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猫忍えくすはーと×竜姫ぐーたらいふ クロスオーバーSS<シーズン2>第四話(最終回)

-竜の湯 大広間-



 パンパンパンパンパンパンパンパンッ!!

「グアーーーーー!?」

「ったく、このバカは! あたしらに恥かかせんじゃないっての」

 ポップコーンが弾けるそれにも似た軽快な炸裂音は、ドラ美の頬から上がっているもの。

 無慈悲な往復ビンタである。

「忍者相手にしてやられて? 腹いせに復讐しに行ったらまたやられて?

 収まらないからこんな陰湿な罠を張り巡らせてどうこうしようとか」

「そう言葉にされてしまうと情けなさに目が回りますが、その、攻め手を変えてといいますか?

 ステゴロで遅れを取ると思っているわけではなく。

 ドラゴンの誇りを、最も気分のいい形で取り戻す策として……」

「ンなもん誇りって言うかー!」

 パンパンパンパンパンパンパンパンッ!!

「……イリス、駄目。どらみが死んじゃう」

「死ね!」

「わわわ!? 待ってくださいイリスさん、やりすぎですよ」

 追い打ちのビンタを浴びたドラ美がぐったりしたタイミングで、さんごとハルが慌てて割って入る。

 ワケもわからず枕投げを中断して集められて、こんなものを見せられた、一方の北条御一行はドン引きもいいところだ。

「雑魚なのは知ってたけど、ここまでクズだとは思わなかった。ムカつくの通り越して呆れるわ」

「元々ドラ美さんはこんなだったような……」

「グレンテル様が一番そっくりな有名人は、ねず○男ですからね」

「人か? それ」

 鈴夏と頭巾姿の教徒達はこそこそとそんな話をしているが、首を突っ込む気はない。

「幸いドラ美さんの手際が残念だったこともあって、被害者は最小限に抑えられたわけですし」

 ハルも大概ひどい。

「ドラ美さんの思惑がどうであれ、温泉は温泉でごちそうはごちそうです。

 どうでしょう? ここははるき殿さんにごめんなさいして、仕切り直しというのは」

「あ、いや、謝っていただくようなことは何も……」

「春希様はご自分がうっかり殺されかけたことがわかっていらっしゃるのにゃ?」

「ぬ……」

「はるきはおめでたいぴょん」

 こちらの猫達もこそこそやっている。

「じゃあ、もうそういうことでいいですか? 私そろそろ露天風呂にもチャレンジしてみたくて」

「あ、あああ、あいつが、お、俺を後ろから羽交い締めにして恥ずかしい格好の強要を……辱めを……」

「同情はするけど、あんたは他にもっと気にすることがあると思うんだよね?」

「俺が知らないところで色々起きてたんだな、とは思ったが」

「そんなもん?」

「はいはい、いいから温泉行きますよ」

「よかねーよ! ドラ美野郎が。あいつは今後、宮本家に出入り禁止――」

 気遣いの欠片もなく、半ば引きずるようにして唯一の被害者(ニート)を引きずっていく。

「ちょい! 勝手に……てか、ここ混浴じゃないから」

「混浴かどうかは私が決めます」

「暴君か! 待てってのー」

 そんな二人を鈴夏を追いかけていってしまい――

「……わたくし、未だに何が何やらさっぱり事情が掴めていないのですが?」

 それでもなおこの大広間には十分な人数が残されているが、積極的に口を開いたのは陽葵くらいのもの。

 なんともいえない空気である。

「では、ぼ、僕達もこれで。行こ? みんな……」

 がしっ!

「!!」

 仲間達を促して立ち去ろうとした春希の肩をイリスが掴んだ瞬間、忍び達に緊張が走った。

 一斉に刀を抜いて各々が臨戦態勢をとる。

「貴様!」

「違くて違くて。そんなカリカリすんな……っていうのも、無理あるかもしんないけど」

「……その手を離せ」

「おー、愛されてんね。なんだっけあんた? 太郎? なんでもいいか」

 ぽんと軽く肩を叩いて、ゆらに迫られた通りイリスが春希の肩から手を離す。

「あのイリス様が、亜人ごときの言葉に従うとは……悔しい……」

 打ち捨てられた死体が喋ったが、誰も聞いていない。

「いちゃもんつけようってわけじゃないから。あんたらでしょ? ハルに絡んでいいとこいったって……

 なんだっけ、さんご。言ってたよね」

「……忍者」

「おー、それそれ。忍者」

 ジャパン・カルチャーかぶれの外国人のようになったイリスが、手をあわせて笑う。

「せっかくなんだし、あたしとも遊んでよ。余興ってやつ?」

「……お気をつけくだされ、ハルキ殿。あやつマジやばいでござるぞ」

「やばさの線引きがわからないんだけど」

 至って普通の人間である春希少年には感じ取れない領域の圧だ。

 いずれも表情を強張らせたまま、進み出た忍び達は春希少年を背に庇う。

「ぴょん?」

 うさ耳の猫忍・マヤは担当が違う。別枠である。

「あーもう、そういう感じじゃなくて。気楽に? せっかく遊びに来たんだし」

「お主が何を言ってるのかさっぱりわからぬのだが……」

「ま、まあ、せっかく誘ってくれてるんだし」

「春希様!?」

「おー、話せんじゃん。なんつったっけあんた? はる……じ……まあいいや、行こっか」

「行くとはどこへだ!?」




-竜の湯 娯楽場-


温泉卓球一本勝負

猫塚シノ&石川沙奈VS海竜王イリス&水竜王さんご


 大広間に併設されている娯楽場――

 竜珠教が施設ごと買い取った後、この竜の湯は(看板も含めて)急ピッチであちこち改装が進められたが、大広間に併設されたこの娯楽場だけは元の佇まいのまま、実質放置されていた。

 ほぼほぼ、昭和の空気感である。

 瓶のコーラが買える自動販売機に、射的場。

 液晶はおろか余計な装飾らしい装飾すらついていない、手打ちタイプのパチンコ台。

 色濃く残る、古き良き日本の佇まい。息遣い。

 カコカコカコカコカコカコカコカコッ!

「おらーーーーー!!」

 時計が動きを止めたかのような空間にあって、古ぼけたその卓球台だけが違う空気に支配されていた。

 圧とか殺気とか、およそそういう表現こそがその『戦場』にはふさわしい。

「はあっ!」

 ドラゴンの王が放つ剛球を辛くも返した沙奈が、勝負どころと見て鋭く印を切る。

「急急如律令!」

 ぼわんっ! ぴょいーん!

「わっ」

 卓球台に弾む寸前、煙と共にぽよんとカエルに変わったピンポン玉が、イリスのラケットをぴょいんとかいくぐる。

「3対1ですわ! さすがわたくしの沙奈、実に雅やかでした」

「まあ、姫様ったら」

 この場では浴衣に装いを改めたメイド忍者・沙奈の隣で、犬耳の猫忍・シノがふうっと吐息する。

 消耗している。

「見た? さんご。ピンポン玉がカエルになってぴょんってあたしのラケット避けたんだけど」

「……面白い」

「本当それなー? やるじゃん忍者」

 わいわいと喜びの声を上げる二人のドラゴン……。

 仲良し大学生くらいにしか見えない二人の『王』は、ただそこにいるだけで百戦錬磨の二人の忍びを削り続けていた。

(いつぞやのドラゴン。あやつですら、この者達と比すれば小物であったということか……)

 目の前の無邪気な存在に生殺与奪権を握られている。

 歴としたその事実が、自らの力を頼りに生きる忍び達にとってどれほどのストレスであるか。

「んじゃ、次ー! あたしのサーブ。新しいボールちょうだい」

「どうぞ」

 今ひとつイリスやさんごらの格を掴めていない陽葵が、イリスに向かって無造作に新しいピンポン玉を投げる。

「……沙奈」

「7点先取でしたか? 騙し騙しもたせますが、少々、ええ……苦しくなってきましたね……」

「負けたらアイスだかんねー」

 この温度差である。

「ハアッ!」

 ラケットを介してイリスの魔力を注ぎ込まれたピンポン玉が、強烈なドライブでじゅっ! と台を焦がし、シノを強襲する。

 カコンッ!

「くっ」

 辛くも返しこそしたものの、重い一撃をいなしきれずにシノは転倒。

 シュゴオオオオオーーーーーッ!!

「おおおおお!?」

 素早く体勢を立て直し、膝を立てたところで尋常ならざる魔力が込められた二撃目がきた。

 直撃コース!

 マトモに食らえば即死もあり得る。

「危ないっ」

 背にシノを庇った沙奈が、ありったけの障壁を重ねたラケットでピンポン玉を叩く。

 ふたつの異なるエネルギーの衝突!

「あああっ!?」

 竜巻にさらわれたかのように、二人の忍びがもつれあって吹き飛ぶ。

「よっしゃ、がら空き。もらったぁぁーーーー!」

 ぱこん、と軽くネット際にボールを落とす。

 その余裕がイリスの隙となった。

「ハアッ!」

 仲間の身体を足場に跳躍したシノの身体が、卓球台の上で美しい弧を描く。

「秘伝抜刀術! 紅牙一閃・箒星」

 すぱーん!

「しまったっ」

 鋭く真紅の矢と化したピンポン玉がイリスとさんごの間を割って弾み、空中で爆砕した直後、居合の構えのままシノが着地する。

「4対1ですわ! 雅! エクセレントに雅すぎますわーっ!!」

 陽葵の誇らしげな高笑い。

「あそこから挽回の一撃を打ち込んでくるとはね。

 ふぅん? こいつらマジ面白いじゃん」

「居合斬り。かっこよかった」

 キャッキャッと感想を語りあう二人のドラゴンに背を向け、初めてシノは息を乱す。

「忍者ー、次は何を見せてくれるか楽しみにしてるから」

 玉座に座った王の前に連れてこられる芸人。

 面白ければ褒美、不興を買えばパカッと床が抜けて奈落の底に真っ逆さま。

 そのようなイメージが石川沙奈の脳裏をよぎる。

「沙奈、あなた……もしかして疲れてますの? 歴戦の忍びがだらしのない。わたくしが代わってあげようかしら」

「お主では即死だ……」

「シノ様、聞こえてしまいますから」

「おーっし、次あたしのサーブ」

「イリスはさっきサーブした。次はさんご」

 ぎゅおんぎゅおんぎゅおんぎゅおん!

「おっ? めっちゃ魔力溜めるじゃん、さんご」

「水をまとわせて圧縮する。今までのサーブよりもちょっぴり速くなる」

「シノ様」

「沙奈は横に飛べ。我が受け……」

 ズキュウウウウウゥーーーーーーーーーン!

「ぐうぅぅぅぅ!?」

「……ピンポン玉ってあんな音したかしら」

 カコカコカコカコカコカコカコカコッ!

「あははははは! どうした忍者ー、そんなもんか」

「ぬかせ、ようやく面白くなってきたところだ」

「ぬかしてんのはそっちだって……のっ!」

 勝負に水入りはない。

 二人のドラゴンは、心底面白いモードに入っている。


「猫塚は適当に負けるってことを知らねーのにゃ……?」

 仲間の窮地をハラハラと見守る忍者のため息は、白熱の戦場には届かなかった。


温泉卓球一本勝負

猫塚シノ&石川沙奈 XVS○ 海竜王イリス&水竜王さんご

寸評:怒涛の連続ポイント。忍者達の体力切れ




-竜の湯 大広間-


 一方、宴もたけなわの大広間では、お隣の部屋とはまた少し趣きの違う熱戦が繰り広げられていた。

「あっ、危ない! 頑張ってマヤ」

「えーいっ」

「わわわ」

 お尻をあわせるように座布団の上に立って、よたよたとお尻をぶつけあう忍びとドラゴン。

 その周りには、輪を作ってわいわい和やかに見守る仲間達。

 落ちたら負けよのお尻相撲である。

「ハルー、ドラゴンの名誉ってやつがかかってるんだから。根性、根性ー」

「そんなこと言われても、わ、く、くすぐったい……」

「どーーーーんっ!」

 勝負あり!

 うさ耳の猫忍・マヤの巨尻が、ついにドラゴンの頂点に君臨する次代の王を座布団から弾き出す。

「まさか、ハルが負けるとは」

「弾力がすごくて……なんでしょう? 包み込まるような……」

 負けたハルもなんとはなしの満足顔である。

「勝った! 大金星! はるきー、褒めてぴょーん」

「す、すごいね!」

「毎日、食っちゃ寝してるのがこのような場で活きるとは……世の中何があるかわかりませんな」

「負け犬の遠吠えだぴょん」

「いつ拙者がお主に負けた、この太め!」

「にゃんにゃにゃんにゃにゃ~ん♪」

 憎まれ口を余裕で聞き流して、猫忍・マヤが天下一品の巨尻をフリフリ回して勝ち誇る。

「あはは、なんか可愛いー」

 強靭な精神を持つドラゴンには、うさ耳の猫忍がドスドス踊っているだけの余興に見えるかもしれないが、否、断じて否!

 にゃんにゃんダンスはれっきとした忍法である。

「うわ、何あれ……マジだ可愛い。ぴょんぴょんいってる……」

 同じことを言っているのだが、ドラゴンの因子を刻み込まれた鈴夏と、術に落ちた凡人(バカニート)ではニュアンスが違う。

「…………………………」

 そして、年頃の乙女はその手の機微に敏感なのだ。

「さってっとー、次はあたしが相手してもらおっかなー」

「かかってくるぴょん!」

「あのギャルのおねえちゃん、なんだか物騒な雰囲気をまとってる気がするけど……

 マヤ、死ぬ前にちゃんとまいったした方がいいよ」

「殺すか! 同じ土俵で……みたいな、うん、別に何ってことはないんだけど」

「さあ来い、ぴょんぴょんぴょーん!」

「う……やっぱ可愛いな、あの子」


お尻相撲一本勝負

猫山マヤ ○VSX 竜姫ハル

猫山マヤ ○VSX ドラゴンガール・一ノ瀬鈴夏

寸評:奇跡の爆尻




-竜の湯 大広間-


 一部で誰かが死にかけたり、一部で誰かが暴走したりという一幕もあるにはあったが。

 時刻は9時。宴もたけなわ。

「へー。たまちゃん『花乙女』好きなんだ? オシは何期?」

「うーん、まだちょっとしか見てないからなぁ」

「そかそか。あたしはやっぱ世代的に七期が好きでさー、絶対見て欲し……」

「ハートキャッチかな」

「お、たまちゃん話せんね? 主題歌一緒に歌おうよ」

 目ざとい鈴夏は、すでにこの大広間にカラオケの設備があることに気付いていた。

「さんごも歌う」

「おけおけ。んじゃ、今のうちに飲み物も頼もっか」

「たまは炭酸にしよっかな」

 すでにカラオケボックス感覚である。

「……ぐぬぬ、なんて世渡り上手な我が妹、思わず嫉妬しちゃう」

「混ざりたいなら普通に『いーれーてー』って言えばいいだけじゃないの?」

「いえいえ、拙者はそんな軟弱な? 流行りの歌はわかりませんし(チラチラチラッ)」

「僕もそんなもんだから平気、平気。すいませーん混ざっていいですかー」

「ンモウ! ハルキ殿ってば。意外と積極的なのですから」


「猫塚、お水飲むぴょん?」

 北条春希達がカラオケに興じようとしている傍らでは、疲労の色が濃い同胞をマヤが労っている。

「すまぬ。……それにしても底知れぬな、ドラゴンは」

「ふっふっふ、ウチは勝ったもんね!」

「!!」

「連勝したぴょーーーん!」

 事実は事実だ。


「リーチっ! ですわ」

 そして、ここでも熱戦が。

「ふふふ、我ながら芸・術・的な捨て牌の迷彩。これぞ雑賀500年の技! もはやステルスの域ですわーっ」

 卓を囲むのは雑賀の星(自称)陽葵と回復した沙奈、虹の王イリスと浴衣のバカ(ニート)の四人だ。

「……そういうの三味線っていうんじゃないの? んー……一旦、字牌にしとくか」

「どうぞどうぞ、お通ししますわ。次の方!」

「うーん?」

 わけわからんという顔で首をひねった武が、おずおずと三筒を差し出す。

「ドーン! それですわ、ええと……宮本さんだったかしら」

「え? 当たり? 一発かよ」

「リーチイッパツイーペーコーチンイツ! 裏が乗って、あらあら……これだけ数えても三倍満届かず。ショックですわ。

 とりあえず親の倍満で24000点お願い致しますわね」

「余裕で飛んだわ」

「オーーーーッホッホッホーーーーッ!!

 わたくし手加減ができない性分ですの。ごめんあそばせー!!」

「駄目だ。バカな俺に麻雀は難しすぎる……時間が三倍くらいの速さで流れてる気分だ……」

「武! まくられたじゃん、スジは逆に危ないってヒント出てたでしょーが。

 足を引っ張るのやめて欲しいんだけど」

「ていうかなんでお前、麻雀のルール熟知してんだよ」

 見ようによってはくつろいだ時間。


(やれやれだにゃ……)

 気配を消すようにして喧騒から距離をとった律が、座敷の壁に背中を預けて息をつく。

 これでも難は逃れた、主を守り通すことはできたと思ってよいのだろう。

(だいぶ思ってたのと違う感じになったがにゃ……)

 ドラゴンとはなんなのだろうか?

 律は自問する。

 たまの肩を抱いてアニソンを熱唱しているあの少女など、律の目には普通の人間にしか見えない。

(下手だにゃ……)

 だが、楽しそうだ。

「あなたは混ざらないんですか?」

 もう、不意に声をかけられてもぞくりと背中が凍えたりはしない。

 麻痺してしまったのか。

「おめーは……ドラゴンの姫様だったにゃ」

 ……あるいは、もう気が緩んでしまっているのか。

「ええ、まあ、はい」

 曲が変わって、今度はゆらが緊張の面持ちで童謡を歌い始める。

「忍者さんとその主さんのことは、もうちょっと危険視してたんですけど」

 ハルの側からすれば無理もない。

 一方的にケンカを吹っかけられてドラ美を沈められたのを皮切りに、宮本武は流れ矢的に死線をさまよい、ハル自身も手傷を負った。

 最後には「ハルキ殿を征夷大将軍に」という約束まで呑まされたのだ。

 ハルの目には、肩パットとモヒカンがトレードマークの世紀末集団くらいの蛮行に映っていたのも仕方ない。

「ふん、何が危険だ。お互い様だにゃ」

「そういうものですかー」

 のほほんと相槌を打つその少女……ドラゴンの姫は、律を瞬殺できるほどの力を持っている。

 それがなんだ、というのが今の律の気持ちだ。

(やっぱり、もう緩んでるにゃ。あたし……)

「あ、武その『發』ローン! ぷっはは、ばっかだなー、バレバレでしょこんなの」

「なんで俺から当たんだよふざけんな!」

「いや、麻雀に仲間とかないし。油断してるのが悪いんだって」

 こんなものを延々と見せられているのだから、緊張感を維持する方が難しい。

「ドラ美さんの残念な企みについては置いておくとして……案外、いい機会になったのかもしれませんね」

「機会?」

「一度、知っておきたかったので。はるき殿さんのこととか……忍者さんのこととか。

 前のあれはあまりにも一方的で突然だったので」

「上から目線もいいとこだにゃ」

「はあ、そうなっちゃいますね。強いのは変えようがないので……」

 それもそうだ。

 決まっている。

「身に染みたにゃ。お前らが雑魚扱いしてるドラ美とかいうのにすら、真っ向勝負じゃとても勝てない。

 ドラゴンという強大な種の前じゃあたしらは無力にゃ」

「……ふふふ」

「何が可笑しいのにゃ」

「でも、はるき殿さんのことを一生懸命守ろうとしてたじゃないですか。敵わない相手でも」

「忍びはそういうものにゃ」

「忍者だからっていうのが理由ではないんじゃないですか?

 ちょっとだけわかりますよ。そういう気持ち」

 むふん、とハルが鼻息をもらす。

「女の子ですから!」

(こいつちょっとうぜーにゃ……)

 律にとってはくしゃみが出そうになる、いわゆる恋バナの気配だ。

 できれば逃げ出したいが、どうやら許されそうもない。

「人間さんの全部がそうとは言いませんけど、可愛らしいですからね!

 武さんもぐーたらしてますしバカですが、あれでいいところがあって……

 ぶっきらぼうだけど優しいんですよ」

「知らねーにゃ」

「待ってくださいまだ語りきってません。

 私の見立てだと武さんのあり方……ライフスタイル? ポリシー?

 そのようなものはドラゴンのそれに近……」

「知らねーにゃー!」




-竜の湯 露天風呂-


 見上げれば満天の星空。

 草木も寝静まる午前0時過ぎの露天風呂は、旅館のあちこちで繰り広げられていた喧騒とは無縁の静謐な時間に満たされていた。

 当然ながら、眼下に見下ろす山には明かりのひとつも灯っていない。

 だが、そこには確かに命の息遣いがある。

(やれやれだにゃ……)

 山育ちの忍び、猫飼律にとっては落ち着く空気感だ。

 運命の主である北条春希の元に参じてからの数ヶ月は慌ただしく、目が回るほどに多忙を極め――

「忘れてたにゃ、こういう感じ」

 くすぐったいような奇妙な感覚を、律は言葉にする。

 それも、この温泉旅行をどうやら無事に乗り切れそうな安堵から口をついたもの。

 今、脅威であるはずのドラゴン達は遊び疲れて、律の身内である忍び達と大広間で雑魚寝している。

 信じ難いが、その目で見てきたのだから間違いない。

「なんだかにゃー」

 必死に神経を尖らせていた身としては複雑なものがある。

 だが、満更悪い気もしていない。

(「またどこかで」か……)

 別れ際、ドラゴンの姫が口にした言葉だ。

「こっちは二度とないようにお願いしたいにゃ……」

 話が通じる相手なのはわかった。

 明確な害意も(少なくとも指導者である姫や『王』どもは)なさそうだった。

 だが、ドラゴンだ。

 強さとはそれだけで脅威なのだ。

(もういいにゃ、どうでも……)

 山の景色に背を向けて足を湯に浸すと、焦燥がつま先から流れ出ていく。

 待望の瞬間だ。

「ふいー」

 肩まで浸かってしまったら、もう無理で、堪らない。

 主はもちろん仲間達にも滅多に見せないご満悦の猫っ口で、律はふにゃふにゃと湯で溶け崩れていく。

「あれ? 今の声って、もしかして……」

「にゃ?」

 間違いようのない声。

 てっきり無人だと思い込んでいた律は、呼びかけにぶはっ! と湯船で息を吐く。

「春希様。し、失礼しましたにゃ!」

 飛び上がる。

 表にのれんは出ていただろうか?

 実情を言えば、ドラゴンと猫忍達しか客がいない旅館のずさんな管理が祟って、露天風呂の表にのれんは出ていなかった。

 疲労困憊の律が間違えて、本来男湯ののれんがかかっている脱衣場を通ってきてしまったのも仕方ない。

「あたしはすぐに出ますので! 春希様はどうぞごゆっくり……」

「待って待って! しーっ」

 羞恥に頬を赤くして……。

 だが、主に呼び止められてしまったのだから逆らえるはずもなく、律はおずおずと再び湯船に身を屈める。

「こんな時間だし平気だよね? 多分」

「平気というのは」

「律もお風呂入りに来たんでしょ? 明日には帰るんだし、せっかくだから」

 一緒に入ろうということだ。

 直接的にそう言えないのは照れ屋な少年らしいが、その意味することはなかなかに大胆とも言える。

「春希様がそう仰るなら」

 主の命令なのだからと律は自分に言い聞かせる。

 胸をどきどき高鳴らせながら。

「よかった。最近、律とは全然話せてなかったから」

 無邪気に笑って、春希……主は自分から律に寄ってくる。

 肩を並べて月を見上げられるように。

「なんていうか……うん、まずはお疲れ様かな」

「いえ、あたしは何も。春希様こそあいつらに振り回されてお疲れにゃのでは……」

「律はキチッとしてるから、そうやってごまかそうとするけど」

 主の少年は苦笑交じりに、ひとつ息をつく。

「この旅行にドラゴンさん達が関わってること、だいぶ早いうちから気付いてたの?」

「にゃ!?」

「旅館に着いてすぐいなくなったりしてたから気にはなってたんだけど。

 ドラゴンさん達と鉢合わせになってようやく、

 律がずーっとピリピリしてた理由に納得がいったよ」

「それは、い、いえ、そういうわけでは……にゃんと言いますか」

 しどろもどろもいいところだ。

「やっととか言ってる時点で駄目だよね。いつもボケててごめん」

「そのようなことは……」

 ないわけではないのかもしれない。

 だが、それでいい。

 このままの主でいて欲しいと律は願った。

「これがあたしの役目ですにゃ」

 主の平穏な日々を守りたかったのだから、このような言葉をかけられると心が戸惑ってしまう。

「今回に限らないか。最近も夜に出かけていって朝まで帰ってこなかったり……」

 再び、少年は苦笑する。

「そういうの全部繋がってたのかなって思うと、やっぱり駄目だなぁって思っちゃうよ。

 律に押し付けちゃってたのも同然なんだし」

「ご存知でしたにゃ?」

「そりゃね」

 見ているから――

 何気なく、当然のことのように口にした主の言葉が律の心に灯った温もりとなった。

 自然と頬が緩む。

「隠そうとしてる雰囲気があったから。こっちも何か確証があったわけでもないし……

 って、すぐ先送りにしちゃうのが僕の駄目なところかも」

「春希様は駄目じゃないですにゃ」

 そもそもドラゴンどもが勝手に絡んできただけで、その原因を突き詰めればケンカを吹っかけたゆらが悪い。

 だが、律はそう口にしなかった。

 今はゆらの悪口などで空気を乱すよりも、こうしていたい。

「にゃー」

 主と腕を触れあわせそうとする律の甘えた仕草で、ちゃぽんと湯船に波が立つ。


「まったく、あやつめ……」

「どうしたの、おねえちゃん? そんなとこで止まって。お風呂入ろうよ」

「猿がいる。出直しだ」

「猿くらい別に気にしないけど」

「生意気で天の邪鬼な、極めて性質の悪い猿だ。のこのこ寄っていったらへそを取られるぞ」

「猿ってそんなだったっけ」

「いいから戻るぞ。小腹が空いた! 戻るついでに厨房にでも寄っていくか」

「それはちょっとときめいちゃうね」


 熟練の忍。律は離れていく姉妹の気配に気付いていた。

 だが、それを口にはしない。

「そういえば律はドラゴンさん達と遊べた?」

「あちこちの様子が気になってちょろちょろしてましたにゃ」

「そっか。僕はカラオケとかトランプとか一緒にやったけど……

 想像よりも全然、普通な感じだったね」

「春希様がそう思われるのならそれでもいいですにゃ」

「あはは、何それ」

 声をひそめて笑いあう二人を、優しい光をたたえた丸い月がいつまでも見下ろしていた。




-某県某所 住宅街-


 結果としては北条御一行にとって得しかなかった温泉旅行から、はや数日。

 「楽しかったね」「また行きたいね」という類の話題も次第に減り、ハメを外しすぎた春希少年が夏休みの課題に追われる8月末――

 北条家の前に立つひとつの影があった。

「ワッハハハ! ここだここ」

 とうに人々が寝静まった、声が通りやすいシチュエーションということを差っ引いても声が大きい。

 態度も、体格もひたすら大きい。

「しからば……ふむ? 待てよ。物事は最初が肝心とも言う」

 巨体を屈めて門扉に手をかけようとしていたその影が、思い直した様子で自らの顎を撫でた。

 それから、すうっと胸に息を溜める。

「やあやあやあ! 遠からんものは音にも聞け、近くば寄って目にも見よ。これなるは――」

「オラアアァァーーーーーー!」

「ぐあー!?」

 北条家の庭……。

 正しくは『里見衆屯所』と表札のある小屋から飛び出してきた影が、相手の側頭部を踵で捉える危険な回し蹴りを放つ。

「てめぇ、こんな夜遅くに何をしでかす気にゃ! 物騒な気配ぷんぷん漂わせやがって。

 今度はどこのドラゴン……」

「律」

 呼吸ひとつ分ほど遅れて隣家から飛び出してきた忍び、猫塚シノが同胞の肩を掴む。

「猫塚? 止めるとはにゃんのつもり……」

「よく見ろ」

「ああん?」

「それは猫田だ」

 ん? と、つり上がり気味の律の目が丸くなる。

「フニャーー!? すまんつい。猫田、おい、しっかり……」

「ワッハハ! 久しいな律、シノ」

「にゃんだ無傷か」

 シノも「別に心配はしていなかった」という無表情だ。

「遅くなったな! 里見八忍(にゃん)が剛力無双、猫田ヒョウカここに参上」

 律やシノが見上げて話さなければならないがっしりした長身に、鉤爪。

 くりっとした瞳が印象的な愛嬌のある顔立ち。

 丸みを帯びた白い獣耳。

 どこからどう見てもシロクマの猫忍である。

「……でか女がいるぴょん」

「おお、マヤ! お主も変わりないか」

 ひょいっ!

「やーめーろー、おーろーせー」

 脇の下をひょいとさらわれての『高い高い』にマヤは抗議こそしたものの、さほど嫌がっている様子もない。

 そこにあるのは苦楽を共にした仲間の絆。

「ともあれご苦労だったにゃ。歓迎……にゃ? ところで猫田、おめー一人にゃ?」

「猫坂と一緒じゃなかったぴょん?」

 担ぎ上げられたままのマヤが、律の疑問を補足する。

「お主達は何を言っているのだ。永夜(とこよ)なら……」

「ずっとここにいるのに無視。フヒ……ヒ……涙出てきた……」

「お前は気配がなさすぎるのにゃ!」

 猫田の巨体に隠れるように控えていた(らしい)、眉を八の字にした少女がひょっこり顔を出す。

 自らの小柄な身体にまとわりつくような黒髪に黒衣。

 夜の色をそのまままとっているかのようなその少女は、唯一、瞳にだけ陽炎のように揺らめく金の光を灯していた。

 特徴的な有鱗目。

 こちらは爬虫類をルーツに持つ、おそらくは蛇の猫忍であろうか。

「二人とも変わりにゃくて何よりだ」

「フヒ。リーダーも元気そう……よかった……」

 律に黒髪をわしわしと撫でられて、猫坂永夜が目を細める。

「よく来たぴょん。今は寝てるだろうから、明日ウチがはるきに紹介してあげるね」

「寝てる? こんな時間にか」

「こんな時間だから寝てるんだろうが。お前、他人の迷惑とかちょっとは考えろ」

「……フヒ、気をつける」

「ときに永夜。猫江とはどこかで会わなかったか」

「なんで聞くの? シノが一緒だったはず……」

「はぐれた」

「猫川と猫村の行方も気になるにゃ」

「その三人がまだ来てないの? カワムラコンビは平気だろうけど。チカは……多分、もう死んでるかも……」

「猫江のこと嫌いか?」

「嫌いとかじゃないけど。チカは弱いくせして自己評価が高いし意地汚いから、余計なことに首突っ込んで死にそう……フヒヒ」

「あんま笑えねーけど、まあ、心配だにゃ……」

「チカとマヤは雑魚雑魚……心配、だね……フヒ……」

「雑魚じゃないぴょん! ていうか、ウチは無事ここにいるぴょん」

「ところで何か食うものはないか。団子があればなおのことありがたいのだが」

「ねーよ! ていうか、声がでけぇにゃ! 春希様はおやすみだって言ってるだろ」

 でっかいのと、その肩に乗りそうなくらいちっこいの。

 仲間の無事を喜ぶ声も負けず劣らず大きいのだが、浮かれた今の気分でそれをわきまえるのはさすがの律でも難しかった。


 北条家の前で輪を作り、再会を喜びあう様を見守る影がふたつ。

「わたくし、勝手に里見八忍という組織はシノと律さんのツートップだと思っていたのですが。

 猫田さんと猫坂さん?

 まさに、歴戦の猛者の佇まい……雅やかすぎて汗が噴き出しますわ」

「いずれ劣らぬ剛の者ですね。こうなってくるとマヤお嬢様は一体、何の気迷いであの忍び衆の一員に……」

 虎耳のメイド忍者がコホンと咳払い。

「嬉しいサプライズでございます。姫様……ではなく、旦那様の野望の助けとなってくださることでしょう」

「さっそく客人に部屋を用意……その前にご挨拶かしら! 楽しくなってきましたわ」


 言うまでもなく、翌朝、目覚めた春希少年は陽葵が言うような顔はしなかったのだが。

 時は有史以来の動乱の時代。

 忠義の忍達と少年の野望の(?)物語はまだまだ続く……かもしれず。



猫忍えくすはーと×竜姫ぐーたらいふ クロスオーバーSS<シーズン2>第四話(最終回)

Comments

ここに来て新キャラとは熱い また続きが見たいっす

〇々〇々

面白かったです。ゲームでの次回作も期待してます

お疲れ様でした。 猫忍も好きなのでまだまだ続きがありそうな展開で嬉しいです。 新キャラのイラストも見てみたいなぁ…機会があればぜひお願いします

どちらもぜひまたゲームで続きがみたくなるような終わりかたでした! とても面白かったし、他の作品とかでもこういう形で見れたら楽しそうですね


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