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産地直葬~ミルクアトランティス~

ある山の中腹に小川の流れる少し開けた高原がある。


まだ春の日差しが漸く山頂の雪を溶かしきった頃。雪解け水のせいかまだ川は冷たいが、ここ数日で一斉に草花が芽吹いたようで、辺りは鮮やかな緑で覆われていた。


草原の一角には白い花畑があり、その中心には花に囲まれるようにポツンと一軒木の家が建っている。


丸太を構造材とした可愛らしいログハウスで、小ぢんまりとはしているが煙突とデッキの付いた立派な家だ。


「あら、マーガレットの花が満開ね。綺麗で可愛い・・・」

小振りで可憐なマーガレットの花が咲き乱れ、虫達が嬉しそうに飛び回っている。この花畑の管理者と思われるその壮年の女性はニコリと笑顔を見せる。


一見すると彼女のシルエットは大鷲のようで、猛禽類特有の大きな鉤型の嘴と鋭い爪を持っていたが、しかし、ふくよかな身体つきに目元も眉の下がった優しい目付きをしており、猛禽類の獰猛そうなイメージとはかけ離れた落ち着いた雰囲気を纏っている。


全身はふわふわの羽毛で覆われ、明らかに鳥の特徴を有してはいるが、しかし骨格は人間のものに近く、翼に関してもわずかにその名残を感じられる程度で、人間と同じような手先の器用さを重視した腕に進化している。言うなれば“鳥人”というのが正しいだろうか。


朝のジョギングの後なのか、肩にはタオルを掛けており、羽毛が汗で若干湿っている。


ログハウスの入り口の扉を開けると一人の男が彼女を出迎えた。

「お帰りなさいませ、ジズ様。ちょうど今ハーブティーを淹れたところですが、身体を動かした後ですし、冷たい麦茶でも用意致しましょうか?」


どうやら彼女の名はジズというらしい。燕尾服をきっちりと着こなすその男性の対応や口調からみても彼女は相当高貴な身分のように思われる。


「あら、ガルゥ。いつもありがとう。では麦茶をいただこうかしら。ハーブティーはシャワーで汗を流してからゆっくりいただくわね。」


ジズの従者と思われるそのガルゥという男性も、やはり鳥人であり、鷹の一種である“ノスリ”に外観がよく似ていた。身長だけで見れば、ジズより少し低い程度だが、こちらは猛禽類のイメージ通り精悍で引き締まった身体つきということもあり、肉付きの良いジズと比べると一回りも二回りも小さく見える。


「ねぇ、ガルゥ。今回のお乳は過去最高のものがお届けできそうだわ。」

嬉しそうな顔で胸を摩りニコニコと笑うジズ。


ガルゥはドキッと一瞬身体を強張らせたように見えたが、すぐに咳払いし、

「も、勿論です!これだけ努力されてますし、ジズ様の本気のミルクを飲ませてもらえるなんて、きっと地球人も光栄の極みだと思います!」

と早口で応えた。


“ジズおばちゃんの幸せお届け便”


二人は宇宙中の人々に向けて、ミルクや卵の配達サービスを展開していた。文明の栄えている星を見つけては、その星のネットワークやSNSに入り込んでサービスのPR活動を行い、注文があれば生産から配送まですべて自分達で行っている。


取扱商品である卵やミルクはすべてジズの生産物。母性の凄まじい彼女は、自分のミルクや卵で宇宙中の生命体達が元気に育って欲しいという善意だけでこのサービスを行っており、お金儲けとかそういうものはすべて度外視だ。


パソコンに疎いジズに代わり、公式サイトの運営や配送先の惑星環境の調査などはすべてガルゥが担っている。


ガルゥは幼いころに親をなくし、一人彷徨っていたところをジズに拾われ、ここまで育てられた経緯があった。彼にとってジズは命の恩人であり、義理の母親でもある。彼は恩返しの為にもジズのやりたいことは何でも叶えてやりたいと考えており、配送サービスの運営にもかなり力を入れていた。


とはいえ惑星外の得体のしれない生物がお届けする、しかもあまり見慣れない大鷲の卵やミルク。大抵の場合は、怪しまれたり何かのジョークだと思われて注文がくるのは極めて稀ではあるのだが・・・


今回、ジズが上機嫌なのは久々に依頼があったからで、しかもジズの提案で期間限定で広告を出していた “産地直送母乳生絞りサービス”の注文だった。


呼んで字の如く、ジズが直接依頼者の惑星に訪問し、目の前で乳を搾って振舞うというもので、注文があってからというもの彼女はできる限り良い乳を出そうと身体のコンディションにかなり気を配っていた。


乳は体調によって質が大きく変わるので、バランスのとれた食生活は勿論のこと、毎日きっちり8時間半睡眠を心掛け、朝のジョギングも欠かさない。


お届け日はまさに今日のお昼頃。シャワーを浴びたジズはさっそくハーブティー片手に今日の配達の打ち合わせを始める。乾燥させたラズベリーの葉っぱを使った自家製ハーブティーのほんのり甘い香りが部屋を包み、ジズはリラックスした様子だ。


「・・・本日のお届け場所ですが、地球にあるN国のT都という大都市となっております。非常に小さな星ですので、“0.00001ジグ”の大きさまで縮小していただくと丁度良いかと思います。」


“ジグ”とは、ガルゥが考案した単位で、ジズの通常身長を1ジグとして、それをベースに惑星訪問時の自分のサイズを調整したり、商品の大きさを決める。


惑星によって文明のスケールもそこに息づく生物の大きさも全くといって違うので、ジズ側で最適なサイズになるよう大きさを調整しているのだが、その際に出来る限りミスが起きないよう二人の中でより分かり易い単位を作ったわけだ。


そう、ガルゥが0.00001ジグと言ったように、二人の住む世界は地球とは桁違いのスケールを誇っていた。


一見ジズは笑顔の可愛らしいただの優しい女性に見えるかもしれないが、実は身長は168㎞。人間のスケールから見れば途轍もない化け物だ。


もし、そのままのサイズで地球に飛来しようものなら、着地するだけで隕石衝突級の大災害が巻き起こり、ミルクをお届けするどころか、大量の死をお届けすることになってしまうだろう。


ジズは所謂“女神鳥”と呼ばれる崇高な存在で、全宇宙の生命を優しく見守るようなグレイトマザーでもある。神のイメージにそぐわず慎ましく暮らしているが、その実、死すら超越したとんでもない上位存在なのである。


彼らが今住んでいるここも、宇宙の其処ら中に転がっているちんけな有生物惑星とは違い、宇宙界の裏側に存在する高次の神界である。


ジズを中心に世界が形成されている為、大きさの概念はなく、ジズの身長に合わせて海や山、川が広がっている。


彼女が身体を縮小させれば、それに合わせて世界も縮小するし、巨大化すれば世界も巨大化するわけだ。


「地球と言えば、人間さん達が沢山暮らしている星よね。早くミルクをご馳走してあげたいわ。私のミルクですくすく育って・・・ウフフ・・」

ジズは何か妄想しているのか、虚空を見つめながらニコニコしていた。すると突如として彼女の周囲の空間が歪み始める。


「じ、ジズ様・・・2ジグ、いや3ジグまで巨大化しています!」

どうやら無意識のうちにジズは巨大化しており、世界もそれに合わせて膨張していたようだ。


ジズには感情が昂ぶるとすぐ巨大化してしまうという欠点があった。168㎞という身長もあくまで平常心の時の通常身長であり、スケールという枠にすら彼女は囚われない。


母性の化身ともいえる彼女は、母性を感じること自体からエネルギーを得て無限に成長できる力を持っている。どこまでも巨大化し、どこまでも強く大きな存在になれる“無限大生命”とも呼べる彼女からすれば、やがて縮小し消滅してしまうような儚い運命を持つ宇宙ですらちっぽけな存在と言えるだろう。


「あらあら・・・ごめんなさいね、ガルゥ。久しぶりにミルクをお届けできると思うともう嬉しくて嬉しくて。」

ポリポリと頭を掻きながらニコリとジズは笑ったが、時計を見てすぐに我に返る。


「あら、でももうすぐ時間ね。急がないと。」

気を取り直し、今度は自分の身体を縮小し始める。


彼女の身体が縮小されると、遅れて世界もそれに追随するように小さくなっていく。


「・・・このくらいかしら?」

「・・・0.000011・・・・0.0000105・・・誤差の範囲です。それでは、異世界ゲートの扉を開きますね。」

ガルゥは手刀で空間を切るようなジェスチャーをすると、本当に“空間に傷がはいった”。その傷に両手の鉤爪を引っかけると、両開戸を開くように傷を押し広げる。


「いつもありがとう、ガルゥ。」

「いえいえ、とんでもございません。いつも通り“監視”しておきますので、何か問題が起きても私のほうで対応します。」

「お願いしますね。じゃあ行ってくるわ。」

「いってらっしゃいませ!」

女神の庇護のもと、たっぷり愛情と神力をかけて育て上げられたガルゥは、ジズに次いで神に近しい様々な能力を会得していた。特に異世界や別の場所の空間を繋げるワームホールの生成や、ジズの干渉した事象限定ではあるが、時を巻き戻すことができる等、時空に関わる特殊能力が得意である。

これらの能力はいずれもジズの役に立ちたいという一心から編み出されたものだ。


ガルゥはジズを見送ると、さっそく自室に籠り監視の仕事に移った。


ガルゥの部屋には巨大なパソコンとディスプレイがいくつも並んでおり、画面には地球のあらゆる地域の映像や、人口、温度など様々な情報が映し出されていた。


これらは地球より科学技術の進んだ別の惑星で流通していた“サテライト監視システム”を仕入れて稼働させたもので、ガルゥの能力とは特に関係はない。


(ジズ様、“今回”は大丈夫かな・・・)


ガルゥはお届け先のT都の町の様子を一つのディスプレイに映し出すと、真剣な眼差しで画面を見守る。


・・・しかし、目の前に飛び込んできたのはとんでもない映像だった。


町全体が急遽大きな影で覆われたと思った次の瞬間!!

ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!


なんと高層ビル群が地盤ごと激しく隆起し、まるでドミノ倒しのように滅茶苦茶に倒壊してしまったのだ。そして、ただ倒壊するだけに留まらず、暴風なのか衝撃波なのか何か巨大なエネルギーに町が晒されたようで、地面も建物も人も何もかもが吹き飛ばされ粉々になっていった。


ほんの数十秒前まで確かにそこには賑わいのある繁華街広がっていた筈なのに、もうそこはただの静寂に包まれた廃墟と化している。


(ジズ様・・・また・・・ッ!)

ガルゥは頭を抱えた。


そう、突如町に破滅的な終焉を齎したのはジズ本人だったのだ。


おそらく、これからミルクをお届けできるという喜びでも噛み締めていたのだろう。地球と直接繋がった虫食い穴の異空間を飛んでいた彼女だったが、どうやらそのワープ中に母性を刺激されて、元の1ジグサイズに戻ってしまっていたようだ。


則ち地球に168㎞もの巨大生物が飛来したということになる。


1ジグ時のジズの体重は約100テラトン。富士山全体の質量で2.9テラトン程度であることを考えると、この大災害がなぜ起きてしまったのかが容易く理解できることだろう。


ジズの出現した場所から半径100㎞の範囲にあった町は文字通り全壊。1000㎞先の地域ですら被害が出ている。


ワームホールから大地に直接降り立ったのでまだ“この程度”の被害で済んでいるが、もし宇宙空間から成層圏を突破し、隕石のように派手に着地していたら、もうそれだけで全生命体が塵になっていたことだろう。


ただ降臨しただけでもこの被害だ。彼女はそのまま何も気付かずに数歩歩いたが、100テラトンの歩みというのは一歩一歩が天災級である。ふっくらとした重量感のある巨体。そしてそれを支える為に発達した暴力的で逞しい猛禽類の足が一歩星に振り下ろされる度、地球史に刻まれるような地震が何度も何度も巻き起こってしまう。


しかし、当の本人は0.00001ジグに縮小したものだと思い込んでいるので、自分がまさか人類史上最悪の破壊神になっているなんて思ってもみない。


「あら、ガルゥの見立てが間違っていたかしら、町がやけに小さいわね。」


かろうじて地面の灰色に気付いたジズ。ジズはそれが町に見えているようだが、すでにこの灰色は瓦礫の山の灰色である。本来であればこのままここで身体を縮小させて自分と星のスケールを合わせて、人間の町を確認すればいいようにみえるが、実は神界での巨大化・縮小化と宇宙界のソレでは事情が大きく異なっていた。


神界は周りの自然も含め、ある意味世界のすべてがジズの一部であり、神界全体がエネルギーに満ち溢れているから何も問題ないのだが、宇宙界は、あくまでジズとは別の存在である。


ジズがここで巨大化すれば、周囲からエネルギーを吸収してしまうことになるし、逆に縮小化すれば、ジズの膨大なエネルギーが周囲に拡散し、悪影響を与える。


だから宇宙界では決して巨大化したり、縮小化したりしてはいけないとガルゥから口酸っぱく言われていた。


「仕方がないわね。このままここで搾るしかないかしら。」

ジズは徐に服を脱ぎ、豊満な乳を露わにすると、膝を着いて姿勢を低くした。

縮小して乳をお届けできない以上、町の上空から直接、母乳を搾って与えるしかないと考えたらしい。

・・・その実、「宇宙界で縮小してはならない」というガルゥの指摘は正しくない。ジズは質量保存の法則すら既に超越した存在だからだ。


嘘も方便とは言うが、ガルゥが適当なことを言ってまで本当に避けたかったのは、ジズが自ら破壊し尽くした惨状を目の当たりすることだった。


あまりにも巨大で強すぎる故に他者を容易く傷付けてしまうという非情な現実から彼女を守っているのである。


そして、前述の通り、彼女がそのまま気付かないうちにすべてを“なかったことにする”術もガルゥは身に付けていた。


すべては敬愛するジズの為。彼女が気持ちよく母性を発散させられるように、彼は全力で彼女をサポートしているのだ。



—ガルゥは地球の総人口を示す数値が約1億人ほど減少しているのを見て溜息をつくと、徐に懐中時計を取り出した。


ガルゥの特殊能力である“時の巻き戻し”はこの懐中時計を触媒として行う。観測対象の地域の時間と懐中時計の時間を合わせ、惑星に強く意識を傾けながら指先で時計の針を動していくと、その地域の時間も巻き戻る。


本来であれば、悲劇が起きた瞬間すぐさま時を巻き戻したほうが、余計に生命が傷つかなくて済むのだが、しかし、ガルゥの手はなぜかここで止まってしまった。


「ほんのちょっと・・・一滴でも町の人みんなに行き渡るかしら?」

乳を搾ろうとする女神の姿にガルゥの目が釘付けになっていたのだ。


そう、神に近しい存在になったとはいえガルゥも一人のオス。敬愛するジズに劣情を抱くのも無理はない。


なにより彼女のむっちりとした健康的な裸体と零れ落ちそうな豊満な乳はオスの股間を呻らせるには十分な代物だ。


ガルゥは自分の役目も忘れ、茫然とジズの乳搾りを眺めていたが、しかし、その初動の遅れが更なる悲劇を招く!


「あっ!!そんな!!!」


一滴だけミルクを出そうと乳を握った瞬間その悲劇は起きた。

ズドドドドドドドドドド!!!


一滴どころか、途轍もない量のミルクが堰を切ったように彼女の乳首から噴射されてしまったのだ。


今日に合わせてしっかりコンディンションを整えパンパンに張った乳房から一滴だけミルクを出そうなんて最初から無理があった。


まるで巨大なダムが決壊したかのように乳首から溢れ出す大量の母乳。


腰を降ろしても高低差80㎞はあろうかという源泉から勢いよく噴き出すその液体は、容易く大地を穿ち、地盤を削り取り、灰色の大地を粉々に破壊しながら白に染めていく。


母乳大瀑布を前に人類の叡智など何の意味も成さないことが今、知らしめられた。


「あ、止めなくちゃ!!」

流石にジズもこれはまずいと思ったのか、なんとか止めようと力んだが、今度は…

ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!


ジズの肛門で大爆発が起きた。


ジズの悩みの一つ。慢性的なガス腹体質だ。お腹に力を入れるとすぐガス漏れしてしまう彼女だが、よりにもよって特大のおならが今このタイミングで出てしまった。


しかし、それはもはやおならというよりは一種の大量破壊兵器の類だった。


ガスタンクに穴が空いて大爆発が起きたかのような凄まじい勢いで放たれたジズのおならはその暴風で彼女の背後にあった地形を地盤ごとひっくり返すほどの威力があった。


街も森も山も彼女の屁の前では形を保つことも難しく、吹き飛ばされた際に互いにぶつかり合って発生した火花がガスに引火し、まるで火炎放射器のように辺り一帯を焦がしていく。


結局、彼女のおならは彼女の後方に位置していた複数の町や自然など広範囲を一瞬で消滅させ、地平線の先まで扇状に焦土を広げていった。


前は大洪水、後ろは紅蓮地獄。女神の他愛もない生理現象によって世界は一瞬で滅茶苦茶に汚染されてしまう。


油断に次ぐ油断。しかしそれはジズだけでなくガルゥもそうだ。


ジズのガス漏れによって起きたのは火災による蹂躙だけではない。星全体をおならスモッグが覆い、ガルゥのいる神界から正常に地球を観測できなくなってしまったのだ。


スモッグによる目隠しは、時を巻き戻す上でもノイズとなり、特殊能力が上手く機能しなくなる。スモッグが晴れるまで時が戻せなくなってしまうのだ。


(しまった・・・)

地球の大気の成分の割合を表示していたディスプレイを見てガルゥは青ざめた。


つい先ほどまでは窒素78%、酸素21%、アルゴン0.93%、二酸化炭素0.03%…と正常な値が表示されていたが、いま改めて見たところ、窒素35%、酸素8%、水素20%、二酸化炭素20%、硫化水素2%と著しく大気の割合が変化していた。残りの15%もアンモニアやスカトールなど、どう考えても生命体達に悪影響のありそうな成分がずらりと並んでいる。


たった一回のおならではあるが、ジズも相当長い間我慢していたらしい。圧縮に圧縮を重ねた極大放屁は容易く惑星整形を引き起こしたのだった。


酸素8%という数値は酸素欠乏で死亡するのに十分な数値であり、また硫化水素に関しても本来700ppm程度でも脳神経に作用し死に至る。硫化水素2%というと実に20000ppmである。当然即死の範囲だ。大量に放出された炭酸ガスの影響も凄まじく、1%でも二酸化炭素中毒に陥るというのに、大気を閉める二酸化炭素濃度は20%にも達している。


あらゆる要素において、もはや地球は生命が住める星ではなくなっていた。


風に乗って拡散していくジズのおならは、次々と世界を覆いすべての森が枯れていく。


生命数表示が加速度的に減っていくのを見て、頭が真っ白になっていたガルゥだったが、ふと別画面で起動させていた“未来惑星シミュレーター”の画面を見て更に驚愕する。


未来惑星シミュレーターとはAIが10年後、100年後の惑星の様子を予測し、表示するシステムだ。


神の干渉により、短期的には問題なくても、長期的に見て甚大な被害が発生する可能性もゼロではないので、干渉後は未来の様子まで確認して、もし問題あるようなら時を巻き戻すようにしていた。


ガルゥの目の前に予測生成された10年後の地球の姿は、とても不気味で、しかし興味深いものだった。


本来、地球と言えば“青い星”と言われるほど、海が美しい惑星だ。しかし、10年後の地球は“赤かった”のだ。


より具体的に言うと、海全体が真っ赤で、大地はすべて茶色、所々に緑が少し点在しているような感じだ。何が起きているのかと、ふと生物分布を見たところ地球の生命のほとんどが絶滅した代わりに“ヤコウチュウ”と“藍藻”だけが大量発生していることがわかった。


そう、則ち世界規模の赤潮と、アオコの大発生。ジズの放屁により、地上に住むすべての生命は一瞬で死滅してしまうが、水中に住む生き物は辛うじて途中までは命を繋いでいた。しかし、途轍もない量の母乳が惑星に放出されたせいで、世界中の海や湖で富栄養化が起き、ヤコウチュウのようなプランクトンや、藍藻をはじめとした細菌類が大量発生したのだ。


世界を真っ赤に染め上げるような死の赤潮、そして池や湖をドロドロにする死のアオコによって、水中に住むすべての生き物が酸欠となり死滅するというのが、AIが予測した未来だ。


ジズの生理現象は惑星にとってあまりに影響力が大き過ぎたのである。


地球がそんな破滅的な状況に陥っていることも露知らず、破壊神ジズはというと沢山の命がいる前で思いっきり放屁してしまった恥ずかしさで顔を赤潮のように真っ赤にしていた。


(あ、これ地球終わったわ)

ガルゥが諦めの表情で苦笑いする。


ジズは感情の昂ぶりで巨大化する特性を持っているが、その中でも特に著しく作用するのが、母性を刺激された時と、もう一つ、羞恥心に苛まれた時である。

ズゴゴゴゴゴゴ…


気付いた時にはもうジズは超巨大化を始めており、巨大な鷲爪が星に傷を付ける程、大地に食い込んでいた。そして、次の瞬間には彼女は大気圏から顔を出していた。


ガルゥが諦めの表情を見せたのは、過去にも何度か似たような事故が起き、星が壊れてしまったことがあるからだ。


ふと、未来惑星シミュレーターの画面を見ると、未来予測が再計算されており、次の瞬間には“何も映っていなかった”。


「あらもう、嫌だわ。このままじゃ星より大きくなっちゃいそう」

恥ずかしさの余り、3ジグ、4ジグと急速に巨大化していく彼女はしばらくあたふたしていたが、流石にこのままではまずいと思い、意を決して地面を蹴り宇宙空間に飛び出した。


そして、この一蹴りこそが地球の最後となった。


ジズがテンパってグダついている間に既に彼女は100ジグ、約16800㎞もの大きさまで巨大化しており、地球全体の質量よりジズの体重のほうが上回ってしまっていたのだ。


そんな巨神が助走の為に大地を蹴ったらどうなるかなんて、分かり切っていた筈だ。


星の崩壊。


地球はバラバラに砕け、ただの宇宙ゴミとなった。


まさに“立つ鳥跡を濁しまくる”。ミルクで、おならで、星を汚染し、マントルが噴き出る程“跡”を残し、挙句の後には壊滅させてしまったのだった。



—神界に戻ったジズだったが、出発時のワクワクで溢れていた表情とは打って変わって、しょぼんと暗い顔をしていた。


あの後、ガルゥが急いで地球の時を巻き戻し、破滅的な最期はなかったことになったとはいえ、それでも一つの時間軸で大量の命を奪ってしまった記憶はジズの頭の中には残ってしまうし、いくら時を巻き戻したとはいえ、一瞬でも愛する命達に地獄を見せてしまった罪悪感が募る。


「ごめんなさい、ガルゥ。また迷惑掛けちゃって・・・地球のみんなにも迷惑掛けちゃったわよね・・・」

ジズは俯きながら小さな声でガルゥに謝ったが、しかしガルゥは何も気にしている様子はなかった。


「とんでもございません!迷惑どころか、ジズ様の栄養満点で暖かいミルクに包まれて、きっと大満足だったに違いありませんよ!確かに最後に星を壊してしまったのは失敗かもしれませんが、でもそれまでは大成功でした!自信を持ってまた配達しましょう!」

降臨時の大破壊や巨大化による星の破壊はともかく、ガルゥにとっては、ジズの母乳で溺れ死んだり、彼女のおならでショック死するのは本望であり、ご褒美であり、最高の死に方だと本気で思っていた。


人間達がどう感じたかは分からないが、時の巻き戻しが遅れたのは、そもそも自分の責任だとガルゥは思っていたし、何の悪意も悪気もなく、ただ愛の副作用が悪い方向に出てしまったジズを責める理由はなかった。


「・・・そ、そうよね。」


「・・・うん!色々あったけど、でも頑張って良いお乳を作った甲斐があったわ!」

ガルゥのあまりに淀みのない返しに押されたのか、すぐに思い直して元気になるジズ。


その日の夜。最終的に巻き戻す破目にはなったものの、しかし、頑張って蓄えたミルクを届けられた喜びで、ジズは満足した笑顔でぐっすりと眠りについた。



—そんな中、ガルゥはというと、夜更かしして自室でなにやらパソコンと睨めっこしていた。


「ハァハァ・・・ミルクでアトランティス・・・ジズ様エロ過ぎます・・・ウッ・・・」

あろうことか彼は今日の一部始終を振り返りながら滅茶苦茶にシコり散らかしていた。

真っ暗な部屋の中でガルゥの身体はディスプレイの光で青く照らされており、ガルゥの男根の影と、それに沿って上下する腕の影が壁に映っている。


流石、神の従者というべきか、彼の男根部は両手で握っても亀頭どころか裏筋の半分も隠せない程の巨根だった。


全長の5,6分の1…約30㎞といったところか。それこそ、ジズが母乳とおならだけで世界を終わらせたように、彼がもしそのままのサイズで地球に現れたら、竿一本で星の命運を左右することができるだろう。


ディスプレイにはジズが降臨した時の町が崩壊する一幕や、母乳に沈む町、おならで粉々に吹き飛ぶ山の映像が映し出されていた。


ガルゥの操作するサテライト監視システムには録画機能があり、彼は今回の大災害の一部始終をあらゆる視点からすべて保存していたのだ。


彼のオカズはまさにこのジズによって引き起こされる壊滅的な末路だった。


敬愛するジズの圧倒的な生理現象を前に文明が成すすべもなく蹂躙されていく様は爽快で、改めてジズの偉大さを思い知らされるには十分なものがあった。


ジズの干渉により巻き起こる様々な事象を観測し始めて幾星霜、初めこそただただ彼女の存在の大きさに畏怖を感じていたが、繰り返し蹂躙を見せつけられるうちに徐々にジズの巨体や巨大化していく母性、彼女の生理現象によって巻き起こる被害にフェチズムを感じるようになってしまっていた。


そして今回の一連の配達事故の中にも、非常に多くのシコポイントがあった。


一つ目は冒頭。ジズのド派手な降臨だ。


ただ地面に降りたっただけで、ミルクを配達する予定だった依頼者に死をお届けし、ついでに大都市一つを一瞬で瓦礫の山に変えてしまったドジなジズおばちゃん。


たった数秒で1億人が消し飛んだこのシーンで、ガルゥは3回シコった。


0.00001ジグで地球に降り立つ予定がワームホール移動中に一人勝手に盛り上がってしまって無意識のうちに巨大化してしまったことで起きた凄惨な大事故だが、しかし、ある意味ではただ本来の大きさで降り立っただけとも言える。


“普通に降臨した”だけで、文明が壊滅してしまうという、あまりにも圧倒的なジズという存在を改めて再認識させられると共に、そんな偉大な女神鳥と今、一緒に過ごしていると思うと得も言われぬ充足感を覚えた。


そして、もう一つのシコポイントは勿論、母乳による世界の水没である。


ジズが頑張って乳を蓄えていたのは身近で見ていたし、ガルゥ自身もより良い質のミルクが出るよう、料理に腕を振るっていた。そんな努力の結晶は、もはやただ栄養価が高く美味しい、とかそういう次元を遥かに超えていたのだ。


人類絶滅級の旨さ。文字通り彼女の母乳は白い津波となり、数多の都市を押し流し人類絶滅に寄与した。


ガルゥの撮影した映像には“降臨地震”による被災を辛うじて逃れた生き残りに容赦なくミルクの高圧水銃を放ち蹂躙していく様子も記録されており、衝撃的な末路に思わず身体が震えたが、しかし、それもすべて“ジズの凄さ”に変換され、勃起を促した。


生暖かい白濁液に包まれいくつものミルクアトランティスを作り出し、世界を真っ白に染め上げる光景を前に、ガルゥも思わず生暖かい白濁液を出さざるを得なかった。


そして、殺人的に栄養に富んだ液体はやがて地球を赤く染め上げる。そのあまりにスケールの大きな事象にガルゥは過呼吸になるほど興奮し、何度シコっても果てることができないくらいだった。


ここまででももうガルゥにとって“一生のオカズ”レベルのシコさがあったが、しかし、今回は一味違った。


大放屁テラフォーミング。生命の住まう惑星を生命の住めない死の惑星に作り変える惑星整形。


ミルクフラッドの次に起きたこの大天災はガルゥに新たな性癖の扉を開かせたのだ。


実際、今回の惑星干渉によって起きた事故の中で一番被害が大きかったのがジズのおならだった。降臨に伴い1億、母乳で更にもう1億の命が奪われたが、残りの78億人は全員がおならで命を落としている。


まさか惑星の大気の比率を一回のおならで変えてしまうなんて、ガルゥの想像を遥かに超えていた。


ジズの放屁によって大地が焼かれていく様は壮観で、その後、じわじわと地球全体の植物が枯死し、緑の大地が、土色に変化していく光景はまさにこの世の終わりとも言えるものだった。


自分が昨日振舞った食事から発生したガスが星一つを死のスモッグで覆ったと思うと感慨深い。それこそお米一粒あたり800万人は死んでいる計算になるので、そのスケールギャップは半端ではない。



—実はこのガス漏れ事故には大きな秘密があり、それはガルゥですら知るところではないのだが、被害がここまで大きくなったのにはジズの神としての一つの特性が関係していた。


それは、生命から負の感情を吸い上げる力。


ジズは世界中から負の感情を搔き集め、それをガスに変換し、おならとして排出する力を持っていた。世界から争いを無くすために備わっていた神の力の筈だが、今回その力によって世界は滅亡してしまったのだ。


我慢できない程の極大放屁が意味するのは、則ち地球がそれだけ負の感情で溢れていたということ。


誹謗中傷、罵詈雑言、妬み、恨み、僻み、怒り…80億の負の感情が一つの大量虐殺兵器となり、そのまま人類に返還されたのだった。


なんとも皮肉な話である。


そんなこと露知らず、異次元のジズのおならに完全に魅了されてしまったガルゥは、所謂“勃起全”とも言える状態となり、なかなか治まらない興奮に悩まされた。


結局、この日明け方近くまで彼の“ジズオナ”は続き、性欲より体力が先に尽きて、ぐったりと寝床に倒れ込んだが、しかし、その顔はやりきったような笑顔で満ち溢れており、自身の幸せを噛み締めているようだった。



—こうして二人は互いに支え合い欲求を満たし合う。なんとも不思議な関係性だが、しかし絶妙に噛み合っており、この関係性が保たれているからこそ、宇宙は(最終的には)平和なのだ。


ジズがいる限り、彼女の卵とミルクがある限り、宇宙に無数とあるすべての有生物惑星が飢えに困ることもエネルギーや資源が尽きることもない。


彼女の“うっかり”は今後も頻発し、刹那的な絶望は繰り返されるだろうが、しかし、女神鳥ジズの圧倒的な庇護欲と、それを支えるガルゥの敬虔さの前では、破滅的な未来ですら、その運命を変えてしまうのだろう。


宇宙の創造主すら超越すると言われる彼女の生理現象が全宇宙のすべての種の繁栄を約束している。


ジズはすべての命の母なのだ。


おわり

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