方ですよ」
「有名な方なんですか?」
「着ぐるみ界では結構知られてる。技術も高いし、キャラクター設定も凝ってるの」
広いフードコート内で、それぞれが昼食を選ぶ。
沙織は普通に定食を選ぼうとするが、美咲とれいなの選択に驚いた。
「私、グリーンサラダと鶏胸肉のグリルにする」
「私もサラダメインで。午後も撮影あるから軽めに」
「えっ、それだけで大丈夫ですか?お腹空きませんか?」
「慣れちゃった。コスプレの日は特に気をつけてるの」
「写真って実際より太って写るんです。だから撮影前日から食事管理してます」
「そこまで...」
沙織は驚愕の表情を浮かべた。
席に座りながら、コスプレに対する姿勢について深い話になった。
「沙織さん、本格的にコスプレに興味があるんですか?」
「はい...でも今日皆さんを見て、自分の甘さを実感しました」
「甘さって?」
「技術面もそうですが、取り組む姿勢というか...覚悟が全然違うなって」
「確かに、本気でやるなら相当な覚悟が必要です」
「具体的には、どんな覚悟でしょうか?」
「まず時間とお金。衣装作りに最低でも月20-30時間、材料費で数万円」
「体型維持のためのトレーニング、食事管理。これが一番大変かも」
「SNSでの批判に耐えるメンタルも必要。特に技術が未熟だと手厳しいコメントが来ることもある」
「批判...」
沙織は不安そうな表情を浮かべた。
「でも、それを乗り越えると本当に楽しい世界が待ってます」
「自分じゃない誰かになれる感覚って、他では味わえないから」
「もし私がコスプレを始めるとしたら、どんなことから始めればいいでしょう?」
「まずはキャラクター選びかな。自分の体型や雰囲気に合うキャラを見つけることが重要」
「衣装は最初は既製品でもいいですが、だんだん自作したくなると思います」
「自作...難しそうですね」
「最初は簡単なものから始めればいいよ。私も最初はTシャツにプリントするだけだったから」
「写真の撮り方とかも勉強が必要ですよね?」
「ポージングの研究は必須です。鏡の前で毎日練習してます」
「沙耶香ちゃんみたいな腕のいいカメラマンさんと知り合えたのは本当にラッキーよ」
「みんな最初は手探りよ。沙織ちゃんも少しずつやっていけばいい」
美咲とれいなは、沙織の質問があまりにも具体的で実践的なことに少し違和感を覚え始めていた。
まるで既に何かを知っているかのような質問の仕方だった。
「沙織さん、質問が結構専門的ですね。本当に初心者ですか?」
「え?そうですか?」
沙織は少し慌てた。
「なんとなく、コスプレやったことある人の質問みたい」
「い、いえ、そんなことは...ただ興味があるだけで」
「沙織ちゃんは昔から研究熱心だから」
沙耶香がフォローしながら言った。
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午後は美咲とれいなの合同撮影。
同じゲーム世界の魔法使いと戦士という設定での撮影を間近で見学した。
「2人とも、もう少し近づいて。魔法使いが戦士を回復してるような構図で」
「こんな感じ?」
美咲がれいなの肩に手を置く優しい動作をした。
「ありがたく治療を受けている表情ですね」
れいなが安堵の表情を作る。
お互いの立ち位置を瞬時に判断する連携、相手を活かすポーズの自然な選択、統一された世界観での表現、アドリブでの自然な動作の掛け合いなど、息の合った演技が披露された。
「一人での撮影と全然違いますね」
「そうね。相手のことも考えなきゃいけないから、より高度な技術が必要なの」
「いつか私も、誰かと一緒に撮影できるようになりたい」
美咲が撮影の合間に聞こえて言った。
「あら、もう一緒に撮影する相手を想定してるの?」
「え?あ、いえ...いつかの話です」
沙織は慌てて否定した。
撮影の合間に、美咲とれいなが他のコスプレイヤーたちと自然に交流している様子を観察する沙織。
「美咲ちゃん、その衣装の布どこで買ったの?」
「日暮里のトマトで見つけたの。ちょっと高かったけど質が良くて」
「次回のイベント、一緒に合わせしませんか?」
「ぜひ!バトルシスターズの他のキャラも揃えられそうです」
「皆さん本当に仲がいいんですね」
「コスプレ仲間って、普通の友達とはまた違った絆があるの」
「同じ趣味を本気でやってる者同士だからでしょうね」
「素敵な関係性ですね」
「そういえば、マスクタイプのコスプレについて、どう思われますか?」
「マスク?ああ、着ぐるみ系ですね。あれは別次元の技術が必要ですよ」
「顔が見えない分、全身で表現しなきゃいけないから、すごく難しいと思う」
「具体的には、どんな点が難しいんでしょう?」
「視界制限、呼吸制限、表情が伝わらない...課題だらけです」
「でも上手な人は本当に上手。さっき見てたエレノアさんとかも」
「もし、マスクタイプに挑戦するとしたら、特に注意すべき点はありますか?」
「なんで急にそんな具体的な質問を?」
れいなは少し不思議そうに言った。
「い、いえ...将来的に興味があって」
沙織は慌てて答えた。
「将来的にって、もうやりたいキャラクターとか決まってるの?」
「まだ決まってないんですが...研究として聞いておきたくて」
美咲とれいなは、沙織の質問があまりにも専門的で実践的すぎることに、さらに違和感を覚えていた。
普通の初心者なら絶対に知らないような細かい技術的質問が続いている。
「研究として...ずいぶん詳しく研究するんですね」
「まるで既に何かやってる人の質問みたい」
「そ、そんなことないです。ただの好奇心で...」
「沙織ちゃん、質問が専門的すぎるかも」
沙耶香が小声で注意した。
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「皆さん、今日は本当にお疲れ様でした!」
「沙織さんも一日アシスタント、本当にありがとう」
「お疲れ様でした。どうでした?コスプレイベント初体験は」
「想像以上に勉強になりました。皆さんの技術の高さに本当に圧倒されました」
「とりあえず、今日も無事に撮影できたことに乾杯!」
4人でビールジョッキを掲げて乾杯。
居酒屋の温かい雰囲気の中で、リラックスした空気が流れた。
「皆さん、お酒も飲まれるんですね」
「撮影後はリラックスしたいので。でも量は控えめにしてます」
「沙織さんも飲めるタイプ?」
「ある程度は。でも強い方ではないので」
少しアルコールが回り、会話が弾んできた頃。
「そういえば、最近SNSで話題の美少女着ぐるみ、知ってる?」
「あー、もしかしてセリナちゃん?」
「知ってます。氷の騎士のキャラクターですよね」
「へー、有名なキャラクターなんですか?」
沙織はわざと知らないふりをした。
「クオリティはすごく高いと思う。衣装も髪型も本当に完璧で」
「プロポーションも理想的ですし、ポーズも基本的には悪くない」
「そんなに詳しく見られてるんですね」
「同じ女性として、ちょっと羨ましいスタイルなのよね」
「中身は絶対女性ですよね。動きでわかります」
「ただ、技術的には改善の余地があります」
「どういう点で?」
沙耶香がわざと詳しく聞いた。
「この前のワンピースの写真...下着が透けていました」
「下着が...」
沙織の顔が青ざめた。
「ああ、あれはちょっと...基本的なミスよね」
「はっきり言って論外です。コスプレでは絶対にやってはいけないこと」
「コスプレって、細かいところまで気を遣わなきゃダメなの」
「あれを見て『素人なんだな』と思いました。技術は高いのに、基本ができていない」
「基本的なこと...ですか?」
沙織は震え声で言った。
「下着の選び方、着用の仕方、写真チェックの仕方。全部基本中の基本」
「プロを目指すなら、そういう部分で手を抜いてはいけません」
「もし、そういう失敗をしないためには、どんなことに気をつければいいんでしょう?」
「えっ?なぜそんなに具体的に聞くんですか?」
「い、いえ...将来的にコスプレをやってみたくて、参考にしたくて」
「将来的って、もう具体的なプランがあるの?」
「まだ決まってないんですけど...皆さんみたいに本格的にやってみたくて」
美咲とれいなは、沙織の質問があまりにも実践的で、まるで既に経験があるかのような内容に困惑していた。
「質問の内容が、初心者のものではないような...」
「そうよね。まるで実際に失敗した経験がある人の質問みたい」
「そ、そんなことないです」
沙織は慌てて否定した。
「沙織ちゃんは昔から研究熱心だから」
沙耶香がフォローしながらも内心ハラハラしていた。
美咲とれいなが一瞬、意味深な視線を交わした。
2人とも経験豊富なコスプレイヤーとして、沙織の言動に違和感を感じ取っていた。
「研究熱心...なるほど」
美咲は少し探るような口調で言った。
「でも研究だけで、ここまで具体的な質問は普通出てこないものですが」
れいなは冷静に分析するような視線を向けた。
美咲の心の中では、この人、絶対に何かやってる。
質問が実体験に基づいてるとしか思えないと確信していた。
れいなの心の中では、間違いない。
ただの興味本位じゃない。
実際に活動してる人の質問よという確信があった。
「ちなみに、沙織さんはSNSでコスプレイヤーさんをフォローしたりしてるんですか?」
「え?あ...はい、少し...」
沙織は明らかに動揺した。
「どんなジャンルに興味があるんですか?」
れいながじっと沙織を見つめながら聞いた。
「色々と...特に決まったジャンルは...」
沙織は視線を逸らしながら答えた。
美咲の心の中では、沙耶香ちゃんの不自然なセリナの話題の振り方、沙織さんの着ぐるみへの異常な好奇心...それにこのプロポーション。
セリナさんと体型が似すぎてるという確信が深まっていった。
れいなの心の中では、もうほとんど自分がセリナやってますって言ってるようなものよ?
こちらから言った方がいいの?
でもマナー的にはこちらから詮索するのは...という思いがあった。
「そういえば、最近見たコスプレで印象に残ってるものってあります?」
美咲はわざと一般的な質問に戻しながら聞いた。
「美少女着ぐるみとか、興味深いと思いませんか?」
れいなが直球で振ってみた。
「あ...はい、すごいなって思います」
沙織はまた動揺した。
「沙織さんから見て、最近のレベルの高い着ぐるみレイヤーさんって誰だと思います?」
「例えば…今巷で話題のセリナさんとか、どう思われます?」
れいなが確信を持った視線で言った。
「セ、セリナさん...ですか?」
沙織は完全に動揺し、声が裏返った。
「ご存知ですよね?氷の騎士のセリナさん」
美咲は微笑みながらも鋭い視線を向けた。
「あー、え~っと!そろそろ次の撮影の打ち合わせをした方がいいんじゃない?構図とか確認したいこともあるし」
沙耶香は話題を逸らそうと必死だった。
やばい、完全にバレる流れ…っていうか2人とも確実に気づいてると心の中で思った。
「あの!そういえば、皆さんも名刺とかお持ちなんですか?」
「もちろん!コスプレイヤーには必需品よ」
「交流のためには欠かせませんね」
「よろしければ、いただけませんか?」
「もちろん!」
美咲とれいなが、それぞれ自分のコスプレイヤー名刺を沙織に渡した。
美咲の名刺には『魔法使いエリーザ/桜井美咲 @misaki_cos』
れいなの名刺には『戦士ヴァルキリー/田中れいな @reina_cosplay』と書かれていた。
沙織は名刺を受け取ると、すぐにスマホを取り出し、セリナのアカウントで2人をフォローしてしまった。
「フォローさせていただきました」
「あぁ…」
美咲とれいなが同時に声を上げた。
「沙織さん、今フォローしたアカウント名は?」
「あ...えーと...」
沙織は完全に固まった。
「セリナ・グレイヴフロストさん」
「...」
沙織は無言で顔が真っ青になった。
「やっぱりね」
美咲は納得の表情を浮かべた。
「まぁだいたい予想はついてましたけど」
「私達にはバレないって思ってた?」
「あー...」
沙耶香は頭を抱えた。
「これって...バレちゃいました?」
沙織は震え声で言った。
「今自分で確定させたよね?」
美咲が苦笑いを浮かべた。
「私がセリナですって、自分で言ったんですよ?」
「沙織ちゃん… ほんとこういうところ昔から変わらないんだから...」
沙耶香が呆れながら言った。
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沙織の自爆発言の後、テーブルに気まずい沈黙が流れた。
沙織は顔を真っ赤にして下を向き、沙耶香は頭を抱えている。
美咲とれいなは、予想通りだった反面、実際に確認が取れたことに少し戸惑っていた。
「あの...その...」
沙織はしどろもどろに言った。
「大丈夫大丈夫。別に責めてるわけじゃないから」
「むしろ、今日の質問の仕方で大体予想はついてました」
「やっぱり分かりやすかったんですね...」
沙織は恥ずかしそうに言った。
「まあ、バレちゃったものはしょうがないよね」
沙耶香は諦めの苦笑いを浮かべた。
「セリナちゃん、いつも素敵だなって思ってたから、中の人にお会いできて嬉しいかも」
「正体詮索はマナー違反ですから、私たちから誰かに言うことはありませんので安心してね!」
「ありがとうございます...本当に恥ずかしいです」
気まずい空気を和らげるように、沙耶香が会計の提案をした。
「そろそろお会計にしましょうか」
「今日は楽しかったです。沙織さんも一日お疲れ様でした」
「こちらこそ、勉強になりました」
居酒屋の外に出ると、駅とは逆方向にあるホテルへ向かう美咲とれいな。
ここで自然に別れることになった。
「私たちはあっちのホテルなので、ここでお別れですね」
「今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそ。撮影も上手くいって良かったです」
「沙織さん、今日は本当にお疲れ様でした」
「ありがとうございました。色々と勉強になりました」
「またイベントでお会いすることがあるかもしれませんね」
「その時は、同じレイヤー仲間として仲良くしてくださいね」
「はい...こちらこそよろしくお願いします」
美咲とれいなは手を振りながら、ホテルの方向へ歩いていく。
特別感動的でもなく、特別冷たくもない、自然な別れの光景だった。
「はぁ...完全にバレちゃった」
「まあ、結果的には良かったんじゃない?」
「でも恥ずかしい...あんなに簡単にバレるなんて」
「質問内容もだけど、フォローのタイミングが完璧すぎたのよ。普通気づくでしょ!」
「今度から気をつけます...」
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「今日一日、色々なことがありすぎて頭が整理できない」
「でも勉強になったでしょ?本格的なコスプレイヤーの技術とか」
「それはすごく勉強になった。でも自分のレベルの低さも痛感した」
「でも基礎はできてるから、これから上達していけばいいのよ」
「エレノアさんとの出会いが一番印象的だったかも」
「あの聖騎士の?」
「セリナとは真逆のキャラクターだけど、同じくらい美しくて...いつか一緒に撮影できたらいいなって」
「きっとできるよ。沙織ちゃんなら」
「今日は本当にありがとう。一人じゃ絶対にできない経験だった」
「私も楽しかった。沙織ちゃんの新しい一面も見れたし」
「新しい一面?」
「積極的に質問してる姿。普段の沙織ちゃんより堂々としてた」
「これからどうなるかな。美咲さんたちと、本当に仲良くなれるかな」
「大丈夫よ。自然体でいれば」
「そうだね。まずはセリナの技術向上を頑張ろう」
「その調子。私も撮影技術、もっと向上させるから」
沙織は今日の出来事を振り返りながら、少しずつ新しい世界への期待感を膨らませていた。
正体がバレてしまった恥ずかしさはあるが、それ以上に新しい可能性への扉が開かれた予感を感じていた。