次の日。
「なーるほど、そういうこっとっかー」
現れた人は…
黒髪短髪のヒーロー、立花将さん!…プロからFNへやってきた選手で、慧や翔の憧れの人。そして、二人に何か時をかけてくれる「先輩」だ。
「…はい、俺、どうしたらいいかわからなくて…」
「すみません、立花さん。俺もどう伝えていいのか、解決策が見当たらなくて…」
「はっはー!気にすんな気にすんな!そういう時に皆の希望になるのがヒーローってね!」
立花はそう言うと、ウィンクをする。
「…ところで、今日は慧と翔の二人だけど…竜と翼は?二人も慧と一緒によくトレーニングしていたんだろ?」
「あ、はい!竜は今日試合で、翼は昨日の試合のダメージが大きかったみたいで…」
「あー、なるほどな。翼も今、色々と悩み時だからなあ…」
「そうなんです…か?」
「まーな。あいつのボクシング観てると慧と似たような悩みを持っている気がしてね」
「…となると、どう進化するか、みたいな…?」
「そそ。あいつはラーニングを武器にしてっけどさ、ラーニングなんていわば二番煎じだ。びっくりどっきりでだす奇襲にはなるけれど、上級ランカーになればなるほど通用しねえ、どころか『あいつの技か』って対策されるのがオチだからな。…昨日の試合も結構こっぴどくやられてたし」
「…そ…っか。翼も悩んでいたのに…」
「慧、気にするのはいいけれど…まずは自分自身もだ。他の二人もいれば丁度良かったが…まあ、いないなら仕方ねえ!とっておきの特訓といくか!」
「特訓…ですか?」
「おうおう!オレが昔よくやってた特訓だ!きっと、何か新しい戦い方を見つけるカギになる!翔、もちろん手伝えよ!」
「はい、もちろんです」
「よろしくお願いします、立花さん!」
「んじゃ、行くとしますか!———常夏の砂浜!俺の知ってる秘蔵のビーチへ!」
「うわあ…!」
「すごい…!」
「へっへー、どうだ、慧、翔!いい車だろー!」
立花さんの車…種類は詳しくわからないんだけど、ピッカピカの軽自動車!立花さん、確かに昔はアマチュアでヒーローって呼ばれていてTVとかの出演も結構していたからそれなりに持ってるものは持っている、ということなんだろう。あの後すぐ、俺は立花さんの車で翔と一緒にドライブへと出かけていた。
「立花さん、凄いですね!こんな車持ってたなんて…!」
「だろだろー!頑張って稼いで買ったんだぜ!」
「…俺も車の免許、考えてみようかな。そう言えば、慧はバイクの免許を取るとか言ってなかったか?」
「うん、なんだか楽しそうだし、取ってみようかなって」
「なるほどな!バイクもいいよなー。オレもちょっとバイク考えたんだよな!」
「まあ、落ち着いてからになりそうですけどね。そうだ、立花さん。今日の秘密のトレーニング…ってなんですか?」
「俺も気になっていました。水着を持って来い…とは言われて用意してますけど、プールですか?あ、でもプールなら天祥市でもいいわけか。ここはもう天祥市の外だし」
「ふっふー、もっといいところだ!誰も知らないオレ専用ともいえるあの場所!それは———ここだ!」
「これは…!」
「すごい…!こんなに綺麗なのに誰もいない…!」
「そう!秘密のビーチ!いわゆる穴場ってやつだ!車の免許取りたてでドライブしているときにたまたま発見してなー!…ってことで!二人とも、着替えしてさっそくやるぜー!」
こうして辿り着いた立花さんおすすめの秘密のビーチ。少し厚い藪を抜けたその先には綺麗な砂浜、青い海。そして、誰もいないビーチ。
「…誰もいないのが不思議な感じだねえ」
「ほんとだな。天祥市の近くには海がないから…なんだか新鮮だな」
「だねえ。…にしても、翔…その水着…」
「なんだ?動きやすさ重視にしたんだが…」
「いや、ブーメラン…まあ、いいけど…」
「よーっし!二人とも、こっちこっちー!…これから特訓!慧の特訓すんぞ!」
「…はい!頑張ります!」
「慧、気負い過ぎるなよ」
「大丈夫!立花さんだって力貸してくれるんだもん。強く…強くならなきゃ…!快の為にも…」
「慧…」
不安そうにする翔の肩を立花がポン、と叩く。
「心配すんな、翔。…任せとけ」
「立花さん…」
「ってことで!まずはそうだなー。慧の課題についておさらいしておこうか。テオとの試合があって、慧は負けた…その時に、今までのパワーで押し切る戦い方に限界を覚えた…ここまではあってるか?」
「…はい、その後、燈也との試合で、あんまり腑抜けた試合してると弟を返してもらえないぞって…」
「そかそか。なら強くなればいいだけの話ってやつだな!で、具体的な方向性が見つからないと」
「…はい」
「俺や竜とスパーリング、トレーニングをしてみたんですが、どうしても突撃してしまう癖が抜けなくて」
「ふむふむ。慧としてはどうしたいと思ってる?」
「えっと、とにかく突撃するのをやめよう…って思ってて。試合中、俺、どうしても以下に突っ込むか!ってことに頭を使う癖があるんです。被弾は我慢して、耐えて、一撃でも入れれば勝てる!って。でもそれも通じなくなってきたから、とりあえずってところで…」
「なるほどな。んじゃ、大体のことは聞いたから…まずは翔とのスパーリング、見せてもらっていいか?」
「はい!翔、よろしく!」
「ああ、任せろ」
「リングの代わりに砂地に線を引いて…っと。これでよし!あ、翔はあまり手を出さずに頼むな」
「はい!…なんだか水着でのボクシングも不思議な気分だな」
「そう?って翔はブーメランだからそんなもんか」
「っつーか、オレも突っ込むかどうか迷ったけど…翔、そう言うの履くんだな」
「?動きやすくていいかと…」
「ま、まあ、ポロリしないようにしてくれればいいさ!…しても人いねーから大丈夫か」
「大丈夫ですよ、立花さん。…慧に俺は倒せませんから」
ピクッ!
「言ったな、翔」
「ふ。その気になったら来い、慧」
「よーっし!目にもの見せてやる!」
「よしよし、エンジンかかったな。…んじゃ、行くぜ、二人とも」
そして、砂浜の大地の上。
「Box!」
「うおおおおおっ!」
俺は砂の大地を蹴り上げ、翔とのスパーリングへと走っていった。
…のだが。
「ふっ!」
ドスゥゥゥゥゥッ!
「がっ…!?」
「…ここまで、だな。二人とも、ストップストップー!」
立花さんが俺達の間へと割って入った。そしてそれと同時、俺はガクッと砂浜に膝をついた。
「はあっ…はあっ…!」
「大丈夫か、慧」
「く…ぅ…悔しい…!」
「ははっ、翔の圧勝だったな。ほら、慧ゆっくりと立てるか?…あっちの木陰に座って、水分取るか」
「はい…」
「よしよし。…今のスパーリング、見させてもらった。で、だ!オレの思う慧の今後の強化プランだが!」
…ごくっ
「正直、変えなくてもいいんじゃね!?」
「…え?」
「いやー、慧はオレとも試合してるだろ?あの時と今のスパーリングを見てみたんだけど…感想としては、正直癖が相当強いな!っていうのが本音」
「…やっぱり…」
「だからこそ、それを消すような真似はよくないと思うんだ」
「でも、それだと…」
「そう、そこが問題。その戦い方『では』倒せなくなってきた。だからこそ、その戦い方を持ったうえで、パターンをもっと増やせばいいんじゃないかな」
「…なるほど。パワーでは勝てないから、とそれを捨ててカウンターとかステップに走るんじゃなくて…」
「それも使いながら新たな戦い方…」
「そそ。確かに、FNはパワー自慢多いから、パワー『だけ』の今の慧の戦い方はきついと思う。だからこそ、パワー一本じゃなくて、さまざまなバリエーションを増やせばいいと思うんだ。…どうだ?」
俺は思わず翔を見た。…確かに、これなら…行けるのかもしれない。
「ただ、これは正直めっちゃ大変だ。パターンが増えるってことはそれだけ覚えて体にしみこませることが増える。さらに、それを見極めるだけの試合中の冷静さも必要だ」
「……でも」
「おう」
「それでも、俺は…!それ、やってみたい…!」
「なら、いいんじゃないか?夏休みの間、とっことん付き合うぜ!…翔もいいよな?」
「もちろんです」
「よし、ならばさっそくだ!基礎トレーニングから行くぞ!砂浜での走り込み!」
「はい!」
「俺も一緒に…!」
「おーっし!そんじゃ、強化プログラム!始めるぞ!」
「はあっ!はあっ!」
「慧、もっと速く!走れ走れー!」
「は、はい…っ!」
砂浜でのトレーニング。立花さんはよくやっていた、というこれ。
(思った以上に…きつい…!)
始めてやってみたわかる砂浜での体を動かすきつさ。スパーリングの時はあまり感じなかったが、こうやって走り込みを何度も何度もしていると想像以上に体に負荷がかかる。———砂に足を取られることへの筋肉の負荷、スタミナの消費。沈む砂を踏みしめることで生まれるバランス感覚。さらに、単純な精神面の問題。慣れない砂場、消費するスタミナ、悲鳴を上げる筋肉。そんな中、暑い日差しに照り付けられくじけそうになる気持ち…
(想像以上にきつい…けど…!)
ふと、前を見ると俺と同じように走り込んでいる翔。そして、頑張れと声をかけてくれる立花さん。
(皆が…見てくれてる…!くじけてなんか…いたくない…!)
俺は必死に砂浜を駆け抜ける。そして———
「うっし!じゃ、次は慧、オレとミットな!」
「はい!」
「オレが知ってるパターン、全部覚えてもらうつもりだから、そのつもりでな!」
「はい!よろしくお願いします!」
「おっしゃ!んじゃ、行くぜ!ワンツーから!」
「シィッ!」
バシィィィッ!
俺の青いグローブが立花さんのミットを貫き、自慢の長い髪の毛がさあっと揺れた。
(そうだ…そうだ!快の為にも…俺は…!快のため…快の…!)
【続く】
☆イラスト
・yukibouさん