本作はskebにて依頼を受けて執筆させていただきました。 ―――――― ■ 「どういうことだよ、これ!」 両腕を背中側で拘束され、ベッドに転がされている少女が叫ぶ。 346プロダクション所属アイドル、結城晴。 降り注ぐ陽光を連想させる薄茶色のセミロングヘアー。成熟へと向かう途上にあるしなやかな肢体。どれほど注意深く眺めても非の打ち所のない顔立ち。――その容姿は「美少女」と形容するにふさわしい。ただし、その言動が少女というよりは少年に近いものであることはよく知られている。 細かいことは気にせず、運動、特にサッカーを好み、自分を「オレ」と呼ぶ。……そんなボーイッシュなところがたまらない、というファンは数多い。もしも彼らがこれから晴がどうなるかを知ったら、怒りのあまり発狂するに違いない――そんな嗜虐的な想像に、男は口元に笑みを浮かべた。 「大きな声を出す必要はないぞ。騒いだところで何かが変わるわけじゃない」 晴を見下ろしつつ、男は言う。彼は今年で55歳。禿げかけた頭髪。脂ぎった肌。身長は高くなく、体は肥満している。 広告代理店の重役という立場を利用して若い女性タレントを手当たり次第に食い散らかしている――業界内で囁かれている彼についての噂は真実ではない。彼が手を出すのは、自分にふさわしいと判断した女だけだ。 ここは彼が女を弄ぶために購入したマンションの寝室だ。間接照明の柔らかな光が染み渡った空間――据えられている家具や飾られている調度はどれも一級品ばかり。壁の一面を占める窓には、黒布に宝石粒を撒いたような夜景が映っていた。 事務所に命じて会食の席を設けさせ、料理に睡眠薬を混入させる――晴をここに連れ込むのはなんら難しいことではなかった。家族にどう誤魔化すかは、晴の担当プロデューサーである男に任せてある。収録やレッスンが長引いてホテルに泊まることになった、とでも言い訳するのだろう。 「オレに何するつもりなんだよ! この変態ジジイ!」 束縛から逃れようと体を悶えさせながら、晴が怒声をあげる。 口汚く罵られても、男の余裕は変わらない。晴を視線で舐め回しながら、「やはり素材としては最高だな……」と呟く余裕すらある。素材。通常、人間に使うものではない単語が晴の眉をひそめさせた。 「な、何わけわかんねーこと言ってんだよ! とにかく早くオレを――」 「何もされていないうちに解放されたい、と思っているんだったら、もう手遅れだよ。君が眠っているあいだに、とある薬を注射させてもらった。何だと思う?」 彼の問いかけに、晴は答えられない。勝ち気な表情のよく似合う凛々しい顔に、不安が暗い影を落としていく。そんな彼女の変化を眺め楽しみながら、彼は何を注射したのか、その答えを口にする。 「君に注射したのは惚れ薬だよ。それもとびきり強烈な、ね」 ■ 「惚れ薬……」 晴は呆然とその言葉を繰り返す。いくらもがいても、手の戒めは弛まない。諦めたわけではないが、状況は絶望的だということは受け入れなければいけないようだった。 「そんなもん、あるわけないだろ!」 「そうだね。僕も最初は君と同じようにそんなものがあるわけがないと思っていたよ。でも、今じゃそれを使って多いに楽しんでる。惚れ薬を使うのは君で三人目……いや、四人目かな」 そう言って、男は三人の女性タレントの名前を挙げた。 「これまでの女たち同様、君も僕を楽しませてくれ。そうだな――もし僕を満足させることができたら、君を愛人にしてあげよう」 「ふ――」 ふざけるな、と吐き捨てようとしたその時だ。どっくんっ♡♡♡♡♡♡と心臓が大きく跳ねる。甘く切ない感情が体の内側で爆発し、晴の隅々までも満たした。大きく見開かれた目をのぞきこめば、瞳の奥に浮かび上がるハートが幻視できただろう。 「おや、もう効き始めたようだね」 晴の耳には男の声がひどく甘く響く。彼の顔を見ているだけで、胸が切なく締めつけられた。 (オレの体……どうなって……っ) 歯を噛み締めても、体を責めさいなむ熱は消えない。その熱を発生させている感情は、これまで晴が抱いたことのないものだ。しかし、それが「恋愛感情」だということは、頭ではなく本能で理解できた。 (惚れ薬って……本当だったのかよ……) これは自分の本当の感情ではないということは理解できている。しかし、そんな認識をも無意味にするほど、晴を満たすそれは生々しいものだった。結城晴はこの男に、無理矢理に恋をさせられてしまったのだ。運動やダンスの時とはまったく違う種類の汗が肌を湿らせる。「はあっ♡」と吐いた息は喉を焦がしそうに熱い。 (こんなやつ……こんなやつ……) 憎まなければと思うのに憎しみや嫌悪を感じることはできない。それでも、歯を食いしばり、どうにか男を睨みつける。しかし、目を潤ませながらの視線は、男を苦笑いさせただけだった。 「抵抗するのか。それもいい。しかし、いつまで我慢していられるかな?」 男の手がこちらへと伸びる。何をするつもりなのか。こわばった晴の体は、男の掌が彼女の頭を撫ぜると、びくっ♡びくくっ♡と痙攣した。単によしよしと頭を撫ぜられているだけ――だというのに、たまらない喜悦に襲われる。脳味噌どころか体全体が蕩けて液状化してしまいそうだ。 「や、やめ……やめろぉ……」 余力をすべて振り絞っても、抵抗の言葉を口にすることしかできない。 本来なら凛々しく引き締まっているべき晴の顔はだらしなく崩れている。垂れ下がった目尻。伸び切った鼻の下。開きっぱなしのまま戻らなくなった唇からは顎へと涎が伝っている。眼球はほとんど裏返る寸前だ。愛しい男に頭を撫ぜられている――その事実が快楽物質を爆発的に分泌させ、晴の脳を満たしているのだ。 「ん? 本当にやめてほしいのかい?」 よしよしよしよし……と晴の頭を撫ぜ続けながら男が問う。 やめてほしいに決まってるだろ、と言うはずの晴の口からは「あ♡……あ♡……あ♡……」と桃色に濡れた声が溢れ出してくるだけだ。あまりの心地よさに筋肉が弛緩してしまい、手を払いのけることもできない。 (オレ……どうしちまったんだよ……っ) ままならぬ自分に対する苛立ちすら、快楽の波に溶かされ、消えていく。運動で鍛え上げた肢体が苦しげに悶える。衣擦れの音とともに、シーツが艶めかしい皺を描き出した。 「本当はやめてほしくなんてない。そうだろう?」 「そ……そんなわけ……」 そんなわけがない、と答える口調の弱々しさで、晴は男の問いかけを認めてしまう。 「そうかそうか。素直になれたご褒美に、このままイかせてやろう」 「イ……イかせ……?」 はへっ♡ はへっ♡ と熱すぎる息を喘ぎながら晴は問う。 性について学校で習った程度の知識はあるものの、恋愛はおろか自慰の経験すらない。晴にとってそうしたことは自分とは関係ない、遠いどこかの出来事だった。そんな彼女は「絶頂に達する」ことを俗に「イく」と表現することも知りはしない。しかし今――自分に何かとてつもない事態が迫っていることだけは理解できた。 よしよしよしよしよしよしよしよし……♡ それまで以上にねちっこい愛撫が、晴の表情を溶かしに溶かしていく。眼球はなかば裏返り、歯がかちかちと鳴る。切ない感情に締めつけられ、胸が潰れてしまいそうだ。気持ちいいのではなく、嬉しい。嬉しい。嬉しい。それだけしか感じられない。 飽くことなくこみあげる喜び――それは結城晴という器を限界まで満たし、やがて結界の時を迎える。我慢しなければという思考すら、今の晴には許されていない。無垢な少女には、襲い来る巨大で圧倒的なうねりに身を委ねることしかできはしない。 「あ゛っ♡ あ゛っ♡ あ゛~~~~~~っ♡」 喜悦に濁った声を口から垂れ流しにしながら、晴の体が大きく跳ねる。びくっ♡ びくっ♡ びっくんっ♡ 快感の雷撃が全身を貫く。そのたび、心身の髄に深々と刻まれていくのは、憎むべき男への強烈な思慕だった。 「ふぁ……あ……あぁ……♡」 絶頂の坂を昇りつめた晴は、骨を失ったように体を崩す。それでも時折、悦びの余韻が少女の肢体を震えさせ、喉から艶めいた吐息を絞り出した。その目は見開かれているが、焦点はどこにも結ばれてはいない。 「撫でるだけでイッたか。そんな女は初めてだよ。僕を好きになる素質は十分以上にあった、ということかな」 そんな晴を見下ろしながら、男が自分のネクタイを弛め、服を脱ぎはじめた。だらしのない肥満体が恥ずかしげもなくあらわになっていく。 「それなら喜ぶといい。これからの人生、すべて僕に捧げさせてあげるからね」 ■ 「どれ――」 男の手が晴の体へと伸び、まずは拘束を弛めた。 それから、今度は甘い菓子の包装を剥くような気軽さで彼女の服を脱がせていく。 布の覆いが剥がされていくたび、間違いなく女の物である体があらわになった。 引き締まった臀部。くびれた腰回り。乳房はBカップだが、無駄な肉がないため、ひと回りは大きく感じられる。細い両脚のあいだ、薄い恥毛に飾られた秘裂からは、先ほどのよし♡よし♡愛撫で分泌された愛液が溢れ出し、とろとろとしたたって、シーツに淫らな染みを作っていた。 少女から大人の女への飛翔の途上にある体は、どんな名匠の絵筆でも描きえない、艶めかしい線をなしている。 拘束を解かれたというのに、晴は逃げ出すことができない。左右の腕を使って、乳房と股間を覆い隠すのが精一杯だ。 「み、見るな……ぁ……♡」 そう訴える声は、発している晴すら胸焼けしそうなほどに甘い。これでは「見て♡ 見て♡」とねだっているのと何も変わらない。惚れ薬。そんなもの、あるわけがない――と晴はもう言えない。それは確かに彼女を蝕んでいる。体はもう自由にならない。だが、理性はまだかろうじて抗うことができている。それが唯一の救いだった。 「今のうちに恥ずかしがっておけ。どうせすぐにそんなこともできなくなる。――それから、僕の体のほうは、いくら視姦してもらっても構わんよ」 そう言った男は、今度は自分の服を脱ぎ始めた。たるんだ肉体がさらけだされていく。そんなもの、見ていたくないはずなのに――晴の視線は男に釘付けになってしまう。醜いと思わなければいけないのに、胸のときめきがとまらない。動いてすらいないのに息が乱れ、汗が流れる。そして、男がボクサーパンツを脱ぎ、父や兄たちのそれなど比較にならない怒張を剥き出しにした。 絶大な精力をたたえていることがひと目でわかる巨大な陰嚢。わずかに右に湾曲した肉幹は極めて太い。その表面を這う黒紫の血管もまた、滋養たっぷりの土壌で育まれたミミズのように太い。カリ首は凶器のように獰猛にせり出し、亀頭は今にも破裂するのではないかというほどぱんぱんに腫れ上がっている。 それを目の当たりにした瞬間――「ん゛っ♡」と呻き声があがり、晴の体が痙攣した。びくっ♡ びくぐっ♡ びっくんっ♡ 体が跳ねるたび、つい先ほど感じたものと同じ快感が体を貫く。 (う、嘘だろ……っ。そんな……オレ……) 男のペニスを見ただけで絶頂してしまったのだ。 そんな晴に気がつき、やれやれと男が苦笑いを浮かべる。 「もうイッたのか? いくらなんでも気が早いぞ」 ベッドにのぼった男は、「手をどけろ」と晴に命じた。 男の命令を耳にした瞬間、それに従うこと以外、何も考えられなくなる。手が動き、隠していた胸と股間を剥き出しにした。「な、何で……っ」と戸惑いの声をあげる晴。ふたたび腕で覆い隠そうとするが、そうしようと考えただけで耐え難い不快感が襲ってくる。まるで、ひどく錆びたノコギリで全身のいたるところをひかれているようだった。 「驚くことはない。好きな人間の言うことに従ってあげたい、と思うのは当然のことだからね。好意が厚くなればなるほど、その欲望は強くなる。――つまり、君はもう僕の言うことには逆らえないんだ」 自由の蹂躙を報告しながら、男にはいささかも恥じ入る様子はない。自慢げな表情が、顔に宿ったふてぶてしさをさらに肥らせていく。そんな光景にも、今の晴は嫌悪ではなく、胸の高鳴りを覚えてしまう。 「脚を開け」 男の言葉に従い、晴の両脚が開いていく。服従の喜悦にがちがちと打ち鳴らされる歯列。その隙間からせわしない息遣いが、はーっ♡ はーっ♡ と漏れ出している。 男の掌が、大きく開いた両足の膝を掴み、さらに開脚させる。割り開かれた秘裂に、勃起の先端があてがわれた。初めて感じる男の熱に、晴の腰が切なすぎる悶えを見せる。 「や……やめ……っ♡」 これから男が何をしようとしているのか――それはわかっている。しかし、晴は逃げられない。逃げなければ、抵抗しなければ、という理性の訴えは悲しくなるほどに弱々しい。そして、男のものになれる、この男に女としての初めてを捧げることができる、という喜びは溺れてしまうほどに圧倒的だった。 「お……オレ……オレ……っ♡」 絶対に拒否しなければいけないその行為を待ちわびて、秘裂からとろとろと愛液が溢れ、シーツの染みを広げていく。 「怖がらなくていい。むしろ喜ぶべきだ。大好きな相手と結ばれる瞬間なんだからね」 晴の膝を握り直して、男は腰を突き出した。無限に引き伸ばされる一瞬――みぢっ、みぢっ、と膣肉を軋ませながら男の勃起が晴の内側を進むのを鮮明に感じる。そのたび、「自分は誰のものか」という刻印が焼きつけられていくようだった。痛みはない。あるのは被支配の、服従の、隷属の喜びだけだ。その喜びをたぐれば、心身の奥深く、男に対する恋愛感情にたどり着いてしまう。 男の勃起は、いともたやすく晴の最奥に至り、さらに進んで子宮をひしゃげさせる。その感覚に、晴はさらに糖度を増した叫びをあげ、体をのけぞらせた。 「あ゛っ♡ ん゛っ♡ お゛お゛っ♡ お゛おおっ♡」 そんな晴を見下ろしながら、男はペニスの抜き差しを始める。 初めて性行為を経験する晴への気遣いなど一切ない、暴力的な抽挿。腰と腰が、汗ばんだ肌と肌がぶつかりあい、ぱんっ♡ ぱんっ♡ という音が連続した。喉がのけぞり、四肢がでたらめに動いた。 「あっ♡ あっ♡ あっ♡ お゛っ♡♡♡」 男の熱と硬さに体をえぐられるたび、脳内で最高純度の喜びが炸裂する。そのたび、脳細胞が大量に死滅していくのがわかった。 なかなかいい反応をするじゃないか、と男が笑う。 「『オレ』なんて言っていても、やはり女は女だな。期待していろよ。すぐに女らしく変えてやる。いや、違うか。――君が自分から望んでそうなるんだ。だから、僕のほうが『期待させてもらうぞ』と言うべきだろうね」 「お゛っ……オレが……おんな……らしく……っ」 「そうだ。君はこれから、心も体も女すぎるほど女らしくなるんだ。好きで好きでたまらない僕のためにね」 心も体も女らしすぎるほど女らしく。この男はそうなることを望んでいる。その情報が恋愛に爛れた晴の脳に染み込んでいく。これまで、晴はわざわざ男らしく振る舞おうとしていたわけではない。あくまでも自分らしく行動していただけで、そこに性別は関係ない。しかし、今、晴は女らしさを望まれている。女としてあるべき姿を強制され、自分本来の姿を歪められる。そうなれば、サッカーだってできない。好きな服を着ることもできない。自分を『オレ』と呼ぶこともできない。そんな不自由なこと――考えただけで―― (さ……最高すぎる……っ♡♡♡) こみあげる喜悦のままに、晴の体が跳ねる。絶頂に達した、と意識するだけの余裕すら今の晴にはない。大好きな男の望むがままの姿になれること――それが嬉しくてたまらなかった。嬉しいなんて思ってはいけない。今感じているこれは薬が作り出した嘘偽りにすぎない。そんな事実すら喜びの価値を減じてはくれない。 (こんなの……絶対……駄目なのに……っ) この先に自分自身の消滅が待ち受けているのかを知りつつ、晴はどうしても自分を否定できない。この男のために自分という存在を消す。それを考えただけで、怒涛の幸福が心身になだれこむ。細胞のひとつひとつが歓喜の声をあげていた。 「はぅ……んんっ♡ あ、んんっ……♡」 喉から漏れる声に、これまでにはなかった艶が混ざり始める。自分を『オレ』と呼んでいた晴があげる牝の音色を耳にして、男の腰使いはいっそう荒々しいものへと変わった。四肢がばらばらになってしまうのではないかというほどに激しく愛されることで、晴の喘ぎがさらに切なくねじれていく。 早速女らしさの坂を転げ落ち始めた晴に、男は満足の笑みを浮かべた。 晴の華奢な体に、男の肥満体が覆いかぶさってくる。のしかかる体重。ぶよつく脂肪。顔にかかる息遣い。それら、不快なはずのものが心地よく感じられた。 男の唇が晴のそれに重なる。処女から遅れて奪われたファーストキス。肉厚な舌がたっぷりと唾液をまといつかせて晴の口腔に侵入し、そこを思うがままに蹂躙する。晴がなされるがままだったのはほんの最初だけ――すぐに彼女の舌は、ひどく拙いながらも、男の舌使いにあわせて蠢き始めていた。 「はあっ……んんっ……ちゅぅ♡ れろ……んちゅぅ♡ れろっ……れろ……ちゅぅ……はあっ……ちゅぅ♡ れろぉ♡」 唾液の音と鼻息を淫靡に混じらせながら、晴の脚が前後を続ける男の腰を挟み、腕が体を抱きしめる。頭で考えたわけではない。男を恋い慕う思いが彼女の体を動かしていた。その思いは刻一刻と膨れ上がり、晴の存在を凌駕しようとしている。最悪なのはそれが少しも嫌ではないということだ。作り物の恋愛感情に精神を乗っ取られるのが嬉しくて嬉しくてたまらない。晴を襲うのは喜びだけではない。男の望む姿になろうとする自分に誇らしさまでも覚えてしまう。 「んんっ♡ ちゅぅ……ちゅっ♡ れろっ……れろ♡ んんっ♡」 5分、10分、15分……たっぷり20分をかけて男は晴の口を犯し尽くした。そのあいだだけで一体何度絶頂に達してしまったのかは晴自身にもわからない。血肉は燃え上がりそうに熱く滾り、吹き出した汗のため、全身湯をかぶったように汗まみれだ。 ねばぁ……と唾液の糸を引きつつ離れた男の唇が、今度は晴の耳へと接近する。息を吐きかけられただけで、晴は「あんっ♡」と悩ましい声をあげて喉をそらした。 「好きだぞ」 男が囁く。 「好きだぞ、晴。愛してるぞ。愛してるぞ。愛してるぞ。……」 ひたすらに耳に流し入れられる愛の言葉。それが嘘だということはわかっている。男にとって晴は玩具だ。遊ぶだけ遊んで、飽きたら捨てるだけ。そうだとわかっているのに――晴の内側で喜びがひたすらに炸裂を続ける。あまりに嬉しすぎて、呼吸すらままならない。 「そ、それ……だめ……っ♡ だめ……っ♡ 嬉しいから……っ♡ 嬉しすぎて……っ♡ 好きになる……っ♡ オレ……ほんとに……好きになっちゃうからぁ……っ♡ 本気にしちゃうからぁ……っ♡♡♡」 はへっ♡ はへっ♡ と情けなく呼吸を喘ぎながら晴は訴える。みっともなく震えたその声は、いつもの彼女のそれとはまったく違う。当然だろう。その声は、これまでの晴にはなかった強烈な愛を発信源としているのだ。そして、無理矢理に植えつけられたそれは、早くも晴の中核へと成り代わっている。結城晴という存在はもう、この男への愛を抜きにして語ることはできない。 まったく、と男が笑った。 「それならさっさと『好きになれ』♡ 女なら、男に余計な手間をかけさせるんじゃない」 晴にのしかかったまま、男の腰がそれまでの荒々しさが凪に思えるほどの激しさで動き始める。ばぢっ♡ ばぢっ♡ ばぢっ♡ という衝突音が凄まじい速度で打ち鳴らされていく。弾け続ける快感。思考がどれだけ爆散しても、男への愛情は消え去りはしない。むしろ、理性の枷が吹き飛んだおかげで、その感情は灼けるほどの鮮やかさで晴を魅了した。 晴の唇が「す」の形に動く。 そして、 「好きっ♡」 晴は切なく叫んでいた。 「好きっ♡ 好きっ♡ 好きっ♡ 好きっ♡ 好きっ♡ 好きっ♡ 好きっ♡ 好きっ♡ 好きっ♡ 好きっ♡ 好きっ♡ 好きっ♡」 言った。言ってしまった。後悔は刹那にも満たない時間。愛するひとに気持ちを伝えられた喜びがたちまちそれを塗り潰し、記憶からも消し去ってしまう。晴は至近距離から男の目を見つめながら、「好き♡」をひたすらに連呼していた。どれだけ愛の言葉を重ねても、愛情の1億分の1も表現しきれないのがもどかしい。 「しゅき♡ しゅき♡ しゅき♡」 舌の疲労で言葉が溶けても、晴は愛を訴える。好きで好きでたまらないこの男に、少し前までは嫌悪感を抱いていたという事実が信じられない。好意の言葉を口にするたび、自分が新しく生まれ変わっていくのがわかった。それは、同時に古い自分の死を意味している。 「だいしゅき~~~~~~~~~~~~~~~っ♡♡♡」 ひときわ甘く、粘りつく声でそう言った晴の体が激しく無様に跳ね踊る。それでも、手足は愛おしい男に粘っこく絡みついたままだ。呻き声とともに放たれる精液の熱――それが晴の絶頂をさらに高く押し上げる。大きく見開かれた目――溌剌とした光を宿していた瞳は、今や色欲に淀み濁り、濃厚な恋色をしたハートが心臓の鼓動にあわせてきゅんきゅんと蠢動している。そこからこぼれ落ちた一筋の涙の理由が、新しい人生の始発に立った喜びなのか、それともかつての自分へのせめてもの惜別なのかは、晴自身にもわからなかった。 わかっていることはひとつ。 晴が自分を「オレ」と呼ぶことは、これから先、もう二度とない。 ―――――― 続き→https://ringokidjp.booth.pm/items/5588883