『宮田家の別荘暮らしの春秋』(1)
Added 2024-05-26 12:44:23 +0000 UTC◆題名と著者 『宮田家の別荘暮らしの春秋』 江戸山乱理 ◆あらすじ お母さんの転地療法にともなって、お父さんと姉妹は山奥の別荘に引っ越した。そこは都会生活とは違っていて、お風呂も古風な五右衛門風呂であった。妹の万智は無邪気に喜んだ。しかし、姉の弥生はある一つの懸念を抱いていた。弥生の股間にはすで産毛が生えていた。そのため、お父さんと一緒にお風呂に入るので、どうしようかと悩んだ。そんな時、偶然、剃刀を発見して、おそるおそる使ってみた。しかし、そんな行為はすぐに露見してしまった。父と娘の親子関係は、別荘での生活を経て、親密な形で深まった。 ◆登場人物 弥生……姉 万智……妹 お父さん ◆目次 一章 山奥の別荘へ(1ー8) 二章 五右衛門風呂の中の父娘(9ー19) 三章 二回目のお風呂で(20ー27) 四章 剃刀の無断使用(28ー34) 五章 お父さんによる剃毛(35ー41) 六章 書斎でのお手伝い(42ー48) 七章 おしっこの見せ合い(49ー53) 八章 おもらしのお仕置き(54ー62) 九章 条件反射の悪癖(63ー68) 十章 夕暮れのテラスでの遊戯(69ー75) 十一章 お転婆な弥生(76ー81) 十二章 ビールの酔いの醜態(82ー88) 十三章 布団の中の抱擁(89ー94) 十四章 お父さんの胸の中で(95ー99) 十五章 掛け替えのない一夜(100ー108) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 『宮田家の別荘暮らしの春秋』 江戸山乱理 一章 山奥の別荘へ(1ー8) 1 その当時、肺病はまだ治療の困難な病気だった。一旦その症状が出てしまえば、医者ができることは限られていて、精々、栄養を摂って安静にするといった処置がなされる程度だった。ただ、経済的に余裕があれば、転地療法といって、空気のきれいな場所にある療法所に数ヶ月程度滞在して、健康の回復を扶助するという方法もあった。 弥生の一家がお母さんのために選んだ選択肢はそれだった。 お母さんに自覚症状が表れたのは数年前で、それ以来、重症化こそしなかったものの、病状はずっと一進一退を繰り返していた。そして、今年、お父さんは思い切って、転地療法に踏み切った。ちょうど彼の職場でも仕事の段取りをうまくつけられたし、また、長女の弥生もある程度大きくなって、妹の万智の面倒を十分見てやれるということもあった。 小六の弥生にとって、小学校の最後の学年で転校するのは中途半端のようだったが、中学の途中で転校するよりは、まだ負担が少ないだろうというのが両親の判断だった。 お父さんの目論見では、希望も込めて、田舎で半年もゆっくりすれば、お母さんの病状は改善するだろうから、そう長居せずに、元の都会の家に皆で戻ってこれるだろうと期待していた。 2 半年もすれば戻って来れるだろうという前提での計画だったので、元の家は売ったりはせず、空き家にしたままで、引っ越しというよりも、しばらくの間、別荘暮らしに行くという気分だった。都会から地方へ落ちぶれるという気分はなく、むしろ、旅行気分だった。 ただ、その別荘に行くまでがなかなか大変だった。 元の家から二時間以上も電車に揺られて、ようやくあるローカル線の最寄り駅に着いた。そこで下車すると、すでに目の前は田園風景で、田んぼが一面に広がっていた。さらに駅前のバス停からバスで三十分も山の中のグネグネ道を走り、弥生は乗り物酔いをしそうになった頃、ようやくバス停で降りることができた。別荘までは、ここから徒歩でニ十分も要するという。 (すごく遠くまで来たなぁ) 都会っ子の弥生は舗装されていない土の道を歩きながら、額の汗を拭って、別世界に来たような思いだった。 これが家族旅行だとすれば、心は弾んで楽しいはずだが、今はお母さんがおらず、三人だけだというは、寂しい限りだった。すでにお母さんは数日前から療養所に入院済みだった。 「ねえ、お父さん、まだ別荘には着かないの?」 万智はすぐに歩き疲れて、自分のリュックはお父さんに持ってもらい手ぶらだったが、さっきから同じ質問ばかりしていた。 「もうすぐだよ」 とお父さんも何度も同じように優しい口調で言った。 「もうすぐって、何分?」 「後、十分ぐらいかな」 「まだ歩くのか……」 万智はうんざりした様子だった。弥生も本音は疲れてヘトヘトだったが、ここは自分がお姉ちゃんらしい所を見せてやらなくては、と思った。 「万智、あんまりグズグズ言わないのよ。お姉ちゃんが手を引っぱってあげるから。ほら」 「うん」 万智は素直に、弥生の差し出した手を握った。 「ねえ、万智、しばらくお母さんがいない生活をしなきゃいけないんだから、自分のことは自分でできるようにならないとダメだよ。分かってる?」 「分かってるよ」 「じゃあ、いいけど」 「ねえ、お姉ちゃん」 「何?」 「もう疲れたから、おんぶして」 (おんぶって……。ほんとわがままな奴だな) 弥生は万智のあまりの甘ったれた態度に正直呆れたが、ここでお説教などしたら、万智はすねてしまうかもしれない。まだ別荘に着く前から姉妹でケンカしてギスギスした雰囲気になるは避けた方がいいというぐらいの分別はついた。 「もう、しょうがない子だね。はい、いいよ」 と弥生は苦笑しながら言って、自分のリュックは胸の前に回して、しゃがんで背中に弥生をおぶった。 「わぁい、こうしてもらったら、すごい楽ちん。自分で歩かなくていいもの」 「私はすごい大変だよ……」 万智は小二で小柄とはいえ、その体重は弥生の背中にズッシリ来た。ヨタヨタと危なっかしい足取りで歩く弥生を見て、お父さんは、 「弥生。万智をおんぶするなら、お父さんがしてやるよ」 と言ってくれた。 「ううん、いいの、私、大丈夫だから」 「本当に?じゃあ、リュックだけでもお父さんに貸しなさい」 弥生は万智を背負って、お父さんは三人分のリュックを抱えて、彼らは別荘へ続く道を行った。 3 「おっ、見えてきたぞ。あれだ」 お父さんは二人の娘を振り返った。 「どれ?」 弥生は万智をおんぶしながら、背を伸ばした。木立の間からは、茶色の三角屋根が見えた。 (これが別荘か……) 弥生は思わず早足で駆け寄った。 別荘というと高級なイメージがあったが、実物を見ると、それははっきり言って、山小屋のような建物だった。良く言えばペンションとでも呼べるだろうか。外壁などは、木目がそのままの板が使用されていて、近くで見れば経年変化が目に付いた。 「えっ、こんな所なの?」 万智も露骨に驚きの声を上げた。 別荘の入り口の前で困惑気味に佇んでいる二人だったが、お父さんは彼女らを励ますように、 「ほら、入るよ」 と言って、段差を上がって、玄関の扉の鍵を開けた。扉は意外にもスムーズに開いた。 弥生と万智も、恐る恐るその後に続いた。家の中へ一歩足を踏み入れると、床はギシギシときしんだ。床にはほこりがたまっていて、歩いた足跡がついた。 「お父さん。なんか、ここ、カビ臭い」 「ここ何ヶ月かは無人で、閉め切っていたからだろうね」 「誰も掃除とかしてくれないの?」 「いいかい、弥生。ここにはね、旅館にお客さんとして来たわけじゃないんだよ。家事は全部、自分でしなきゃ。お母さんもいないんだし」 「そ、そうだったね……」 「ようし、じゃあ、まずは掃除だ」 「はーい」 4 とりあえず、家の中をきれにしようということになった。家具や寝具の他にも、ある程度の日用品も備え付けられていたので、雑巾やホウキを探してきて、三人で手分けして、掃除から始めた。 ただ、弥生と万智は、新しい棲み家に興奮して、掃除そっちのけで、あちこちをウロウロと探検し始めた。 別荘とはいっても、一回り広いという程度で、一般的な二階建ての住宅とそれほどの違いはなかった。一階は台所と居間と三つの和室があって、階段を上がると、二階にも三つの部屋があった。二階はあまり使われていないようで、なんとなく薄暗く不気味な雰囲気だった。 まだ家の中に物が少ないので、全体的にガランとして印象だった。すぐに必要な物以外の重い荷物は、明日辺りに、運送業者がトラックでここまで運んでくれる手はずだった。 「結構広い家だね。部屋がたくさんある」 万智は物珍しそうにキョロキョロしながら言った。 「一階だけでも、和室が三つもあったね」 「ひとり一部屋もらえるかな」 「どうかな。後で、お父さんに聞いてみよう」 気の早いようだが、姉妹でどの部屋が一番いいかを早速議論し始めた。 その時、向こうから、 「おーい。弥生、万智、こっちに来なさい」 というお父さんの声がした。 「お父さんが呼んでる」 二人はそちらへ向かった。 5 弥生たちが部屋から出ると、お父さんは廊下の奥に立っていた。 「なんか用?」 「家の探検は済んだかい。この中はもう見た?」 「ううん、そこはまだ。その部屋は何だっけ」 「自分で見てみなさい」 二人はそのくもりガラスの扉を開いて、内部をのぞいた。そこはタイル張りの小部屋で、弥生は一瞬倉庫か何かかと思ったが、その一角に、丸い大穴の開いた構造物が据えつけられてあった。それが風呂の湯船であると気付くまでにしばらく時間がかかった。 「ここって、お風呂?」 弥生は驚いて、お父さんに訊いた。 「そう。五右衛門風呂ってやつだね。家の外に出て、下の焚口から薪を燃やして、お湯を沸かすんだよ」 「へえー、これが五右衛門風呂かー」 弥生はテレビなどでそれを見たことはあったが、実物を見るのは初めてだった。木蓋を持ち上げて、黒い鉄の釜の内部をのぞくと、その丸い底までは案外な深さがあった。 万智は面白がって、さっそく片足を上げて、風呂釜の中に入ろうとしたので、弥生も負けじと一緒になって、身を乗り出した。しかし、お父さんに、 「こらこら、お前たち、釜の中はまだ掃除していないんだから、まだ入っちゃダメだ。靴下が汚れるぞ」 と言って止められた。 「そ、そうか。じゃあ、私たち、お風呂場も掃除しておくよ」 万智はともかく、弥生も釣られて、つい子供っぽい軽率な行為をしてしまったことを照れた。 「じゃあ、ここは頼むよ。お父さんは、暗くなる前に、薪の準備をしておかないとな」 「薪かぁ。お風呂一つ沸かすのも、大変だね」 「まあ、すぐに慣れるよ。たまにはこういう体験もいいだろ?」 お父さんは、ご苦労さんだね、というように、弥生の頭を撫でながら言った。 6 掃除も一段落したので、ちょっと早いが、休憩のついでに夕食にした。元の家から持ってきたお弁当を適当に温め直して食べた。持参の食料は明日の朝の分まではあって、それ以降は、ここで調達することになる。 別荘から本道に出て、少し行けば集落に通じていて、そこには雑貨屋さんなどもあって、食料品や日用品などはだいたいそこで手に入るという。ただし、少しといっても、片道で自転車で二十分、徒歩で一時間弱もかかるというので、都会生活の感覚からは大きな違いだった。 (明日からは、お買い物も料理も自分たちだけでしなきゃ。私、頑張らなきゃ) 弥生は改めて思った。もちろん、お父さんが中心になってするので、弥生はその手伝いをするという形であるが。 お父さんは、すでに会社と相談して、大半は在宅で仕事をして、週に一、二度出社すれば済むように配慮をしてもらっていた。図面に向かって設計書を作るという業務だったので、ある程度は自宅でするのが可能だった。 7 食後、まだ陽が残っていたので、三人は外へ出た。広い庭があるというのは、元の家よりも別荘が優れている点の一つだった。空き家らしい隣家までは五十メートルもあって、弥生と万智は、我が物顔にそこら辺を走り回って、追いかけっこした。 お父さんはテラスの椅子に腰をかけて、タバコを吸っていたが、 「夕焼けがきれいだね。こっちに来て、見てみなさい」 と言った。弥生と万智もテラスに上がった。山の端に沈む夕日をじっくり眺めるなど、都会暮らしをしている二人には滅多にないことだった。 陽が沈むと、都会と違って、この近辺には家々の明かりや街灯が皆無なので、辺りはすぐに怖いぐらいに暗くなった。傍に座っているお互いの顔かたちさえ見分けがつかないぐらいで、自然と二人の子供はお父さんに寄り添う形になった。弥生の目には、お父さんの吸うタバコの火と煙が鮮やかに見えた。 (何か、もの寂しいな……) 弥生はこの新しい環境にまだ慣れておらず、この暗く広い空間に、自分たち三人だけしかいないと思うと、震えるような心細さを覚えた。 「ここにもお母さんがいればいいのに」 と弥生はもう少しで、そんな愚痴を口に出して言いそうになった。弥生はお父さんにもっと寄りかかって、すがりつきたい気分になったが、横に妹の万智がいるので、今そうするのは我慢した。 「そろそろ家に入ろうか」 とお父さんはタバコをもみ消して言った。 「うん、そうだね」 と弥生は言った。 「おっと、その前に、忘れちゃいけない。火を付けておかなきゃ」 「火って?」 「例の五右衛門風呂だよ」 「ああ、そうだったね」 彼らは家の裏に回った。お風呂場の裏側にあたる場所は土間になっていて、その壁の足元には、屋内からの照明で、焚口の金属の蓋がボンヤリと照らされていた。その傍には薪が積み上げてあった。昼間お父さんが倉庫から運んできたものだった。 お父さんは、焚口の蓋を開けた。内部にはすでに薪が詰められていて、そこへ火のついた新聞紙を放り込んだ。弥生は、お風呂を沸かすのに、薪の量はどれくらい必要なのか、見当もつかなかった。 「この薪が一回分ってこと?」 「いや、こんなにも要らないと思うけどね。でも、分量は良く分からないから、湯加減を見ながら、調整しないとね」 さすがのお父さんも、五右衛門風呂を沸かした経験などはないので、これから試行錯誤が必要のようだった。焚口の内部で薪がパチパチと盛んに燃え出したのを確認して、三人は家の中へ戻った。 8 お風呂が沸くまで、少なくても三十分はかかるので、彼らは食卓でお茶をすすりながら待った。お菓子を食べ終わった万智は、今日一日の移動と掃除で疲れ切って、すでにうつらうつらと居眠りを始めた。 弥生は近所の地図やバスの時刻表を眺めて、今後の生活のことで頭がいっぱいだった。ここでは買い物に行くにも、お母さんの療養所へのお見舞いも、新しい学校へ通うのも、バスが主な交通手段になるはずだったので、数少ないバスの本数を把握しておくことは必須だった。 弥生は顔を上げて、窓から外を見ると真っ暗闇だった。日が暮れると、もう行く場所はなくて、家にいるしかない。こういう環境の場所で、数ヶ月間は住むのだと思うと、ちょっと不安になってきた。 一方の万智はあどけない顔で寝息を立てていた。幼い妹の万智は、何事も変に難しくは心配はしないので、逆に平気なのかも知れなかった。 (なんでうちのお母さんが病気になんて、なっちゃったんだろう。他の友達のお母さんは元気なのに……) 弥生は、新しい家での初めての夜ということもあいまって、少し悲しい気持ちになってしまった。 お父さんは、弥生のふさぎこんだ表情を見て、 「肺病っていうのはね、美人がかかる病気なんだよ。お母さんが美人過ぎるっていうのも、考えものだね」 などと、年頃の娘にはあまりふさわしくないことを真顔で言った。 「ふーん、そうなの……」 「美人は美人なりに、いろいろ大変だからね。弥生も万智も将来、気をつけたほうがいいぞ」 「……」 弥生はお父さんのいつにない冗談めいた口調に戸惑った。 「もう風呂、沸いているかな。ちょっと湯加減を見てくるよ」 とお父さんは言って、立ち上がって、弥生の肩を軽くポンポンと叩いてから、部屋から出て行った。 二章 五右衛門風呂の中の父娘(9ー19) 9 お父さんはすぐに戻ってきて、居間の扉を開けて、 「風呂、沸いていた。よーし、入るぞ。万智、起きろー」 と言った。その声を聞いて、万智はパッと目を覚まして、 「わーい、お風呂だ。入る」 と言って、お父さんと一緒に部屋から出て行った。 一人部屋に残された弥生は、地図から顔を上げて、ふと思った。 (えーと……、今日のお風呂は、どうするんだ?私は後で一人で入ればいいのかな?それとも、私も一緒に入るってこと?) 弥生は、今この場になって初めて、その点がまだ未定であることに気付いた。 (はて……) と首を捻りながら、とりあえず、居間を出て、廊下を歩いて、お風呂場に向かった。脱衣所の扉の前に立って、中の気配をうかがうと、お風呂場からは、ジャブジャブという水音が聞こえた。 弥生は中に入ろうか入るまいか決めかねて、扉の外で佇んでいると、いきなり扉が開いて、パンツ一枚の姿の万智が飛び出してきて、二人はぶつかりそうになった。 「あ、お姉ちゃん、こんなとこにいた。なかなか、来ないから、呼びに行こうと思ってた」 「あ、うん」 弥生は曖昧に返事した。その成り行きのまま、弥生は脱衣所に入った。お父さんはすでに風呂場に入っているらしい。万智はさっさとそのパンツを脱いで、全裸になると、「お父さーん」と言って、風呂場の中へ消えて行った。弥生は狭い脱衣所で再び一人になって、どうしようかと考えた。考えるといっても、やること言えば、服を脱いで、お風呂場に入るしかないはずだった。しかし、弥生は (本当にそんなことする?お父さんの前でスッポンポンになるの?) とまだ踏ん切りがついていなかった。 弥生はお父さんとは、低学年の頃は当然のようにお風呂に入っていたが、最近はいつからというわけではないが、そういう行為も自然消滅した形だった。ただし、明確に「私、もうお父さんとはお風呂に入らない」という取り決めを交わしたわけではなかった。 (今日は初日だから、特別ってことで、一緒に入っていいかな……) 弥生は一旦は上着を脱ごうとしたが、 (一旦、服を着たまま、お風呂場の中を見ておこう) と思った。脱衣所の奥の風呂場の扉を開けて、上半身を差し入れて、内部の様子をうかがった。お父さんは湯船につかっていて、万智は洗い場の椅子に座っていた。 「あれ、お姉ちゃん、まだ服、脱いでないの?」 と万智は椅子から振り返って、無邪気に訊いた。 「弥生も入りなさい」 とお父さんは湯船の中から言った。弥生は思わず、 「……うん」 と答えたが、まだ入ると決めたわけではなかった。しかし、お風呂場の内部を実際に見てみると、そこは湯気がモウモウと立ち込めていて、また、電球の明かりも薄暗いので、お互いの裸体はあまりよく見えない状態だった。 (こういう感じか。これなら、いいかな。じゃあ、入ろうか……) 弥生は気乗りはしなかったが、しょうがないかと思った。 10 脱衣所で弥生は服を脱ぎ始めたが、その動作はどうしてもノロノロと緩慢になった。インナーシャツとパンツだけになってから、自宅ではなく、よその家で全裸になっているような気がして、変に羞恥心を感じた。しかし、結局は肌着も取って、ついに全裸になった。今からお父さんと万智に自分のスッポンポンの裸体を晒すのだと思うと、変な気持ちになった。 しばらくの間、弥生は全裸のまま、踏ん切りがつかず、お風呂場に入るのを躊躇した。今からお父さんの万智の目に晒す自分の裸体を、脱衣所の鏡に映した。曇っている鏡の表面をタオルでぬぐって、そこに映っている自分の裸体と向き合った。 その体格はどちらかというと痩せ型で、胸もまだ男の子のようにペタンコだった。それだけで言えば、弥生はまだ少女というよりも女児だった。しかし、視線を下げて、へその下の足の付け根辺りに目を凝らすと、そこにはほんのわずかだが、見まがうことなき陰毛の茂みが、慎ましやかにチョコンとくっついていた。それは生えかけもまだ柔らかい産毛だったが、陰毛であることに変わりはなかった。 弥生は、元の家の脱衣所の鏡の前でよくやっていたように、無意識的にその柔らかい体毛をつまんだり、かき分けたりした。 万智に自分がすでに生えているということを知られるのは、嫌は嫌だっったが、とは言っても、女同士だしこちらが年上なので、それはまだ許容できた。しかし、お父さんにそれを見られるのは、年頃の少女としては、どうにも恥ずかしくて、それだけは回避したかった。 (こんな明るい場所だと丸見えだけど、お風呂場の中は薄暗いから、きっと見えないよね……) この土壇場になって、弥生は祈るように、それを願った。 弥生は、自分でも、こんな所でいつまでもグズグズしているわけにはいかないと分かっていたが、踏ん切りがつかず、全裸のまま脱衣所でモジモジしていた。そんな弥生を催促するように、お風呂場の中から、 「お姉ちゃーん、まだー?何してんのー?」 という万智の声が響いてきた。弥生は、それに対して、 「入るよー」 とさりげなく答えた。そして、もう入るしかないと覚悟を決めて、後先考えず、半ばやけっぱちの心境で、お風呂場の扉をガラリと開いた。 11 弥生は扉を開けるまでは威勢が良かったが、いざお風呂場に足を踏み入れると、もう消え入りたい様な心細い気持ちになった。お父さんは湯船に浸かって、気持ちよさそうに半ば目を閉じていたが、入ってきた弥生を見て、 「おう、弥生もきたか」 と言った。万智は椅子に座って、自分でスポンジで体を洗って、全身泡塗れになっていた。明るい脱衣所からお風呂場の中に入ると、そこは思っていたよりも薄暗かった。天井の電球は切れかかっているようで、時折りピカピカと明滅した。 「なんか、暗いね」 と弥生は上を見ながら言った。 「もう電球が古くなってるんだよ。もうそのうち点かなくなるだろうから、新しいの買ってこなくちゃ」 とお父さんは言った。 古い家の夜のお風呂場というのは、ただでさえ不気味な場所なのに、それが暗い電球のせいで、よけいに迫力があった。いい年した弥生でも、一人では怖くて入りたくないぐらいの雰囲気だった。しかし、今の弥生にはこの暗さは、自分の体が相手からよく見られないので、好都合だった。 万智にも、そして、お父さんにも、弥生は自分の股間の陰毛を見られる覚悟をしていた。しかし、この暗さなら、下腹部のちょっとした茂みなど、よほど目を凝らさないと見えないはずで、この思いがけない幸運に喜んだ。 「お姉ちゃん。これ、お姉ちゃんの椅子ね」 と万智は言って、もう一つの椅子を弥生に勧めた。 「ありがとう。万智、あなた、自分で体を洗ってるのね。えらいじゃない」 と弥生はその椅子へ素早く腰を掛けて、言った。 「へへ、そうでしょ」 「私も洗おうっと」 弥生は、お父さんからも万智からも、自分の股間が見えないように、微妙に角度をつけて座って、体を洗い始めた。 12 弥生はゆっくりと自分の体をスポンジで擦っていると、万智は早々に洗い終わって、洗面器でお湯をかぶって、セッケンを洗い流した。 「私も、湯船に入る」 万智はそう言って、湯船の縁につかまったが、高さが結構あるので、入るのも一苦労だった。 「洗い終わったな。よし、さあ、きなさい」 とお父さんは言って、湯船の中から腕を伸ばして、「わぁ」と声を上げる万智の体を持ち上げて、湯船の中へ引き入れた。万智の体はズブズブとみぞおちの辺りまで沈んで、 「おお、深い」 とキャッキャッとはしゃいだ。 この五右衛門風呂と元の家とお風呂とは、色々と違う所があった。底面は下の火にあぶられて熱いから、蓋を底に沈めてから入るとか、内部の栓を抜いてはいけないとか、万智はお父さんに教えてもらった。弥生も体を洗いながら、それを横目で見ながら聞いていた。 弥生は湯船に対して、わざと横向きの角度で座っていた。正面を向いて座ると、お股が丸見えなるので、それは嫌だったが、かといって、背中を向けて座るのも、あからさまに何かを隠していると思われそうなので、その間をとって、自然な感じで斜めに座っていた。さらに念を入れて、股間に泡を垂らして、そこの陰毛が見えない状態にしてから、体を洗った。 (お父さん、私の裸を見て、どう思ってるんだろう……) 弥生は気になって、髪の毛を洗いながら、ちらりと湯船に方に視線をやった。お父さんは湯船の中で、万智の手遊びの相手などをして、弥生の裸体をジロジロ見たりはしなかった。 (ふーん、じゃあ、私も気にしなくていいかな) お父さんは普段、メガネをかけていたが、今は外していた。湯気も立ち込めてもいるし、案外ボンヤリとしてか見えていないのかも知れないとも思った。 13 やがて、弥生も体を洗い終わって、洗面器でお湯をすくって、セッケンを流した。 (ふう、さっぱりした。で、どうしようか……) 湯船は二人も入ればもう満員のようであった。とちらかが出てくるのを待つしかなさそうで、弥生は椅子に座ったまま、手持ちぶたさに座って待った。 「お姉ちゃん、洗い終わった?じゃあ、私と交代しようか?」 と万智は気を利かせて言った。 「いや、ゆっくりしてていいよ。私、待つから」 「そう?」 しかし、お父さんは、 「三人同時にいけるんじゃないかな」 と言った。 「え、そうかな」 「無理でしょ」 万智と弥生は半信半疑だったが、お父さんは、 「ちょっと試してみよう。万智、もっとこっちに体を寄せなさい」 と言うと、万智を抱っこして、自分の方へ抱き寄せて、湯船の一方に弥生のために空きを作った。そして、「ここに、入りなさい」というような顔を弥生に向けた。弥生は、そんな三、四十センチ程度の隙間に、自分の体を潜り込ませることなんてできるのかと訝しんだが、成り行き上やむを得ず、 「……うん、じゃあ」 と言って、立ち上がった。 二人は正面から弥生を見た。彼ら目線の高さは、立っている弥生の腰辺りと同じで、弥生は自分の股間に視線が突き刺さっているようで、とても気まずかった。踏み台に乗って、湯船の縁に手をついて、そこを跨る時など、角度的には明らかに、股間の陰毛を見られてもおかしくなかった。湯気で遮られて見えていないことを祈るばかりだった。 弥生は、お父さんと万智の表情をチラリとうかがった。お父さんは万智を抱き寄せて、こちらを直接は見ている様子はないし、万智もあらぬ方を見ていた。 (大丈夫……、きっと、見られてない……) この数秒間に、弥生は刃物の上を素足で渡るようなスリルを味わった。 弥生はなるべく素早く入ろうとして、足をお湯に突っ込んだ。しかし、底までは思っていたよりも深く、「わっ」と叫んで、奥の壁に手をついた。バランスを崩した弥生の胸元を、お父さんは片腕を伸ばして支えた。 気を取り直して、もう片方の足も湯船に入ると、 「しゃがめるかな?」 と言いつつ、下半身を隠すためすばやく身を沈めた。意外にも、その狭い隙間に何とか体を入れることができた。三人の体は狭い五右衛門風呂の釜の中で密着した。 「おお、三人入れた。でも、ギュウギュウだ」 と万智は笑った。 狭いように見えて、円形の釜なので、三人の体はピタリと収まった。彼らはお互いに向かい合って、手足が絡み合うように触れ合った。 「これはだれの足かな~」 などとお湯の中で誰かの足首をつかんでふざけ合った。 弥生は、こんな風に首までお湯に浸かってしまえば、もう恥ずかしい股間の陰毛を見られる心配はなくなったので、安心して万智と一緒になってふざけることができた。 14 弥生と万智はじゃれあって、お腹をつつき合ったりしていたが、釜の下にはまだ熾火が残っていたようで、お湯の温度は徐々に上がって、体の小さい万智はすぐにのぼせてしまった。 「もう熱くなってきたから、私、先に上がるね」 と万智は言って、お風呂場から出ていった。 万智が出て行って、湯船は広くなったのはいいが、弥生はお父さんの二人きりで、狭い湯船の中に残された形になって。ちょっと気まずくなった。 (向かい合っているのも変かな?) と弥生は思って、お尻を浮かせて、弥生はお父さんと足が交差するように座り直した。 遠慮がちに手足を縮めている弥生だったが、 「こうしたら、楽だよ」 とお父さんは言って、弥生を横から持ち上げて、自分の方へ引き寄せた。 (えっ、どうするつもり?) 弥生は当惑したが、お父さんは気にせずさらに抱き寄せて、そのまま自分の膝の上に弥生の体を乗せた。弥生の背中はお父さんに胸に接した。 「ほら、こうすれば、足をもっと伸ばせるぞ」 お父さんは言って、水面の下で、弥生の膝裏に手を差し入れて、足を伸ばさせた。 弥生は、抗う間もなく、いきなりそんなことをされて、自分の裸のお尻がお父さんのあぐらの中にすぽりとはめ込まれる形になって、「うわわ」と声を上げそうな程に焦った。小二の万智がだっこされるのは全然理解できるが、自分はもう小六なのに、それと同じような扱いを受けて、弥生は怯みつつも、新鮮な驚きを覚えた。 (お父さんって、私のことを万智と同じように、まだ子供だと思っているってこと?。ふーん、そうなのか……) 万智は自分では自分のことをすでに大人だと思い込んでいたので、それは新たな発見だった。弥生はうれしいような、恥ずかしいような気持ちになった。 「もっと、手足を伸ばしてごらん。楽にしていいから」 お父さんはもう一度言って、お湯の中で弥生の膝頭を触った。弥生はもう抵抗せず、素直にできるだけ足を伸ばした。お尻の下に、お父さんのゴツゴツした足の骨を直に感じた。後ろから抱かれている格好で、四肢を広げて、弥生は湯船を独り占めしているような気持ちになった。 「おお、こうしたら、五右衛門風呂も結構広いね」 「そうだろ?こうして、もたれていいよ」 「こんな感じ?」 「もっと、もたれていいよ」 お父さんは弥生の胴体に腕を回して、後ろに引き寄せるようにして、二人一緒に湯船の縁に寄りかかった。弥生はその言葉に甘えて、お父さんの胸に完全に背中を預けた。さらに後頭部をお父さんの肩にもたせかけて、湯気に霞む天井を眺めた。 お父さんは弥生の髪にお湯をかけならが、優しくすく動作を繰り返した。弥生はそうされながら、こんな風にお父さんに体が触れ合うように抱かれたのは、何年振りだろうかと考えた。お母さんにさえ、そんなことをされたのはもう数年前の昔で、その記憶も薄れかかっていた。 (最近は、こんなこと、お母さんにもされたことがないよ。男親って、お母さんはとはまた違うやり方で娘に接するんだな) 普段、お父さんは弥生と万智に対して、あまり関心が無いようだったが、実はそうではなく、本当はこんなに面倒が良かったのかと、弥生は思いを新たにした。 お父さんの大きな体は、お母さんに抱っこされる時の優しい包容感とはまた別の感覚だった。それは、頼りがいのある安心感とでも呼ぶべき感覚だった。 15 やがて、弥生ものぼせて、頭がぼうっとなって、眠くなってきた。お父さんに後ろから抱かれたままの格好で、うつらうつらとし始めた。 「私、このまま寝ちゃいそう」 「こんなところで寝たらダメだよ。溺れるぞ」 「でも寝そう……」 「ダメだって」 「……」 弥生は本当に寝かかって、目をつぶって無言になった。 しばらくいい気持になっていると、不意に後ろから脇腹の肉をお父さんにグイッとつままれた。弥生はたまらず、「あうっ」と叫んで、体をひねって、逃げようとした。しかし、お父さんは珍しく悪乗りして、背後から弥生を抱えたまま、お腹の上に指をはわせて、コチョコチョとくすぐり続けた 「お父さん、やめてよぅ」 「えっ、なんて?もっとして欲しいって言った?」 「違うよ。あぁーん」 「はは」 弥生はお父さんの膝の上でもがいたが、大人の男の腕の中に抱えられて逃げられるはずはなかった。弥生はお父さんの力の強さを実感して、ちょっとした恐れを覚えた。弥生は湯船の中で手足をバシャバシャと暴れさせていると、ようやく、お父さんはくすぐるのをやめてくれた。 「んーっ、もうっ」 弥生はこんなおふざけにムキになって怒るわけにもいかず、すねたように、お父さんの胸に頬をつけた。仕返しにこちらもお父さんのお腹をつねってやろうかと思ったが、やめておいた。 16 「ねえ、お父さん、私の体、重くない?」 弥生は落ち着きを取り戻すと、ふと気になって、お父さんの胸に持たれたまま、上目遣いをして訊いた。 「いや、大丈夫だよ」 「本当に?」 「うん。でも、こうやってみると、弥生も大分大きくなったもんだなぁ。ほんのこないだまでは、片手で持ち上げられるぐらいだったのに」 お父さんそう言うとお湯の中で、弥生の両脇の下に手を差し入れて、グイッと持ち上げた。弥生はくすぐったさに、また「ひひっ」と笑ってしまったが、今度は我慢して、されるがままに身を任せた。自分の体を見下ろすと、水面からはへそが出ている程度だったので、 (これぐらいならまだ大丈夫) と思った。 「ほら、高い高いだ」 お父さんは弥生の体を上下に揺すった湯船のお湯はザブリザブリと波立った。 「わああっ」 弥生は思わず声を上げてしまったが、それは高い高いされたからというよりは、下腹部が水面から出て、お父さんに陰毛を見られてしまうかもと危ぶんだからだった。しかし、お父さんの太くて力強い両手で持ち上げられてしまっては、弥生はどうすることもできなかった。 「こんなことするのは何年振りかな?でも、弥生も、こんなことをして、喜ぶ年齢じゃないかな」 お父さんはそう言いつつも弥生を高い高いし続けた。ただ、体はそんなに高くまでは持ち上げられず、股間は水面下に隠れたままだったので、 (これは、心配しなくて大丈夫だ) と弥生は判断して、されるがままになっていた。 そういう心配さえなければ、お風呂ではしゃぐというのは、いくつになっても楽しいことだった。上下左右にユサユサ揺られて、弥生は「あはは」と年甲斐もなくはしゃいだ。しかし、そうしながらも、もう一度チラリとさりげなく、視線を下にやったが、やはり、おへそから下はお湯の中だった。ただ、これ以上過激なことをされると、水面から股間が出て、陰毛を見られてしまう危険性があるので、もうそろそろ、切り上げた方が無難だと思った。 「お父さん、私、もう出るよ。体が熱くなってきた」 弥生がそう言うと、お父さんはすぐに弥生の体を下ろした。弥生は背中を向けて、湯船から出た。お風呂場から出る時、チラリと振り向くと、お父さんは湯船の中で微笑を浮かべて、手を振った。 17 弥生はお風呂場から出て、脱衣所に入ると、隅の方でパンツ一枚の万智が椅子に座って、眠そうにウツラウツラしながら、涼んでいた。ここはずっと明るいので、弥生はすぐにタオルを取って、体の前面に当てた。裸を見られること自体は恥ずかしくなかったが、陰毛が生えているのは隠したかった。 万智は寝ているかのように見えたが、弥生に気付くと薄目を開けて、 「あ、お姉ちゃんも上がった?なんか、中でずいぶんと騒いでたね。何かやってたの?」 と訊いた。弥生は、まさか、お父さんとくすぐりごっこしていたとか、高い高いされていたなどとは言えず、 「ちょっと、ふざけてた」 と答えておいた。 そして、しばらく体を拭いていたが、万智がこちらを見ていないことを確認すると、急いで背中を向けて、まだ肌には水滴がついていたが、パンツに足を通した。パンツを穿いて、陰毛がその下に隠れてしまうと、弥生は一安心して「ふう」と溜息をついた。 (これでもう安心だ。今日はどうなることかと思ったけど、バレずにすんだ) 弥生も万智の隣の椅子に座って、同じように涼み始めた。二人の前面には鏡があった。弥生はそこに映る自分と妹の姿を何となく比較した。当然、身長は弥生の方が高い。しかし、体の成長の具合は同じだった。弥生の胸も万智の胸も、ピンクのポツリとした乳首がついているだけで、それはまだ膨らむ兆候も見せていなかった。 二人の穿いているパンツは、女児向けのゆったりした柄物で、色違いの同じものを穿いていた。弥生は友人には秘密にしていたが、まだ妹と下着を共用していて、もうそろそろ自分だけのを確保したいと思い始めていた頃だった。産毛が生えているのを知ってからは、特にその思いが強まっていた。 (私のパンツの下には、もうチョロチョロと毛が茂っているなんて、万智は思いもよらないだろうな) 弥生は、さっきお風呂場で見た万智の陶器のようなツルツルした局所を思い出しながら、姉妹という関係について、ちょっと考えた。 お姉ちゃんであるということには得も損もあって、一概にどちらがいいとは言えないが、年下の妹の方には、今の弥生のような心配をしなくていいので、その点は気楽だろう。弥生は万智のあどけない顔を見ながらそう思った。 (万智、うたたねじゃなくて、もう本格的に寝てしまいそう) 弥生は万智の肩をつついた。 「こんなとこで寝たら風邪ひくよ。部屋に戻ろう」 「ん……」 「ほら、行くよ」 「うーん」 万智は弥生につかまって、大儀そうに立ち上がった。まだ体は火照っていたので、二人ともパンツ一枚の姿で、パジャマを抱えて、脱衣所から廊下に出た。 お風呂上りに家の中をパンツ一枚で歩いていて、それをお母さんに見つかったら、「女の子のくせにはしたないわよ」とよく怒られたものだった。そんな時は、弥生は、「いいじゃない、別に。誰も見てないんだし」と言い返していた。今日はそういうやり取りができないのは、寂しい限りだった。 18 部屋に戻ると、すぐに二人はすでに敷いてある布団の上にゴロリと横たわった。弥生は寝転がると、ドッと疲れがきて、今の下着姿のままで寝入ってしまいそうだった。隣では万智は身動きしなくなったので、すでに眠ってしまったらしい。 「万智、寝るならパジャマを着ないとダメだよ」 「……もう眠いよぉ、お姉ちゃん、着させて」 「甘えないで。自分で着なさい」 「んん」 万智はむずかって、そのまま目つぶって、動かなくなった。弥生は万智を揺すったが、のんきに寝息を立て始めた。 「もう、しょうがないなぁ。手間のかかる奴だ」 弥生は苦笑して、自分はまだパンツ一枚の姿のまま、結局は万智にパジャマを着せにかかった。まずは上着を万智の頭に通して、その両手を袖に通させた。そんなことをされても、万智は目を覚まさず、寝たままだった。 弥生は、次はズボンを穿かせるため、その前後を調べて、万智の細い両足をその中へ突っ込んだ。ズボンを膝上まで通して、お尻を持ち上げて穿かせようとした時、弥生の心に妙な考えが思い浮かんだ。万智の無毛の股間をじっくり見てみたいという衝動に駆られた。弥生はその瞬間まで、そんなことは全く想像だにしなかったので、突然そんな妙な考えが湧いてきたことに、自分でも驚きを隠せなかった。 (私、何を考えているんだろう……) しかし、眼前の万智はスースーと寝息を立てて、気持ちよさそうに寝ているので、盗み見ること自体は容易にできそうだった。 (……。見る?) 弥生は首を伸ばして、万智の顔をのぞき込むと、万智はぐっすり熟睡しているようで、すーすーと寝息を立てていた。 (寝てる……。じゃあ、脱がしてもバレないよな) 弥生はさらに念を入れて、 「ねえ、万智」 と小さく声をかけてみたり、またお腹をつまんだりしたが、万智は全然目を覚ます気配はなかった。 (今なら、いける) 弥生は何か悪いことでもしているかのように、胸がドキドキした。弥生は思い切って、寝ている万智のパンツのお腹のゴムをつまんで、その前部をペロリとめくって下げた。その下からは、プックリとした可愛い膨らみが現れた。その縦の割れ目は、子供らしくきちんと引き締まっていた。 さっきお風呂の中で一瞥した時は、暗い照明と湯煙のために、ボンヤリとしか見えなかったが、今はこの明るい照明の下で、ジックリ見ることができた。万智の股間の丘の肌理は陶器のようで、もし触ったら、ツルツルと滑りそうだった。弥生は指を伸ばしたが、さすがに直接接触させるのは遠慮した。 弥生は万智のそこを眺めていると、どうしても自分のそこと引き合わせて考えざるを得なかった。 (万智はまだそこがツルツルでいいなぁ) 一言で言えば、それが弥生の本音だった。弥生のそこは、まだ細い産毛がチョロッと生えているだけで、モジャモジャという程ではなかった。しかし、それでも一目で分かるほどには茂っていて、弥生ははっきりと我ながら小汚いと感じていた。 (なんでこんな必要の無い毛がこんなところに生えてくるのだろう) 股間に発毛を発見してから、常々弥生が抱いていた素朴な疑問だった。 弥生は、裸を見られること自体は、家族なら別に恥ずかしいことだとは思わなかった。学校の友達の中には、家族の間でも裸を見せるのはいやだと言っている子は多かったが、弥生はそれはポーズではないかと疑っていた。事実、学校では、弥生自身、皆に調子を合わせて、そんな風に言っていた。 しかし、陰毛が生えてしまった状態では、そんな気楽なことは言ってられなかった。もちろん、お母さんはもお父さんもやさしいので、仮にそれを見られたとしても、からかったりはされないだろうが、どうにも、見映えとして悪く、小汚いようで、他人には見せたくなかった。 弥生は万智の無毛の丘岡を見下ろしながら、そんな風に、思春期の少女らしく、感慨深くいろいろ考えた。 (私もちょっと前まではこんなふうにツルツルだったのに。やっぱり、こういう状態の方がきれいでいいなぁ。でも、もうこの状況には、戻らないんだよな。らないどころか、これからは、もっとたくさん生えてくるばかりなんだよなぁ) うらやましいような、残念なような気持ちになって、弥生はため気を一つもらした。結構長い時間、パンツをずらしていて眺めていたので、万智は股間が寒くなったのか、 「ん……」 とくぐもった声を出して、今にも起きそうになった。弥生はそれを見て、慌てて万智のパンツを元に戻して、薄目を開けた万智に、 「じゃあ、ズボンを穿かせるね」 とわざとらしく優しく言って、その作業を始めた。 19 万智にちゃんとパジャマを着せて、また寝させると、その後、弥生も布団を被って、目をつぶった。今日一日の疲れが溜まっていたので、すぐに寝入ってしまった。ただ、神経が高ぶっていたためか、夢を見た。 それはちょっと変な夢で、お風呂の中で裸になったことと、寝る前の出来事がごっちゃになったような夢だった。部屋の中で万智は全裸のまま、布団の上でくつろいで、寝転がっていた。その隣では、弥生自身も同じような一糸まとわぬ姿であぐらをかいて座っていた。 しかし、弥生は全く気後れしなかった。その理由は夢の中だからではなく、自分のそこも、万智と同じようにツルツルの無毛の状態だったからだった。 意図的にそこを見せ合っていたわけではないが、二人は向き合っていたので、自然にそういう状態になった。 夢の中では、それ以上のことは何事もおこらず、それだけで目が覚めてしまったが、弥生は、暗闇の中、布団に身を横たえたまま、ひとしきり感慨深く、さっき見たばかりの夢に思いを巡らせた。 (なんだったんだろう、あの夢は……。昔の思い出が蘇ったのかな?それとも、生えていない方がいいという私の願望が夢に表れたのだろうか?) いずれにせよ、そこの毛が生える以前の頃なら、全裸でも変に隠したりせず、堂々とできるというのは気楽なことだと思った。 弥生は寝起きの頭でそんなことをボンヤリと考えていると、また、想像が飛んで、早くも今夜のお風呂のことが心配になってきた。昨晩は、風呂場内の電球が消えかかっていたということもあって、なんとか、お父さんにも万智にも、発毛していることがバレずに済んだ。しかし、今後、そうそう何度も見つからずに済むはずはなかった。 (せっかく皆でお風呂に入るのに、私だけコソコソしなきゃいけないのはイヤだなぁ……。昔の体に戻す方法があればいいんだけど、成長を逆戻しにするできないもんな……) 弥生はまだ眠かったので、また寝直そうと寝返りをうった時、ふと剃ったらどうかという考えが浮かんで、はっと目がさめた。確かに、陰毛を剃り落してしまえば、全裸を見られても大丈夫なはずだった。 (うーん、でも、そこまでするかな……) 最初は、そのように乗り気でなかった。しかし、よく考えてみると、他に方法はないようだし、それで解決するなら、そうしようかというように気持ちは傾いた。後はその手段をどうするかという問題だけが残った。