「なるほど、あんたが畔柳社長が言っていた武者修行の…秋山凛君、ね」
2つ目の試合もなんとかこなし、次の地下格闘技場へ出向いた凛。そこのオーナーとの会話。
「っス!ここでも試合させてもらえると聞いて!よろしくお願いします!」
「…あんた、ボクシングとかの格闘技経験は?」
「0っス。FNで試合したくらいっすかね」
「ふぅん…畔柳社長も、そんな雑魚よこしてくるとは…ずいぶん見くびられたもんね」
「なっ!?雑魚…!」
「そーよ、雑魚よ」
「なめんなよ!こう見えても結構色んな奴に勝って来てんだ!」
「そーじゃなくて。…今のあんたはデータ上では『強いという判断要素がない』って言ってんの」
「…え?」
「あんたがFNでどんな戦績を上げてるのか知らない。そんな状態で格闘技経験0で試合も少し…としたら、雑魚って言われても仕方なくなーい?」
「う…ま、まあ…そう…だけど…」
「こういった格闘技経験の長さだとか、戦績の積み重ねとか。そういうものってのはマッチメイクをする側にとっても大切なものでね。『強さ』っていうものにそう言うデータがつけばつくほど、その選手は彩られていくの。…畔柳社長は、きっとあなたにそういう色を付けて来いっていう意味でも送り出したのね。地下格闘技場の武者修行制覇…なんて、私でも使いたいわ」
「あー…」
「で?一つ質問。あなたは何で強くなりたいの?」
「そりゃ!伝説を残せる男になりたいからっすよ!」
「ふーん、伝説、ねえ?伝説のこしてどーすんの?」
「えーっと…」
「そもそも、なんの伝説残すの?連敗記録の伝説?」
「ち、ちげえ!えっと…!」
「はーあ。やっぱ空っぽボクサーね」
「か、空っぽだとぅ!?」
「そーよ。経歴もなし。武者修行も1勝1敗。伝説になるーだなんて口では言うけど、その実具体的な目標もなし。…空っぽなあんたの相手はこいつで決まりね」
そういうと、女オーナーは投げ捨てるように凛に1枚の紙を渡した。
「えっと…なんだ?宇野隆之…空手有段者…?」
「今日のあんたのこの後の対戦相手よ」
「って!空手有段者とかマジかよ!?」
「マジよ。宇野隆之。空手有段者でそのパンチ力はたいしたものもある。でもね、真っすぐ行ってぶっ飛ばす、そんなことしかできない選手でね。ぶっちゃけ、試合に花がないの。…空っぽのあんたにはピッタリなんじゃないの?」
「ぐ…ぐぬぬ…!」
「ま、宇野との試合で面白いもの見せてくれるようなら、このままもう1戦、うちで格がつくような相手を考えてあげるわ。———精々がんばりなさい」
『レディィィィスッ!エェェンドッ!ジェントルメェェェェェェンッ!今宵!あのファイティングナイトより刺客がやってくる!赤いグローブをつけた名もなきボクサー!秋山ぁぁぁぁぁッ!りぃぃぃぃぃぃぃんッ!』
———FNよりも小さなリング。
(誰が空っぽだ!見てろよ、あのババァ!)
凜は鼻息荒くリングインをすると、大きく両手を上げる!
「見てろよ!オレは!伝説になる男だからなぁッ!」
マイクアピール!それとともに湧き上がる観客!
(よぉしっ!掴みはバッチリ!あのババァにオレが空っぽじゃねーって見せつけてやる!)
試合はリングインより始まっている。凜は手ごたえに、ふん!と鼻息を荒くすると———!
『さあ、刺客を迎え撃つのはこの男ッ!その空手で培った拳は刺客を返り討ちにできるのか!?白いグローブが燃え上がるッ!鉄拳!宇野ぉぉぉぉぉっ!隆之ぃぃぃぃぃぃぃっ!』
出てきたのは黒髪短髪、しっかりと鍛え上げた肉体に白いグローブをつけた男、宇野隆之。宇野はたいしたパフォーマンスもせず、ただ歩き、ただリングインをし———凛を睨みつけると。
「お前が刺客…とやらか。ふん、大した事なさそうだな」
「なにをぅ!」
「俺の空手で鍛えた拳。お前には砕けん。さっさと潰してやる」
「なっ…!あ、おい!てめ!まだオレが言い返してねーだろうが!言いたいこと言って逃げんじゃねー!」
宇野はぷいっと、コーナーへ行き———マウスピースを嵌め、ロープへともたれかかった。
(…マジかよ。めっちゃ自己中じゃねえか!観客もオレも置いてきぼりにしやがって…!)
———凜はぐっと拳を握りしめた。あのババァは、あんな自己中野郎と自分を同列に扱っているのだ!伝説になる男がこんなに舐められていいのか?いや、いいわけがない!
「ぜってー!負けられねえ!」
凜はぐっと拳を突き出し、宇野を睨みつける。———宇野はそれすら目に賭けず、ただ目を閉じ集中するかのようなしぐさを見せると。
カーンッ!
ゴングが鳴り響くのであった…。
【続く】