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江戸山乱理
江戸山乱理

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『ジェットコースターに乗る前にはおむつを穿く』(2)

三章 妹の服を着る(11-15) 11 彩香のパンツとスカート。まずパンツ。 「着替え、本当にあるんだよね」 芽衣子は今になって、その点が不安になって訊いた。 「あるよ、ほら」  ママはビニール袋を開いて、その中からきちんと畳まれたパンツとスカートを取り出した。 「それって、彩香のなんだよね?」 「そうだよ。はい、まずはパンツから」  とママは言って、そのピンク色の小さな布を芽衣子に手渡した。  芽衣子はそれを穿こうとしたが、「おや?」とつぶやいて、手を止めた。そのパンツを広げてみると、前の部分にアニメキャラクターの少女のイラストがデカデカと入っていた。裏返すと、お尻の部分にも同じような柄がプリントされていた。 (なんか、やけに幼稚なパンツだな。替えのパンツって、こんなんだったのか……)  と芽衣子はパンツ自体にも戸惑ったが、彩香がまだこんなの穿いてることも意外に思った。  芽衣子は替えのパンツを手に持ったまま、穿こうとせず固まっていたので、ママは不審気な顔をして、 「どうかした?」  と訊いた。 「いや、別に、どうもしてないけど……。えっと、これって、本当に彩香のパンツなんだよね」 「そうだよ。彩香のパンツだよ。そう言っているじゃない」 「でも、彩香がこんなのを穿いている姿、私、見た記憶が無いから……」 「正確に言うと、昔、彩香が穿いていたパンツだね」 「昔に?」 「そう。そのパンツ、ちょっと幼稚な柄でしょ。だから彩香も、最近は嫌がって穿かなくなったのよ」 「そういうことか……」 「でも、こんな可愛いパンツをすぐに捨てるのはもったいないでしょ。芽衣子もそう思わない?」 「うん、まあ……」 「だから、予備として保管しておいたのよ」 (それを今、私が穿かされるという巡り合わせになったわけか……) 「ママとしてはね、彩香でも芽衣子でも、女の子はもっとこういう可愛いパンツを穿いて欲しいんだけどね」 「私でも?」 「そうよ」 (それって、本気で言っているのかな?それとも、私の機嫌をとっておだてているだけなのだろうか……)  芽衣子はママの表情をうかがったが、ママはニコニコしているだけで、その本心は読み取れなかった。いずれにせよ、妹の彩香が卒業したパンツを姉の自分が穿くというのは、どうしても心理的な抵抗があった。 (本音を言えば、妹が穿き古して毛羽立ったパンツを穿くなんて、姉としての自尊心が許せないんだけど、でも、おもらしをしたのは私だからな……)  相変わらず、芽衣子はそのパンツを手に持ったまま、穿くのを躊躇していた。しかし、穿かないというわけにはいかなかった。着替えがあるだけでも感謝すべきだった。その点は、芽衣子自身が一番よく分かっていた。 12 彩香のパンツを穿く  ママは「どうしたの、早く穿きなさい」と言わんばかり表情を向けていた。 (もし駄々をこねても、「もう、いいでしょ、他人に見せるわけじゃないんだし」とでも言われて、無理矢理にでも穿かされてしまうだろうな)  と芽衣子は思って、 「ん……、じゃあ、穿くね」  ともう諦めの境地で、静かに言った。しかし、ママは、 「ママが穿かせてあげる」  と言ったので、芽衣子は思わず、「えっ?」と驚きの声を上げた。 「穿かせてくれるの?」 「うん。それ、ママに貸して」  ママは芽衣子からパンツを取り上げると、芽衣子の前にしゃがんで、それを広げて構えた。そして、上目遣いをして、「穿きなさい」というように芽衣子を見た。 (穿かせてくれるの?。なんか、本当に小さい子の扱いだな)  と芽衣子はまごついたが、見えない糸に操られるように、右足を浮かせて、そのつま先をソロソロとパンツの内側に差し入れた。 「次は左足ね」  ママに言われるがまま、芽衣子は左足も同じようにした。両足のくるぶしに絡まったパンツを、ママは一気に引き上げた。  もう次の瞬間には、芽衣子のお腹はへそを隠すぐらいにまで、すっぽりとパンツで覆われていた。そのパンツは、デザインは幼稚でも、作りは意外に大きくて、布地もよく伸びたので、芽衣子が穿いても、全然きつく感じなかった。 (おお、ピッタリ穿けた)  芽衣子はうれしいような、くやしいような気持ちだった。 「よし、パンツは穿いたね」  とママは言って、ピンク色のパンツに包まれた芽衣子のお尻をポンポンと叩いた。 (穿いたというよりも、穿かされたんだけどね……)  と芽衣子は心の中で思った。  ママは、パンツ姿の芽衣子の前と後ろを交互に見て、 「彩香のパンツだけど、結構、似合ってるじゃない。自分でも、その鏡で見てごらん」  と言って、芽衣子の背中を押した。  芽衣子は壁の鏡の前に立って、自分の全身を観察した。腰回りはピンク色のパンツにすっぽりと覆われて、その股間の前部分には、ニッコリと微笑んでいる少女のイラストが目を引いた。 (うわぁ、ダサいパンツだな……)  と改めて思った。しかし、そんなパンツでも裸よりはましで、穿くとホッとした。  芽衣子が鏡を見つめていると、ママがスッと背後に立った。 「こうやったら、もっとよく見えるよ」  とママは言って、芽衣子の上着をみぞおちの辺りまでめくり上げさせた。  芽衣子のお腹には贅肉はほとんど付いておらず、腹筋が薄っすら浮いていた。そのお腹をママは右手でやさしく撫でて、左手は頭のてっぺんに置いた。 「彩香もだけど、こういうパンツを穿くと、芽衣子も可愛いく見えるね」  とママは鼻先を芽衣子の頭頂部に埋めるようにして、ささやいた。芽衣子は、いきなりそんなこと言われて、 (何よ、いきなり、そんなこと言って……。お世辞?)  とたじろいだ。 「今度は、鏡にお尻を向けてごらん」  とママは芽衣子を振り返らせた。二人は向かい合う形になった。  芽衣子は肩越しに、お尻を突き出す自分の姿を鏡の中に見た。ママはそのお尻をパンツ越しに撫でながら、 「このパンツ、穿いてみたら、そんなに悪くはないでしょ」  と訊いた。芽衣子は素直に、「うん」とうなずいて、これしきのことを変に嫌がっていたの自分が愚かしく思った。 「ママ。私ね、彩香の穿き古しはちょっと嫌だけど、でも、新品なら、こういうパンツ穿いてもいいかなって思うよ」  それはママへのおもねりではなく、芽衣子の本心だった。 13 スカートの丈 「じゃあ、スカートを穿きましょう。パンツ一枚で外に出るわけにはいかないものね」  ママはスカートを広げて見せた。それは無地の緑色の極普通のミニスカートだが、それも彩香が以前に使っていた物なので、丈はかなり短めのようだった。 「穿けるかな?」 「まあ、一回、試してみましょう。じゃあ、足を入れて」  とママは言って、また芽衣子の前でしゃがんで、そのスカートを足元に突き出した。芽衣子は、  「じゃあ……」 と言って、足を差し入れた。 「せっかく可愛いパンツを穿いているのに、スカートを穿くと隠れちゃうから、残念だね。うふふ」 「そ、そんなことないよ」  芽衣子はそのからかいに対して、昂然と言ったが、実は自分でもそんな思いを少しばかり持っていたので、内心焦った。  そのスカートは小さいということは分かっていたが、実際に穿いてみると、裾は予想以上に短かった。彩香が穿いたら、膝上十センチぐらいで丁度いい裾の長さなのだろうが、芽衣子は背が高いので、膝上二十センチぐらいのツンツルテンになってしまった。しかも、ママはなぜか変に腰高の所でウエストのホックを止めようとした。 「ママ、これ、いくらなんでも、上過ぎない?。もうちょっと下げてよ」 「うーんと……、ちょっと無理そう」 「何で?」 「ウエストのホックがこれで限界なのよ。だってこれ、彩香のスカートだから、それぐらい我慢してちょうだい。お腹周り、苦しくはないでしょ」 「苦しくはないけど……」  しかし、スカートの裾からは、太ももの半分以上が露出していて、辛うじてスカートがパンツを覆っていると言っても過言ではなかった。パンツは彩香のでもゆったり穿けたが、スカートの場合は、そういうわけにはいかなかった。  芽衣子は自分のはみ出した太ももを神経質にスリスリと擦っていたが、ママは、 「これぐらいの方が可愛いよ」  と慰めた。 「でも、いくら何でも、短すぎじゃないかな?」 「その方が足が長く見えて、いいじゃない。鏡で見てごらん」 「そうかなぁ……」  と芽衣子は釈然としないまま、ともかく鏡の前に立った。 14 悪戦苦闘  一目、鏡の中の自分の姿を見て、芽衣子はギョッとなった。 (パンツ、見えてる……)  直立している芽衣子のスカートの裾からは、二本の健康そうな太ももが伸びていたが、その真ん中にはピンク色の三角形の布地がチラリとはみ出していた。スカートは丈が短い割りに、パンツは生地がゆったりとしていたので、こんなチグハグなことになってしまったのだった。 (これは、ちょっと、みっともないな……。こんなんじゃ、人前に出られないよ)  芽衣子はスカートの裾を撫でつけたり、ウエストの位置を少しでも下げようとしたりした。 「しっくりこない?」  とママは訊いた。 「だって、このままじゃ、パンツが見えちゃうんだもん」 「ちょっとぐらい、パンツが見えるぐらい、気にしなくていいじゃないの」 「気にするよ」  と芽衣子は眉をひそめて言った。ママはそれ以上に、まともに相手にならず、 「でも、それを穿くしかないんだからね。分かっているね?」  とだけ言った。 「分かっているよ」 「身支度しておいて。ママはこれをもう一度すすぐから」  とママは、タオル代わりに使用した芽衣子のパンツをもう一度手洗いし直した。芽衣子はそれを横目に見ながら、何とかスカートでパンツが隠れるように、悪戦苦闘した。  スカートのウエストをギュッと骨盤に押し下げたり、あるいは、反り返りがちな布地を引っぱっていると、パンツがはみ出すのだけは、どうにか避けられそうだった。 (これで、何とか、ごまかせるかな……)  芽衣子は鏡の前で色々とポーズを取ってみた。屈んだりすれば、お尻からパンツはすぐに丸見えになってしまった。そんなことをしなくても、ちょっと膝を上げるだけで、スカートの裾がめくれて、その下からピンク色のパンツがチラリとのぞいた。 (これじゃあ、あんまり飛んだり跳ねたりはできないなぁ……。でも、普通に歩いているだけなら、大丈夫か。まあ、よしとするか)  ついさっきまで下半身はスッポンポンの状態だったので、曲がりなりにもパンツとスカートを穿くと、気持ちは落ち着いた。芽衣子は余裕を取り戻して、改めて鏡に映った自分の姿を眺めた。 (ミニスカートで大胆に太ももを露出させる姿も、ママの言う通り、足が長く見えて、それはそれで、結構可愛いかも。今後は、これぐらいの短さのスカートをもっと穿こうかな)  芽衣子はそう思いながら、鏡の中の自分にニコッと微笑んで見せた。  ママは、そんなことをやっている芽衣子に、 「どう、そのスカートは?お気に召したかしら」  と訊いた。 「んー、まあ、まずまずかな……」  と芽衣子は鏡から視線を外さずに答えた。 15 おむつ台の上  芽衣子はおむつ台にもたれて、ママがパンツを洗い終えるのを待っていた。  洗面台の前に立っているママはその姿を横目で見て、 「芽衣子。その後ろの台、何なのか分かってる?」  と訊いた。 「知ってるよ。この上で赤ちゃんがおむつを替えるんでしょ」 「そう。赤ちゃん用だから、あんまり体重をかけると、壊れるかもよ」 「そうかな、結構、頑丈そうだけど」 「そうかしら?」 「うん、大丈夫そう」  芽衣子はそれを両手でグイッと押してみせた。それだけでなく、そのおむつ台の上に腰かけて、「ほら、私が乗っても全然平気」と言って、両足をブラブラさせた。 「もう、それぐらいにしておきなさい」  とママは苦笑した。  しかし、芽衣子はさらに調子に乗って、おむつ台の上に仰向けに寝そべった。そうすると、乗るだけなら乗れるとしても、やはり芽衣子の背丈では、膝から下は台の縁からはみ出した。 「まあ、大きな赤ちゃんね」  とママは声を上げた。ママから見ると、開脚した芽衣子の股間のピンク色のパンツが丸出しになっていた。  芽衣子自身も、そのことは気付いていたが、今さらママに見られても、恥ずかしくも何ともなかったので、そのままにしておいた。 「お着換え、こうやって寝そべってやったら、もっと楽だったんじゃない?はは」 「ズボラな子ね。このパンツ、洗い終わったから、もう行くよ。彩香も待ってるんだし。そこの大きな赤ちゃん、用意はいいですか?」 「はーい」  芽衣子はもう少しばかり、ママとのこのささやかな会話を楽しんでいたかったが、外で彩香が待っていると言われて、そういえばそうだったと気付いて、おむつ台からパッと飛び降りた。スカートはめくれ上がって、パンツは大きくはみ出していたので、スカートの裾を撫でつけて、元通りに直した。 「このパンツとスカートは、家でまた洗濯し直すからね」  ママは洗い終わったパンツとスカートをビニール袋に入れた。 「うん」 「じゃあ、行きましょう」  ママは芽衣子の手を引いて、部屋の扉を開いて外へ出た。芽衣子は敷居を一歩踏み出す前に、ちょっと振り返って、部屋の中へ最後の一瞥をくれた。そして、 (もうここに来ることは二度とないだろうな)  とある種の感慨をもって思った。 四章 ツンツルテンのスカート(16-21) 16 彩香と再会  お手洗いの個室の中で、おもらしの後始末に要した時間は十五分程度だったが、芽衣子は久しぶりに外に出た気分だった。太陽が眩しくて、手を額にかざした。妹の服を着て歩くのは、ちょっと面映ゆい気持ちだったが、当然ながら、周囲の通行人は誰もそんなことを気に留めていないようだった。  二人は元の場所に戻った。  彩香はベンチに座っていた。長い時間、一人で待たされて、不機嫌そうな顔をしていた。ママを見るなり、立ち上がって、 「もう、何でそんなに時間かかったの?。私、待ちくたびれちゃったよ」  とぶつくさ文句を垂れた。 「ごめん、ごめん。ちょっと手間取ってね」  とママは宥めた。  今回の出来事の張本人である芽衣子は、居たたまれない気持ちで、ドキドキしながら、ママの背中に隠れるように立っていた。  彩香は芽衣子の姿を認めると、その下半身を無遠慮にジロジロと見て、 「お姉ちゃん、服が変わってる。着替えたんだよね」  と訊いた。 「う、うん」  芽衣子は、彩香に何か意地悪なことを言われないだろかと思って、ちょっと警戒した。 「それって、私のスカートだよね」 「着替えとして借りたんだけど……」 「それは別に構わないけど、でも、なんか、裾が短すぎない?」 「そうかな」 「もうちょっと下げて穿いたら?」 「でも、これでピッタリだから……」 「ふーん」 「こんなもんでいいと思うけどね」 「でも、そんなんだと、ちょっとでも風が吹いて、裾がめくれたら、パンツ見えちゃうよ。あはは」 「大丈夫だよ……」  芽衣子は気弱に答えた。もう服のことから話題を変えようと思った。しかし、彩香は、 「パンツはどうしたの?」  とさらに踏み込んだことを露骨に訊いてきた。 「パンツ?穿いてるよ、もちろん」 「そりゃあ、穿いてるでしょ。私が訊いているのは、パンツも私のを穿いてるのかってことだよ」 「……」 「どうなの?」 「そうだよ」 「私のを穿いているの?」 「うん……」 「へぇー」  彩香は、姉が自分のパンツを穿いていると聞いて、驚いたような、感心したような顔をした。それは、どういう反応をしたらいいのか分からないという様子だった。 17 パンツの露出  その時、ずっと黙っていたママが口を挟んで、 「見せてあげたら?」  と言った。芽衣子は耳を疑って、思わず、「はっ?」と声を上げた。しかし、ママは、 「だって、芽衣子が今どんなパンツを穿いているのか、彩香が知りたがっているじゃない」  と事も無げに言った。 「そ、そうかな……」  と芽衣子は疑わしそうに言った。しかし、ママが、 「どう、彩香。お姉ちゃんのパンツ、見たい?」  と訊くと、彩香は「うん」と無邪気にうなずいた。 「じゃあ、芽衣子、見せてあげて」 「で、でも、ママ……」 「あら、恥ずかしがってるの?さっきはママに、あんなにも堂々と見せてくれたじゃないの」  それを言われれば、芽衣子はもう何も反論できなかった。不用意なことを言ったら、お手洗いの中での痴態をばらされ兼ねなかった。また、彩香も目を輝かせて期待していたので、嫌だと言って拒否できる雰囲気ではなかった。 「じゃあ、見せるね……」 「ママに見せてもしょうがないでしょ。彩香に見せないと」 「そ、そうか」  芽衣子は彩香の方を向いた。そして、ちょっと躊躇したが、スカートを裾の端をそっとつまんで、少しばかり持ち上げた。芽衣子自身の視界には入っていないが、正面の彩香からは、例のピンク色のパンツがチラリと見えたはずだった。彩香は、 「ほう」  と言って、腰を屈めて、そこへ顔を近づけた。 「もういい?」  芽衣子は、すぐに恥ずかしさが込み上げてきた。しかし、彩香は、 「もっと見せてよ」  と言うと、断りもなしに、芽衣子のスカートの裾を掴んで、ガバッと胸までめくり上げた。こんな路上でパンツを丸出しにされて、芽衣子は「ひえっ」と叫びそうになったが、何とか我慢した。 「このアニメパンツか。見覚えある。私がずっと前に穿いていたやつだ。まだ保管してたんだね」  彩香は声高に言った。言うだけではなく、そのパンツの前部分をペタペタと無遠慮に触った。芽衣子はその図々しさにタジタジとなったが、幼い妹のやることなので無下に拒絶もできず、やむなく、顔を赤くしながら、しばらくの間、されるがままになっていた。  二人のすぐそばを、多くの通行人が往来した。彼らは大抵、 (この女の子たち、何の遊びをやっているんだろう?)  とでも言いたげな不審な表情を示したが、それと同時に、頑是無い二人の少女たちへ温かい微笑みの眼差しを送った。 18 姉妹の対抗 「もういいでしょ」  芽衣子はもう耐えきれず、強引に彩香の手を振り払って、スカートの裾を下ろして、もう触らせないと言わんばかりに、そこを両手で押さえた。それに対して、彩香は「ふふっ」と愉快そうに笑うと、 「お姉ちゃん、やっぱり、こういうパンツを穿かされて、恥ずかしいの?」  とちょっと小馬鹿にしたように訊いた。  もっとも、それは嘲笑という程ではなかった。彩香自身もおもらしをした経験はないではなく、いわばお互い様なので、そうえらそうには言えないということは、その幼い頭脳でも理解していた。むしろ、姉もおもらしをしてくれた方が親しみを持てるし、また、自分だけがするよりも、仲間がいるという意味で安心できたのだった。  ただ、芽衣子は姉として、妹に馬鹿にされるのは何ともやりきれなくて、この場は反論しておきたかったので、 「べっ、別に恥ずかしくはないよ」  とわざとらしい強がりをした。 「へぇー、そうなの。こんな幼稚なやつでも?」 「幼稚というか、可愛いじゃない」 「アニメパンツなんて、ダサいよ」 「そんなことないよ」  と芽衣子は行きがかり上、そう言わざるを得なかった。 「ふーん、可愛いんだ……」  彩香は何かを企んでいるような表情をした。 「そうだよ」 「じゃあ、それ、あげるよ」 「えっ」 「あげるから、これからも穿きなよ。大きさだって、十分穿けるんでしょ。きついの?」  彩香は、もう一度、芽衣子のスカートをめくって、のぞこうとした。芽衣子はその手を押し止めながら、 「いや、きつくはないよ。私、痩せている方だから」  と言った。 「じゃあ、ちょうど良かったじゃん。穿くよね?」 (ううっ……)  芽衣子は詰まった。このままだと、彩香のお古のアニメパンツを穿かされる破目になり兼ねず、少しばかり困惑した。助けを求めるように、ママの方を向いたが、ママは姉妹の張り合いを微笑ましく横目で見ているだけで、そこに介入するつもりはなさそうだった。 「ねえ、どうするの?」  彩香は追及してきた。芽衣子はもうここまで来れば、後には引けないと思って、 「じゃあ、穿くよ」  と言った。 「本当だね。約束だよ」  と彩香はくどかった。芽衣子はうなずきつつも、 (なんか、変なことになっちゃったな。何でこんなことに……)  と嘆きたい気持ちだった。 「ねえ、ママ。お姉ちゃんがね、これからは、私の昔のパンツを穿くんだって」  と彩香は早速、ママに得意気な顔で報告した。 「あら、そうなの」 (ちょっと、待って、ママ。私は、そこまでは言ってないよ。私が言ったのは、これ一枚をもらうってことだけだよ……)  と芽衣子は思ったが、むきになって否定する程のことでもないので、黙っていた。 19 せり上がるスカート 「思わぬことで時間を食っちゃったけど、じゃあ、気を取り直して、行きましょうか」  ママは芽衣子と彩香を促した。 「うん、次は何に乗ろうね。お姉ちゃんには、もう、あまり怖くないのがいいかな。ははは」  彩香は減らず口を叩いた。しかし、ママに、 「彩香、そんなこと言わないの」  と叱られ、悪戯っぽく「えへへ」と首をすくめた。 「二人とも、もうこれ以上はつまらない言い合いなんかしちゃダメよ」 「うん」 「分かってるよ」 「じゃあ、二人で手を繋ぎなさい。仲良くするのよ」  ママから要請を受けて、芽衣子と彩香は素直にお互いの手を差し出して、握り合った。  二人がそうして歩き出すと、ママは芽衣子の横に来て、 「じゃあ、今はママは、芽衣子と手を繋ごうかしら」  と言って、芽衣子の空いている方の手を握った。 (ママは私の味方をしてくれているんだ)  芽衣子はそう思えて、気持ちが楽になった。彩香はそれを横目で見て、何となくうらやましそうにしていたが、ともかく、そうして三人は横並びになった。  しばらく、取り留めないおしゃべりをしながら歩いていると、ふと、芽衣子は太ももに違和感を覚えた。やけに股間がスースーと涼しいような気がした。 (はて?)  芽衣子は視線を下げて、自分自身を見下ろすと、スカートのウエスト部分が腰の高い位置にまでせり上がっていた。歩いているうちに、自然にずれて、そのような状態になったらしかった。見た感じとして、スカートの裾の下端は股の位置よりも上方に至っているようだった。もしそうなら、当然、パンツは露出している状態になっているはずだった。  それに気付いた芽衣子は、ギョッとなって、叫び声を上げそうになった。 (うそっ、パンツがはみ出している!?いつの間にこんなことに……。私、さっきからずっとパンツが見えていたのに、それに気付かず歩いていたってこと?)  芽衣子は慌てて、彩香側の手を放して、スカートの裾を下方へ引っぱって、パンツが隠れるようにした。 「どうかした?」  どうやら彩香は何も気付いていないようだった。 「いや、ちょっと、スカートを直しただけ」  芽衣子はそれだけ言って、また手を繋ぎ直した。  しかし、安心したのは束の間で、普通に歩いているだけでも、スカートはすぐにせり上がってくるので、芽衣子は困ってしまった。スカートのウエストの胴回りのサイズが窮屈な程にピッタリとしているので、どうしても、そうなってしまうらしかった。 (スカート、またずれてせり上がってきた……。どうしよう、今、絶対、パンツはみ出しているよ……)  芽衣子自身では直接は見えなくても、太ももや股間に吹きつける風の感覚から、そうなっていると確信できた。 20 開き直る 「ねえ、ママ。私、変じゃないかな?」  芽衣子は恐る恐るママに訊いた。 「何が?」 「何がって、私の今の姿が……」 「どうかしたの」 「えっと、スカートが……」  と芽衣子は言いあぐねた。ママは芽衣子の全身をチラリと一瞥したが、 「別に。普通だよ。それでいいじゃない」  と言っただけだった。  しかし、芽衣子はいまいち納得できなかった。かと言って、彩香の聞いている前で、「スカートからパンツが見えてないかな?」と露骨に訊くのも憚られた。 (まあ、でも、ママがいいって言っているんだから、大丈夫か……)  と自分に言い聞かせるしかなかった。  芽衣子は歩いている途中、何度もスカートの裾を下に引っぱって直したが、四六時中、そこばかり気にしてもいられないので、やむなく、パンツが見えているのを承知の上で、そのまま放置せざるを得なかった。  そのこと自体が恥ずかしいのはもちろんだが、むしろ、こんな惨めな状況に置かれてくやしいという思いの方が強かった。 (でも、おもらしした身であることを思えば、こんな処遇でも甘受しなければならないか……)  芽衣子は太ももに風を感じながら、凛とした心持ちで思った。  ただ、意外なことに、周囲の人は全くと言って良い程に無関心だった。芽衣子は、通行人からジロジロと意味深な視線を送られたり、「お嬢ちゃん、パンツ、見えているよ」と冷やかされるぐらいは覚悟していたが、実際には、そのようなことは一度も起こらなかった。 (ふーん、そうか、そんなもんなのか。私は、自分ではもう大きなお姉ちゃんのつもりだったけど、傍から見れば、まだまだ小さい女の子にしか見えないのかな)  芽衣子は安心しつつも、少し寂しいような気もした。  意外なのは、彩香の反応もそうだった。彩香はすぐそばにいて、視線も低いので、芽衣子のパンツは確実に見えているはずだった。それなのに、囃し立てるようなことを何も言わなかった。彩香の年齢と性格からすれば、自分の思った通りの本音を斟酌なしにズバズバ言うはずなので、本当に変には思っていないということがうかがえた。 (自分だけの勝手な思い込みから変にウジウジしているなんて、馬鹿みたいな一人相撲だよ)  芽衣子はそのように考えて、気持ちも少し楽になった。  また、芽衣子は彩香と一緒に駆け回ったりしているうちに、短いスカートの方が足に絡みつかなくて、動きやすくていいとさえ感じるようになった。そして、遊園地から帰宅する頃には、自分が借りもののパンツを穿いているということも忘れていた。  その日の三人でのお出かけは、ジェットコースターに乗っておもらしをしたことなど、あたかも無かったかのように、幸福な思い出として、芽衣子の記憶に残ったのだった。 21 写真の記録  数日後、芽衣子は、遊園地で撮影した写真に目を通す機会があった。  学校から帰宅すると、食卓の上に、写真の束が輪ゴムにくくられて乗せてあった。ママが芽衣子と彩香に見せるために置いたのだろう。 (どれどれ)  と芽衣子は早速、それを手に取った。  いつの間にこんなにたくさん撮ったのかと思う程にあって、二人を写した写真だけでも十枚近くはあった。芽衣子は一枚ずつ順番に見ていると、ある所でいきなり自分のスカートの色が変化したことに気付いた。 (ここでしたんだな)  芽衣子の脳裏には、その時のおもらしとお着替えの記憶が蘇った。  写真の中の芽衣子はかなり短いスカートを穿いていて、隣の彩香よりも背が高いこともあって、足の長さが引き立っていた。  さらに写真の束をめくっていくと、ある一枚で手が止まった。 (えっと、これは?)  それは、芽衣子と彩香が背中を向けて横に並んで、高い建物の手すりから身を乗り出すようにして、地上を見下ろしているという姿だった。 (こんな場所で、後ろから写真を撮られていたのか。気付かなかった)  と思ったが、そのことよりも、芽衣子の目を引いたのはパンツだった。  写真の二人は前屈みになっていたので、両者共にスカートの下からパンツが見えていた。姉妹で仲良くそんなみっともない格好になっていたので、ママは面白がって撮ったのかも知れなかった。  ただ、彩香の方は白色のパンツがわずかにチラリとのぞいているに過ぎなかったが、芽衣子の方はチラリというよりもガバリと、お尻の半ば近くまでパンツは露出していて、バックプリントのロゴも鮮明に写っていた。 (もう、ママったら、こんな所を撮らないでよね。前屈みになったら、こんな風にパンツがはみ出すに決まってるじゃない。もう、恥ずかしいなぁ……)  芽衣子は写真を見ながら、一人、心の中でつぶやいた。  写真の束をさらに手繰っていくと、別の一枚で再び手が止まった。 (あ……)  と今度は言葉もなく、芽衣子はゴクリと唾を飲み込んだ。  その写真は、芽衣子と彩香が肩を組んで立っているのを正面から撮ったものだった。そこには、芽衣子のスカートの裾と太ももの間の場所に、パンツが逆三角形にしっかりと写っていた。その瞬間は、風が吹いている様子はなく、スカートの形は崩れていなかったが、その裾の下からは、ピンク色の布地が三センチ程はみ出ていた。 (これは多分、スカートがずり上がった時の状態で撮られたんだな。間が悪いなぁ……。それにしても、こんなにもはみ出していたのか……)  その写真を撮られた時の記憶自体は、薄っすらながらも残っていた。しかし、まさかそこまで大胆にパンツが露出していたとは、今の今まで想像だにしなかった。  芽衣子は、我が事ながら、その恥ずかしい事実を知って愕然とした。そして、知らぬが仏で、どうせなら、そんなことは、ずっと気付かない方が良かったと思った。  それは滑稽とも哀愁ともつかない姿態だった。その写真の中では、芽衣子は彩香と肩を組みながら、何がうれしいのか、ニンマリとお気楽な笑みを浮かべていて、それがみっともなさをさらに強調していた。  芽衣子はそれを見て、顔を赤くした。そして、 (写真を撮る前に、一言注意してくれても良かったんじゃないの)  と今さら返らないことだが、ママに文句を言いたい気持ちになった。おもらしした罰を今になって、再度受けさせられた気分だった。 (たった一回のおもらしが、後々まで色々と、引きずるものだなぁ……)  芽衣子はしみじみと思った。  ママはすでにこの写真を見ただろう。そして、これからすぐに彩香も見る可能性は高かった。ママはともかく、彩香がこの写真を見たら、どう思うか分かったものではなかった。例えば、「あはは、お姉ちゃん、パンツ丸見えだー」などと言って、騒ぎ立てるかも知れなかった。  芽衣子は姉として、彩香には自分のこんな恥ずかしい写真を見せたくなかった。とっさに芽衣子はその二枚の写真を抜き出して、上着のポケットに忍ばせて、自分の部屋に戻った。 (さて、この写真、どう処分しようか……)  一旦は、いっそ捨ててしまおうかとも思った。しかし、たとえそれが失態の記録であっても、思い出は思い出なので、自分のためには残しておきたかった。再び目にする機会があるのかは謎だったが、芽衣子はその二枚の写真を封筒に入れて、机の引き出しの奥の方へ隠した。     * * * * *


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