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【連載第7回・約12,000字】Hカップ巨乳熟女が金髪超乳パリピギャルに改造される話

■  14時過ぎ。昼を過ぎた繁華街は、若干の落ち着きを見せている。  爽やかな陽光の下、楽しげな喧騒が満ちる雑踏のなかを、真央はひとり歩んでいる。歩を進めるたび、ニーハイブーツの厚底が、こつ、と柔らかくも硬い音をたてて舗装を打った。  もしも知り合いとすれ違ったとしても、彼女が誰か、気がつかないに違いない。  それほどまでに、今の真央の姿は、かつての真央のそれとはかけ離れている。  浅薄な印象を与える明るい金の髪。豊乳がこぼれだしそうなヒョウ柄のチューブトップ。尻肉に張り詰めたホットパンツ。本来は清楚で可憐な顔貌には、目と唇の色香をこれでもかと強調する――ギャル風のメイクが施されている。  到底、夫も子供もいる38歳の人妻がしていい格好と化粧ではない。  それらは、牝肉の熟れ具合を際立たせ、みっともなさと裏腹になった生々しい魅力を醸し出している。もはや犯罪と言ってもいいそれは、男たちの視線を強奪し、情欲を掻き立てていた。男しか頭にない淫乱、軽薄で恥じらいのない馬鹿、体だけしか価値のない女――今の自分は周囲からそんなふうに見られているに違いない。違う。自分はそんな人間ではない。いくら悔しく思っても、いちいち事情を解いて回るわけにはいかない。彼らは、彼女を見た刹那に抱いた印象を生涯残していくのだ。  はあ、と絞り出される溜息はどこまでも暗い。  しかし、その暗さは、外見で中身を決めつけられる屈辱だけが作り出しているわけではない。こつ、こつ、こつ、こつ、こつ、こつ……ブーツの厚底が鳴らす音にいざなわれるように、真央の意識は今この瞬間を離れ、しばらく前へと移ろっていく。 ■ 「逆ナンしてみてよ」  若者向けの服に着替え、若者向けのメイクを施された真央は、裕貴のいる喫茶店へと呼び出され、そこで新たな命令を受けたのだった。 「真央のほうから男に声かけて、ホテルに連れ込んでエッチしてきてってこと」  自分から男を誘惑して、ホテルに連れ込み、性行為をする。想像もしていなかった命令に、真央の顔から血の気が引いた。できるだろうか、という弱気は、真央には許されていない。裕貴が「やれ」と言えば、それは絶対に実行されなければいけないのだ。 「ぎゃ、逆ナンなんて……どうしてそんなことをしなければいけないの……」 「そういう格好になったんだから、今度は行動もその格好に合わせていかなきゃ」 「格好に合わせるって……」  破廉恥な外見には、破廉恥な行動を、ということなのだろう。命令の理由はわかったが、それで気分が変わるわけではない。見知らぬ男と肌を合わせる――想像しただけで怖気を覚える。ナイトクラブでも他の男に抱かれはしたが、あの時は酒で前後不覚に陥っていた。それが、今回は、真央が自分の意志でその状況を作り出さなければいけない。そう考えると、怖気はますます強く真央を責め苛んだ。 「それ使って、エッチの写真もよろしくね」  そう言って、裕貴は買い与えたばかりのスマートフォンを指さした。 「必ず、真央のほうから声かけてね。声かけられたのについてく、ってのはなし。嘘ついているな、って俺が感じたら――本当は嘘ついてなくても、何回でもヤリ直させるから。どんな男を選ぶかは真央に任せる。せっかくなんだし、ゆっくり選べばいいんじゃないかな」  でもその前に、と裕貴はテーブルのベルを鳴らし、ウェイトレスを呼びつけた。 「この店、スープスパが絶品らしいんだよね。一緒に食べよ♡」  彼は真央に笑顔を向ける。それは、何も知らない女に見せれば、百人中百人を恋に落とせそうな完璧な笑顔だ。しかし、その本性を見る真央には、それが獲物を嬲る肉食獣の表情であることがわかっていた。  料理の味は、まったく覚えていない。 ■  そして、今、どこを目指すでもない歩みを進めながら、真央は思い悩んでいる。 (ナンパなんて……どうしたらいいの……)  裕貴がそばにいて「あの男がいい」「あいつにしろ」と指示をしてくれたらどれだけ楽だろう。だが、真央は、自分でその相手を選ばなければいけない。  逆ナンという行為自体は、裕貴の命令で嫌々行うものだ。それに間違いはない。しかし、その相手を選ぶのは他の誰でもなく真央――どんな男を選ぶか、という決定が孕む責任、羞恥、罪過はすべて真央が引き受けなければいけない、ということだ。  その重圧が、真央の肩にのしかかっている。  どんな男に声をかければいいのか。  夫を愛する妻として、夫に似た男を選ぶべきなのか。それは見当違いの忠愛だろう。では、適当に声をかければ、自分の意思を介在させずに済むのではないか。いいや、それで相手が危険な人間だったらどうするのだ。  さまざまな考えは、浮かぶはしから否定される。いつまで経っても答えは決まらない。煩悶が体の熱を高め、性行為の時とは別種の汗を滲ませる。香水や化粧とは別の生々しい香りが、美熟女の肉体をかぐわしく彩った。  どうしたところで完璧な答えは出ない。  ならば、と真央は思ってしまう。  ならば、自分の好みで決めてしまってもいいのではないか。好きな男を、セックスしてみたい男を、選んでしまっていいのではないか。誰を選ぼうが、夫に露見するわけではない。裕貴に嘲笑されるのも変わらないだろう。ならば、自分の好みの男を選べばいい――という囁きは、どこまでも甘い。それは、苦悶にねじれる真央の心を腐食させていく。 (だ、駄目よ……。そんなこと……できないわ……)  できるわけがない。していいわけがない。愛する男性は後にも先にも雅史ひとりだけ。夫以外の男を性の対象として見る――それは夫への裏切りだ。夫がそれを知ることはなくても、夫を思う気持ちへの裏切りであることには違いがない。  駄目だ、とわかっているのに、男から男へと移ろう真央の視線は、先ほどまでにはなかった熱を帯びてしまう。  いつまでも誰にも声をかけないでいるわけにはいかない。いつかは何らかの基準をもって男を選ばなければいけない。でなければ、裕貴の命令に背くことになってしまう。そうなれば、家族の未来が脅かされてしまう。これは仕方なくすることなのだ、という言い訳は、真央自身にすらひどく虚しく響く。 (ああ……あなた、許して……。私、本当はこんなことしたくないの……)  夫への謝罪を重ねてその虚しさを埋めながら、真央は声をかけるべき男を探す。心臓の高鳴りは今まで聞いたことがない音をしていた。胸を切なく締めつける感情は、雅史と付き合い始めた時に感じたものとよく似ている。けれど、それは、あの時のものとは比べ物にならないほどに凶暴に心を乱す。その感情を何と呼ぶべきなのか、真央にはわからない。 (ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……)  そう繰り返しながら歩く真央の足の動きが鈍る。  彼女がとうとう目を止めたのはひとりの男。コンビニエンスストアの店先に立ち、退屈そうな顔でスマートフォンを操作している。  年齢は20代前半くらいだろうか。Tシャツにジーンズというラフな服装。すらりとした長身。一見細身で華奢に見えるが、しなやかに筋肉をつけた体つき。髪は明るい茶色で、体の要所をシルバーのアクセサリーがさりげなく飾っていた。その顔の作りは切なくなるほど端正だ。「二枚目」という古風な形容は似合わない。彼のような容姿は「イケメン」と呼ばれるべきなのだろう。  ごくり、と大きな音が聞こえる。それは、自分が生唾を飲み込んだ音だった。 (あ、あのひとにしてみよう……かしら……)  自分は何を考えているのか、と思う。あの男は裕貴に瓜二つではないか。外見が、という意味ではない。まとわれた軽薄な雰囲気が酷似している。真央の好みのタイプは、雅史のように誠実で真面目な人柄の男であって、ああいった軽々しい男はその対局に位置している。  無理矢理に足を動かし、真央は男の前を通り過ぎる。意識したわけではないのに、呼吸が止まっていた。これでよかったのだ。早くこの場から離れなければ。離れなければ、と思うのに、真央の歩調は鈍り、やがては止まってしまう。 (だ、だめよ……こんなの……だめ……)  だめ、なのだけれど――。  真央は熱い息とともに振り返り、男のほうへと歩きだしてしまう。何をしているのだ。自分のしていることが自分で信じられない。立ち止まることはできず、男との距離が縮まっていく。近づけば近づくほど、裕貴と似ている、という印象は強まった。裕貴同様に、抜群の容姿、優れた肉体、恵まれた男性性……それら天賦の才にあぐらをかき、世の中を舐めきって生きてきたに違いない。  どんな相手を選んでもいいはずなのに、真央はよりにもよってこんな男を選ぼうとしている。こういった男――軽薄を極めたイケメンのもたらす快楽。彼女の肉体にはその素晴らしさが深々と刻印されてしまっているのだ。それに抗えない理性の非力がどこまでも恨めしい。  声をかけることに決めたならば、次は、実際に声をかけなければいけない。  成功するかどうかはわからない。失敗するかもしれない。いや、その可能性のほうが高いだろう。高くなくてはいけない。だって、そうではなくては、真央はこの男とセックスすることになってしまうではないか。その光景を想像し、体がぶるりと震える。震えの原因が恐怖なのか期待なのか。今は判断ができない。  失敗してくれ――。  そう願いつつ、彼のそばまで歩み寄った真央は「あ、あの」と声をかける。呼びかけてから、続く言葉を考えていないのに気がつく。どうしよう、と焦る真央の視線の先で、男が視線をこちらに向けた。 「え? 何?」  怪訝な顔になって、男が問いかけてくる。 「ええと……あの……」  それに対し、真央は赤面をさらに紅潮させて答えた。 「も、もし暇なら……私と……お茶……なんてどうかしら……と思って……」  潤みきった目。落ち着かない息遣い。肩にみなぎる緊張。手垢がついた誘い文句は、滑稽なほどに輪郭を震わせている。――あまりにも無様なこれが、真央の生まれて初めての逆ナンだった。 (言っちゃった……)  本当に言ってしまった。超えてはいけないはずの一線を超えてしまった。その実感が湧き上がってくる。何と愚かなことをしてしまったのか。時間は区切られていなかったのだから、もっと落ち着いてよく考えればよかった。そうすれば、満足のいく選択ができたかもしれないのに。いくら後悔しても取り消すことはできない。 「えーと……」  真央の言葉を聞き、男がスマートフォンをおろした。  その視線があらためて彼女に向けられる。明るい金に染められた髪。熟肉に張り詰める若者向けの衣類。攻撃的なメイクとは裏腹な弱々しい表情。――それらをひと渡り見た後、男は尋ねた。 「おばさん、もしかして、僕のことナンパしてます?」  おばさん。あまりにも直接的な言葉が、真央の内側に火を爆ぜさせる。38歳。確かに若いとは決して言えない年齢だ。けれど、こうして若い格好をしていながらそう言われる衝撃は相当なものだった。ショックであると同時に、真央は安堵してもいる。やはり、断られるのだ。これでいい。こうなるべきなのだ。  ごめんなさい……っ――そう言ってその場を去ろうとした真央の手首を男が掴む。初対面であるとは思えない、馴れ馴れしい掴み方だった。それが、この男が裕貴の同類であることを端的に示している。  お茶もいいですけど、と男は言った。 「どうせなら、ふたりきりでゆっくりできるところ、行きません?」  そう言って笑う男の笑顔が、成功するはずのない真央のナンパの結果を示していた。   ■  激しく突きこまれるたび、桃色に濡れた声が喉から跳ね出る。  真央は、今、ラブホテルのベッドに四つん這いになり、後ろから貫かれていた。真央の内側を我が物顔で蹂躙する男根の長さは裕貴よりも多少短いが、ひとまわり近く太い。それは膣壁をごりごりと強引に削り、真央にシーツをきつく握りしめさせた。 「あー♡ おばさんのデカケツ最高すぎんだろ♡」  やばいでしょ、これ、と笑いながら、男はそれまで以上の激しさで腰を真央に打ち付けはじめる。汗ばんだ肌と肌、肉と肉とがぶつかる、ぱんっ♡ ぱんっ♡ ぱんっ♡ という音が弾ける。その音にあわせ、高く掲げられた尻の肉が揺れに揺れた。 「俺、胸も好きだけど、ケツのほうが好きなんだよなー」  そう言いながら、男は揺れる尻肉を撫で、さすり、揉みしだく。 「あんっ♡ それは……あんっ♡ あんっ♡ あんっ♡ だめっ♡」  絶妙な力加減に、真央の喘ぎが湿度を増す。彼女の心身は、つい先ほど知り合ったばかりの男に完全に翻弄されていた。  ホテルに来るまでに聞かされた話によれば、男の年齢は25歳。大学卒業後、半年ほどは会社につとめていたが、上司に嫌気がさして辞め、それからはフリーターをしているという。女から声をかけられたのにも関わらず、舞い上がる様子はまるでなく、それが女慣れの度合いをうかがわせた。  交際を求めているではなく、体の関係を持ってほしいだけ――という真央の要求に、彼は笑顔で頷いた。「それじゃ、今回限りの体だけの関係ってことで、割り切って楽しんじゃおう♡」と男は笑っていた。  予想はしていたが、男の性的な技巧は、予想を上回るものだった。裕貴には及ばないものの、真央の体を快楽で満たすには十分だ。相手を選んだのが真央自身である、という事実が、その快感を何倍にも倍増させる。選ぶ相手を間違えたのか。それとも、当たりを引いたのか。おそらくはその両方なのだろう。真央は処罰と褒賞を同時に受け取っている。  真央の股間はせき止める機能が壊れたように愛液を垂れ流しにして、シーツに染みを作っている。そのシーツには、すでにもういくつか、使用済みのコンドームが散らばっている。どれもたっぷりと白濁を吐き出されたそれは、男の性的能力の優秀さの証明だ。枕元に置かれたデジタルウォッチの表示によれば、ホテルに入ってから約二時間――真央はもう息も絶え絶えなのに、男の動きは性行為が始まった時から衰えていない。 「……っ……んっ……あ、はあっ……♡」  どうにか声を抑えようと唇を引き結んでも、喘ぎはその堰を乗り越え溢れ出す。快感のあまりに突っ張っていた肘が砕け、上体が崩れる。体と寝台のあいだで、爆乳がむにゅり♡と潰れた。 「あーやば。また出る♡」  指が肉に食い込むほど強く尻を抱えて、男が腰を打ち付ける。襲いくる激感に耐えかねて、真央はベッドに顔を押しつけ、「おっ♡ おおっ♡」と呻いた。そして行われる射精が何度目なのかはもうわからない。とにかくそれは一度目と何ら変わりのない量と勢いを誇っていた。今日は危険日ではないが、避妊具をしていなかったら確実に妊娠させられていたに違いない。  真央の下肢が、ぶるっ♡ ぶるるっ♡ と不規則に痙攣する。それにあわせて尻の肉が淫らに揺れた。  ふいー、と男が息を吐く。 「出した出した♡」  真央から男根を引き抜いた男が避妊具を外し、無造作に放る。そして彼は、新しい避妊具の封を破った。鼻歌でも歌い出しそうな余裕ぶりだった。 「ま、まだするつもりなの……?」  真央の問いかけに「当たり前だっつうの」と男は答える。 「まだ全然ヤリ足りねえって。こんなエロい体、一晩中抱いても満足できねーよ」  そう言って、避妊具をペニスに装着する。それは射精を重ね、萎えるどころか、硬度を増しているように見える。 「俺ばっかり動いてちゃ不公平だから、今度はおばさんが動いてよ」  いいでしょ、と男は仰向けに寝そべる。騎乗位を求められているのだ、と理解した真央は性感の熱に茹だる体を動かし、膝立ちに男を跨いだ。亀頭の先端を陰裂にあてがい、歯を食いしばってゆっくりと腰をおろしていく。もう何十度、何百度も行き来しているモノだというのに、その感触は総身の毛を逆立てた。眉間に悩ましい皺が生まれ、毛穴から汗がどっと吹き出す。 「くっ……♡ んんんっ……♡」  正常位とは違う角度で、違う場所を刺激するそれ――歯を食いしばり、どうにか根本まで呑みこむ。その努力を褒め称えるように、男根がびくんと一度跳ねた。単なるいななきが真央の喉から「あっ♡」という声を絞り、汗に濡れた体を震わせる。ごく軽くではあるが、絶頂してしまったのだ。  今日初めて会った男相手にもこんなに感じてしまうなんて。自分は、自分の体はどうしてしまったのか。悔しく思ってもどうしようもない。今は一刻も早くこの男を満足させ、早くホテルを出たかった。 「う、動くわ……」  絶頂の余韻を引きずった声で真央は宣言する。そして、その通りに腰を動かし始めた。結合部に淫靡な水音が粘りつく。裕貴にしこまれた真央の動きは男のツボを心得た適格なものだ。さすがの男も呻きをあげるが、あっけなく搾り取られたりはしない。それどころか、不敵な笑みを浮かべた彼は、真央の尻腰を掌でがっちりと掴み、下から真央を突き上げ始める。 「おっ♡ ん……っ♡ はあっ……っ♡」  真央の動きと男の動き――それらがぶつかり合い、爆乳をでたらめに揺らす。汗を跳ね飛ばしながら、ばるんっ♡ ばるるんっ♡ と重量感たっぷりにそれらが踊るたび、両肩に凄まじい負荷がかかるが、性行為のさなかではそれすらもが心地よく感じられてしまう。今や、相手のすることだけではなく、自分の肉体までもが真央を快楽で責めさいんでいる。  男のたくましい胸板に置かれた掌が握りこぶしとなり、食いしばられた歯の隙間から苦しみに満ちた息遣いが漏れ出す。  あのさ、と男が唐突に腰の動きをとめた。それにあわせ、真央も腰使いを停止させる。 「何でずっと我慢してんの? 我慢なんてしないで、全力で楽しんじゃえばいいじゃん」 「楽しむなんて……そんなこと……できないわ……」 「できるけど、恥ずかしいからやろうとしてないだけでしょ。でも、そんな必要ある? どうせオトコの命令か趣味なんだろうけど、そんなカッコして若い男逆ナンしてホテル来てるって時点で十分恥ずかしいから。今更だよ」 「そ、それは……」  確かにそうなのだろう。今更我慢をしてみせたところで、何になるというのか。そうして真央が守ろうとしているものには、すでに大きな傷がついてしまっている。だとしたら、それは、苦痛に耐えてまで守るべき価値がまだ残っているものなのか。男の嘲笑が、真央の中に疑念を膨らませていく。  いや、でも、しかし――軋みをあげる価値観が、真央の瞳を揺らす。 「だ、だめよ……楽しむなんて……そんな……」  真央の動揺を見て取った男は口元の笑みを濃くした。そして、 「だめかどうかは、おばさんが決めるんだよ?」  その問いかけが真央の胸を強烈に打つ。自分のすることは自分の意思で決める。決めていい。そんな当たり前のことが、彼女にはあまりにも新鮮だ。  これまで真央は、いついかなる時も、母として、妻としての良識に従ってきた。それが当たり前のことで、意識したことすらなかった。しかし、今、その良識に基づく必要はあるのだろうか。ここにいる真央は、妻でもなければ母でもない。今の彼女は、裸以上に破廉恥な服装で年下の男を逆ナンした好色な「おばさん」以外の誰でもない。  ならば、これまでの当たり前を投げ捨ててしまってもいいのではないか。少なくとも、この男と一緒にいる今この時だけは、妻であることも、母であることも忘れてしまっていいのではないか。自分は家族のため、毎日この身を犠牲にしているのだ。ならば、それくらいのわがままは許されるのではないか。どうせ、雅史にも裕貴にも、ここで何が起きたのかを知られることはないのだ。  はあっ♡  瞼をおろして吐かれる溜息はどこまでも切ない。  そして開かれた目には、その切なさを吹き飛ばす生々しい欲望が輝き始めていた。 ■ 「おおおっ♡ おおおっ♡ おんっ♡ お、ほおおおおっ♡」  いけないことをしている、という自覚はある。確かにあるのだ。  しかし、男に突き上げられるたび、真央の口からは喘ぎ声が――意識の検閲を受けていない生々しい音が溢れ出してくる。何が起きてもすべては今この時だけのこと。ゆずきりの関係が生み出す制限が、彼女から理性を剥ぎ取っている。 「んおおおっ♡ おほっ♡ おんっ♡ おぉん♡ おおおっ♡」  鼻の下を伸ばしきったその表情は、目を背けたくなるほど下卑ているのにたまらなく魅力的だ。剥き出しになった欲望が、彼女に常ならぬ雰囲気をまとわせている。  いいね、と腰を荒々しく使いながら、男が言う。 「エロババアらしい声、出せるようになったじゃん」 「んっ……え、エロババアなんて……っ」  抗弁しつつ、今の自分を言い表すのに、それ以上の言葉はないだろう、とも思う。  夫も子供もいる身でありながら、こんな破廉恥を極めた格好をして、若い男とホテルで交わる。そんなことをする女は「エロババア」と蔑まれて当然だろう。しかし、いいのだ。これは今だけのことなのだから。部屋を出て、裕貴の元に戻ったら、またかつての自分に――家族のために尽くす自分に戻ればいい。  今だけ。今だけ。今だけ。  言い訳を繰り返しながら、真央は「エロババア」としてのセックスに没頭していく。快感の度合いは、それまでの比ではない。気持ちがいい以上に、セックスが楽しくて仕方なかった。何も考えず、肉体の欲するままに動く――それがこんなにも快楽をもたらすことを真央は初めて知った。それは、同時に、理性がどれだけ真央を苦しめているのかの証明でもある。 「俺ばっか動くのも不公平だから、次はおばさんが動いてよ」 「わ、私が……?」  男が動きをとめ、ほら、と言葉で急かす。それまであった動きがなくなっただけで、体の中に大きな穴が空いたような気分だった。強烈な虚しさを覚えながらも、真央はすぐには動くことができなかった。こんな状態で動いたらどうなるのか――その想像がもたらすのは恐怖ではなく期待だ。それがどれだけ素晴らしいものなのかがわかるからこそ、躊躇いを覚えてしまう。  しかし、それもほんのひと呼吸のあいだ。 「おっ♡ おおおっ♡」  真央の腰が動き始める。豊尻が持ち上がり、打ち下ろされ、ふたたび持ち上げられる。甘いものに飢えた子供が飴玉をしゃぶるような貪婪な動き。今しているこれは、本当にセックスなのか、と思う。全力で体を動かす楽しさに満ちたこれは、性行為よりも運動に近い。だから、こんなにも爽快な気持ちよさに満ちているのだ。  淫靡であるべき行為を、単なる運動に堕としてしまう。淫らなものでなくしてしまう。それが、逆説的に行為に本来以上の淫らさを帯びさせている。自分の罪深さを思い知り――真央の腰使いに拍車がかかる。 「んおっ♡ おっ♡ おおおっ♡」  荒々しくというよりは、雄々しいという形容がふさわしくなるほどに真央の腰使いが荒ぶる。上体がのけぞり、首が反る。ほとんど真上に向けられる真央の目は、今にも燃え出しそうな熱を孕んでいるが、何にも焦点を結んではいない。 (セックスがこんなに楽しいなんて……っ)  顎下につくほどに持ち上がった乳房が限界まで下方に伸び、ふたたび舞い上がる。クーパー靭帯への拷問のような躍動――汗を滲ませた下乳が鳩尾の周辺を打つぱちんっ♡という音がひたすらに連続した。痛みはない。自分のやることなすこと、すべてが心地いい。  ひくひくと口角がいなないているのがわかる。きっと自分は笑みを浮かべているのだろう。それは、派手な金髪や、露出狂まがいの服装、施されているギャルメイクに似つかわしい笑みだ。真央は、裕貴がここにいないからこそ、裕貴が彼女を変えようとしているモノになってしまっている。  でも、いいのだ。だって―― (今だけっ♡ これは今だけのこと、だからっ♡)  ここで起きていることは、ホテルを出れば消えてしまう夢幻だ。それを言い訳にして、真央はますます悦楽に没頭し、昇ってはいけない高みへと昇っていく。全身の躍動が、滝汗をそこらじゅうに跳ね散らかした。  イくっ、と喉から沸騰した喘ぎがほとばしる。 「イくっ♡ イくっ♡ イくっ♡ イ……ぐイぐイぐイぐイぐイぐイぐイぐイっっっぐぅぅぅぅうんっ♡♡♡」  背骨も折れよとばかりに反る上体。甘い雷撃が全身を貫くと、牝肉がぶるぶると震えて極上の柔らかさを振りまく。どこまでも切迫した声とは裏腹に、真央の表情は蕩け落ちそうに弛い。ギャルメイクの向こう側にぐずぐずに崩れた脳味噌が透けて見えそうだった。  絶頂をおえた真央は、ぐったりと体を崩す。焦げた息が男の胸板を撫ぜた。彼女は完全に脱力しているが、その下肢なおも不規則な痙攣を繰り返していた。 「ど派手にイッたね」  うける、と男は笑う。 「おばさん、そろそろ時間になるけど、どうする。延長しちゃう?」 「延長なんてするわけがないでしょう!」――とは真央は言わない。そんな言葉は思い浮かびもしない。蕩け腐った笑みを浮かべた彼女は、これが本当に38歳の女から出ているのかと疑いたくなるような甘い声で「する……♡」と答えていた。  恥ずかしい。しかし、いいのだ。何をしようとすべて、今だけのことなのだから。 ■  裕貴の部屋に戻った時には、すでに日が暮れていた。 「それじゃ、証拠の写真、見せてもらおっかな」  食べていたピザの脂をナプキンで拭い取り、裕貴が言う。  真央は無言で彼の隣に腰をおろした。メイクが多少違っているのは、ここに来るまでのあいだに、多少の手直しをしたからだ。  あれから、延長した時間ぎりぎりまで性行為をしたにも関わらず、その所作に疲労の色はまったく見られない。それどころか、若い男――若いイケメンとの情交で得られた活力が全身どころか髪の毛先の細胞にまでぎらぎらとみなぎっている。それは、どんな化粧品よりも艶々と彼女の肌を滑らかに輝かせていた。  自分でもそれがわかるからこそ、真央は恥じ入っている。一時限りのことだから、という言い訳のもと、自分は恐ろしいことをしてしまったのではないか。今更の後悔は、しかし、今なお冷めやらぬ満足感の前ではあまりにも無力だ。 「こ、これでいいんでしょう」  操作の後、スマートフォンを裕貴に掲げる。  そこに映し出されているのは、事後、男に頼んで撮影させてもらった画像だ。  ラブホテルのベッドの上、男と真央が裸のまま並んで写っている。白い歯を剥き出して笑い、真央の肩を抱く男。真央のほうは、どうにか無表情になろうとつとめている。シーツに数多く散らばる使用済みの避妊具がなくても事後であることがわかってしまう――そんな画像だった。  性行為の後、男は一度だけ、連絡先を交換しないかと誘ってきた。しかし、真央が拒むと、それなら仕方がないとあっさり引き下がった。ふたりはそれぞれ別にシャワーを浴びて、ホテルをすぐに出て別れた。偶然が悪戯でもしなければ、もう二度と会うこともない。彼の背中を見送りながら、これでよかったのだ、起きたことはすべて夢、悪い夢だったのだ――と真央は思った。 「へー。こういうやつが好みなんだ」 「て、適当に声をかけただけよ」 「本当に真央から声かけたんだよね?」 「ええ。間違いなく、私から声をかけたわ」  そっかそっか、と裕貴は満足げな笑みを浮かべた。真央の言葉を信じたようだ。当然だろう。真央から声をかけたのは真実なのだ。  実はさ、と裕貴は言った。 「もしどうしても逆ナンできないまま戻ってきたら、真央のこと解放してあげようと思ってたんだよね」 「なっ……」  何を言っているのか。突然の情報が、真央を固着させる。 「本当だよ。もしそうだったらパリピの素質なしってことで、また別な女で遊ぼうかなって思ってたんだよね。石ころ磨いても宝石にはならないでしょ。無駄な努力って俺嫌いなんだよね。でも、嬉しいよ――まだまだ真央で遊べそうで♡」  おそらく、ではなく、間違いなく、裕貴は真実を言っている。真央が男に声をかけられないままだった場合、彼は本当に真央を解放するつもりだったのだ。実際にそうなる可能性はあった。知りようがなかったとはいえ、失ってしまったものの大きさに真央は呆然とする。腰をおろしていなければ、その場に崩れてしまっていたことだろう。 「がっくりしないでよ。いいじゃん。そのぶんたっぷり楽しんだんでしょ?」 「た、楽しんでなんか……っ」  いない、という言葉は耳を自分でも塞ぎたくなるほどに空々しい。 「そうだ。解放はしてやれないけど、その代わりに、こういうのはどうかな。1ヶ月間時間をやるよ。そのあいだに30人逆ナンしてエッチしたら、俺に従ってなきゃいけない期間を1ヶ月短くする」  どうかな、と裕貴は尋ねる。 「それは――」  今は6月の下旬。裕貴に服従しなければいけないのは来年の4月まで。まだ10ヶ月近くが残っている計算だ。それを短縮してくれる――破格の取引、と言っていいだろう。提案にのらない選択肢はない。ありえない。だからこそ、真央は絶望する。  狙いを定めた時の胸のときめき。声をかけた時の興奮。知り合ったばかりの男に、剥き出しの欲望をさらけ出す快楽。――今日「たった一度きりのことだから」と味わってしまったそれをまた味わってしまったら。しかも、1ヶ月に30回という密度で味わってしまったら。どうなるのか。どうなってしまうのか。「たった一度」と定めたことが日常になってしまったら。  拒否しなければ、と真央は言い訳を探す。そんな思考を叩き潰すように裕貴が、 「30人と寝るんだし、3ヶ月にしよっか♡ それから、時間もキリよくして、来月の末までってことで」  と破格のさらに上を行く提案をしてしまう。そこまでの条件を提示されたら、真央はもう絶対に断れない。断らなければいけない――理性の警告を聞きながら、真央は「やるわ」と答えていた。 「やるに……決まっているでしょう……っ」  真央が浮かべているのは、家族のため、30人もの男と寝ることを決意した慈母の悲しげな表情――ではない。赤らんだ頬。切ない息遣い。潤んだ目をのぞきこめば、瞳の奥に燃える炎が見えただろう。表面的にはどうにか悲壮を偽ろうとしているものの、それは疑うことなき発情した牝の顔に他ならない。 (ああっ……私……何を期待してしまっているの……)  己を叱りつける真央の股間は、早くも愛液を滲ませていた。   (続)

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