『宮田家の別荘暮らしの春秋』(7)
Added 2024-05-26 12:54:00 +0000 UTC十一章 お転婆な弥生(76ー81) 76 ここ最近、弥生の心境は大きく変化した。学校生活も含めて、別荘暮らしに慣れてきたということもあるが、それとは別に二つの理由があった。 いつしかお父さんが言った、「別荘にいる時だけの遊びだよ」というセリフを思い出して、今はそういういい加減な心積もりで生活しても、別に構わないのだという気持ちに傾いたのだった。家に男親しかいないと、子供というのは、どうしてもその影響を受けて、ズボラになってしまうようだった。また、それに加えて、お母さんの病状が改善してきているという喜ぶべき知らせもあった。 それらの理由で、最近の弥生はあたかも人変わりしたように、お転婆な言動が増えたのだった。もっとも、元々が大人しい性格だったので、そう過激になったわけではなく、例えば、入浴中にもっとお父さんに甘えたり、万智と一緒にじゃれあうように遊んだりするという程度だったが。 先日のテラスでの出来事をきっかけとして、野外で平気でおしっこをするようになったのも、その変化の一つだった。外で遊んでいる時、それが別荘のすぐ近くの場所でも、おしっこをしたくなれば、わざわざ戻るのが面倒に思えて、その辺でジャーとして済ませてしまうのだった。 別荘から数百メートルの距離に小川が流れていた。そこは弥生と万智がよく遊ぶ場所の一つだった。ある日、二人とも裸足にサンダル履きで、ジャブジャブと水遊びしていると、水に入ったせいか、弥生はおしっこを催した。今いる場所から別荘までは、歩いて十分もかからない距離で、これまでの弥生なら、迷うことなく、別荘に戻ったはずだった。しかし、今の弥生はこれまでの弥生ではなかった。 「ねえ、万智、私、おしっこしたくなっちゃった」 と弥生はあからさまに万智に伝えた。 「ああ、そうなの」 と言われる万智の方も、慣れた反応だった。 「私、ここでしようと思う」 「うん。いいんじゃないの」 「それでね」 「何?」 「一緒にしよう」 「私も?」 「そう」 「えーと……、どうしようかなぁ」 「いいじゃん、どうせするんだから、今しとこうよ」 弥生は強引に、どうしようか迷っている万智の袖を握って、「あそこら辺で、しよう」と傍の岸に上がって、少し平らな場所を見つけて、そこに決めた。早速、スカートの中に手をつっこんでパンツに手を掛けた。しかし、万智はまだ弥生ほどには吹っ切れていないようで、 「こういうことして、いいのかな?」 と野外でのおしっこに若干の抵抗が残っているようだった。 「いいんだよ。しよう」 「そっか」 万智は、お姉ちゃんの弥生が請け負ったので、簡単に納得した。二人は仲良くパンツを膝まで下ろして、お互いの肘が接するぐらいの距離で横並びになって、川原の土の上にしゃがんだ。 しかし、万智は横目でジッと弥生を見ていた。それは無言のうちに、「お姉ちゃんが先にしてよ。お姉ちゃんが言い出したんだから、それが当然でしょ」とでも言っているようだった。弥生はそれを察して、自ら率先して、おしっこを放った。出そうと力まなくても、自然に噴き出した。目の前の草の上におしっこはビシャビシャと撒き散らされて、露のようにキラキラと日の光を反射した。 それを見て、万智も催したようで、「んっ」と小声で一声うめくと、シャーと放った。しかし、それは、チョロッと出たと思うと、すぐに止んでしまった。 「それだけ?」 弥生のおしっこはまだ続いていた。ジャアジャアと放ちながら万智に訊いた。 「うん、あんまり出なかった」 と万智は言って、しゃがんだままの姿勢で、弥生のおしっこが終わるの待った。 やがて、弥生のおしっこも止んだ。 「終わった?」 「まだ」 弥生は残滓を三回ほどピュッピュッと飛ばした。 二人は同時に立ち上がった。 「ふう、すっきりした」 と万智は機嫌良く言った。 紙を持っていなかったので、二人とも拭かずにパンツを穿き直した。そして、何事もなかったかのように、川の中へ入って、水遊びを再開した。しかし、弥生は水の掛け合いっこをしながらも、 (なんだか私、お姉ちゃんなのに、万智に変な癖をつけているような気がするなぁ) という考えが頭をかすめた。また、それと同時に、 (いや、でも、万智ぐらい年齢なら、ちょっとぐらい外でおしっこしても、まだ許されるよね……) と思い返した。ともかく、もうしばらくは、この長閑な別荘暮らしが続くだろうと思った。 77 この別荘での戯れ合いは、弥生が万智を遊びの相手にするだけではなかった。お父さんが弥生を誘うという場合もあった。 ある夜、弥生は珍しく遅い時間にお父さんに書斎に呼ばれた。明日の朝までに完成させておくべき仕事があって、その手伝いをしてほしいのだという。 「もう寝る時間だったかな。無理しないでもいいけどね……」 とお父さんは遠慮勝ちに言った。 「ううん、まだ大丈夫だよ。そういえば、お父さん、明日は会社に行く日だよね」 「そう。週一の出社の日だね」 「いいよ。私、手伝う」 と弥生は言って、立ち上がった。 書斎に入って、机に前に二人並んで座布団に座った。何をするかを訊くと、書類の数値と図面の線を比べて、長さが一致しているかを確認するのだという。久しぶりにお父さんと一緒に仕事をするので、弥生は意気込んだ。 ただ、横を見ると、机の上には、ビール缶が三本置いてあった。 (お父さん、ビールを飲みながら仕事してるの?ズボラだなぁ) 弥生は密かに思ったが、まあいいかと気を取り直して、「よーし、するぞ」と気合を入れた。 しかし、やってみると、全然難しい作業ではなかった。ニ十分後には大方終わってしまった。 「簡単だったね」 「二人でしたら、すぐに終わったよ。助かったよ」 「うん」 もう弥生に用事はなく、書斎にいる必要はないので、すぐに出て行ってもよかったのだが、もう少しお父さんと一緒にいようと思って、手持無沙汰のまま、机の前に座っていた。 その隣では、お父さんは図面の束をページ数通りに並べ替えて、最終確認を済ますと、 「これで、良し」 と言って、それを鞄にしまった。 「完成?」 「ああ、終わったよ」 お父さんは飲み残しのビール缶を手に持った。それに口をつけて飲もうとしたが、ヒョイと弥生の方へ向けて、 「弥生も飲む?」 と冗談めかしく言った。 「飲まないよ。だって、私、未成年だもの」 弥生は苦笑して断った。 「そうか」 お父さんは無理強いはせず、缶を傾けて、ゴクゴクと飲み干した。空けた缶を机に置くと、弥生に話し掛けた。 「弥生、最近はどうだい?」 「どうって、何が?」 「いろいろ。学校とか、万智の世話とか」 「うーん、普通だよ」 「そうか」 「うん」 弥生は真顔でうなずいた。まさか、川遊びの時、万智に野外でおしっこさせたなどとは言えなかった。 それは別にしても、弥生はまだそう上手く世間話をできる年齢ではなかったし、お父さんの方も口数は少ない方だったので、会話は途絶えがちになった。しかし、座布団に黙って座って、お互いに横から何となく見つめ合っていても、弥生は気詰まりには感じなかった。 「おいで」 お父さんは弥生を引き寄せて、自分のあぐらの膝の上に仰向けに寝させて、左手で後頭部を支えた。弥生はされるがままに体を横たえて、薄目を開けた。 「今、ここ、どうなってる?」 お父さんは弥生の股間に服の上から、空いている右手を置いた。弥生は毎度のことなので、 「まだ剃らなくていいと思うよ」 とさらりと答えた。 「そうかな」 「じゃあ、見せるから見てよ」 弥生は自らスカートをめくって、パンツをずらして、「ほら」と言って、前を露出させた。 「どれどれ」 お父さんは、弥生の足を広げさせて、丘の表面をゆっくり撫でた。その辺りを隅々まで入念に指を這わせた。弥生はくすぐったかったが、なされるがまま我慢した。 「そうだね。まだ剃らなくていいね」 とお父さんはようやく納得がいったらしいが、すこし残念そうだった。 78 お父さんの右手はまだそこを撫で回していた。弥生はそうされるのは嫌ではなかったが、下腹部を刺激されたせいか、尿意を覚えた。弥生は「お父さん。私、おしっこしたくなっちゃったよ」と言おうとした。しかし、その瞬間、ふとある考えが頭をよぎった。それは、この前、万智がテラスでしてもらっていたように、お父さんに後ろから抱え上げてもらいながらおしっこするということだった。 なぜ急にそんなことを思いついたのか、我ながら不思議だったが、一旦、そこに意識がいくと、もうどうしようもない程に気持ちが高ぶって、自分もそうして欲しいと切に願った。もちろん、心の中で、 (でも、そんなこと、いいのかな……) と躊躇する部分がないわけではなかったが、それを望む気持ちの方が格段に強かった。 「ねえ、お父さん。私、そんな風に触られたら、おしっこしたくなっちゃったよぉ」 と弥生は鼻にかかった猫撫で声を出した。自分の思いを察して欲しいと願いながら、意味ありげに媚びた顔をして見せた。しかし、お父さんは、 「ああ、そうかい」 と普通の様子だった。弥生は、 (私の意思、お父さんに伝わってないのかな?) と残念に思った。もし、お父さんが単に、「じゃあ、お手洗いに行ってきなさい」とでも言ったのなら、弥生はそれ以上は情けを乞うようなことはせず、潔く諦めるつもりだった。 お父さんはあぐらの膝の上の弥生を見下ろしていた。弥生も二ッと笑って、意味ありげな表情で見上げていた。 「よし」 お父さんは一言言って、弥生の露出したままのお股をピシャピシャと叩いた。それは、「分かった、分かった」とでも言っているようだった。弥生は自分の願いが通じたと確信した。 お父さんは弥生にパンツを穿かせると、胴体に腕を回して、抱き寄せて立ち上がった。弥生も落ちないように、お父さんの首にヒシとしがみついた。 「鴨居に頭をぶつけるなよ」 書斎の襖を開けて、廊下へ出た。 弥生は、このままテラスにまで連れていかれるのだろうと思っていたが、案に反して、廊下の途中で下ろされた。どうするつもりなのだろうかと、弥生は首を傾げていると、お父さんは庭に面したガラス戸を開けた。その敷居の向こうは縁側になっている。お父さんは縁側に出て、振り返って、「おいで」と弥生を誘った。 (そこでおしっこするのか) 弥生は、その点は理解したが、どういう顔をしていいのかは分からず、あえて無表情のまま、自分も縁側の板の上に立った。 「落ちるなよ」 とお父さんは注意した。 79 目の前には暗い庭が広がっていた。縁側から地面までは五十センチ程の段差があった。 弥生は縁側の端のギリギリの場所で棒立ちになりながら、お父さんの次の言葉に注目していた。それは、「しなさい」と言われるのか、「させてあげよう」と言われるのか、どちらだろうかとドキドキしながら待機していた。 しかし、お父さんは何も言わず、黙って弥生の背後のしゃがんだ。弥生が振り返る間もなく、お父さんの両手は弥生のスカートの中に伸びて、パンツの両端をつかんで、さっと膝までズリ下げた。 「よいしょっ」 お父さんの威勢の良い掛け声が、弥生の耳に背後から聞こえた。 弥生は抱き上げられて、足が浮いた。 両足を膝の所ですくい上げられるように持ち上げられたかと思うと、次の瞬間、弥生は、暗い庭に向かって、両足を大きく開脚した格好で、背後からお父さんに抱きかかえられている自分を発見した。 弥生は自ら意図的に開脚しているわけではないが、お父さんの左右の手は弥生の両膝の下に差し込まれているので、腰の部分はお尻の重みで自然に沈んで、否応なくそのような体勢にならざるを得ないのだった。 (ああ、ついに……。私、この年で、赤ちゃんみたいに、お父さんにおしっこしーしーの格好を取らされている……) 弥生は感慨深く思った。 願いが叶ったのは喜ぶべきだが、実際にこの姿勢にされてみると、体が二つに折られて、自分の膝で胸が圧迫されるので、思ったより窮屈だった。 (こんな状態でおしっこなどできるだろうか) と弥生は危惧した。お父さんも、 「おしっこ、できるかな?」 と背後からのぞき込んで、心配そうに言った。しかし、それは杞憂に終わった。おしっこは急に込み上げてきて、股間から勢い良く噴き出た。それは一本の曲線となって、二メートル近い高さを落下して、地面の上で弾けた。 (ふぁ……、気持ち良い……) と声を上げそうになった。しかし、その感動を堪能する間もなく、おしっこはすぐに出終わった。 終わると同時に、弥生は縁側の上に両足を下ろされた。 「立てる?」 「うん」 尿意はなくなってすっきりしたが、その代り、途端に恥ずかしさが込み上げてきた。弥生はお父さんにどのような顔を見せたらいいのか分からず、背中を向けたまま佇んでいたが、 (あ、そうだ) と気付いて、膝にかかっているパンツを引き上げた。 しかし、すっきりしたようで、膀胱にはおしっこがまだ残っていたらしく、ガニ股になった拍子に、それが自然にもれて、穿き直したばかりのパンツの股間の部分をビシャッと濡らした。 「わっ」 弥生は内心では大きく叫んだ。しかし、スカートの中の出来事なので、お父さんにはバレないだろうから、知らん振りをしておいた。 気を取り直して、何事もなかったかのような涼しい顔で、上半身を屈めて、縁側から庭をのぞき込んだ。周囲は暗いが、土の上に水溜まりができているのがボンヤリ見えた。 お父さんも弥生の頭越しにそれを見て、「ほぅ」と一声上げたが、それ以上の関心は払わなかった。 「じゃあ、戻ろうか」 二人は縁側から家の中へ戻った。 80 お父さんは廊下のガラス戸を閉めると、弥生に向き直った。 そんな風に改まって見据えられると、弥生は、 (チビッたの、バレているのかな……) と思い込んでしまって、つい手をスカートの前にやって、赤面してうつむいてしまった。 「どうした?」 お父さんはその辺りに視線を向けて訊いた。弥生は太ももをモジモジと擦り合わせながら、 「うーんとね……、ちょっと、パンツ、濡らしちゃった」 と正直に答えた。そして、上目遣いでお父さんの反応をうかがった。 お父さんは特に怒ったりせず、「どれどれ」と言って、腰を屈めて、弥生の短いスカートをめくって、その下をのぞき込んだ。さらに、手を伸ばして、パンツの股間の部分を指先で触って、濡れている箇所を探った。 「なんだ、全然大したことないじゃないか。まあ、でも、気持ち悪いなら、穿き替えなさい」 「ん……」 弥生は消え入りそうな声で、曖昧にうなずいた。 「どうする?」 「えっと……」 「じゃあ、もう替えてしまいなさい」 「別にいいんだけど」 「まあ、そう言わず、こっちに来なさい」 お父さんは弥生の手を取って、ズンズンと引っぱって行った。 二人は廊下を歩いて、一緒に一室に入った。お父さんはタンスの前にしゃがんで、その引き出しを一段ずつ開け始めた。 「えーと、どこかな……。おっ、ここだ」 そこは弥生と万智の下着類が収納されている場所だった。お父さんが引き出しの中を掻き回すのを、弥生は背後から黙って見ていた。 「これでいいいかな」 お父さんは一枚のパンツを取り出して、弥生に見せた。 それはピンク色でウサギのプリントなどのあるパンツで、弥生たちが持っている中でも、特に派手なデザインのものだった。下着は弥生と万智で共用していたが、それは弥生には幼稚過ぎるので、専ら万智が使っていた。 (お父さん、それを知って、わざとそれを選んだんじゃないよね。単なる偶然だよね……) 弥生はちょっと気になったが、おそらくは、良かれと思って選んでくれたのだろうし、そもそも、今の弥生はとやかく言える立場ではなかったので、黙ってうなずいた。 81 お父さんはそれを弥生に手渡して、 「脱ぎなさい」 と言った。 (お父さん、お節介だな。穿き替えるぐらい、自分一人でするんだけど) 弥生はそんなことを思ってグズグズしていたが、お父さんは強引だった。 「じゃあ、脱がすよ」 と言うと、弥生の返事も待たず、スカートの中に両手を突っ込んで、パンツを一気にくるぶしまで引き下ろした。さらに、お父さんは、 「足を上げて」 とたじろいでいる弥生の足首をつかんで、片足ずつ畳から浮かせると、あっという間にパンツを脱がしてしまった。 お父さんは脱がしたパンツを無造作に畳の上に置いた。弥生はそれを見るともなく見ると、股間の部分にはかなりの大きさの染みがついていたので、 (これなら穿き替えて正解だったな) と思った。 「よし、足をあげて」 またお父さんは弥生の足首をつかんだ。今度は替えのパンツを穿かせるためである。 (お父さん、娘におしっこさせたり、パンツを穿き替えさせたり、色々と大変だな……) 弥生は、面倒見の良いお父さんを見下ろしながら、他人事のように思った。 お父さんは新しいパンツを弥生の両足に通した。そのウサギパンツはやや小さ目だったが、生地は良く伸びたので、弥生のお尻をピタリと覆った。穿かされた弥生も (なんだぁ、このパンツ。私でも十分穿けたのか。じゃあ、これからも私、これを穿こうっと) と思った。 「どう?きつくない?」 「大丈夫だよ」 弥生はそう答えつつ、図らずもお父さんにパンツを替えてもらうハメになったことについて、感謝の気持ちと罪悪感が複雑に混じり合った。 お父さんは立ち上がった。右手にはおもらしパンツが握られていた。 弥生は、お父さんに正面から見下ろされて、ふと案じた。いい年をして、おしっこだの、おもらしだの、みっともない粗相をした自分を、果たして、お父さんは何もせず見過ごすのだろうかという疑問が生じた。厳しく叱られたり、ひどいお仕置きを受けるのが普通ではないかと思えてきた。その可能性に今の今、ようやく気付いて、弥生は少しばかり恐ろしい気持ちになった。 「弥生」 (何……?) お父さんは手を伸ばした。弥生は身構えた。しかし、その手は弥生の頬をやさしく撫でただけだった。そして、 「じゃあ、おしっこもしたし、もう寝なさい」 と言って、廊下へ送り出した。二人はその部屋を出た。お父さんは書斎に向かい、弥生は自分の部屋へ向かった。 弥生は暗い廊下を歩きながら、 (なんか、私、変な勘違いをしてたみたい……) とホッと胸を撫で下ろして、自らを笑った。しかし、その一方で、何か物足りないような気持ちでもあった。 十二章 ビールの酔いの醜態(82ー88) 82 数日後の夕方、弥生はまたお父さんに仕事の手伝いを頼まれた。 弥生は万智と二人で自室にいたが、呼ばれたのは弥生だけだった。万智では何の役に立てないどころか、かえって足手まといなるだけなので、やむを得なかった。 「じゃあ、万智は、一人で遊んでなさい」 弥生はお姉ちゃん風を吹かせて言った。一人仲間外れにされて、万智は少し不満そうだった。 「お姉ちゃんだけ?」 「また、後で一緒に遊んであげるから」 そう言い残して、弥生は万智を部屋に残して、お父さんと二人だけで部屋を出て行った。 書斎では、この前にした時と同じように、机に二人並んで座って、作業した。 今回も、図面と数値を見比べて、間違いを探すという作業で、すでにやり方も知っているので、十五分程で終わった。 「これで完成だ」 と言って、弥生は最後の一枚をお父さんに渡した。 「よし、ありがとう。助かった」 お父さんはお礼を言った。 (これぐらいの量の作業なら、一人でも簡単にできたのでは?) 弥生は内心、そう思ったが、お父さんの仕事のお手伝いをするのは好きだったので、黙っていた。 この日も机の上にはビールの缶が並べてあった。 お父さんはビールを飲みながら、図面を眺めて、なにやら鉛筆で線を入れ始めた。弥生はそれを横目で見ながら、 (もう私は用済みかな。弥生も部屋で待ってるし、もう戻るか) と思って、「お父さん、じゃあ、私……」と言いかけた。すると、お父さんは、 「弥生も飲む?」 と訊いた。 「飲むって……」 「これ」 とお父さんはビール缶を摘まみ上げた。 「ビールを?ううん。飲まないよ」 弥生は、とんでもないという表情で首を振った。しかし、お父さんは、 「一回、味見してごらん」 と勧めた。戸惑う弥生の手に、お父さんは押しつけるように、自分の飲みさしのビール缶を握らせた。 (いいのか……?) 弥生はビール缶を見つめながら思った。ただ、一度くらい、ビールというものを味わってみたいという好奇心があったのも事実だった。ただ、やはり、ためらって、「うーん」と目をキョロキョロさせて悩んだ。 「弥生はもう大人だから、ビールぐらい飲んでもいいんだよ」 「そ、そうかな」 弥生は大人だとおだてられて、急にうれしくなった。もう一度、お父さんの顔色をうかがうと、「さあ」と促しているようだった。 (お父さんが良いと言っているんだし) と弥生は正当化して、ビール缶に唇をつけて、一口すすってみた。口に中にシュワっとした炭酸が広がった。しかし、それ以外はほろ苦いだけで、おいしくもなんともなかった。弥生の舌はまだ子供であった。 (なんだ、ビールって、こんなものなの?) 期待していただけに、ガッカリした。 (もっと飲んだら、おいしく感じられるようになるかな?) そういう可能性もあったので、弥生は我慢して二口、三口と飲んだが、やはり、おいしいとは感じられず、はっきり言って不味だけだった。もう、それ以上飲む気はせず、弥生は缶を机に置いた。 「どう?初めてのビールの感想は」 「こんなの、苦いだけだよ」 「はは。弥生には、ビールはまだ早かったかな」 お父さんは笑って、自分用に新しい缶をプシュッと開けて、さもうまそうにゴクゴク飲んだ。 (よくこんなものをおいしそうに飲むものだな。大人の味ってやつか……) 弥生はそう思いながら、目の前のビール缶を見つめた。ただ、食べ残したり、飲み残したりするのはダメな行為だというように、家庭や学校で教え込まれていたので、弥生は、余ったビールをそのままにしておくのは忍びなかった。 (もう、飲んじゃおう) と思って、残っているビールを我慢してのどに流し込んだ。 それを見て、お父さんは、 「おっ、いくねえ」 などと囃し立てた。 そのビール缶はお父さんの飲みさしだったが、半分近く残っていたはずで、それを全部飲んでしまって、ゲップが出そうになった。弥生は顔をしかめて、 (ふぅ、不味かった。ビールなんて苦いだけだよ。もうこんなの飲むのはやめよう) と誓った。 83 自分を中心に部屋が回っているような感覚がした。 (なんだ?……いや、私の目が回ってるんだ。私、酔っているのか) 弥生は初めて酔っぱらった体験に戸惑った。のどがヒックと鳴って、我ながら、本当の酔っ払いみたいだと思った。体の力も抜けて、机に肘をついて突っ伏していたが、それも大儀になって、ついに、畳の上にゴロリと寝ころんだ。 「酔ったのか?大丈夫?」 お父さんは弥生の頭を支えた。弥生は「ん……」と甘えた声を出して、自分の後頭部をお父さんのあぐらのスネの上に乗せた。お父さんは弥生の髪の毛を優しく撫でた。 弥生の体は熱く火照って、手足もムズムズと痒くなった。それだけでなく、下腹部の辺りが疼いた。酔っているため、特に恥じらいもなく、大胆にそこを手の平でギュッと抑えた。 「どうした?おしっこ、行きたいの?」 「違う。なんか、ここがキュンとなってきた……」 弥生は「んん」とうなりながら、両足を伸ばしたり、広げたり、組んだりして、ソワソワと落ち着きがなかった。そんなことをしていると、自然にスカートはめくれて、白色のパンツがはみ出したが、直す気にもならず、そのままにしていた。 「こらこら、パンツ、はみ出してるぞ」 「分かってるよ。いいの、このままで」 「なんだ、女の子のくせに」 お父さんは見かねて、スカートの裾に手の伸ばそうとした。しかし、弥生はそれを押し留めて、 「いいじゃん、別に。誰も見てないんだし」 と言った。 「お父さんが見てるよ」 お父さんはふざけて、首を伸ばして、そこへ顔を近付けてた。 「私、お父さんになら見られても、全然気にならないよ」 と弥生はそんな自慢にもならないことを得意気に言って、自らスカートをガバッとめくって、パンツを丸出しにして見せた。パンツどころかへそまで露わにした。お父さんは弥生のそのようなあられもない姿を見下ろして、 「そりゃあ、いまさらだからね」 と苦笑しながら、茶化すように言った。弥生はその意味が十分に理解できた。 ほとんど毎日、二人で一緒にお風呂に入る仲なので、お父さんと弥生はパンツどころか裸を見せ合っているわけである。それどころか、つい最近、夜の縁側で、弥生は小さい子供みたいに、お父さんに抱え上げられて、おしっこをさせられた。その情景は双方の記憶の中にまだ生々しく残っていた。二人は無言だったが、お互いに何を考えているかは暗黙的に分かっていた。 84 「ねえ、お父さん」 仰向けの弥生は、下からお父さんの顔を見上げながら、改まった口調で言った。 「なんだい?」 「お父さん。私って良い子かな?」 「どいうこと?」 「お父さんから見て、私はどう見える?この別荘に来てからの私の生活態度とか」 「うーん、どうかな……。まあ、普通だね」 「普通……」 弥生はその普通という意味について考えた。 (特に深い意味はなく、当たり障りないことを言っているだけなのだろうか?) それならちょっと不満だった。悪いなら悪いと、はっきり言って欲しかった。 (あるいは、色々な点を足したり引いたりして、その結果、プラスマイナスゼロということだろうか?) そういう意味で普通なら、良い所も悪い所もあるということだ。縁側でおしっこするのは、当然、マイナス側の要素だろう。 「お父さん。その『普通』っていうのは、私には良い所もあるし、悪い所もあるってことだよね?」 「まあ、そうだね」 「ふーん。じゃあ、例えば、悪い所って、どんな所がある?」 「それはだねぇ……」 お父さんは、弥生からいきなり突っ込んだ質問をされて、少し答えに困った。しかし、すぐに冗談めいた口調で、 「縁側であんな風におしっこするのは、悪い所だね。ははは」 と笑いながら言った。 「それなら、私、言わなきゃいけないことがある……」 「なんだい?」 「あのね。何日か前、縁側でおしっこしたでしょ?あれからも私、一人でこっそり、外でおしっこしたの」 弥生は告白した。胸がドキドキしたのは、酔いのためだけではなかった。 「へぇー、そんなことしていたのか」 お父さんはさすがに驚いたようだった。あるいは呆れたのかも知れなかった。 「うん、そうなの」 「何回ぐらい?」 「えっとね、三、四回ぐらい」 弥生はそう答えたが、実際は二回程だった。自分を過度に悪く見せるため、あえて誇張して言った。 「お父さんに隠れてそんなことをしていたのか。弥生は悪い子だね」 「普通の子じゃなくて?」 「ああ、そうだね。弥生は悪い子だよ」 お父さんは弥生のお腹を指先でツンツン突きながら言った。弥生はくすぐったくて、「ふふっ」と笑った。 酔っ払い二人による与太話はまだ続いた。 「お父さん。自分の娘が悪い子だっていうなら、お父さんはどうする?」 「お仕置きが必要だね」 「お仕置き?」 「そう。何か厳しいお仕置きが」 お父さんは弥生のお腹を弄りながら言った。弥生はさりげない態度を装いつつも、その言葉を聞いてゾクゾクと気持ちは高ぶった。 「じゃあ、お尻を叩くっていうのはどうかな?」 「お尻をねぇ……」 お父さんは、それはどうかな、という感じ、首をひねっていた。 「お母さんなら、きっとそうするよ。私、お母さんにお尻をたたかれたこと、結構あるし」 弥生は真しやかに言ったが、厳密には嘘だった。数年前に一度、何かの理由でされたことはあったが、それ以来は絶えてなかった。 「ほぅ、じゃあ、そうしようかな?」 お父さんはそのような気持ちに傾いていったようだった。 その言葉を聞いて、弥生は独り合点して、お仕置きをされるのだと思い込んだ。素早く身を起こして、お父さんにクルリと背中を向けると、畳に両肘をついて、四つん這いになって、お尻を高く突き上げるような姿勢を取った。さらに、自らスカートをペロリと捲って、パンツを丸出しにした。 そして、もう一度、懇願するような声色で、 「お父さん、私は悪い子だから、お母さんの代りに、お仕置きして」 とおねだりした。 こんなは照れくさいセリフは、素面の状態では到底言えなかっただろう。しかし、初めてのアルコールの酔いは、弥生に心の奥底の願望を吐露させたのだった。 85 お父さんは、弥生のパンツ丸出しのお尻を正面にして、 「悪い子か……」 とつぶやいた。 お父さんは弥生のそのような行為を何となく理解できた。それは思春期に特有のひねくれた心理で、自己の理想に到達できないモヤモヤとした罪悪感を、他者からの罰を受けるによって、きれいさっぱり帳消しにしたいという欲求なのだろう。 普段なら、もっと穏便に済ませていたはずだった。しかし、その時は、お父さんもかなり酔っていた。弥生の調子に合わせるように、 「しょうのない子だね、じゃあ、きつーくお仕置きしてやるか」 と親の威厳を込めて、大袈裟な口調で言った。しかし、その心の内には、愛娘と戯れたいという気持ちの方が大きかった。 お父さんは威勢よく立ち上がると、弥生の背中に手を置いた。弥生はビクッと身を震わせた。 弥生はいざとなると恐怖を覚えたが、今更「やめて」とは言えず、ビクビクしながら、全身を硬直させていた。お父さんは、弥生の腰を抱えて、さらにお尻を高く突き上げさせた。 「そのまま、じっとしてなさい」 お父さんは、四つん這いの弥生の背後に陣取って言った。 「はい……」 弥生は前を向いたまま、後ろのお父さんに答えた。 「覚悟はいいかな?」 「はい……」 「じゃあ、もう一度、自分から言いなさい」 「何を?」 「『お尻を叩いて下さい』って言いなさい」 「えっと、私は悪い子だから、お尻を叩いてお仕置きして下さい」 しばらくの間、部屋の中には静寂が訪れた。 弥生は四つん這いの姿勢で待機していて、後ろからの衝撃がいつ来るだろうかと、気が気でなかった。 (まだかな?するなら、早くしてよ……) 次の瞬間、お尻にビシっときた。 「あうっ」 弥生は高く叫んだ。肌を直に叩かれたのではなく、パンツ越しだったが、それは思っていたよりも三倍程も強い衝撃だった。 (こ、こんなに強く叩かれるの?お、お父さん、もうちょっと手加減してよ……) 弥生は心の中で念じた。しかし、その願いはお父さんに通じず、二発目も三発目も同じぐらいの強さで叩かれた。しかも、息つく暇も与えないほど、引っ切り無しにビシビシやられた。 当初は、お仕置きといっても、ここまで本格的にされるとは思ってもみなかった。遊び半分に、軽くビシャピシャと叩く真似をされるだけだろうと高を括っていた。しかし、実際には、一発毎に体全体が揺さぶられるぐらいの衝撃を受けた。お父さんとしては、軽く叩いているだけなのかも知れないが、弥生にとっては耐え難い衝撃だった。 (ヒィ……) 弥生は心の中で悲鳴を上げた。お父さんを煽り立てたことを後悔した。 ただ、不幸中の幸いで、酔っているためか、あるいはお尻の脂肪が厚いためか、衝撃の激しさの割には、大して痛くはなかった。むしろ、一撃を食らう度に、不思議な甘美さが体の奥から湧いてきた。 弥生は声を出すまいとして、歯を食いしばった。十発程食らった時、パンツの股間に温かいものジワッと広がった。衝撃で少しばかり失禁してしまったようだった。 合計でニ十発以上も叩かれて、お父さんの手は止まった。 しかし、弥生はしばらくの間、四つん這いのままで、身動きできなかった。 「もう、起き上がっていいよ」 お父さんは弥生の上体を起こした。しかし、弥生は膝に力が入らず、前によろけて、自然にお父さんにもたれかかった。お父さんはそのまま弥生の体を抱きしめて、弥生の額に自分の頬を擦り付けた。 (お父さん……) 弥生は自分がお父さんに愛されていることを知って、幸福感に満ち溢れた。 しばらく、二人はお互いの体をまさぐり合うように抱き合っていたが、 「おや?」 とお父さんは、弥生のパンツの股間がビッショリ濡れていることに気付いた。 (うっ、気付かれた……) 弥生は腰を引いた。ひょっとしたら、それを理由にまた追加の仕置きをされるのではないかと恐れた。しかし、お父さんはそれについては何も言わず、 「じゃあ、お風呂に入ろうか」 とだけ言って、弥生の体をヒョイと抱き上げた。 86 時間が経てば経つほど、酔いはさらに回ってきた。 弥生の頭はフラフラして、立っているのも覚束なかった。もっとも、歩けないという程ではなかったが、せっかくお父さんに抱っこしてもらったので、ここは甘えておいた。 お風呂場に向かう途中の廊下で、万智と鉢合わせになった。万智は物音を聞いて、自室から出てきて、そこで待ち構えていたようだった。 「あ、お姉ちゃん、抱っこなんてしてもらってる」 馬鹿にしたような、うらやましそうな口振りで言った。 「今日は弥生とお父さんが先にお風呂に入るよ」 お父さんは、少し不満そうな顔をしている万智に、そう告げた。 弥生は脱衣所まで抱っこされて運んでもらって、そこで下ろされた。お父さんは早速、弥生の服を脱がせにかかった。男の手荒な手付きパッパッと上着とスカートを脱がした。 「パンツぐらいは、自分で脱ぐよ」 弥生はそう言ったが、お父さんは、 「まあまあ」 と言って、素早くパンツを下ろした。結局は、お父さんに全部脱がされて、弥生は全裸になった。 お父さんは脱がせたパンツの内側をのぞきむと、 「おお、結構、派手に濡らしたね」 と失笑気味に言った。 「それほどじゃないよ」 「そうかい?ほら、こんなに」 お父さんは弥生にもパンツを広げて見せた。弥生はあまり見る気はなかったが、それでも横目でチラリと見ると、股間の部分は大きく変色しているのが分かった。 (ちょっとチビッただけかと思っていたのに、こんなにもらしていたのか……) 弥生は照れ隠しに、「もう……」とかなんとか言いながら、足をグネグネさせて、拗ねたような態度を示した。 「別にいいよ。洗ったらいいんだし」 お父さんはそのおもらしパンツを小さく丸めた。 「もう、入ろうよ。お父さんも脱ぎなよ」 「弥生。その前に、自分で自分のお尻を見てごらん。ほら」 とお父さんは言って、弥生を鏡の前に立たせて、後ろを向かせた。 「どうかなってる?」 弥生は肩越しに自分の後ろ姿を見ると、お尻の皮膚が驚くほど赤くなっていた。痛みはなかったが、酔っているせいだろうか、色だけは鮮やかな赤色だった。 「お猿さんのお尻みたいだね」 お父さんはそのお尻をピシャピシャ軽く叩きながら、他人事のように笑った。これには、弥生もむかっとして、 「お父さんが叩いたせいじゃんか」 と声を荒げた。 「はは、そうだったな、ごめんごめん」 お父さんはそう言いながら、お尻を優しくナデナデしてくれたので、弥生は機嫌を直した。 87 お風呂場に入ると、お父さんは思い出したように、 「そうだ、しておこうか」 と言った。 「何を?」 「おしっこだよ」 「えっ」 弥生は驚いたが、そう言われれば、おしっこをしたいような気もした。 「しておこうか」 「どうしようかな……」 「したいなら、しておきなさい」 お父さんはそう言うと、弥生の返事も待たず、後ろから抱きついた。そして、「よっ」と掛け声を上げて、弥生の体を持ち上げると、手を膝下に差し込んで、すばやく両足を開かせた。 弥生は心の準備もできていないのに、いきなり体を宙に浮かされて、大股開きの姿勢を取らされて、「わぁっ」と不覚にも叫んでしまった。それと同時に、あまりに驚いたせいか、あるいはもう条件反射になっていたのか、おしっこが独りでにピュッともれた。弥生はまた「ひぃっ」と大声を出した。 「出たね」 お父さんは背後からのぞき込んで、うれしそうに言った。 おしっこは一旦、出てしまうと、もう弥生自身の意思とは関係なく、勢いを増して、ジャーと出続けた。その水流は放物線を描いて、お風呂の壁にぶちあたって、激しく飛沫を撒き散らせた。 「ほらほら」 お父さんは弥生の体をユサユサと揺らした。その口振りは明らかに楽しんでいる様子だった。おしっこは上下左右に舞った。 「お父さん、そんなことしたらダメェ……」 弥生は取り乱して叫んだが、なかなか止めてくれなかった。 しかし、やがて、おしっこの勢いは弱まった。 (もうおしまいか……) ホッとしたような、残念なような気持ちだった。 全部出して、床の下ろされてから、ようやく余裕を取り戻して、 「もう、お父さん、いきなりしないでよ。びっくりしたじゃない」 と弥生は面と向かって文句を言った。 しかし、内心では怯みがあった。抱え上げられて、股を開かされたら、反射的におしっこをしてしまうというのは、素直で良い子なのか、それともひ弱な悪い子なのか、弥生にはどちらが正解なのか、すぐには判断し兼ねた。 ただ、お父さんはまともにとりあわず、「はは」と笑うだけで、そこら中に飛び散ったおしっこを、洗面器のお湯で洗い流した。 「よし、お湯につかるぞ」 お父さんは、まだ不満気な様子の弥生を再び抱き上げると、一緒に湯船に入った。 88 お湯につかって、いつものようにお父さんに後ろから抱かれると、弥生の気持ちはホッと落ち着いた。お父さん対する腹立ちも消えた。しかし、その代り、別の心配が生じた。さっき勢いで、「もうしないで」と言ってしまったことを後悔していた。 「お父さん、さっきした時、私、重くなかった?」 と弥生は背後のお父さんに、さりげなく話し掛けた。 「そりゃあ、弥生は万智よりは重いけどね。でも、お父さんからすれば、まだまだ軽いよ」 「ふーん」 それだけで会話は途絶えた。また弥生から「ねぇ」と甘えた声を出して、 「これからも、ああいうの、してね」 と思い切って言った。 「ああいうのって?」 お父さんはとぼけているのか、真面目なのか、そう反問した。 「抱えておしっこすることだよ」 弥生は湯船の中で顔を赤くしながら言った。 「いいよ。いつでもしてあげるよ」 「ありがとう」 弥生は感謝を示す意味で、自分の顔をお父さんの胸に擦りつけた。お父さんもそれに応えるように、弥生の華奢な体をギュッと抱きしめた。そうしてもらって、弥生はとても幸せな気持ちになった。 しばらくの間、二人は抱き合っていたが、残念ながら、いつまでそんなことはできなかった。 お湯が熱いせいで、弥生の体も熱くなってきた。ただでさえ、酔っているので、弥生の頭はボウとのぼせてしまった。 「弥生、もう出なさい。一人で戻れるね?」 とお父さんの方が心配になって言った。 「うん、大丈夫」 弥生はフラフラと危なっかしい足取りで、お風呂を出て、脱衣所に入った。 そこにはすでに万智が椅子に座って順番を待っていた。 「お姉ちゃん、上がったね。あれ、なんか、しんどそうだね……」 と万智も心配そうだった。 「ちょっと、湯あたりしたみたい」 まさかビールを飲んで酔っぱらったなどとは言えず、弥生は万智に早くお風呂に入るように促した。 弥生はタオルで手早く体を拭いた。着替えのパジャマを用意するのを忘れていたので、パンツ一枚穿いたまま、ヨロヨロと部屋へ戻った。 もう眠気で目が潰れそうだったが、弥生は何とかパジャマに手足を通すと、明かりを消す余裕もなく、布団にドゥと音を立てるように倒れ込んだ。数秒後にはすでに眠りに落ちていた。夢も見ず、朝までグッスリ眠った。 翌朝、弥生が目覚めた時には、すでに日は高かった。 起きようとしたら、頭がズキズキして、弥生は顔をしかめた。 (うっ。これが話に聞く二日酔いというやつか……) 弥生は昨夜の色んな出来事を思い起こしながら、この痛さは天罰だろうかなどと思って、少し自己嫌悪に陥った。もう少し心の整理が必要だった。すぐに起き上がる気にはならず、布団の中でグズグズしていた。 「もう朝だよ。まだ起きないの?」 万智が部屋の外から襖を開けて訊いた。 「ちょっと、風邪っぽくてね……」 「本当?ふーん、そう言えば、お姉ちゃん、昨日の夜から様子がちょっとおかしかったもんね」 「もうちょっと、寝るよ」 結局、弥生は昼近くまで寝床でゴロゴロしていたが、二日酔いさえ覚めてしまえば、いつもの元気が戻った。