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江戸山乱理
江戸山乱理

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『宮田家の別荘暮らしの春秋』(2)

三章 二回目のお風呂で(20ー27) 20  現地の学校への転校の手続きはすでに終わっていたが、実際に登校するのは来月の一日からの予定だった。 「別に急ぐ必要はないからね。ゆっくりすればいいよ」  お父さんはそう言っていた。そのため、この二週間程は臨時のお休みだった。もちろん、その間はずっと遊んでいいわけではなく、家のことを一通り済ませて置かなければならなかった。  今日は朝食後、買い出しのため三人そろって雑貨屋さんに出かけた。  徒歩とバスで三十分程かけて集落の商店街に到着した。そこでは大抵の食料品や日用品などを売っているので、当面の買い出しは済ますことができた。弥生も万智も、手分けてしてリュックに一週間分の食料を背負った。  お父さんは最後に電気屋さんで新品の電球を買うのを忘れなった。 (あ、お風呂場の電球だ……)  と弥生は重い荷物を担ぎながら思った。 「よし、これでお買い物は終りだ。じゃあ、帰る前に、何か食べて行こうか」 「やったー」  万智と弥生はお父さんの提案に歓声を上げた。しかし、それと同時に、弥生は、この白昼の屋外という場所で、自分の陰毛の処理を何とかしないといけないと改めて思った。 21  帰宅後、皆で手分けして、食料品を冷蔵庫と貯蔵場所にしまい込んだ。 「この電球ってお風呂場のだよね。私、取り付けてくるね」  弥生はそう言って、一人、お風呂場へ入って行った。  椅子に乗って、電球を取り替えて、スイッチを入れると、風呂場内部は格段に明るく照らされた。 (こんなに明るいと、毛は丸見えだろうから、やはり、何とかしなきゃな)  弥生は目を細めてその電球を見ながら思った。決して気持ちは進まないが、時間的にそれほどの余裕はなかった。 (今は正午ぐらいだから、もう数時間後には、お風呂の入ることになる。それまでにしないと……。でも、どうやって?)  いつどこでするかはともかく、陰毛の処理の手段としては、剃るか、抜くか、切るしか選択肢はなかった。抜くのは痛いだろうから、そんな手荒なことは到底できそうになかった。また、剃るのはというと、弥生はカミソリなど持っていなかったし、仮に持っていても、刃物をそんなところに当てるの怖くて無理だった。となると、消去法で、切るしかないということだった。 (じゃあ、切るか。ハサミは確かあったよな)  まだ引っ越し直後で、物が散らかっている状態だったが、学校用のハサミは机の引き出しに入っているのは知っていた。弥生はそのハサミを取り出して、ポケットに忍ばせて、万智とお父さんが一緒に居間にいるのを見計らって、一人和室に入った。その部屋には、まだ開いていない段ボールなどが積まれてあった。  後ろ手に静かに襖を閉めて、部屋の中に一人ポツンと立って、ポケットからハサミと取り出した。弥生の鼓動はドキドキと激しくなった。 (今ここで、本当に、毛を切るんだよな……)  弥生は、この期に及んでまだ躊躇していたが、そうするしかないと自問自答した。  用心深く、向こうの方へ耳をすました。お父さんと万智は居間にいて、こちらに来そうな気配はなかった。 (よし、この隙に……。やるなら、ささっと済まさないと)  弥生は部屋の外の気配への警戒を怠らないまま、畳の上に新聞紙を広げて、そこに両膝をついた。スカートの裾をめくり上げて、その端を腰に突っ込んで、パンツを丸出しにすると、それをさっとずらした。ただ、いつでもすぐに穿き直せるように、太ももの中程で留めておいた。  自分で自分の股間を見下ろしながら、真昼間に普通の部屋の中で、そんな所を露出して、我ながら、恥ずかしいような、嫌らしいような、変な気分になった。  ハサミの先端を、そこら辺に生えている産毛の根本に突き当てた。それは児童用のハサミだったので、先端は丸く、押し当てても皮膚を傷つける心配はなかった。 (……するか)  もう一度部屋の外の気配をうかがった。誰もこちらに来そうにはなかった。  右手に少しずつ力を込め始めた。落ちる毛がパンツの中に引っかからないように、腰を前に突き出した。さらにグッと力を入れると、意外と容易にハサミはチョキンと鳴った。切り落とされた数本の毛が新聞紙の上にハラハラと舞い降りた。 (おっ、切れた。結構簡単に切れるんだな……)  その後は、すぐにコツをつかんで、チョキチョキと芝でも刈るように、なだらかな丘に刃先を這わせて、勢いよく陰毛と切り落としていった。見る見るうちに、股間の丘の表面からは黒い毛が消え去って、肌色の地肌のみになった。 (ちょっと前までは、私のここも、こんな風にツルツルだったんだよな)  その光景は懐かしくもあったが、年齢が幼くなったようで、恥ずかしくもあった。ただ、よく目を凝らしてみれば、毛穴には切り株のような刈られた跡の毛がポツポツと残っていたが、遠目で見れば無毛の状態だった。お風呂の中で、そんな間近に見られるはずはないので、まずバレないだろう。ただ、直接触れると、指の腹にざらざらと引っかかったし、パンツの中でもチクチクして、あまり気持ち良くはなかったが、贅沢も言ってられないので、しょうがないと思って我慢した。 (これで、今夜のお風呂は、見られるのを変に心配せず入れる)  こっそりと誰にも見つからずに陰毛を切り落とせて、弥生はまずまず満足した。  後は新聞紙に残った陰毛をどう捨てるかという問題があった。弥生は新聞紙をそっと水平に持ち上げて、そのまま窓際に運んで行って、フッと息を吹きかけて、切り落とした陰毛を屋外へ吹き飛ばした。それはパラパラと庭の土の上に落ちて、見分けがつかなくなった。 22  お父さんは在宅での仕事があるので、弥生と万智は家事のお手伝いをしないといけないとちゃんと分かっていた。  その日の午後も、引っ越しの後片付けや、食事の準備など、できるだけのことは姉妹で自発的にやった。ただ、火を使うのは危ないというので、お風呂を焚くのはお父さんの役割だった。  夕食後、弥生と万智は居間でくつろいでいた。お父さんは外にいて、お風呂の焚口の様子を見ていた。 (もうそろそろ、お風呂、沸く頃だな)  昨夜と違って、今晩の弥生は、気持ちに余裕があった。パンツの下はきちんと陰毛が切り取られた状態だったので、お父さんにも万智にも全裸を見られても平気だと思うと、悠然と構えていられた。  お父さんは居間に戻ってきて、 「お風呂沸いてたよ。よし、入ろう。で、どっちが先に入る?」  と二人に訊いた。  昨日は三人同時に入ったが、狭いお風呂にそんな無理をして一緒に入らなくていいだろうという話になって、お父さんと一緒に、姉妹のどちらか一人ずつ入るという予定になっていた。お父さんは、お湯が熱湯になっていないかを確認するという意味もあって、一番風呂という決まりだった。  ガス風呂と違って、沸かす手間暇を考えれば、全員が一緒の時間帯に入るのが自然だった。もちろん、弥生が「一人で入りたい」と言えば、時間をずらすことも可能だっただろう。しかし、弥生は、口には出さなかったが、この家の薄暗い雰囲気のお風呂に一人で入るのがこわかった。いい年してお父さんと一緒にお風呂というのも、それはそれで恥ずかしいことだと自分でも分かっていたが、慣れて一人で入れるようになるまでは、誰かと一緒に入る方が頼もしかった。  お父さんのその質問に、二人は顔を見合わせた。弥生はどちらでもよかったので、 「じゃあ、万智から入りなさい」  と譲った。 「うん、分かった」  と万智は元気に走ってお風呂場へ向かった。  居間に一人残された弥生は、万智が遠くに行ったのを確認してから、自分のスカートをめくって、パンツをさげて、そこの状態を最後にもう一度確認した。 (うん。これなら大丈夫)  昨日と違って、今日はゆったりとした気分でお風呂に入れそうだった。 23  布団の用意などをしていると、すぐに十五分ほど経過した。 (そろそろ、私も行こうか)  弥生は居間の椅子から腰を上げて、お風呂場へ向かった。  脱衣所では、ちょうど万智はお風呂から上がったところで、全裸で髪をタオルで拭いていた。弥生もその横で服を脱ぎ始めた。少しも躊躇せず、パンツも下ろして、万智と同じように裸になった。  ただ、すぐにはお風呂場には向かわず、万智の隣に立って、しらばく自分の姿を鏡に映した。髪を触ったり、お腹を撫でたりしながら、鏡の中の自分の股間を注視した。横目を使って、ひそかに万智のそこと自分のそこを見比べたが、両者に相違はほとんどなかった。どちらも、プックリとなだからに隆起して、その下半分には控え目な縦筋が露出していた。 (私のお股も、万智のと同じように、何も生えていないように見えるな)  切り取った毛の跡は、よほど目を凝らして見ても分からず、弥生は安心した。そして、突如、ここで万智を相手に、本当にバレないかを試してみようかと思った。  しかし、全裸のままグズグズしている弥生の様子が不自然だったようで、万智の方から、 「お姉ちゃん、どうかした?入らないの?」  と訊いてきた。 「なんか、私、最近太ったかなって思って……」  と弥生は言って、自分のお腹を撫で回した。 「そうかな?」  と万智は弥生のお腹をのぞき込んで、「あんまり変わってないよ」と言った。 「じゃあ、いいんだけどね。でも、どうかな、これは?」  と弥生は万智の方へ向いてお腹の皮膚を指先でつまんで見せた。それに誘われて、万智も弥生のへそ横をツンツンと触った。そのくすぐったさに弥生は思わず、「ふふっ」と笑いが込み上げてきたが、しばらくされるに任せていた。  万智はしばらく、お腹の贅肉をモミモミしていてが、 「お姉ちゃんは、まだ痩せてる方だよ」  と言って、弥生の顔を見上げた。たしかに、万智の言う通り、万智の子供らしくポコンと可愛く膨らんだお腹に比べると、弥生の胴体は細身で頼りないぐらいだった。  二人は額を突きつけ合うような距離で向かい合っていた。もし、万智が弥生の股間の発毛を認めたのなら、何らかの反応を示すはずだろう。しかし、万智は屈託のない無邪気な笑顔を浮かべていた。 (やっぱり、万智は、私が毛を切ったことに、気付いていないんだ。ここの脱衣所の明るい中で見えないなら、お風呂場の中では、確実に見えないはず)  と弥生は確信して、あらためて安心できた。 「中にお父さん、いるんだよね」 「いるよ」 「じゃあ、私、入るね。布団は敷いておいたから」  と弥生は万智に言い残して、お風呂場の扉を開いた。 24  風呂場に入ると、昨日と比べて、内部は明るく照らされていた。天井には新しくはめた電球が煌々と光っていて、眩しいぐらいだった。弥生は自分でも見ても、裸体が白く照らされているのが良く分かった。 (もし、切っていなければ、黒い陰毛は丸分かりだっただろうな……)  弥生は、今日、思い切って、ハサミで刈り取っておいて正解だったと思った。  お父さんは湯船の中で、後ろのもたれて、半分眠っているように目をつぶっていたが、入ってきた弥生をチラと見て、 「弥生も来たか」  とつぶやくように言った。  弥生は、今回は股間を見られても平気だという自信があったので、別に見せつけるというわけではないが、前回とは違って、変に隠したりせず、椅子をお父さんと向き合う形に置いて座った。まず弥生は髪の毛を洗った。そして、シャンプーを洗面器のお湯で流して、顔を上げると、おとうさんはこちらを見ていた。二人の目が会うと、お父さんは、 「体を洗ってあげよう」  と言った。しかし、弥生は、それは聞き違いかと思って、「えっ?」という顔をしていると、お父さんは湯船から上がってきて、弥生の前に座って、スポンジにセッケンをこすり付け始めた。 (やっぱり、『洗ってあげよう』っていったのか。でも、本当に?)  弥生は少したじろいでいると、お父さんは、 「よし、じゃあ、立ちなさい」  と促した。 「え、えっと……」 「体を洗ってあげるから、立ちなさい」  お父さんは有無を言わせないような口調で言ったので、弥生は 「うん……」  と戸惑いながらも、立ち上がった。早速、お父さんは弥生の体をスポンジで擦り始めた。  弥生は一方的に肩から胸の辺りをゴシゴシされながら、こんな扱いをしてもらっていいのだろうかと思った。体を洗ってもらうなど、小さい子供みたいでみっともないという思いと、お父さんにこんなこをさせて悪いという二つの思いが、弥生の心の中で入り混じった。  また、お父さんは座っていて、弥生はその前で立っているという状態なので、お父さんの顔の鼻先に、弥生の腰があるという位置関係になっていた。 (ううっ、私の股間をお父さんに直視されてる……?こんな近さで見られたらヤバいかも)  弥生は少し怯んで、思わず後ずさりたくなったが、お父さんメガネを外しているから、よく見えていないかも知れないと、祈るように思い返した。そんなことを考えているうちに、お父さんの持つスポンジは、弥生のお腹にまで下りてきた。弥生はくすぐったくてしょうがなかった。 「お父さん、私、自分で洗えるけど……」 「さっき、万智にもこうやって洗ってやったからね」 「そうなの……」  胸やらお腹をお父さんの力強い手付きでゴシゴシ擦られながら、弥生は考えた。  弥生からすれば、ここまで過保護な扱いはしてもらわなくてもよかったのだが、お父さんはお父さんなりに、娘の世話をしないといけないと責任を感じていて、それがこういう形で出たのかも知れなかった。そういう相手の親切は、無下に断らず、受け入れた方が適切だろうと思った。弥生はそれぐらいの配慮はできた。 (じゃあ、してもらうかな……)  弥生はそう決めて、お父さんにさるがままに身を任せた。 25  お父さんが手に持つスポンジは胸からお腹へ、さらにお腹から下腹部へと進んで行った。股間の前をスポンジで擦られながら、 (普段は手で洗うんだけど……)  と弥生は自分とは違うやり方に戸惑ったが、まあいいかと思って、ジッと我慢していた。  お父さんは弥生の太ももの付け根の辺りを洗い始めた。 「足を開いて」  弥生は無言で少し足を広げると、スポンジは股間の奥にまで差し込まれて、その辺りを前後にゴシゴシされた。 「痛くない?」 「うん、大丈夫」  弥生は個人的な場所を触られて、さすがに恥ずかしかったが、やめてとも言えず、唇をグッと結んで、それが終わるのを待った。 (お股を平気で触るってことは、お父さんって、本心では私のことを子ども扱いしてたんだな)  弥生は改めてのその点を驚きとともに思った。  ここまでされて、タジタジになりながらも、弥生が辛うじてジッと耐えられたのは、スポンジ越しに触られているだけであって、直に手で撫でられているわけではないからだった。もしも、何かのはずみで指先が股間に触れてしまうと、肉眼ではそうとは見えないが、陰毛を刈り取った跡のザラザラの肌に触れられて、その秘密に勘づかれてしまうかも知れず、弥生はそうならないよう願いながら、ヒヤヒヤしていた。 「後ろを向いて」  弥生はその場で立ったまま、体をクルリと回転させられた。  背後なので見えなかったが、お父さんは、弥生の右のお尻の丸みの表面をスポンジでグルグルと円を描くように洗い始めた。弥生はお風呂場の壁を見ながら、しらばくの間、そのくすぐったいような感触に耐えなければならなかった。 「ふふっ」  と弥生はつい噴き出してしまった。 「くすぐったい?」 「うん」  と弥生は言ったが、お父さんは手を緩めることなく、同じように左のお尻を擦り始めた。 (万智もこんなふうに、洗ってもらったのだろうか……。イヤじゃなかったのかな)  しかし、弥生がそんなことを考える間もなく、 「こっち向いて、座って」  次に、お父さんは、また弥生を前に向かせた。弥生は椅子に泡だらけのお尻をつけ、お父さんと向かい合って座る形になった。  お父さんは弥生の足首をつかんで、膝からスネ、さらに足先を洗った。ご丁寧に、足裏から、指の股まで洗ってくれた。 「よし、これでおしまいだ」 (ふう、ようやくか)  と思っている弥生に、お父さんは頭から立て続けに、洗面器で二杯三杯と、バシャバシャとお湯をかけて、セッケンを流した。 「じゃあ、入ろう」  お父さんは、顔を拭っている弥生の脇に両手を差し込んで、体を持ち上げた。弥生は両足を浮かされて、思わずお父さんに自ら抱きついた。 (私、なんか、さっきから、されるがままだな)  二人は一緒に湯船に入った。 26  湯船に入ってしまえば、もう股間の陰毛の切り跡がバレる心配はないので、弥生は肩までお湯につかって、「ふう」と息をついて一安心した。  弥生が手足を縮めていたのを、お父さんは、 「こうしなさい」  と言って、後ろから抱くようにして、弥生の体を自分の膝の上に乗せた。弥生の背中はお父さんの胸と密着した。  弥生は内心やや穏やかではなかったが、そのようなことをするのは昨日に引き続いて二回目ということもあって、前回ほどには狼狽しなかった。拒絶的な態度をとるわけにもいかないので、こちらからも身を委ねるように、後ろにもたれた。  水面下では、お父さんは両手を弥生の体の前に回して、胸やお腹の上に乗せていた。もっとも、それは、わざわざ触っているというよりは、そうする方が手の置き場所としてしっくりくるだけのようだった。  弥生はお父さんのその手がどう動くか、それ以上進んでお股を撫でられないか、ヒヤヒヤしながら注視していたが、へその辺りで止まったようだった。 (お股の毛さえバレなければ、変に萎縮している必要はないよ。もっと気丈にふるまったらいいんだ)  弥生は背中にピッタリとお父さんの胸の厚みを感じながら、改めてそれを意識した。 「ずいぶん、身をかたくしてるね。もっと、こうやって、もたれていいよ」  とお父さんも、弥生を後ろから、掻き抱くように引き寄せた。  弥生はお父さんに抱かれながら、ジッとしていたが、あんまり長く黙り込んでいると機嫌が悪いというように誤解され兼ねず、また、ちょっとお父さんの反応を試してみたいという好奇心もあって、 「ねえ、お父さん?」  と首を曲げて後ろへ話かけた。 「なんだい?」 「私って、太ってるかな?お腹のここら辺とか」  弥生はそう言いながら、お湯の中で、お父さんの手を自分のお腹の上に押しつけた。 「んー、どうかな」  お父さんは弥生のお腹を無遠慮につまみ始めた。弥生はくすぐったくてしょうがなかったが、自分から言い出したことなので、「うひっ」と肩を震わせながら、出来るだけ身動きしないように我慢した。  お父さんは本気なのかふざけているのか、かなり執拗に、弥生に脇腹の肉をグニグニと揉むように刺激した。そして、ようやく、 「そうだねぇ、お腹は太ってないと思うね。お腹はね」  と言った。それは何か引っかかる言い方だった。 「どういうこと?」 「お腹は太ってないけど、ここはどうかな」  お父さんの手は伸びて、弥生の太もも周りをグッと締め付けた。 「わっ」 「このブヨブヨしているのは、何かな?全部脂肪かな」  お父さんは右足の内ももの柔らかい所を鷲掴みにして言った。 「ち、違うよ。それは筋肉だよ」  弥生は、股間の前を手で触られそうになって、それを防ぐために、体をひねって、お父さんのあぐらの上で、横向きに正座するような体勢になった。お父さんも自分の懐に弥生を引き込んだので、弥生こめかみはお父さんの胸に接触した。 「じゃあ、ここは?これは脂肪だよね」  お父さんの大きな手は弥生の体の下部に滑りこんで、その右側の柔らかい部分をギュッと握った。 「あんっ、お父さん、お尻なんてつねったら、ダメだよぉ」  弥生は我にもなく大きな声を出してしまった。それと同時に、普段真面目なお父さんが、今日に限ってはこんな悪乗りをして、娘のお尻をつねるなどという大胆な悪ふざけをするのかと、意外の感に打たれた。  弥生は体をグネグネ動かして、その手から逃れようとしたが、湯船の中で足場も悪いし、お父さんの腕の中にガッシリと抑えられていては、なぶられるがままだった。 「いやぁん、お父さんのエッチ」  などと弥生は口走った。  しかし、お尻をモミモミされる刺激が絶妙のくすぐったさで、つい不覚にも声に出して笑ってしまった。  お父さんはその反応を見て、弥生の本心を見透かして、 「ほら、大人しくしするんだよ」  と言って、さらに手の動きを激しくした。本格的にお尻のマッサージが始まった。 「ふわわ……」  そのうち弥生は、お尻を揉まれているのが気持ちよくなってきて、手足の力が麻痺したように抜けた。ただ手先だけは無意識的に、湯船の縁にガッシリつかんでいた。 「気持ちいい?」  お父さんは弥生の顔をのぞき込んで訊いた。 「……」  弥生は無言でコクリとうなずいた。 (前を触られると、発毛しているのがバレてしまうが、お尻なら、いくら触られても別に差支えないよ)  弥生は、お父さんの胸に顔を埋めて、そんなことを考えながら、お尻を弄ばれるがままに任せた。 27  湯船の中で興奮しすぎたためか、弥生の体はすぐにのぼせた。 「お父さん、私、ちょっと、体が熱くなっちゃったよ」 「じゃあ、一旦出て体を冷やしなさい」 「うん。よいしょっと」  弥生は気怠るそうに立ち上がった。ちょっとよろめくと、すかさずお父さんは支えてくれた。 「よし、お父さんが持ち上げてやろう」  といって、お父さんは弥生の脇の下を支えて、その体を持ち上げた。 「わっ」  弥生を抱えながら、お父さんも湯船の中で立ち上がった。弥生の体は宙に浮いて、湯船から運び出されて、縁の外に下ろされた。その時、真正面から間近の距離で、水面から出た弥生の股間はお父さんの目に晒された。 (股間の毛を刈り取っておいてよかった)  弥生はお風呂場の床に立ちながら、改めて思った。  その後、弥生は脱衣所で体を拭きながらも、その感慨は胸の中に残っていた。  お父さんと一緒にお風呂に入るということについて、最初のとまどいは、今夜を含めてたった二回一緒に入っただけで、そのわだかまりは氷解した。やはり親子なだけであって、お互いに裸を見せること自体は、もう何とも思わなくなかった。ただし、それには無毛の状態ならば、という条件がついた。 (お股の毛さえ切り取っておけば、気楽にお風呂に入れるのは確かだけど、でも、これから毎日、ずっとそんな下らないことを気にしなきゃいけないのか。面倒だな……)  弥生は鏡の中の自分の裸体をながめながら、少し複雑な気分だった。 四章 剃刀の無断使用(28ー34) 28  弥生は、今までそんなことを気にしたことはなかったが、陰毛の生える速さというのは、自分でも驚くほどだった。三日もハサミで切り取るのをさぼってしまうと、一目見て明らかにそれと分かるほどに伸びていた。  ある夜、お風呂に入るため、何気なく脱衣所でパンツを脱ぐと、股間には黒い切り株がボツボツと生えていたので、弥生はギョッと驚いた。 (こんな状態ではお父さんにも弥生にも裸をせられない)  とっさにそう思って、弥生は慌てて和室に駆け戻って、ハサミでチョキンチョキンとその生えかけの陰毛を刈り取った。急いでいたので、その辺りに飛び散らせた切れ端を掃除もせず、再びお風呂に戻った。  すでに先に入っていたお父さんと万智には、「ちょっと、おしっこに行ってた」と言い繕って、何食わぬ顔をしていたが、内心では、(ちゃんと毎日処理しないとダメだな)と冷や汗をかく思いだった。  そんな日々が続いた時、弥生はT字剃刀を発見した。それは全くの偶然だった。脱衣所の棚のちょっと高い場所に置いてあったので、今までその存在に気付かなかった。弥生は腕を伸ばして、それを手に取った。 (これは剃刀か。T字剃刀ってやつだな。お父さんがヒゲ剃りに使ってるやつだな)  時々、朝方、お父さんは頬やあごに白のクリームを塗って、片方を膨らませてゾリゾリ髭を剃っていたが、そういえば別荘に来てからは、その光景を見ていなかった。お父さんはここしらばく出社していないから、ズボラしているのだろう。  矢追はT字剃刀の先端にはめ込んである三枚刃を眺めているうちに、一つの考えが頭に浮かんだ。 (この剃刀を自分の陰毛を剃るのに使えないだろうか……)  その刃はハサミと違って、紙のように薄く、見るからに切れ味が良さそうだった。ただ、それ故に、スパリと肌を切り裂きそうで、体に接触させるのが恐ろしくも感じた。 (……ちょっとだけ、試してみようか)  弥生は慎重に剃刀を前腕部に当てた。その前に唾をペッとはいて、皮膚を濡らした。剃刀を使うのは初めてだが、そういう工夫をした方が上手く剃れるだろうぐらいの知恵はあった。  剃刀をそっと肌に当てて、恐る恐る引いた。すると、ゾリゾリという小さい音をたてて、ほとんど抵抗もなく産毛がきれいに剃り落とされた。その跡には無毛のツルツルの肌が残された。 (おお、これ、すごい。簡単に毛が剃れる)  弥生はその切れ味の良さに感動を覚えた。お股の毛も同じように剃れるかもと、弥生は意気込んだ。ハサミを使って刈り取る場合だと、たまに肉を挟んでしまって、幸い皮膚は切れなかったが、ギャッと叫んだこともあったので、もっといいやり方はないかと思っていた所だったのだ。 29  弥生はT字剃刀を見つめながら、脱衣所で一人、思い悩んでいた。実際に実行するとなると、やはり少しばかり躊躇した。下手に扱って、お股の大切な所を切ってしまわないかという心配ももちろんあったが、それとは別に、他人の物を無断で使うということに後ろめたさをを感じた。また、お父さんが顔に当てるものを、自分のお股になど当てていいのかという良心の呵責もあった。 (でも、あらかじめ了承を得るってわけにいかないもんな……。もしバレたら、お父さん怒るだろうな……)  そう考えると、弥生はやめておこうかなと弱気な気持ちにもなった。しかし、物は試しだ、一回試してみようと、気を取り直した。  脱衣所では、いつ誰が来るか分からないので、狭いが、お手洗いの中ですることにした。  陰毛を剃るには濡らした方がいい。お父さんのヒゲ剃り用のクリームを使うのが理想なのだろうが、それはどこにあるのか分からないので、今回はとりあえずセッケン水でいいだろうと思った。それでも唾よりも大分ましのはずだった。弥生はコップに水を少し入れて、その中にセッケンをポチャンと沈めた。  弥生はそのコップとT字剃刀を持って、脱衣所の扉を開いた。廊下には誰もいないことを確認すると、すぐ隣のお手洗いに入って、素早く扉を閉めた。 (よし、誰にも見られなかった。サッサと剃ってしまおう)  弥生は便器に腰かけて、コップとT字剃刀をタイルの床にコトリと置くと、スカートをめくってパンツをペロンとずらした。そのように間近の距離で見ると、数ミリの生えかけも陰毛がひどく目立って映った。  まずは指でセッケン水をお股にペトペトと塗って、その辺り一面を湿らせた。 (これぐらい濡らせばいいか。よし)  弥生は右手にT字剃刀を持って、その先端をそっと股間に近付けた。  万一皮膚を切ってしまったら、お風呂で見られて、どうしたのかと訊かれるだろうから、絶対にケガをするわけにはいかない。 (焦るなよ。慎重に、慎重にだぞ)  弥生は自分に言い聞かせて、恐る恐る剃刀を肌に当てた。金属の刃がヒヤリとした。  皮膚の上のゆっくり這わせようとしたが、さっきの前腕の産毛とは違って、陰毛には少し抵抗があって、引っかかった。  ほんの少し力を込めると、剃刀は、突然、ザッと動いた。 「ひっ」  弥生は思わず声を上げた。慌てて剃刀をどけて見ると、幸い皮膚は無傷で、そこだけ剃刀の幅で陰毛が綺麗に剃られていた。 (お、うまく行ったぞ)  弥生はすぐに要領をつかんだ。微妙な力加減で、ゾリゾリと陰毛を剃りながら、股間の丘にそって、サラサラと剃刀を動かした。 30  ハサミを使う場合だと、一本一本切らなければならなず、非常な手間だが、剃刀の場合は、さっと引くだけで幅広い面で処理できて、効率が良かった。  弥生は一度で要領をつかんで、上から下へ、あるいは右から左へ、器用な手付きで剃刀を動かした。陰毛は面白いように落ちて、無毛の肌が広がって行った。 (こうしたほうがやりやすいな)  弥生は膝の所に下ろしていたパンツを足から引き抜いた。さらにスカートの裾を口にくわえて、股をガバリと開いて、背中を丸めてうつむいた。その姿は到底、人に見せられるものではなかったが、そこはお手洗いの密室の中なので、弥生は一心不乱に剃る作業に没頭した。  股間の丘のプニプニした縦筋を片手だけで器用に左右に開いて、剃刀をその谷間に這わせて、奥まった場所に生えている産毛も全て一掃した。 (よし、こんなもんかな。やってみたら、意外に簡単だったな)  弥生はうれしくなって、はしゃぎたい気分だった。  細かい毛とセッケン水に塗れた股間をトイレットペーパーできれいに拭うと、そこの肌は陶器のようで、指の腹で撫でると滑らかにキュッキュッと鳴って、毛根の存在は全く分からなかった。まるで生えていない頃に若返ったようで、弥生はこの結果に大いに満足した。 (これなら、もし触られても陰毛が生えていたとは勘づかれないはず。剃刀なんて便利なものがあるなら、もっと早く使えばよかった)  弥生はそう思いながら、自分のツルツルになったお股が我ながら物珍しく、しばらく指先で撫で続けていた。  股間の処理は済んだので、後は、剃刀をきれいに洗って、元の場所に返さなければならなかった。  弥生はお手洗いを出て、洗面所に行って、剃刀を蛇口の水流ですすいだ。刃先に陰毛の切れ端が残っていないことをようく確認してから、脱衣所の棚に戻した。しかし、元に置いてあった正確な場所を忘れてしまって、 (えっと、ここに置いてあったっけ?まあ、多分ここか……)  と少し不安になったが、やむえず、それらしい場所に置いた。  これでお股の毛を剃るのは何事もなく無事に終わったはずだった。ただ、弥生の気持ちはスッキリしない所があった。 (お父さん。お父さんの剃刀を、私のお股の毛を剃るためになんかに勝手に使って、ごめんなさい)  と心の中で一回謝ってから、その場を立ち去った。 31  お股がツルツルになると、お父さんと一緒にお風呂に入って、湯船の中でだっこしてもらった時も、(両足の間を触られないか)などという余計な心配をしなくて済んだので、のんびり気楽に湯船につかることができた。弥生がお父さんのあぐらの上で座り直す時など、ちょっとした拍子に、お父さんの指先がその辺りを触れることもあったが、お父さんは無反応だったので、剃ったことには気付かなかったのだろう。  一週間もたたずに、弥生にとって、剃るという行為は日常の習慣になった。最初こそ、オドオドしながら剃刀を動かしていたが、二回三回と回数を重ねる度に、慣れていって、その手付きも素早く、そして大胆に行うようになった。  お父さんと万智が散歩などで外出している時などは、ゆっくり時間をかけて剃れたのだが、そういう都合のいい状況は滅多になく、多くの場合では、居間で二人がくつろいでいるわずかな機会を見つけては、弥生は一人そっと脱衣所に忍び込んで、急いで短時間で剃らざるを得なかった。  戸棚から剃刀を取って、スカートをめくって、その裾を腰に突っ込んで、パンツを下ろして、立ったまま腰を突き出して、セッケン水をお股にチョンとつけて、ササっと手早く剃った。下半身は裸で、ガニ股になって、お股に剃刀を当てるなどという姿は、自分でも滑稽に思ったが、 (誰も見てないんだし)  と気を取り直して、弥生はその格好のまま、きれいに剃った丘を指で撫でて、 (よし、ツルツルになった。これはもはや熟練の技術だな)  と我ながら、自分の器用さに感心した。  また、そのような技能的な点は別にして、疚しい気持ちも薄れてしまった。  初めの頃は、剃刀を無断借用することに抵抗感を覚えたのだが、何度も無断で使っているうちに、感覚が麻痺して、それぐらいのことは大して悪いことだとは感じなくなった。 (ちょっと借りて、減るもんじゃないし。家族だから、道具を共有したっていいよね)  と弥生は自分に都合のいいように理屈づけた。  ただ、そうはいっても、弥生がお風呂場で湯船に使っている時、お父さんがその剃刀を使ってヒゲを剃っているのを見るのは、ちょっと複雑な気分だった。 (お父さん、何も知らずに、その剃刀を顔に当てている……。それは私のお股の毛を剃った剃刀なのに……)  そういう時は、弥生はさすがにお父さんに悪い気がした。悪い気はしたが、本当のことを言うわけにもいかず、弥生は湯船のお湯に顔を鼻まで沈めて、心の中で「お父さん、ごめん」とつぶやくしかなかった。  しかし、逆に言えば、気になることと言えばその程度の話であって、弥生は別荘暮らしの生活はこんな調子で何事もなく続くのだろうと考えて、そこに何の疑いも持っていなかった。 32  いつ剃るかは明確に決めているわけではなかったが、陰毛はすぐに伸びてしまうので、二日か三日に一回は剃っていた。 (そろそろ、今日あたり剃っておいた方がいいな)  弥生はそう思って、居間から脱衣所に向かった。しかし、廊下を歩いていると、脱衣所のドアの向こうから物音が聞こえた。 (あれ、中にお父さんがいるのか)  弥生はドア越しに中の様子をうかがいながら、 (お父さんは今、こんな所で何をしてるんだろう)  とちょっと不思議に思いつつ、 (しょうがない、剃るのはまた後にしよう)  と、引き返そうとして、クルリと向きを変えた。すると、その背中へ、 「そこにいるのは弥生かい?」  とドアの向こうから、お父さんに声をかけられた。  弥生は立ち止まった。なぜか嫌な予感がした。ふと、聞こえなかった振りをして、そのまま立ち去ってしまおうかと迷ったが、それも不自然かと思い直して、 「うん、そうだよ」  と答えて、脱衣所のドアを開けて、足を踏み入れた。寒いわけでもないのに、なぜか弥生の膝は震えた。  お父さんは鏡の前で、T字剃刀を手に持っていた。それを見た瞬間、弥生の緊張感はさらに高まった。見つかったのかと思って、冷や汗が出た。 (いや、でも、まだバレたと確定したわけではない。単に昼間からヒゲを剃っているだけなのかも知れない)  弥生は祈るような気持ちで、その可能性にすがった。何食わぬ顔をしていたが、どうしても表情は硬くこわばった。 「弥生、これを使った?」  とお父さんはその剃刀を示した。  いきなり単刀直入に問いただされて、弥生は目の前が真っ暗になった気がした。 (ああ、やはり、そうだったのか……。えーと、えーと、なんて答えたらいいんだろう……)  剃刀の無断使用が見つかった時の言い訳をまだ考えていなかった。そのことを今になって後悔した。  弥生は口ごもって、何も言わずに突っ立ていたが、お父さんは、 「これだよ。この剃刀。使ったよね?」  とさらに追い打ちをかけてきた。お父さんはそんな大きな声を出すのは滅多にないことだった。 (うう、お父さん、怒ってるみたい……。どうしよう……)  弥生はさらに焦って、シドロモドロになった。 (なんで、勘づかれたのだろう?剃刀を戻す場所を間違えたんだろうか。それとも、剃刀に水滴とかセッケンが残っていたんだろうか。まさか、剃った陰毛が刃の隙間に残っていたなんてことはないよね?)  弥生はバレた原因が非常に気になったが、今はそんなことを考えてもしょうがなく、この場は、怒っているかもしれないお父さんにどう対処すべきかの方がより重要な問題だった。 (えーと、えーと)  弥生は何と言い繕うかと、必死に頭をしぼった。  その時、心の中のつっかえがポキンと折れてしまったようだった。弥生は急に悲しい気持ちが湧いてきて、 「うっ」  と嗚咽が込み上げてきた。弥生は、 (こんなことで泣いてはいけない)  と自分を叱ったが、困ったことに、涙が後から後からあふれ落ちた。  もし可能なら、「そんなの知らない」と言い張って、シラを切り通そうかとも企んでいたのに、ちょっとばかりお父さんに大声で迫られたぐらいで泣いてしまっては、「その剃刀を使いました」と自白したに等しい。 (ああ、もう、私って、全然ダメだ)  弥生は自嘲した。 33  いきなり弥生が泣き出したのを見て、お父さんの方がたじろいだ。 「や、弥生?別に、お父さんは、怒ってるわけじゃないんだよ」 「うう、だって……」  弥生はそれぐらいを答えるのがやっとで、後はウッウッと嗚咽をもらし続けた。一旦泣くと、余計に悲しさが増してきて、色々な思いが想起された。  普段やさしいお父さんに大きな声で責められたことだけでなく、そこから思いはさらに飛躍して、住み慣れた元の家を出て山奥の別荘暮らしをしていること、お母さんがいなくて寂しいこと、家事の手伝いや妹の世話をしなければいけないことなど、今の自分の大変な状況を再認識して、さらに悲しくなった。 (うう、私、もう小六なのに、お父さんの前で泣いちゃった)  弥生は泣き顔を袖で覆った。我ながら情けないと思ったが、一旦泣きだしたら、嗚咽はどうしようも止まらず、ノドがヒクヒクと鳴った。  もっとも、万智に泣いている所を見られたくはないので、泣き声が居間にまでは聞こえないように、なるべく声を抑えるというぐらいの配慮はした。 また、(泣いたら、お父さんはそうきつくは怒らないだろうな)という邪な期待が全くないとは言えなかった。  案に反せず、お父さんは声の調子を一段落として、 「いいかい、弥生」  と諭すように言い始めた。 「うん」  弥生は袖で顔を覆いながら、大きくコクンとうなずく素振りをした。 「剃刀は危ないからね。いい加減に使ったらケガをするよ」 「分かってる」 「使いたければ、お父さんに言いなさい。使い方は教えてあげるから」 「これからは、そうする」  弥生は、内心では、(私、もう、剃刀の使い方は、習得してしまったんだけどね)と思ったが、それは顔には出さなかかった。 「お父さんは、怒っているわけじゃないんだよ。もう一度言うけど、弥生にケガをしてほしくないから、こうやってきつく言ってるんだよ。お父さんの言いたいことは、分かるね。もう、弥生は大きんだから」 「うん」  弥生は袖から顔を上げて、上目遣いをしてお父さんの顔を見つめた。涙のためボンヤリとした視界だったが、お父さんは怒っている様子ではなかったので、 (まあ、大丈夫だろう)  と、とりあえず安堵できた。 34 「涙を拭きなさい」  お父さんに言われて、弥生は袖で顔を脱ぐって、ティッシュを取って鼻をかんだ。 「ふう」  深呼吸すると、気持ちはスッと落ち着いたが、まだ目は充血していた。 「気分転換にちょっと外を歩こうか」  お父さんは廊下に出たので、弥生もその後に続いた。  玄関で靴を穿いていると、万智がその物音を聞きつけて、 「どこか行くの?」  と居間から顔を出して訊いた。 「ちょっと、お散歩だよ。万智も来る?」  とお父さんは訊いた。弥生は泣きはらした顔を見られたくなかったので、玄関で靴を穿きながら、あえて振り返らなかった。  幸い、万智は、 「うーんと……。いや、私はいいよ。私は家にいてる」  と言って、ついて来なかった。  お父さんと弥生は家の周囲をグルリと一回りした。外の空気を吸って、少し歩くと、弥生の気持ちは落ち着いた。 「弥生、落ち着いた?」 「うん」  お父さんは弥生の顔をのぞき込んで、その涙で濡れた目元を指でそっと拭うと、 「じゃあ、家に戻ろうか」  と言って、再び家路についた。  弥生は、そのお父さんの背中を見ながら、歩いていると、突然、一つの疑問が胸に思い浮かんできた。 (待てよ……。剃刀を使ったことはバレたけど、お股の陰毛を剃ったということはバレたんだっけ?)  弥生は頭の中で、さっきの脱衣所での会話を再現した。できるだけ細部まで思い出そうとした。  確かに、お父さんに「剃刀を使ったか」と訊かれて、弥生は「使った」とは言った。しかし、剃刀をどこにどう使ったかは訊かれていないはずだった。「股間を剃ったか」とか「陰毛を剃ったか」などは訊かれもしなかったし、答えもしなかったはずだった。その点を今になって気付いた弥生は、 (私、もしかして、すごい勘違いしてたのじゃないだろうか……)  お父さんが怒っていたのは、軽忽に剃刀をもてあそんだことに対してであって、まさか陰毛の処理に剃刀を使っていたとは気付いていなかったのかも知れない。 (えっ、じゃあ、泣くほどのことじゃなかったかも……)  弥生は後悔した。自分で勝手にバレたと思い込んで、恥ずかしくて泣いてしまった自分がバカみたい思えた。弥生は顔が赤くなって、背中にビッショリと汗が噴き出た。  しかし、その直後に、 (いや、やっぱり、それも違うかも知れない)  と再度、考え直した。お父さんは何もかも承知の上で、しかし、あえて陰毛云々のことは口に出さなかっただけなのかも知れなかった。 (その可能性も十分にあるな。うーむ、どちらなんだろう……)  弥生は前を歩くお父さんの背中を見ながら、そのような疑問が胸に渦巻いた。


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