※本作品は、妄想途中でお蔵入りになった作品を、お正月特別編、第二弾という事で、連発で公開です。 ・・・ お正月。 俺は家の近くのショッピングモールにやって来ている。 そして、俺はそのショッピングモールのイベント会場で足を止めていた。 俺の目の前では、イベントが開催されている。 その名も、【デジタル福笑い】。 福笑いといえば、日本の昔ながらの遊びではあるが、今、俺の目の前で繰り広げられる【それ】は、あからさまに【おかしな点】があるのだった。 イベント会場では、お正月の初売りを目当てに来た、家族やカップルなど、皆が【普通に】イベントに参加している。 そして、そのイベントを傍観している人達も【普通に】そのイベントを眺めている。 (な…なんで…誰もおかしさを感じないんだ…???) 俺は、そこに集まる人たちの【普通さ】に疑問を感じてしまう。 何故なら、そのイベント…どうみても突っ込みどころが存在しているのだ。 【デジタル福笑い】 イベントに参加したお客が、用意されたパソコンで福笑いのゲームを楽しむ。 すると、出来上がった福笑いのおかしな顔が、即座にプリントアウトされる。 そのプリントアウトされたものというのが、ラバー製の【マスク】なのだ。 そして、誰もそこに気を止めない、一番大きなおかしな点がある。 ゲームを楽しむパソコンが置かれたテーブルの横の小さなステージ。 そこには肌色の全身タイツに身を包んだ女性が立っているのだ。 身長、体型から言って、確実に女性…しかもスタイルがいい。 その女性が、ステージ上で頭から足先まで包み込む、肌色の全身タイツを着て立っているのだ。 俺からしてみると、異様な光景。 さらに言うなら、そんなにスタイルのいい女性の全身タイツ姿。 性的な興奮すら覚えてしまう。 しかし、おかしな事に、ここの会場にいる俺以外の人は、その全身タイツの女性に、これといった関心を持っていないのだ。 中には、エロい目で見る男性もいてもいいのだが、雰囲気からして、まるで皆、そういう目では見ていない。 (な…なんなんだ…。俺しか見えてないとか…そんなオカルトな話があるのか…??) そんな疑問を抱きつつも、俺はそのイベントを傍観し続けた。 すると、参加したお客の【福笑いマスク】が完成した。 「それじゃあ、得点を計測してみましょう!!」 スタッフの人はそう言って、出来上がったマスクを、ステージ上の全身タイツの女性の頭部へと、被せたのだった。 【ジーーーー】 後頭部のファスナーを閉めると、そのマスクは、全身タイツの女性の顔を圧迫するかの如く、ぴったりと張り付いた。 デジタル福笑いで出来た変顔のマスクを被った全身タイツの女性の出来上がりである。 【ピッ…ピッ…ピッ…】 すると、ステージ脇にある得点表示が上昇し始める。 それとともに、全身タイツの女性が、おかしな動きをして、会場を笑わせ始めた。 【ピッ…ピッ…ピッ…】 女性としては恥ずかしいような、その動き。 しかし、その動きは会場の笑いを取り、点数を上昇させていく。 (あの全身タイツの人…恥ずかしくないのかな…あんな動きして…。でもまあ…顔は出てないから、恥も外聞もないのか…) そう思いながら、大胆なポーズをとったり、変な動きをする全身タイツの女性を見続けた。 【ピッ…ピッ…ピッ…】 暫くすると、全身タイツの女性の動きが激しさを増し始めた。 それは、笑わしているというより、どこか必死感を感じる動きである。 (な…なんか…おかしくないか…??) そう思っていると、ついに得点が確定した。 【パンパカパーン!!】 「得点は75点です!!」 そして、得点が確定すると、スタッフの人が、全身タイツの女性のマスクを外しにかかった。 全身タイツの女性はマスクの首元になんとか手を入れようと藻掻いている。 【ジーーーーーー】 そして、ファスナーが開けられ、全身タイツの女性からマスクが剝ぎ取られた。 マスクを剥ぎ取ったスタッフは、すぐにそのマスクに処理を施し始めた。 どうやら、ラバー製の福笑いマスクに、鼻の穴を開け、口の所も細かい小さな穴を作っているようだった。 (ん??待てよ…今、マスクに穴を開けてるって事は…) 俺は、マスクを剥ぎ取られた全身タイツの女性に目を向けた。 すると、全身タイツの女性はステージ上で、大きく肩を上下させている。 (って事はやっぱり…さっきの行動は…) そう、先ほどの後半の全身タイツの女性の動き。 それは、笑いをとろうとするものではなく、単純に息が出来なくて苦しんでいたという行動。 あのマスクに呼吸口はないのだ。 そして、それを被せられて、呼吸が出来なくなり、後半は必死にそのマスクを外そうとしていたのである。 この一連の流れ…。 色々とおかしい…。 あの全身タイツの女性は、呼吸が出来ないマスクを被せられる事が分かっていて、被る事には抵抗しない。 何か弱みでも握られて、やらされているのだろうか…?? そして、参加している客もそうだが、見ている客もそう…。 全身タイツの女性が、そこにいるだけでもおかしいのに、その女性が苦しがっているというのに、誰もそこを気に留める素振りがない。 皆が【普通に】イベントを楽しんでいるのだった。 この状況を考えると、そこに違和感を感じ、そう見てしまっている自分がおかしいのではないかとすら思ってしまう空気感だ。 俺は、そのイベントに見入ってしまった。 その後も、マスクが出来上がる度に、そのマスクを被せられ、毎回のように苦しむ全身タイツの女性。 次第に体力も減ってきたのか、動きも悪くなり始めた。 【ピッ……ピッ……ピッ……】 動きと得点の上がりが連動しているのか、あからさまに点数の上りが遅い。 そして、上りが遅くなればなるほど、彼女もマスクを取ってもらえるまでの時間が長くなるという事。 動きが悪くなったせいで、被されている時間がかなり長引いた。 すると、全身タイツの女性が、のたうち回るかのように、首元に手をかけ、ステージ上へと倒れ込み、寝転がったまま暴れ始めたのだ。 (おいおい…あれ…本当にやばくないか…) 声は出していないが、その動きから、叫び声が聞こえてきそうな程である。 【いやぁぁぁ!!!とってぇぇぇ!!!お願いっ!!もう無理!!!死ぬ!!死ぬ!!死んじゃうぅぅぅ!!!】 マスクに手をかけながら、のたうち回る全身タイツの女性。 しかし、未だ、得点が確定しない。 右へ左へと体をゴロゴロと動かし、もう限界だという事をアピールする全身タイツの女性。 しかし得点が確定しない事には、そのマスクは外される事はない。 ゴロゴロと暴れる体が止まったかと思うと、今度は大きく頭を左右に振り続ける。 【いやぁぁ!!脱がしてぇ!!無理!無理!無理ぃぃぃぃぃ!!!】 頭がもげてしまうのではないかと思うくらいに、激しく頭を振る全身タイツの女性。 どれだけ、必死に手をマスクに差し込もうとしても、そのマスクはピッタリと彼女の頭にくっつき、手の入る隙間はまるでない。 その変顔をした福笑いマスク…変顔なのに、俺には、その必死な表情が伝わってくるようだった。 そして、暫くステージ上で、ゴロゴロとのたうち回っていた全身タイツの女性が、大きく体をのけ反らせた。 (や…やばくないか!?) そう思った瞬間である。 【パンパカパーン!!】 「得点は80点です!!」 得点が確定され、全身タイツの女性からマスクが剥ぎ取られた。 しかし、かなり追い込まれた全身タイツの女性は、マスクを剥ぎ取られても、未だ立ち上がる事が出来ず、その場にうずくまっていた。 恐ろしく上下する体と肩が、いかに苦しかったかという事を物語る。 恐らく、本当に死んでしまうのではないかと思わされた所まで苦しめられたのだ。 そう簡単には復帰は出来ないだろう。 そして、俺はここまではっきりとした光景が繰り広げられた後の周りを確認する。 (な…なんでなんだ…??) しかし、やはり誰一人として、全身タイツの女性に何かを感じている人はいないようだった。 あの全身タイツの女性は、あからさまに苦しんでいた様子だった。 その光景は誰が見ても分かる程、はっきりとした光景。 しかし、彼女が苦しんでいる事に、誰も何も感じていないのだ。 お客はもちろんスタッフの人達も平然としている。 むしろ、ゲームを楽しみ、嬉しそうにしているくらいなのだ。 やはり俺がおかしいのだろうか…。 そう思って、再び全身タイツの彼女に目を向けると、うずくまっていた状態から、よろよろと立ち上がり始めた。 立ち上がった全身タイツの女性の顔…。 恐らく目の部分と思われる付近に、濡れたような跡が出来ていた。 相当、苦しかったのだろう…。 死んでしまうと思ったのだろう…。 怖くなって、涙が出てしまったんだろう…。 その彼女の思いが、その目の部分のシミ跡に現れていた。 そして、そんな恐怖を味合わされた後だというのに、また再び、福笑いマスクは作られていく。 そして、再び彼女は福笑いマスクを被せられる。 そして、苦しさという恐怖を与えられ、彼女は藻掻き続ける。 それが、その後も何度も繰り返されて行くのだった。 結局、最後までそのイベントの所から離れずにいたが、誰一人として、全身タイツの彼女に、何かを思う人はいなかった。 何故、誰もそこに何も思わなかったのかも分からない。 彼女がそうまでして最後までやり続けた理由も分からない。 このイベントが行われた理由も分からない。 俺だけがその光景に疑問を感じ続けた理由も分からない。 全ての疑問を残したまま、このイベントは終了したのだった。 そして、俺の手には彼女が被ったマスクが一枚残った。 お正月のひと風景…。 ---------------------------END------------------------------------------