「へえ、これが慧たちの秘密基地…「鷹」って名前のジムだっけ?」
「まあねえ。今は廃ジム…ってやつ?お、すげーな、リングにサンドバッグ…更衣室も2つあって…シャワーもあるじゃん。使えんの?」
「うん!水もちゃんと使えるようにして電気もしっかりと」
「すげーな。…ってこっちの更衣室はベッドが入ってんぞ?」
「あはは、女性用更衣室なんだろうけど、オレ達しか使わないから休憩室にしちゃえ!って、組み立て式のベッド入れたんだ」
「よくこんな山奥まで運んだよなあ……っていうか、ここまでしちゃうと元の持ち主とかともめたりしねーの?」
「うーん、よくわかんないんだけどね、その辺は立花さんが何とかしてくれたんだ」
「ふーん、ヒーローの立花さん…色々なコネでもあるんかな」
「どーだろ?でも、とりあえず好きに使って大丈夫だって。翔や翼、竜、それに立花さんも使うって。それで…」
「オレも誘ってくれた、というわけか。…あんがとな!」
「うん!」
樹はそう言うと、慧に「にっ」と笑顔を向け———その時。
『へえ、鷹か。…ちょうどいいじゃん』
不意に。樹の中のもう一人の人格———「空」が心に語りかけてくる。
『…なんだよ、空。急に出てきて』
『別に?ただ、都合がよさそうだなって』
『…良さそうって何だよ』
『あ?わかってるだろ?…今ここにリングがあって、お前と慧の二人きり。…確か、今日は翔とか竜も試合だって言ってたよな、樹?』
『………』
『きちんとチェックしてご苦労なこった。なら、リングで試合でもしてやればいいじゃねえか、あ?』
『…お前、ほんと嫌い』
『くくく、ほめ言葉、と受け取っておくぜ、もう一人の俺?さ、欲望、吐き出しちまえよ。…安心しな、オレは邪魔はする気はねえ。奥に引きこもってみててやるからよ』
『…ほんと、悪趣味』
———気づけば、慧がオレの服の袖を引っ張っていた。
「ねえ、樹、どうしたの?急にぼうっとして」
「ん?あ、いや、わりぃ。ちょっと考え事しててさ」
「考え事?なんかあった?」
「いやさ…せっかくリングがあるし、今日は皆試合でいないだろ?だからさ、邪魔なしで慧とここで試合したいなって!」
オレはそう言うと、ぎゅっと拳を握り———
「お!そういうこと?だったら、オレ、遠慮しないよ!」
慧もまた、オレの闘志につられるとわくわくとした顔を見せる。…オレは慧の目を見つめるとドクン、と胸を弾ませ———
『…くっくっく、良いねえ、樹。お前のそういうところ、嫌いじゃねーよ』
『るっせ!』
…オレは茶々を入れる空に思わずツッコミを入れるのであった。
ピピピピピッ!
「っし、行くぜ、慧!」
「やるよ!」
電子ゴング。リングの上でグローブタッチをすると、オレ達はジャブで距離を測る。オレはキュッキュッとシューズを慣らす!
(基本に忠実、これが一番だよな!ヒットアンドアウェイだ!)
タンッ!
オレは軽く踏み込みながら———
「シッ!」
バシィッ!
慧にジャブを一発当て、すぐさまバックステップ!距離をとった———その瞬間!
ダンッ!
「うおっ…!?」
それを見越していたのだろう、慧はオレが動くのと同時に前に距離を詰めると———
「ふっ!」
ドスゥゥゥゥッ!
「ぐ…え…!?」
オレの腹に強烈なボディーアッパー!
「———ちっ!」
オレはすぐさまサイドステップ、距離を取ろうとするも。
「逃がさないっての!」
タンッ!タンタンッ!
慧はそんなオレをさらに追い詰める!———慧のパンチ力、そして突進力!それが向かってくるのは結構な迫力があって、
「ぐっ!」
オレは思わず、足を止めガードを上に固めてしまうと———
「シッ!」
ドスゥゥゥゥゥゥッ!
「がっ!?」
慧の左ボディーがオレの鳩尾を貫く!そして!
(やべっ…ミス…った…!?)
オレの目に、慧の右拳がぎゅっと握りこまれ———
「シィッ!」
それが高々と、突き上げられるのが見えたその瞬間!
ドッボオオオオオオオォォォォォッ!
「———ッ!がああああああああああっ!?」
オレの腹に慧のフィニッシュブロー!ダブルボディーがめり込む!———オレの体がふらり、と揺れた、瞬間!
「シッ!」
バシィィィィィッ!
「あ……!?」
慧のアッパーがオレの顎を軽くかすめる!瞬間、オレの足はがくりと折れ———
ドタァァンッ!
———オレは前のめりにダウン!リングマットに沈むと。
「へっへー!オレの勝ちぃー!樹攻略ぅ!やったね!」
慧は飛び跳ねるようにガッツポーズ!…オレはそれを見ながら、びくびくと震えながらリングマットに無様に沈む。
『あーあ、ブチ犯すんじゃねーのかよ、情けねえ相棒だなあ』
———が。
『るっせ…って言っただろ、空!』
『お?』
『…せっかくのチャンスなんだ…!オレだって…!慧を…!』
『慧を?』
『…慧を抱きたい!想いを伝えたい!』
『…くっくっく!お前、ほんとサイコーだよ。ほら、とっとと立て、じゃなきゃオレが介入してやるぞ?』
『マジふざけんなよ!』
オレは全身の力をぐっと入れ、立ち上がると。
「む!…起きて来るとは」
「へへっ!オレもカッコいいところ、見せとかないとな!…いってーけど」
「何度立ったって同じ!樹の動きはもう見切ったよ!」
「なら…!やってみな!」
タンッ!
オレは力強く踏み込むと———
「シッ!」
バシィィッ!
慧のこめかみにフック!慧はそれをブロックすると———
「シッ!」
空を切るようにストレート!…が!
「おっと、甘いぜ!」
バシィッ!
オレはそれをパーリング!その場で足を止めると、
「シッ!シッシッ!」
バスバスッ!バシィィィッ!
「ぐっ…!?」
ダブルジャブからのストレート!慧はモロにそれを受けるとガードを上げ———
「シッ!」
ドムゥゥゥゥッ!
「ぐっ!?」
オレのボディーアッパーが入ると、慧は思わずがたん、と膝を崩し———
「へへっ!かかったな!」
「あっははは…まさかヒットアンドアウェイ捨てるとか!…樹、やるじゃん」
慧はそう言うと立ち上がり、にいっと笑みを浮かべる。そして、
「さあ!もうハンデはなし!全力だよ、樹!」
ファイティングポーズをとる慧に、オレはにっと笑みを浮かべた。
「オレにハンデとか、良い度胸じゃん!潰してやるぜえ♪」
「シッ!シッシッ!」
バスバスッ!バスゥゥッ!
「ふっ!」
バッシィィィッ!
手数で勝負のオレと、一撃の重さで勝負の慧。
「ぐっ!…へへへっ!やるやん、慧!」
「樹…こそ!うぶっ!?」
結構互角のいい勝負!
「へへ、負けねーぜ、慧!」
「こっちこそ!」
「シィッ!」
バシィィッ!
オレのジャブの一発が慧の顎付近に当たると———
「くっ…!?」
慧はぐらりと揺れる!チャンス!
「慧、もらったッ!」
タンッ!
オレは慧に向けて軽快にステップ!そして———
「行くぜ、慧ッ!」
「ッ!」
「ふっ!」
バスバスバスッ!バシィッ!バキィッ!
足を止め軽快にラッシュ!
「くっ…うっ…!」
顎を打たれ体が満足にいかない慧は体に、顔に、オレのパンチを浴び———
「シィッ!」
スッパァァァァァァァッ!
「———ッ!」
オレのとどめのアッパー!———フィニッシュブローの白光!ちょっと厨二臭い名前のそれが慧の顎を打ち上げると———
「か…はっ…!?」
慧はマウスピースを吐き出しながら、その体を大きく後ろへと崩した。———そして!
ドタァァァァァンッ!
「く…ぅ…!」
「っしゃ!」
オレはガッツポーズをとると、慧に一つ、ウィンクをして見せた。
「オレの勝ちだぜ、慧!」
「い…てててて…くそ、負けたあ…」
リングの上で呻く慧。…オレはさも当然、と言わんかのように慧にマウントポーズのようによじ登ると———
「…樹…なに…?」
「何って。…今、慧と二人きりじゃん?」
「う…ん…」
「そんでもって、オレは試合に勝った」
「…!ちょ、ちょっと、樹…!」
「へへ、慧———」
オレは慧の顎を持ち上げながら———
「オレのこと、好き?」
「え…え…!?好き…って…嫌いじゃない…けど…」
「じゃあ、好きってことだな!なら、好きな人同士、こういうことするのも悪くないと思わねえ?」
「え?あ…うー…?」
「FNで慣れてるだろ。リングの上が嫌だって言うなら…こうしてやるからさ」
オレは慧をお姫様抱っこ。———ちょっと腰に負担を感じつつも、その体を抱き上げてやると。
「…可愛いな、慧」
「……ぅぅ…」
「へへ、顔赤くしちゃってえ。…やっぱあれだな、慧を攻略するにはもっと積極的に押し倒さなきゃ、だな」
「………っさい…」
「そうやって膨れてんのもかわいーぜ?おっし、決めた!…オレも翼みたいに積極的になるかあ」
———樹はそう言うと、リングを降りベッドへと載せた。そして…。
『…これでよし』
『あ?どうした樹、終わったのか?』
『んだよ、空。どーせ見てたんだろ?』
『ああ?誰かさんが腰振ってるところか?』
『るっせ!…想いは伝えた』
『おうおう、お盛んだな?』
『なんだよ、空?…今いい気分に浸ってんだから邪魔すんな』
『どうせならリングの上でボロボロにしてやればよかったのに、惜しい奴』
『オレはテメーじゃねえんだよ。だあってろ。…慧が嫌なことはしたくねーの』
『ふふ、殻を破ってみろよ?ボロボロにするのも、また気持ちがいいぜ?』
『黙れ!本気で怒るぞ!』
『へいへいっと。んじゃ、俺も寝るとしますか』
そして、次の日。
「うーっす!…でいいのか?」
「樹!」
「…樹か」
「よう、慧、それから翔!」
「…樹も来たんだな」
「ああ、慧に教えてもらってな。…それよりか、慧?」
「ん?」
「今度の休みの日さ、オレと遊びに行かねえ?」
「遊びに?特に予定もないからいいけど…何しに?」
「デート♪」
「…え!?」
「は!?おい、樹!お前、ふざけん…!」
「ふざけてねーって。オレ、慧にはちゃーんと自分の想いは伝えてあるし?慧が俺を振り向いてくれるためにも!果敢にアタックすることにしたのさ。ってことで、けーい♪オレとデートしようぜ!」
「え?え?え?」
「ダメだ、慧。俺も日曜日空いている。…そうだ、今度新しいグローブを見に行きたいと言っていたな。俺と行こう」
「あ?え?へ?」
「おい、翔。じゃーますんなって!…慧はオレのもんなの」
「ふざけるな。慧は…その…俺の…」
「親友止まりだろ♪指くわえてみてろよ♪オレは慧のアレをくわえてやろう…」
「お、おい!樹!」
———ポカンとする慧。その顔を愛おしく思いながら。オレは鷹でのトレーニングも楽しいことになりそうだ、と思うのであった。
【END】