XaiJu
pi1
pi1

fanbox


揺れる糸【第十二章】 誘拐事件

買い物をしていた綾と別れたあと、少女は銀色のバンに乗り込んだ。 「どうだった?」 「由美さんの妹で間違いないわ」 「そうか、あの娘の後をつければ彼女らの家を特定できるな」 「でも本当にあの子が先輩の家にいるのかしら」 「あの自称看護婦がやりそうな手口だ」 「戸籍を書き換えて行方をくらませるなんて、ちょっと危険な匂いがするなー」 「別に降りてもらっても構わない」 「いいえ、乗りかかった船だし。それにちょっと遊びたいからね」 「あまり変な気を起こさないでくれるか。お前の妙な趣味で仕事がなくなるのはごめんだ」 「大丈夫大丈夫。手加減はちゃんとするから」 「まったく…」 「信用してないねー。新入りの子だってまだ元気にしてるのよ」 「人生の先輩として忠告するが、お前のその行為は、いずれ仇になって自分の身に降りかかってくるぞ」 「ご忠告どうもー。せ・ん・ぱ・い」 「まったく…」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「先生。急患が入りました」 「はーい。すぐ向かうわ」 病院では深夜になっても医者や看護師が行き交っていた。 「今日はやけに忙しいわねー。休む暇もないじゃない」 紙コップに注がれたコーヒーをすすっていると、若い女医が笑顔で近づいてくる。 「遅くまでお疲れ様ですー。あれ、今日は看護婦のコスプレじゃないんですね」 「ええ、上に怒られちゃってね。しばらくは医者の格好よ」 「そうだったんですか。てっきりあの格好は上からも黙認されているのかと」 「いくら私でも流石に示しが付かないって言われちゃった」 「私としては今の先生の格好もレアで眼福ですよ」 「こら、あまり変なこと言わないの」 「あはは、すいません、つい」 「ま、別に構わないけ…」 突然、ポケットの携帯が震えた。 「ごめん、また後でね」 「はーい、先生」 画面を確認すると、二つのマークが付けられたマップが表示されていた。 一つは”sample_H”、もう一つは”sample_M” 二つのマークが一般道を高速で移動している。 「やられたわね…」 マークの挙動からして、由美と羽奈は車でどこかに連れ去られていることがわかる。 由美も一緒なのは人質ということだろうか、ならば、綾も同じ車にいるはず。 「もう居場所を特定して連れ出すとはね。私の患者に手を出して、ただじゃ置かないわ」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 誰かが呼んでる。 遠くから呼ぶ声がだんだんと近づいてくる。 「おねえちゃん。おねえちゃん!」 「綾?」 意識が戻り、綾の声がはっきりと聞こえる。 辺りを見回すと、知らない部屋で寝ていたことに気づいた。 そこは西洋の寝室を思わせるような独特な飾りつけが施されている。 部屋全体に光を取り込めるような大きな窓。壁際には白を基調とした細部まで彫り込まれた家具。床の端から端まで敷き詰められた薄いピンク色のカーペット。そして、天井にはシャンデリアがつるされている。 日本離れなした光景に由美は夢でも見ているような感覚にとらわれていた。 「ここ、どこ?」 「わからない、私もさっき起きたばかりで…」 自分の身体を見ると、全裸になっていることに気づいた。 「やだ、裸じゃない」 大事なところをあわてて隠そうと足をたたむが、足が何かに引っかかる。 「何…これ…」 足首に金属の輪がくくられ、それがチェーンでベッドの端につながっていた。綾は足のチェーンの他に、両腕を背中で縛られている。 「これって誘拐…よね」 ガチャリと、遠くの扉が開き、一人の少女が入ってきた。 「あら、おはようございます。もう目を覚ましたんですね、先輩」 綾はその少女を見てはっとした。羽奈の買い物のときに会った由美の後輩だった。 「加賀谷…さん?」 「お久しぶりです、先輩と綾ちゃん」 「加賀谷さん、助けて。私たち誘拐されて…」 「落ちついてください。大丈夫ですよ」 「大丈夫って何が…」 「先輩達に危害は加えませんよ」 「それって、どういう…まさか、あなたが」 「はい、私たちが先輩たち三人をここに連れてきました」 「加賀谷さんがなんで…今、三人って」 「羽奈っていう子が別の部屋で寝ています」 「あなた、はなちゃんに何するつもりなの」 「それは言えませんよ。それより、自分の心配をした方がよろしいかと」 加賀谷がベッドに乗り上げ、由美の肩に触れようとする。 「さ、触らないで」 「ふふ、さすがに気が早すぎました」 「なんなのよ、加賀谷さん」 「そう怒らないでください。私から一つ提案があります」 「提案?」 「由美さんと綾、私のペットになりませんか?」 「ペット?どういうこと?」 「私に飼われるということですよ。そうすれば衣食住、それ以外も含めて全部私が与えます」 「ふざけないで。あなたのペットになんかにならないわ」 「そう言うと思っていました。もう一つ、私のペットになったら、羽奈ちゃんを元の居場所に返します」 「信じられないわ」 「まあ、当然のことですね。考える時間を差し上げます」 加賀谷はそういうと、ドアの方へ歩いて行った。 「また顔を出しますから、それが最後のチャンスです」 「いくら考えたって答えは変わらないわ」 「はて、どうでしょう」 バタンとドアが閉まり、部屋が静まり返る。 「ごめんなさい、お姉ちゃん。私のせいで」 「ううん、綾のせいじゃない。お姉ちゃんがなんとかするから」 「うん、ありがとう」 心なしか、少し身体が火照っているような感覚があるが、由美は気のせいだと自分を誤魔化した。


More Creators