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小説 潜入調査の罠 後編

 嶺湖久絹恵から、金属製の土台がついた黒いシリコーンゴム製の長大な物体を受け取り、黒藤麻子が兎妃美の前に立った。  全頭マスクに穿たれた小さい視界確保用の穴から見る麻子は、頬を紅潮させ表情を歪め、醜い笑みを浮かべている。  憎い兎妃美に――たとえそれが、逆恨みによる感情であっても――復讐できる喜びに、興奮しているのだ。  裏を返せば、これから行なわれる処置で、彼女は溜飲を下げられる。麻子の自分に対する恨みが晴らせるほどの苦痛を、兎妃美はこれから味わわされる。  いや、そこまで考えるまでもなく、きつくてつらい処置を施されるのだと、兎妃美は理解していた。 『さあ、このディルドを口枷の開口部に挿入して、憎い女の拘束をおまえの手で完成させなさい』  黒い部分だけで、太さは麻子の手首ほど、長さは20センチに達しようかというシリコーンゴム製ディルドを、口枷の開口部がら口中に押し込もうというのだから。  暗くぼやけた狭い視界のなかで、軟らかいシリコーンゴム製ディルドに、麻子が液体を塗りつける。 「嘔吐反射を抑えるための、塗布式麻酔剤の一種よ」  医師の資格を持つ絹恵が告げた直後、ディルドの先端が口枷の金属製開口部に差し込まれた。 「ふふふ……」  顔を歪ませて嗤い、麻子がディルドを押し込む。  拘束衣の肩を天井から吊られ、身体を後方にのけぞらせることは不可能。ネックコルセットで固定され、首を動かすこともままならない。  拒みたくても拒めないディルドの先端が、口枷の金属製の筒を超え、兎妃美の口奥の粘膜に触れる。 「ぉ、お……」  喉の奥を突かれて、思わずえずきそうになる。  とはいえ、嘔吐反射を抑える麻酔剤のおかげで、苦痛は軽減されているようだ。  ディルドの先端が喉を超え、食道と気管が分岐するあたりに達する。  苦しい。  呼吸が苦しくなったような気がするのは、口枷の筒とディルドのあいだに隙間がなくて、口呼吸ができなくなったせいか。それとも、太いディルドが気管への空気の流れを阻害しているのか。  そこで、カチリと小さな金属音。  口枷の開口部にディルドの土台が組み合わされ、外れなくなったのだ。  そうと察したところで、麻子が上着の内ポケットから、カード状のリモコンを取り出した。 「ふふふ……」  冷たく嗤った麻子の指が、リモコンのボタンを押し込む。  その次の瞬間、兎妃美の股間を衝撃が襲った。 「ぉ……ッ!?!?」  声も出せず、全頭マスクの奥で目を白黒させる。 「ぉあッ……!?」  襲いきた衝撃にしばし耐えて、それが衝撃的なまでに巨大な快感だったのだと気づく。 「あ、あぅう(なんで)……」  衝撃と取り違えるほど、大きな快感に襲われたのか。  それは、3穴をこじ開け占拠する異物に、振動するしかけが施されていたからである。  そのしかけを、麻子がリモコンで起動させたのだ。  さらに、振動装置が起動する前から、兎妃美の3穴には緩い快感が生まれていた。いわば、大いなる快楽を生むための準備が整った状態。  そんな状態で強い振動を与えられたせいで、衝撃的な快感が一気に押し寄せた。  とはいえ、そうなった理由がわかったところで、快感が小さくなるわけではない。 「ンあッ、あぅうッ!」  快感の奔流に襲われ、抑えきれず、くぐもって喘いだところで絹恵の声。 「それじゃ、しばらくお別れよ。次に私と会うときまでに、素直ないい子になっていてちょうだいね。さもないと……」  そこでいったん言葉を切り、顔に酷薄きわまりない表情を貼りつけて。 「おまえは、永遠にこのままよ」  絹恵が告げた直後、金属製の扉が閉められて、兎妃美の視界は再び闇に閉ざされた。 「うぅ、うッんっ……」  くぐもって喘ぎながら、3穴を淫具に犯される。 「あぅ、んっあッ……」  罠に落ちた潜入調査官は、革の全頭マスクで顔も頭も覆われ、全身を革製拘束具で縛《いまし》められて、ネックコルセットで首を動かすことすらままならない状態で、大きな快感に襲われる。  いや、兎妃美を襲っているのは、快楽だけではない。  大いなる快感と同時に、苦しみも覚えている。  口を完全に封印され、口呼吸できない兎妃美は、鼻からしか空気を取り込めない。  そして兎妃美は、全頭マスクの裏側に設えられていたチューブを、鼻孔に挿入されている。  チューブの内径は鼻孔より細く、鼻から取り込める空気の量は、ふだんより少なく制限されている。  加えて、口枷の開口部から挿入されたシリコーンゴム製ディルドが、喉奥を超えて食道と気管が分岐するあたりまで達していることだ。  嘔吐反応を抑える薬は効いているものの、ディルドのせいで、気管に入る空気の流れが阻害されている。  つまり、安静にしていても、息苦しさを覚えるような状態。  そこに、3穴の淫具が快感を生む。  生まれた快感が肉を昂ぶらせ、肉体はより多くの空気を求め始める。  だが、鼻孔のチューブと喉奥を超えるディルドにより、取り込める空気の量は制限されている。  苦しい。息苦しい。  大きな快感がなければ、それは耐えがたいものだったろう。  気持ちいい。悦びが押し寄せる  呼吸の苦しさを覚えていなければ、それは兎妃美を酔わせていたに違いない。  苦しい。気持ちいい。  生命にかかわりかねない根源的な苦しみと、オンナの本能に由来する快楽が、同時に兎妃美を襲う。  苦しいのは嫌なのに。  敵の罠に嵌められ、厳重に拘束され、閉じ込められた状態で与えられる快楽なんか欲しくないのに。  否応なく苦しめられる。肉体を昂ぶらされる。  昂ぶることで、いっそう苦しくなる。  息苦しさをも押し流すように、大いなる快感が襲いくる。 「ンぅ、んっんあッ!」  膣内の異物が振動する。ゴツゴツの表面が、感じやすい肉壁をいやらしく刺激する。 「あぅ、んうぅあッ!」  肛門を占拠する物体も震えて、性感を煽る。それが肉壺の悦びと一体になり、背すじを駆け上がる。 「うぁあ、ぁうあッ!」  尿道の管そのものは震えていないようだが、膣の異物の振動は伝わっている。それが、尿道口直上の陰核にも影響を及ぼす。 「あぅう、あっあッ!」  昂ぶる。高まる。  ますます呼吸が速く激しくなる。  取り込める空気は不足しているはずなのに、苦しさは増してこない。  それはおそらく、息苦しさの増大と、快楽の高まりが比例しているからだろう。  とはいえ、酸素が足りていないことは変わりない。  そのことに、兎妃美は恐怖を覚える。  実のところ、拘束衣の下に取りつけられたセンサーにより、酸素飽和度を含め兎妃美の身体データは常にモニターされていた。  それで危険な兆候が検知されれば、すぐさま対応する体制が整えられていた。  だが、兎妃美はそのことを知らない。  知らないまま、絹恵による陵辱と、麻子による復讐を同時に受けていると思わせられている。  恐《こわ》い、怖《おそろ》しい。これ以上苦しくなりたくない。  嫌だ、嫌だ。これ以上昂ぶらされると、ますます空気が足りなくなる。  だが、取り込める空気の量は増えない。  3穴を責める淫具は止まらない。  恐いのに、怖しいのに、嫌なのに、昂ぶらされる。高められる。 「んッうッ、ンぅああッ!」  厳重に拘束された肉体に、圧倒的な快感が押し寄せる。震わせる程度にしか動けず、快楽をやり過ごすことは不可能。 「ぅんんッ、あぅあうッ!」  言葉を奪われた口からは、空気を取り込めない。鼻孔のチューブを介して吸い込める空気の量は、著しく制限されている。  気持ちいい、気持ちいい。  快感の奔流に飲み込まれ、肉が融ける。快楽に翻弄され、頭が蕩ける。  苦しい、苦しい。  不足する酸素を生命維持機能に回すため、脳の活動が制限される。そのせいで、思考力が衰える。  蕩けたうえに思考力が衰えて、ものごとを深く考えられない。  いや、減退したのは、思考力だけではなかった。  思考に基づく判断力も、兎妃美は失っていた。 「あうッ、あっあッあッ!」  気持ちいい、苦しい。  苦しい、気持ちいい。  息苦しさと快楽が、渾然一体となっていく。  今、苦しいのか気持ちいいのか、自分でもわからなくなっていく。 「ああッ、あぅンぁあッ!」  さらに苦しくなる。いっそう気持ちよくなる。  思考力も判断力も、一段と衰えていく。  快感を拒否する理性が後退し、代わりに快楽を求めるオンナの本能が兎妃美を支配する。 「ンむぅ、ンぅんむむッ!」  わずかに残った理性で、それではいけないと考え、快感の奔流に抗ってうめいたのが、最後のあがきだった。 「んッむッ……ンぁああッ!」  抗いきれず、押し流される。 「あァあッ、あゥあああッ!」  押し流されて、ひと息に飛ばされる。  肌を覆いつくし、きつく締めあげる拘束衣のなかで、手足がこわばる。  厳重に拘束された身体が、ビクンと跳ねる。  絶頂。  女が、オンナだけがたどり着く性の境地に、強制的に追い上げられた。  兎妃美の本能は、恍惚の境地で――。  しかし、そこで漂い、酔うことは許されなかった。  無慈悲な淫具は振動を止めず、憐れな犠牲者を責め続けていたからである。 「ン、う、んむうう……」  たどり着いた場所から、さらに高いところへと、休む暇《いとま》もなく押し上げられる。 「んうッ、ンぅああッ……」  やめてほしいのに、意思を無視されて昂ぶらされる。  ほんのわずかに回復した理性も、思考力も、判断力も、あっというまに押し流される。  そして、一度イカさせられた兎妃美の肉体と本能は、絶頂への道のりを憶えていた。 「ンあッ、あっあッあッ!」  今しがたより速いペースで、馴らされてしまった性の道を、一気に追い上げられられる。 「あうッ、ンぁあああッ!」  追い上げられて、否も応もなくたどり着かされる。  二度めの絶頂。  だが、震える淫具は止まらない。  これ以上責められると、身も心も壊れてしまいそうだ。 「んう(もう)、あぅあ(やめて)ッ!」  しかし、言葉にならない懇願を、意思を持たない機械が聞き入れるわけがない。 「んンんッ、ンぅうぁあッ!」  さらにイカされた。 「ンあッ、アぅあァああッ!」  重ねて絶頂させられた。 「あアあッ、ぅアぁああッ!」  繰り返し、何度も何度も追い上げられた。  数えきれないほど、性の高みに到達させられて――。  やがて兎妃美は、厳重に拘束された身から、ガックリと力を抜いた。  それから、どれほどの時間が経っただろう。  1時間ほどしか経過していないかもしれない。もう何日も、ここでこうして閉じ込められている気もする。  あれから、さらに責められた。  失神から覚めてはイカされ、イカされては失神を何度も繰り返し、気づくと淫具は止まっていた。  誰かが電源をオフにしたのではない。おそらく、バッテリー切れだ。  それで連続強制絶頂責めからは解放されたが、代わりに長時間の厳重拘束による苦痛が襲ってきた。  いかに正座に慣れているとはいえ、膝を折りたたんだ脚に、体重がかかる姿勢で拘束され続けているのはつらい。  腕をお腹の前で組み、上半身を固められたような状態を強いられて、関節が軋みそうなほどきつい。  ネックコルセットで固定された首も、口枷の開口部から挿入されたディルドが喉奥を超えて体内に入り込んでいることも、苦しくて仕方ない。  そして、猛烈な快感が押し寄せなくなったことがもたらしたものは、肉体的苦痛だけではなかった。 (わ、私は……)  これから、どうなってしまうのだろう。  理性が回復し、戻ってきた思考力で考える。 『それじゃ、しばらくお別れよ。次に私と会うときまでに、素直ないい子になっていてちょうだいね。さもないと……おまえは、永遠にこのままよ』  金属製の扉が閉ざされる前の、嶺湖久絹恵の言葉。  彼女の言う、素直ないい子がいかなるものかはわからない。  たが、そうならないかぎり、兎妃美は永遠にこのままだ。  全頭マスクも口枷も、上下の拘束衣も、けっして外してもらえない。  生かしておくために、水分や栄養は与えられるだろう。そのために、口から体内にまで入り込んだディルドはいったん抜かれるが、きっとすぐさま再挿入される。  排泄が許されるときも来るだろうが、固定されたカテーテルの導尿と同じようなやり方で、大きいほうも処理されるに違いない。  その際、淫具のバッテリーも交換される。  またバッテリーが尽きるまで、淫具に責め苛まれる。  それだけは、絶対に嫌だ。  これ以上責められては、まともな精神状態でいられる自信はない。こんなことが続けば、肉体も無事では済まない。  いやそもそも、命が続かないかもしれない。  取り戻した理性の部分でそう判断し、本能で責めへの恐怖を覚える。  実のところ、それは諜報機関などが用いる拷問の手法と共通していた。  まず、なにも訊かず徹底的に責め抜き、恐怖心を植えつけたうえで尋問すれば、拷問対象は次の責めを恐れ、訊かれていないことまで洗いざらい白状する。  そんな拷問にかけられた憐れな犠牲者と同じ精神状態に、兎妃美は陥っていた。  罠に落ちた潜入調査官は、次に陥落を迫られたら、あっさり堕ちてしまう。  絹恵になにを求められても。たとえそれが、自身の身柄だったとしても。迷いなく差し出す。  そんな精神状態に陥っていると自分ではわからないまま、厳重拘束の苦痛に耐えながら、兎妃美はそのときを待った。 (了)

小説 潜入調査の罠 後編

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