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お化け屋敷の担当 ~マネキン墓場~ Side Story ~ 明梨 Side ~ 【前編】

これはあるテーマパークで期間限定で開催されたお化け屋敷…その一角である【マネキン墓場】での、ある日の一日。 ・・・ (んぅぅぅっ!!…んぁ…これ…やばいよぉ…) 私の名前は、【大塚 明梨(おおつか あかり)】。 このお化け屋敷、マネキン墓場で働いている。 そこで何をしているかというと、脅かし役である【マネキン】をしているのだ。 なぜ私がこの仕事をやる事になったのか…それは親友である【早織(さおり)】からどうしてもと頼まれたためである。 ・・・ それはこの仕事の初めての日、お化け屋敷のプレオープンの日に遡る。 「明梨、じゃあ着替えよっか!」 そう言って私に着替えを促すのが、親友の早織である。 早織と私は、同じ劇団に所属していて、かなり仲がいい。 その早織にどうしてもと頼みこまれ、今回の仕事を引き受けた。 しかし、いつも通りグイグイに話を進める早織からは、仕事内容はしっかり聞いていなかったのだ。 「で…早織…着替えるってどういう事なの??」 「えっとね…お化け屋敷の私たちが担当するのは、【マネキン墓場】って所なの」 「うん…それは聞いてるよ」 「それで、私たちの仕事は、そのブースの【マネキン】って事なのよ」 「マ…マネキン??」 早織の言っている意味がいまいち理解出来ない。 マネキンとは、お店とかで洋服を着させてディスプレイするもの。 仕事がマネキン?? 文章がいまいち繋がらない。 「ようは…私たちが動くマネキンになって、お客を驚かすって事!」 「へっ…わ…私たちがマネキンに【なる】の??」 「そうそう」 つまり私たちがマネキンの振りをして、固まっていて客を驚かすという事。 まあ…劇団所属の私たちだから、確かにそういう演技も出来ない事はない。 「で…でも…止まってたって、よく見られれば肌の質感とかで人ってばれちゃうんじゃ…」 「だから、さっき言ったでしょ!着替えるって」 「着替える??」 「そう…これを着るのよ」 そう言って早織が取り出したのは、肌色の全身タイツのようなものだった。 しかし、表面は布のような雰囲気と違い、光沢感が出ている。 なんにせよ、全身タイツなど着た事がないから、私の戸惑いも隠せない。 「え??そ…それを着るの??」 「そういう事。じゃあ早速着替えるから、明梨も服脱いじゃって」 「え…あ…うん…」 相変わらずの早織のペースに巻き込まれ、断る隙も与えられない。 しかも、当の本人も、私に服を脱げと言っておいて、自らどんどんと服を脱いで行く。 言った本人にその行動を取られれると、私も同様に脱ぐしかなくなるのである。 (んもう…いつも怒涛なんだから…) そう思いつつも、私は着ていた洋服を脱ぎ、下着姿となった。 「明梨、下着も脱いじゃって」 「え!?」 「こういう物を着るときは、下着は付けないものなのよ。だって下着の線が出ちゃうでしょ」 「そ…そっか…」 「それに私になら、散々裸も見られてるでしょ…ってか、お互いか」 「う…うん…」 私と早織は劇団の時などでも、お互いの裸を見る事もある。 それにお風呂とかも一緒に入ったりするので、まあお互い見慣れたものだ。 そして私は下着も脱ぎ、生まれたままの姿となった。 もちろん早織も同じ状況。 すると、早織が私の体を見ながら言った。 「う~ん…。やっぱり驚くほどに私と体型が一緒よね…。身長体重…胸の大きさ、形までそっくり。今回の仕事は明梨じゃなきゃ、私とパートナーは組めないわね…」 「そ…そうなの…??なんで??」 「まあ、理由は後で分かるから、どんどん準備しよ」 早織の言った事は謎めいていたが、とにかく後でその理由も分かるのだろう。 今は早織のいう通り、事を進めるしかない。 「んじゃあ次は…このニップレスを貼って」 「ニ…ニップレス!?」 私は生まれてこのかた、ニップレスなど貼ったことも無かった。 初めての経験に、なんだか不思議な緊張が走る。 「はいこれ。自分で貼れる??それとも私が貼ってあげようか??」 「い…いいよぉ…じ…自分でやる。乳首に貼ればいいんでしょ??」 「そうそう」 そして私は心臓をドキドキさせながら、自らの乳首を隠すようにニップレスを貼り付けた。 改めて自らの胸を見てみる。 そこには乳首の部分だけを隠された胸が存在していた。 (うぅ…これ…ある意味…裸より恥ずかしいかも…) 見慣れない光景に、少し恥じらいを感じてしまう。 そして、そんな事を感じながらモジモジとしていると早織がタイツを手渡してきた。 「それじゃ、このタイツを着てちょうだい」 「う…うん…」 なんだかニップレス姿が恥ずかしいのもあり、急いでそのタイツを着ようと思った。 背中の部分がファスナーになっており、そこから足や手を通していくらしい。 そして私はそのタイツに足を滑り込ませて行った。 (あっ…このタイツ…思ってたより柔らかい…) 表面に光沢があり、なにかビニールのような雰囲気かと思わせたタイツは、予想を覆し、むしろサテン生地の手袋のような感触だった。 そして、足を滑り込ませて気が付いたが、かなり私の足にぴったりと張り付いてくる。 伸縮性がかなりいいらしく、滑り込ませた私の足の凹凸にしっかりと追従してくるのだ。 そして私は上半身もそのタイツの中に滑り込ませていく。 手を通し終わると、私の顔の前には頭部のタイツが垂れ下がる。 「じゃぁ…明梨。その頭の部分を被っちゃって。顔が出るようになってるから」 「うん」 そして、私は頭部のタイツを被った。 頭部は顔の部分が丸く穴が開いており、私の顔の部分が露呈されるようになっていた。 「じゃ、先に明梨のファスナー閉めるね」 そう言って早織が私の背中のファスナーを閉め上げて行った。 【ジーーーーーーーー】 背中のファスナーが閉められて行くと同時に、私の全身がタイツに包まれていく。 段々と体を締め付ける感覚が強まっていく。 しかし、それは締め付けられて苦しいという物ではなく、タイツが私の体にぴったりと追従してくるような感覚であった。 (あっ…なんだろ…この感じ…ちょっと…気持ちいいかも…) 全身を隈なく包み込まれる感覚…。 この経験した事のない新たな感覚は、私に心地よさを与えるのだった。 少し、その感触に浸ってしまいそうになった所で、早織から声を掛けられた。 「明梨、それじゃ…私の背中も閉めてくれる??」 「う…うん…」 【ジーーーーーーーーー】 早織の背中のファスナーを締め上げると、やはりタイツは早織の体を綺麗にトレースしていくのであった。 出来上がった肌色の全身タイツに包まれた女性…早織の体がそこにあった。 まじまじと早織の体を見てしまう。 タイツはキッチリと早織のスタイルをトレースしており、早織の体のラインをはっきりと表現している。 乳首はニップレスによって隠されているので、少し浮き上がったくらいだろうか。 そして、陰部のワレメもそれ程はっきりではないが、うっすら分かるくらいだ。 見方によっては、裸の早織がそこにいると言っても過言でない状況だ。 その姿に驚きと、見る側の恥ずかしさすら感じてしまった。 (な…なんか…すごいな…) そして、そんな早織に見とれていて、直ぐに気がついた事があった。 (ん!?ちょ…ちょっと待って…!早織と私は同じ状況…!って事は、私も裸同然って事!?) それに気が付き改めて自らの体に視線を落とした。 (あぁぁぁぁぁ!!!は…はずかしいぃぃぃぃぃ!!!!) 早織の姿をまじまじと見た分、自分の姿も全身を見なくても想像が出来、余計に恥ずかしく感じてしまう。 手が自然と、乳首の部分と陰部を隠してしまう。 すると、そんな私をぶった切るように早織が言った。 「そんなに恥ずかしがらなくていいわよ。次にこのマスクを被るんだから。マスクを被っちゃえば、誰か分からないし、恥ずかしくもないわよ」 そう言って、早織は私たちが被るマスクを取り出した。 「そ…そうかな…被れば…恥ずかしくないかな…?」 「もちろん。だって誰も中身が明梨って事は知らない訳だし。あっ!?私だけは知ってるけどね」 「そ…そっか…」 なんだか早織の勢いに流されてしまった感じもするが、妙に納得してしまう。 「それで、【最初に】明梨が被るのはこっちのマスクね」 そう言われ、私は早織から、マスクを受け取った。 どうやら早織が被るマスクと私が被るマスクは違うようだ。 私に渡されたマスクは、全面肌色に塗られた女性の顔のマスクだった。 目は見開いているものの、肌色に塗られた眼球、それが本当にマネキンといった雰囲気を醸し出す。 髪の毛はなく後頭部にファスナーがある。 「明梨のほうのマスク、仕上げは私がやらないといけないから、とにかく被って」 「うん」 早織にそう言われ、私はファスナーを開いたマスクに頭を潜り込ませた。 顔の部分の固い素材とは違い、ファスナーの辺りはゴムのような素材で出来ており、伸縮性がある。 中に頭を入れた私は、マスクの形状に自分の顔を合わせて行った。 (ん…こ…ここが目か…) 中から見ると目の部分は透けており、外が確認できる。 そして自らの鼻をマスク鼻に当てがうと、びっくりする程にぴったりと合わさった。 鼻の所に穴があり、そこから呼吸ができそうだ。 マスクの内面には、薄いけれども柔らかい素材が貼ってあり、マスクが顔に当たっても痛くない。 「それじゃ、ファスナー閉めるね」 【ジーーーーー】 後頭部のファスナーが閉められ、私の頭部はマネキンのマスクに完全に包まれた。 【カチャ】 (ん?何の音??) 何かの音がしたものの、それ程気にも止めなかった。 ファスナーを閉めると、後頭部の伸縮のある素材が締め付け、マスクを私の顔にぴったりと張り付かせる。 内側の柔らかい素材のおかげで、痛くはないのだが、逆にその素材があるがゆえ、マスク内に無駄な空間を作らないようになっているようだ。 (すごい…なんか…ほとんど私の頭みたい…) 「どう?明梨、大丈夫??」 「うん、問題ないよ。びっくりするぐらいしっくり来てる…」 顎は多少動かせるので、言葉を発することは出来るようだ。 「よし、じゃあ髪の毛を付けるね」 そう言って早織がマネキンの髪の毛を取り出した。 ウィッグのようなもので、確かに自分ではしっかりとした位置に付けられなさそうだった。 そして、早織が私にウイッグをつけてくれた。 「じゃあ次はこれね」 そう言って早織が取り出したのはコルセットのようなもの。 「これを腰につけて…っと…」 されるがままに腰にそのコルセットが取り付けられていく。 「ううっ!」 早織がコルセットを締め上げたので、少し声が漏れてしまった。 「さ…早織…ちょっと…締め過ぎだよ…」 「そんなこと無いって、コルセットなんてこんなものよ」 そう言いながら、どんどん準備を進めていく早織。 「さてこれで次は、服だけど…これもワンピースになってるから、バサッと着るだけ」 早織が取り出した服は、中世ヨーロッパの貴族を思わせるような、ワンピースの服だった。 そして、それを渡された私は、背中のファスナーを開き、そこから体を通して行った。 見た目のアンティーク感とは裏腹に、構造は至って簡単、お尻の部分から背中への一本のファスナーだけで脱ぎ着出来るよう簡単な作りになっている。 そして私は背中のファスナーを閉めるだけの状態となった。 「後は、定位置に付くだけだから。明梨、それじゃ先に私のマスクのファスナーをお願い」 「うん」 すると、早織がマスクを被り始めた。 早織のマスク、それは私の被ったマスクとは違い、全体がのっぺりとした、肌色ののっぺらぼうのようなマスクだった。 外から見ると、どこから見ているのかも分からない感じだ。 「じゃあ閉めるよ」 「お願い」 【ジーーーー】 ファスナーを閉めると、マスクは早織の頭をすっぽりと覆い隠した。 顔の凹凸もない、髪の毛もない、本当にディスプレイ様のマネキン人形のような頭部だ。 無機質感がある意味、怖さを演出している。 「はいこれ、鍵」 「鍵??」 突然、早織から特殊な鍵を手渡された。 「ファスナーの所に穴があるでしょ、そこに差し込んで回して」 「う…うん」 早織に言われた通り、小さな穴に渡された鍵を差し込み回してみる。 【カチャ】 (あっ!?この音…さっきの…) 「オッケー、じゃあその鍵をちょうだい。無くしちゃうと大変だから」 「ちょ…ちょっと早織…もしかして、この鍵で開けないと、マスクが取れないって事??」 「そうよ。さっき明梨のマスクも閉めたけど、鍵は共通よ。こうやって鍵でロックしておけば、他人にマスクを外される事はないわ」 「私のマスクも…ロックされてるんだ…」 「まあ…誰かに外されないって事は、自分でも外せないって事なんだけどね♪」 少し重い内容な気もしたが、サラッとそれを言う早織。 【ゴクッ】 (じ…自分では外せないんだ…。って事は私は早織に脱がして貰わない限り、このマネキンの着ぐるみは脱げないって事…なんだよね…) 何か自分ではどうしようもないという事実に、少し不安と怖さ、そして裏腹の胸の高まりを感じていた。 「よし、じゃあ、ブースに行こうか」 マスクをした早織は移動すると口にした。 しかし、早織はまだ服を着ていない、うっかり忘れてしまっているのだろうか。 「っていうか、早織、まだ服を着てないよ」 分かっていると思うが、一応、言うだけ言ってみた。 「大丈夫、大丈夫♪向こうで説明するから」 「そ…そう…」 そして相変わらず流されるまま、私たちは更衣室から、マネキン墓場のブースの方へと移動して行った。 するとそこは、薄暗い部屋…そして、部屋の至る所にマネキンのパーツが落ちているのだった。 (うぅ…すごい…なんか不気味だよ…) その光景だけで、少し恐怖を感じてしまう。 「じゃあ、明梨はここに立って」 早織がここという場所…それは部屋の中央部付近、そしてそこには一本の棒が床から伸びていた。 「この棒を背にして立って」 「うん」 その棒を背にして立つと、早織がスカートをめくりあげ、その棒を私の衣装の中へと滑り込ませた。 「えっと…これを固定して…っと…」 早織が背中で何かの作業をしていた。 「オッケー、固定できたわ」 「固定??」 その声に反応し、体を動かそうとしたが腰が動かない。 (え!?何??) 自らの腰が動かない事に驚きを示していると、早織が説明をしてくれた。 「そこに伸びていた棒に、コルセットを固定したわ。これで明梨もマネキンらしくしやすくなるわよ。それじゃ、服のファスナー閉めるわね」 【ジーーーーー】 すると私の服のファスナーが閉められ、完全に服を着た状態となった。 「よし♪これで準備完了。じゃあ流れを説明するわね」 「ん?準備完了??」 これで準備が出来たという言葉に困惑が隠せない。 まだ、早織は服を着ていないのだから。 「お客が入ってくるのはそっちの入口。そこからUの字を描くように出口に向かっていくわ。その間、明梨は人形風な演技をしながら、首だけ動かしてお客さんを視線で追って。それだけでも充分怖いと思うけど、実は脅かすのはここから。真ん中を過ぎた辺りで、音声が流れ始めるから、それに合わせて、部屋の隅に隠れていた私が背後から襲うって手筈よ」 「ふ~ん…じゃあ、私はとにかく頭を動かしながらお客さんを追えばいいんだよね」 「そういう事」 「だいたい流れは分かったけど、所で早織の衣装は??」 「衣装??もう完成しているわよ」 「え…??だって、まだタイツ一枚だよ」 「何言ってるのよ。そこら辺に落ちているマネキンに隠れていて出てくるんだよ。それと一緒じゃなきゃおかしいでしょ」 「え?そ…それじゃ…早織は…その格好のままお客を迎え入れるの??」 「そうよ」 早織は、あたかも何を言ってるのと言わんばかりの口調で肯定した。 しかし、その姿はタイツ一枚…。 その下は何も着ていない、ニップレスを貼っているだけ。 綺麗に早織の体型をトレースしているタイツ。 ほぼ、早織の裸を晒している状態に近い。 (ちょ…ちょっと…早織…それはいくら何でも恥ずかしすぎるんじゃ…) 本当にその状態でやるのか疑問を抱くほど、恥ずかしい格好だ。 しかし、先程肯定した早織、そして今の彼女の立ち居振る舞いから、それが本気だという事が伝わってくる。 「さ…早織…そ…それ…さすがに恥ずかしくない…の??」 「だからさっき言ったでしょ。顔が見られないだから、恥ずかしいも何もないわ」 「そ…そうか…」 「あっ…そうそう…。ここのブースを担当するスタッフが一人付くらしいけど、その人には今、明梨がやってるマネキンの方が、中身は人だと言ってないらしいから、そっちも騙しちゃおう。ってことで、そのスタッフがいる時は、お互い喋らないほうがいいわね、素性がばれる可能性もあるし」 「そ…そうだね…」 (ん…確かに…スタッフが男の人だったら、ちょっとばれると恥ずかしいし…) 「まあ、後はやってみた具合で考えていくわよ」 「うん、分かった」 「ん!?」 すると早織がスタッフルームの扉の方に視線を向けた。 とって言っても、今の早織の顔には目は無いのだが。 すると私のほうに近づき、私に小声で言った。 「担当のスタッフが来たみたい。じゃあここからはマネキンのふりで」 「うん」 【ガチャ】 すると、スタッフ用の扉が開き、そこから一人の男性が入ってきた。 「お…おはようございます。今日からスタッフとしてサポートさせて貰います【常坂 守(ときさか まもる)】です。よろしくお願いいたします」 入ってきた男性は、少し早織の様子に驚きつつも、早織の着たマネキンに向かって挨拶をした。 すると、早織はゆっくりと無言で彼に向かってお辞儀をした。 (そっか…しゃべらないんだから、ジェスチャーで答えないといけないんだ…) 劇団に所属しているだけあって、早織は簡単に返答を表現する。 そのあたりは、さすがという感じがする。 「それじゃあ、流れの確認ですが…」 常坂くんは、のっぺらぼうのマネキンに少し面食らいながら、このブースの仕事の流れを話し始めた。 彼が無言の早織と会話をしているのを眺めている。 というか、眺めるくらいしか出来ないのだ。 今の私はマネキン…。 常坂くんにもばれないよう、マネキンを演じなければならない。 動かずに出来る事…それは観察する事くらいなのだ。 その様子を見ていた感じでいうと、常坂くんは誠実そうで好感を抱かせる。 (よかった…真面目そうな人だな…しっかり仕事してくれそうだな…) そんな事を思いながら、眺めていると、一通りの話が終わったようだった。 「それじゃ、今日のプレオープンのお客を迎える準備をします。よろしくお願いします」 すると早織は無言で頷き、部屋の隅のほうへと向かい、床に寝転んだ。 そして、寝転んだ早織の上に、常坂くんが落ちているマネキンのパーツを乗せていく。 恐らく、早織をカモフラージュするためだろう。 いくつかのパーツを乗せた所で準備は完了した。 「それじゃあ、そろそろお客が来ると思いますので、僕は監視室のほうに向かいます」 そう言い残し、常坂くんはブースを去って行った。 マネキン墓場のブース内が無音に包まれる。 (そ…それじゃ…これから本番って事だよね…) 私の役目は、入ってきたお客をジッと目と頭で追っていくだけだが、やはり初めての事なので緊張する。 ある意味では、芝居の舞台の始まりと同じような緊張感である。 【ガチャ】 入口の扉が開き、女の子二人組がブースに入ってきた。 「うぅ…ここ…すごい不気味…」 「あの真ん中のマネキンも怖いよ…」 そう彼女達が口にした所で、私は首から上を動かし、彼女達のほうへ視線を向けた。 「うわっ!あ…あのマネキン!こっち見た!!」 「嘘!?最初からじゃない?」 「違うよ!本当に今、こっちに向いたんだから!」 そう言いながら、彼女たちはゆっくりと歩みを進める。 そして、彼女たちが進むと、私はその動きを追従するように、首から上を動かし、彼女たちに視線を向け続けるのだ。 「ほ…ほらぁっ!ずっとこっち見てるよぉ!!」 「ほ…ホントだ…こ…怖い…」 完全に私のほうに注意が向けられる。 恐らく、私が演じるマネキン…これが機械ではなく、本物の人間が入っているからこそ、視線を感じるのだろう。 そして、この視線に注意を引き付けられれば、演出としては成功である。 そして、彼女達が真ん中付近まで到達した瞬間、音声が流れ始める。 【人間になりたい…人間になりたい…】 それは低いトーンの女の人の声、それがどこからともなく聞こえてくる。 声の雰囲気だけでも、少し怖さを感じる。 「え!?何!?この声!?」 その声が流れるとより注意は私の方に向けられる。 この部屋の中で、唯一動いているのが、私の頭部だけだから、お客にしてみれば自然とこの声の主が私の着ているマネキンと感じてしまう。 「いやぁ…怖いよぉ…」 そして、女の人の声の音声がヒートアップしていく。 【人間になりたい…人間になりたい…私を…私を…私を人間にしてぇぇぇぇぇぇ!!!】 その怖さ故に、私のマネキンの方に完全に視線を奪われるお客。 そして、その音声が盛りがった瞬間だ。 【ガラガラガラ!】 「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 お客の彼女たちの悲鳴が響き渡る。 彼女達の背後から、早織のマネキンが立ち上がり、彼女たちにじわりじわりと近づいて行くのだった。 完全にこちらに気を取られていた二人は、背後から意表を突かれ、想像を絶するほどの恐怖に見舞われていた。 片方の子は、少し腰を抜かしたように地面に尻もちをついてしまっている。 【私を…私を…人間にして…人間にしてよ…ねぇ…人間にして…】 その音声に合わせながら、少し体をカクカクとさせて、ゆっくりとお客との距離を詰める早織のマネキン。 そのカクカクとした、無機質感のある動きが、不気味さと恐怖感を煽る。 (さすが…早織…。表現力が凄いな…) その演技力に少し見とれてしまっていた。 「いやぁぁぁ!!来ないで!!来ないで!!」 恐怖にパニックする彼女達。 片割れの子が尻もちをついた子の腕を取り、必死に持ち上げようとする。 そして、ゆっくりながらも彼女たちは徐々に出口へと向かっていくのだった。 そのペースに合わせ、近づきすぎないようにしながら、お客を出口に追い込む早織のマネキン。 お客に触れる訳にはいかないので、微妙な距離を保ちながら、早織はお客を誘導するのだった。 そしてようやく出口に辿り着いたお客。 「は…早く!!行こう!」 慌てふためいた彼女達は急いで、出口の扉をあけ、マネキン墓場を出ていくのだった。 【ガチャ】 お客が出ていくと、早織の動きが先程の無機質な動きではなく、普通の人間へと戻った。 そしてよく見ると、早織の肩が大きく上下している。 (あの演技…やっぱり…結構きついんだ…) それはそうだろう…。 全身を細かく震えさせている感じで、演技しているのだ。 そして、のっぺらぼうのマスクも被っている訳だから、呼吸も楽じゃない。 息が上がるのは当然だろう。 【ガチャ】 すると、監視室を繋ぐ扉から、常坂くんが戻ってきた。 「オッケーです。大成功ですね」 常坂くんが早織のマネキンに話しかけた。 すると、早織は胸に手を当て、【よかったです、ホッとしました】的な仕草をした。 「それじゃ、次のお客を迎えいる準備をしますので、さっきの場所にお願いします」 そう言われ、早織はまた隠れる場所あたりへ戻って行った。 (これが一連の流れか…) こうして、このマネキン墓場の一連の流れを把握する事が出来た。 そして、もう一つ分かった事。 常坂くんは、監視室からこのブースにくるまで数分かかる。 つまり、その行ったり来たりの数分間は、私が手を動かせる時間という事になる。 足に関しては、実際はロングスカートに隠れているので動かしても見えないと思うが、一応、手と同様の時間しか動かさないようにした。 そうして、その後も何組ものお客を相手して、おおよそ、早織がどういう行動をとっているのか、常坂くんがどうしているのか、私がする事を把握した。 と言っても、私のすることは、中身が人だと【ばれない】ように振舞う事と、首を動かしお客を釘付けにするという事だけだが…。 午前中が終わり、昼の休憩に入った。 休憩に入ると、常坂くんはブースから出て行った。 どうやら、監視室でもない別の場所のようだ。 すると、肌色のマネキンの早織が私に近寄って来た。 「明梨、お疲れ♪これから昼の休憩に入るわよ。常坂くんも時間までは、このブースに入れないから、その間に休憩と午後の準備をしちゃうわよ」 早織が声を発したという事は、もう声を出しても問題ないという事。 「うん、分かった」 私が返事をすると、早織が私の背中側に回り、洋服のファスナーを降ろし始めた。 「それじゃ、腰の固定も外すから」 そう言って、コルセットに固定していた棒も外してくれた。 「さっ…更衣室にもどるわよ」 そうして私たちは更衣室へと戻って行った。 更衣室に入り、直ぐに早織が私のマスクの髪の毛を外してくれて、マスクのロックを解除してくれる。 【ジーーーー】 そして後頭部のファスナーが開けれた。 「ぷはぁぁ~~。なんか空気が新鮮な気がするぅ~…」 マスクを取り、久しぶりの解放感に包まれる。 呼吸は鼻からだけだったため、この普通の状態が、とても息がしやすく感じてしまう。 「明梨~~私のも早く外してよ」 「ゴメンゴメン」 そして同様に早織もマスクから解放してあげた。 休憩するに当たり、洋服が潰れてしまうといけないので、とりあえず洋服を脱いで、肌色マネキン状態になった。 すると、緊張から解放されたせいか尿意が訪れた。 「あ…あのさ…ちなみにトイレって…」 「うん、そこの扉のところにあるわよ。私と明梨専用だから」 更衣室にトイレまで完備してあるとは、なかなかありがたい。 「あっ…そうそう、そのマネキンタイツ、股の所に隠しファスナーがあるから、それを開ければ、着たままおしっこできるわよ」 「へっ??隠しファスナー??」 そう言われ、自らの陰部に目を向けてみた。 (ここに??ファスナーが??) 疑問に思いつつも、自らの手で陰部付近を確認してみた。 すると、そこには確かにファスナーがあったのだ。 (ほ…ホントだ…。あっ!?そっか…ニップレス以外つけてないし…開ければおしっこ出来るんだ…) そして私は、タイツが汚れないように、四苦八苦しながら用を足すのだった。 その後、軽く水分補給をした所で、早織が言った。 「さてと…午後の準備を始めますか…」 「え?もう?まだ時間、早くない??」 「初めてだしね…早めにやったほうがいいでしょ」 「そ…そうだね…」 そう言って立ち上がった早織は、先程ののっぺらぼうマスクを手にした。 「はい、じゃあ、次は明梨がこっちのマスクね」 「え!?」 「だから、午後は明梨がこっちの役」 「え!?」 「午前と午後で交代なのよ」 「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」 早織がとんでもない事を言い放った。 先程、早織がやっていた事を、私にやれというのだ。 あれだけの演技力を見せつけられて、それを私にやれと…。 「流れはもう分かってるでしょ」 「う…うん…それは分かってるけど…」 「じゃあいいね。さっさと、マスクを被って!」 「えっ…でも…」 「はい、早く被る!!」 「は…はい…」 色々と疑問だらけだが、相変わらず早織のペースに押されて流されてしまう。 (ふぅぅぅ…やるしかないか…) そして、そのまま私はのっぺらぼうのマスクを被った。 マスクを被ってみると、思いの他、中に余裕な空間はなかった。 (あ…視界は悪くないんだ…) 目の所がメッシュのような素材になっていて、視界が確保されている。 早織が被っていた時、外から見たら全く覗きの部分は分からなかった。 上手く外からは分からない様に作られているのだろう。 「じゃ、閉めるわよ」 【ジーーーーーー…カチャ】 そして、マスクのファスナーは閉められ、ロックをされた。 マスクはかなり私の頭部にフィットしており、私の頭の動きにしっかりと追従してくる。 そして、呼吸は目のメッシュの所から空気が出入りしているようで、確保はされているものの、とても楽というものではない。 なんにせよ、もうマスクを自ら外すことは出来ない。 つまり、早織が全ての権限を握っているという事。 もう腹をくくって、肌色のマネキンを演じるしかないのだ。 「じゃ、私も被るから、よろしく」 そうして、今度は早織が洋服を着たマネキンのマスクを被ったのだった。 「よし、ブースのほうに行くわよ」 洋服を着た早織に連れられ、マネキン墓場のブースに戻って行った。 そして、午前中に早織が私にしてくれた作業を、今度は私が進める。 コルセットに棒を固定し、洋服の背中のファスナーを閉めて完成。 「オッケーよ。後は午前中の流れ通りだから。あっ!?そろそろ常坂くんが戻ってくる時間よ」 「う…うん…」 自分にあの役が出来るのかという不安が過る。 そして、早織の言葉で喋るのをやめた私は、改めて状況を確認した。 (え…っと…あそこら辺で隠れて…音声のタイミングで起き上がればいいんだよね…) 先程の早織の動きを思い出し、頭にその映像を思い起こす。 (うん…だいたい動きのイメージは残ってる…) そして、早織の映像を思い起こすことで、気付く事があった。 (ん?そ…そ…そ…そうか!?わ…私…さっきの早織と同じ姿!?) そう…先程、私が見続けていた早織の姿が、今の私の姿なのだ。 改めて、自らの体に視線を落とす。 (うぅ…は…はずかしい…よぉ…体の線もはっきり出ちゃてるし…このタイツの下…ニップレスだけだし…) 自分がこのタイツの下にはニップレス以外、何も付けていない事を思い出し、恐ろしい程の恥ずかしさが込み上げてくる。 恐らく、マスクの中では顔は真っ赤になっているだろう。 乳首を少し隠した程度で、ほぼ自分の全てを晒してしまっている状態なのだ。 その状況に、ついモジモジとしてしまう。 (ホ…ホントに…この状態で…人前に出るんだよね…は…恥ずかしいよぉ…) 羞恥心で頭がいっぱいになっているとスタッフの扉が開いた。 【ガチャ】 「あっ、お疲れ様です。午後の部もよろしくお願いいたします」 常坂くんがブースに戻り、私に向かって挨拶をして来た。 私は爆発するのではないかと思うくらい胸を鼓動させながら、無言でペコリと頭を下げた。 (あぁ…恥ずかしい…恥ずかしい…常坂くんに…見られてる…うぅ…恥ずかしい…) 向こうにとっては、午前中と何ら変わりのない状況。 しかし、こちらにしてみると、大きな違いなのだ。 「じゃあ、準備をお願いします」 常坂くんにそう言われ、私は先程、早織が寝転んでいた場所に行き、その場に寝転んだ。 すると、常坂くんが、マネキンのパーツを私の上に乗せるために、上から見下ろす。 裸で横になっているような状態を、男性に見下ろされる。 なんだかとても、支配的な感じがし、余計に恥ずかしを助長させる。 (あぁ…いやぁ…見ないで…恥ずかしいよぉ…) よこになりながら、その視線に恥ずかしさを感じ、胸をドキドキとさせる私。 しかし、そんな私を他所に、常坂くんはマネキンのパーツを私の上に乗せ、淡々と準備を進めて行った。 「オッケーです。じゃあそろそろお客さんがくるので」 そう言って、常坂くんは監視室のほうに戻っていった。 そして、自らの出番が来るまで、その場で息を潜め動かないようにしていた。 様々な思考が過る…。 …上手く出来るだろうか…。 …やはり、この姿で客前に出るのは恥ずかしい…。 …でも、そんなことは言っていられない…。 …顔は隠れているから、誰かは分からない…。 …分からないと言っても、やっぱり…ほとんど裸をさらしているようなもの…。 …やっぱり恥ずかしい…。 …でも頑張らなきゃ…。 すると、先程の流れ通り、お客がブースに入って来て、段々と進んで来た。 そして、音声が進み、ついに私の出番が来たのだ。 「私を人間にしてぇぇぇぇぇ!!!」 その音声を聞いた瞬間だった。 私の役者魂のスイッチが入った。 「きゃぁぁぁぁぁ!!」 私が背後から立ち上がり襲いかかると、悲鳴を上げ恐怖するお客。 そして、私は小刻みに体を震わせ、カクカクとした演技で、お客を怖がらせる。 その瞬間の私は、役に入り切っていた。 恥ずかしさも忘れ、【マネキンの化け物】に成りきる。 動きは先程の早織のイメージが残っているため、自然と同じような動きとなる。 「きゃぁぁぁ!!いやぁぁぁぁ!!」 恐怖に怯えるお客を、出口の方へと追いやって行った。 その客の進行具合を見ながら、いい距離を保ち、ゆっくりと襲いかかる。 しかしそれは計算してやっているものでもなかった。 そのマネキンのお化けのイメージを体現していただけ…。 むしろ体がそれを勝手にやっている感じだった。 「いやぁぁぁぁ!!」 【ガチャ】 そして、腰を抜かした様子だったお客が、ブースの外へと出て行った。 お客がいなくなり、私の演技スイッチが切れる。 その瞬間、お化けではなく、明梨という人間に戻るのだった。 そして、演技が終わった途端に、一気に呼吸が荒くなる。 「はぁっ!!はぁっ!!はぁっ!!」 (く…苦しい…息が…息が…) 力の入った演技、そして全身で表現する演技は、とてつもなくエネルギーを消費する。 かなり呼吸が乱れ、大きく肩で息をしてしまう。 そして、あまり通気性がいいとは言えないマスク。 大きく息をすると、なんとか視界のメッシュから空気が出入りしていくのだった。 【ガチャ】 「オッケーです。じゃぁ次の準備にかかりましょうか…。ん??あれっ?大丈夫ですか??さっきより息が上がってるみたいですけど…」 (や…やばい…代わった事…ばれちゃう…) 私は必死に呼吸を整えながら、常坂くんに向かって、指で丸をつくり、オッケーという仕草をした。 「大丈夫なら…いいですけど。きつかったら言って下さいね、客入れの調整はしますので」 (あ…ありがとうございます…。って…言っても喋れないから…きつくても伝えられないんだけど…) とにかく私は必死に呼吸を整え、次の客を迎え入れる準備へと移って行くのだった。 こうして、私と早織の【マネキン墓場】の仕事は始まったのだ。 そして、何故、早織の相棒が私でないといけなかったか…。 それは体型がほぼ一緒という事だ。 それにより、午前と午後の役割を交代しても、誰も気が付かないのだ。 恐らく多少の演技の質の差はあれども、私は早織の演技の影響をうけて演じているから、近いものになる。 そして私は、一日の半分はタイツ一枚の状態を曝け出しながら仕事をしていくのだった。

お化け屋敷の担当 ~マネキン墓場~ Side Story ~ 明梨 Side ~ 【前編】

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