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人形になりたくて Side Story② ~ 怜奈 Side ~

※本作品はpixivで公開した、【人形になりたくて】のサイドストリーとなります。本編をお読みいただいた事を前提にしておりますので、詳細等が省略されております。 本編を一読頂いたあと、お楽しみ頂けると幸いです。 また、本作は、【実夏Side Story】とセットの作品となります。 【実夏Side Story】を先に呼んで頂けると幸いです。 ・・ 「【怜奈(れいな)】、今日はこれを着けてもらうわ」 そう言って、お姉ちゃんはなにやら黒い物体を取り出した。 私のお姉ちゃんは、【HAZUKI】という名前で服のデザイナーをしている。 かなり有名で、妹の私としても鼻が高いのは言うまでもない。 お姉ちゃんは、新作の服が出来上がると、等身大の人形にその服を着させて、写真を撮り、SNS上にアップする。 その写真には秘密があった。 その写真の中の服を着た【アニエル】という名前の人形、それは人形であって、人形ではないのだ。 見た目は人形なのだが、実はそれは【着ぐるみ】。 つまり、中には人間が入っているのである。 そして、その中身の人間というのが私なのだ。 しかも、単に着ぐるみの中身という訳ではない。 お姉ちゃんがどこぞで身に着けた催眠術により、着ぐるみの中の私は、意識的な動作は出来なくなっているのだ。 無意識でする、呼吸や瞬き等は出来るが、手足を動かしたり喋ったりする事は出来ない。 そして、人形として、他人に力を加えられ、手を上げられれば、その上げた位置で止まる。 そういう催眠が掛けられるのだ。 それにより、周りから見ている人も人形だと疑わない。 しかし、この前、唯一バレてしまった事件があった。 事件??いや…お姉ちゃん達の陰謀に近いものはあるが、クラスメイトの【裕幸(ひろゆき)】に中身の存在がバレてしまったのだ。 分かるかどうかという実験的なものを、お姉ちゃんと裕幸のお姉さんが仕掛けたからだ。 マスクの中から呼吸音がしている事に気が付かれ、中身が人間だとバレた。 というものの、中身が人間だという事まではバレたが、その人間が私だという所まではバレてはいない。 そして、今度のお姉ちゃんのイベントに私が【アニエル】として参加する事になったため、今日は、バレないための対策を考えている所だった。 イベントまでの日程がないため、わざわざ学校を休み、今日は一日、お姉ちゃんに付き合っている。 そして、お姉ちゃんが手渡してきた、黒い物体を手にした。 「なに??これ…」 触感としてはラバーだと思われる。 「それは、全頭マスクといって、頭に被るものよ。そしてその口元からホースが伸びているでしょ。そのホースを肌タイツの内側を通し、首の後ろに出して見ようと思うの」 「あっ…そういう事…。そうすれば、マスクに近づかれても、呼吸音が聞こえにくいって事…」 「正解。しかも首の後ろなら、髪の毛もあるし、分かりにくい。どう??いい考えでしょ」 「うん…まあ…間違ってないかな…」 「そうと決まったら、とにかくそれを被ってみて」 「うん…」 相変わらず、お姉ちゃんのペースには流されっぱなしだが、私は完璧な人形を目指すために、素直にそれを被ることにした。 先に髪をキャップの中に仕舞い込み、そのキャップにローションのようなものをつける。 そして手にした全頭マスクの後頭部の開いているところから、自らの頭を潜り込ませた。 ローションのおかげか、すんなりと私の頭は、全頭マスクの中へと収まった。 目の部分はクリアーになっていて、視界は良好だ。 「閉めるわよ」 そう言ってお姉ちゃんは、後頭部で作業を始めた。 (ん?そう言えば、このマスク…後ろにファスナーもなかったし、紐とかもなかったな…。どうやって閉めるんだろ??) そんなことを考えていると、顔全体がギュッと圧迫される感覚があった。 (んむっ!!か…顔が…締め付けられる…) すると、その締め付けが少し収まった所で、頭全体が包まれた感覚が訪れた。 そして、前側に回り込んだお姉ちゃんが、何やら首元を触り始めた。 このマスクは首まではなく、私のエラ付近までのマスク。 その端っこ当たりを触っているようだ。 (な…何をしてるんだろ…) そうこうしているうちに、お姉ちゃんが作業を完了したらしい。 「オッケーよ。接着完了」 (せ…接着!?) お姉ちゃんは基本的にやりすぎる所がある。 そのお姉ちゃんの放った言葉…接着という言葉には恐怖が込み上げてくる。 「むっむぅぅうぅううぅぅ!!」 (ちょっと!お姉ちゃん!!) 抗議の意味を持って声を上げようとしたが、言葉にならない。 (こ…言葉が!?喋れない!?) 全頭マスクが顎を固定しいるせいで、言葉が喋れないないのだった。 「分かってるわよ。そんなに荒立たなくても…。じゃ、説明するわね。えっと…後頭部はラバー同士で重ね合わせて、特殊な接着剤で接着したわ。あと、空気が漏れないように、マスクの端部とあなたの皮膚も接着したから、完璧に覆われているわ」 どう接着して、私の頭がどう覆われているかは、それほど問題ではない。 むしろ、やりすぎるお姉ちゃんの事だから、その【接着】という所に問題があるのだ。 その接着された部分は本当に剥がすことが出来るのかという事だ。 「んううぅぅぅぅ!!」 (ちょっと!!それ!!剥がれるんでしょうね!!) 言葉にならない声で文句をぶつける。 そして、その呻き声だが、お姉ちゃんは、私の言いたいことを理解しているのだ。 「大丈夫だって。ちゃんと剥離剤はあるわよ」 (ふぅぅ…良かった…) かくして私は全頭マスクに完全に頭を包まれた。 口から延びるホースが、私の唯一の呼吸口となったのだ。 「すぅぅぅ…ふぅぅぅ…すぅぅぅ…ふぅぅぅ…」 そのホースからの呼吸…。 決して苦しくてどうしようもないという程ではないが、いつも通りという訳にはいかない。 (まあ…なんとかなるか…) するとお姉ちゃんが肌色の全身タイツを持ち出した。 それは、前に裕幸の所に行った時と同じ、ファスナーの無い、伸縮性の凄い素材のタイツだった。 前回と違う点は、後頭部、首の付近に穴が開いている事。 そこは、私の生命線である、呼吸用のホースが出される場所だ。 私は受け取った肌タイツの顔の穴を広げ、いつものように、そこから全身を入れ込んでいった。 そして、肌タイツが全身を包み込む。 いつもと違う点は、顔の部分から覗くもの。 普段なら、そこからは、私の顔が覗いている。 しかし今日、そこから覗いているのは、黒いラバーの肌と、クリアー素材に包まれた目なのだ。 すると、お姉ちゃんが呼吸用のホースを調整し、首の部分の穴にしっかりと固定した。 「よし、後はマスクと衣装ね」 そしていつも通り、アニエルのマスクを被り、お姉ちゃんがデザインした衣装を着て行った。 「よし、完成~~。どう怜奈??苦しくない??」 完全に衣装に身を包み、動く人形が出来上がった所で、お姉ちゃんが私に質問する。 どうせ言葉は発する事は出来ないので、私は大きく首を縦に振った。 実際の所、いつもより苦しくないかと言われれば、もちろん呼吸はしにくい。 普段はアニエルのマスクに包まれているものの、その下は私の顔が晒されている状態。 それの開放度に比べれば、このホースからだけの呼吸は限られたものではあるが、苦しくて死にそうという程ではなかった。 「視界は??大丈夫??」 その問いに対しても、大きく首を縦に振る。 全頭マスクの透明な部分が、かなり透明度が高いため、視界自体はいつもと変わりはなかった。 「オッケー。それじゃあ、催眠術をかけるわね」 そして、いつも通り、私はお姉ちゃんに催眠術をかけられ、完全な【生きる人形】へと変わって行った。 お姉ちゃんの部屋の中で、動けないまま人形として置かれた私。 動けないのはいつもと同じ。 呼吸も本能的にやっている事なので、私がどうこう出来るわけではないが、いつもよりは若干の苦しさを感じる。 そして、いつもよりも包まれている感が強い。 全頭マスクを被る事で、いつもよりも外の音が聞こえにくい。 そして、頭全体軽く締め付けられている感覚。 それが、いかに私が今、人形の中身として包み込まれているかというのを実感させるのだ。 (こ…これ…ちょっと…いいかも…) その感覚に、自らが人形に成った感が強められ、私の心をくすぐる。 そして、そのまま暫く時間が経った。 人形になった私は動く事が出来ないので、時計が見える位置に無ければ、時間を知る術はない。 【ピンポーン】 すると、遠くの方でインターホンの音が鳴った気がした。 実際には遠くではなく、私が聞こえにくいだけ。 恐らくお姉ちゃんが対応しているだろう。 【ガチャ】 すると、部屋の扉が空き、お姉ちゃんが戻ってきた。 「怜奈、今から催眠を一回解くから、リビングに移るわよ」 (ん!?催眠を解く??何??何があったの??) お姉ちゃんが言った事の真意が分からなかったが、そう言われ、直ぐに催眠が解かれた。 体が動くようになる。 長時間、体を動けなくされていた訳でもないし、無理な動きもさせられていないので、体が痛くなったりはしていない。 「怜奈、早く、リビングに」 お姉ちゃんの言葉に、私が首を傾げると、お姉ちゃんが私の腕を掴んだ。 「時間が無いの。急いで」 (な…いったい…なんなの??) 結局、私はお姉ちゃんに流されるままに、手を取られリビングへと向かった。 「そこのソファーに座って」 言われるがまま、リビングのソファーに座る。 それは、一人掛けの、背もたれの高いソファーである。 「背もたれに、しっかり背を付けて。調整するから」 そう言われ、私は背もたれにしっかりと背をつけた。 「どう??この状態なら、呼吸は出来る??」 お姉ちゃんの質問に、大きく首を縦に振る。 このソファー、背もたれの真ん中付近に穴が開いているため、そこに丁度ホースの口が来ているようだ。 おかげで、背もたれにしっかりもたれていても、呼吸は確保出来ていた。 「よし、オッケー。それじゃあ、また催眠を掛けるから」 そうして、私は再び催眠をかけられ、再び【生きる人形】へと変わった。 (もう…いったいなんなのよ…。いつもながら、お姉ちゃんは怒涛なんだから…) そんな不満を心に浮かべているものの、いつもそのお姉ちゃんのペースに流される自分も悪いのだが…。 すると、お姉ちゃんはリビングから出て行った。 まあ、お姉ちゃんが何を考えているかは分からないが、とにかく今の私は動くことが出来ない。 なので、結局のところ、お姉ちゃんの思うがままにしかならないのである。 だから、私は【人形として】、ここに居続けるしかないのだ。 そして、暫くして足音が聞こえて来た。 (あっ…ようやくお姉ちゃんが戻ってきた…) 「あっ!?あの人形!!」 そう思っていると、誰かお姉ちゃんではない人物の声が聞こえた。 (ん??誰か来たの??) 「ええ…そうよ。いつも私の新作を着せて写真をとっている【人形】よ」 お姉ちゃんの声が聞こえ、確実に会話をしている事が分かる。 やはり、お姉ちゃんではない誰かがそこにいるのだ。 「い…いつも楽しみにしています」 「ありがとう…そう言ってもらえると嬉しいわ」 そして、その人物は会話をしながら、私の視界に入るところへと辿り着いた。 (えっ!?うそっ!!?) 私の視界に移り込んだ、お姉ちゃん以外の人物。 よく見知った顔がそこにあった。 (な…なんで…【実夏(みか)】が??) 実夏とは、私の親友で、学校でもいつも一緒にいるし、一緒に出掛けたりもしている。 その実夏が、何故か今、私の目の前にいるのだった。 そして、その実夏が私の方を凝視するように見つめている。 (うそ…なんで…実夏が…やばい…バレたら…バレたらどうしよ…) アニエルになっている時に突然訪れた親友の存在、それに動揺が隠しきれない。 しかし、バレないようにしようとも、私は動くことは出来ない。 ただただ、バレないように願うだけだ。 「そんなに可愛い??」 すると、私を凝視する実夏の様子を見たお姉ちゃんが、実夏に質問した。 「え…えぇ…写真でも可愛いと思ってましたけど、生で見るとホントに凄いです…。つい見入っちゃいます…」 「そう…それは良かった…」 すると、お姉ちゃんは軽く私の方を見ながら、薄っすらと微笑んだ。 「今、お茶をいれるから、少し待っててね…」 そう言って、キッチンの方へと向かって行くお姉ちゃん。 (さ…さっきの微笑み…。くぅ…お姉ちゃん…わざと実夏を招き入れたんだわ…) 流れを思い起こすと、インターホンが鳴り、誰かが家に来た。 そして、催眠を一旦解かれ、急いでお姉ちゃんの部屋から、リビングに移動。 また催眠で人形に戻った。 つまり、インターホンの来客は実夏。 そして、お姉ちゃんは、実夏を待たせて、リビングのアニエルの準備。 実夏をアニエルのいるリビングへと招き入れたという事。 きっと、またバレないかの実験とでも思っているのだろう。 (もう…お姉ちゃんからしたら、実験だろうけど…こっちはそれどころじゃないわよ…) もし、中身が人間だとバレてしまったら…更には私だとバレてしまったら…色々と困る。 相手は親友だし、なにより、実夏がアニエルの事をかなり好きなこともしっているから。 お姉ちゃんがキッチンに行ったせいで、リビングのスペースには私と実夏だけ。 キッチンからは見えるものの、何か二人きり感がある。 その中、一人残された実夏は、私を凝視し続ける。 (うぅ…あんまり…見ないでよ…) その視線…単なる興味という域を超えている気もする。 何かこう…刺さる様な…熱い視線とでもいうのだろうか…。 実夏の表情から、何か特別なものを感じる。 そして、その視線から私は逃れる事は出来ない。 暫くしてお姉ちゃんがお茶をいれて戻ってきた。 「お茶、入ったわ…」 そして、動けない私を傍に置いたまま、お姉ちゃんと実夏はお茶を飲みながら会話を始めた。 その会話の内容は、主に私の事…。 まあそれはそうだろう、二人の共通の話題と言えば、私の事になる。 しかしながら、お姉ちゃんはそんな事を話さなくてもいいというような内容を実夏に話していた。 (もう…お姉ちゃん…やめてよね…恥ずかしいでしょ…そんな話!!) とまあ、心の中で文句を言った所で、今の私にその会話を止める力は無い。 一方的に、彼女たちの話を聞いているしかないのだった。 実夏がうちに来た理由は、どうやら私への学校の書類を届けに来てくれたらしい。 「ごめんなさいね。怜奈は今、部屋で寝ちゃってるから」 (部屋で寝てないけどね…ここにいるし…) 「いいですよ。体調悪いのに起こしちゃ、良くないですし」 (体調も悪くないけど…お姉ちゃんの都合で休んだだけ…) 「フフ…優しいのね」 「そんな事ないですよ」 まあ、お姉ちゃんの都合で休んだというのは正解だが、人形に成りたいという私自身の願望でもあるため、一概にお姉ちゃんの都合とも言い切れないのだが…。 【ピロリロ、ピロリロ】 するとお姉ちゃんの携帯が鳴った。 「あっ、電話だわ」 そう言って、お姉ちゃんは電話に出た。 「もしもし…あぁ…その件??…ちょっと待って下さる?」 そして、お姉ちゃんは保留を押した素振りで実夏の方を見た。 「ちょっと電話をしてくるから、ゆっくりしてて」 「あ…はい…」 するとお姉ちゃんは、リビングの扉の方へ向かって行った。 そして、出る瞬間であった。 私の方へ視線を向けて、にやりと小さく笑った。 【ガチャ】 そのまま部屋を出ていくお姉ちゃん。 (ん!?今の笑い…。ま…まさか…あの電話…フェイクの電話!?あっ!?わ…わざと…私と実夏を二人きりにしたのね!!!) 恐らく、あの電話は嘘で、部屋の外からリビングを監視しているだろう。 部屋にはカメラが設置されている。 しかも、お姉ちゃんならモバイルで、その様子が見られるはず。 つまり、私たちを二人きりにして、その様子を観察するつもりだ。 (も…もうっ!!ホントにバレたらどうするのよ!!) そんな憤りも、誰にも届かない。 結局は動けず、流れに身を任せるしかない。 すると、既にこちらを凝視し続ける実夏の姿が目に映った。 「アニエル…」 私の名前を口にした実夏が、私を凝視しながら固まっている。 その視線が、恐ろしく熱く突き刺さる。 何か本当にトロっとした目。 なんだろう…同性の私でも分かる。 あの表情…あの視線は…恋する乙女のもの。 (み…実夏…なんて顔してるの…まさか…私に…恋してるとか…やめてよね…) その表情を見るに、そんな不安が込み上げてくる。 すると暫くずっと私を凝視して固まっていた実夏が、スッと立ち上がった。 そして、立ち上がった実夏はゆっくりと私に向かって進み始めた。 (ちょ…ちょっと…実夏…ダメだって!!近づいちゃ!!バレるから!!ダメェェェ!!) そう心で叫んだ所で、私は逃げる事は出来ない。 実夏は一方的に、私のもとへと近づいて来た。 もう、手を伸ばせば届くという位置で立ち止まる実夏。 そして、その熱い眼差しを私に向け続ける。 すると、実夏がついに禁断の行動へと移った。 そっと私のほうへと手を伸ばして来たのである。 (ダメェェェ!!触っちゃ!ダメェェェ!!バレちゃう!バレちゃうから!!) しかし、私の心の叫びも虚しく、実夏の手は私の二の腕へと到達した。 (あぅぅっ!!!) その触れ方、とても優しく、心地のよい触り方。 しかし、優しくもその手は、肌タイツの下にある私自身の柔らかさを確認するように触れてくる。 (バレる!バレちゃう!!) うっとりしながら、私の二の腕を触る実夏。 その目は、もう何かに憑りつかれているかのような目をしている。 実夏にとっては人形の柔らかさを感じているだけかもしれない。 しかし、私からすると私自身の体を触られているという感覚。 (やめて!触らないで!!バレちゃうぅぅ!!) 心の中で必死にやめてと懇願する。 いつ、実夏がその柔らかさが、生身の人間のものだと気が付くか分からない。 しかし、現状、その雰囲気はなく陶酔した目をしている実夏。 (うぅぅ…) すると、その手はそのまま、私の髪の方へと移動してきた。 そして、マスクについた髪を指でとかすように触る実夏。 何度も…何度も…髪に指を通して行った。 髪は触られたところで、中身がどうだという事に影響はない。 (か…髪の毛なら…) 髪の毛を触られている間は、心配は薄い。 そんな束の間の安堵が私に芽生えていた。 しかし、次の瞬間、私の心臓が破裂するような事態が起きた。 (え!?) なんと、実夏がその顔を私のマスクの目の前まで近づけて来たのだ。 実夏と私のマスクまでの距離は、20cm程。 (ちょ…ちょっと!!近い!近すぎる!!近すぎるって!!) その状況に動揺が隠しきれず、心臓が恐ろしく早く鼓動する。 近くから見られても、視界の覗きは分からない造りになっている。 外から、中身の私を視認することは出来ないだろう。 さらには、今日は全頭マスクを被る事により、マスク内の呼吸音は無い。 近づかれた所で、バレないとは思うが、この距離に顔を近づけられると、さすがに動揺してしまう。 その至近距離で、私の顔を凝視し続ける実夏。 (近い!近い…近いってば!!) 親友の顔がこんなに近くに来る事はそうそう無い。 ただでさえ、滅多になく、照れるような状況だというのに、更にはバレるかもしれないという緊張感もある。 (近いってばぁぁぁぁぁぁ!!) そんな動揺をしていると、実夏の頭が動いた。 (え!?) 【チュッ】 なんと実夏がアニエルの唇に口づけをして来たのだった。 (えっ…えぇぇぇぇ!!キ…キスゥゥゥゥゥゥゥ!!!!) 人形の私の唇が親友の唇とキスをしているのだった。 その事実に更に心臓の鼓動が高まる。 (ちょ…ちょっと!!実夏!!なに…なにしてんの!!) 奪われたアニエルの唇。 実夏はその唇を確かめるかのように、そのまま止まっていた。 するとその時である。 【ガチャ】 扉が開く音が聞こえた。 恐らくお姉ちゃんが戻ってきたのだろう。 それに驚いた実夏が唇を私から離し、急いで立ち上がろうとした。 急いだ実夏は立ち上がろうとして、私の肩に触れてしまった。 【ガタッ】 (あっ!!) 実夏が肩口に触れた事で、多少、体勢が変わってしまった。 そして、ゆっくりと扉が開き、お姉ちゃんが入って来た。 急いで立ち上がった実夏は、少しドギマギとしている。 (ん!?あ…あれっ!?) その瞬間気が付いたことがあった。 (な…なんか…苦しい…気がする…) 呼吸自体は自らの意志でしている訳ではないが、苦しいという感覚だけは私に伝わってくるのだ。 突然、苦しくなった事。 今の状況を考える。 (や…やっぱり…苦しい…。んっ!?…さっき…体勢が変わった…。も…もしかして…呼吸口が塞がった!?) この一気に来た苦しさ。 先程、実夏が立ち上がる際に体勢が変わった事。 それを考えると、その考察が正しい。 (や…やばい!!苦しい!息が!息が!!出来ないっ!!) しかし、どんなに苦しかろうが、体を動かせない私は、その呼吸口を確保する事は出来ない。 すると、入って来たお姉ちゃんが、実夏に質問した。 「ん??どうしたの?アニエルがどうかしたかしら??」 「い…いえ…本当に可愛いなと思って、つい近くで見たくなって…」 「あら…なんなら、ずっと見ていてくれてもいいわよ」 (そ…そんな事より!!お姉ちゃん!!助けて!!息が!息が!!) こんな私の状況に気が付いていないお姉ちゃん。 私が今にも、人形の着ぐるみの中で窒息死しそうになっているなど思いもしないだろう。 すると実夏がバツが悪そうに行言った。 「えっ!あ…いや…もう用事も済みましたし、あまり長居するのもの悪いので、そろそろ帰ります…」 「そう…残念…。じゃあ、またいらしてね。今度は怜奈が元気な時に…。あっ…それじゃ…意味が無いか…」 (息が!!息が!!苦しい!!苦しい!!助けて!!助けてぇぇぇ!!) そんな会話がされている間も、私に空気は入ってこない。 まさか目の前で、お姉ちゃんの妹、そして実夏の親友が、死にかけているとは当事者達は気が付くはずもない。 「あっ…そうですね!怜奈ちゃんが元気な時に、また遊びに来ます。そ…それじゃあ…お邪魔しました」 そして、実夏はそう言うと、私に背を向けた。 (いやぁぁぁぁ!!ムリィィィ!!もうムリィィィ!!死んじゃウゥゥゥ!!) 限界を迎えた私に背を向けた実夏は、鞄を手に取り部屋を出て行った。 私の視界から実夏が消えていく。 (いやぁぁぁ!!死にたくっ…死にたくない!!いやぁぁぁぁ…) その消えゆく実夏の背中と共に、私の意識が薄れ始める。 酸素が足りないのか、頭がボーっとする。 どんなに苦しく、息が出来なくても、私は動くことが出来ないので、状況を変える事は出来ない。 そしてどんなに苦しくても、私は声を出し、その危機を人に伝える事は出来ない。 人形として、存在する以上、私は全て身を任せる事しか出来ないのだ。 そう…人形なのだから…。 (…いや…死に…死にたく…な…い……よ………) このまま死んでしまえば、本当の動かない人形になる。 私の望む…【完璧な人形】になる事が出来るのかもしれない。 人形に成りたい私…。 その願望は間違いのない事実。 しかし、やはり死というものへの恐怖は、私の願望よりも強かった。 それでも入ってこない空気。 私は、もうこのまま死んでしまうという感覚が私を包み込んでいった。 そして、その死というものへの恐怖が、意識と共に薄れていく。 (…し…死ん…じゃ……ぅ………) そして、私の呼吸は限界を迎えた。 (…んぁ…も…もう……む………り…………) そのまま、私は意識を手放して行くのだった。 ・・・ 【パチン!パチン!パチン!】 「怜奈!!怜奈!!起きなさい!!」 頬に走る刺激。 そして、お姉ちゃんの声が頭の中にこだまする。 (ん…??…あれ…??…なに…??) 目を開けると、我が家のリビングの景色が広がっていた。 「ん…な…なに…どうしたの…??…お姉ちゃん…」 何が起こっているのかが分からない。 目の前にはお姉ちゃんがいて、私を覗き込んでいる。 「ふぅ~…戻ったのね…」 少し安心したような表情のお姉ちゃんがそこにいる。 いまいち状況が理解できない。 なんで、お姉ちゃんがそこにいて、私の頬を叩かれていたのか…。 (…ん…?…なんで…私…寝てる…の…??ん…??あれ…??) 頭の中が混乱し、今の自分の状況が理解できない。 そして、首を横に向けると、そこにはアニエルのマスクが置かれていた。 (!?あっ!!……) アニエルのマスクを見て、記憶が甦る。 (そ…そうだ…私…人形のまま…息が出来なくなって…!?ん…い…生きてる…!?) あのまま自らの死を覚悟した。 呼吸が出来ない苦しさ。 その中、薄れていく意識。 私は、このまま死ぬのかと、自らの【死】を感じ取った。 しかし、今、私は【生きている】。 自らが生きている事に、ホッとし、気が緩む。 (ん…あ…私…死んでない…死んでないよ…) その事実が頭の中に過り、涙が溢れてくる。 「うっ…うぅ…ひぐっ…うわぁぁぁぁぁぁぁ………」 その安堵感から、自然と鳴き声を上げてしまった。 そして、そのままひとしきり泣き、気持ちが落ち着いた所で、体を起こした。 「ふぅ…お姉ちゃん…私…どのくらい意識を失ってたの??」 「いつからか分からないけど、私が部屋に入ってから実夏ちゃんが出て行って、その後すぐ異変に気が付いたから、どのくらいだろ??数分ってとこかな??」 死にかけた私がいるというのに、淡々と話すお姉ちゃん。 「カメラで見てたから、呼吸口が塞がったのが、私の入る直前だとして…ホント…数分かなぁ~~」 その悪びれもないお姉ちゃんの態度に少し腹が立ってきた。 「ちょっと!お姉ちゃん!!私、死にかけたのよ!!」 人形モードが終わり動けるようになった私はお姉ちゃんに詰めかける。 「ん…でも…体勢を変えたのは実夏ちゃんだし…。キスまでしちゃった実夏ちゃんが主犯じゃないの??」 「あっ!?」 お姉ちゃんに言われ、私は咄嗟に自らの唇に手を当てた。 実際に唇を奪われたのは、アニエルのマスクではあるが、感覚的に自らの唇を奪われた感があったから。 お姉ちゃんに言葉にされ、その光景が頭の中に甦ってしまった。 その自らが取った行動、そして、その一連の事件を思い出し、何故か私は顔を真っ赤にしてしまう。 「ま…今日の収穫としては、あれだけ近づかれても呼吸音はバレていないようだったけど、やっぱ安全性に問題ありね…。本番は、全頭マスクはやめて、なるべ客を至近距離に近づけないような演出にしよう…」 「そ…そうだね…」 お姉ちゃんの正論な考察と対処になんとなく納得してしまう。 「ん!?…ちょ…ちょっと!!お姉ちゃん!!わ…私!死にかけたんだよ!!」 上手く纏められそうになったが、実際に苦しかった事は事実。 私はお姉ちゃんに、抗議の意味をもって食いついた。 「ん??でも…呼吸口が塞がらなきゃ…全頭マスクに包まれてる感…楽しんだんでしょ??」 「えっ!?」 そのお姉ちゃんの言葉に言葉が詰まる。 「ん…っと…そ…それは…。そ…そんな…事…ないし…」 自らの本心を見透かされているようで、何も反論する言葉が出てこない。 「呼吸が聞こえなくなる分、完璧な人形になれる…。更には頭が全頭マスクに包まれる事で、より自らの人形感が大きくなる…とか???」 あまりにも私の真理を捉えてくるお姉ちゃん。 「うぅぅぅぅ………うるさい!!うるさい!うるさ~~~い!!!」 そして、私はいつもお姉ちゃんの手玉に取られる。 いつもお姉ちゃんの手の平の上…。 でも、私はそれでも、【私を人形にしてくれる】お姉ちゃんが大好きなのだった…。 ---------------------------END------------------------------------------

人形になりたくて Side Story② ~ 怜奈 Side ~

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