夏のビーチを歩く朱鳶と青衣。
治安維持任務の一環として、海岸の安全を守る特務が与えられていた。
もちろん、その場に相応しい服装……TPOをわきまえた特別衣装も貸与されているのだが……。
「先輩……」
「ん?」
サンダルで歩いている時、ふと朱鳶が口に漏らしていた。
「さっきからすれ違う人に『デカ』って言われるんですけど」
「……はて?」
「不思議ですよね。何も証明する物が無いのに……」
朱鳶の言葉に、青衣も不思議がっていた。
最低限の装備として、朱鳶の認識番号を記した腕巻きのようなものを付けているだけなのに。
「……うおっ……デカッ……」
「ほらっ、また今……もしかして私――――刑事だってバレてるんですか?」
「……朱鳶よ、今のは……」
すれ違いざまの男たちが、朱鳶の後ろ姿を見て確かに言っていた。
それを聞いた青衣が何かを言おうとしたのだが、黙っていることにした。
「治安を維持する『威厳』みたいな物が私から溢れ出るようになっているんですかね!」
「う、うむ……溢れ出んばかりであるぞ……」
青衣は気付いたが、朱鳶は気付いていなかった。
『デカ』というのは、朱鳶の威厳に対して言っているのではなく、女性らしい後ろの膨らみに対して言っていることに。
だが青衣は、この状況をもう少し楽しむことにした。
その後、男たちから『デカ』という言葉を聞く度に、誇らしげに背を反らしては下半身が強調される朱鳶を見て、青衣はいたずらっぽく笑っているのだった。
【おわり】
※明治初期に警察組織ができた時、当時の刑事は【角袖巡査(かくそでじゅんさ)】と呼ばれていました。警察官とは違い、角袖と呼ばれる服を着て民間に紛れ込んでいたため、悪いことをする人や権力を嫌う市民から「なんでぇ、あのクソデカ」と「かくそで」を「クソデカ」とずらして読まれて嫌われていました。その由来から刑事のことを「デカ」と呼ぶようになりました。