―――――― 今ならまだ引き返すことができる――そんな理性の訴えかけを握りつぶして、松井浩史は玄関の扉を開ける。学生服の内側に胸を高鳴らせ、密かに勃起を高くして帰宅を果たした彼を、母の智沙が出迎えにやってくる。 「ただいま、ママ」 「おかえりなさい、浩史」 美味しいクッキーをいただいたから、着替えたら一緒に食べましょう、と息子にむかって微笑みかける智沙――落ち着いた茶色に染められたミディアムロングの髪。新雪を思わせる白くなめらかな柔肌。Kカップという規格外の大きさをもつ乳房が決して下品に感じられず、むしろ豊かな母性の象徴のように感じられるのは、ひとえに本人のまとう気品のおかげだろう。 美貌の母を他人の視線に晒すことに耐えられず、浩史が家に友人を招いたことはない。彼にとって母はそれだけ大切な存在なのだ。整った顔立ちがゆえに学園の女子生徒の熱視線を一身に集める浩史だが、まともに相手をする気にもなれない。母に比べれば、同年代の女たちには路傍の石程度の魅力しか感じられなかった。 しかし、崇拝にも似た感情を抱きながら、同時にそんな母をめちゃくちゃにしたい――彼女の品位を根こそぎ奪い取り、嬉々として下卑た姿を晒すところを見てみたいという暗い欲望を持っているのも事実だった。そんなあさましい母の姿を妄想して何度肉棒をしごいたかわからない。 妄想。そうだ。それは非現実的な空想に過ぎない。けれども、それも今この時までの話だ。 「ねえ、ママ、これを見てほしいんだ」 浩史は取り出したスマートフォンを母にむかって差し出す。「あら、何かしら?」と画面にむけられる智沙の視線――それは浩史の妄想が現実へと変転した瞬間だった。 ―――――― 昨夜、拓哉が怪しげな海外サイトからスマートフォンにダウンロードしたそれは、対象者の精神を書き換えることのできる効能を謳うアプリ――催眠アプリと呼ぶべきものだった。もちろん、本気で信じていたわけではない。しかし、今日の日中に、冗談半分、学校のクラスメイトたちにそれを使用してみて驚いた。 拓哉の望むまま、己を猿だと思いこんで奇声をあげる女子生徒、暑い暑いと喚きながら全裸になる男子生徒、次の試験の問題を堂々と板書する教師……彼らは極めつけの醜態を晒しながら、アプリが本物であることを教えてくれた。 そうとわかれば、するべきことはひとつしかない。 帰宅をした拓哉は、欲望に命じられるがまま、母に催眠アプリを使用した。 そして――その『母』は、今、拓哉とともに夕暮れの繁華街を歩いている。彼女の服装は淑女としてあるべきものではない。シャツ、ジーンズ、靴――いずれも拓哉の使っている、若い男性向けのものだ。 「何かさっきから、俺、めちゃくちゃ見られてんだけど……」 眉を顰める智沙は人々が自分に視線を注ぐことを不思議がりこそすれ、己の格好には疑問を抱かない。それも当然だ。なぜならば、今の智沙は、催眠アプリで上書きされた『拓哉の男友達』『悪友』なのだから。 「見られてる? 気のせいじゃないかな」 素知らぬ振りをして、拓哉は答える。しかし、その視線は、すれ違う者たちと同様に、智沙の胸部へと引きつけられてしまっていた。 一歩ごとにゆっさゆっさと重たげに揺れるKカップ――ブラジャーはつけていないため、布地にはくっきりと乳首が浮かび上がってしまっている。ジーンズの臀部ははち切れそうなほどに張り詰め、太腿の部分も苦しげな様子だ。男の服装をすることによって、智沙の体はかえって女性性を極限まで強調されていた。 週末だけあって、人通りはそれなりに多い。これまで、秘宝にように、人目に触れさせなかった母の姿を――しかも、あられもない男装を、不特定多数の人々にこれでもかとばかりに見せつけている。そう考えると興奮は天井知らずに高まった。 それから、拓哉は、智沙を連れて次々と店舗を回った。ゲームセンターでクレーンゲームを楽しみ、ショップで智沙が着る男用の服を買いこみ、コンビニエンスストアのイートインスペースで、珈琲を飲みながら、スマートフォンであれこれと感想を言い合いながら動画を鑑賞する。最初は行動の端々にぎこちなさが見られたものの、次第に拓哉とともに遊興の時間を楽しむようになった。 そして、メンズ向けのアパレルショップへと移動したあと、そこで智沙がこれから着るための男用の服をたっぷりと買い込み、自宅へと送る手続きをした。そこで、早速、買い込んだ服に着替える智沙――卑猥な英単語がプリントされたタンクトップ、迷彩柄のハーフパンツ、髑髏の飾りがついた極太のチェーン、フラットなつばのキャップ……B系の男子を強く意識した服装に変わった彼女の姿は、先ほど以上にむせかえりそうなほどの艶めかしさを周囲に振りまいていた。接客をした男性店員は、どこへ視線をやったものかと迷いながら、勃起を隠すことすら忘れていた。 勃起していたのは拓哉も同じだ。しかし、まだだ。まだ足りない。もっと堕ちた智沙の姿が見たい、と思ってしまう。彼は、興奮のために小刻みに震える指に苦労しながらスマートフォンを操作し、さらに智沙に情報を上塗りした。 「つーか疲れたな。どっかで休憩しようぜ」 つばを後方にむけてキャップをかぶり直しながら言う智沙に、カラオケボックスで休むのはどうだろう、と拓哉は提案する。それが受け入れられ、ふたりはすぐ近くにあるカラオケボックスへと移動した。 個室に入った智沙は、ソファーに身を投げ出すようにして座る。ダイナミックな動きにあわせ、Kカップの大質量がぶるるんっ♡ と惜しげもなく揺れた。それに目を奪われた拓哉に気がつくと、智沙は悪戯っぽく笑いながら両腕を胸の下に交差させ、乳房を大きく揺らして見せた。 「どーよ、俺のデカパイ♡ 最高っしょ♡ おらっ。遠慮してねーで、もっと近くで見ろって」 智沙は拓哉を抱き寄せ、その頭を無理やり乳肉に埋めてしまう。『男としての意識はそのまま、自分の体が女のものであることを認識する』――それが新たに書き加えられた催眠だった。 やや複雑な命令で、どうなるか不安であったものの、どうやらうまくいったようだ。命令に則り、智沙は熟れた女の体を完全な男目線で玩具にしていた。 「ちょ、智沙、苦しいって(笑)」 ギブギブ、と智沙の二の腕をタップしながら、拓哉は言う。 「そう言いながら目が笑ってんぞ。おらっ♡ 死ね♡ 窒息死しろ♡」 力をこめて爆乳に息子の顔面を押しつける智沙。それに対して、拓哉は、柔らかくも弾力に満ちた感触を楽しみながら、戒めから逃れようとしているかのような素振りをする。実母とあたかも悪友のようにじゃれあいながら、拓哉の勃起は限界まで硬くなっていた。 「な、なあ、智沙――」 お願いがあるんだけどさ、と拓哉が言うと、智沙は腕の力を弛めた。何だよ、と問う彼女に、拓哉は答える。 「セックス、させてくれないかな? その――したことないんだ、僕」 禁断の交わりを欲する息子の願い――母であれば絶対に断らなければいけないものだろう。しかし、今の智沙は母親ではない。彼女はもはや拓哉の『悪友』でしかないのだ。 「何だ。そんなことかよ。OK(笑)」 本当に何でもないことのように答えて、智沙はハーフパンツをボクサーブリーフごと引き下ろし、下半身をあらわにした。あっけらかんと剥き出しになった母の秘部に拓哉が思わず見惚れていると、智沙はげらげらと笑いながら彼の肩を軽く拳で叩いた。 「何ボサッとしてんだよ。おめーもさっさとちんぽ出せって♡」 卑語まで使って促され、拓哉はベルトを弛め、ジッパーを降ろして、ペニスを露出させた。いまだ女を知らないその部分は、すでに期待を漲らせ、鈴口からとめどなく粘液を滲ませている。心臓の高鳴りは、耳にうるさいほどだった。 「おっしゃ。そんじゃハメるか(笑)」 という声とともに、智沙は拓哉に座位の姿勢で跨がり、亀頭を陰裂にあてがって腰を降ろしはじめる。母の膣へと容赦なく呑みこまれていく息子の肉棒――みちみちと拡がっていく膣壁の感触に圧倒されながら、拓哉は声を出すこともできない。 「はい。童貞卒業〜♡ おめ〜♡」 拓哉を根本まで完全に受け入れた智沙は、やはり、ごくごく軽い調子で言った。母と禁断の繋がりを果たしてしまった――と震える拓哉を見下ろしながら、そして、智沙は「ボケっとしてんじゃねーよ。こっからが本番なんだからよ(笑)」と腰を前後に動かしはじめる。 男の服装をし、男の言葉を喋る母親と、こんなにも軽いノリでセックスをしている――その事実が拓哉の性的快感を一気に増幅した。 「これ……すっげ♡ ちょー気持ちー♡」 へらへらと笑いながら、息子との相姦を楽しむ智沙――腰の動きは次第に激しくなり、それにあわせて乳房の揺れも激しくなっていく。すでに限界まで張り詰めているタンクトップの布地が肉の躍動にあわせて、ぎちぎちと苦しげな悲鳴をあげるのが聞き取れそうだった。 「ああっ。智沙、智沙、智沙ああっ」 拓哉は欲望に命じられるまま、母の体を抱きしめ、その豊満すぎる乳房に顔を埋めて己を解き放つ。そして、智沙が牡の灼熱を受け、またたく間に絶頂へと昇りつめていく。「やっべ。イク(笑)」という呻きをあげて背骨がぐっとそらされると、激しい運動でずれていたキャップが床に落ちた。 射精の余韻に息を荒らげている拓哉から体を離しながら、「すっげー気持ちよかったわ」と智沙が言う。彼女は乱れた髪を手櫛でざっとかきあげたのち、拾い上げたキャップをかぶり、笑顔を見せた。その笑顔の溌剌さは、到底、たった今、禁忌の魔悦を貪った人間のそれではないが、信じがたいほどに魅力的であることは間違いなかった。 拓哉はテーブルに置いているスマートフォンにメッセージが届いていることに気がつく。確認してみると、それは、帰宅した父からの、ふたりともどこで何をしているのか、という不安げな問いかけだった。 直接顔を合わせれば催眠アプリでどうとでもなるが、今はどう返信しておけば一番面倒が少ないだろう、と考えていると、「なあ」と声がかかった。視線をあげると、智沙が左右非対称の凶悪な笑みを浮かべ、こちらを見下ろしていた。 「もっとがっつりハメようぜ。どうせならラブホで♡」 智沙の誘い――それに対して、拓哉が何と答えたのかは言うまでもない。ふたりは『悪友』同士なのだから。これから父に何と返信をするにしろ、今夜ふたりが帰宅することは絶対にない、ということだけは断言できた。 (了)