※本作品はpixivで公開した、【人形になりたくて】のサイドストリーとなります。本編をお読みいただいた事を前提にしておりますので、詳細等が省略されております。 本編を一読頂いたあと、お楽しみ頂けると幸いです。 また、本作は、【怜奈Side Story】とセットの作品となります。 こちらの【実夏Side Story】を先に呼んで頂けると幸いです。 ・・ (珍しいな~【怜奈(れいな)ちゃん】が病欠なんて…) 私の名前は【実夏(みか)】。 親友の怜奈ちゃんが、珍しく体調不良で学校を休んだため、書類を家まで届けに向かっているところだ。 怜奈ちゃんは親友だけれども、意外な事に、私は彼女の家に行った事が無かった。 学校で会ったり、町に遊びに行ったりしている事が普通になりすぎて、『家に行ったことが無い』という事を意識した事も無かった。 こうして、何かを届けるなどの必要性があって、初めて気が付くところでもあったのだ。 そして、その親友の怜奈ちゃん。 彼女のお姉さんが、なんと、あの有名デザイナーの【HAZUKI】さん。 私たちの年代の女子なら、知らない人はいないという程の、有名人なのだ。 HAZUKIさんが、新作が出来るとアップされる写真は、いつも楽しみにしている。 可愛らしい服を着たお人形の写真。 実は、私はその可愛らしい服も大好きなのだが、その服を着ているお人形にも魅了されている。 つまるところ、そのアップされる写真の全てが好きなのだ。 私は今、怜奈ちゃんの家に向かっている。 よくよく考えれば、それは、HAZUKIさんの家に向かっているという事にもなるのだ。 怜奈ちゃんとHAZUKIさんは同居しているので。 そんな事実に、少し胸を躍らせながら、私は怜奈ちゃんの家へと向かって行った。 (ここか…) そしてようやく、怜奈ちゃんの家に辿り着いた。 そこは、一軒家で、敷地に入るための門が有る。 その門の奥には、可愛らしいお洒落な建物が建っている。 (さすが…HAZUKIさんの家だな…) お金があるという雰囲気も感じられるが、それよりも、このお洒落感がたまらない。 門の外にインターホンがあったので、私はそれを押した。 【ピッ】 ボタンを押し、暫く待っていると、インターホンから声が聞こえて来た。 【はい、どちら様ですか??】 (ん!?この声??も…もしかして…HAZUKIさん!?) 思い出した。 怜奈ちゃんの家は、お父さんは亡くなっていて、お母さんは海外出張に行っているはず。 つまり、怜奈ちゃんでないこの声は、HAZUKIさんの声である可能性が高い。 (きゃぁ~~~~!!!HAZUKIさんと喋っちゃってる!!) 少し、そんな事に気持ちが上付いたが、心を落ち着かせそれに答える。 「あ…あの、怜奈ちゃんの友達の【崎島実夏(さきじま みか)】です。今日、怜奈ちゃんがお休みだったので、学校の書類を持ってきました」 【あっ!?実夏ちゃんね。怜奈からよく話を聞くわよ。今、門を開けるから、ちょっと待っててね】 「あっ…はい!」 (うわぁ~~…。ホントにHAZUKIさんと喋っちゃってるよ…なんか嘘みたい…) HAZUKIさんと喋れた事に感動し、夢心地で待つ。 少し長い時間が掛かっているようだが、この弾んだ胸のおかげで、そんな時間など気にもならない。 【ガチャ】 暫くして、門の鍵が開いた。 「ごめんね、待たせちゃって…。ちょっと、支度があたから…」 そう言って、門を開けて出て来た人物。 それは、紛れもなくHAZUKIさん、その人だった。 何度も雑誌やネットで見た事があるので、見間違える筈はない。 その本物が、今、私の目の前にいるのだった。 「い…いえ…だ…大丈夫です」 緊張しながら、HAZUKIさんに返答をした。 「せっかく来てくれたんだから、上がってお茶でも飲んでいって」 「え…えぇっ!!そ…そんな…おこがましい…で…」 「そんなに気を使わないで。怜奈の親友でしょ。さぁ…さぁ…」 「え…そんな…」 「いいのよ。気楽にしてもらえれば」 HAZUKIさんの言葉に恐縮するも、ここまで進められて断るのも失礼だ。 「す…すいません…それじゃ…お邪魔させて頂きます」 「うんうん、さっ…中に行きましょ」 「はい」 そうして、私はなんと、怜奈ちゃんの家…そしてHAZUKIさんの家へとお邪魔する事になった。 【ガチャ】 お洒落な家の中に入ると、玄関もまたお洒落。 そして、案内されるまま、リビングの方へと入って行った。 そして、リビングに入った瞬間だった。 私の目に、驚くべきものが飛び込んできた。 「あっ!?あの人形!!」 いつも、HAZUKIさんの新作を着ている人形が、リビングのソファーに可愛い服を着て座っていたのだった。 「ええ…そうよ。いつも私の新作を着せて写真をとっている【人形】よ」 「い…いつも楽しみにしています」 「ありがとう…そう言ってもらえると嬉しいわ」 そして、私の目が、その人形に釘付けになってしまう。 なんというか、写真で見ていても可愛いのだが、実際に生で見ると、もっと魅力を感じる。 なにか、生気を感じるというか、人形なのに生きていそうな空気すら感じさせる。 その魅力に、私は吸い寄せられて行きそうになっていた。 「そんなに可愛い??」 そんな私の様子を見ていた、HAZUKIさんが私に質問した。 「え…えぇ…写真でも可愛いと思ってましたけど、生で見るとホントに凄いです…。つい見入っちゃいます…」 「そう…それは良かった…」 すると、HAZUKIさんがキッチンのほうに向かって行った。 「今、お茶をいれるから、少し待っててね…」 HAZUKIさんがキッチンのほうに行き、私は人形と二人きりになった。 まじまじと人形を見つめてしまう。 本当に可愛い。 恋人にしたいくらい可愛い。 なんだろうか…今までに感じた事のない、胸を貫かれるような感覚。 自分の胸の鼓動が早くなっていくのが分かる。 (なんて可愛いんだろう…) 女の子がお人形を好きという感覚とは、また少し違う感覚。 そう…恋に近い。 私の目と心は、そこに置かれた人形に鷲掴みにされていた。 「お茶、入ったわ…」 すると、HAZUKIさんがお茶を入れて持ってきてくれた。 お洒落なカップに入った紅茶だ。 そして、私は、その紅茶を頂き、暫くHAZUKIさんと会話をした。 内容は怜奈ちゃんの事がほとんどだったが、私は今、本当にHAZUKIさんと紅茶を飲みながら、話をしているのだ。 なんとも夢みたいな事。 そして、学校からの書類も渡した。 「ごめんなさいね。怜奈は今、部屋で寝ちゃってるから」 「いいですよ。体調悪いのに起こしちゃ、良くないですし」 「フフ…優しいのね」 「そんな事ないですよ」 【ピロリロ、ピロリロ】 HAZUKIさんの携帯が鳴った。 「あっ、電話だわ」 そう言って、携帯を手にしたHAZUKIさんが電話に出た。 「もしもし…あぁ…その件??…ちょっと待って下さる?」 そう言ったHAZUKIさんは電話を保留にして、私の方を見た。 「ちょっと電話をしてくるから、ゆっくりしてて」 「あ…はい…」 【ガチャ】 そう言って、HAZUKIさんは部屋を出て行った。 今度は完全に、私とお人形【アニエル】の二人きりになった。 さっきHAZUKIさんから、人形の名前を聞き、彼女がアニエルだという事を知った。 名前を聞いたせいか、一気に距離が詰まった感じがする。 「アニエル…」 私は再び、アニエルを凝視してしまう。 完全に二人きりという状況。 そして相手は逃げる事は無い。 私の胸の鼓動が、恐ろしく早くなっていく。 あの人形に触れてみたい…。 その衝動が私の頭の中を支配し始める。 (ダ…ダメ…勝手に触ったりなんかしたら…) しかしそれは、憧れのHAZUKIさんの人形。 勝手に触ってしまう訳にはいかないという自制心も存在する。 (でも…なんて…可愛いんだろう…) 触ってはいけないという自制心と、触れてみたいという衝動が頭の中で葛藤する。 部屋の中は静まり返っている。 HAZUKIさんがいなくなり、会話がなくなったからだ。 つまりその静けさは、今、この部屋には私しかいないという事実に他ならない。 すると、自らの意志とは関係なく、私はスッと立ち上がってしまった。 (す…少しだけなら…少しだけなら…) 私の自制心が衝動に敗北した。 立ち上がった私は、ゆっくりとアニエルの方へと近づいて行った。 そして、ついにアニエルが手に届く所まで近寄った。 間近で見るアニエルの姿…。 (可愛い…なんて可愛いんだろう…) ついうっとりとした眼差しで、アニエルの全身を舐め回すように凝視してしまう。 もう私の衝動は抑えられない。 私の手がスッとアニエルの方へと伸びて行った。 そして、その手が服から露出した二の腕へと触れた。 (あぁ…柔らかい…人形だというのに…こんなに柔らかいんだ…) その触れた二の腕。 その柔らかさ。 まるで本物の人間の女性に触れたような柔らかさが存在している。 その柔らかさに、HAZUKIさんのこだわりを感じる。 (まるで…本物の人みたい…) こういう造りの部分までこだわっているからこそ、アニエルに魅力が生み出るのだ。 そして、私の手がスッと、髪の毛に伸びる。 (なんて綺麗なの…) サラサラとした触り心地。 そして、手入れされている感のある髪質。 本物の人間だとしても、ここまでの手触りのいい髪は出来ないだろう。 いや、逆に人工的だからここまで手入れが出来るのだろうか…? とにかく、そのサラサラとした髪が、アニエルの美しさを引き立てている事実だけで充分だ。 (あぁ…綺麗…綺麗すぎる…) 指を通した髪がサラりと滑り落ちる。 そして私は髪の毛を触りながら、アニエルの顔に自らの顔を近づけた。 わずか20cm程の距離で顔を対面させる。 (なんて…なんて可愛いの…) その距離で見るアニエルの顔。 人形らしい無機質な表情ではあるが、その顔から恐ろしい程の魅力が溢れ出ている。 私はトロンとした目でアニエルの顔を凝視する。 それだけの魅力の顔が目の前にあるのだ。 私の胸の鼓動が、張り裂けんばかりに大きくなっていった。 (あぁ…可愛い…可愛い…ダメだ…もう…我慢できない…) その距離に存在する魅力的な顔に、私の欲望が完全に溢れ出てしまった。 私はそのまま、そっと顔をアニエルに近づけて行った。 【チュ…】 私は欲望の赴くがまま、アニエルに口づけをしてしまった。 その唇…人形の唇らしく固い感触。 そこはやはり人間の唇とは違う。 しかし、その固さは悪いものではない。 むしろ、人形ととして当たり前の感触であり、そのアニエルの造形美そのものが感じられるのだ。 アニエルという人形を堪能するとすれば、この感触が最高のものだともいえる。 そしてなにより、【私の唇】が【アニエルの唇】に触れているという事実が一番の喜び。 私とアニエルが繋がっているという事なのだ。 (アニエル…) こうしてアニエルと繋がれたという事に幸せを感じる。 頭の中が真っ白になってしまいそうなほど、私の中にアニエルが広がっていった。 するとその時である。 【ガチャ】 HAZUKIさんが戻ってきたのだ。 (やばい!!) 私は咄嗟にアニエルから距離を取ろうとした。 【ガタッ】 その瞬間、アニエルの肩に手を当ててしまい、アニエルの体勢が少し変わってしまった。 しかし、変わったと言っても分かるほどの変化はない。 私は急いで立ち上がり扉のほうを見た。 するとゆっくりと扉が開き、HAZUKIさんが入って来た。 人間の反応とは凄いもので、扉のノブの音がするまで、アニエルと口づけをしていたのにも関わらず、HAZUKIさんが入ってくるまでに、立ち上がっているのだ。 (バ…バレて…ない…よね…) 見られていないと思うものの、心臓がドキドキと大きく鼓動する。 「ん??どうしたの?アニエルがどうかしたかしら??」 「い…いえ…本当に可愛いなと思って、つい近くで見たくなって…」 それどころではない事をしてしまったのだが、こう言うしかない。 「あら…なんなら、ずっと見ていてくれてもいいわよ」 「えっ!あ…いや…もう用事も済みましたし、あまり長居するのもの悪いので、そろそろ帰ります…」 「そう…残念…。じゃあ、またいらしてね。今度は怜奈が元気な時に…。あっ…それじゃ…意味が無いか…」 「あっ…そうですね!怜奈ちゃんが元気な時に、また遊びに来ます。そ…それじゃあ…お邪魔しました」 そう言って、私は直ぐに自分の鞄を手に取り、その場を後にした。 悪いことをしてしまったという罪悪感からか、バレていないとは思うものの、直ぐにその場から離れたかったのだ。 そして、その帰り道。 私は自らの唇に指を当てた。 その唇に残るアニエルの感触。 その感触を再び思い出し、私は微笑みを浮かべるのだった。 まるで、ファーストキスの後のように…。 翌日、学校で私は怜奈ちゃんに、アニエルの可愛さについて語った。 もちろん、その唇を奪った事は誰にも明かさないまま…。 ---------------------------END------------------------------------------