XaiJu
Kara
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【F/F】政敵始末室#1

1. 政敵始末室 (F/F) 「あの人、最近見ないよね。ほら…あの話題になった背の高い美人アナ」 「あー…"すみかわ"って人?あの"女神の党"にめっちゃ物申してた」 「そうそう。干されちゃったのかなぁ」 前を歩く二人の女の会話を、私は唇を噛み締めながら聞いていた。 こうでもしなければ堪えられないのだ。 笑いを。 "澄川 愛穂(すみかわまなほ)"は少し前まで大手メディアに出突っ張りだった美人アナウンサーだ。 妖艶な大人の色気を放つルックスと、歯に衣着せぬ物言いで人気になっていた。 特に、かの"女神の党"への批判ではインターネットでの人気も獲得し、"ドSアナ"のニックネームと共に一躍、時の人となった。 女神の党とは、現在この国を動かしている巨大政党である。 女性のみで構成された女性のための女性による政治をモットーとしている。 私も、特別党員として政党を支えている。 澄川が女神の党を目の敵にしているのは、彼女が女神の党と敵対している"貫槍党"の党首"折島 和葉(おりしまかずは)"と親しいからに他ならない。 澄川は、貫槍党の傀儡だ。 私たちから見ても相当厄介だった。 だから、あの措置を取られたのだ。 そろそろ"生まれ変わった"彼女が地上波に復帰する頃だろう。 彼女を支持していた者たちはひっくり返るに違いない。 闇の世界で精神を作り変えてしまうほどのサディスティックな措置が行われていることを前を歩く二人の女も、誰も──知ることはない。 「貴女方の推し進めている政策というものは、男女の分断を進めるものに他なりません。実際、そういった意見で溢れていると思いますがその辺りはどうお考えですか?」 澄川はいつもの通りの鋭い眼光を女神の党の党首に向けた。 「そう言った意見があることは勿論、承知しています。ですが──」 女神の党"党首"はのらりくらりと澄川の追求をかわす。 今は滅多にない地上波生放送での女神の党との討論。もっと追求せねばならない。そう分かっていても、上手くいかない。 収録が終わり、澄川は局内のトイレでメイク直しをしていた。 今日の仕事はおしまいだが、家に帰るまでメイクもバッチリの完璧な状態でありたいのだ。 用を足そうかと思ったが、珍しくトイレのドアは全て閉まっている。 ──まぁ、帰ってからでいいか。 澄川はメイクでさらに整った自身の美麗な顔立ちを鏡で確認してからトイレから立ち去ろうとした。 その時だった。 視界が消えた。 「えっ…」 真っ暗だ。 照明が落ちたのだ。 停電か。 澄川がトイレから出ようとすると、すぐに灯りがついた。 ──良かった。ただの不具合かな。 澄川がほっと胸を撫で下ろし、顔を上げて鏡を見た時── ──澄川は息を飲んだ。 澄川の後ろに、澄川よりも背の高い女が一人、立っている。 無表情の女は、背後から手を伸ばして澄川の口を塞いだ。 「んぅっ!?」 漏れかけた悲鳴が、口を塞ぐ大きな手に染み込んで消える。 なに? 何が起こってる? 澄川は背筋に寒気を感じながら、逃げようとするが、背の高い女に手首を掴まれてしまった。 どんどんどんと次々にドアが開く音がした。 鏡越しに、閉まっていたドアがばたばたと開き、黒いマスクで口を覆った女たちがぞろぞろと出てくるのが見えた。 これは、現実なのか。 突然のまるで理解出来ない展開の連続に澄川はただ呆然としていた。 あっという間に、澄川は女たちに包囲された。 真っ黒いドレスを着た女が、澄川の耳元で何かを囁いた。 英語か、韓国語かそれとも…少なくとも日本語ではない。澄川は黒ドレスの女が何を言っているのかまるで分からなかった。 澄川を取り囲んでいる女たちが手を伸ばし、澄川の四肢を掴んだ。 「んぅっ!?ちょっと…!!」 澄川はこう見えて長年、スポーツにも打ち込んできた。 だから力には多少、自信がある。暴漢相手にだって怯まない。 だけど、これだけの数相手では太刀打ちなどできない。 澄川の四肢はあっけなく、掴まれたまま引き伸ばされる。 「んふぅっ!?」 突然、腋の下の近くに不愉快な刺激が走り、澄川は眉間にシワを刻んだ。 背後から口を塞いでいる女が、澄川の腋の下の近くを指先で触れたのだ。 勝手に身体に触られるのは、大嫌いだ。 しかも、今感じさせられたのはくすぐったさという澄川が最も嫌う刺激である。 人を無理やり笑わせてしまうくすぐったいという刺激は、澄川のような舐められないために他者に無闇に笑顔を見せないものにとっては邪悪な刺激そのものだ。 昔からそうだ。 学生の時から、友達だろうが誰だろうが、不意打ちでこちょこちょしてくる奴が嫌いだった。 だからこその時は、逆にくすぐり地獄の刑に掛けてきた。 相手が泣いても喚いてもやめなかった。本当に反省するまでは。 幸い、澄川は周りより背が高いから馬乗りになってしまえば大抵の相手は抑え込める。その状態でこちょこちょ地獄にかけると──相手は成すすべなく笑い転げるのだ。 大嫌いな刺激を与えてきた女を、澄川はギロリと睨む。 この女たちが、この状況がなんなのか分からない。 ドッキリか。だとしたら…関係者は全員、シメてやる。そう思った。 女たちはくすくすと笑いながら、また何語かも分からない言語でぼそぼそと話していた。 澄川の口を抑えている女が、もう片方の手を腋の下に近づけてくる。 小麦色の指が、ウネウネと気色の悪い動きをしながら…澄川の開かれたまま押さえつけられている腋の下に迫ってくる。 澄川はごくりと生唾を飲んだ。 まさか──。 くすぐったら殺す。 くすぐったら殺す。 くすぐったら絶対に殺す。 澄川は力いっぱいもがきながら、唸る。 すると、小麦色の指がぴたりと止まった。 流石に自分の強さが通じたのか。 澄川がそう思った直後だった。 突然、腋の下に小麦色の手が滑り込み、指関節を曲げ、丸い指先を腋の下の神経に食い込ませた。 「んにゅうっ!!?」 完全に油断していた澄川から甲高くてヘンテコな声が漏れる。 くすぐったら殺す。 くすぐったら─── 澄川の憎悪は、小麦色の指がモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョ!!っと腋の下の筋肉と神経とを同時に揉むようなこちょこちょによって、掻き消された。 「おぉぅっ!!?おほほっ!!?おほほほほほほほほほほほっ!!?」 腋の下に、最悪に不愉快な刺激が炸裂する。 びくびくと身体が勝手に震えて、押さえつけられている四肢がジタバタ暴れ、澄川は崩れ落ちた。 「ぷへっっ!!?やめっっ…!!?」 崩れ落ちた衝撃で一瞬、拘束から解放された澄川が逃げようともがくが、取り囲んでいた女たちがすぐに澄川の手足を伸ばして押さえつけたり、のしかかったりした。 凄まじく早い人力拘束だ。 「こ、こんなことしていいと思って…!!?」 澄川が怒声を浴びせようとすると、頭の上に座っていた女が澄川の口に指を突っ込み、無理やりグイと口を開けて口角を吊り上げさせた。 「んあっ!?」 もがく澄川の視界に、とてつもなく厭なものが映り込んだ。 澄川を押さえつけている女たちがにゅうにゅうと澄川に手を伸ばしてきている。 殺す。殺す。くすぐったら─── あらゆる人間を怯ませる澄川の睨みもここでは無力。 女たちの細くて長い指は、澄川の脇腹を摘むようにクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュクニュと揉んだり、 澄川が日課で鍛えている腹筋を爪で掻き回すようにこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょとくすぐった。 「んんんぉっ!!?おほほほっ!?おほほほほほほほほほほほほっ!!?ほほほほほほほっ!!?ほぁぁぁはははははははははははは!!?」 指で無理やり笑顔を作らされている奇妙な表情のまま、澄川はゲラゲラと笑される。 これが何かのドッキリだろうがなんだろうが、そういうのは嫌いだ。 プライドが許さない。 それなのに、くすぐったくて仕方がなくて…笑うしかない。 女たちは、腋の下の近くを爪の先で歩くようにこちょこちょとくすぐったり、体脂肪率が低くて特に敏感な腹部を重点的にこしょばしてくる。 まるで、澄川を徐々に弱らせるかのように。 コショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショ!! こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!! 「ふあははははははははははははははははは!!?ふへへへへへっ!!?い、いい加減にぃっ!!っっひひひひはははははははは!!?」 寄ってたかって憎いくすぐり刺激を浴びせられ、間の抜けた笑い声を漏らす自分が情けなかった。 女たちのこちょこちょは、単なるこちょこちょではない。 乱暴に見える指の動きは、実際には的確にウィークポイントにヒットする動きであり、とてもくすぐったさを我慢なんて出来ない。 くすぐったさで暴れまくり、体力は削られ、また、腹部を爪で掻くようにコショコショこちょこちょとかき回されることで酸素も奪われていく。 澄川にのしかかっている女たちは、無表情のまま、機械のように冷徹に長い指をこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょと踊らせ続ける。 こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!! コショコショコショコショコショコショコショコショコショコショ!! 「くかっっ!!?かはははははははははははははははははははははははははははははは!!?くへっ!!?ははははははははははははははは!!?」 もはや怒鳴る気力も失せてきた頃、突然、女たちは澄川をずるずると引き摺られるようにしてトイレの一室に連れ込んだ。 こちょこちょされて力の抜けていた澄川に抵抗する余裕はなかった。 一室に連れ込まれるなり、澄川の視界は薄暗くなり、呼吸がしづらくなった。 頭に袋を被せられたのだと理解するのには少し時間を要した。 素早く両手を後ろに回され、縛り上げられてうつ伏せに倒された。 ピキッと肩関節に痛みが走る。 澄川はとにかく大声を上げた。 ここは局内だ。近くに誰か人がいるはずだ。 だが、いくら叫んでも助けが来る気配はない。 「こんにちは。澄川サン」 ぎこちない日本語が聞こえた。女の声だ。 「大人しくしてください。私たち、痛いことはしません」 ぎこちない声の主はそう言うが、信用なんて出来ない。 「大人しく着いてきてくれるなら何もしませんよ」 「着いていくわけないでしょ!?分かった!どうせ女神の党の差金でしょう?黒い噂があったけど…本当だったのね…!これでもうあの党はおしまいよ…!」 澄川はヒステリックに叫んだ。叫んでいないと、恐怖で押し潰されそうだった。 女神の党の仕業だとは──本気で思っていなかった。 声がしなくなった。 ふわりとタバコの臭いが香ってきた。 顔に被せられた麻袋の、粗い網目越しに何かが見えた。 真っ黒いコートか何かを着た随分と背の高い女──。 革靴まで真っ黒な黒ずくめの女がごつごつと不気味な足音を立てて向かってくる。 「はぁはぁっ!!なんなの…!」 澄川が自分の声が酷く震えていることに気づく。 近づいてくる黒ずくめの大女から、袋越しでも分かるほどのとてつもない"血生臭さ"を感じるのだ。 黒ずくめが、澄川の目の前で止まった。 うつ伏せに倒されている澄川の腰あたりに、凄まじい重みがのし掛かる。 「うあっ!?」 あの大女が馬乗りになったのだ。 「澄川サン。ちょっと苦しいよ」 また、あのぎこちない日本語が聞こえたかと思うと── 突然、他人の手の感触が横っ腹のあたりを撫でた。 「いやっ!?ちょっ!!?」 最悪の予感がする。 もがいてみるが、まるで巨岩の下敷きにされたかのように身体は動かない。 「はぁはぁっ!!こ、こんなことして…ほ、本当に…本当にタダで済むと──」 こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!!! 「ぎゃっ!?いやっ!?いやぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!?」 横っ腹に畏れていた刺激がこちょこちょと這い回り、澄川はびちびちと無力に跳ねる。 こちょこちょ!! こちょこちょ!! こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょっ!! 大女は体格に見合わず繊細な指遣いと奇妙なリズムで澄川の横っ腹をくすぐり回す。 「あひゃひゃっ!!?あひゃひゃっ!!?はっ!!?ははははははははははははははははははははは!!?やめっ!!やめぇぇぇっ!!」 暴れても暴れても、満足に動いてくすぐったさを紛らすことが出来ない。 体重による圧迫感を与えられた状態でのこちょこちょ刺激は、とてつもなく、苦しい。 体格差を行使したくすぐりの刑がこんなにも苦しかったのかといま、思い知った。 大女の白い指はするすると脇腹に滑り、親指と中指で脇腹にあるこちょばゆいポイントをグリッと摘んだ。 「ぐぁっ!!?」 これまでとは違う、解像度の高い濃厚なくすぐったさがじゅわりと滲む。 全身の毛穴から、だらだらと冷や汗が吹き出す。 「はぁはぁはぁっ!!やめっっ…いい加減にやめっっっ……」 コリコリコリコリコリコリコリコリコリコリコリコリコリコリコリコリコリコリッ!!! 「にょあっ!!?あああああああああああああああああああああああああ!!?あはははははははははははははは!!?」 うつ伏せに寝かされた澄川の長身のボディが陸に上げられた魚のように無様に跳ねる。 視界を奪われていても、あの白くて長い指が小刻みに動いて指先で脇腹のウィークポイントをコリコリとほぐしている様が脳裏に浮かび上がってくる。 被せられた袋のせいで、熱い。苦しい。 大女の中指と親指から、じゅくじゅくとくすぐったさの暴力が脇腹に滲み込んでくる。 コリコリコリコリコリコリコリコリコリコリコリコリコリコリコリコリ!! 「ぐぁぁぁぁああああああああああはははははははははははははははははははははは!!?ちょっ!!?これっ!?」 止む気配のないくすぐったさに澄川は恐怖を覚え始めていた。 一体どうしてくすぐりでこんなに苦しんでいるのか。 これはそもそも、くすぐりなのか。 意識が朦朧とし始める。 身体がふわりと持ち上がるような感覚に襲われる。 澄川はそこで意識を失った。 ◯ そこは暗く、カビ臭い場所だった。 切れかかっている白熱灯が延々とその暗い通路を照らしている。 澄川は鉄の車椅子の上に固定されたまま、その通路の奥──深い闇の中へと進んでいる。いや、車椅子を押す者によって無理やりに進まされている。 手足は車椅子に付いている枷によって縛られ、立ち上がることは出来ない。 また、口にはタオルを突っ込まれていて澄川は話すことさえ許されていない。 通路の奥の錆びついた鉄のドアの向こうに、女が一人脚を組んで煙草を吸っていた。 黒髪のショートヘアの女。露出の多い肌には髑髏や薔薇のタトゥーが彫られている。 明らかに異様な風体だ。 女は三白眼で澄川を見ると、立ち上がった。そこそこの長身だ。 「今晩は、澄川さん」 女は流暢な日本語でそう言った。 何も言えぬ澄川はただ女を睨んだ。 車椅子を押していた者が、澄川の口から乱暴にタオルを取り出した。 澄川は口に残った埃やらを吐き出し、唇を舐めた。 「…いいわ。何も言わなくて。全て…察しがついてるから」 澄川はそう言ってまた、タトゥーの女を睨んだ。 やはり、この拉致は女神の党が関与しているに違いないと澄川は読んでいた。 女神の党は口封じになんでもやると聞いたことがある。 女神の党にとってマスメディアで反対意見を述べる澄川はどう見ても邪魔者だ。 だから、この反社会的な組織を使って自分を消そうとしているのだ──澄川はそう考えている。 「そうですか。話が早くて良かったです」 タトゥーの女はクスクス笑って煙を吐いた。 「良かった?そう?これが明るみに出たら…女神の党もおしまいよ。ついでに…雑用係の貴女たちも」 澄川は低い声で言った。 ようやく頭が追いついてきた。 この事件に、女神の党が関わっているのなら…恐怖している場合ではない。 絶対に、屈してはならない。 「明るみに出たら──そうなりますね」 タトゥー女はまるで他人事のように言って、失笑した。 「まぁいいです。それより…澄川サンの支持されてる政党にも…知られたくないこと…あるのでは?」 「はぁ?」 「貴女に一つ、確認しておきたいことがあります」 タトゥー女は煙草を灰皿にグリグリと押し付け、手を叩いた。 足音と、ガラガラと台車か何かを押す音が真っ黒い闇の向こうから聞こえてくる。 闇から現れたのは、手術台の如き台車に乗せられた一人の女と、それを押す者だ。 全裸にひん剥かれ、台車の上に仰向けに寝かされたまま四肢を枷によって拘束されているのは、黒髪の女。アスリートの如き引き締まった肉体をしている。 肩には白虎の刺青が彫られていた。 女は、口にダクトテープを貼り付けられており言葉を奪われている。 女の身体は妙にヌルヌルとヌメッており、また、表皮にはいくつものくすぐられ痕や指圧痕のようなものが見受けられた。 既に何かしらの"措置"を受けさせられたようだ。 澄川は、女から目を逸らした。 この女は──。 「"先生"の調べによると…この彼女は殺し屋さんだとか…悪いですよね。とある人間の指示により都合の悪い相手を次々に殺しているとか…」 「へぇ…」 知っている。 彼女は、"リリ"の名で活動している殺し屋だ。 貫槍党幹部はリリを利用して都合の悪い相手を消している。 非人道的であることは理解しているが、こうでもしないと貫槍党は上へ行けないのだ。 全ては平和のための犠牲。澄川はそう割り切っている。 「つい前日、"先生"の事務所に忍び込んでいたところを…私の部下が捕らえました。澄川サン。この女性のこと…知ってます?もし知らないなら…今、目の前で…彼女を"殺します"が…」 「はっ…!?」 思いもしなかった言葉につい澄川は取り乱してしまう。 「こ、殺す…!?」 「はい。ちなみにそちらの"彼女"はとある大陸から雇った凄腕の"マッサージ師"です」 女は、台車を押してきた別の女をくいと親指で指差した。 黒いボブカットの手脚の長い女で、これまたかなりの長身。 何故かスポーツブラ姿であり、体脂肪率の低い、攻撃的でありながらも健康的なボディを剥き出しにしている。 「彼女の指にかかればどんな者も処され…別人のように生まれ変わる」 「あ、そう…」 澄川はマッサージ師とかいう女からも視線を逸らした。 ここで、リリとの関係性を自白するわけにはいかない。 だが──。 ここでしらを切ればリリは──処されるのだろう。 散々利用しておいて切り捨てるのは澄川もやや胸が痛むが──。 そもそも、党の汚れ仕事を請け負った時点で、いずれリリは消さねばならない運命だった。 党首の折島とつい先日そのことについて話したばかりだ。 だったら。 遅かれ早かれ…か。 「この女を知っているかどうか…答えをお聞かせください。ちなみに…彼女からは既に"貫槍党"との繋がりに関する証言を聞き出しています」 タトゥーの女はそう言って、リリの方へ手を伸ばし、宙で指をこちょこちょと動かした。 長い指がこちょこちょとうねるように動く様を見せつけられたリリは目を瞑り、びくりと震えた。 締め殺し、圧殺、銃殺、様々な殺しをおこなってきたあの冷酷非道の殺し屋リリがたかだかこちょこちょに怯えている様子を見た澄川は──寒気を覚えた。 「そ、そもそも…こんなことして良いと思ってる?ここから出しなさい。こんな私刑なんて…」 流石に、目の前で処刑とやらを見せつけられるのは気分が悪い。 「あいにく…ここでは法律なんて通用しませんよ。澄川サン」 タトゥーの女はからからと笑った。 そう。ここではいくら喚いても暴れても無意味だ。 だから、上手くやって逃げ出すしかない。 「彼女のことは知らない…ということでよろしいですか?」 澄川から答えを聞く前に、マッサージ師とやらが動いた。 もう答えは決まっているだろう、そう言わんばかりに。 リリを見ると、目を剥き、すがるような目で澄川を見つめていた。 リリはうんうんと唸っている。 裏切るつもりか。助けろ!きっと、そう言っているのだろう。 こちょこちょっ!! 「んぉぉほほっ!!?」 マッサージ師のつるつるとした丸い指先が、リリの腹筋のあたりを滑る。 リリは過剰にその刺激に反応した。 明らかに異常な反応だ。 リリは完全に、既にトラウマを植え付けられている。 つるつるとリリの引き締まった肉体の上を滑る指は、浮き出た腰骨の辺りで止まった。 マッサージ師のツルツルとした指先が、両腰骨の窪んだ箇所で止まる。 リリは恐ろしげに腰骨の方に目を向け、固まっている。 マッサージ師の親指が突き立てられ、その丸っこくてツルツルとした指先が、コリッと腰骨のくぼみに食い込む。 「あ"ぅっ!!?」 リリの腰が浮く。腹筋にビキっと筋が走る。 「見つけた」 マッサージ師はカタコトの日本語と共に、にっこりと微笑む。 コリコリッ!! 親指の関節を曲げ、指先で軽く、腰骨の窪みをほじる。 「んん"ぅっ!?」 リリの目玉が大きく開き、手の指がぐぱぁっと苦しげに開く。 「ワタシのマッサージ…ご堪能くださいネ。お客様…」 マッサージはぎこちなくそう言うと、親指に体重をかけ、ずぶぶぶっと親指を腰骨の窪んだところに食い込ませていく。 「かっ!!?かっっ!!?くぁぁぁぁぁっ!?」 ガタガタとリリの身体が痙攣し、拘束台も音を立てて揺れた。 親指はどんどん奥深くに食い込んでいく。 腰骨のツボに食い込んだまま、ピタリと指が止まる。 リリは、目を剥いたまま、硬直している。凄まじい量の汗がリリから噴き出している。 「澄川サン…彼女のこと…知らないということで…よろしいですね」 タトゥーの女が、最後の確認をした。 澄川は、恐る恐る頷いた。 直後。 絶叫が轟いた。 「うあああああああああああああああああっ!!?」 苦しげな金切り声に近い絶叫は揺れ動き、笑い、悶え苦しむ声へと変貌する。 「うああああああ!?あはは!?あはははははははははははははは!!?んぁぁぁぁあはははははははははははははははははははは!!?」 親指が、腰骨にある窪んだところ──その奥深くのこそばゆいツボに触れ、あろうことかグリグリグリグリとマッサージしている。 「ぶふふふふふっ!!?んぉっっ!!?んぉぉぉおおおおおおほほほほほほほほほほほほほほほほほっ!!?ほほほほほほほほほほほっ!!?」 リリは目をひん剥いて、目いっぱい暴れている。 その甲高く悲痛な叫びは、ダクトテープによって籠った暑苦しい声に変えられている。 凄腕のマッサージ師は、無駄のない動きで親指を操り、ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりと腰骨の窪みをえぐる。 「んおおおおおおお"っ!!?おほほっ!!?おほほほほほほほほほほほほほっ!!?おおおおおおおおほほほほほほほほほほほほっ!!?」 その細い身体にみっちりと詰まった筋肉を躍動させ、大暴れするリリ。 そこへ、何人かの女たちが駆けつけて来てリリの肩やら頭やら膝やらを押さえつける。 「んん"ぅっ!!?んはははははははははははは!!?んぁぁぁぁあははははははははははははははははははははははははははは!?」 くすぐったさを発散するには暴れるしかないのに…それさえ封じられてしまった状態でこちょばいツボをぐりぐりされるなんて想像するだけでゾッとする。 「どうですかね。彼女…とっても苦しそうですけど…もし前言撤回されるなら…解放してあげられますけど」 タトゥー女は他人事みたいに言ってタバコを吸った。 「だ、だから…知らないって…」 「そうですか。では…もう用済みですね」 タトゥーの女はわざとらしく哀しそうな顔をして、マッサージ師に向かって指で合図を送った。 合図を受け取ったマッサージ師は、両手に、ヌルヌルとしたオイルのようなものを塗ったくった。 オイルにより、あのこちょこちょマッサージ師の手は、本当にオイルマッサージ師のような手になった。 ヌルヌルになったその手が、気をつけの姿勢のまま固定されているリリの閉じられた腋の下に近づいていく。 「ふーっ!!ふーっ!!ふーっ!!んぉぉぉおおおおっ!!」 リリは鼻水と共に鼻で荒く呼吸をし、血走った目でヌルヌルフィンガーを見つめていた。 「お客様ぁ。フィニッシュみたいですヨ」 ボブカットのマッサージ師はヌルヌルの手を腋の下にぬるりと差し込んだ。 「んにょおおおっ!!?」 リリの身体がのけ反る。 「いきますヨ?」 マッサージ師が、差し込んだ指の関節を器用にワシッと折り曲げる。 「うぁぁぁぁぁああああっ!!?」 リリの全身の筋肉に緊張が走る。 リリは、その幾人もを屠ってきた拳を握りしめて震わせている。 「こちょこちょのツボ…捕まえマシタ」 ぐちゅっと音を立て、脇の下に隠された弱点のツボに指先を食い込ませる。 「んぁぁぁぁっ!!?」 リリは暴れる。必死に、必死に、醜く。 まるで、捕食される小動物の如く必死に。 それを、女たちがさらに押さえつけ、頭部や腕、腰、太ももに黒い革のベルトを巻き付けて固定した。 これでリリはもうほとんど動けない。 身体を、石にされたのと同じだ。 「んーっ!!んぅぅぅぅっっ!!!」 リリは喉が潰れるほど叫んでいる。 「言い残す言葉はある?」 タトゥー女が、リリの口を覆うダクトテープをベリっと剥がした。 「ぷはぁっ!!す、澄川ぁっ!!折島ぁぁぁっ!!呪ってやる!!呪ってやるぅぅっ!!」 リリは悪魔のような形相で澄川をぎょろりと睨んだ。 「お前もっっ!!お前も殺すっっ!!」 リリのそのぎょろついた目がタトゥー女に向けられた時── 「やれ」 処刑執行宣言は下された。 脇の下の地獄のツボを捉えた死のこちょこちょマッサージが始まった。 グチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュ!!! 「んぉぉっ!!?おっ!!?おっ!!?おおおおおおおおおほほほほほほほほほほほほほほっ!!?おほほっ!?おっ!!?おおおおおおおほほほほほほほほほっ!!?」 リリの全身の筋肉にビシビシと血管とスジが浮き、その体脂肪率の低い見事なボディがビクビクと激しく震える。 リリがいくら暴れ、いくら鳴いて、唾液を撒き散らしても、マッサージ師はくすぐったいという刺激を親指からグチュグチュと注入していく。 「ぎぃぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!?あはははははははははは!!?こっっ殺すっ!!ころふぅぅぅっー!!絶対!!絶対ぃぃぃぃっ!!!」 リリは歪な笑顔を浮かべさせられたまま、天井に向かって吠える。 「悪態ついたからちょっとお仕置き」 タトゥー女がタバコを咥え、あろうことかその黒くて長い爪の先でリリの足の裏をこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょと掻き回した。 「なっっ!!?ちょっ!?あああああはははははははははははははははははははははははははははははははははは!!?やめぇぇぇぇぇぇーっ!!!」 タトゥー女の細くて長い指から伸びる艶やかな黒い爪は、土踏まずに吸い付くようにカリカリこちょこちょこちょこちょと神経を嬲る。 リリは、殺しにおいては凶器でもあったその足指をくねくね無様に動かし、悶え狂う。 「ほら…他のみんなも遊んで良いよ。こいつ…生意気だったから」 タトゥー女の呼び掛けにより、リリを取り囲んでいる女たちが次々ににゅうにゅうと手を伸ばし、ある者はオッパイに爪を立て、ある者は脇腹を掴み、ある者は見事な腹筋にオイルをぶっかけて指先を添えた。 そして。 こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!! グニュグニュグニュグニュグニュグニュグニュグニュグニュグニュグニュグニュグニュグニュグニュグニュ!!っと…地獄のお仕置きを執行した。 「やめっ!!あぇっ!?許しでっ!!ぇぁぁぁああああああああああああああああああ!!!あああああああああああああああははははははは!?ごめんなさぃっ!!ごめんなさぃぃぃぃぃっ!!」 無数の女たちの無数の指に揉まれ、爪に掻きむしられ──殺し屋リリは幼児のように泣きじゃくる。 彼女の全身から、さっき溢れる筋力がふにゃふにゃととろけて出ていくのが確かに見える。 終わることのない地獄の仕置きの連続に、リリは盛大に小便を撒き散らし、同時に気を失った。 「では…あとは貴女とお話ししましょうね。澄川サン…ここには楽しいオモチャが沢山ありますから…」 タトゥー女は、リリの真っ赤に変色した足裏から指を離すと、澄川に向けて微笑んだ。 直後、背後から伸びた大きな手が澄川の鼻と口を塞いだ。


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