格闘の盛んな都市、”真”王闘市。
その中心から少し外れた閑静な住宅街。
そこに住んでいる俺は、隣の家の女の子、葉月(はづき)と近所の小さな神社で手合わせするのが日課になっている。
彼女は女子格闘の名門、闘姫女学園高等部の一年生で、学園内ではかなり上位(本人曰く学年二位)の女子ファイターだ。
俺とは彼女が生まれた頃から…いや、生まれる前からのお隣さんで、赤ん坊の頃からよく知っている仲。
日曜朝のバトルヒロインもののアニメがきっかけで格闘家に憧れを持ったらしく、当時駆け出しの格闘家であった俺に弟子入りを求めたのも自然な流れだった。
弟子を取れるような立場ではない俺は当然断ったが、何度も強烈にアタックしてくる彼女の勢いに折れてしまい、手合わせついでに闘い方を見てやる、程度の所に何とか落ち着かせた。
そんなこんなで、彼女が小学生の頃から毎日のように手合わせをしているという訳なのだが。
神社でしばらく待っていると、セーラー服を模したタンクトップに濃紺のブルマー姿に着替えた葉月がやって来た。
このバトルコスチュームはニチアサアニメのバトルヒロイン、ブルマリオンを模したもので、これを着たらブルマリオンみたいになれる!と小さな頃からお気に入りなのだ。
生意気な態度と表情。
小さな頃はもっと素直で可愛かったんだけどな。
さて手合わせ、とはいえ、当然俺と葉月の実力には大きな開きがある。
まともに闘ったら瞬殺確定、葉月を何をされたか分からないままあっけなく地面に沈めることなど容易いことだ。
だがそれでは何の意味も無い。葉月を強くしてやらないといけないのだから。
なので、ある程度葉月の攻撃を受けてやってから、葉月が自分のウィークポイントを身体で感じられるような倒し方をする、というのがいつもの流れとなっていた。
今日も葉月の打撃を軽く受け流す。
学校での戦績が良かったせいか、いつもより勢いがあるな。
だが、まあ、そろそろかな。
「よっ」
ガードが甘くなった脇腹に、まずは一発、手加減しつつパンチを打ち込んでやる。
つもりだったのだが、
ズムッ!
「ふぐぅっ!?」
葉月の身体が大きく折れ曲がって跳ねる。
「しまった…」
タイミング悪く、想定していたより強めに入ってしまったようだ。
「あぐっ…がっ……」
地面に倒れ、腹を押さえながらのたうち回る葉月。その可愛い顔が苦痛に歪む。
「ごめんな、ちょっと強すぎたか…よっ、と」
少し落ち着いた葉月を肩に担ぐと、境内のベンチに運んで寝かせてやる。
「はぁ…はぁ…」
「大丈夫か?」
「う…うん、平気だよ」
精一杯の笑顔を作って大丈夫アピールする葉月。
「はぁー…一発かあ。やっぱりおじさんはスッゴく強いね。今日こそ少しはイケると思ったんだけどなあ」
横になったまま空を仰ぐその表情は、悔しさより清々しさを感じる。
「ま、お前も強くなってるよ」
「本当にぃ?」
「ああ」
俺に打たれたお腹をさすりつつ唇を尖らせる葉月の頭を、ぽんぽんと軽く撫でてやる。
「でも闘気無しの闘いでもこんな感じなんだもん…闘気有りだったらどうなっちゃうんだろ、わたし」
「闘気、か…」
まあ、そうだな…
格闘が盛んな都市、”真”王闘市。
ここで行われる格闘大会は、その殆どが男女別だが、ミックスルールで行われるものも少なくない。
だがその結果はいわずもがな。ほぼ全ての試合で女子格闘家がマットに沈んでいた。
単純に、全国トップクラスの格闘家たちが集うこの都市で行われる大会ともなると、男女での実力差がかなり出てしまう、というのも大きな理由だが、それ以上に決定的なのが【闘気】の存在だ。
拳や脚など、身体の様々な部位にこめて攻撃力を上げたり、飛び道具として撃ったり、相手の体内に直接撃ち込んだり、あるいは防御力を高めたりと、様々な使い方ができる闘気。
だがそれを習得できるのはほとんどが男で、まれに女子でも使えるようになる者もいるのだが、その威力は一般的な男子に比べても遥かに劣る微々たるものにしかならない。
そのため、闘気有りで行われるミックスファイトともなると、最早一方的な展開にしかならないのが普通だった。
それでもミックスルールがなくならないのは、男子も含めた中で最強になりたい女子格闘家が多いことと、あと、単純に見世物として盛り上がることもあるようだ。
ちなみに公式ではない、地下や路上での格闘でも、ミックスファイトは頻繁に行われているらしい。
葉月との手合わせで闘気を使ったことはまだない。
そもそも女の子の葉月は使えないしな。葉月が女子格闘家同士の闘い、キャットファイトしかやらないのなら、使う必要もまず無いだろう。
実際そうだったんだからしょうがないだろ…。
まあ出会いからしてそんな感じだし、年相応よりはかなり幼いその性格もあって、年の離れた妹か、親戚の娘くらいの感覚だな、葉月の存在は。
こうやって俺と組み手をすることが、強い女子格闘家になるサポートに少しでもなっていたら良いんだが。
to be continued