※本作は学生時代に書いた児童小説です。エロ要素は一切ありません。
朝が来た。
山と山の間から、ひょっこりと頭を出してきた太陽が、あたりを明るく照らし出す。
その太陽の光をいっぱいに浴びた花々が一斉につぼみを開き始めた。
蜜の匂いに惹かれた昆虫が飛び交い、早起きの小鳥達が囀りを始めると、森は急に騒がしくなる。
森が目を覚ましたのだ。
ここは沢山の動物達が住む広い森。その中で“森の広場”と呼ばれる場所に続々と動物達が集まってきた。
「今日は何する?」
「おにごっこ!」
「え~!?昨日もおにごっこだったじゃない!今日はおままごとにしましょ?」
「ちぇ、わかったよ。」
いつものように遊び始める動物達。ここは動物たちの遊び場なのだ。毎日のように集まっては楽しそうに遊んでいる。
しかし、太陽が空高く登った頃、森の中から響くような大きな足音が聞こえてきた。
ズシン……ズシン……
「何の音だろう?」
そう言っている間にも、何かの足音はどんどん近付いている。
……ズシン!……ズシン!
広場の池の水面が俄かに揺れる。
「も、もしかして……」
広場に突如現れた巨大な影!動物達は震えあがった。
身体中が真黒で、鋼のように固い鱗。そして、大きな口からギラリと光る鋭い牙。背中からは蝙蝠のような翼が生えている。
そう、この足音の正体は巨大な黒いドラゴンだったのだ!
それも物凄く恐ろしい顔つきで、赤い目が鋭く光っている。
「うわー!!く、黒い悪魔だー!!」
「逃げろー!!食べられちゃうぞー!」
動物達は悲鳴をあげながら一目散に逃げ出す。
ドラゴンは何か喋ろうとしていたが、すぐに広場はすっからかん。
あんなに賑やかだった広場が一瞬のうちに静かになってしまった。
ドラゴンは獲物に逃げられたのが余程ショックだったのか、恐ろしい顔に似合わず泣き出してしまった。
大きな目から大粒の涙がこぼれる。
その時!甲高い叫び声が広場中に響いた。
「た、助けてー!誰かー!!」
よく見ると、小さなリスがまだ一匹残っていた。このリス、逃げる途中、転んで足を捻ってしまったらしい。
ドラゴンは涙を手で拭いて、リスのところへノシノシと歩いていった。
それを見たリスは、なんとかもがいて逃げようとするが、行く手には広場の池。すぐに追い込まれてしまう。
小さなリスにとっては、ドラゴンの一歩一歩が地震のようだ。
ついにドラゴンは、リスのすぐ目の前まできた。影がリスを完全に覆い隠す。まるでリスの周りだけ夜になったかのように真っ暗だ。
(もうだめ……)
リスは目を瞑った。すると、何か固いもので身体が包まれる。リスは怖くてガタガタと震えた。
「……だ、大丈夫?」
「……え!?」
リスは思わず目を開ける。目の前には大きな顔。リスはびっくりして、ひっくり返ってしまった。
(私は今、黒い悪魔の手の平の上にいる……!?)
「大丈……夫?」
でも、その大きくて恐ろしい口から出たのは、嘘のように優しい声。その声を聞いたリスは、不思議と震えが止まった。
「……私を食べないの?」
恐る恐る聞く。
「うん。」
「本当に?」
「うん!」
リスは不思議そうにドラゴンの大きな赤い目を見つめる。さっきまで、あんなに鋭く恐ろしげに見えた赤い目が、自分のことを優しく見つめ返している。
「あの……ごめんなさい!!私、誤解してたの。食べられちゃうんじゃないかって思って怖くて……」
「ううん。みんなが怖がるのは分かってるんだ……。だって……」
ドラゴンは目の前の池を見た。
黒くて恐ろしい顔をしたドラゴンが、鈍く光る赤い目でこちらを見返してくる。
ドラゴンは自分の顔に震えて、思わず水面に映った自分の顔を尻尾で叩いてしまった。すると、恐ろしい顔は忽ち、くにゃくにゃに曲がって面白い顔になった。
「でも、広場で楽しそうに遊んでいるみんなが羨ましくて……。友達が欲しくて……。でも、やっぱり来なければ良かったんだ。みんなに怖い思いをさせて、君にはケガまでさせちゃった……。」
ドラゴンはまた涙目になる。
「あの……私じゃダメなのかな?友達……。」
少し恥ずかしそうにリスは言った。
「えっ!!?こんな僕と友達になってくれるの!?」
「そちらこそ、こんな小さなリスでいいなら!」
「ありがとう……本当にありがとう……」
ドラゴンは今度は嬉しくて泣きだしてしまった。
「私はリディア。あなたは?」
「ギガ。」
二匹はそれからしばらく見つめ合っていた。ギガにとってリディアは本当に小さな小さな生き物で、リディアにとってギガは、本当に大きな大きな生物。そんな二匹が友達になれた不思議さと嬉しさを、二匹はしみじみと感じていた。
気付けば夕日があたりを赤く染め始めていた。
「私もう帰らなくちゃ。パパに叱られちゃう。また明日、広場に来てね。みんなにギガは怖くないんだって話しておくから。だから明日はみんなで遊ぼうね!」
「うん!……あの、足はもう大丈夫?」
「あ、うん。もう治ったみたい。」
「良かったぁ……じゃあ、また明日ね。」
「うん。バイバイ!」
ギガは、自分の足元程しかないちっちゃなリディアが、森の中に消えるまで見送ると、自分の住む洞窟へと帰っていった。そして、広場でみんなで遊ぶ夢を見ながら、ぐっすりと眠った。
明くる日、足取り軽く広場へ向かうギガの姿があった。
花や虫を踏まないように注意しながらも、頭の中は遊ぶことでいっぱいだ。
(友達と遊べるなんて、夢みたいだ!)
ギガは口笛を吹きながら、ルンルンと歩いていった。
その頃、リスのリディアは……
「本当なの!!すっごく優しくて、みんなを食べたりなんてしないわ!」
「わかった、わかった。でもな、もしそれが森のみんなを誘き寄せる罠だったら、みんなを危険に晒すことになるんだぞ。」
リディアを止めてるのは、リディアのお父さんだ。
「ギガはそんなことしない!」
「いい加減にしなさい!お前には友達が沢山いるんだから、変なことにいちいち首を突っ込んで、みんなを危険に巻き込んじゃいかん。だいたいあの黒い悪魔……いつ森を焼き尽尽くすか分からんような奴と……。とにかく今日は広場に行かせないからな!自分の部屋で頭を冷やしていなさい!」
そう言ってリディアのお父さんは、リディアを部屋に閉じ込めてしまった。
(確かにギガは怖い顔だし、途轍もない力を持っているかもしれない。でも、それだけで……そう生まれてきただけで、いつも独りぼっちでいなくちゃいけないなんて絶対おかしい。それじゃあギガが可哀想過ぎるよ!)
リディアは出してもらおうと必死に叫んだが、時々「静かにしなさい」という返事が返ってくるだけだった。
「ごめん、ギガ……約束破っちゃう……」
リディアは目に涙を浮かべた。
その頃、当の本人は広場に着いた頃だった。
「あれ?誰もいない。まだ来てないのかな。」
ギガは高まる不安を抑えて待ち続けた。
太陽が真上に昇っても、俄雨でびしょぬれになっても、辺りが赤く染まっても、太陽が山に沈んであたりが暗くなっても……
気付けば涙が流れていた。
「そう……僕は何を勘違いしてたんだろう。こんな恐ろしい怪物に、黒い悪魔に、友達ができるわけないじゃないか!」
その日からギガは引きこもりがちになり、朝から夜までずっと洞窟で過ごすようになった。すると、森の広場はまるで平和が戻ったかのように賑やかになった。
ギガは毎日、同じことを考える。なんでこんな恐ろしい身体で生まれてきたのだろう、と。
鋭い爪に鋭い牙。もしかしたら僕は何かを傷付けるために生まれた存在……?
そして、ある日こう思った。なんで自分だけこんな思いをしなくちゃならないのか、と。
僕をこれだけ除け者にして、黒い悪魔なんて酷いことを言って、自分達は楽しそうに遊んで!
そう思うと、身体の中がとても熱くなった。それは、穏やかなギガの心に初めて生まれた怒りだった。
鼻から煙が噴き出し、息は炎に変わる!
真っ赤な炎が目の前に生えていた木を燃やし、一瞬で灰に変えてしまう。
「あっ……」
幸い山火事にはならなかった。心の中の怒りがサーっと引いていく。
「僕はなんて酷いことを!もし、山火事になってたらみんなを傷付けてた……。僕は……僕はなんて恐ろしいやつなんだ!これじゃあ、みんなが怖がるのも無理はない。それなのに僕はみんなを妬んで、怒って……」
ギガは一層落ち込んでしまった。もはや考えるのも嫌になって、眠りにつこうとした。その時だった。
ウォルルルルーン
何かが遠くで吠える声が微かに聞こえた。
「!?……広場の方からかな?」
ウォルルルルーン
もう一度。今度はさっきよりはっきりと聞こえた。
「狼の鳴き声?今までこの付近に現れたことなんてなかったけど……もしかして、森の広場が襲われてる!?」
ギガは飛び上がるように身体を起こすと、すぐに洞窟を出た。
もうみんなと仲良くなることなんて諦めたはずだった。それにさっきまで炎を吐くほど怒っていたはずだった。でもどうしてだろう、この気持ち。今すぐにでも駆け付けたい。たとえみんなが僕を嫌っていても、それでも助けてやりたい!
ギガは翼を広げた。翼を羽ばたかせると、土埃がたち、枯葉が吹き飛ばされる。
ギガは大空に舞い上がった。一度、二度、翼を大きく振るたびにどんどん加速していく。その姿はまるで大砲の弾のようだ。
広場が近付くにつれ大きくなる悲鳴、狼の唸り声……
(やっぱり尋常じゃない!みんなが危ない!リディアが!)
忘れようとしても忘れられなかったリディアの顔。友達になってあげると言ってくれた時のあの優しい笑顔。
あの笑顔も嘘だったのだろうか。最初から約束を破るつもりであんな笑顔できるのだろうか。わからない。僕はあまり笑顔を見たことがないから……僕を見る目はいつも不安と恐怖でいっぱいだったから……。
広場が見えてきた。森の広場を狼達が包囲している。広場の真ん中では、動物達が固まって震えている。
「助けてー!!」
「怖いよー!!」
恐怖のあまり泣き叫ぶ動物達。そんな中で甲高いリスの声が確かに聞こえた。
「ギガ―!!助けてー!!!」
(リディアの声!?リディアが僕に助けを求めている!?)
大きな翼の音がして、皆が空を見上げる。ギガは真黒な隕石の如く広場に派手に着地した。
大きな地震が起こって地面が割れる。
驚いて後退りする狼達。動物達は叫ぶこともできず恐怖で凍り付いてしまった。
そこにリディアが近付いてきた。
「ギガ!……ごめんなさい!私、約束を破るつもりなんてなかったの!お願い信じて!」
「リディア……。」
(そう、僕はリディアを信じなくちゃいけなかったんだ。友達として……外見なんて関係ない。リディアはこんな恐ろしい顔の僕に助けを求めてくれていた)
「信じるよ、リディア。今なら信じられる。僕が助けてくれるとリディアが信じているように。」
ギガは狼達を見渡した。
(もし自分がリディアと同じような小さな動物だったら、こんな辛い思いしなかったのにって昔よく思ったけど、でも……もしそうだったら、こんな沢山の狼達から友達を守ることなんてできるはずもない。きっと……きっと僕は友達を守るためにこんな身体で生まれてきたんだ。この鋭い爪も、牙も、炎も!!)
ギガは空に向かって真っ赤な炎を吐き出した。
これには流石の狼達も大層びっくりして一目散に逃げ出していく。
「ふぅ~。」
ギガは一息ついた。そして怯える動物達の方へ歩み寄る。
もう終わりだ。動物達はそう思ったことだろう。しかし、ギガは動物達の目の前までくると、ピタリと止まって優しい声でこう言った。
「大丈夫……?」
朝が来た。雲一つない青空の下で、大きな影と小さな影が、沢山の影に囲まれて楽しそうに遊んでいた。
深淵ネコジャラス
2025-10-07 16:09:40 +0000 UTCでるでる
2025-10-07 10:48:10 +0000 UTC