闘技場支配人の苦悩 7話
Added 2023-06-09 14:00:05 +0000 UTCサルメラが〝三本の男根〟を治療した日から一週間後の深夜。 人気(ひとけ)のない闘技場の廊下から足音が聞こえた。 ノーラである。 積み重なっていた仕事を処理していたら、 いつの間にかこんな時間になっていたのだ。 そんな彼女だが、帰ろうとしているのではない。 ほとんどここに寝泊まりしているダグの元へ向かっていたのだ。 「……!」 支配人室の前まで行ってみると、案の定、 扉から光が漏れている。 おそらく彼もまだ作業をしているのだろう。 勤勉な支配人に温かい飲み物でも持って行ってやろうか。 などと考えながらノーラがそっと扉に手を掛ける。 もしかしたら作業途中で寝落ちしているかもしれないからだ。 それならそれで肩に毛布くらいは掛けてやろうか、と思っていたが。 「――――え!」 ダグが握っていたのは筆ではなく〝己のペニス〟 寝ているどころか、天井に向かって元気に起き上がっていた。 「あ!」 ダグとノーラの目が合った。合ってしまった。 「……」 「……」 これが母親と思春期の息子ならよくある家庭内トラブルだが、 ダグはとっくの昔に成人している男性であり、しかも上司、 ノーラは彼の部下であり、見た目は若い女なのだ。 職場で起きたら一発アウトのアクシデント。 とはいえ、時間帯と場所を考えればダグの〝行為〟も 異状とは言えないし、今回はのぞいたノーラが悪いとも言える。 彼女もそれを分かっているからか。 「……〝お忙しいところ〟失礼しました」 と、開き掛けていた扉を閉めようとする。 「ちょっ ノーラくん!」 反射的に呼び止めてしまったダグだが、 これが事態を悪化させた。 「――――!」 身を乗り出した時に机から一枚の紙が落ち、 それがノーラの目に留まってしまったのだ。 「これは…」 〝嫌な予感〟がしたノーラが閉めかけた扉を開き、 つかつかと歩み寄ってくる。 「え! …あ! それは」 ダグは勃起したモノを仕舞うのに手間取り、 先にその紙を取られてしまう。 「………」 ノーラがじ~っと視線を降ろすその紙は〝サルメラ選手の資料〟 それも写真付きだった。 「……へぇ」 ノーラの半目がダグに回ってくる。 「う」 何故こんなものがオナニー中のダグの前にあったのか、 言うまでもない事だが、言わせなければ気が済まなかったのだろう。 「何ですか〝これ〟は?」 疑問というより、全てを知ったうえでの詰問だった。 「…………オカズです」 勃起チンポを見られている以上ごまかしは不可能。 もうどうにでもなれ、とダグは答えた。 「オカズとは?」 「……オ、オナニーの…」 「つまり、このサルメラ選手を見ながら自慰行為をしていたと?」 「……はい」 「…ちなみに、この紙の所々にシミが出来ているのですが… 〝使用〟するのは今日が初めてではありませんね」 「…はい」 「ここのところ毎晩〝使って〟いたのではありませんか?」 「え…」 「シてましたね?」 「………はい」 ノーラの目をまともに見ることの出来ないダグだが、 股間のテントは彼女の顔に向かってピンと張っていた。 対してノーラの口が閉じたのは、怒りを堪えているからではなく、 冷静に〝それ〟を分析していたからだ。 (これも… 後遺症と言えるかしら) 一週間前、サルメラの男性器治療に付き添ったダグは、 淫魔の気を大量に浴びてしまっていた。 もちろん、サルメラの意識は患者に集中していたし、 無意識に撒き散らす微量な気ではあったが、吸血鬼との パイズリセッ〇スの時などは一時的に気の濃度が上がり、 結果、暴発射精までしてしまった。 (淫魔の気が蓄積するのは主に〝睾丸〟…… 暴発とはいえ中身を射精(だ)したから問題ないと思っていたけど……) ノーラが推測する。 ダグの睾丸がサルメラの気で蝕まれているのなら、 写真付きの資料をオカズにしていた事にも合点がいく。 肉体が無意識にサルメラを求めてしまうからだ。 単にサルメラが好きで、こっそり資料を悪用していたという 可能性も残っているが、その線は考えたくなかった。 (まぁ……私の解淫魔法を使えば即解決できる程度のこと…) ノーラが少しカピカピしている紙を卓上へ戻し、 視線もダグの顔に戻す。 「ッ」 怒られるとでも思ったのか、ビクッと肩をすくませるが、 ノーラは構わずテントの先端へと指を添えた。 「ノ、ノーラくん!?」 「………やはり、少し淫魔の気が残留していますね」 「え」 「〝あの時〟ですよ。 一週間前、サルメラ選手に罰を与えた時、 淫魔の淫らな気が支配人の睾丸に悪影響を与えてしまったんです」 「そ、そうだったのか!」 「悪影響と言っても…… 精液が異常生産されるとか、 サルメラ選手の事を頻繁に思い出してしまうとか、くらいでしょうけど」 「あ、あぁ、まさしく。 この一週間はそんな感じだった」 ノーラが溜息をついたのはダグにはなくサルメラに対して。 この闘技場を盛り上げる人気選手なのは間違いないが、 やはり、好きになれない相手だと再確認したのだ。 「――――では、解淫魔法を掛けますので、 もう一度性器をお出しください」 「ッ!? ……い、いいのか?」 「頻繁に自慰行為をされては業務が遅延しますので」 「あ… うん」 ※ 勃起したペニスを見せられてもノーラはまったく動じず、 事務作業をするかのような表情で左右の睾丸を触る。 「ぅッ」 「加減はこのくらいでいいですか?」 こり… こり… 「ッッ …あぁ」 「それと、解淫魔法で浄化された淫魔の気は 精液と一緒にペニスから放出されますので、 あらかじめ先端をティッシュで押さえていた方がいいですよ」 「わ、わかった」 そして、ノーラが解淫魔法の詠唱を始めると。 【色に狂う哀れな双玉よ。宿主までも蝕む愚かな双玉よ。 女神の手により、男魂に渦巻く白濃の膿を解き放て】 男の精液工場が混入した異物を〝商品〟と共に廃棄した。 「ぬあぁっ」 びゅぴゅるるるるるっるるるうるっ…!! 支配人室に精子特有の臭いが漂った頃、 深夜の街中では―――― 「もう店じまいだ。ほら、出てってくれ」 「嫌だよ! こっちはまだまだ飲み足りないんだ!」 男と女が酒場の前で騒いでいた。 男の方は酒場の店主であり、女の方は客、 なのだが、その足は頼りなく揺れており、 言葉とは裏腹に十分過ぎるほどの飲酒量を窺わせる。 「リーゼルさん。アンタ病み上がりだろ。 そんな体でそんなに飲んでだら死んじまうぞ」 「ふんっ ご心配ありがとさん!」 リーゼルと呼ばれた女が苦々しい顔で礼を言い、 仕方なく路地裏へとフラフラ歩いて行った。 ※ 「あ~……くっそ~! アタシは… 何でこんなに弱いんだ……」 路地裏にリーゼルの声が響く。 彼女も闘技場の選手なのだが、先ほど店主が 〝病み上がり〟と言っていたように、 試合に負けて治療室送りにされたばかりだったのだ。 しかも只今三連敗中。 死ぬことすらある闘技場で三回も負けて五体満足なのは 幸運に他ならないが、選手としての評価は既に崖っぷちだった。 男勝りな性格と、そこそこ器量の良い容姿からファンも居るのだが、 実力が無ければ大きく稼げないし、次の試合で死んでもおかしくない。 取り返しのつかない大怪我を負う前に身を引くか―――― このままじゃ終われないと再起するか―――― 「う……うぅ……」 薄暗くて狭い路地裏。 自分の現状に重なる光景の中、足のもつれたリーゼルが ドッと壁に身を預けた。その時。 「大丈夫ですか~?」 僅かに見える夜空から悪魔が降ってきた。 「ッ! ア、アンタは…」 悪魔は悪魔でも淫魔。 淫魔のサルメラが降りてきたのだ。 「……人気選手様が何の用だい?」 「まぁ! 知っていてくれたんですね。嬉しい♪」 「ふん。 何の用だって聞いてんだよ」 妬ましそうに睨みつけてくるリーゼルへと淫魔が笑顔で答える。 「力が欲しいですか?」 「はぁ?」 「私なら、貴女の強さをもっともっと引き上げることが出来ますよ。 今までどうしても勝てなかった〝男たち〟に勝つことが出来ますわよ♪」 「……アンタも酔っぱらってんのかい」 「うふ♪ リーゼルさんなら絶対勝てますよ♪ 娘盛りは過ぎてますが… けっこう美人ですし、 肉体もしっかり鍛え込んでますから――――」 「おい! アタシに用があるんならハッキリ言いな!」 「【淫魔化】です」 「!?」 「淫魔となり、男たちに復讐したいと思いませんか♡」 妖しげな笑みを浮かべる淫魔がそっと手を差し伸ばしてきた。 ※ さらに一週間後の闘技場。 昼の鐘もなっていないこの時間帯に行われる試合は、 言ってしまえば前座だった。 サルメラ対吸血鬼、サクラ対ザガンのような集客力のある 対戦カードも無く、当然ながら会場は空席の方が多い。 それでも、そんな前座試合だからこそ泥臭くて面白いと語る 物好きもおり、一定の需要はあるのだが―――― 今日の前座は、前座というには過激な結末を迎える事となる。 「お、来た来た。リーゼルちゃーん!」 「〝ちゃん〟って年齢でもないけどな」 「バッカ。だからいいんだろ。ほどよく熟した女剣士が 勝ったり負けたり繰り返して頑張ってんのがよぉ」 「まぁ、分かるけど…」 数少ないファンたちが沸き立つ。 …が、リーゼルを追っかけている彼らですら、 その直後の行動は予想外だった。 「おや? 今日も見に来てくれたんだね♪ 嬉しいよ。ありがと♡」 ファンの声に反応し、笑顔で手を振ったあと。 ――――ちゅっ♡ ウインクしながら剣の柄にキスしたのだ。 しかもその際、柄をナニに見立ててシコシコ擦っている。 「「「!」」」 明らかに〝男〟の欲を掻き立てる仕草。 今までのリーゼルには絶対にありえなかった行動。 「お、おい今!」 「お、おぅ… 手を振ってくれたな」 「そうだけど、その後だよ!」 「剣をこう… シコシコって…」 リーゼルはこんな媚びるような事しない―――― 〝今まで〟の彼女が好きだったファンたちなら、 そう憤慨してもおかしくなかったが。 「アレって… 手コキ、だよな?」 「まぁ、ソレ以外に見えないけど…」 「いったい、どうしちまったんだ?」 口では戸惑いつつも〝下半身〟は素直。 頭に血が上るより先に股間へと流れ込み、 ファンのみならず会場中の男根が〝ひと回り大きくなった〟 だが。 エロい恰好をしている訳でもないリーゼルが手コキ素振りを しただけで普通ならこうはならない。 変化は彼女の行動だけではなかったのだ。 「ふふ♪」 (感じる…… 感じるよ。 〝今ので〟見ている男のチンポがちょっと膨らんだね♪ 男たちのチンポの形が、位置が、伝わってくる。 これが…… 淫魔が見ていた景色) ただ歩くという行為でさえ男たちの目を惹き付ける。 注がれる視線を肌で感じる。 目で確認しなくてもエロい目で見られていることが分かる。 リーゼルが初めて淫魔として試合場に上がった時、 対戦相手は既に勃起していた。 「おいおい。〝剣を構える〟にはまだ早いんじゃないのかい♪」 言ってやると、相手選手は慌てて剣を正面に構えて腰を下ろす。 それで隠しているつもりなのだろう。 「ふん。不格好な構えしちゃって…」 (――にしても、対峙しただけで優位が取れちまうなんて、 最初は気味が悪かったけど、あの淫魔には感謝しないといけないねぇ) リーゼルも構えを取り、試合が始まった。 今日の相手は過去に敗北を喫した剣士。 剣の技量は勝っていたが、男女の筋力さで押し切られての惜敗。 なので、強さではそこまでの差はなく、 【淫魔化】の力を知るには絶好の相手だった。 「――――さぁ、生まれ変わった貴女を見せてあげなさい♪」 客席の最上段に腰を掛けるサルメラが微笑み、 同胞の初陣を観察していた。 「じゃ、いくよ!」 相手が腰を引いたまま動こうとしないので、 リーゼルから先に仕掛けた。 「ふん!」 ギィンッと剣同士のぶつかり合う音が響き渡る。 「く…ッ」 相手選手の名は『ランタ』 人間の剣士であり、腰を引いている事から分かる通り男である。 「お前… 薬を使いやがったな!」 ランタは嗅ぐだけで陰茎が勃起する催淫香の使用を疑っていた。 「さぁね♪」 至近距離で互いの剣が何度も交差する。 生粋の淫魔であるサルメラとは違い、 リーゼルには尖った耳も翼も尻尾も生えていない。 その代わり【淫魔化】の証である淫紋が下腹部を中心に刻まれていたが、 露出の無い格好なので見た目はまったく変わっていなかった。 分かる者がいるとすれば同じ淫魔のみ。 「うらぁッ!」 「あぅっ!」 ランタの剣に大きく弾かれるリーゼル。 【淫魔化】しても筋力が向上する事は無く、力では依然として向こうが上。 勃起した下半身にも慣れてきたようで、 ランタが少しずつリーゼルを追い詰めてゆく。 ただし、彼女はまだ〝精神面で優勢〟だった。 「何か分からねぇが卑怯な手を使いやがって。 その腐った性根を叩き斬ってやる!」 力負けしても、凶刃が頬をかすめても、試合場の端へ追い詰められても、 今の彼女は常に希望が見えていた。 希望の名は――― 睾丸。 淫魔となった体は男性器の存在を感じ取る事が出来るが、 当然ながらソレには陰嚢(いんのう)も含まれている。 男が動く度に、剣を振る度に、連動して揺れ動いている 男根と陰嚢の位置がハッキリ伝わってくるのだ。 どんな劣勢も一発で覆せる男性最大の弱点。 ソレが常に視えているというのは大きい。 いくら強い相手だろうと、所詮は脆い玉袋をぶら下げた男であると 見下して戦える事は、精神面で非常に大きなプラスになる。 余裕が生まれれば、いつもは強張らせていた筋肉が適度にほぐれ、 彼女の持ち味である剣の技量を後押しした。 「―――!」 試合場の端へと追い詰めた瞬間。 今度はランタの剣が弾かれた。 いや、華麗にいなされたのだ。 「その腐った男根を叩き斬ってやるよ!」 体を泳がせるランタへと踏み込み、 リーゼルが剣を股間目がけて振り上げる。 それはサクラがザガンに放った『秘剣《股裂き》』と酷似していた。 ――――シュバッ 剣先が〝玉袋の辺り〟に刺さり〝亀頭の先〟まで走り抜ける。 ザガンと同じく、ランタも地獄以上の地獄を味わう事に…… ならなかった。 「あっ あひぃぃい♡」 びゅるっ どぴゅるる…… どぷっ なんと、気持ちよさそうな声を上げて射精したのだ。 「!!」 これにはリーゼル本人も驚愕する。 ランタの反応と〝斬った手応え〟にだ。 「ど、どうなってんだい?」 斬り裂くつもりで振り上げた筈なのに、剣先から伝わる感触はまるで 〝剣で男性器の下から上までを優しく撫でる〟という奇妙なもの。 「ああっ♡ あぁぁふあぁ♡」 どぷ… どぷ… どぴゅ… ランタが股間を抑えたままその場に崩れ落ちる。 観客にとっては〝性器を両断されて絶叫しながら倒れ込んだ〟 と見えるが、リーゼルは今の異質な技に戸惑っていた。 「チンポを斬ったつもりが… 悦ばせちまうなんて…… こりゃもう少し〝勉強〟しといた方が良さそうだね」 そう言って見上げる先では、自分を生まれ変わらせてくれた 淫魔サルメラが嬉しそうに手を振っている。 「おめでとうございます♪ そして―――― ようこそ、淫魔の世界へ♡」