「…く…そ、負けた…!」
医務室に運ばれた樹。冴羽先生の処置を受けながら、樹ははあ、とため息をつき———
「ぐっ!?」
…グラスブレイカー、愛音の必殺のレバーブローに思わず顔をしかめ体をうずくませる。
「はあ…はあ…!」
「痛むかい、樹君?すぐに処置をするからね。とはいえ…ふうん、やはりショットガンバトルはかなり負担が大きいねえ」
「う…うう…」
「今は痛むし、悔しい気持ちもあると思うけど…くれぐれも、まずは体を治すことを優先するんだよ。いいね?」
処置を終えると、冴羽先生は看護師に呼ばれ次の患者に当たり———
「…くそ、情けねえ…慧も見ていた試合なのに…!」
樹は布団を頭まで被せた。
…いいように打たれたこの痛み。
情けないまでに辱められたこの悔しさ!
「絶対に…次は負けねえ…!」
樹は歯を食いしばると。
(なかなかいい様だったじゃねえか)
(空!…馬鹿にしにきたのかよ)
(べーつに?ただ、存外感じてたなって)
(るせぇ!次は負けねえ!慧の前で、あんな無様な真似、二度と見せられるか!)
(そーかそーか。心配していたが、ま、問題ねえな)
(あ、なんだよ?)
(腑抜けるようだったら、俺が変わってやろうか、と思ってな)
(この体はオレの体だ!好き勝手すんな、空!)
(へいへいっと。ま、あんまり無様な真似は見せるなよ。…大好きな人も来てるしな)
(は?)
空の言葉に、樹は確かな気配を感じ———少しだけ。布団を少し上げると。
「…樹?」
「ッ!慧…!」
「大丈夫?試合、すごくやられてたから…」
「…心配で来てくれたんだ。ごめんな…いっつ!」
「ちょ、無理しないで!?」
オレは起き上がり、痛む体に顔を引きつらせ———慧が慌てて、俺に不安そうな顔を見せてくれる。
「もう、樹…無理しすぎ。樹もだけど、翔も翼も竜も…皆、頑張りすぎだよお…」
「慧が言えたセリフじゃないだろ?いつも試合後、一番ボロボロになってるのは慧の癖に」
「…俺はいいの」
「良くない。…慧、横、座れよ」
俺はポンポンっと、ベットの横を叩くと、慧はそこにゆっくりと座る。———いつもの赤茶色の長い髪に、大きな青い目。童顔ともいえる可愛い顔が心配そうな表情に曇っていて。
「…ほんと、可愛いな、慧」
「いきなり何を言い出すの、樹」
「いーの。オレは慧に対してはもっと積極的になるって決めたから」
「積極的って…」
「なあ、慧。今日何の日か知ってる?」
「12月25日、クリスマス…」
「クリスマスに二人っきり。…わかる?」
慧は瞬間、顔を真っ赤に染める。
「え、ええ!?俺、そんなつもり…!」
「わかってるよ。慧が落ち着くまで、無茶はさせないけど…せっかくのクリスマスなんだ、ご褒美くらい、会ってもいいよな、サンタさん?」
「え…え…!?」
驚く慧。だが、樹はそんな慧にも拘らず手を伸ばし、慧の脇に手を入れ、その体をぎゅっと抱き寄せると———
「…ハグ。あったかいな」
「…うん」
「知ってるか、慧?ハグってすげえ大事なんだぜ?」
「そう…なの…?」
「ああ、海外じゃハグは普通だしな。ストレスの3分の1を軽減してくれるらしいぜ?」
「…確かに、なんか、樹の体…落ちつく」
抱き着く慧に、樹は頭をぽんぽんとなでながら優しく抱擁する。
「…慧の髪、綺麗だな」
「…樹も、カッコイイよね」
「お。マジか?どうだ、翔や竜、翼よりカッコイイか?」
「うーん…どうだろう…皆よさがあるよね。翔はクールな感じがするし、竜はワイルド…翼は…なんだろう?子犬?」
「ははっ!子犬かあ。そりゃ間違いない!…で、オレは?」
「樹は…なんだろう。頼れる年の近いお兄さんみたいな…」
「兄ちゃんか!…いいな。これからも俺を頼れよ、慧?」
「ん…」
樹は慧を力強くハグをする。———そして。
「慧…こっち向いて」
「ん?」
「目を閉じて」
「こう?」
「…キス。嫌だったら、逃げろよ?」
「え…?」
慧がぽかんとした、その瞬間———
ちゅっ
「………」
「………逃げなかったな、慧」
「あ…え…っと…」
「続きは。…慧が落ち着いてから、な」
「樹…!」
「大好きだよ、慧。他のやつらに負けねーほど。オレはお前のこと思ってるから。忘れんなよ」
樹がそう言うと同時。
「樹君?そろそろ消灯にしたいのだけど…と、慧君も来ていたか。悪いけど、今日は席を外してくれるかな?」
「あ、はい!お邪魔してすみません!…じゃ、い、樹?また…ね?」
「おう、気を付けてな!」
冴羽先生の介入。…慧は心なしか、前屈みになりながら医務室を足早に去っていくと。
「…慧君は本当に人気だねえ」
「見てたんですか?…悪趣味っすよ」
「いやいや、バレないと思っていたの?」
「ま、まあ…」
「医療の一環さ。君のストレスが慧君で解けるならそれもまた、なんてね。…それじゃ、今日はもうお休み。また明日ね」
どこまで本気なのか。樹は冴羽先生の恩情に感謝しつつも、目を閉じる。そして———
(…うまいことやるじゃねえか)
(るっさいな、キスくらいいいだろ)
(いい進歩だと思ってな)
(けっ、上から目線かよ)
(当然、俺様だからな。…次は押し倒しちまえよ)
(はいはい、時が来たら、な)
空が茶化すのを樹は聞き逃しながら、先ほどのキスの感触を思い出すかのように、そっと、唇に手を触れるのであった…。
(…ずっと好きだったんだ。翔や翼、竜なんかに負けられねえ。俺だって、慧のことを…!もっと、もっと強くならねえとな…!)
【END】