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江戸山乱理
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『おねしょと神頼み』(1)

◆題名と著者 『おねしょと神頼み』 江戸山乱理 ◆あらすじ 姉の優月にはおねしょ癖があった。それだけならまだ良いとしても、妹の咲良の方が先におねしょを卒業してしまったというのは、少し困った事態だった。ある夜、神様にお願いすると、単なる偶然かどうか、妹が再びおねしょをするようになった。その結果、また優月はお姉ちゃんのような振る舞いをすることができた。ただし、優月のおねしょは治ったわけではなかったので、姉妹の関係は複雑なものになった。 ◆登場人物 優月(ゆづき)……姉 咲良(さくら)……妹 ◆目次 一章 おねしょっ子のお姉ちゃん(1ー7) 二章 紙おむつと布おむつ(8ー11) 三章 姉妹の対抗意識(12ー19) 四章 困った時の神頼み(20ー25) 五章 お姉ちゃんがお世話する(26ー35) 六章 隠蔽工作の成否(36ー40) 七章 新品のおねしょパンツ(41ー46) 八章 可愛い妹(47ー53) 九章 立場の再逆転(54ー59) 十章 妹の無遠慮な手付き(60ー66) 十一章 卒業間際の遊戯(67ー74) 十二章 過去と未来(75ー76) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 『おねしょと神頼み』 江戸山乱理 一章 おねしょっ子のお姉ちゃん(1ー7) 1  優月には悩みがあった。  今、優月は中学一年生なので、その年齢なら、悩みの一つぐらいあっても当然だ。しかし、優月の場合は、普通の女子中学生が持たないような悩みを持っていた。その悩みというのは、おねしょだった。  もっとも、厳密にはそのような言い方は正確ではない。なぜなら、優月にとって、おねしょは、幼少の頃からずっとしていたので、おねしょすること自体は、もはや日常生活の一部として、慣れっこになっていた。問題は、妹の存在である。優月には二つ年下の妹の咲良がいた。  優月と咲良の二人は、幼少期から姉妹で仲良くおねしょ癖があって、二人同時に布団に地図を描くということも珍しくなかった。しかし、近頃、妹の咲良の方はおねしょを全くしていない様子だった。どうやらすでにおねしょが治ってしまったらしいのだった。  優月の悩みというのは、その点にあった。中学生の自分はまだおねしょが治らないというのに、小学生の妹の方が先におねしょを卒業したという、姉としては実にこまった状況に置かれたのだった。 2  先月も優月はくやしい体験をした。  ある朝、目が覚めると、パジャマのズボンの股の辺りがほんのりと温かかった。 (あっ)  心の中で叫んで、パッと布団をめくると、パジャマだけでなく、敷布団にまで、おしっこはグッショリ染み込んでいた。 (しまった、おねしょだ。久しぶりに、やっちゃった……)  しばらくの間、おねしょをしていなかったので、つい油断して、おねしょパンツも穿かず、またおねしょシーツも敷かずに寝ていたので、悲惨なことになっていた。そういうものをちゃんと使っていれば、おねしょの後始末はそれ程大したものではないのだ。 (あーあ、おねしょパンツだけでも穿いとけばなぁ)  優月はおしっこに濡れそぼったパジャマをつまみながら嘆いたが、もはや後の祭りだった。  この一年ぐらいの間は、(もうおねしょ、治ったかな)と思って、おねしょパンツを穿かずに寝て、盛大に失敗してしまい、布団な中が大変な事になるということを性懲りもなく、何度も繰り返していた。  優月と咲良は、まだ自分たちの部屋を与えられておらず、一室に二人で布団を並べて寝ていた。優月はハァと溜息をつきながら、右隣の布団を見やった。咲良はスヤスヤと寝息を立てて寝ていた。 (気楽そうに寝てるなぁ)  優月が濡れた布団の上にションボリとへたり込んでいると、寝ていた咲良は、「うーん」とうめいて、目を覚ました。 (咲良って、こんな時に限って、やけに早起きするんだよな。何だろう、何か通ずるものでもあるのかな……)  咲良は薄目を開けて、すぐに優月の様子がおかしいことに気付いた。 「あれ、お姉ちゃん、どうかした?」 「……」  優月は無言で怒ったような顔で咲良をにらんだ。 「おねしょ?」  咲良は、自分もおねしょの経験があるので、すぐに状況を察することができた。 「うん……。やっちゃった……」 「そうなの。久しぶりだね」  咲良はガバリと上半身を起こして、どれどれというように、げんなりしている優月の方をのぞき込んだ。早朝の薄明りの中でも、パジャマが濡れているのは、十分見えたはずだった。 「お姉ちゃん、この前おねしょしたのって、いつだっけ?確か先週もしたよね」 「先週?先週はしてないよ」 「あれっ、違ったっけ。でも、先月は四、五回はしたよね」 (全く、つまらないことばかり、よく覚えているやつだ……) 「私ね、最近、全然おねしょしてないよ。もう治ったかも」  咲良は、お姉ちゃんがおねしょしてションボリしているというのに、自分の自慢をした。 「ふーん、そう。それなら、よかったね」  優月はさりげなく言ったが、内心ではくやしくて、ちょっと泣きそうだった。でも、妹に前で涙は見せまいと思って、グッと我慢した。 「お姉ちゃん、おねしょまだ治ってないんだから、寝る時はおねしょパンツ穿いとかなきゃダメじゃん」 「うん……」 「布団、濡れた?見せて」  咲良は優月の傍に寄ってきて、勝手に掛け布団とパッとめくり上げ、半ば強引に優月の膝を開かせた。 「ちょっと、咲良、やめて……」 「あらら、布団も濡れちゃったね、お姉ちゃん」  咲良は両膝立ちになって、へたり込んでいる優月を見下ろして言った。 3  しばらくの間、咲良は姉のおねしょ布団をジロジロ見ていた。やがて満足したのか、 「じゃあ、ママを呼ぶね」  と言って、優月の返事も待たず、 「ママー、お姉ちゃんがおねしょしたよー」  と家中に響くような声を張り上げた。それは隣の家にさえ聞こえそうな位の声量だった。 (そんな大声出さなくたっていいじゃん……)  優月は、おねしょを隠すつもりも無いし、どうせバレるのは知っていたが、そういう妹の小学生らしい無神経な行為は、正直やめてほしかった。  すぐに足音が近付いて、ガラリと襖が開いて、ママが部屋に入ってきた。 「誰がおねしょしたのかな」 「お姉ちゃんだよ」 「優月ね。ふーん、なかなか盛大にやったわね」 「盛大じゃないよ。ちょっとだもん」 「咲良は大丈夫?」 「私?私はしてないよ」  咲良はちょっと怒ったように言って、「ほら」と、自分の掛け布団をめくって、またパジャマも見せた。 「ほんとだ。えらいね」  ママはそう言って、咲良の頭を撫でた。それを見て、優月は、 (咲良だけ褒められてズルい)  と嫉妬を感じた。  ママは優月に向き直った。 「優月、あなた、おねしょパンツ穿かずに寝たの?ちゃんと穿いとけば、布団まで濡らさなくて済んだじゃない」 「ごめんなさい……」  優月は大好きなママに叱られて、悲しくなって「うっ」と泣いてしまった。ママの後ろには咲良が立って見ているのに、涙が溢れてくるのに堪え切れなかった。 「泣いたってしょうがないでしょ。今夜からは、穿くのよ」 「うん」  優月は小さい子供みたいにコクンとうなずいた。 「じゃあ、濡れたのを脱ぎなさい」  おねしょをした後は、その場で濡らしたパジャマとパンツを脱がされるというのが、昔からの習慣だった。そのやり方は、優月が中学生にあがってからも、同じように続けられた。ママから見れば、二人はまだまだ子供だった。  優月の方も、文句を言わず、されるがままになっていた。ただ、内心では、 (もう私、中学生なのに、スッポンポンにされるのはちょっと恥ずかしいな……)  と自我が目覚め始めていた。しかし、それと同時に、 (でも、まだ、おねしょしているから、しょうがないか……)  と、あきらめの気持ちもあった。 4  ともかく、今日も、妹の目の前で着ている物を脱がされた。ママに手伝ってもらいながら、パジャマの上下を脱いで、パンツ一枚になった。それは無地の水色にリボンのついたちょっと大人っぽいパンツで、優月のお気に入りの一枚だったが、お股からお尻までおしっこで濡らしてしまった。 「それも脱ぐのよ」  ママは無情に言った。 (やっぱり、全部脱がされるんだな)  優月はちょっと躊躇してモジモジしていたが、ママに促されて、自らパンツをズリ下げた。その瞬間、濡れた肌が外気に触れて、ヒヤッとした。濡れたパンツを足から引き抜いて、ママに手渡すと、文字通り一糸まとわぬ姿になった。その真っ裸のまま、ママと咲良の前に気を付けの姿勢で立った。  優月の体は、まだ思春期に入る寸前で、胸は薄く平らで、上半身も寸胴で、痩せた少年のような姿だった。ただ、肌が色白なので、ピンク色の二つの乳首の鮮やかさが引き立っていた。  優月は、こんな風に裸にされるのは、ママの意地悪などではなく、風邪を引かないように、濡れた服を脱がしているだけだと知っていた。しかし、実際に裸にされる身としては、どうしても、おねしょをした罰として、裸にされているような気落ちになってしまった。  ママはパジャマを裏返したりして、その濡れ具合を調べていた。全裸で立っている優月には、それがひどく長い時間に感じられた。 (ママ、早くしてよ) 「ズボンはグッショリだけど、上着は濡れてなかったから、ズボンとパンツだけ、お風呂場でバケツに浸けておいて」  ママはそれらを優月に渡しながら、言いつけた。 「分かった。そうしておく」  毎度のことなので、優月は言われなくても、どうすればいいかは知っていた。 「じゃあ、シャワーで体を洗ってきなさい」 「うん」  優月は裸のまま、襖を開けて、部屋を出ようとした。その時、ふと部屋の中を振り返ると、何を思ったのか、咲良は笑顔で優月に手を振った。 (なんなのよ、それ。どういう意味?『お風呂に行ってらっしゃい』ってこと?)  優月は妹の子供っぽさに思わず苦笑して、よく分からないままに、相手につられて、自分も手を振り返した。 5  全裸の優月は一人、早足で廊下を歩きながら、 (私、お姉ちゃんなのに、もう中学生なのに、またおねしょしちゃった。情けないなあ……。しかも、咲良の前でスッポンポンにされちゃったし……)  と今の状況を改めて思った。少し気分が滅入ったが、 (ともかく、お風呂で体をきれいにしよう)  と気を取り直した。  お風呂場の中で、シャワーのお湯でお尻や股間を洗っていると、優月はふと尿意を覚えた。さっきのおねしょでおしっこを全部出したというわけではなかったようだった。 (どうしよう……。まあ、いいや。ここでしちゃおう)  優月は中腰のガニ股になった。お腹の力を抜くと、おしっこは勢いよくジャーと放たれた。思ったよりもいっぱい出て、おしっこは風呂場の床にボトボトと落ちた。 (はぁ……)  優月はいい気持になっていると、不意に、 「優月」  とママの声が風呂場の扉の外から聞こえた。優月は体をビクッとさせて、姿勢を元に戻したが、おしっこは止められなかった。 「な、何?ママ……」  優月はさりげなさを装って、訊き返した。 「布団、干しておいたよ。それと、新しいパンツ、出しておいたから。ここに置いとくから、穿きなさい」 「う、うん、わかった。ありがとう」  おしっこは、ママが去っても、まだ股間から出続けていて、内ももを伝って落ちていた。  優月は、改めて下半身をシャワーで洗い流して、風呂場から出た。  脱衣所の棚にはタオルと替えのパンツが置いてあった。手に取って見ると、それは、ピンクの水玉模様があしらってあり、フロント部分にはアニメのキャラクターがプリントされているパンツだった。 (あ、このパンツか……)  優月と咲良は、背丈が同じぐらいだということもあって、下着を共用していた。そのパンツは、優月も咲良も、幼稚すぎて穿くのが恥ずかしいと思って、ほとんど使っていなかった。そのため、そのパンツは、いつの間にか、引き出しの隅っこの方に追いやられていた。 (このパンツをわざわざ選んで持ってくるって、ママはどういうつもりなんだろう。単なる偶然?それとも、何かの意味があるのかな?)  優月は脱衣所の鏡の前で、そんなことを考えながら、体を拭いた。 6 (このパンツ、穿こうかな。どうしよう……)  優月は自分の全裸を鏡に映しながら、迷っていると、背後に鏡越しにママの姿が見えた。優月は振り返って、「ママ、このパンツなんだけど……」と訊こうとしたが、ママの話の方が一瞬早くて、遮られてしまった。 「優月、干した布団は、夜までに取り入れるのよ。忘れないでね」 「うん、分かった」  優月は答えて、再度、「このパンツは……」と言おうとすると、今度は、 「お姉ちゃん」  と言って、咲良の邪魔が入った。咲良はママの後ろに付いていて、脱衣所にまで入ってきて、 「お姉ちゃん、私もおねしょ布団を干すの、手伝ったんだよ」  と恩着せがましく言った。 (何よ、咲良。わざわざそんなことを言いに脱衣所まで来たの?私、まだ裸んぼうなのに)  優月は、それも含めて、咲良のやることがシャクに障った。しかし、この場のママは咲良の肩を持った。 「優月、ちゃんと咲良にありがとうって言いなさい」 「……、咲良、ありがとう」  優月はママにそう言われたので、仏頂面でやむなくお礼を言った。しかし、咲良はそれを真に受けて、 「ふふふ、いいのよ、お姉ちゃん」  などと真顔で言ったので、優月は失笑しそうになった。 (全く、咲良は子供なんだから)  優月は咲良のあどけない顔を見つめたが、咲良も優月の全裸を正面から見返してきた。  咲良は、姉のおっぱいや下腹部に、大人の変化の兆しがないかを見るため、探るような鋭い視線を向けたが、 (お姉ちゃん、中学生になったけど、これまでとあんまり変わらないみたいね)  と安心したような、期待外れのような表情をした。 (何よ。私の胸がペッタンコだからって、文句あるの?)  と優月も負けじと、にらみ返した。 「お姉ちゃん、体、拭いたんなら、早くパンツ、穿きなよ。いつまで裸でいるのよ」 「そ、そうだね」  優月は全裸の状態なので、どうしても分が悪かった。同性の妹だが、あんまりジロジロと見られていると、やはり恥ずかしくなった。これ以上咲良にジロジロと裸を見られるよりはマシだと思って、優月は手に持っていたパンツに足を通した。 「あっ、そのパンツは……」  咲良は声を上げた。それがどういうパンツなのか、一目見て分かったらしかった。パンツ一枚の姿の優月に、 「お姉ちゃん、私はもうそのパンツは穿かないと思うから、それ、お姉ちゃんのものにしていいよ」  と言った。  これは親切のようで親切ではなかった。 共用のパンツのうちの、ダサい一枚が優月の物になるといことは、当然ながら、その交換条件として、別のオシャレな一枚が咲良の物になるということを意味したのだった。 7  優月はパンツだけ穿いて、脱衣所から出ると、 (そうだ。一応は、干されている布団を一目見ておこう)  と思い立った。  パンツ一枚の下着姿だったが、ずぼらして、そのまま縁側からサンダルをつっかけて、庭に下りた。おねしょ布団は、裏庭の物干し竿にかかっていて、朝日の中で照らされていた。 (もう結構、日差しが強いな。これなら早く乾いてくれそう)  明るい所で見ると、布団の表面のおしっこの濡れた模様は丸わかりだった。かつて何度もしたおねしょの跡は歪な年輪みたいになっていて、その上にややずれて重なって、今朝のおねしょの染みが見えた。その大きさは手の平二つ分ぐらいだった。 (この端っこの辺り、もう乾きかけてるな……)  今朝のおねしょが乾けば、もう一つの染み跡の模様がそこに加わるはずだった。  突然、庭の生垣の向こうの路上から、ザッと足音がしたので、優月は素早く布団の陰に身を隠した。路上からは、生垣の木の隙間を通して、のぞかれる可能性があったので、優月は人影が去って行くまでそこに潜んでいた。  路上からは、余程注視しないと、庭の布団のおねしょまでは見えなかった。しかし、隣家からは目と鼻の距離で、おねしょ布団は丸見えの位置にあった。 (隣のおばさんは、このおねしょ布団に気付くだろうけど、まさか私の仕業とは思わないだろうな。きっと、咲良の仕業って思うだろうな)  濡れ衣を着せられるであろう咲良には、ちょっと同情した。しかし、すぐに、隣とおばさんとママは仲が良くて、よく塀越しに世間話しているのを思い出した。 (ママは本当ことをしゃべってしまうかも?)  そんな他愛もないことを考えながら、布団の乾きかけの変色した部分を触っていると、縁側に立ったママの姿が視界に入った。 「こら、優月。女の子がそんな格好で外に出たらダメでしょ」 「すぐ戻るよ」  優月は急いで縁側に上がった。 「もう、優月はお転婆さんなんだから。外の人に裸を見られちゃうじゃない」 「だって、このパンツ可愛いから、見られても構わないもん。えへへ」  優月は、媚びるように笑ってごまかした。 「まあ、そんなへらず口を言っちゃって。そんな悪い子はお仕置きをしてあげます」  ママはわざとらしく怒ったように言うと、意外と強い力でガッシリと優月の肘をつかんで、背後から優月のお尻をパンツの越しにポンポンと叩いた。 「あぁん、やめてよぅー」  優月は、このやり取りがおふざけだと分かっていたので、笑い崩れながら、お尻をかばって逃げる振りをして、うれしそうな悲鳴を上げた。 二章 紙おむつと布おむつ(8ー11) 8  たとえ優月がおねしょしても、ママの対応はやさしく、愛情に満ち溢れたものだった。優月もそれに甘えられた。しかし、問題は、やはり妹の咲良だった。  その夜も、咲良の差し出がましい行為で、優月はちょっと腹立たしい思いをした。  優月は、言われていた通り、夕方におねしょ布団を屋内へ取り入れた。幸い、一日中晴れていたので、すっかり乾いていて、布団からはお日様の香ばしい匂いがした。  寝る前に、パジャマ姿の優月は、新しく増えた染みを一人、観察して、 (あまり大したことでもなかったな)  と思っていると、お風呂上りの妹が部屋に入ってきて、横にしゃがんで、一緒に布団をのぞき込んできた。 「おねしょ、乾いた?」 「うん」 「どれどれ」  と言って、布団の表面を撫でた。  二人とも、いく度とないおねしょの跡の残った布団に寝ているのだが、どちらかというと、優月の布団の方により濃密な模様が描かれていた。 「ふふ、お姉ちゃんの布団の方が、おねしょの跡が多いね」 「そうかな、同じぐらいでしょ」 「いやー、お姉ちゃんの方が多いよ。だって、ほら、一、二、三……」  と数え出した。  優月は咲良の子供っぽいこだわりに、苦笑した。しかし、内心では、優月も同意見だった。妹よりも体格が大きいから、おしっこの量も多いだろうし、おねしょの回数自体も多いから、そうなって当然だった。 「もう、いいでしょ。ね」  優月は、指でなぞりながら染みの跡を数えている咲良を押しのけるようにして、そこに掛け布団を被せた。 「あーん、数えてる途中なのに」 「もう、寝るよ」  優月は掛け布団を整えていると、いきなり、背後からお尻を揉まれた。「ひゃっ」と叫んで振り返ると、咲良がニヤニヤ笑っていた。 「何よ」 「ちゃんと、おねしょパンツ穿いてるね、えらい、えらい」 「だって、今日は、穿いて寝るようにって、ママに言われたんだもの」 「ねぇ、でも、それって、おねしょパンツなの?」 「そ、そうだよ……」 「ホントに?ウソでしょ」 「ウソじゃないよ」 「そうかな、なんか怪しいなぁ。えいっ」  咲良は両腕を伸ばして、サッと優月のパジャマのズボンをつかんで、ずり下げた。 「あっ」  優月のズボンは足首まで下ろされて、下半身は完全に露出した。優月の腰回りは、白色のモコモコとしたもので覆われていた。優月は慌てて、その柔らかく分厚そうなものを隠すようにしゃがんで、すぐさまズボンを穿き直したが、すでに咲良はシッカリとその正体を見極めていた。 「お姉ちゃん、それ、おねしょパンツじゃないよね。おむつだよね」 「……」 「なんで今日はおむつなの?」 「だって、ママに穿かされたんだもの」  優月はちょっとムキになって反論した。 「へえー、そんなんだ。お姉ちゃんがおむつ穿いてるのって、久しぶりに見たかも」 「私がおむつ穿いたって、別にいいじゃない」 「お姉ちゃん、これからはおねしょパンツじゃなくて、おむつを穿くの?」 「違うよ、これはママに言われただけだから。もう寝るよ」  優月はもうこれ以上、咲良の相手をしたくなかったので、会話を打ち切った。背中を向けて、布団を被って、目をつぶった。後ろから咲良は何かしゃべりかけてきたが、寝たふりをして知らん振りした。 9  この家には、おねしょ対策として、おねしょパンツと紙おむつの両方が用意されていた。優月も咲良も、幼少期、まだおねしょを頻繁にしていた頃は、紙おむつの方を主に使っていた。紙おむつはおねしょした後の処理も楽だし、フワフワとした軽快さも穿いていた気持ちよかった。  しかし、優月は、その点は評価しながらも、年上のお姉ちゃんという立場があって、小学校高学年ぐらいから、紙おむつを穿くのに抵抗を覚え始めた。中学生に上がってからは特にその傾向は強まった。その紙おむつのパッケージの写真のモデルの子が、せいぜい小学校低学年の子だったということも、その理由の一つだった。 (中学生になった私が、サイズ的に穿けるといえ、こんな幼い子供用の紙おむつ穿くわけにはいかないもの)  という思いが強くなった。  また、紙おむつにおねしょをした後は、ズッシリと濡れた紙おむつをママに手渡すことになった。そうすると、どれぐらいの量のおねしょをしたのかが露骨に丸わかりで、あたかも、「私、こんなにたっぷりおねしょしました」と言っているようで、気が引けた。  そういう事情があって、優月は紙おむつからおねしょパンツに移行したのだった。おねしょパンツは、おねしょの後は洗う必要があるので、ちょっと不便のようだが、わざわざママにおねしょの報告をしなくてもいいので、その点は気楽だった。  お風呂場で体を洗うついでに、自分でサッとおねしょパンツと布の生地を濯いで、物干し場に紛れさせてしまえば、うまく行けば、おねしょの隠蔽もできたのだった。  高学年からは、おねしょをしたとしても、ちょっぴりで済んで、大量にもらすことはまれになったので、優月は専らおねしょパンツを使っていた。今では、家族旅行とか車でのお出かけの時などのみに、紙おむつを穿かされていただけだった。 (そういう場合は使い捨ての紙おむつの方が便利だもんね)  と優月も納得していた。  今夜のように、おねしょした翌日にも、紙おむつを穿かされた。ママは、 「立て続けにおねしょするかも知れないからね」  と優月に言っていた。どうやら、ママはおねしょパンツよりも紙おむつの方を信頼しているらしい。しかし、優月自身は、 (おねしょの罰として、私が嫌がっている紙おむつを穿かせているんじゃないのかな?いや、それとも、おねしょパンツなら、おねしょを自分で始末して隠せるから、それをさせないように、紙おむつにさせたのかな?)  などと、色々と邪推していた。 10  紙おむつを穿いて寝るのは、久しぶりだった。しかし、それは思っていたよりも軽く薄くて、 (万が一、おねしょしても、こんな頼りないもので、ちゃんと吸い込んでくれるのかな)  と優月は、寝床の横たわりながら、ちょっと不安になった。おねしょパンツの布パッドの重厚な感触を懐かしく思い出された。 「お姉ちゃん」  と咲良はまだ起きていて、また話し掛けてきた。ウトウトと寝かかっていた優月は起こされた。 「んー?」 「ママはお姉ちゃんになんて言ってたの?」 「『この三日間ぐらいは、紙おむつを穿きなさい』だって」 「どうして?」 「私、またおねしょするかも知れないでしょ?用心のためだよ」  優月は半分眠りながら、他人事のように言った。 「ふーん、でも、紙おむつ穿いてれば安心じゃん」 「うん、そうだね……」  優月はここまで返事して、そこで寝入ってしまった。  翌朝、優月は目を覚ますと、 (何か涼しいな)  と思った。見ると、掛け布団がまくられていて、隣から咲良の手が伸びて、おむつ越しに自分の下腹部がまさぐられていた。 「咲良、何してんの……」 「あ、お姉ちゃん、起きた?もしかして、おむつ濡れてないかなと思ってさ……」  優月は自分でその辺りに神経を集中して、濡れていないことを確信してから、 「そんなわけないでしょ」  と強気に言って、咲良の手をはねのけた。 11  それからの三日間は、幸い、おねしょすることなく経過した。  ただ、三日目の早朝に、ちょっとした事故が起きた。  夜明け前に、優月は尿意で目覚めた。もしやと思って、おむつの中を探ったが、乾いていたので、 (よかった。おねしょせずに起きられた)  とホッとしたが、おしっこの方は切羽詰まっていたので、喜ぶ間もなく、ガバッと跳ね起きた。ガラリと開けた襖を開けっ放しにして、お手洗いへ向かった。  お手洗いには余裕で間に合うはずだった。しかし、辺りがまだ暗かったので、床にほっぽり出されていたカバンのような物体があって、それにつまずいてしまった。  優月は勢いあまって、前につんのめりそうになった。とっさに足を踏み出して、畳に手をついて、辛うじて転びはしなかったが、その瞬間、我慢していたおしっこがジョバッともれた。 (あうっ、ダメ)  と思って、お腹にグッと力を入れてたら、おしっこはそれ以上は出なかった。しかし、おむつの内部には、温かくグッショリした感触が残されていた。 (しまった……。結構もらしちゃったみたい……。あぁん)  優月は嘆きながらも、ともかく、お手洗いに入って、残りのおしっこを便器に座って済ませた。そうしながら、膝の間のおむつの中を見ると、その真ん中の辺りはシッカリと濡れていて、ごまかしようも無かった。 (せっかくおねしょなかったのに、こんなことで、おむつ濡らしちゃうなんて、運が悪いなぁ……)  優月は濡れたおむつを穿き直し、お手洗いから出て、一人ブスッと不機嫌な顔のまま部屋に戻って、また布団にもぐった。 (このおむつ、どうしよう……)  と濡れた感触を覚えながら、しばらく考えていたが、答えのでないまま、いつの間にか、寝入ってしまっていた。  その朝、優月は咲良は起こされた。咲良は習慣のように、 「お姉ちゃん、今日はどうだった?」  と訊いた。優月は、 「してないよ」  とさりげなく答えた。幸い、咲良は優月を疑わなかった。  しかし、ママにはおむつを濡らしたのがバレた。別室で優月はおむつを脱いで、ママに渡したら、ママは「ん?」という顔をした。乾いたおむつとは重さが全然違うので、不審感を持たれて当然だった。ママはおむつの内側を一目見て、 「どうしたの、これは?」  と訊いた。 「ママ、あのね、それはおねしょじゃないの。夜中にお手洗いに起きたんだけどね。行く時、つまずいて……」 「それで?」 「そのはずみで、おしっこ、もらしちゃったの」 「ホントに?」 「ホントだよ。信じてよ」 「ふーん。あっ、そう言えば、明け方、廊下でドタバタ聞こえたけど、じゃあ、あれは優月だったのね」 「うん、きっと、そうだ」  優月は、そのおもらしはおねしょではないとママに信じてもらえて、明るく叫んだ。そして、ママから「もう好きにしていいよ」という一言をもらって、今夜以降からは、紙おむつを穿くという義務をようやく免ぜられた。 三章 姉妹の対抗意識(12ー19) 12  年齢の近い兄弟姉妹は、お互いに何かと張り合うものだ。  優月と咲良のような若年の姉妹の場合は、二歳差というのは大きく、これまで優月はお姉ちゃんというだけで、多少えらそうな顔もしていたし、咲良もある程度はそれを認めていた。しかし、妹の咲良の方が先におねしょを卒業したという些細な出来事によって、その関係は揺らいで、ややもすれば、逆転しかねなかった。  ある朝のことだ。  二人は同時に目覚めた。咲良は起きると、サッサと顔を洗って、すぐ食卓についた。  優月はちょっと遅れて食卓についたが、すでに座って朝食を食べていた咲良は、優月と目が会うとニヤリとした。優月が遅れた理由は、おねしょして、お風呂で体を洗っていたからなのだが、咲良はそれを承知の上で、 「お姉ちゃん、遅かったね、何かしてたの?」  とわざとらしく訊いた。優月はさすがにムッとして、 (こういう時、そばにママがいれば、私の味方になってくれて、『咲良、お姉ちゃんをからかのはやめなさい』ときつく叱ってくれるはずなのなぁ……)  などと思った。優月は妹にからかわれて、くやしい思いをしたが、お姉ちゃんという立場がグッと我慢した。  自分の方が早くおねしょが治ったと判断した咲良は、普段何かで姉に勝てるということが滅多に無かったので、ついつい調子に乗ってしまったのだろう。優月はもう中学生だし、付き合いの長い妹のことなので、そのような心理的事情を汲み取ることができた。  また夜の食卓でも、咲良は、 「お姉ちゃん、寝る前だから、もうあんまり水は、飲まない方がいいんじゃない?」  などという口を利いた。優月は、(もう、うるさいなぁ)と思いつつも、それは正論なので、 「う、うん、そうだね……」  と言って、コップを置くしかなかった。それは親切のつもりらしく、悪意はないのだろうが、優月にはイヤミに感じた。  また、ママの目の無い所では、咲良はさらに口さがなく、あからさまにからかってくることもあった。 13  ある夜、部屋で二人は横に並べて敷いた布団に横たわっていた。  優月はすでにウトウトしていたが、隣から咲良は身を寄せてきて、 「お姉ちゃん、ちゃんと穿いてるよね?」  と言って、優月の下腹部辺りを無遠慮にトントンと叩いた。 「穿いてるよ……」 「今夜はどっちを穿いてるの?紙おむつ?おねしょパンツ?」 「おねしょパンツだよ」 「まあ、どっちでも穿いといたら、おねしょしても大丈夫だもんね」  咲良は、優月のパジャマ越しにおねしょパンツを愛撫するように手の平でさすった。  いつもなら、二人はそのまま寝入ってしまう所だが、この夜は違っていた。 「お姉ちゃん、これ、見せてよ」 「おねしょパンツを?なんでわざわざ……」 「いいじゃん」 「ん-もう、うるさいなぁ。じゃあ、ほら」  咲良は寝ながらの姿勢で、自らパジャマのズボンの前をちょっと下げて、薄ピンク色のおねしょパンツをチラリとのぞかせた。もし拒絶したら、咲良は脱がしにかかるだろうから、それも面倒なので、優月は自分から見せた。 「ふーん。なるほど、これね」  咲良は勝手にグイッと優月のズボンを引っぱって、さらにおねしょパンツ露出させた。 「そんな引っぱらないでよ」 「いいじゃん、もうちょっと見せて。ズボンを脱がすよ」  咲良は強引で、結局、優月のパジャマのズボンは膝まで下ろされた。  咲良は、優月のおねしょパンツをしばらく眺めていたが、 「ねえ、お姉ちゃん。考えてみれば、このおねしょパンツって、赤ちゃんのおむつと同じなんだよね」  とつぶやくように言った。 (イヤなことを言うやつだなぁ)  優月は内心思ったが、自分でも確かにその通りだと気付いていたので、反論をする気は起こらなかった。  優月と咲良に与えられていたおねしょパンツは、パンツとは言うものの、その形状は赤ちゃん用の布おむつと全く同じだった。その外側は防水の生地で、その内部におしっこがもれないように折りたたんだ布を敷いて、両脇はスナップボタンで留めて、マジックテープでお腹の上に固定するというものなので、布おむつと言った方が正しかった。  優月の家では、おむつカバーをおねしょパンツと呼び、布おむつを当て布と呼んでいたが、それはママの配慮で、子供達が恥ずかしがらないようするためだった。優月と咲良もその呼び名を用いていて、世間的にはおむつと言うべきシロモノを、おねしょパンツと言っていた。  それはカバーだけで着用したのなら、厚手のパンツに見えなくもなかったが、内部に布を入れると、モコモコになって、一目でおむつらしくなった。 14  優月は寝床の中で、昔の回想を始めた。 (そう言えば、これ、何年前に買ってもらったんだっけ?)  記憶に残っている限りでは、このおねしょパンツは、いわば二代目で、優月が小三ぐらいの時に新調してもらった。その時まで使っていたおねしょパンツは、頻繁におねしょを重ねたせいで、ひどく使い古されていたので、買い替えたのだった。 (でも、今思い返せば、私の背が伸びて、サイズが小さくなったからも、買い替えたのかもな……)  最初のおねしょパンツは、パンツタイプの形だったので、新しく買ってもらったものが、おむつのように前で閉じて穿くタイプのものだと知って、その時、優月はかなり驚いた。タンスに入れてあったのを見つけて、初めて手に取った時は、 (えっ、これって、赤ちゃんのおむつと同じじゃんか)  と思って、優月はわざわざそれをママの所に持って行って、自分が穿くのかを問いただした。 「これはね、こうやったらサイズが調整できるから、穿きやすいと思うよ」  とママは言ったので、優月も、 「まあ、そうかな」  とその場は納得させられた。  しかし、それ以後、優月はそのおねしょパンツを穿かされる度に、 (やっぱり、赤ちゃんのおむつみたいだなあ)  と複雑な気分になった。一方で、当時の咲良は、本人は記憶していないだろうが、あまり気にせずに穿かされていた。  それから二年か三年ぐらい経過した頃、妹の咲良もちょっと我がままを言うような年齢になって、そのおねしょパンツを穿くことをひどく恥ずかしがるようになった。 「こんなのって、おむつじゃん。幼稚だよ」  咲良はいっちょ前に言い張って、おねしょパンツよりも、むしろ、紙おむつの方を穿きたがるようになった。 「私、普通の紙おむつの方がいいよ。そっちの方ががオシャレなんだもの」  咲良が言うように、紙おむつは、ブランドによっては、なかなかオシャレなデザインの柄のものも少なくなかったのだ。  こういう経緯があって、咲良はおねしょパンツよりも紙おむつを選んだ。  一方で、優月は逆におねしょパンツを選んだ。  優月も一時期、咲良の勧めもあって、紙おむつを使った時期があった。確かに紙おむつは気持ち良いものだった。後始末も楽だったし、それよりも、おねしょして濡らしても、不快感が少ないのが紙おむつの特徴だった。しかし、快適すぎるというのも、逆に困りものだった。紙おむつにおねしょしても、自分で気付かず、そのまま寝過ごしてしまうこともよくあった。  優月は、おねしょすることに抵抗感が無くなってしまいそうで、 (紙おむつなんか穿いてたんじゃ、いつまでたっても、おねしょは治らないよな)  という気がした。  また、たっぷりの当て布を敷いたおねしょパンツには、お股がシッカリ包み込まれているような安心感があった。そういう魅力も捨てがたく、優月はおねしょパンツを選んだのだった。 15  ただし、そうは言っても、優月がおねしょパンツ派で、咲良が紙おむつ派というような単純な話でもなかった。  ちょうどおねしょパンツを買い替えた直後ぐらいから、咲良のおねしょの回数は徐々に減っていって、咲良に限っては、夜それらに頼る必要はなくなったのだった  しかし、不覚にも、優月はかなりの長い期間、そのことに気付かないでいた。咲良も自分と同じように、まだチョクチョクおねしょしているものだと思い込んでいたので、あるひょんなことがきっかけでその事実を知って、愕然とした。  その日、時刻は夜の十時前で、まだ寝るには早いので、咲良は掛け布団の上に寝転がってマンガを呼んでいた。咲良は背中を丸めていたので、パジャマのズボンの上端から、パンツのゴムらしき部分がはみ出していた。  優月は、咲良が紙おむつを穿き忘れてるのかと思って、 「咲良、それってパンツだよね?」  と指摘した。しかし、咲良は、 「うん、そうだよー」  と返事して、何事も無いように、マンガが読み続けた。 (何、その、あっけらかんとした態度は?紙おむつ穿かなくていいの?)  優月は不審に思って、ちょっと語気を強めて、 「ねえ、咲良、おねしょパンツはどうしたの?穿き忘れてるんじゃないの?」  と問いただすように言った。すると、咲恵は、読んでいたマンガから顔を上げて、ちょっと首をかしげて、 「だって、私、最近、ずっとパンツだよ」 と答えたので、優月は(えっ?)と耳を疑った。優月は思わず、 「すっとパンツなの?」  と反問した。 「うん、そうだよ」  咲良は当たり前のように言った。優月は驚いたが、顔に出さず、 「へー、そうなんだ」  と、探るように言って、相手の出方をうかがった。 「ママに『そうしてもいいよ』って言われたの」  咲良はちょっと得意げに言った。 (ホントに?そうだったの?私、全然、知らなかった……。私はまだ、ママにそんなこと言われてないのに……)  優月は、今自分が穿いているおねしょパンツの存在を感じながら、一人置いてけぼりにされたような気がした。 16  優月は机に向かって勉強していると、背後では咲良が何やらガサゴソやっていた。タンスの引き出しをいくつも開けて、その中身を床の上に広げてた。 「何か探しもの?」 「ううん。タンスの整理をしてるの。物が多くてさ」 「そうかー。私の持ち物も、もうちょっと整理しなきゃな」  姉妹の部屋の中央には大き目のタンスが置いてあった。姉妹は一つの部屋で、そのタンスも共有していた。  その中には、姉妹共用の服も、それぞれの個人の持ち物も入っていた。そのタンスを巡っては、新しい服を独り占めしたとか、個人の領域の物を勝手に触ったとかで、何かとケンカのタネになっていた。  咲良が高学年になると、服やら物やらが増えてきて、そのせいで近頃は特にその言い争いは頻繁になっていた。優月も何とかして欲しくて、ママに苦情を訴えたことがあるが、ママは「もうすぐ二人に個室を用意するから」と約束してくれた。優月は、それを楽しみに、今は何とか我慢していた。 「お姉ちゃん。これ、お姉ちゃんに上げようか」  と咲良は優月の背中に話しかけた。 「何を?」  優月は机に向かったまま訊いた。 「これ」 「だから、何を?」  優月は振り返ると、咲良は紙おむつのパッケージを掲げて見せていた。 「これ、かさ張って邪魔でさ。私は滅多に使わないから、お姉ちゃんが持っといてくれない?」 「咲良は、もう使わないの?」 「うん、多分、使わないと思う」 「そう、じゃあ……」 「いい?もらってくれる?」  咲良はそのパッケージを持って来て、優月の勉強机の上にドサッと置いた。  優月は、妹の持ち物ということで、そのおむつに勝手に触るのは遠慮していたので、こんな間近に見たのは久しぶりだった。それは使いさしで、すで半分ぐらいに減っていたが、それでも抱える位の大きさはあった。 「ちょっと、咲良。今、こんな所で貰ってもこまるよ……」 「じゃあ、タンスに入れとこうか。どこに入れる?どこでもいい?。ええっと、どこか開いてる場所は……」  咲良は、自分には不必要になった紙おむつを優月に押し付けて、自分の引き出しの整理整頓をしたかった。一方的に咲良は、優月が紙おむつを受け取ったと見なして、優月の引き出しを勝手に開けて、空いている場所を探し始めた。 「ねえ、勝手にそういうこと、しないでくれる?」  優月も立ち上がって、タンスの引き出しをいくつも開けたり閉めたりして、それが入りそうな場所を探した。しかし、そんな大きな物を入れる空きはなさそうだったので、入っている物を無理矢理に片側に寄せて、なんとか場所を作って、そこへ押し込んだ。  結局のところ、紙おむつの収納場所が、咲良の引き出しから、優月の引き出しへと移動しただけのことだった 「やったぁ、大分空きができた」  咲良は、自分の引き出しにその分だけ空きができて、喜びの声を上げた。 17 「お姉ちゃん、ついでに、これももらってよ」  咲良はおねしょパンツを見せた。  二人のおねしょパンツは色違いだったが、もっと区別しやすいように、優月のものにはウサギのアップリケが、妹のものにはパンダのアップリケが縫い付けられていた。優月は久しぶりに、咲良のおねしょパンツを見て、懐かしく感じた。 「咲良のおねしょパンツには、パンダさんがついてるんだったね」 「うん。そうだよ。これも、お姉ちゃんに上げるよ」 「いいの?」 「うん、だって、お姉ちゃんのおねしょパンツは、何だか、ポロくなってるんだもの」  咲良はそう言って、引き出しから勝手に優月のおねしょパンツを取り出して、二枚を横に並べた。二枚を比較すると、確かに咲良の言う通りだった。優月のおねしょパンツは、長年の酷使で、生地は色褪せて、全体的にくたびれていた。 (そりゃあ、私の方が、たくさんおねしょして、洗濯の回数も多かったんだから、こうなるでしょ) 「私のおねしょパンツの方が新しくて、いいでしょ?ね、お姉ちゃん」 「そ、そうね」 「あげるよ」 (うーん、まだきれいっていっても、咲良のだもんな……。妹のお古をもらうっていうのは、姉として、ちょっとイヤだなぁ……。それに……)  優月は咲良の本音に気付いていた。  おねしょパンツの一枚や二枚など、引き出しの奥に入れておいても、何の妨げにもならないはずだった。しかし、おねしょパンツを優月に譲り渡せば、邪魔な当て布も一緒に押しつけることができるので、その分だけ、タンスの咲良の領域が広がるはずだった。  おねしょパンツの中に敷く当て布は、姉妹の共用物という扱いだった。しかし、咲良は以前から紙おむつを使っていて、優月だけが当て布を使用するという状態が長く続いていた。そのため、咲良としては、おねしょパンツを含めて、当て布を優月の引き出しに移動させたかったのだろう。 (咲良は、それを狙ってるんだろうな……)  中学生の優月は、それぐらいの洞察ができた。また、それとは別の心配もあった。 (そういうことを私たち二人で勝手に決めてもいいのなか?、ママに訊かなくちゃダメんじゃないの?) 「ねえ、受け取ってよ」  咲良は強引だった。優月はタジタジになりながらも、 「それはママに聞かなきゃ分からないよ」  と言って、おねしょパンツをもらうのは、いったん保留にしておいた。 18  最近は色々と大変な出来事があって、優月は気分のくさくさした日々を送っていた。  悪いことは続くもので、今日も気まずい思いをさせられた。  寝る前に、部屋で優月がおねしょパンツに替えようとして、ズボンを脱いでいると、いきなりガラリと襖が開いて、咲良が入ってきた。 (わっ、こんな時に咲良が。間が悪いな……)  お互いに着替で下着姿を見せるのは日常の一コマだった。しかし、近頃は、夜におねしょパンツを穿くのは優月だけなので、やはり気持ちが萎縮した。咲良は着替え中の優月をチラリと見て、 「私もパジャマに着替えよう」  と言って、普段着を脱ぎ始めた。上下をサッと脱いで、パンツ姿になって、パジャマを着始めた。  優月の場合は、そう簡単には済まず、もうちょっと手間が必要だった。  まずは、優月は、おねしょパンツを床に長く伸ばして、その内側にピッタリと当て布を敷いた。 (咲良が見てるのに、イヤだな……)  と思いつつも、しょうがないので、ズボンもパンツも脱いで、下半身はスッポンポンになって、そのおねしょパンツの上にヨイショと裸のお尻を乗せた。当然、その瞬間は、素肌の股間を露出して開脚するという格好になった。恥ずかしいので、なるべく素早く、丸出しのお股をおねしょパンツの前当てで覆って、左右をスナップボタンでパチンバチンと留めて、最後にマジックテープで固定した。ようやく穿けると、優月はホッと息をついた。  いかに慣れているとはいえ、丁寧に穿けば、一分ぐらいはどうしても掛かった。特に今日は、当て布を多目に使ったので、前を留めるのに、いつもより手間取った。  サッサとパジャマに着替え終わっていた咲良は、優月のその作業を、「今夜もおねしょパンツ、穿いてるね。おねしょっ子は大変だね」というような表情で眺めていた。 19  その後、二人はいつものように、隣同士で並んで寝た。 「お姉ちゃん、今夜はどうかな、おねしょしそう?」 「うーん、どうかな、しなければいいんだけどね……」  優月は歯切れの悪い言い方をした。「しない」と断定したい所だったが、そうとも言い切れなかった。なぜなら、この二日間、連続でおねしょをしたからだった。 「おねしょしてもいいじゃん、これ穿いてるんだからさ」  咲良は、優月の掛け布団の上から、おねしょパンツの辺りに狙いをつけて、ポンポンと叩いた。咲良にとっては、しょせんは他人事なので、気楽そうだった。 「まあ、そうだけど……」 「お姉ちゃん、おとといも昨日もおねしょしたよね。立て続けにするのは珍しいね」 「最近ちょっと疲れてるせいかな」  優月の所属しているバレーボール部では、先週チームの再編成があって、練習のメニューも変わって、時間も伸びて、体の方はまだそれに慣れていなかった。疲労が溜まっていると、眠りも深くなって、おねしょもしやすくなるのだろう。優月は「咲良は小学生で、毎日、のん気だよね……。中学生になると、大変なんだよ」と言いたかった。  しかし、咲良は、優月のそんな気苦労も知らず、 「もし今日もおねしょしたら、三日連続だね。そうなったら新記録かな、ふふふ」  などと冗談を言った。 「はは……」  優月は相手に合わせて、力なく笑った。 「そのおねしょパンツもおしっこでビシャビシャになったら、私のを貸してあげるよ。貸すんじゃなくて、上げてもいいよ」  咲良は以前の提案を再びした。それについてのママの見解は、「好きにしたらいいよ」というものだったので、優月が「うん、もらう」と一言言えば、それだけで譲り渡しは完了するはずだった。  実は優月は態度を軟化させていて、「もらってもいいかな」と思い始めていた。咲良は、「お姉ちゃんが要らないって言うのなら、もう、捨てようかな」などと言うので、優月としては、どうせ捨てるならもらっておきたかった。  今は二枚のおねしょパンツでやりくりしていた。余程の大きなおねしょをして、おねしょパンツまでグッショリ濡れるということは、そうそうざらにあることではなかったので、それで十分回っていた。  現に今も、もう一枚の方のおねしょパンツは、裏庭で洗濯ばさみで吊られて、デロンと長く伸ばされて干されていた。それは明日までにはすっかり乾いているはずで、咲良のおねしょパンツが必ずしも必要というわけではなかった。 (でも、雨の日もあるし、もう一枚ぐらいあれば、何日か連続でおねしょしても、安心だもんね……)  と近頃の優月はちょっと弱気になっていた。 「お姉ちゃん、どうする?たくさんある方がいいと思うけどね」 「うーん、もらうかどうかは、明日の朝、返事するよ」 「どういうこと?」 「もし今夜おねしょして、三日連続でおねしょしたら、その時は、咲良のおねしょパンツをもらうことにする。それでいい?」 「わかった。じゃあ、今夜、おねしょするかどうかだね」 「うん、そうね」 「じゃあ、私のおねしょパンツの運命は、今夜のお姉ちゃんにかかっているってことか……」 「そういうこと、うふふ」  二人は布団の中で、顔を見合わせて笑った。 「おやすみ、お姉ちゃん」 「おやすみ、咲良」


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