XaiJu
zeta zeta
zeta zeta

patreon


【9月限定イベント】月下の囚われバニー 後編B

「ナツキ、逃げろ!」

俺は思わず叫んでしまっていた。

黒衣の男は片手をわずかに上げる。

「……拘束しろ」

「…っ!!」

男の指示より速く、ナツキは軽やかな身のこなしで黒服を蹴散らした。

「ほう……」

黒衣の男はナツキの身のこなしを見て、感嘆したような声を上げる。

「声出しちゃダメじゃん!」

「すまん!ただ…只事ではない気がしたんだ」

「それはそうだけど!」

「お、お前は……何者だ!ただのバニーじゃないな…!」

驚いて見上げる議員に、ナツキがニッと笑う。

「シティソルバー、あんたたちを捕まえに来たんだから!!」

◇◇◇

◆◆4_対峙◆◆

ナツキの声が響いた瞬間、フロアの空気が一変した。

ざわめいていた客たちの笑い声が止み、楽器の音さえも凍りついたように途切れる。

視線が一斉に、ナツキと黒衣の男へと集まる。

場を支配する重圧――男のオーラは只者ではなかった。

「我が名はアスモルト……異胎機関の幹部がひとり」

静かな、それでいて恐怖を感じさせる声色。

黒衣の男、アスモルトが静かに腕を広げると、袖口から赤黒く脈打つ触手が音もなく伸び、床を這った。

粘液で滑った触手がナツキに襲い掛かる。

「くっ!」

ナツキは踵で床を蹴る。

腰の回転を最小限に絞り、しなる鞭のように回し蹴り――。

「はぁっ!」

ギィィィンッ!!

まるで金属を叩くような音。弾力性のあるように見える触手が一瞬で硬質化する。

触手の一部が弾かれ、床に叩きつけられた。

一拍の静寂。

「ほう、よく動く……“器”の力、見せてもらおう――」

アスモルトは愉悦を滲ませる。

残る触手が一斉に立ち上がり、ナツキを絡めとろうと五月雨に襲い掛かる。

ナツキは拳で捌き、肘で払い、隙を見つけてアスモルトへ接近を試みる。汗が額を伝い、視界の端で光を屈折させた。

「これで、どう!」

先手必勝──相手が奥の手を出す前にケリを着ける。

ナツキの右腕が閃き、高速の三連突きがアスモルト目掛けて放たれる。

「トリプル・スラスト!」

ズガガガ!!!

アスモルトに当たった衝撃で、激しく煙が舞う。

「……やった!?」

しかし、アスモルトは微動だにしない。

「君の拳は守るために振るっているようだが……その躰は魔を孕むためにつくられた器だ」

冷水を浴びせられたように、背筋が強張る。

ナツキは拳を構え直し、奥歯を噛みしめた。

「……また“器”とか、わけのわからないことを」

ナツキの顔に怒りの表情が浮かぶ。

「わからなくていい…君は、その言葉を嫌うほど――我々に近くなる」

アスモルトが指先をひらく。

床一面に紅色の輪が幾重にも描かれ、音のない振動が広がっていく。

触手はただ、彼女の周りで空気を撫でるように、円を描いて漂い続ける。

不快な圧。

皮膚に触れられていないのに、腹の奥に小さく石を落とされたような違和感が響く。

(……やばいやばい)

汗が耳裏を滑り落ちる。

また、あの「視界を奪われた夜」の輪郭が近づいてくる――。

その瞬間、無線がかすかに鳴った。

『ナツキ、聞こえるか。深呼吸だ、俺が見てる。右二、左一、上から一。間合いは二歩』

短い指示が、曇った窓を指で拭うように意識を戻す。

胸の奥に灯がともる。

弱さを見られてしまう気恥ずかしさと、見てくれている安心が同居する。

「……君が言うなら、やるしかないよね!」

彼女は踵を半歩ずらし、円環の「切れ目」に狙いを定める。

ハイブーツの接地角を変え、一瞬で間合いを詰め

拳を真っすぐ振り下ろす――。

「っ、はぁっ!」

打撃は正確に空間の歪みを突き、輪がひとつ崩れた。

アスモルトは感心したように瞼を細める。

「見事だ…だが、これはどうだ」

次の瞬間、輪は形を変えた。

彼女の周囲で、薄い影絵のような像が生まれる。

倒壊した街路、焦げた空、泣き叫ぶ誰か――そして、彼女の名を呼ぶ声。

絵はどれも曖昧で、しかし嫌なほど具体的だ。

「やめろ……!」

「これはお前の未来だ…器は、刻まれた烙印に抗うほど満ちていく」

影絵が近づくたびに、胃の底が浮くような、微かな波が押し寄せる。

彼女の足下、輪の中心に、下弦の月によく似た印がひとつ描かれた。

印――それは烙印のように見えた。

ジリジリと焼かれるような感触を覚える。

「お前の世界はここだ」と、四方から指を差されているようだった。

(やだ……やだやだ)

視界の端で、客の目が光る。恐怖と好奇心で凝固した視線。娯楽として消費される自分。

胸の奥で羞恥が膨らみ、怒りが火を上げる。

『ナツキ、聞こえるか。輪の中心、印を壊せば波は止まるはずだ』

「わかった……速攻で終わらせるから!」

彼女は自分に言い聞かせるように宣言し、踵をひねった。

ハイブーツが印の端を噛み、瞬間、輪が強く脈打つ。

逆流するように、空気の圧が彼女の全身を押し上げる――ナツキの体が宙に浮き、視界が白く跳ねた。

「……ッ!」

すんでのところで意識を取り戻し、歯を食いしばり、猫のような捻り技を見せると、床目掛けて落下を始める。

触手を弾きながら、花のように開いた両手に力を集束させる――。

「……インパクト・セロ!!!」

床に両手の掌底を叩き込むと轟光が輪の中心を貫く。

光が壁を走り、衝撃でカーテンがバタバタとはためく。影絵はボロボロと砕け散り、圧は霧のように薄れた。

煙の向こう、アスモルトは拍手をしていた。からかいではない。純粋な観察者としての賞賛。

「守るための拳と、刻まれた烙印……その矛盾を抱えたまま、尚前に進むか。――よい器だ」

「器じゃないって、言ってるでしょ!」

叫びは震えていた。恐怖が消えたわけじゃない。ただ、それを踏み越える自分がいる。

「ふむ、良い余興だった…」

黒衣の男――アスモルトは、両腕を掲げる。

袖口から伸びた無数の触手の節が脈打ち、淡い霧がじゅわ、と滲み出た。

赤黒い微粒子が照明を鈍く濁し、空気中に広がっていく。

「今宵はここまでだ……私はこれで失礼する」

甘く刺す匂い。

「あっ…あぁ♡♡あぁぁぁぁああ♡♡いぐ、いぐいぐぅううう♡♡」

豪華なドレスを着た女たちが。

「あぁぁん♡♡イカせて、お願いイカせてぇぇぇ♡♡あぁぁぁ♡♡」

金色のバニーたちが。

そして、また違う場所でも。

突如絶頂に至り、潮を吹き始めたり、オナニーをし始める。嬌声がフロアのあちこちで響き渡る。男性はガクガクと痙攣し間もなく倒れ込んだり、女に馬乗りにされ、どうやら男女で効き目が違うらしい。

バーは一瞬で、混沌の渦に巻き込まれた。

(……これは、催淫毒――!?)

ナツキは即座に息を止め、心拍を数えながら後退する。

最小限の動きで触手の攻撃を避け、毒を吸わないように、最短でアスモルトを倒す可能性を探る。

(呼吸がヤバくなる前になんとかしないと……!!)

ナツキの様子を見て、催淫毒などお構いなしに襲い来る触手たち。

三本。上、横、足下から。

彼女は腰の回転を最小限に絞り、鞭のような回し蹴りで一本を弾く。

もう一本は前腕で角度を殺し、最後の一本を肘から掌底に切り替えて弾き飛ばした。

触手の節が再び震え出し、霧の濃度がどんどん増していく。

流石のナツキも、呼吸を止めて3分は闘えない。

(ヤバいヤバい…どうする…)

タイムリミットは、刻一刻と迫っていた──。

◇◇◇

◆◆4_激突◆◆

フロアで対峙するナツキとアスモルト。

催淫毒が充満する中で、ナツキの呼吸はあと数秒ともたないところまできていた。

(さすがにヤバい……どうする…)

その時、けたたましいベルの音とともに天井から水が降り注ぐ──。

──同時刻、俺は裏手の非常階段を駆け上がっていた。

念のため情報屋から買っていたカードキーを握りしめ、端末の図面で空調系統の位置を確認する。

(拡散源は“触手”そのもの。ならば天井からの希釈で撹乱できるか――)

火災報知器にアクセスコードを打ち込み、警報を鳴らす。

ジリリリリリリリ!!!!

けたたましいベルと同時に、スプリンクラーが一斉に噴き、細かな雨がフロアの毒霧を床に落としていく。

急いでフロアに向かうと、アスモルトと闘っているナツキを見つけ、支援に向かう。

(間に合え…!)

ガスマスクを装着し、煙幕を投げてフロアへ滑り込む。

視界が千切れ、アスモルトの触手が一瞬だけ迷ったような動きを見せた。

「ナツキ、遅れてごめん。これを!」

「…ありがと!助かった!」

ナツキの傍へ走り寄り、ガスマスクを差し出して口元に密着させた。

「任務はここまでだ。早くここから出よう」

「……そうだね。幹部がなかなか厄介でさ、どうにかしないと……」

触手をかいくぐりながら、次の一手を探っていた───

その時──。

2人の死角からアスモルトの触手が迫っていた。

鋭くとがった触手の先端が、ナツキのガスマスクの弁へ一突き。

外気弁が割れ、マスクが外れかかる。

「……ッ!!?」

「ナツキ!!」

考えるよりも早く、俺は自分のマスクを外してナツキの顔に押し当てていた。

何故そうしたのかはわからない。「ナツキを守る」と、そう約束していたからかもしれない。

ストラップを締め、毒の侵入を塞ぐ。

代わりに、俺の肺が毒霧を直に受ける。

「ぐっ……!!」

スプリンクラーで弱らせていても、想像以上の威力だ。一般人の自分ではもう何秒も意識を保っていられない。

「だめ! 外しちゃ――」

「君を…守……」

短く言葉を発する。だが声はもう微かに揺れていた。

意識の輪郭が水に溶けるように崩れていく。

「美しいものだな……守る者は、己を捨てる」

アスモルトの囁きに、ナツキの歯が軋む。

「あんたは黙って!」

彼女は俺の腕を肩に回させ、半背負いで立ち上がる。片手で俺を支えながら、触手の攻撃を弾き続ける。

霧は雨で薄まっても、完全になくなったわけではない。視界の縁が歪み、床がわずかにうねって見える。

触手が床を走り、毛細の網を編む。足を取られ、ナツキの重心が泳ぐ。

「こぉのっ……!!」

残りの力を振り絞り、触手を蹴り飛ばす。もう衣装のことなど気にしていられない。

「どうする…この状況で」

アスモルトは2人を取り囲むように両腕から触手を伸ばす。

「どうするもなにも……あんたを倒してここから出る」

ナツキは俺を優しく地面に寝かすと、アスモルトの正面に向き直る。

「ほう……」

「あたしを怒らせたこと、後悔させるから」

大きく息を吸ってマスクを横になっている俺に被せると、

勢いよく地面を蹴り、アスモルトに向かって真っすぐ走り出す。

「愚かな。考えもなしに飛び込むとは…その程度の器か…」

何も考えずに走り出したナツキ

──というわけではなかった。

「あんた、ずっと腕から出した触手で遠くからしか攻撃してこなかった!“懐に入られると触手が間に合わない”でしょ!」

ナツキの言う通り、アスモルトが伸ばした触手は四方に長く伸ばされている。

体の“目の前の攻撃”を防ぐ術は持ち合わせていなかった。

「…貴様っ!!」

「これで終わりよっ!!!」

右手に閃光を集中させ、一気にアスモルトの心臓目掛けて叩き込む。

「インパクト・コア・ストライクゥゥゥゥッッ!!」

「ぐぬぅぅぅうう!!!」

鋭い青の閃光が走り、

ナツキの右腕が、アスモルトの左胸に激しい衝撃を与えた。

◇◇◇

「インパクト・コア・ストライクゥゥゥゥッッ!!」

「ぐおおぉぉぉぉぉ!!!」

ナツキの右拳がアスモルトの左胸を正確に捉え、床目掛けて吹き飛ばす。

スザァァァアア!!!

両腕から触手を伸ばしたまま、派手に倒れるアスモルトの体。

「はぁ…はぁ……」

全力で技を打ち込んだ反動で、ナツキの体も限界を迎えていた。

「お願い、これで……倒れて……」

ゆっくりと俺の方に歩みを寄せるその背後で、アスモルトがゆっくりと体を起こした。

「……嘘!?立てないほどの衝撃を喰らったはず…」

「予想以上の力だった…私が“普通の人間なら”起き上がれはしなかった」

大きく凹んでいたアスモルトの左胸が、捻じれるように元に戻っていく。

「私はもう人智を超えた体を手に入れている…」

「そんな…」

ナツキの全力がアスモルトには届かなかった。

絶望がナツキの頬を伝う。

「力をこの身で感じただけで充分だ…器はまだ育つ」

アスモルトは微笑すると、両腕の触手を切り刻み、宙にばら撒いた。

細切れになった触手が次々に破裂し、毒霧を飛散させる。

「再び相まみえよう……器よ」

「ちょっと……待っ…!!」

毒霧で視界が一気に遮られる。進むのは命に係わる危険な量だ。

ナツキの思いも虚しく、店の奥へ歩いていくアスモルトはあっという前に霧の中へと消え去ってしまった。

◆◆5_幕引◆◆

アスモルトはあっという間に見えなくなってしまった。

ナツキは俺の側へ駆け戻ると、まだ意識の浅い俺の肩を抱え、壁伝いに後退した。

床に散った細切れの触手片が、ぱち、ぱち、と微かな破裂音を立てるたび、赤黒い粒子が舞い上がる。退路は、奥のサービス廊下しかない。

「ねえ、立てる?」

「…………」

かすかに残る意識。どうやら体は少しだけ動かせるようだ。

ナツキは俺の腕を肩に回し、半身で支えながら非常灯の緑を目印に動き始める。

アスモルトの気配は、完全に感じることができない。

サービス廊下を抜け、搬入口へ。スプリンクラーの水がシャッターの溝を白く流れ、雨だれの音に混じって遠くのサイレンが重なる。

「ここから脱出してリ・ガーズを呼ぶから」

「……ああ」

腰のインカムを叩き、コールサインを送る。

『こちらCSN、毒性事案。搬入口側で要救護者多数。吸入症状あり、拡散源は室内。消防・救急を至急要請』

返ってきたのは、短い了解音。

そのまま彼女は俺を支えたまま路地まで出ると、庇の下に降ろし、周囲を警戒する。

「意識はあるよね?」

「……心配させて、悪い」

「君が助けに来なかったらあたしが毒にやられてた……でも、無茶はダメだよ。ホント心配したんだから…」

ナツキの表情は心配そのものだ。

俺は震える指で胸ポケットからサンプルキットを取り出し、ナツキに手渡す。

ナツキは割れていない触手の微小破片を採取した。

「証拠。これがあれば、あいつの“毒”、なんとかなるよね」

「ああ……次は防がないと……」

遠くから赤色灯が路地の壁面を染め上げ、数台の救急車とポンプ車が到着した。

現場指揮の消防士が走り寄り、俺たちにシートを掛ける。隊員が手際よく酸素投与と搬送段取りを進め、次々と担架が店内へ消えていく。

担架が戻ってくるたび、人々の胸がわずかに上下しているのが見えた。生きている――。

ナツキが小さく息を吐く。悪い取引が行われていた場所だとしても、人が死ぬのは見たくない。

「……ねえ、私はフロアを確認してから向かうから。君は病院で手当てを」

俺は担架に載せられ、ドアが閉まる寸前、ナツキと視線が合った。なにか口を動かしている。

(あ・り・が・と)

ナツキを助けられて良かった。薄れゆく意識の中で、そのことだけを考えていた。

◇◇◇

搬送先の総合病院。

点滴と短時間の吸入洗浄で意識ははっきりした。

ベッド柵にもたれて時計を見ると、事件から二時間が過ぎていた。

カーテンの隙間から人の行き来と器材の音。救急外来はひどく慌ただしい。

「起きてる?」

振り向くと、ナツキがカーテンをそっと寄せて入ってきた。制服姿の警官が二人、離れた場所で待機している。彼女は椅子を引き寄せ、腰を下ろした。

「毒の症状を聞いてきた。中枢神経系に作用して、男性には意識混濁を引き起こすって。揮発性が低いタイプだったのが救いかな」

「スプリンクラーで薄めたのは、結果的に正解か」

「拡散したけど、濃度が下がったぶん致死量は回避できた ってことみたい」

苦く笑ってから、彼女は眉をひそめた。

「ただ、一人だけ重い後遺症が出た。議員。……記憶が抜け落ちてる」

胸の底に冷たい重しが落ちた。

「全部か?」

「店に来る前後の数日。誰と会い、何を交わしたのか、真っ白。医師はやくりせいぎゃっこう…なんだっけ……」

「『薬理性逆行性健忘』だな」

「そうそう、多分それ!で、回復するかどうかは未知数…だって」

想定できていた答えでも、実際に突きつけられると違うものだ。

アスモルトという男は、ナツキと闘いながらも、バーでの情報を根こそぎ消し去っていたのだ。

「触手のサンプルは?」

「リ・ガーズのラボに回したよ。異胎機関の魔獣で似たのがいればいいんだけど…でもあんなに強力な毒は今までなかったかも」

魔獣は女を孕ませることに特化した改造生物だ。

特に催淫液や毒を持つ魔獣は多かったが、ナツキの記憶にもアスモルトほどの毒を持つ魔獣は出会ったことがなかった。

「次闘う時には毒を無効かできるワクチンが必要だな。幹部と闘うには準備が必要そうだ」

「だね。あたしの必殺技も結局は効かなかったし。別な方法を考えないと」

「ああ、早速明日からでも──」

ナツキはぴょんと椅子から起き上がると、俺の前に人差し指を出す。

「その前に、ちゃんと体直さないとダメだよ」

「あ、ああ……」

目が合うと、ナツキはなにかを思い出したかのように頬を染めて目をそらす。

「あ、あの時さ……」

「?」

「…なんで助けてくれたの?」

自分のガスマスクをナツキに着けた時か。

「ああ…あれか。咄嗟のことでよく覚えていないんだ」

「ふ~ん、そうなんだ…」

「悪かったな。大変な状況だったのにすぐに助けに行けなくて」

「ううん、全然。むしろ……」

ナツキは顔を真っ赤にして俺の方を見る。

「いつもひとりで闘ってきたからさ。どーも、君の行動に驚いちゃうんだよね」

「そうか、じゃあ次は驚かせないようにしないとな──そうだ」

と言ったところで思い出す。

「そういえば隊員に頼んでおいたんだ。冷蔵庫の中を見てほしい」

「冷蔵庫?」

ナツキが不思議そうに冷蔵庫を開けると、そこには高級バニラアイス-プレミアムバニラ-が入っていた。

「……あ、これ!?あたしが前食べられなかったやつ!」

「この前の任務で食べられなかっただろ。今日の任務が終わったら食べようと思って用意してたんだが。こんな目に遭うとはな。せめて甘い物でも食べて──どうした?」

俺を見てニマニマ、と笑うナツキ。

「あたしたちってさーぁ、良いコンビじゃない?」

そう言って、ナツキがポケットの中から取り出す。

それは、なんと高級ブランデーの小瓶だった。おそらくあの店のものだ。

「それ、店のブランデー……」

「飲みたがってたでしょ?ちょっとだけならいいかなって」

お前──と言いかけて、俺はナツキと笑い合った。

「それなら良い考えがある」

俺はナツキから受け取ったブランデーを開けて、バニラアイスにたらりとかけてやる。

「え、うまっ!これ美味しい!!君も食べてみなよ!!」

喜ぶナツキの顔を見てホッとする。

大変な任務だったが、俺とナツキは、束の間の大人の味を楽しんだのだった。

END

【9月限定イベント】月下の囚われバニー 後編B

More Creators