(没供養)再創世前に犠牲になった穹くんが再創世後のキャストリスに死ぬほど愛されるお話
Added 2025-05-28 11:20:57 +0000 UTCあんまり綺麗な展開にならなかったので没供養です。
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──私は今でも夢に見ます。
あの時、穹さんは最期まで笑っていました。
何かを背負うような顔ではなくて、いつも通りの、あの朗らかな笑みでした。
私たちを暗黒の潮から守るために、紅く光る槍を地面に突き刺して。
「みんな──また明日!」
そう言って、闇の中へ消えていきました。
まるでそれが、ただの挨拶かのように。
ただ、またいつか会えることを確信しているかのような声で。
ですが──穹さんに明日は、来ませんでした。
私たちは、何もできませんでした。
穹さんを見捨てて逃げ続けました。
そうして逃げ切った果てで、そこに立ち尽くして、彼の名前を呼ぶことしかできませんでした。
私は声を殺して泣き、ヒアンシー様は何度も「うそ」とつぶやいて膝をついて、サフェル様は黙って、ぽろぽろと涙をこぼしていました。
誰も、止められなかった。助けられなかった。
誰も置いていかれる覚悟など、できていなかったのです。
──それでも世界は、再創世されました。
穹さんのいない世界に、私たちは再び目を覚ましたのです。
それがどんな理屈で起きたのか、今もわかりません。ただ、ファイノン様がうまくやってくれた。ということだけはわかります。
けれどひとつだけ、確かなことがありました。
ヒアンシー様は言いました。
「グレーたんは、また絶対に“おはよう”って言ってくれます」
サフェル様も笑っていました。
「グレっちが死んだままなわけないじゃん」
だから私も、探すことをやめていません。どこかに、穹さんがいるはずです。
何食わぬ顔で、「おーい」などと言いながら、笑って立っているはずなんです。
そう信じて、今日もまた、私は歩き出します。
穹さんが、「また明日」と私たちに託した“明日”を、取り戻すために。
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「んぁ…………これが再創世後のオンパロスか。なんか……なんか変わったのか、これ?」
その日は少しだけ、風が暖かかった。地面に落ちた花びらが、かすかに揺れていた。
自分の居場所も分からず、スマホもない。やることがない俺はその影を追いながら、ふと足を止めた。
どこかで誰かが、俺の名前を呼んだ気がした。
「……穹さん……っ……!」
遠くから、足音がする。
転ぶような、走るような、引きずるような音。
砂利を踏む音が、ばらばらと耳に届いた。
振り向くと、そこに見覚えのある顔があった。
埃まみれで、袖が少し破けていて、息が乱れていて。
それでも、俺以外見えていないというような、必死の形相だった。
「……キャストリス……?」
言った瞬間、彼女が目を見開いた。その顔を見たとき、ようやく俺は実感した。
本当に、生きて帰ってこられたんだと。
「あ……」
なんて言えばいいのか迷って、結局、いつも通りの言葉が口をついて出た。
「……お、おはよう?」
それは彼女に言ったのか、それともこの世界に言ったのか、自分でもよくわからなかった。
でも、目の前に立っていたキャストリスは、何も言わなかった。ただ、その場に立ち尽くして、震えていた。
風が吹いていた。
何かを浄化するような、やさしい風だった。
俺は、ゆっくりと手を伸ばした。
そして、彼女の頭にそっと触れた。
「……その、ただいま。キャストリス」
それだけ言うと──
キャストリスが、ふわりと崩れるように、俺にしがみついてきた。
その身体は、思ったよりもずっと細くて、冷たくて、
何度も、何度も泣いた痕跡が、そこにあった。
小さな体がぶつかってきて、腕の中で、震えていた。
声も出さず、ただ必死に掴んでくる。
手が、俺の服をきゅっと握っていて、まるで、もう二度と離したくないみたいだった。
「本当に……穹さん、なんですよね……? 夢じゃないですよね……?」
かすれた声が、胸のあたりで聞こえた。
「うん。俺だよ」
「……生きてる……生きてる……っ」
キャストリスは、涙をぽろぽろと流していた。
静かに泣いているのに、全身から、ずっと我慢してたのが伝わってくる。キャストリスが泣くのを、俺は初めて見た。
「……もう、会えないって……思ってました……」
「ごめんな。遅くなった」
「違います……! 穹さんが悪いのではありません……!
でも、でも……っ! 怖かったんですっ……! このまま、いなくなったままだったらってっ……!」
肩が震えていた。
腕に力がこもっていく。言葉よりも、その抱きしめる強さが、気持ちを表していた。
「キャストリス……俺は、ちゃんと帰ってきたよ」
「……ずっと、探してたんです。どこにいるのかもわからないのに、ずっと……穹さんを、探してたんです……」
俺はキャストリスの背中に手をまわした。
細くなった身体が、ぴたりとくっついてきた。
「ありがとな。探してくれて。……ほんとに、ありがとう」
「私、何度も泣いて……もう無理かもしれないと、思ったのに……。それでも、穹さんが“また明日”って言ったから、信じたんです……!」
「……ありがとうキャストリス、信じてくれて」
キャストリスは顔を上げた。
泣きはらして赤くなった目で、俺をじっと見て──ぎゅっと抱きしめ直した。
「もう……絶対に、置いていかないでください……」
「ああ。今度こそ、絶対に」
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──とは言ったものの。
翌朝、目を開けたとき、キャストリスがいた。
俺の隣に座って、俺の顔をじっくりと見つめていた。
まだ朝日も出きっていない時刻。俺が目を覚ますより前から、彼女はずっとそこにいたらしい。
「……おはようございます、穹さん」
「……あ、ああ。おはよう」
声がひどく静かだった。
昨夜、泣き疲れて眠ったはずなのに。
それでもキャストリスは、何事もなかったように微笑んでいた。
「今日は、どこかに行かれますか?」
「え、いや……」
「私も一緒に行きます」
それは提案じゃなくて、宣言だった。
無理をしてる感じでも、押しつけがましくもない。
ただ“当然のこと”として、そう言った。
「……あのさ、キャストリス。無理しなくていいぞ? お前、昨日だいぶ泣いてたし……少し、ゆっくり休んだほうが──」
「私は、休んでいた時間が長すぎました」
微笑みを崩さずに言われて、俺は返す言葉を失った。
何を言ってるんだ? 休んでたって、キャストリスはあんなにボロボロになって俺を探してたはず……。
「穹さんがいなかった時間を、“夢”だと思うようにしてきたんです。でも、“また明日”と言って消えたその背中が、何度も夢の中で繰り返されて……。私はそれを見るたびに、自分の心が少しずつ壊れていく音を聞いていました」
そこに怒りはなかった。
憎しみも、恨みも、俺を責める気もなかった。
ただ、淡々と事実を述べている。
──穹さんがいなかったから、私は壊れかけた、と。
「今はそれを、“夢だった”と思い直す努力をしているところなんです」
彼女はゆっくりと俺の手を取った。
指先が冷たかった。けれど、しっかりとした力がこもっていた。
「穹さんが帰ってきた今を現実だと信じるには、時間がかかります。ですから、少しだけ……傍にいて、何度でも確かめさせてください」
──それは、頼みごとじゃなかった。
むしろ、もうそれ以外に自分が立っていられる場所がない、というような。
「もちろん、他の方と一緒にいるのも構いません。穹さんが誰と話していても、何をしていても、私は止めません」
俺の胸に不思議な寒気が走った。
「ただ……私が“穹さんの隣にいる”ことだけは、絶対に手放しません」
それが静かに宣言されたとき、
俺は、自分が何かとんでもないことしてしまったのだと、ようやく気づいた。
笑って「また明日」と言ったあの日、置いていったのは言葉だけじゃなかった。
“日常”も、“安心”も、彼女の“理性”さえも、全部、あの日に消えていたのだ。
「……キャストリス、俺……ごめん。あのとき……もっとちゃんと、何か言えばよかった」
「いえ。穹さんは、最後まで優しかったです。それに、何を言っても……私は、きっと泣いていました」
その言葉は、重いのに優しい。
優しいのに、どこまでも重かった。
俺の言葉が、俺の沈黙が、彼女をここまで追い詰めていた。
──そうして戻ってきた彼女は、自分の全てを“俺の隣”という一点に結びつけて、もう離れようとはしない。
「これからも、朝はここで起きてください。夜は、私が眠るまで近くにいてください。会話は短くても構いません。触れてもらえなくてもいいんです。でも、そこに“いる”ことだけは、絶対に……」
“──私の手の届くところにいてください”
そう言われたような気がした。
彼女は泣かない。怒らない。けれど、誰よりも、俺の不在を恐れている。
その静かな重さが、言葉よりも強く、胸にのしかかっていた。
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「……キャストリス、今日は少し……一人にさせてほしい」
俺がそう言った瞬間、空気が変わった。
窓から差し込む光はいつも通りなのに、キャストリスの表情だけが、ほんの一瞬で色をなくしていく。
彼女は笑おうとした。
でも、その笑みは引きつって、どこにも届かなかった。
「……そうですか」
声は小さくて、かすれていた。
視線が揺れているのに、必死に逸らさずに俺の顔を見ていた。
俺は言葉を探した。何かフォローを──そう思ったとき、彼女の膝が崩れる音がした。
キャストリスが床に座り込んでいた。
両手で自分の腕を抱えて、小さく、震えている。
「……また、いなくなるつもりですか……?」
「ち、違う! そういうつもりじゃ──!」
「……一人でいた時間、ずっと怖かったんです。何も食べたくなくて、眠るのも怖かったのです。もう“明日”なんて来ないんじゃないかって、毎日が終わるたび、そう思ってたんです……」
声が震えていた。
何度も唇を噛みしめながら、必死でこらえていた。
彼女は、もうすでに限界だったのだ。
「お願いです。私がいらないのなら……その手で、私の首を絞めてください。それができないのであれば、私は……」
言葉が詰まったまま、キャストリスは立ち上がった。
そして、ぎこちない動作で、胸元に巻いていた白い包帯のような布に指をかける。
「穹さんが望むなら……私の身体を好きに使っていただいても構いません……っ!」
そう言って、ほんの少しだけ布がゆるんだ。
見えたのは、やせた肩と、すこし赤く擦れた肌だった。
「もうそれくらいしか、私は……っ! 穹さんの傍にいられる理由が、思いつかなくて……っ」
「……やめろ、キャストリス」
思わず俺は、彼女の手を掴んでいた。
そっと、その指を解いて、布を整える。
「そんな理由じゃなくていい。お前は、お前のままで、ここにいていいんだ」
「でも、私は……。また穹さんを失いそうで……! どうすれば傍にいられるのか、わからなくて……」
小さく、ぽろりと涙がこぼれる。
それは静かで、抑え込んでいた分、重たかった。
「……ごめん。俺が悪かった。もう、お前を不安にさせない」
キャストリスは、そっと俺の胸に顔を押し当ててきた。
そのまま、崩れ落ちるようにしがみついてくる。
俺は彼女の背中を支えて、ぎゅっと抱きしめた。
「もう大丈夫だ。俺はここにいる。ちゃんと、隣にいるよ」
「本当ですか……? 嘘ではないですよね……?」
「うそじゃない。今度こそ、ちゃんと“明日”をキャストリスと一緒に迎えるから」
胸の中で、小さくしゃくりあげながら、彼女はうなずいた。
その姿は、痛いくらいに細くて、脆くて──
だから俺はもう、キャストリスを絶対に置いていかないと、心に決めた。