こんばんは、眼鏡2号です。
1 まず最初に
今年1年、本当にありがとうございました。
皆さまの応援のおかげでとても充実した創作ライフを過ごすことが出来ました。
感謝です。
2 お知らせ
DLSITE BOOTHで販売しております「ミルキングオブザデッド」
本日追加シナリオのアップデートを行いましたので、ご報告致します。
BOOTHはMP4ファイルを追加するだけでしたが、DLSITEは差し替え申請がありますので少しだけお時間掛かります。
5分の動画です。
是非楽しんでください!
さて、今年最後のFANBOX更新は先行ノベルとなりました。
現状、進捗としては大体10%くらいですね。
「ファーストパンデミック」は、それなりに長い開発期間が必要となりますので、気長にお待ちください。
その間にいつものFANBOXの更新や、これからDLSITEで販売する作品などを楽しんで頂ければと思います。
改めて、本当にありがとうございました。
2022年も、一層激しく活動しますので、応援して頂ければと思います。
来年もよろしくお願いします!
それでは、乳辱と搾乳が闊歩する
「ファーストパンデミック」の世界をどうぞ楽しまれてください。
※エロシーンは無いです。
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ーちょ、えっとまじで!?
両手を両肩にクロスさせ、胸元を隠すしぐさをする華名。
流石に唐突すぎたか。
でも、不安は早めに解消しておかなければ後々とんでもないことになる。
ーうん、音が反響してどこから聞こえたまでは分からないけどさ。微かな獣の声と、女性のくぐもった声が聞こえてきたの。
そう言うと、華名はさらに身を震わせる。
不安げな表情でエプロンを脱ぎ捨て、定位置に置いてある懐中電灯を二つ持ち、片方を私に渡してきた。
ーえ、もしかして確認に行くの?
ーもちろんよ! そんなのがのさばってるなんてあまりにも怖すぎるし。それに、もし窓ガラスを突き破って家に中に侵入でもされたらどうするのよ。
ごもっともな意見である。
でも女二人で確認するというのもどうかと思うが、今は女二人しかいない。
ースマホも持っていこう。何か面白い動画撮れるかもしれないし。
って結局そっちが狙いなのか!
面白そうな動画を撮って、オマエチューブの登録者を増やそうとする作戦だな! 姑息だ! 姑息なんだ!
ーふんだっ! 私はネットでバズるためならなんでもするのだ! 止められないぞ、この熱い思いは!
こちらの心を読まれていたようで。
流石は幼き頃からの親友。盃(牛乳)を交わした仲である。
ーまぁ、スマホは持っていこう。危ない事になったら警察とか呼ばなきゃだしね。
テーブルに載っているスマホに手を伸ばし、ホーム画面を開く。
上部にあるウィジェットには「増える、暴漢事件」との見出しのニュースが出ており、私の芯にさらなる不安を与えた。
ーじゃあ、いきなり行ってみる?
華名はやる気満々だ。もう既に動画をまわし始めている。
ーえっと、どこまで向かおうか。
ーとりあえず人通りの少ない場所だよね。裏山とか行ってみる?
裏山。
小さな頃からある、ちょっとした森林地帯だ。
住宅が密集しているこの区画で唯一自然豊かな場所。よくおじいさんやおばあさんがハイキングコースとして利用している場所だ。
山と言っても、ちょっと小高い丘があるだけ。石積みの階段を昇れば古ぼけた神社があり、ここら辺の人は大体そこで初詣を済ませる。
いつもなら、夜のちょっとした散歩として足を運ぶのだが、状況が状況だ。怖い。
ー嫌だ絶対嫌だ。でも……まぁ手前までなら。
入らなければどうってことはないのだ。
ーよーっし、じゃあすぐに出発しよう。耳を澄ましながらね。
パーカーを羽織、靴を履いて外に出る。
夏らしく、じんわりとした湿気が顔を覆う。
ーふぅ、暑いね。
上を見上げれば大きいお月様と、まばらな星々。
星を楽しめるようにと、街灯の光量は非常に少なめだ。気持ち程度に道を照らしてるだけ。
民家の明るさは人の営みを感じ取れて、どこか安心感を覚える。
そんな季節を歓迎するように虫達は歌いあい、生を謳歌しているのだ。
夏は好きだ。
元水泳部の身としては、これほど良い季節は無いと言える。
ーはーい、杏里隊員! 何か重要な手掛かりは発見できましたでしょうか!
スマホでカメラをまわし、すっかりその気になっている華名隊員。
暴漢がいないかを確認する危険な作業だと言うことを忘れていないだろうね?
ーとりあえず、道路に出てみようよ。
歩き、近くの電柱まで移動した。
微かに聞こえる音に耳を傾ける。
ー……
ー……
ー華名。
やはり、さっきと同じ音が聞こえるのだ。
何か液体を啜っている音と、女性のような、人間の絞った声。
ーうん、私にも聞こえるよ。でもこうも音が小さいと、専用の集音マイクがないと音が拾えないかも。
ー方向も分からない?
ーん? あ! 確かにね、方向は分かるかも。360度、どの位置が発生源か。
そう言って華名はスマホをいじりだした。
なんだろう、やってることはめちゃくちゃ頭良いのに、重要な部分は気づかないなんて。
それが華名である。そこがまた可愛い所なのだ。
ーよーし出来た出来たっと。
キュルキュルーと変な音が鳴ったと思ったら、今度は耳を刺激するモスキート音が流れ始めた。この音嫌いだ。
ーへっへー。どんなもんよ!
自慢する華名のスマホをのぞき込む。
画面の端からおうとつなトゲがいくつも出ており、先端が細くなるほど赤色に、丸くなるほど緑色になるのだ。そして、それが常に変化している。
ーで、これはなんなの?
ーこれはね、さっきの微かに拾った音を記録して、周波数を保存させて、その音を拾うだけのアプリを起動したの! 野鳥を撮る写真家さんや、整備工場の人とかが最近使ってる最新アプリなんだよ。んで、それをさらに改造したのがこれ。
ーんんーー、よくわからないけど、この変な音を辿れるようになったってことなのかな?
ーご名答! よくわかってんじゃん。
流石は機械に強いだけはある。
ーで、方角はー……あそこだね。
裏山の入り口の手前にある普通の民家。
確か、ご家族皆で旅行に行ってるとか言ってたっけ。
ーへ、誰もいないはずだけど……。
ーそうなの?
ーうん、ご近所付き合いはよくする方だからさ。今は一家全員で旅行に行ってるはず。
ーふーん……でも、確かめるんでしょ? あそこの家の裏からしてるし。
つまり、誰かいるということだ。
額から一滴、汗が流れる。
私が家の前で硬直していると、横から華名が玄関の前の門扉に手をかけ始めていた。
ゆっくりとノブを回す。キィーっと鉄の擦った音が鳴り、静寂した場に緊張と恐怖をもたらした。
ーちょ、華名。流石にまずいってそれは。人の家に勝手に入るのはさ!
ー大丈夫って! だって旅行で誰もいないんでしょ?
やはり彼女はゾンビ映画で一番最初に死ぬタイプである。
主人公の意見などなんのその、猪突猛進し、噛まれてウイルスを持って帰り、ゾンビとなって拠点をめちゃくちゃにするのだ。
私の静止を振り切り、中へ侵入する華名。
もちろんそんな彼女を放って置くことが出来ず、私もびくびくしながら後ろから着いていった。
ーま、玄関にはいないだろうね。でもさ、さっきの音、確実に大きくなってない?
華名の言う通り、うっすらとしていた音像がはっきりと明確になってきた。
じゃぶじゃぶと、顔を直接水の中に突っ込んでいるような感じだ。
ーうん、中からの音じゃないね。外…………裏の方から聞こえる。
大きい一軒家。
きっと裏庭があるのだろう。
確か子供たちもまだ小学校に入ったばかりだ。
そろりそろり。
足を揃えながら、二人で二人三脚みたいに歩幅を揃える。
大きな窓の付いた縁側を抜け、壁際から顔だけを出すように裏庭を覗き込んだ。
奥の方で、真っ黒な何かがうごめいている。
地面に覆いかぶさるようにぺちゃぺちゃと水の音を立てているのだ。
ーな、なに。
恐る恐る懐中電灯の光を当てる。
真っ黒で真ん丸な後姿から、一本の棒がゆらゆらと左右に振られているのだ。毛並みもしっかりと手入れされており、可愛らしいお尻の穴が丸見えになっている。
ー……犬?
ー……犬だね。
そういえば、ここのお家では犬を飼っていたんだった。
黒毛の柴犬で、確か名前は――。
ータロウ! おーい、タロウ?
耳をぴくんとならしているが、一向に動く気配がない。
ー杏里、ちょっと近づいてみようよ。噛まないよね?
ーうん、ここの犬は人慣れしてるから大丈夫だよ!
ほっと一安心。
颯爽と近づいて様子を見ると、可哀そうな事になっていた。
首輪が上手く地面の鎖と絡み合い、身動きが取れなくなっていたのだ。
クゥーン、ワフゥーン。
悲しそうな瞳で私を見つめるタロウ。
でも大丈夫だ、すぐに助けてあげるからね。
ーこれかな? よいしょっと!
カチンッ、と金属が鳴る音がした瞬間、くるりと振り返ったタロウが私に胸に飛び込んできた。
ーうわっぷ! ちょ、ちょっとタロウって、あはははくすぐったいって!!
よっぽど苦しかったのだろう。
べろべろと顔中を舐めまわされる。この犬は散歩のときしょっちゅう絡んでたからか、私の顔を覚えているのだ。しかも人懐っこい性格。
ーでもどうしてあんな状態……あぁ、水が出しっぱなしになってるのね。
ーずっと水をがぶ飲みしてたってこと? って、餌全然入ってないじゃん! 確かここの家族が旅行に行ったのは6日前だから…………。
ぐぎゅううううぐるるるるるる。
タロウのお腹からとんでもない音が鳴る。
つまりは腹ペコなのだ。もしかしてずっとご飯を食べてないのかもしれない。それで何とか飢えを凌ぐため蛇口の水を飲んでいたころにあの鎖があり、身動きが取れなくなっていたという状態だ。
ー華名、家族が戻ってくるまでさ、うちで預かった方がいいかな。今夜はうちの中庭で面倒見て、明日また様子を見に来るって感じでさ。
ー杏里がそうしたいのならいいんじゃない? でも薄情よね。せめて誰かに世話を任せるとかすればよかったのにさ。
確かにそうだが、何か不自然だ。
あの円満な家族が自分のペットに対してこんな仕打ちをするはずがないのだ。
それに、旅行って大体二日で帰ってくるものではないのか。だって今日は金曜日。先週の土曜日に出発した筈。子供だって学校もあるし、旦那さんだって仕事があるはずなんだ。
どうしてずっと帰ってこない。向こうで何かしらの事件に巻き込まれたのだろうか。
ーほら、タロウ。ごはん食べさせるからおいで
タロウは元気よく返事を返し、私の足元にぴったりにくっついた。
可愛い奴だ。特別にエオンで一番高いドッグフードを買ってやろう。ついでに骨っこもだ。
ーねぇ華名。結局音の招待ってさ、タロウ?
ーみたいーーだね。信号は完全にタロウを捉えてるし。
ほっと胸をなでおろす。
やっぱり想像しすぎだ。
世の中映画みたいなことなんて殆ど起きないし、危ない物事は殆ど解決されているものなのだ。
華名が見せた暴漢も、その内頭の良い人が解決し、世の中は正常に戻っていく。
そんなものなのだ。
ーごめん華名、エオンかコンビニでもいいからさ、犬の餌買ってきてくれない? 流石に家の中タロウ一匹にするのは可哀そうで。
ー了解!
ーありがとね。帰ってくる頃にはうどん出来上がってるから。
軽やかに走っていく華名。
その間にタロウと一緒に縁側の庭まで周り、大きな窓を開けた。
リールを付けた方がいいかと迷ったが、とても賢い犬で、中に入ろうとしない。
ーさって、お湯を沸かせて、うどん麺を入れてっと。
エオンなら往復走って15分。
その間にだし汁を温め、かまぼことネギをきざむ。
揚げ物は惣菜だ。私も華名も海老天が好きだから、2人で4つ買ったのだ。
ー静寂もいいけど、なんか寂しい。テレビでも流そうかな。
ネットでオマエチューブでもいいが、特に集中しないのならテレビが一番良いのである。
ーーーーでは、本日のニュースです。西地区港町にある中西市で、大規模な暴動が発生しました。警察では手に負えず自衛隊が出動。暴動の鎮圧は成功しましたが、多数のけが人と死者が出ており、今なお現場は混乱の最中となっております。
では、現場からの中継です。
ーーーーーきゃあぁっ! あ、ありがとうございます。え? 中継? ご、ゴホン! えーただいま西区港町の中西市に来ております。現場は想定より混乱している状況です。全体の鎮圧は完了しているとの事ですが、一部未だ抵抗する暴漢もおり、この地区の自衛隊が総出で対応をしております。なんと、国からは発砲の許可も出ており、いくつもの銃声がそこら中から鳴っている状態です。
ーへ? 何これ何これ!?
テレビの映像があまりにも衝撃だったので、慌てて火を止めテレビ画面の前まで急ぐ。
ーーーーーあ! ひ、人です!! ゆらゆらとこちらに向かって歩いてきております。どうする……ーー警察官の人がまっすぐ迎えに行き、肩を背負っております! どうやら暴徒の一部ではないようです。
肩を支えられた男性の口から、大量の血が吐き散らされた。
カメラマンは慌ててその映像をズームし、捉える。
ーーーーちょ、ちょっとカメラマンさん! それはまずいですって! 一旦中継をスタジオに戻します!
それから3分程、お花畑の映像が流れた後、最初の男性のキャスターの人の映像に戻った。
ーーーーただいまの映像に不快な表現が入ってしまったことを、深くお詫び申し上げます。先程の中西市の状況なのですが、基本的な鎮圧は成功しているとのことですので、近い地域に住んでいる方はご安心ください。ただ、万が一の為、家の施錠のご確認だけお願いします。
キャスターさんが一礼をした後、すぐに別の番組へと変わっていった。
たまに見る、週末前夜のお笑い番組である。
すかさずスマホの画面を開き、動画を見ようとした瞬間、華名が帰ってくる音がした。
ーふーぅ、ちょっと汗かいちゃったかも。
ーねぇ華名! さっきね、ニュースで凄い物見ちゃった!!
ーー
ーー
うどんをずるずると言わせながら、さっき見ていたニュースの動画をテレビに映し出している。
やはり他の人達も同じ衝撃を受けたのだろう。日本中がこの映像を話題にしているのだ。ネットですぐに拡散されるのは時として良い場合がある。
ーすっごーい! まじで現実!? うわぁ吐血してるううううう!
興奮気味な華名。彼女はこういったパニック系が大好きなのだ。
日常とはかけ離れた出来事にワクワクする感覚。それを安全地帯から眺め、あーだこーだ持論を展開するのは人間の大きな楽しみの一つ。勿論私も大好きである。
ー中西市ってここから車で二時間くらいの所だよね? 港だし。
ーうん、昔一緒に行ったの覚えてない? お父さんと魚釣りにさ。
そう、確か中学生の頃だ。
華名の親父さんがアウトドアにハマったということで、私のお父さんと一緒に製品を買い漁り、一緒に日帰りの釣り旅行をしたのだ。
ーそうだっけ? ふぅー……ご馳走様。
茶々っと食器を片付ける彼女。
華名のお家のルールである。自分の食器は自分で片付ける。自分で洗うのだ。
うどんを食べ終わった彼女は颯爽とレジ袋の中に手を入れ、お気に入りのポティチを取り出し、迷いなく開ける。
ーえ!? 早速!?
ー杏里、お菓子は待ってくれないんだよ。
ーいや待つよ! 待てないのは華名だよ!
もしかしてうどんの量が足りなかったのかもしれない。
そんな、海老天2つ乗せた贅沢仕様なのに!
お菓子を全部平らげられてしまうのは避けたい。
私も必死に残りのうどんを頬張り、即座に片付け、華名のいる戦場へと向かう。
ちらりと横を見ると、タロウが大量に入ってた餌を食べ終わったのか、満足そうにごろりと地面に突っ伏していた。
ーー
ーー
ーねぇ杏里、早速夜の大ホラー大会を行おうと思うのだけれども、どれ見よっか。
華名はとっても楽しそうだ。
一番怖がりな癖に。
ーうーん、どうせならゾンビものが良いよね。
昨日今日とそれっぽい出来事が起きているからだろう。脳裏に浮かんだのは、華名が見せてくれた旦那さんの姿である。
ーお、良いねぇ。私もそんな感じだと思ってたんだ。それならーーーー……これはどうかな?
華名が選んでくれたのは、最新作「オーンオブザデッド」。
ゾンビ界の巨匠が手がけた最高傑作のリメイク版である。
ーあ! それまだ見てなかったんだよなぁ。いいね。
ー私も私もー! どうせなら杏里と一緒に見たいなーと思ってさ、見ないでおいたんだよ。
カーソルがMの文字に吸い寄せられると、真っ暗な画面から白文字のMがドドンと音を立てながら現れた。
昨今流行りのサブスクリプション「メットフリスク―」だ。
私は「ルール―」派なので、そちらは契約していないが、世間的な軍配はメットに上がる。
ーでは、残酷なゾンビの世界のはじまりはじまりー……
ーー
ーー
やっば、めちゃめちゃ怖かったんだけど。
なにあれ? 特殊メイクなんだろうけどさ、あまりにもリアルすぎるし、細かな動きもそうだ。ただゾンビっぽくしているのではなく、一つ一つの動作には根拠があるって感じだ。
ーひゃ、ひゃああああ……。
放心状態でチーンとなっている華名を引きはがす。
上映中はずっと私を壁にしていたのだ。本当に内容は入っていたのか、疑問。
ーこ、怖かったねぇ。
ーね、でもさ、最後は切なかったよね? 好きな人が感染してて、生存者の船に乗ることが出来なくてさ、悲しい顔をしながら主人公である女性は見つめるの。
脳内を正当化するように。
仕方ないと自分に言い聞かせるように。
それを悟った恋人は、彼女の迷いを断ち切る為に、自分のこめかみに引き金を引くのだ。
ゾンビとして、生き返らないようにね。
彼女に見せる最後の姿は、彼女の中にいる自分という存在は、人間のままでいてほしかったのかも。
ーう、うん。確かにそうね。うるっと来ちゃったかも。
ーでしょ? 前半と中盤は怖かったけど、終盤の締め括りは流石巨匠って感じだよね。明らかに他のゾンビ映画とは違う。
ーほほーっ! 言いますなぁ。
落ち着いたのか、テーブルの上にあるジュースをぐびりと飲み干した。
ー……ねぇ杏里、あのさ、ちょっとした想像ゲームをしてみない?
ー想像ゲーム?
ーうん! もしこの世界がいきなり「ゾンビウイルス」に浸食された世界になったら、どうする?
その話し、さっきもしたような気が。
でも今回はどう逃げるのではなく、どう「生き残るか」を聞きたいのだろう。
ーそうね……まず、華名と一緒に自衛隊基地まで逃げるかな! 結構遠い場所だし、大体パニック時って電車とか走ってないだろうからさ、原付とか乗ってぷらーっとね!
ーほうほう。
ーで、自衛隊基地にたどり着いたらお父さんとお母さんに頼み込んで、私も自衛隊に入る。華名も強制ね。
私もかよ! と突っ込みが入る。
当たり前だ、君と私は表裏一体。光あれば影あり。影あれば光ある。
世の理なのだよ。
ーそれから訓練の日々?
ーそ、訓練の日々。だってさ、そんな世界になったら秩序も何もないじゃない。であれば、より大きな集団組織に入って悠々自適に暮らすのが一番安全よ。
ふふん、と鼻を鳴らしてみる。
が、華名はげんなりとした顔でこちらを見ているのだ。
ー……がない。
ーへ?
ー夢がない!! 夢がないぞ杏里!!
ファサァッと被っていた布団を脱ぎ、ドドン、とソファーの上に立つ。
ーだって、そこは自由の世界なんだよ!? 法律も、倫理観も崩壊した原始の世界!
ーほうほう
ー適当に銃をかっぱらって、ごろつきの仲間を集めて、そんで自分達だけのコロニーを作るの! 杏里も強制ね。
私もかよ! と突っ込みを入れる。
華名曰く、私達は裏表あるコインのような関係らしい。うん、分からんけど、思考回路は一緒だったね。
ーんで、たまに討伐依頼とかをこなすんだよね。きっとゾンビだけじゃなくて、ヘンテコなクリーチャーも出るだろうからさ。
ー依頼完了した日の夜は浴びるほど酒飲んでそうだね。
ーあたぼうよぉ!
ーでも、ゾンビって結構強いかもよ?
ーゾンビなんかに遅れは取らないでしょ! 俊敏さで翻弄したるぜ!
シュシュっと腰を左右に動かす。
ーふーん、じゃあ今から私ゾンビね。
ーはい? 何言ってってわわわわーーーー!!
両手で肩をつかみ、そのまま後ろに押し倒し、首元に噛みつくふりをする。唇が当たってこしょばい筈だ。存分にゾンビの力を思い知るがいい。
ーいやああああぁぁぁああああ!!! く、くっそおおおおお!!! きゃあああ!! あはっははははくすぐったーーーい!!
ーー
ゾンビごっこを終え、息を整える私達。
もう大人手前なのに、たまにこういった遊びをするのは華名だからだろう。
彼女は私にとって唯一と言っていいほど自分を見せれる人物であり、私の弱い所を見せれる親友なのだ。
ーはぁはぁ……も、もう。
テーブルに置いてあったジュースをぐびりと飲むと、一瞬だけ彼女の顔が真顔になる。
ーねぇ杏里、最後の想像ゲームなんだけど。
ーん? まだゾンビごっこする?
ーち、違うよ! えっとね、その……もしさ。
もじもじと恥ずかしそうにする彼女。
なんだい、一緒にゾンビになった仲なんだから何を今さら恥ずかしがってるんだい。
ーもし、さっきの映画みたいにな世界になって。もし、離れ離れになったとしたら。
ー世界が滅亡したら?
……私を、探してくれる?
寝る間際まで、華名の言葉の意味を考えていた。
でも、答えは見つからなかった。
その後は冗談っぽく振る舞うもんだから、てっきり本気で聞いてないのかとも思った。でも、彼女のあの表情、声。
今まで見たことも聞いたこともない華名の姿が、ずっと頭の片隅に残り続けたのだ。
enski yilmaz
2023-05-17 08:05:05 +0000 UTC眼鏡2号
2023-05-10 09:03:06 +0000 UTCenski yilmaz
2023-05-10 07:31:55 +0000 UTC