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【全体公開】渋谷ハル3Dモデルの制作話

今回の記事は初めましての方も多そうですね!

こんにちは!3Dモデラーのはんそでです。


先日渋谷ハルさんの3Dモデルお披露目がありましたが、ファンの方々に満足いただけるかずっとソワソワしていたので、みなさんの反応をみて内心だいぶほっとしています。毎度毎度お披露目のヒヤヒヤ感は慣れませんね……!


さて、今回の記事はこだわりポイントというよりは、だいぶ技術寄りの解説になります。おそらく、ほとんどの方がお披露目を見てそんなに大変そうなことあった?という感じだと思いますが、モデラー目線であのお披露目を見ると、えぇ……マジでやったのこれ?となると思いますので、その感覚をみなさんにも味わってもらおうという趣旨です。ではさっそく、全体像から見ていきましょう。


◆やばいポイント全体像

あれ?2カ所だけ?って思うかもしれませんが、この2カ所が本当にやばいです。まずは肩掛けのアウターから説明したいと思います。



◆肩掛けアウター

いきなり大変さを語られても実感がないと思うので、普段のモデルと比較してお話ししようと思います。

(えれっと:https://twitter.com/eretto_)

こちらも私が担当した方のモデルですが、丈は違いますがアウターを着ています。渋ハルさんのアウターとの違いは袖を通しているかどうかですね。

こちらの場合、袖の動きは腕と同じです。中に腕があるので当然ですね。つまり、基本的には袖と腕に同じ動きをさせれば貫通も破綻も防げます(もちろんさらに調整が必要ですが今回は割愛)。



では渋谷ハルさんのアウターはどうかというと……

・腕を横に広げた時は腕と一緒に広がる。ただし肘を曲げると垂れる位置が変わる。


・腕を前に出したときは肩から垂れる


・腕を体の内側に曲げた時、腕には付いていかずに重力に従う


・腕を横に広げ、肘を手前に曲げているときはアウターが腕に被さるが、腕を上に曲げた時はアウターが腕に押しのけられ後ろに行く


ぱっと思いつくだけでもこれだけのパターンが存在し、さらにそれぞれのパターンの中間でも破綻なく遷移する必要があります。袖に腕を通さないだけでこれだけ難易度が跳ね上がります。


◆Vtuber環境の物理演算に関する誤解

でもそんなの物理演算でどうにでもなるんじゃない?と思っている方がいるかもしれないでの、まずそこに誤解があることを説明します。

現状のVtuberの3Dモデル規格(VRM)における物理演算は、布ではなく糸で構成されています。

どういうことかというと、現実世界での布は左図のように布が隣同士で引っ張り合うため、決して布を体がすり抜けることはありません。しかし、スカートが糸で作られていた場合は右図のように引っ張り合うことはなく、すぐに肌があらわになってしまいます。VRMではこの糸の状態になりますので、よくVtuberのスカートを足が貫通してしまうのです。

布の物理演算は複雑かつ手法が様々で規格化が難しく、設定パラメータも大量になってしまうため、VRMという環境に依存しないことを目指した規格では簡易的な糸の物理演算のみ使われているのだと思います(理由は私の推測です)。


余談ですが、以前ホロライブさんの技術スライドを見た時に、ホロライブさんではMagicaClothという布の物理演算を使っているようでした。物理の様子を見てそうだろうなとは思ってたんですが、自社でスタジオがあるとそういう特注ができるので羨ましいですね……!!あと自社スタジオで羨ましいのがライティング面です。私(モデラー)がスタジオさんと連携が取れるわけではないので、どうしてもモデルのルックに関するセットアップが汎用型になってしまうのも心苦しいところではあります…!!

以前、兎鞠まりちゃんのお披露目ではニューロン(トラッキング機材)を使った自宅お披露目だったので、実質自社スタジオみたいな状態で結構好き勝手やらせてもらいました。興味があれば見てみてください!!

https://www.youtube.com/watch?v=AF7nOjW9tl4&t=402s


◆コンストレイントと条件分岐

さて、話を戻すと物理演算が糸で行われているという話でした。となると、お気づきかもしれませんが単純に物理演算を行うと……

アウターは腕を簡単にすり抜けて腕だけ取り残されます……。今回の渋ハルさんに限らず、このような貫通はスカートや上着でよく起こりますが、大体はめちゃくちゃデカい当たり判定を使って対処します。スルリと抜けてしまうのが問題なら、実際の足より全然大きい当たり判定を使って抜ける隙間を無くしてしまうということです。


ですが渋ハルさんのアウターにはめちゃデカ判定を使えません。何故ならめちゃデカ判定を使うには腕の可動域は広すぎるのです。渋ハルさんが頬を掻いた瞬間にアウターが押し出されて吹き飛びます。


そこで登場するのが「コンストレイント」です。これは物理演算とは別物ですが、物理演算と同様にボーンの動きを制御します。

コンストレイントとは日本語で「制約」ですが、イメージと意味がだいぶ違うのでこの翻訳は忘れてください。イメージに合うのはどちらかと言うと「連動」でしょうか。


具体的な例では、回転コンストレイントがあります。これは、とあるボーンの回転値を別のボーンへコピーします。つまり、腕を挙げたらスカートが上がるみたいな、よくある念動力マジックのようなことができます。

しかも回転値を半分コピーというようにコピーの割合が設定できるので、先ほどの布のような引っ張られる動きを疑似的に再現できるのです。

このコンストレイントを駆使すれば肩掛けアウターの問題点の大部分がクリアできます。(様々な回転値をさまざまな割合で調合する錬金術師みたいな作業がいりますが)

でもできないことがまだあります。コンストレイントはコピーを行うだけなので、「条件分岐」ができません。

・腕を体の内側に曲げた時、腕には付いていかずに重力に従う

わかりやすいのはこれですね!この複雑な動きをするにはプログラミングでいうif文が不可欠です。

なのでなんとか無理やりif文を作ります。

原理は簡単です。用意するのは糸の物理演算とコンストレイントです。

まず、糸はコンストレイントによって腕の回転をコピーするので、腕と同じように動きます。しかし途中で壁によって阻まれそれ以上進めなくなります。

つまり「腕は進むがアウターは途中で止まる」という理想の動きができるのです。


このif文装置が出来ればもう「技術的には可能」になりますので、これを至るところに設定します。設定する場所の分だけこのif文装置を作ります。場所ごとに回転軸が違うので複製するというわけにもいかず全て手動で設定しますが、一箇所間違えるとどこが間違っているか確かめるだけで一苦労です。名付けの大事さを学べます。


さらに、今までのコンストレイントもif文装置も擬似的に布の動きをするだけで物理演算ではありません。つまり体を動かしても揺れません。

それではあまりにも悲しいので、ここに糸の物理演算を加えますが加え過ぎれば最初の貫通問題に戻ります。ではどうするか?根気でひたすらトライ&エラーします。


ここまで複雑な物理設定は今回が初めてだったので、だんだん上手くなってきたこともあり、一度できたものに満足できずサーコートまで含めて3回は作り直しました


◆サーコート

もうお腹いっぱいかもしれませんがまだ続きます。こちらも肩掛けアウター並みにやばいです。でも歩いているときにチラチラ見えるおみ足は絶対フェチポイントになるので外せません。


そもそも女性モデルでもロングスカートがやばいのは有名で、貫通を見せないために足のポリゴンを消してしまう場合すらありますが、今回はスリットで足が見えるのでポリゴンを消すわけにはいきません。

また、男性は骨盤から足先までのラインが真っ直ぐなので、服と足の隙間がほとんどありません。隙間がないということは少しのズレで貫通するということです。


さらに、スリットによってまた「条件分岐」が発生します。

・足を広げた時はスリットを境に各足に追従する


・足を閉じた時はアウター同様、途中から重力に従う


・左足を前に出したとき、左側のみ追従する。


・右足を前に出したとき、右側に加え左側も追従する。ただしその状態で足を開いたら右側のみ追従する。(←激やば)


肩掛けアウターと比べ、こちらは左右の違いも出てきます。左右反転でコピーもできないため厄介です。とはいえやることは肩掛けアウターと一緒で、コンストレイントとif文装置を使って揺れとのバランスがいい感じになるまで粘ります。


サーコートで一番大変だったのはやはりスリットを綺麗に開くことでした……!スリットは必ず左足側が前でなければいけませんが、左右で別の動きをさせるので特定の状況で布が前後してしまい裏地が出てきてしまうケースがでてきます。


でもそんなの見えたら萎えポイント間違いなしなのでかなり気を使いました。また、そんなレアな状況も私一人の動作チェックで見つけないといけないので、チェックしきれないポーズは絶対出てきます。なので、なるべくif文装置もシンプルに組み合わせて予測不可能な動きがないように考えて作る必要があり、その結果3回も作り直すことになったというわけです。


◆最後に

さて、そんなわけでやっと完成した渋ハルモデルですが、いかがだったでしょうか?

お披露目やリアルイベントで違和感を感じていなければ、努力した甲斐があったというものです。とはいえ、頑張ったところを気づかれないというのも寂しいし、今後他のモデラーさんの助けにもなるかなとも思いこの記事を書かせていただきました。

だいぶ技術寄りになってしまったので、渋ハルファンの皆様にはあまり刺さらない内容だったかもしれませんが、ここまで追い込んだモデルであることを知ってもらって誇りに思っていただければ幸いです。自画自賛ではありますが、ここまで追い込んだモデルはそうないと自負しています!!

また、私の頑張りを見てほしい!というのもありますが、私以外のモデラーさんにしても自然な動きにするために陰ではすごい努力があることを知ってもらえていたら嬉しいなと思います。


では、長文になってしまいましたが最後までお読みくださり本当にありがとうございました!!

今後も何かの縁で皆様の推しを担当させて頂くことになるかもしれませんが、その時もぜひ推しの晴れ舞台をいっぱい楽しんでください~~!!

ではでは!!






◆せっかくなので……

なんだか頑張ったことを書いていたらやっぱりこだわりポイントも見てほしくなったので、解説した以外のところでいくつか紹介させて頂こうかなと思います。


まずはやっぱり顔ですね。渋ハルさんなんたって顔が良いので、絶対に外せません……!!

正面からはもちろんですが、今回は横顔が特にお気に入りです。こちらに視線を送るわけでもなく、ふわっと見せる横顔っていいですよね!


続いては髪です。

ひと房ひと房すべて作ってます。しかも全て揺れるのでお顔アップのときに映えますね…!!自分で見てても気持ちいいです。


最後に刀の柄と紐です。


柄の部分は布まで全部モデリングしているので、アップで見ると凹凸が見えてお気に入りです。紐は実際の刀の結び方をアレンジしつつ、本当に紐を結うみたいに作っています。軍服と帯刀のセットはやはりかっこいいですね!!


今度こそ本当に終わりです!長々とありがとうございました~~~~!!!

ではでは!!!!

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Comments

はんそでぱっぱやっぱり天才すぎる 個人のモデラーでこの領域の物作れるのやばすぎるでしょ…… 技術を持った変態バンザイ!w

hazama

はんそで先生は3Dモデルのキャプチャー専門の方だと思っていたけど、まさかモデリングもされてるとは… 凄すぎる いや本当に凄い 3Dモデルの技術面を初めてこの記事で知ったけれど、モデリングから3D動かすまでに膨大な手間とこだわりが詰まっているなんて知らなかった… 丁寧な解説をありがとうございます!

渋ハルさんのマントが、物理で破綻しやすいとされている肩掛けなのに破綻ないどころかあまりにも自然で、お披露目アーカイブを見て驚愕しました。記事を読むと細かいパターンでめちゃくちゃこだわられていて、はんそで先生の技術力にただただ尊敬しかありません……!とても読み応えのある素敵な記事をありがとうございます、大変勉強になりました……!(長文失礼致しました)

閑咲大学 総合学科


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