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ミケ空
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路地裏の悲劇

「おい、悠馬!そっちにザッキー共が行きやがったぞ!」

「任せろ!ハーリーは東方面を頼む!」

「わかりました!」

 最近天祥市にはびこる謎の組織『CoS軍』。その正体は「蛇我(じゃが)総帥」と呼ばれる男を中心としたプロレスラー誘拐組織。その目的は今のぬるいプロレスを粛清し、命と命を懸けて殺し合うプロレスを展開するために宣戦布告をした半ばテロリスト。CoS軍の雑魚兵士、ザッキーは今日もプロレスラーを襲い、捉え、自分たちのいいように洗脳する———だが、それを防ぐために戦うのが「プロレススター」と呼ばれるプロレスヒーローとなった悠馬たち。

「このっ!」

 ぐぎぃぃぃぃぃぃっ!

「あぎゃああああああっ!?ギブ!ギブ!ギブしますからああああああ!」

 ハーリーは東方面に群がるザッキーたちをプロレス技で殴り、投げ、あるいは絞め上げ———見える範囲、全滅させるとふうと息をついた。

「よし、こんなもんか。…プロレススターになって、プロレスで街を守る…まさか、本当にこんなことになるなんてな」

 ギブアップすると洗脳と強化が解ける。ハーリーたちはザッキーがみるみるうちに力を失っていくことを確認、その場から立ち去ろうとした、その時だった!

「ほう、お前が我々の施設から逃げ出したプロレススターの一人か」

「誰だ!」

 ———古びた建物の奥から、ガタイのいい男が現れる。だが、その瞬間!


「ッ!」

(なんだ…この…威圧感…は…!?)

「ふふ…俺の名前を知らぬか。いいだろう、教えてやろう。俺の名前は『蛇我』。Cお前たちが倒すべきCoS総帥よ」

 ハーリーは思わず身構える。…蛇我総帥。まさか、ラスボスとも呼べる相手がここに来るとは思わなかった。

「最近手下どもの成果が芳しくない、とのことで見に来たが…なるほど、プロレススターの力を使いこなしているようにみえる」

 蛇我はにいっと笑みを浮かべると、悠然とハーリーへと大股で近づき———

「くっ…!」

 ハーリーは、それに気圧されるように一歩、また一歩と後ずさる。

「どれほどのものか、実際に見に来たが…まだまだひよっこよ。貴様ではCoS軍は倒せん」

 ハーリーの本能が告げる。この男に挑んで勝てるのか?———否。ハーリーはこの男に、CoS軍総帥の蛇我に何をしても今は勝つことができない。…けど!

「当てが外れたな。貴様は近いうちに、ザッキー共に葬らせてくれる。…自分の弱さに感謝するのだな」

「待て!」

 ハーリーが声を張り上げると、蛇我はぴたりとその足を止める。

「…勝負…だ…!」

「ほう?」

「CoS軍総帥!蛇我!ここでお前を倒せば…全てが終わる!お前は、俺が倒すッ!」

 ハーリーは勇気を振り絞り、そう叫ぶと———

「くっくっく。…身の程知らずが」

 蛇我はぐっと構えをとる。

「力の差もわからぬ愚か者には直々に叩き込んでやろう。…来るがいい」

「くぅっ…!負けない!」

 ハーリーは蛇我向かって走り出す!そして!

「うおおおおおおおおおおおっ!」

 ハーリーはパンチを繰り出す!———ただのプロレスラーではない、ヒーローの力を加味したプロレススターのパンチ!常人であれば吹っ飛んでしまうそのパンチだが、

「なんだ、その拳は」

 パシィッ!

「っ!?」

 蛇我はそのパンチをあっさりとその大きな手で受け止めると———

「舐めるのもたいがいにするのだなあ!」

 グギイィィィィィィッ!

「あっ…ぐっ…?!」

 ハーリーの拳を受け止めた手を強く握りこむ!ただの握力!だが、ハーリーの拳はミシミシと音を立て、ハーリーは苦悶の表情を浮かべると———

「はな…せっ…!」

 バシィッ!

 まるで暴れるかのように蹴り、蛇我はにいっと笑みを浮かべながらわざとその手を離すとハーリーはすぐさまバックステップで距離を取った。

「どうした、プロレススター。その程度でCoS軍総帥たる俺を倒すつもりか?」

「なめるなッ!」

 ハーリーは再びステップ、距離を詰める!そして!

「こんのおおおおおおおおおおっ!」

 今度は蛇我の腕を取ると一本背負い!その体を持ち上げようと力を入れるも———

「させんッ!」

 ガシィッ!

「うわっ…!?」

 蛇我はすぐさま、ハーリーの腕を取り返しその体を持ち上げると———!

「ふ…身の程を知れ」

 ゴギィィッ!

「があっ!?」

 アルゼンチンバックブリーカー!ハーリーの背骨を一瞬だけ、折り曲げると———!

「ふんっ!」

 バキィィィィィィッ!

「うああああああっ!?」

 そのままのバーニングハンマ―!蛇我はハーリーの体を地面へと叩きつけると!

「くっ…あ……ああああああっ!」

「ふん」

 ハーリーは一瞬のダメージに思わずのたうち回る。…が。

「ぐっ…うっ!がはっ!?く…そ…!」

 ハーリーはそれでも、ボロボロになりながらも立ち上がる。

「…ほう、まだ立つか。貴様、よほどの阿呆のようだな?」

「うるさい…!阿呆かもしれないけど…!ここで、お前を仕留めなきゃ…!」

「仕留めねば?」

「…俺の大好きな…プロレスラーの皆が…!攫われて、洗脳されて!」

「…貴様は我らCoS軍の崇高な考えが理解できぬか」

「当然だ!プロレスはなあ!皆で作り上げていくものであって、殺し合いじゃないんだ!そんな、洗脳みたいな手を使ってまで作る殺し合いのプロレス世界、俺は絶対に認めない!」

 ハーリーはそう叫ぶと蛇我へと駆けだす!そして!

「うああああああああああっ!」

 ドスゥゥッ!

 スピアータックル!蛇我を体当たりで押し倒そうとするも、

「く…うっ…!倒れ…ろ…!」

「ふん。口だけは立派だが———こうも実力不足ではなあ!」

 ドスゥゥゥゥゥゥッ!

「げはあっ!?」

 蛇我はハーリーの腹にケンカキック!スピアータックルで押し倒そうとするハーリーを力技でケリ倒すと———

「理解来ぬのなら痛めつけてやろう」

 ガシィィィィッ!

 蛇我は再びハーリーを持ち上げる!そして!

 ぐっぎいいいいいいぃぃぃぃぃぃっ!

「ッ!あああああああああああああっ!」

 アルゼンチンバックブリーカー!蛇我はハーリーの背骨をこれでもかと絞め上げる!そして!

「ふ…雑魚が」

 ドサァァァァァァァァッ!

「ぐあああっ!?」

 蛇我はハーリーをこれでもかと痛めつけると地面へと投げつけ———

 ドスッ!

「ぅ…!」

 その大きな足で、ハーリーの肩を踏みつけた。

「1、2…3.フォールだ、雑魚が」

 蛇我がそう宣言した瞬間、ハーリーのプロレススターの力が抜けていく。

「あ…あ…!」

 途端、ハーリーの体が大きく震えた。プロレススターの力をもっても勝てない存在、CoS軍総帥蛇我。その相手にフォールを捉え、ヒーローの力も抜けたハーリーは、いわば一般人———!

「ふ。やっと恐怖が体を蝕んできおったか。…さて、どうしてくれようか」

 蛇我はハーリーから足を退けると、片腕で胸ぐらを掴み上げ———

「ひっ…!?」

 蛇我の、その顔まで引き上げる。ハーリーは思わず、情けない声を上げる。…体の震えが止まらない。

(殺…される…!)

 ハーリーは思わず、声を張り上げたくなる衝動を抑えた———その時!

「ハーリー!どこ行った、ハーリー!」

「おい、悠馬!東ってどっちだ!」

「あっちだ馬鹿!東西南北くらい把握しとけっつの!ほら、あのビルの影!」

 悠馬と虎太郎の声が聞こえ、ハーリーはにいっと笑みを浮かべた。

「…命拾いしたな」

 ドッボオオオオォォォッ!

「があああああっ!?」

 蛇我は胸倉を捕まえたハーリーの腹に拳を一発めり込ませると、そのままドサァァッ!とハーリーを地面へと投げ捨てる。

「ぐあっ…!あ…あああああっ…!」

「ふん、CoS軍から逃げ出したプロレススターがどれほどのものか確認に来たが…この程度なら計画に支障はない。大人しくしっぽを巻いて引きこもるのだな。そして、おびえながら我が計画の成就を指をくわえてみているといい。はっはっはっはっはっはっは!」

 そして、蛇我はそう言いながら消えていくと———

「!おい、悠馬いたぞ!ハーリー!」

「ハーリー!おい、大丈夫か、ハーリー!」

 悠馬と虎太郎、二人はボロボロになったハーリーへと駆け寄った。

「!なんだよこれ、全身ボッコボコじゃねえか!」

「プロレススターの力も抜けてる…ってことは、ハーリー、敵にやられたのか…!」

「つってもよ、悠馬!ハーリーはまだプロレス初心者とはいえ、ザッキーに負けるほど弱くもねえぜ?」

「…ともかく!すぐに連れて帰ろう!ハーリー、しっかりしろよ、今連れてくからな!」

「うっし、オレがおぶってく。悠馬は敵がいねえか確認頼むわ」

「任せろ!」

 …二人の先輩に救われ、虎太郎の背中に背負われながら。…ハーリーはがくがくと震えていた。CoS軍総帥、蛇我。大好きなプロレスを殺し合いに変える、という決して相容れることができない相手。だが…だが。

(…勝てない…勝てない…!あんな…やつに…!俺は…!)

 路地裏での悲劇。ハーリーは目からボロりと涙をこぼす。その心は、蛇我の影におびえ、ボロボロと崩壊を始めているのであった…。


【続く】


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