The king of iron fist tournament。
その中で、1つの試合があった。
「年寄りに用はない。…帰れよ、じいさん」
廃墟の中のぽっかりと空いた空間。地面向きだしの言うなれば自然のリングの中。そう挑発する男は金髪をオールバックに固め、はち切れんばかりの筋肉を真っ白いシャツと赤いパンツ、そして黒いオープンフィンガーグローブで固めた男「スティーブ・フォックス」。弱冠21歳にてボクシング界では知らぬものなしのミドル級世界チャンピオンだけではなく、オックスフォード大学を飛び級で進学するまさに「天才」とも呼べる王者は、自信満々な表情で相手を指さした。…そして、
「年齢で判断すると痛い目に遭うぜ」
そう答えるじいさん、と呼ばれたこの男こそがブルース・アーヴィン。年齢は53と格闘家にしては高齢なのだが…そうとはまるで思えないほどの鍛え抜かれた筋肉に黒のモヒカン・ドレッドヘアー。それらを白のタンクトップ、黒いパンツ、拳には白いバンテージを巻いたその姿は、30半ばと言っても過言ではないほどに精強に鍛え抜かれていた。
「口の利き方に気をつけろ、この小僧が」
ガラの悪い観客達に取り囲まれた溜まり場の中。ブルースはスティーブを下から睨みつけてやると不敵な笑みを浮かべる。———スティーブはその様子にワクワクするように笑みを浮かべた。
「お前キックだろ?…このパンチに何秒耐えられるか、試してみるか?」
シッシッ!と鋭いワンツーを披露するスティーブ。明らかな挑発、それに対し、
「…なるほど」
ブルースは「乗った」と言わんばかりににいっと笑みを浮かべると———両手と左足を上げ、キックボクシング、いや、ムエタイのそれに近いファイティングポーズを取って見せた。
…そんな白熱な二人のやり取りの中。周りの観客達の反応は少し冷めたものでもあった。
「…おい、あのおっさん、誰だ?」
「さあ?随分と体は鍛えてるみてーだが…相手はあのスティーブだぜ?」
「だよな!ボクシング世界王者に無銘のおっさんが勝てる分けねーよな…おい、おっさん!さっさとギブアップしちまえよ!」
「そーだそーだ!スティーブ!いいとこ見せろよー!」
ボクシングミドル級世界王者、さらには21歳と新進気鋭のスティーブに対し、ムエタイの使い手ではあると思われるが名前も知られていない53歳のブルース。傍から見れば、ブルースが粋がっているようにしか見えないこの試合———観客達が冷めるのも無理はない。観客達は「すでに結果が見えている」試合に、ブルースを下げ、スティーブを持ち上げ。…スティーブは、それに答えるように観客達に向かって片手を上げ、にっと笑みを浮かべた。
「うおおおおおっ!いいぞー!」
「スティーブ!スティーブ!」
「とっととやっちまえよー!」
…ブルースにとって、圧倒的なまでのアウェイな戦場だった。
肩書も、年も、観客も。何1つが自分に味方をしていない。…だが。
「…ふん、ガキが」
ブルースは不敵な笑みを崩さない。こうなった以上、頼れるものは己の拳と脚だけだ。だが、
「…それで充分だ」
ブルースは一言、そうつぶやくと。…やがて、すうっと神経を高ぶらせ、その目をまるで刃物のように鋭く、スティーブを睨みつけた。そして、スティーブもまた。それに答えるようにファティングポーズを取り———
『Round1! …Fight!』
ブルースとスティーブ。二人の戦いの火蓋が切って落とされた!
『Round1! …Fight!』
かけ声から二人の試合が始まった瞬間!
「遊んでやるよ…!」
真っ先にステップを踏んだのはブルース!一気にスティーブとの距離を詰めると―――!
「ふっ!」
ビュオッ!
ブルースの右ストレートが勢いよく伸び、スティーブの顔面を狙うと!
「っ!」
チリッ!
スティーブはそれをスウェーバックでギリギリのところ―――髪の毛がかする程度―――で避けた。
(思いのほか速い…!)
スティーブはブルースの速さに驚くも、その瞬間!
「ふっ!」
バスゥッ!
「…ちっ!」
ブルースの左のミドルキックがスティーブの脇腹を叩き。
「ほう…」
舌打ちをするスティーブに、ブルースの顔がにやっと歪んだ!そして!
「ふっ!はっ!せいっ!」
ブルースはそこから一気に攻勢へと出た!ワンツーからの左フック、そして前蹴り———!
バスバスッ!バスッ!
「っ!」
「ふっ、どうした!何秒で俺を倒せるのか―――試すんじゃなかったのか!?」
ブルースの怒濤とも言えるコンボ。
バスッ!バシィッ!
「…ちっ!」
スティーブは手を出せず、ひたすらにガードとステップに専念し———
「ふん、防ぐので手一杯か!雑魚が!」
バシィィッ!バスゥゥッ!
「くっ…!」
スティーブはひたすらに、ブルースの攻めの手を防いでいた。———だが!
「無駄だ」
ビュッ!
「っ!」
ブルースの鋭いローキックがスティーブの足を狙い、スティーブがそれをバックステップで避けたその瞬間!
「もらったぁッ!」
ドスゥゥゥゥゥゥッ!
追い詰めるように鋭くステップを踏んだブルースのボディーブローが、深々とスティーブの腹へと突き刺さり———ブルースはにいっと笑みを浮かべた。
「ぐっ…!」
「ふん、無駄だ。…蹴りも出せないボクシングごときが、キックに勝てると思うな」
バシィッ!バスゥゥッ!
ブルースはさらにスティーブへと拳を振るい、蹴りを放ち———スティーブはガードをするに手一杯、といった様子でますますと追い詰められていく。…そんなときだった。
「すげえ…あのスティーブが追い詰められてやがる」
「世界チャンピオンだぜ?あのブルースっておっさん、ナニモンだよ…?」
「あ…なあ、あのブルース…って、ひょっとして…ムエタイチャンプをぶっ飛ばした、あのブルースじゃねえか?」
「まさか…!いや、しかし…!」
観客達がブルースの正体にざわざわとどよめきだす。
「やっぱり!あのブルースだよ!おい、ブルース!」
「やれー!」
そして、観客の一部がブルースの正体に気づきだし———会場がブルース色に変わろうとしたその瞬間!
「もらったッ!!」
ドムゥゥッ!
「ごほっ…!」
スティーブをついに追い詰めたブルースの拳が、再びスティーブ腹筋を捕らえ―――スティーブが後ろへ数歩バランスを崩したその瞬間!
「トドメだッ―――!」
タンッ!
ブルースは勢いよく地面を蹴り―――必殺の跳び蹴りをスティーブへと決めようとしたその瞬間だった!
「―――もう、いいよな?」
スティーブの目がキリッと輝き———その声がかすかにブルースの耳へと入ったその瞬間!
タンッ!
今まで防戦ばかりのスティーブが動いた。そのステップは誰の目にも止まることなく、スティーブは鋭く、ブルースの飛び蹴りに迎え撃つように前へとステップを踏むと———!
バキィィィィィィィィィィィィィィッ!
「―――ぐ、はっ…!?」
跳び蹴りを今まさに放とうと宙を舞ったブルースの顔面、そこにカウンターを突き刺し———
ドサァァァァッ!
ブルースを文字通り、撃ち落としたのであった。
「な、なんだ…今の…?」
「スティーブが…ブルースを打ち落としやがった…!」
まさに神業ともいえる技に観客達がどよめく。
「…ちっ!」
そして、ブルースは地面に叩き落とされるもすぐに受け身を取り、距離を取って体勢を立て直した。…が。
(なんだ、何が起きた!?あいつは防戦一方で動けないはず!)
その心の内は穏やかなものではなかった。相手は若造。こちらの攻めに防ぐことしかできない、そう踏んでいたのにも関わらず、さっきのあの動きは———。
「そこそこ速いようだが…」
だが、そんなブルースの戸惑いなど知るわけもなく―――
「もうだいたい手の内は分かった。と、なれば———次は俺の番だな!」
スティーブはそう言い捨てると、防戦一方であった先ほどとは打って変わり!
タンッ!
(速い…!?どこだ!)
ブルースでも追えないほどの軽快なステップを踏むと———!
「遅い…!」
バシィィィィィッ!
「うごあっ!?」
まずは、と言わんばかりに高速の左ジャブをブルースの顔面へと突き刺した!ブルースはすぐさま、ガードを上げスティーブの攻勢に備えるも、
「シッ!シッシッ!シィッ!」
バスバスッ!バシィッ!バッスゥゥゥッ!
スティーブのさらに鋭いパンチのコンボ―――ワンツーからのボディー、左フック―――がブルースを襲い、
「くううううっ!」
ブルースはひたすらにそれをガードした。…が。
(重い…ッ!このガキ…ッ!)
ブルースの腕はすぐにその重いパンチに根を上げる。———スティーブは、その様子を察したのか、冷や汗を流すブルースににっと笑みを浮かべた。
「―――おいおい、どうした?キックは脚が使えるから強いんだろ?」
「…ガキがっ!」
ブルースはスティーブの言葉に返すようににローキックを放とうとするも―――
「おっと、がら空き…だぜ!」
ドスゥゥッ!
スティーブ左の拳をブルースの腹へと「軽く」めり込ませると、
「シィィッ!」
バキィィィィィッ!
「ごはあああっ!」
スティーブはブルースの顔面に右フックを「軽く」打ち当てる。そして、
「さあ、もっと盛り上がっていこうか!」
バッシィィィィィィィッ!
「ぐあっ!?」
スティーブは右ストレートでブルースを「軽く」打ち付け、ブルースが後ろへとバランスを崩し―――
ガシャン!
その背にコーナー代わりのフェンスの感触が走ったその瞬間!
「ふっ…行くぜッ!」
バスバスバスバスバスバスバスバスッ!
「うごああああああっ!」
スティーブはガードもせず、両の手でひたすらピストンをするかのようにブルースの体にパンチを打ち付けた!―――本来、そんな、防御も捨てた全力のラッシュ―――だなんてのはプロでもほとんどしない。だが、スティーブにとっては。
「どうした、爺さん?―――まさか、年のせいだ、だなんて言うつもりはないよなあ?底が知れてるぜ!」
この程度で充分だった。———試合開始、幾ばくか拳を重ね、わざとパンチも受けてみた。だが、スティーブからすればブルースの技は正直、児戯にしか過ぎず―――
「はッ!」
ボスゥゥゥッ!
「ぐあっ…!」
「シィッ!」
バキィィィッ!
「うぐうっ!」
見せ重視のある意味舐めた技。———この程度で充分だ。そう判断したスティーブは、その言葉通りに一気呵成にブルースを畳みかけた!そして!
ドスゥゥゥゥッ!
「ごはっ!」
鋭いボディーがめり込み、ブルースが目をひん剥いたその瞬間!
「なあ、ブルース…あんた、言ったよなあ?…蹴りも出せないボクシングごときが、キックに勝てると思うな…ってな?」
「っ!」
「ボクシング、ってのはな。確かに蹴りは使えねえ。だけどな、その分!」
―――スティーブの目がギッとブルースをにらみつけ、ブルースの顔が絶望の色へと染まろうとしたその瞬間!
ダンッ!
スティーブは大きく、バックステップを踏んだ。そして!
「―――このステップと拳は!世界最強なんだよ!」
スティーブは身を翻し、鋭いステップと共にボディーアッパーを放ったその瞬間!
バッスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!
「ぐ、があああああああああああああああああああっ!」
スティーブの鋭く、重い、ブルースのそれとはまったく次元が違うボディーアッパーがブルースの腹へと突き刺さり、ブルースの脚を地面から少しだけ浮いたその瞬間!
「———終わりだ」
バキィィィィィィッ!
スティーブの鋭い右ストレートがブルースの顔面を思い切り殴り飛ばした!そして!
ガシャンァァンッ!ドサァァァァァァァァァァッ!
ブルースは、もろにそれを受け吹き飛ばされるとフェンスに背中を強打し———そのまま、勢い良く前へと倒れ———
「ぐ……ぁ………」
ブルースは、スティーブの王者の拳に。…そのまま、目を回したようだった。
「う、うおおおおおおおおおっ!」
「何だいまの!すげええええええええっ!」
「スティーブ!流石だぜスティーブゥゥゥゥゥッ!」
まさに一瞬の出来事に。一瞬ブルースに染まりかかった会場はまた、スティーブ色へと戻り。
「…ふん、もう起き上がれねーだろうよ」
そんな中、スティーブはブルースを見下ろしながら手をパンパンッと払って見せた。そんなスティーブの言葉通り、ブルースは痛みにもがきながら必死にうめき声を上げることしかできなかった。
「ぐ…くそ……」
「…あんたみたいな雑魚に構っている暇はねえんだ」
「若造如きが…!」
「わりーな。若造とはいえ———あんた以上にもがいて生きてんだよ。俺自身の生き様を知るために———あんたみたいな見掛け倒しに負けるわけにはいかねーんだよ」
【完】