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アネット二曹の最終試験 1話 

 任務終了後、私は隊舎の一室を訪れた。 「どうだ? 今回の入隊希望者たちは」 「お疲れ様です『アネット二曹』  ご覧ください、最終試験まで残った者が五十名もいます」 「ほう……全員男か?」 「え、えぇ男ですよ。   アネット二曹のような体力と精神を持ち合わせた女性は、  そうそう出てくるものではありませんって」 「ふん」  部下から渡された資料に目を通す。  なるほど、確かに猛者が揃っているな。  全員が身長180㎝以上、体重80㎏以上、体脂肪率10%以下。  厳しい第一試験、第二試験を突破してきたこの者たちなら、  〝普通の最終試験〟を行っても三十名以上が合格するだろう。  それは良い事だ。 優秀な男がこの軍に入隊すること自体は  私も素直に喜べる。 だが――――― 〝男〟だ。  このように〝体力だけを試す試験〟で入隊の有無を決めることに、  私はずっと疑問を抱いてきた。  もちろん、ある程度の精神鑑定も行われるが、  それはあくまで常識的な範囲のみであり、  私の〝危惧している部分〟までは探れない。   ならば、この機会に私自身で――――― 「あ、あの、どうかされました?」 「あぁ、最終試験は明日だったな」 「はい、ちなみに試験内容が書かれた用紙がこちら―――」 「いらん」 「!」 「色々と準備したところ悪いが、  明日の最終試験は私に任せてくれないか?」 「し、しかし」 「大丈夫だ、〝上〟の方には色々と顔が効くからな。  後で私の方から事情を説明しておくよ」 「わ、分かりました……ですが、どのような試験をお考えで?」  その辺は今夜じっくり考えるつもりだったが、  最終試験と聞いて昔を思い出してしまったせいか、   私は部下にこんな話をし始めた。 「――――私の時の最終試験は【水泳】だったのだ」 「へ」  急な話題の変化に部下が困り顔を見せる。 「まぁ聞け。   残っていた入隊希望者は十五名。 女はとうぜん私一人だけ。  と、いうより女が最終試験まで残ること自体、  試験官たちの想定外だったらしい」 「は、はぁ」 「分からないか?  【水泳】の試験で女性の参加を想定していなかったんだぞ」 「え? ………あ! ってことは、水着が―――」 「そうだ、女性用の水着を用意していなかったのだ。  …にもかかわらず、私はその試験で合格した。  〝どういうこと〟か、分かるな?」 「まさか…… 水着無しで泳いだ、とか?」 「ふふ…♪ 〝下〟だけは男性用のを穿いたが、  〝上〟は――― 何も着けずに泳いでやったのさ♡」 「さ……流石は女傑と呼ばれるアネット二曹ですね」  感心しつつも鼻の下が伸びている。  トップレスの私でも想像したか? 「女傑か。 ハハっ そう呼ばれるようになったのは  入隊してから数年後だ。 当時の私はまだまだ初心(うぶ)な少女で  恥じらいもあった。が……どうしても入隊したいという一心で  〝別に男性用でも構いません〟と元気よく言い放ち、  試験を受けたのだ。 ………オッパイをマル出しでな♡」 「ッ! そ、それは……それは…」  同情するような顔をしているが目は胸に向いている。  ま、オッパイと言ってしまったこちらが悪いのだろう。 「それでも、逆にソレが有利に働いたと言うべきか、  思わぬ効果が生まれたのだ」  今度は〝分かるか?〟と聞く前に答えが返ってきた。 「いや、まぁそれは…男性の方々も集中できなかったでしょうね。  アネット二曹はお綺麗ですし……ゆ、豊かな胸をしてらっしゃるので」 「ハハ♪ そうだな。  あぁ、ちなみに当時から胸のサイズはあまり変わってないぞ」 「えっ!? そ、それでは、なおさら困ったでしょう、目のやり場とか」 「〝水着の中が窮屈(きゅうくつ)になったりとか、な♡」 「………………はい」  部下が目を伏して腰を少し引いた。  もしかしたら彼のモノも〝反応〟し始めているのかもしれない。 「お前の言う通りだ。  私がトップレス姿でプールサイドに現れた途端、  男たちの目が一斉に集まり、〝前屈み〟になる者が多発したのだ。  試験を受ける男たちはもちろん、試験官たちでさえ」 「試験官たちも!」 「どの程度だったかは分からないが、  少なくとも水着を着ている入隊希望者たちは全員が勃起し、  軍服にテントを張っている試験官が何人も目に留まった」  詳しく述べるなら、水着を着た若い男たちは勃起を鎮めるため  必死で目を逸らそうとしていたのに対し、試験官の中には  マル出しの胸をガン見しながらニヤニヤとチンポを勃てている  スケベオヤジがたくさん居たのだ。  しかも〝そういう者〟に限って階級が高かったのをよく覚えている。    あの時初めて感じた〝この軍に対する嫌悪感〟も。 「で、試験の結末だが―――― その前にひとつ聞きたい」 「はい?」 「お前が入隊試験に挑むとき…… オナ禁はしたか?」 「え!」 「答え辛いとは思うが、答えてくれ」  オナ禁。  それは自慰行為(オナニー)を自ら禁じる行為。  特に男の場合は、過度なオナニーがその後数日間の  肉体的パフォーマンスに悪影響を及ぼすため、  オナ禁しているトップアスリートも多い。  女の私にはオナ禁の効果がどれほどのものか分からないが、  過酷と噂される我が軍の入隊試験前にオナニーしまくる馬鹿はいないだろう。 「……し、しました」 「期間は?」 「……い、一週間、くらいです」 「そうか。  試験を受けに来る男は10代の者がほとんど。  その時期の精巣というのは三日で満タンになるというから……  辛かっただろうな」 「……はい」 「無意識に陰茎に手が伸びたりとか、しなかったか?」 「……が、我慢しました」  なんか羞恥プレイっぽくなってしまったが無意味な質問じゃない。 「お前と同様に、きっと〝あの時〟の男たちも厳しい試験を突破するため、  必死で精力を溜めてきたのだろう」 「あの時? アネット二曹が入隊試験を受けた時ですか?」 「そうだ。  あの時、水着を着た男たちは全員勃起したと言ったが、   〝それだけでは済まなかった〟奴も居たんだ♪」 「ッ!? も、もしかして…」 「ふふ♪ 最終試験直前、スタートラインに並び立った時、  私の両隣の男二人が―――― 漏らしてしまったのだ」  「!」  漏らす。 その意味が〝射精〟であることは言うまでもない。 「スタートに備えて身を屈めた瞬間、私の胸がこう…   ゆさっ♡っと揺れて、ソレを横目で見ていた二人が『うっ』っと  言った直後…… 生臭い匂いがただよってきたんだ♪  溜めていたというのが分かるくらい濃い匂いが、な♡」 「アネット二曹の胸が… ゆさっと…」 「ん? 分からないか? こんな感じだ――――」  ――――ゆさっ♡  上体を屈めて胸を左右に揺らしてやった。 「ッ!!」  同時に部下の〝屈み具合〟も増していく。  勃起しているのは明らかだが、今は指摘しないでやろう。 「ふっ… 話を戻すぞ。  その試験の結末なんだが… さっき言った通り私は合格した。  しかし―――― 素直に喜べなかった」 「え?」 「最終試験に残ったのは十五名と言ったが、  普通ならば上位何名までが合格になると思う?」  問うと、部下がやや首をかしげて考える。 「んん… 例年の基準ですと…… 八名くらいでしょうか」 「あぁそうだ。 ……だが、  試験で私の順位は十二位。 それでも合格したのだ」     「十二位!?」 「私の乳房を見た男たちは勃起して動きが鈍くなった、が、  最終試験に残るような奴らの体力は半端ではなく、  結局、男女の差を埋めるまでには至らなかった。  勃起や暴発がなければ最下位だったかもしれん」 「あの、ちょっと待ってください。十二位で合格という事は…   十五名のうち十二名が合格したのですか?」 「そうだ」 「合格率80%ですよ。 それって明らかに――――」 「その通り、明らかにおかしい」  だから合格しても素直に喜べなかった。  念願が叶ったというのに納得できなかった。 「ふ、ふふ……ハハ…」 「あ、あの…?」 「ふふ…すまん。  その〝明らかにおかしい〟理由は入隊してからすぐに分かったんだ。  ソレを思い出したら…… 笑ってしまった」  面白い。 というよりは悲しくて嗤えてくる。 「要は… この軍は… この軍の男たちは…  〝私の肉体〟に合格を出したのだ」 「そ、それって… 体力の事じゃないですよね」  気付きながらも訊(たず)ねてくる部下に対し、首を横に振った。  「肉体とは――― 〝女体〟だ。  あの時、プールサイドから私を見ていたスケベオヤジどもが、  こんなエロい肉体を入隊させないのはもったいない、とでも思い、  合格基準を不自然に下げてまでねじ込んだのだろうさ。  街中で一般人の私に手を出せば犯罪だが、  隊舎で肉体を触る分には〝指導〟で済むからな」 「………同じ男として…耳が痛い部分もあります」  コイツは良い部下だ。  だから、つい甘えてこんなグチを続けてしまうのだろう。 「最初は入隊して一週間くらいの時、  私は座学や銃の組み立て、分解などでは男たちに負けなかったが、  体力面では足を引っ張ってばかりだったから…   〝特別に個別指導をする〟と、上官から言われたんだ」 「そ、そこで肉体関係の強要を?」 「いや、まだ〝そこまで〟はない。  簡単に言えば肉体の強化を軸とした個別訓練だ。  腕立て、上体起こし(腹筋)、スクワットに加え、  かるい走り込みや縄跳びなんかもあった」  特別扱いには違いないが、体力面で他の隊員に迷惑を掛けていたのは事実。    あの訓練メニュー〝自体には〟今でも感謝している。   「とはいえ、新人隊員の近くには必ずと言っていいほど上官が付いている。  あの時点で彼らが手を出してくる事はなかったが、  色んな意味で…… よく見られていたな」 「あ」  部下が察したようだ。  上官たちが、どのように楽しんでいたのか。 「入隊したのは春の暖かい日。 運動するとなれば薄着にもなる。  ふふ…10代の巨乳少女が薄着で汗だくとなり、  息を乱して腕立て、スクワット、縄跳びなどをするのだから、  さぞや目の保養になっただろう。  特に上体起こしには補助が付くからな。  日替わで色んな上官が私と足を組み、迫っては遠ざかっていく  若い乳房を、それはそれは熱心に監視されていたよ。  ときに〝自らの銃口〟を掲げつつ……♪」  どんな言葉をかけて良いか分からない、という表情を部下が向けてくる。 「そんな目をするな。 今となってはもう気にしていない。  それに、その時の奴らは手を出してこなかっただけマシな方だ」 「では… 手を出された事もあるのですね」  無言でうなづくと、部下も口を固く閉じ、  しばらく部屋が無音と化した。  そして、私は大きく息を吸ってから、こう言った。 「なにも〝上〟だけじゃない。 同期の奴らからも、  後に入隊してきた〝下〟の者たちからも、  性的な視線を受けたことはある」  心当たりがあるように、目の前の部下が視線を逸(そ)らした。 「いや、いいんだ。共同生活をする体力旺盛な若者なのだから、  大きなオッパイに反応するなという方が無理なのは分かっている」  食欲、睡眠欲、性欲、全てが適度に満たされてこそ、  兵は勇ましく任務をこなし、軍は正常に機能する。  男たちが〝私を想像して〟勝手に自己処理してくれるというなら、  それはそれで構わない。  問題は―――――― 「ただし、ほとんどの者が自己処理で済ませているというのに、  我慢できず手を出してくる男も数え切れないほど居た」  部下の顔を視線で射貫き、〝最初の質問〟に答えた。 「前置きが長くなって悪かった。  明日、私が考えている最終試験は―――― 〝性欲の試験〟だ」   「!?」 「試すのは〝性的誘惑に対する忍耐力〟  女の私が語る事じゃないが、男は股間に獣(けもの)を飼っているという。  時間と共に少しずつ力を蓄え、キッカケがあれば一気に牙を剝く。  ときには宿主の人生をも終わらせかねない猛獣。  その猛獣を意図的に目覚めさせ、どのように手綱を握り、  制御するのかを試すのだ」 「え、え~~ッッ」  部下の顔に〝マジですか?〟と書いていったので、言ってやった。 「本気だ。  詳しい内容は… 私が明日までに考える。  試験会場の手配もすべて私が済ませておく。  任せておけ!」  私たちは上下関係に厳しい軍人。  部下の返事は最初から決まっていた。 「………了解しました」  ※  時刻は1930  明日までに男五十名の性欲の試験を準備する。  かなりのハードスケジュールだが、私はやる気に満ちていた。  入隊から十二年。   ずっと私にまとわり付いていた男たちの肉欲を、  この手で選別できる日が来たのだ。   プルルルルル……  スマホを手に取り、スポーツジムを経営している  友人へと連絡を入れた。   プルルルルル…… ピっ 『はいはい、こちらマリーちゃんです』 「こんな時間にすまない。  急で悪いんだが、ちょっと頼みがあるんだ」 『はい?』 「マリーのとこで、確か〝格闘フィットネス〟というのがあっただろう。  男女混合で行う、けっこう本格的なコースが」 『えぇ』 「そこで使っている〝ファールカップ〟を貸して欲しいんだ。  数は五十、時間は明日一日」  かなりムチャな頼みだと自分でも思ったが、  意外なほどすんなりとした返事が来た。 『いいですよ♪』  ここまで快諾されると思っていなかったので、  こちらの方が返事をよどませてしまう。 「い、いいのか?」 『えぇ、明日はそのコースお休みですし、  ファールカップ五十個とか… なんか面白そうな匂いがしますし♪』  相変わらず、こういう事には鼻が利くな。 「ふふ♪ 流石マリーだ。  明日、ちょっと〝男〟に対する試験をする事になってな、  もしお前が手伝ってくれるのなら……とても助かる」 『へへ♪ アネットさんにそこまで言われたら行くしかないでしょ♪  よければ〝ジムの子たち〟にも手伝わせましょうか?』  持つべきものは友だな、本当に助かる。 「あぁ、頼む」  通話を終えた私は自分の右手に視線を降ろした。 「これでとりあえず〝最悪の事態〟は防げるか。  入隊前に睾丸を潰すわけにもいかんからな」  右手を握ると〝あの時〟の感触がよみがえる。  私に手を出してきた上官の… 陰嚢(いんのう)を…  いや、睾丸を握り潰した時のおぞましい感触が。  だが、それと同時に世界が一変した瞬間だった。  男の弱さを、文字通りこの手で掴み、  男の脆さを手で感じ、目で見て、耳で聞いて、  男に対する恐怖心、劣等感が裏返り、  様々な価値観、認識が面白いほど移り変わった瞬間。 「ふ、ふふ……」  最終試験の内容を急いで構築させていく一方で、  脳のかたすみでは〝あの時〟の記憶が再生されていた。  初めて〝男〟を殺した、あの時の記憶が。


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