『宮田家の別荘暮らしの春秋』(6)
Added 2024-05-26 12:52:26 +0000 UTC九章 条件反射の悪癖(63ー68) 63 翌朝、弥生はお父さんと食卓で顔を合わせた時、いつものように「おはよう」とあいさつを交わしたが、内心では気まずかった。しかし、お父さんは、何事もなかったかのような涼しい顔で新聞を読んでいた。弥生はそれが変にわざとらしく思えて、逆に少し憎らしさを覚えた。 新しい学校に最初に登校する予定の日までは、まだ数日あった。 家の中の整理はすでに一段落していたので、最近は遊ぶ時間を多く持てた。この日も朝食後、弥生は万智と外に出て一緒に遊んだ。徒歩で行ける場所まで山道に分け入ったりして、別荘の周辺を探検した。万智は子供らしく無邪気に駆け回って、弥生はその元気さに圧倒され、引きずりまわされる形だった。 弥生はそんな時にも、 (お父さんは在宅で図面を書く仕事をしているのに、私はこんな風に遊んでばかりでいいのかな) と思わないでもなかった。しかし、「万智の相手をして遊んでやるのも、お姉ちゃんとしての仕事のうちだぞ」というお父さんの言葉を思い出して、 (これも別荘暮らしの一貫だ) と自分を納得させた。 遊んだり、あるいはちょっぴり自習などをして、その日も夕暮れになり、お風呂の時間になった。変にポカポカと陽気な日だったので、二人とも汗をよくかいて、弥生はお風呂が待ち遠しかった。 まずは万智が入浴を済ませて、万智が脱衣所から出て来るのを待って、それと入れ替わるように、弥生もお風呂場へ入った。そのやり方は暗黙のうちに決まり切った習慣のようになっていたので、お互いに順番を巡って言い争いなるようなこともなかった。 弥生はお風呂場へ足を踏み入れた。いつものように、湯船の中にはお父さんがつかっていた。 弥生は昨日のお風呂場での出来事を思い出した。二人きりになので、そのことでお父さんに何か茶化すようなことを言われるかもと身構えたが、 お父さんは湯船の中で目を閉じて、半分眠ったような表情だった。 (お父さん、寝てるのかな?) と弥生は思いつつ、お父さんが普段と同じ様子であることに安心して、洗面器で体にかけ湯をした。 それが終わると、弥生は立ち上げって、自分も湯船に入ろうとした。「お父さん、起きてる?私も入るね」と言おうとした。しかし、それを制するように、お父さんは薄目を開いて、 「弥生」 と声をかけた。 「何?お父さん」 弥生は、(なんだ。お父さん、目をつぶっていただけで、起きていたか)と思いながら、訊いた。 「しゃがみなさい」 「しゃがむ?」 弥生はとっさにはその意味がよく掴めなかった。 「うん、そう。しゃがみなさい」 お父さんはまたそれだけを言った。 弥生はその意味をはかりかねて、曖昧な微笑を浮かべて、ちょっと困ったような表情で、「はて?」と首を傾げた。その真意を探るように、お父さんの顔を眺めながら悩んでいると、突然「あっ」ひらめいた。つまりは、「しゃがんでおしっこをしなさい」ということだと悟った。 「えっと……。しゃがむって、つまり、ここでしゃがんで、おしっこしなさいってこと?」 弥生は焦り気味に訊いた。それに対して、お父さんは、単に、「そうだよ」と言うように、微かにうなずいた。 少し前までなら、お父さんに「おしっこしなさい」などと言われたら、弥生はびっくり仰天したり、さらには怒ったりしたかも知れなかった。しかし、これまでのベタベタとした絡み合うような戯れを通じて、二人の関係は非常に懇ろになっていたので、それぐらいのことは平気で言える仲になっていた。 弥生の方も特に機嫌を損ねたりはしなかった。しかし、やはりそうは言っても、若干の戸惑いを覚えた。 「だって、私、今はおしっこしたくないよ」 「まあ、そう言わず、しゃがんでみなさい」 「お父さん、それ、本気で言ってる?」 「ああ」 「……」 弥生はどうしようか迷った。 64 弥生は改めて、自分を省みた。 確かに、今日はドタバタと急ぎ足でお風呂に入ってきたのは事実だが、おしっこをしたいような感じはなかった。 「今は出ないと思うけど……」 「まあいいから、しゃがんでごらん」 「……うん、分かった。でも出ないと思うけどね」 弥生は、どうしても諦めないお父さんに根負けした。昨日の失態の負い目もあるので、やむなく形だけ従って、渋々しゃがんだ。 しばらくの間、そうしていたが、弥生の体には何の変化も起こらなかった。 「ほら、おしっこ全然出ないよ。だって最初からしたくなかったもの」 弥生は勝ち誇ったように言った。しかし、次の瞬間、妙な感覚が体の奥から急激に湧いてきて、弥生は黙り込んだ。 (あっ、これは……) 弥生は自分でも、その感覚はおしっこの衝動だと分かった。 (えっ、うそでしょ) と焦った。そして、お手洗いに行こうか、それともここでしてしまおうか、どうしようか考えた。しかし、その答えを出す暇もなく、おしっこが股の間からピュッとほとばしった。 「うおっ」 我にもなく放尿が始まったことに、弥生は自分自身でも驚いてしまい、不覚にも声を出して叫んでしまった。遅ればせながら、それを止めようとして、「むっ」と下腹に力を入れたが、その効果はなく、おしっこはジョボジョボと床に零れた。 弥生は、 (ああん、だめ、だめ) と心の中で虚しい叫びを上げた。その間にも、おしっこはジャージャーと、自分でも驚く程の量が放たれた。 弥生は目を白黒させて狼狽しつつも、それと同時に放尿に伴う解放の快感が体の奥に波のように押し寄せて、半開きの唇から、 (んあぁ……) といううめき声がもれるのを抑えられなかった。お父さんの言った「お、出たね」というのどかなつぶやきが、どこか遠い所から聞こえているような錯覚を覚えた。 弥生はもう開き直った。是非善悪は別にして、一旦出してしまったものは、最後まで出し切るしかなかった。 股の間で、ジャーと噴き出ている水流を自分で見下ろしていると、後から後から込み上げて、十秒も、あるいは二十秒も要したので、弥生は自分でもその間をちょっと持て余したぐらいだった。 その途中で、そっと顔を上げると、お父さんは自分の股間へ視線をジッと向けていた。弥生は、その視線がお股に突き刺さっているように感じて、今更だが急に気恥ずかしくなった。赤くなった顔を自分の両膝の間に埋めて、 (おしっこ、早く終われ、早く終われ) と密かに祈った。 やがて、その思いの通り、おしっこの勢いは弱まっていった。ピュッ、ピュッと最後まで搾り出して、ようやく終わった。 「ふぅ」 思わず溜息がもれた。 しかし、おしっこを最初から最後まで間近で見られてしまったこと、そして、そもそも、それはおもらしに限りなく近い形であったということ、そんなこんなで、弥生はどういう顔をしていいのか分からず、床に溜まったおしっこが徐々に排水口に流れていくのを眺めながら、そのまま下を向いていた。 「ほら、出たじゃないか。お父さんの言う通りだっただろ?」 お父さんは勝ち誇ったように言った。 弥生はそんなことを言われて、正直ちょっとくやしさを感じた。しかし、それは毒のある言い方ではなかったし、その通りなので、 「……うん」 と素直に負けを認めるしかなかった。 65 「よし、洗ってやろう」 お父さんは明るく言って、ザァッと立ち上がって、湯船から出てきた。おしっこで濡れている床を踏んでも平気のようで、しゃがんでいる弥生の右横に、自分もしゃがんだ。 弥生は両足を自分のおしっこの水溜まりの中に浸しながら、洗ってもらうために、しゃがんだ姿勢のままでいた。弥生は気まずくて、お父さんの顔をまともに見ることができなかった。 洗ってもらうのはいいとして、そのことよりも、その後のお仕置きの有無が気になっていた。もし、この放尿がおもらしによるものだと判断されれば、またお仕置きされる可能性は十分あった。 (今のおしっこ、しようとして出したんじゃなくて、実はおもらしなのだと、お父さんにばれてないだろうか……。お父さん、鈍感のようでいて、案外、鋭い所があるからな……) 弥生はあえて無表情でいたが、どう思われているのだろうかと心配で、内心はビクビクしていた。しかし、お父さんは何も言わず、壁の棚からセッケンを手に取って、それを両手で揉んで泡立て始めた。「弥生、今日もおもらししちゃったね」などと、馬鹿にするようなことも、怒るようなことも言わず、黙ったままその作業を続けた。しばらくの間、お風呂場の中には、そのクチュクチュという音だけが響いた。 「じゃあ」 とお父さんは口を開いた。 「……うん」 「じゃあ、そこにつかまりなさい」 「つかまるって?」 「湯船の縁に手を置いて、つかまりなさい」 「こう?」 「うん、そんな感じ。じゃあ、するね」 とお父さんは言うと、さらに膝をにじり寄せてきて、弥生の体の側面にピタリと体をくっ付けた。そして、セッケンの泡にまみれた左手を弥生のお尻にペタリと触れて、その柔らかい丸みを優しく撫で始めた。 「……ふぅ」 弥生はそのくすぐったさに、思わず吐息をもらした。 お父さんはさらに右手を弥生の両膝の間へ差し込み、下腹部から股間へと指先を這わせた。弥生は前と後ろの両方から、二本の手で同時にキュッキュッと股間の肌を擦られて、 「……っ」 と湯船の縁をつかむ手にも、思わず力が入った。 「痛くないよね?」 お父さんは弥生の顔をのぞき込んで訊いた。 「……うん、大丈夫」 弥生は答えた。それは嘘ではなく、痛さは全くなかった。しかし、両太ももの間に、グッチャッグッチャと音が鳴るぐらいの力で、長時間かき回されるような刺激を受け、弥生はそのくすぐったさで背筋がゾクゾクした。 (やけに強くされる……。これって、もしかして、お仕置きなんだろうか?) 弥生はついそのように疑ってしまって、お父さんの顔をチラリと見た。しかし、お父さんは真顔だったので、真意をうかがい知ることはできなかった。 お父さんは表情を変えることなく、手の動きだけをさらに速めて、それはもはや、洗っているというよりも、あたかもマッサージでもしているかのように、そこら一帯をモミモミと捏ねるように揉みしだいた。 (お、お父さん、ちょっと、悪乗りしてない……?) そのねばつくような手付きから判断すると、そう言わざるをえなかった。 (やはり、おもらしだと思われているのだろう。そして、ここまでするってことは、お仕置きなのだろう) 弥生はそのような考えに傾いた。 66 ただ、その揉まれている刺激は必ずしも不快なものではなかった。むしろ、気持ち悪さの中に、奇妙に心地良いくすぐったさがあった。 そのうち、弥生の表情は、トロンとして恍惚の涙目になって、口の中には唾があふれて、唇の端からはヨダレがだらしなく垂れたが、拭うこともせず、流れるに任せた。頭を後ろにもたげて、自分でも気付かないうちに、「ああん」とはしたない声を上げていた。 弥生は、手の力が抜けて、湯船の縁をつかんでいた指が離れて、後ろに倒れそうになった。すかさず、お父さんは、 「ほら、暴れないで、じっとしてなさい」 と背中を支えて、気合を入れるように、お尻を軽くピシャと叩いた。 「あんっ」 弥生は反射的に叫んだ。しかし、それは痛くもなく、腹も立たなかった。むしろ、鋭い刺激が新鮮で気持ち良かった。二発、三発と、もっとされるかと思って、期待を込めて待ち構えたが、残念ながら、お父さんは洗う作業を再開した。弥生は、 (なんだ、それだけか。もっとバシバシされても良かったんだけど……) と、むしろ一発で終わったことに不満を覚えた。 「よし、こんなもんかな」 (終わったか……) 弥生はそのままの姿勢でセッケンだらけの下半身を洗い流してもらった。そして、促されて立ち上がろうとした。しかし、長時間、窮屈な姿勢でしゃがんでいたせいで、膝がガクガクしてよろけた。 「転ぶと危ないよ。さあ、おいで」 お父さんは弥生をかかえ上げて、湯船へ一緒に連れ込んだ。 湯船の中では、弥生はいつものようにお父さんの腕の中に抱かれた。弥生はお湯の中で落ち着くと、「ふぅ」と改めて一息ついて、 (なんかもう、何から何まで、全てやってもらってるな。こんなんでいいのかな?) と自嘲気味に思った。しかし、 (誰か他の人に見られているわけじゃないから、いいか……) とわずかに自分を慰めた。 67 それ以降、弥生は、お風呂に入れば、その場にしゃがんで、ジャージャーおしっこをするというのが当たり前の習慣になってしまった。二人で話し合って決めたわけではないが、いつの間にかそうなっていた。 お父さんの方も、あからさまではないにしても、そうするよう積極的に促した。弥生がお風呂場に入ると、お父さんは湯船の外に出てきて、弥生をその場にしゃがませた。弥生はオズオズとうずくまって、 「おしっこするよ。していい?」 と確認した。すると、お父さんは、 「いいよ。しなさい」 と許可を出した。それを待って、弥生は放尿を始めた。 当初はそのようにしていたが、やがて面倒なやり取りは省略されて、双方何も言わず、目顔を交わすだけで済ますようになった。 もちろん、弥生の中に心理的抵抗がなかったわけではない。特に最初の頃の数回は、まだそのような気持ちが強く残っていて、 (私、何してんだ。こんなことしちゃダメなのに) と自らを批判的に思った。 しかし、慣れとは恐ろしいもので、何度も同じことを経験しているうちに、何の感動も覚えなくなった。まるでお手洗いでしているのと大して変わらない気分で、お風呂場でおしっこをできるようになった。 また、お父さんもお父さんで、弥生がたくさんのおしっこを長々していると、「おお、いっぱい出ているねぇ」とうれしそうに言ったものだった。 (お父さんて、私のおしっこ姿を見るのがホント好きなんだなぁ) 弥生はちゃんとその点を見抜いていた。お父さんを喜ばせるため、あえておしっこをたくさん溜めてから、入浴に臨むんだこともあった。 時々、お父さんも「じゃあ、お父さんもしようかな」と言って、二人で同時に放尿をした。そして、お父さんはおどけて、「どっちが遠くに飛ぶかな?」などと言って、おちんちんを構えて、壁の方までおしっこを飛ばした。しかし、弥生からすれば、お父さんは立っていて、自分はしゃがんでいるのだから、そんな勝負は不公平極まりなかった。 稀にだが、しゃがんでもおしっこが出ない日もあった。 「今日は出ない?」 とお父さんは訊いた。その口調には残念そうな響きがあった。 「多分……」 「どれどれ」 お父さんは弥生の横にしゃがんだ。そして、 「本当に出ないのかな?こうすればどうだ?」 と言って、おしっこの放出を促すように、弥生のお尻をピシャピシャと叩いた。弥生は「お、お父さん、そんなことしても無駄だよ……」と抗議しようとした。しかし、その刺激でおしっこはシャーと出たので、弥生は我ながら驚いた。お父さんはニコニコと満足そうな顔をしていた。 68 ただ、時に弥生は自分でも冷静になった。お風呂でのおしっこが条件反射のように体に染みついてしまったことに気付いて、空恐ろしくなることもあった。 ある時、弥生はお風呂場に入って、いつものように、「するね」と、お父さんに目配せした。しかし、しゃがむよりも早く、急激な尿意に襲われて、立っているままの姿勢で、股間からチュッとおしっこが噴き出てしまった。 「わっ」 と叫んで、慌てて手で股間を抑えたが、そんなことをしても無意味で、温かい液体が手の平の中に広がり、指の間から零れて、床にボトボトと落ちた。弥生は崩れ落ちるように両膝を床についた。もれ続けているおしっこは太ももを伝って流れた。 とりあえずは全部出し終わったものの、おもらしをしてしまったようで、非常に決まりが悪かった。 (ううっ、なんだこれ?。なんか、急に催したぞ……) 弥生はオドオドと顔を上げて、 「出ちゃった……」 と相手の許しを乞うような卑屈な表情をお父さんに向けた。 お父さんは取り立てて怒らず、 「洗ってあげるよ」 とやさしく言った。まずはおしっこのかかった手から濯いだ。 弥生は、お父さんがやさしいので、この機会に訊きたいと思っていたことを訊いてみようと思った。 「ねえ」 と股間を洗ってもらいながら訊いた。 「何?」 「今更訊くけど、こんなことしてもいいのかな……」 「いいよ。今だけだよ。別荘にいる時だけの遊びだよ」 「そうかぁ」 「元の家でこんなことをしたらダメだぞ。お母さんに怒られるからな」 「うん。そうだね」 弥生はそのように頼もしく答えたが、元の家に戻った時、このおしっこ癖はすぐに直るのだろうかと、少し心配ではあった。 こんな淫らな痴態はお父さんと二人だけの秘密のつもりでいた。しかし、ふと弥生は、 (お父さん、万智とも同じようなことをしているのでは?) という疑問を抱いた。それは純粋な疑問ではなく、若干の嫉妬が混じっていたようだったが、ともかく、一旦それを思うと、心の中で不安はドンドンと大きくなっていった。 ただし、それを知りたいのはやまやまだったが、万智に直接訊いても、正直に答えてくれないに決まっているし、そもそも、そんなこと訊けるものではなかった。なぜなら、万が一、違っていたら、「そんなことするはずないでしょ」と怒られるかも知れないし、逆に、「えっ、もしかして、お姉ちゃん、そんなことしてるの?」と思われて、藪蛇になってしまうだろう。 訊きたいが、訊けないのがもどかしかった。しかし、弥生はどうしても知りたくなった。 ある日の夕方、弥生は足音を忍ばせて、お風呂場に向かう万智の後をコソコソとついて行った。 万智が脱衣所で服を脱いで、お風呂場に入ったのを気配で読み取って、弥生は自分も脱衣所にそっと踏み込んだ。そして、お風呂場の扉の近くに身を寄せて、聞き耳を立てた。 お風呂場の中の物音に耳を済ますと、シャーというおしっこの音が聞こえたよう気もした。しかし、それは弥生の勝手な思い込みかも知れなかった。 その直後に、会話が聞こえてきて、「終わった」とか「洗ってあげよう」などと言っているようだった。扉越しで、しかも水音に掻き消されるので、断片的にしか聞こえなかった。 (うーん、やっぱり、万智もおしっこしてるのかな?どうだろう。どうも、はっきりしないなぁ……) 弥生は一人、脱衣所で盗み聞きをしながら、思い悩んだ。 しかし、数日後、思いもかけず、ひょんな出来事をきっかけに、その答えは判明した。 十章 夕暮れのテラスでの遊戯(69ー75) 69 この別荘にはテラスがついていた。南側の日当たりの良い場所に、小さな小屋を増築したような形で、床は一段高い板張りで、椅子と机が置いてあって、三方向はガラス戸の開放的な空間で、庭越しに山並みの素晴らしい景色が眺められた。 テラスがあるというのは、不便な別荘暮らしの中では、元の家と比べて、数少ない優れている点だった。 皆でそこへ出て、ポカポカの日差しの下で昼食をとったり、また、日が暮れて暗くなってしまえば、田舎なので、どこにも行く所がないので、ぼんやり星を眺めたりした。空気が澄んでいるので、星々の輝きは都会とは比べ物にならず、ギンギンギラギラと恐ろしいばかりに荘厳だった。 夕食後、よくお父さんはテラスへタバコを吸いに行った。当時の風潮では、家の中でも外でも、いつでもどこでも喫煙しても、誰も咎めないという状況だったが、夜景を眺めながら一服すると、タバコはうまいらしく、お父さんはわざわざテラスに行った。弥生は万智も、特に用事はなくても、お父さんに何となくついて行って、一緒にテラスでくつろいだ。 今夜も、お父さんは夕食後、無言で席を立った。 いつものことなので、弥生は、 (お父さん、またタバコを吸いに行くんだな) と思って、問いかけることもしなかった。 ただ、この日は、万智も、 「私も」 といって、すぐにお父さんの後にくっついて、二人一緒に居間を出て行った。 一人残されるとなると、弥生は急に寂しくなった。弥生はどうしようかと思っていると、お父さんは部屋から出ていく間際に振り返って、 「弥生もおいで」 と誘った。弥生は「うん」と言って席を立った。 結局、いつものように、三人でテラスの机を囲んだ。 母屋とテラスの仕切り戸を閉じると、そこは閉ざされた小空間になった。テラスの中では、あえて照明を点けず、月明りだけがその内部を照らしていた。そのせいで、お互いの顔はちょっと不気味に青ざめて見えた。 三人の間では別段、取り立てて会話はなかった。しかし、家族なので、それが気詰まりというわけではなかった。 お父さんは無言でタバコをスパスパ吸った。煙は舞い上がり、狭いテラスの中にはモウモウと紫煙が立ち込めて、そこへ月明りが射すので、ある種の趣きのある光景になった。光と陰の変幻極まりない模様は見ていて飽きなかった。 庭に面するガラス戸は開けあり、網戸だけの状態だが、今日は風は穏やかなので、狭いテスラの中はすぐに煙が充満した。弥生は、そして万智もそうだが、昔からの慣れのためか、タバコの煙の匂いは嫌だとは思わなかった。むしろ、匂い自体は香ばしくて好きだった。 灰皿に置かれたタバコの先端からは、一本の糸のようにスーと煙が立ち上って、フワフワと空中に舞い上がる様は、何かの形を象っているようにも見えた。 (これは何に見えるかな?花びらかな、クラゲかな) 弥生は想像を巡らせた。しかし、その答えを思いつく暇もなく、横から万智が息を「ふー」と吹きかけたので、煙は雲散霧消と消えてしまった。他愛もない遊びだが、そんなことをしているだけで退屈はしなかった。 70 お父さんはタバコを指に挟んだまま、椅子から立ち上がった。 「お父さん、どこか行くの?」 と弥生は訊いた。 「どこにも行かないよ」 とお父さんは答えて、網戸を開けると、外側に出た。そして、後ろ手で網戸を閉め直すと、テラスの縁側の上でこちらに背中を向けて立った。 「そんな所に突っ立ってると、蚊に刺されるよ」 「ああ」 とお父さんは生返事を返した。 (なんだ?) 弥生は、お父さんが何をするのか分からず、その後ろ姿を注視した。 お父さんはテラスの縁側のギリギリの端の所まで移動した。そこで立ち止まると、手に持っていたタバコを口にくわえて、両手を体の前にやって、何かゴソゴソしている様子だった。 (何をしてるんだろう……) と思っている弥生の耳に、いきなり大きな音が聞こえてきた。地面にドボドボと何かが落ちる音だった。弥生は、それが何をしているかはすぐに理解できて、もう少しで、「えっ?」と声に出して叫びそうだった。 (お、お父さん、あんな所で立小便してる。お父さん、そんなことするの……?) 普段は真面目なお父さんが娘たちの前でそんなことを平気するということに、弥生は驚きを隠せなかった。弥生は自分のお父さんが、よその家庭の父親と比べて、上品さがあることを密かに誇りに思っていた。それなのに今、目の前であんなことをされて、まごついてしまった。 (なんか、お父さん、この別荘に来てから、性格がずいぶんとズボラになった気がするなぁ。お母さんの目が無いと、男の人って、お父さんでも、そんな風になってしまうものなのだろうか……) 弥生はそんなことを考えながら、万智の顔を見た。万智は、 「あー、お父さん、あんな所でおしっこしてる。いけないんだー」 と露骨に口に出して言った。ただ、万智はそうは言いつつも、さほど驚いている様子ではなかった。 「お姉ちゃん。お父さんが庭におしっこしてるよ。いけないよね」 と万智はさらに言って、弥生に同意を求めた。 「そ、そうだね……」 弥生はお風呂でおしっこをしたことが何度もある身なので、お風呂と庭とでは話が少し違うが、あまりえらそうにはお父さんの立小便は責められず、ちょっと複雑な気分だった。 弥生たちの座っている場所からは、お父さんの後ろ姿が見えているだけだった。しかし、それでも、他人の立小便を凝視するのは気が引けて、弥生は目のやり場が無くて、うつむいた。 しかし、万智の方はそうではなかった。身軽に椅子から立ち上がって、引き寄せられるように、網戸を開けて、自分も外側へ出て行った。そして、大胆にも、放尿中のお父さんの真横の所まで行って、立小便をのぞき込むように話し掛けた。 「お父さん、こんな所でおしっこしたらいけないんだよ」 「はは、ビールを飲み過ぎたよ」 お父さんはおしっこを放ちながら、タバコを唇の端にくわえて、悪びれることなく言った。 その光景を一人テラスの内側から眺めて、弥生は、 (もう、二人とも、しょうがないんだから……) とその奔放さに呆れて、言葉にもならなかった。 71 お父さんは余程たくさんビールを飲んでいたのか、大量のおしっこを放った。その長い長い立小便がようやく終わると、おちんちんを収めて、ズボンの前を閉めた。そうしながら、横からのぞき込んでいる万智を振り返って、 「万智もするかい?」 とさりげなく訊いた。 「するって、何を?」 と万智はあどけない顔で訊き返した。 「おしっこをだよ」 「おしっこ?私が、今ここで?」 「そうだよ。今は、おしっこ、したくないかな?」 「うーんと……。ちょっと、したい」 「じゃあ、しなさい」 「えー、でもー」 「したら、いいよ。ここは元の家じゃなくて、別荘なんだから」 「そうなの」 「ああ、そうだよ。別荘だから、してもいいんだよ。でも、元の家でするのはダメだぞ」 「ふーむ……」 万智は、お父さんにそう言われれただけで、簡単におしっこをする気持ちに傾いたようだった。 その二人の会話はテラスの中で一人で座っている弥生にも十分聞こえた。 (万智のやつ、ついさっきまで、「いけないんだー」なんて言ってたのに、自分でもするのかよ……) と弥生は心の中で文句を垂れた。 結局、万智はお父さんに説得されて、おしっこすることに決めて、さっそくしゃがんだ。弥生からは、その丸まった背中側しか見えなかったが、肩の動きでパンツを下ろしたのだと分かった。 万智はしゃがんだまま、テラスの端へジリジリと移動した。 テラスの縁側から庭までは五十センチ程の高低差がある。 「落ちるなよ」 お父さんは万智は服の襟髪をつかんだ。 「なんか、ここ、高くて、こわいな」 「じゃあ、こうしようか」 お父さんは万智の背後に回って、自分もしゃがんだ。そして、後ろから万智の両方の膝の下に腕を差し入れて、「よいしょっ」と、軽々と抱え上げた。万智は開脚させられた状態で、空中高く体を持ち上げられて、「うわぁ」と叫んだ。 「お、お父さん、お姉ちゃんが見てるよ」 「いいじゃないか。後ろ姿を見られているだけだよ」 「んんっ、でも……」 万智はむずかった。しかし、それは、心底から嫌がっているのではなく、弥生への見栄のために、形ばかり抵抗しているだけのようだった。それを裏付けるように、お父さんは「ほらほら」と言って、抱えた万智の体を上下にユサユサ揺らした。すると万智も「イヒヒ」と楽しそうに笑った。 弥生は、二人がそんな風に戯れるのを見ていて、複雑な思いを持った。 (うわぁ、なんだよ、それ。万智は、幼稚だなぁ) とまず最初はそう思った。そんな恰好させられるのって、幼稚という以上に、赤ちゃん扱いじゃないかと万智を見下したくなった。 しかし、その一方で、キャッキャはしゃいでいる二人の姿を見ていると、弥生は自分一人だけが仲間外れにされているような寂しさを覚えた。それだけでなく、弥生は二人の関係にある種の馴れ馴れしさを感じた。野外で抱えられておしっこするのは初めてなのかも知れないが、その行為自体はお風呂で何度も経験済みなのではないかと疑った。 弥生はジッと座って、そんなことを考えていると、万智を見下すという気持ちは失せて、万智の方が自分よりもお父さんとより親密であるように思えて、嫉妬の気持ちがムラムラと芽生えてきた。彼らが自分の知らない二人きりの秘密を持っているようで、弥生は万智に負けたようでくやしかった。 72 そんなことを考えていると、ジョボジョボという陰気な音が聞こえてきた。 (あ、本当におしっこしたんだ) 弥生は息を止めて、聞き耳を立てた。その水音はお父さんの立小便に比べると、格段に弱々しかった。 抱きかかえられて放尿している万智に、お父さんは背後から頬を擦り付けるように顔を近付けて、 「こんなことしてるって、お母さんには内緒だよ」 と耳に吹き込んだ。 「うん、分かってる」 と万智は言って、二人は微笑み合った。 そんなベタベタしたやり取りと見せつけられて、弥生は、 (お父さん、万智とばかり仲良くして……) とまた嫉妬を掻き立てられた。 万智はおしっこを出し終わったようだった。 「終わった?」 「うん。もう下ろして」 万智はテラスの床に足をつくと、すぐに立ち上がって、ガニ股になって、膝のパンツを引き上げた。 (あれ?お股、拭いた?拭いてないよね……) 弥生は目ざとくそれに気付いた。他人事ながら、そんなことをして平気なのかと首をひねった。そして、自分が万智と同じ年齢の頃を思い返してみた。朧げな記憶だが、そう言えば、弥生も野外でおしっこした時は、紙が無ければ、(まあ、いいか)と気軽にそのままパンツを穿き直して、ちょっとぐらい股間が濡れても気にしなかったようだった。 (小二って、まだそんなもんだったかな……) と弥生は感慨深く思った。 一方のお父さんと万智は、テラスの端に寄って、地面にできたそれぞれの水溜まりを見下ろして、どちらが大きいとか小さいとか、小声であれこれ評価していた。 弥生はもうジッと座っていられず、跳ね上がるようにテラスから飛び出た。二人が並んで立っている横へ、弥生も歩み寄った。 「お、弥生も来たか」 お父さんは弥生の肩に手を回した。 「うん」 弥生もその手の上に自分の手を重ねた。そうしながら、弥生も首を伸ばして、テラスの端から下の地面を見下ろした。薄暗い中でも、地面の上に二つの水溜まりができているのが、何となく見えた。間違いなく、左の方がお父さんので、大きさは二倍ほども違っていた。 次に、弥生は万智の方を見た。やはり、弥生と顔を合わせるのが気まずいのか、恥ずかしそうに顔を伏せて地面を見ていた。 「弥生もしたくなった?」 お父さんは声をかけた。 「えっ」 「おしっこ、したくなった?」 お父さんはもう一度、同じことを言った。 (おしっこしたいかって、どういうことだ?つまり、お父さんは、私がおしっこをしたいから、ここに出てきたというように思っているのか?) 弥生はいきなりのことで驚いて、黙っていると、お父さんは、 「違うの?」 と念を押してきた。 弥生は、「違うよ。おしっこしたいから、ここに来たんじゃないよ」と言って、それを否定しようとした。しかし、それを言おうとするのと同時に、(しようか……?)とも思えてきて、最初の言葉を飲み込んだ。 「どうする?いいよ、したら」 お父さんはどういう意味か、変にニヤニヤしていた。 「どうしよう……。私もしようかな……」 弥生はまだ決めかねていた。おしっこをするなどと言ったら、馬鹿にされないだろうかと思って、お父さんの顔色をうかがった。 しかし、万智はお父さんに便乗して、 「そうだよ、お姉ちゃんもしなよ」 と誘惑した。万智は最初は「おしっこなんて、いけないのに」と言っていたが、自分がしたので、共犯者を作りたいのだろう。 73 弥生は二人の視線を感じながら、どうすべきかを悩んだ。もちろん、あんまり良い子ちゃんぶって、自分一人だけ仲間外れみたいになるのは嫌だった。しかし、男のお父さんや、まだ小さい万智がするのは良いとして、自分みたいなお姉さんが野外でおしっこするなんて許されるのかと、いまいち確証が持てなかった。 ただ、弥生にも弱みもあって、変に乙に澄ましていると、お父さんに「弥生。お風呂では、何度も平気でおしっこしてたじゃないか」と万智の前で例の秘密をばらされしまうかも知れなかった。 しかし、そういう理屈っぽい話は別にして、すでに弥生の体には尿意が高まっていた。他人がおしっこをするのを二度も間近で見て、さらにその水溜まりをも目の当たりにしたせいだろう。ふと気付いた時には、それは好き嫌いなど言う余裕もない程に切迫していた。弥生の胴はブルッと震えた。お父さんはそれを敏感に察して、 「我慢しているぐらいなら、もう、してしまいなさい」 と苦笑した。 「う、うん。じゃあ……」 弥生はお父さんに言われたからするという体裁で、「しようがない。するか……」などと曖昧につぶやいて、テラスの端のギリギリの所まで進んで、オズオズとしゃがんだ。 一旦そうしてしまったからには、後はもう勢いに任せて、スカートの裾を捲って、パンツを膝まで脱いだ。気温は寒くはなかったが、露出した股間に外気に当たって、少し心細い気がした。 後はおしっこを出すだけである。しかし、いざ出そうと思ったら、なぜかなかなか出なかった。 (うう、おかしいな。あれだけ催していたのに……) お父さんと万智の二人の間に挟まれて、注目されているせいかも知れなかった。万智は催促するように、 「まだ?」 と露骨に言った。弥生は返事もせず、気を鎮めるために目をつぶった。 「ひとりでできる?」 頭上からお父さんは訊いた。 「できるよ」 「本当にできそう?」 「大丈夫だってば」 弥生は断定するように言った。しかし、そう言ってから、ふと、 (お父さんは万智にしたのと同じように、私を抱え上げて、おしっこさせようとしているのでは……) という可能性に気付いた。 (まさか、そんなこと……。いくらなんでも、それは無理だ。万智の前でそんな扱いをされるのは恥ずかしすぎる) 弥生はその考えを振り落すように、頭をブルブル振った。しかし、その一方で、抱えあげられておしっこをさせられるのを期待している自分もいた。弥生はお父さんにどう答えようか悩んだ。「私も万智にしたみたいに抱えて」という言葉がのど元まで出かかった。 しかし、今は自重した。自分はもう大きなお姉ちゃんなのだし、万智の目もあるので見栄を張って、 「お父さん、私、一人でできるから」 と心にも無い強がりを言ってしまった。心の中では(私、素直じゃないなぁ)と自分で自分が嫌になった。 弥生はテラスの端にしゃがんだまま、頭の中では、自分がお父さんに抱えてもらっている様子を想像した。そうすると、不思議なことに、おしっこは込み上げてきた。 「んっ、出るっ」 と不覚にも声を上げてしまった。両膝の間から、水流がピュウと放たれた。 おしっこは勢いを増して、きれいな放物線を描いて、一メートルも先へ飛んで、テラスの一段下の地面の上にドボドボと音を立てて落ちた。それは自分でも戸惑う程に大きな音だった。 お父さんと万智は、左右からほぼ同時に 「おお、出たね」 と歓声を上げた。 74 三十秒後、弥生はおしっこを出し終わると、実に気まずそうな表情を浮かべながら、立ち上がった。自然な流れで、そのまま膝のパンツを引き上げた。布地の股間の所にジュンと染みができるのが分かった。 弥生は足元を見ると、テラスの端付近はおしっこの飛沫で濡れて変色していた。さらにその先に視線をやると、庭土の上には、今自分が作ったばかりの水溜まりを含めて、三つのおしっこの跡が並んで見えた。右からお父さん、弥生、万智のもので、その大きさもちょうど年齢順になっていた。 三人はテラスの端に突っ立って、不必要な程、長い時間、それらを見下ろしていた。他の二人がどういう感想を持っているのかは不明だが、弥生は、 (私、こんな所でおしっこしちゃった。どうもはしたない女の子なってしまったなぁ) と自嘲気味だった。 「中に戻ろうか」 お父さんはポツリと言った。それは普段通りの抑揚のない口調だった。万智も無言でお父さんの背中にくっついて、テラスの中へ戻った。弥生は庭の水溜まりに最後の一瞥をくれてやってから、最後にテラスに入って、後ろ手に網戸を閉めた。 テラスの中で、三人はそれぞれの椅子に再び腰を下ろした。 お父さんはまたタバコをスパスパやりだした。室内はすぐに煙が充満した。 それは五分前と寸分違わぬ風景だった。ついさっき三人共々、テラスから庭へおしっこしたなどとは、弥生は自分でも信じられない気分だった。唯一の違いとしては、弥生のパンツのお股には恥ずかしい染みができていて、それがおしっこをしたという動かぬ無言の証拠になっていた。 (うーむ、よく考えたら、すごい大胆なことをしてしまったな) 弥生は今更だが、そんな風に思えてきて、二人の前にいるのが気まずくなった。お父さんに「弥生も外でおしっこしちゃったね」などと茶化すようなことを言われないかと思って、ヒヤヒヤした。ただ、お父さんはゆったりとした表情でタバコを吸っているので、とりあえずは、そういう心配は無用のようだった。 弥生は万智の方を見ると、万智はスカートの裾を引き上げて、自分の太ももを触っていた。 「足、どうかしたの?」 と弥生は訊いた。 「蚊に刺されちゃったみたい。なんか痒い」 万智は椅子の上で立膝の姿勢になって、パンツが丸見えになるのも気にせず、両足をガバリとおっぴろげて、内ももをポリポリと掻き始めた。 それを見ているうちに、弥生は自分も太ももの内側に痒さを覚えた。スカートの中に手を突っ込んで、足の表面を調べると、肌にポツリとした膨らみがあった。一旦掻きだすと、さらに一層痒くなってきた。 (万智もそうしているんだし、気にしなくていいか……) 弥生はそう思って、自分もスカートを捲って、立膝の姿勢になって、太ももを露出させた。そこを見ると三か所ほど、小さく腫れていた。 「私もだ。たくさん刺されてる」 弥生と万智は二人そろって、開脚した股間に顔を埋めるようにして、太ももの上で盛んに手を動かした。 「蚊に刺された?あんまり掻くな。塗り薬を取って来てやるよ」 とお父さんは言って、タバコを灰皿でもみ消すると、席を立って、家の中へ戻って行った。 テラスの中には二人残された。 (これって、外でおしっこした天罰なのかな?) 気持ちが萎縮している弥生は、蚊にさされたぐらいで、つい自虐的になって、そんな考え方をしてしまった。一方で万智は、全く悪びれている様子はなく、無邪気な顔で、自分の太ももを撫でていた。 75 お父さんの足音が向こうへ消えた。 万智はまだ足を掻いていた。しかし、弥生は手の動きを止めて、あることを思い悩んでいた。それは、万智に「お風呂でおしっこしているか」という質問をぶつけるということだった。普通なら、いくら仲の良い姉妹とはいえ、そんな突飛なことは到底訊けなかっただろう。しかし、今なら訊けると思った。むしろ、今が絶好の機会だと思った。この機会を逃しては、次に訊けるのはいつになるか分からなかった。 「ねえ、万智」 「何?」 万智は顔を上げずに返事をした。弥生は少し躊躇した。しかし、思い切って、 「万智って、お風呂でおしっこする?」 と訊いた。思わず声が震えた。遠回しに訊くつもりだったのに、露骨な程に直截的な言い方になってしまった。 万智は「えっ」と驚いて、足を掻く手を止めて、 「そ、そんなことするはずないでしょ」 と声を荒げた。しかし、その反応を聞いた弥生は、 (変にむきになって否定するのは怪しい。本当はしているな) と疑いは確信に変わった。 「なんでそんなこと訊くのよ」 と万智は言って、決まりの悪そうな顔をしていた。 「ちょっと、気になってね」 「もう、そんな話はいいでしょ」 「本当にしてないの?」 「本当だよ。うるさいなぁ。じゃあ、訊くけど、お姉ちゃんはどうなのよ?」 と万智は逆に弥生に訊いてきた。反撃のつもりなのだろうが、弥生はそう来るだろうと想定していた。そして、それに対して、正直に答えてやるつもりだった。弥生は一呼吸置いて、 「私、してるよ」 と思い切って答えた。 「えっ」 と万智はさすがに驚いたようで、絶句してしまった。 「私、してるよ。どきどきだけど」 「してるって……」 「私、お風呂でおしっこしてるの。お父さんの見てる前で」 と弥生はさらりと言った。しかし、心臓はドキドキしていた。 「そ、そうなの。ふーん……。知らなかった……」 「で、万智は?私は本当のことを言ったよ。だから、万智も本当のことを言ってちょうだい」 「……」 万智は少し沈黙した。弥生は万智が口を開くのを気長に待った。 「してるんでしょ?」 と弥生は追及した。 「……う、うん。してる」 と万智はついに、躊躇しながらも、自分の口から告白した。 「なぁんだ、してるんだ。私と一緒だ」 と弥生はわざと明るい声で言った。 万智は驚きつつも安心したようだった。二人は顔を見つめ合った。そうしていると、なんだかおかしくなってきて、お互いに「うふふ」と噴き出すように笑いあった。弥生は、万智が自分を信頼して、本当のことを言ってくれたのが、すごくうれしかった。万智のことがもっと好きになって、前よりも仲良くなった気がした。 しかし、その時、お父さんが戻ってくる足音が聞こえてきたので、二人は笑うのを止めた。 テラスの中に戻ってきたお父さんの右手には、キンカンが握られていた。 「なんだい、二人でケタケタ笑って。誰かの悪口でも言ってたのかな?」 とお父さんは後ろ手に戸を閉めながら言った。 「違うよ」 と弥生は言った。 「本当に?じゃあ、何の話をしてたんだ?」 「秘密。ね?万智。うふふ」 「まあ、いいよ。それより、足を出しなさい。キンカンを塗ってやるよ。どっちからする?」 「じゃあ、万智から」 と弥生は妹に順番を譲った。